過硫酸カリウム

過硫酸カリウムとは

過硫酸カリウムとは、硫黄のオキソ酸である過硫酸塩類の1種です。

分子式K₂S₂O₈で表され、分子量は270.32g/molです。別名ペルオキソ二硫酸カリウムと呼ばれています。化学物質固有の番号であるCAS番号は7727-21-1です。

一般的には、過硫酸アンモニウム水酸化カリウムの水溶液中の反応による製法が知られており、現在でもその方法での製造が行われています。常温常圧では、白色~わずかにうすい黄色を呈した結晶状態として存在しており、無臭です。

水に対する溶解度は20℃で5.2g/100mlと溶けにくいものの、熱水にはよく溶け、エタノールにはほとんど溶けないという性質をもっています。

過硫酸カリウムの使用用途

過硫酸カリウムは、主に以下の用途で使用されています。

  • プリントエッチング剤
  • 金属の表面処理剤
  • デンプン改質剤
  • 合成樹脂・合成繊維の重合開始剤
  • 土壌改良材
  • 天然物の漂白剤
  • 医薬品合成酸化剤

プリント基板のエッチング剤は、金属や金属酸化物を腐食させる薬剤であり、主に金属やガラス、半導体などを対象に自身がもつ腐食性を利用して表面を削る表面加工法として用いられます。エッチングは切削や研磨よりも精度の高い加工が一括してできるため、プリント基板の製造だけでなく、半導体の加工やMEMSの加工にも用いられています。

過硫酸カリウムは、強力でありながらも反応がゆっくりと進む酸化剤です。現在でも、フェノールや芳香族アミン、芳香族炭化水素の合成の際の重合開始剤として利用されています。過硫酸カリウムは、工業的に重要な水系重合プロセスである乳化重合の開始剤として働きます。

乳化重合とは、難溶性モノマーを混濁させることで、界面活性剤中に形成された球状ミセルに過硫酸カリウムなどの重合開始剤を加えることで加熱によって重合させる方法です。重合反応する際に生じる発熱の除去や系の粘度を低く抑えられる点で工場での量産化に適しています。

過硫酸カリウムは酸素系の漂白剤に配合されており、天然物の漂白や洗浄などに使用されています。酸素系漂白剤は強塩基であるため、油汚れや皮脂による黄ばみなどに強い性質をもっています。

過硫酸カリウムの性質

過硫酸カリウムは、消防法において第一類酸化性固体に指定されており、自身は燃焼しないが他の物質を強く酸化させる性質をもっています。そのため、可燃物や有機物と混合した際に熱・衝撃・摩擦によって分解し、激しい燃焼を引き起こす強力な酸化剤として働きます。

加熱すると分解し、気体化した二酸化硫黄である亜硫酸ガスが発生します。亜硫酸ガスは無色で刺激臭のある有毒気体であり、還元性があることから、水分がある場合に漂白作用を示すという性質があります。

亜硫酸ガスを吸引した場合には、呼吸器系に強い刺激を与えて喘息を引き起こす場合があるため、注意が必要です。また、強塩基とも激しく反応する性質をもっています。安定性の観点からも光により変質するおそれがあるため、高温、直射日光、熱、静電気から触れるのを防ぐ必要があります。

過硫酸カリウムのその他情報

1. 過硫酸カリウムの法規情報

  • 消防法: 第一類酸化性固体 ペルオキソ二硫酸塩類 危険等級Ⅲに該当
  • 毒物及び劇物取締法: 非該当
  • 化学物質排出管理促進法 (PRTR法) : 第1種指定化学物質に該当
  • 船舶安全法及び航空法: 酸化性物質類・酸化性物質に指定

2. 取扱い及び保管上の注意

過硫酸カリウムを取り扱ったり、保管したりする際には、以下の点に注意が必要です。

  • 可燃物や還元剤との接触を避ける。
  • 周辺で高温物を使用しない。
  • 保管場所は壁、柱、床を耐火構造とし、はりを不燃材料で作る。
  • 保管場所の屋根を不燃材料で作るとともに、かつ天井を設けない。
  • 容器は遮光し、換気がされている涼しい場所に密閉して保管する。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-1189JGHEJP.pdf
https://www.djklab.com/parts/service/pdf/polymer-radical-1.pdf
https://www.adeka.co.jp/chemical/products/commodity/pro162c.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0948.html

臭化銅

臭化銅とは

臭化銅とは、わずかにうすい黄緑色またはうすい灰緑色をした結晶~粉末、塊の無機化合物です。

臭化銅は毒劇法で「劇物・包装等級3」、安衛法では「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。危規則で「有害性物質」、航空法で「その他の有害物質」、海洋汚染防止法で「海洋汚染物質 (PおよびPP物質) 」、水濁法では「指定物質」、大気汚染防止法で「有害大気汚染物質」にも指定されています。

臭化銅の使用用途

臭化銅は主に、合成原料や触媒として利用されています。最近注目されているのは、太陽光発電に使用される太陽電池です。クリーンエネルギーの一つであり、利用できる可能性も示唆されています。

太陽光発電では、「エネルギー供給元の光をいかに効率よく吸収できるか」「その吸収したエネルギーをできるだけ多く電気に変えられるか」という変換効率がポイントです。臭化銅とその他の銅化合物との合成で得られる銅化合物が、この太陽電池の特性に寄与できるという実験結果が出ています。

臭化銅の性質

臭化銅には、臭化銅 (I) と臭化銅 (II) が存在します。臭化銅 (I) は、化学式がCuBr、分子量が143.45、融点が504℃の反磁性の固体です。臭化銅 (I) は酸や塩基に溶け、水にわずかに溶けます。

臭化銅 (I) は (II) の不純物のために、よく着色されていますが、純粋な臭化銅 (I) は無色です。なお、臭化銅のCAS登録番号は7787-70-4です。

臭化銅の構造

臭化銅 (I) の構造は、硫化亜鉛と同様のポリマー構造です。すなわち臭化物イオンによって、四面体のCu中心が相互連結された特徴的な四配位のポリマー構造を取っています。そのため臭化銅 (I) は、ほとんどの溶媒には溶けません。

臭化銅 (I) をルイス塩基で処理すると、付加化合物に変わります。具体的にはジメチルスルフィドを用いると、無色の錯体であるCuBr (S(CH3)2) が形成します。CuBr (S(CH3)2) の銅は、線形ジオメトリで二配位です。

他のソフトな配位子を使用すると、臭化銅 (I) から関連した錯体を作ることも可能です。例えば、トリフェニルホスフィンは、複雑な構造を取るCuBr (P(C6H5)3) を与えます。

臭化銅のその他情報

1. 臭化銅 (I) の合成法

一般的に臭化銅 (I) は、臭化物の存在下で、亜硫酸塩によって銅 (II) 塩を還元することで合成されます。臭化水素酸に銅粉末を溶解させることで、塩化銅 (I) の合成と同じような方法でも合成可能です。

2. 臭化銅 (I) の応用

臭化銅 (I) は有機合成に広く用いられています。ザンドマイヤー反応 (英: Sandmeyer reaction) において臭化銅 (I) は、アニリン化合物を対応する臭化アリールへ変換できます。

また、CuBr(S(CH3)2) は、有機銅試薬の合成に広く用いられている錯体です。関連するCuBr錯体は、原子移動ラジカル重合 (英: Atom Transfer Radical Polymerization)や銅触媒クロス脱水素カップリング (英: Cross Dehydrogenative Coupling) などの触媒に使われています。

3. 臭化銅 (II) の性質

臭化銅 (II) は二臭化銅とも呼ばれる、深緑色の固体です。臭化銅(II)の化学式はCuBr2、分子量は223.37、融点は498℃です。主に臭化銅 (II) は、写真の現像や有機合成で臭化剤として使用されています。また臭化銅 (II) は、水、鉱酸、アセトンエタノールなどに易溶です。

金属銅と臭素水の反応によって得た生成物を、真空中で乾燥することで、黒色の臭化銅 (II) の無水物の結晶を合成可能です。臭化銅(II)には二水和物や四水和物が知られていますが、容易に水を失います。

臭化銅 (II) は飲み込むと有害です。皮膚、目、呼吸器を刺激し、中枢神経系、脳、目、腎臓、肝臓などへ影響を及ぼします。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-1911JGHEJP.pdf

硫酸タリウム

硫酸タリウムとは

硫酸タリウムとは、タリウムの硫酸塩です。

無色の結晶性粉末で、味や臭いはありません。水やエタノールに溶けるため、液剤の状態でも使用されます。

硫酸タリウムは劇物に指定されており、保管・使用には注意が必要です。急性毒性および慢性毒性を持ち、経口摂取すると消化管や神経系、呼吸器、腎臓等に影響を与えます。

さらに生殖毒性も確認されており、精巣や胎児の発生に影響する恐れがあります。これらの毒性を活かして殺鼠剤として使用されていましたが、現在は用いられていません。

硫酸タリウムの使用用途

硫酸タリウムは、かつて殺鼠剤に利用されていました。水に溶けるため毒餌を調整しやすく、ネズミが避けずに食べるため、ネズミが好む餌に硫酸タリウム溶液を加えて毒餌を調製していました。

硫酸タリウムは排泄されずにネズミの体内に蓄積されるため、一度に致死量を食べなかった個体も、継続的に毒餌を摂取することで死亡します。また、生殖毒性を持つためネズミの繁殖が抑えられ、長期的に個体数を低く抑えることが可能です。

硫酸タリウムを含む殺鼠剤は、以前は農薬として登録されていましたが、毒性の高さや流通量の少なさ等の理由により登録が失効しました。硫酸タリウムの農薬登録が失効してからは、リン化亜鉛クマリン、ジフェチアロール等の別の成分が殺鼠剤に用いられています。

硫酸タリウムの特徴

硫酸タリウムはタリウムの硫酸塩であり、化学式はTl2SO4です。室温では安定な無色の結晶で、水に溶かすとタリウムイオン (1価) と硫酸イオンに電離します。

原料であるタリウムは13族の金属元素で、、鉛、亜鉛などの精錬工程で副産物として回収されます。タリウムは主に1価イオンの状態で存在しますが、酸化されると3価イオンを生じ、酸化タリウム等を形成することがあります。

硫酸タリウムの基本的な特性 (分子量、比重、溶解性) は以下の通りです。

  • 分子量:504.83
  • 比重:6.77
  • 溶解性:水に溶ける (20℃のとき4.87g/100mL)

硫酸タリウムのその他情報

1. 人間への毒性

硫酸タリウムは人体に対しても有毒です。過去の事故や事件による摂取例では、食欲不振、嘔吐、腹痛、血便等が起きた後、手足の知覚異常や幻覚、痙攣、頻脈、脱毛等の症状が報告されています。重症化すると、腎臓や中枢神経系の異常、心不全によって死亡します。

誤飲防止のため、硫酸タリウムの入った容器には必ず物質名を明記する必要があります。食品に使われるような容器に入れて保管したり、飲食しながら取り扱ったりすると、誤飲・誤食のリスクが高まるため大変危険です。

ラットを用いた実験では、硫酸タリウムの原体 (製剤化されていない純品) は経皮毒性も確認されているため、皮膚への付着にも注意が必要です。ニトリル手袋や保護めがね等の保護具を着用し、皮膚に付着した場合は水でよく洗い流します。目に入った場合は流水でよく洗浄した後、医師の診察を受けましょう。

2. 劇物としての規制

硫酸タリウム、および硫酸タリウムを0.3%以上含む製剤は、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。容器には「医薬用外劇物」と明記されたラベルを貼付し、盗難や漏洩を予防するために鍵のかかる場所での保管が必要です。

3. 加熱及び酸化による分解

硫酸タリウムを加熱すると分解し、有害なタリウムや硫黄酸化物などのフュームを生じます。フュームとは、蒸発または昇華した物質が空気中で凝縮し、微細な粒子になったものです。煙やエアロゾルとなって広範囲に拡散するため、作業者が吸入してしまうリスクがあります。硫酸タリウムはフュームにも毒性があるため、実験等で硫酸タリウムが加熱される恐れがある場合はドラフト内で換気しながら扱う等の対策が必要です。

硫酸タリウムは酸化剤と激しく反応し、酸化物を生成します。酸化される際の反応熱によって有毒なフュームが生じる恐れもあるため、酸化剤と接触させないように保管・使用するよう注意が必要です。

4. 環境への影響

硫酸タリウムは野鳥や水生生物への毒性があり、環境中への流出防止が必要です。廃棄する際は自治体の定める基準に従うか、専門業者に処理を委託します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7446-18-6.html
http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/Ti2SO4.pdf
https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=0336&p_version=2
https://www.acis.famic.go.jp/toroku/sikkou3.html

硫化亜鉛

硫化亜鉛とは

硫化亜鉛とは、化学式ZnSで表される亜鉛の硫化物です。

硫化亜鉛は白色または黄色の粉末や結晶で、密度は4.0g/cm3、融点は1,718°C、昇華点は1,180°Cです。天然ではせん亜鉛鉱 (英: sphaleriteまたはzincblende) として産出され、ウルツ鉱 (英: wurtzite) としてもまれに産出されます。

一般的には安定な立方晶系型として存在しており、閃亜鉛鉱として産出されます。六方晶系型は合成により得られますが、ウルツ鉱として天然にも存在しています。

硫化亜鉛の使用用途

硫化亜鉛の使用用途は、蛍光体の原料、塗料、ゴム用顔料、リトポン、皮革、歯科用ゴム、X線スクリーン、半導体レーザー結晶材料などです。適当な不純物を添加した硫化亜鉛は、紫外線を照射するとケイ光を発するため、古くからケイ光体として利用されてきました。

発光色は不純物の種類によって変更可能で、電子ビームによっても発光するため、テレビなどのブラウン管のケイ光面に塗布されています。少量のラジウムやトリウムを混ぜることで、時計用の夜光塗料としても使用されています。

硫化亜鉛の性質

硫化亜鉛が水分を含んでいるときは、空気中で徐々に酸化され、硫酸亜鉛となります。硫化亜鉛は水やアルカリには不溶で、鉱酸には可溶です。新しく作った硫化亜鉛は酸に溶けます。

天然で産出される閃亜鉛鉱とウルツ鉱は、それぞれ大きな固有のバンドギャップ (英: band gap) を有する半導体です。300Kにおけるバンドギャップの値は、ウルツ鉱が3.91eV、閃亜鉛鉱が3.54eVです。

なお、硫化亜鉛は組成式がZnSの、共有結合性の化合物です。およそ1,293Kで、閃亜鉛鉱型からウルツ鉱型の結晶構造の転移が起きます。閃亜鉛鉱型の硫化亜鉛の融点は1,991Kで、298Kにおける標準生成エンタルピーは−204.6kJ/molです。

硫化亜鉛のその他情報

1. 硫化亜鉛の合成法

硫黄と亜鉛の直接化合によって、硫化亜鉛は生成します。亜鉛イオンを含んだ水溶液に、硫化水素を吹き込むことによって、硫化亜鉛を得ることも可能です。

2. 原子物理学における硫化亜鉛

初期の原子物理学で、アーネスト・ラザフォード (英: Ernest Rutherford) らは、蛍光体材料であるシンチレータ (英: Scintillator) として硫化亜鉛を用いました。アルファ線、X線、電子線などの放射線により励起されたときに、硫化亜鉛が発光する性質を利用しています。そのため硫化亜鉛は、X線の増感剤やブラウン管の材料としても有用です。不純物が存在する場合には燐光になり、青色光や紫外線を発します。

当時の技術では自動計測が困難だったため、硫化亜鉛の粉末を用いて、ラザフォードらは暗室で目測により発光を数えていました。そしてアルファ線を物質に照射するラザフォード散乱 (英: Rutherford scattering) の実験に応用することで、原子核の存在を証明しました。未だに硫化亜鉛は、アルファ線の検出用素子として有用です。

3. 蓄光剤としての硫化亜鉛

硫化亜鉛は蓄光剤として使用することが可能です。数ppmほどの活性剤を添加すると、ブラウン管やX線スクリーンのほか、暗所などで光る部品として役立ちます。例えば発する光は、銀が活性剤に使われた場合には明るい青色に、マンガンの場合には黄色になります。

蓄光剤として良く知られているのは、発光時間が長いの場合の、緑色っぽい色です。銅をドーピングした硫化亜鉛は、エレクトロルミネセンスパネル (英: Electroluminescence) にも利用されています。

4. 硫化亜鉛のその他応用

硫化亜鉛は赤外光用の光学素子としても使用されています。可視光から12μm以上の波長を透過し、平面状の光学窓やレンズとして使用可能です。

さらにドーピングによって、P型半導体とN型半導体の両方として利用できます。II-VI族半導体としては、珍しい性質です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0126-0043JGHEJP.pdf

硫化マンガン

硫化マンガンとは

硫化マンガンとは、マンガンと硫黄の化合物です。

閃マンガン鉱 (英: alabandite) やランバーガイト (英: rambergit) などの鉱物に存在します。一般的に硫化マンガンは、一硫化物や二硫化物の状態で存在しています。さらに、硫化マンガン (II) にはα,β,γの3変態があります。

似たような名称で硫酸マンガンがありますが、酸素を持っている、持っていないといった違いがあるため、全く別の化合物です。労働安全衛生法においては、マンガン及びその無機化合物に指定されているため、取り扱いには注意が必要です。

硫化マンガンの使用用途

硫化マンガンは、主に粉末冶金の分野で焼結部品の機械加工性を改良するための添加剤として利用されています。

粉末冶金とは、金属粉末を成型して焼結し、金属製品を造る製法のことです。この粉末冶金の製法で加工されたものには、洗濯機・扇風機・ハードディスクなどの小型モーター部品が挙げられます。

硫化マンガンの性質

  • 硫化マンガン (II) のα形
    緑色の立方晶系結晶です。融点は1,620℃で、反強磁性を示します。
  • 硫化マンガン (II) のβ形
    赤色の立方晶系結晶です。
  • 硫化マンガン (II) のγ形
    淡赤色の立方晶系結晶です。700℃ではp型半導体になります。

硫化マンガン (II) の中で、β形とγ形は不安定です。そのため、すぐ酸化されてα形に変化します。粉末冶金の分野で用いる際には、安定しているα形を使用します。

それに対して硫化マンガン (IV) は、黒褐色の立方晶系結晶です。反強磁性を示します。

硫化マンガンの構造

硫化マンガン (II) の化学式はMnS、分子量は87.00です。硫化マンガン (II) のα形は、塩化ナトリウム型構造を取っています。Mn-Sの距離は0.261nm、密度は4.05g/cm3です。

硫化マンガン (II) のβ形は、せん亜鉛鉱型構造を取っています。Mn-Sの距離は0.243 nm、密度は3.27g/cm3です。

硫化マンガン. (II) のγ形は、ウルツ鉱型構造を取っています。Mn-Sの距離は0.241nm、密度は3.26g/cm3です。

その一方で、硫化マンガン (IV) の化学式はMnS2、分子量は119.07です。黄鉄鉱型構造を取っています。密度は3.463g/cm3、Mn-Sの距離は0.259nm、S-Sの距離は0.209nmです。

硫化マンガンのその他情報

1. 硫化マンガン (Ⅱ) 生成方法

硫化マンガン (II) は、一硫化マンガン (英: manganese monosulfide) とも呼ばれています。天然で硫化マンガン (II) のα形は、閃マンガン鉱として産出します。閃マンガン鉱とは、立方体構造の硫化マンガン (II) を含んでいる鉱物です。

閃マンガン鉱は、硫マンガン鉱やアラバンド鉱とも呼ばれています。少量のシュウ酸カリウム存在下で、塩化マンガン (II) 水溶液を沸騰させ、やや過剰のアンモニア水を加えて、硫化水素を通じると、硫化マンガン (II) のα形を得ることが可能です。硫化マンガン (II) のβ形は、酢酸マンガン (II) 水溶液に、冷時硫化水素を通じると生成します。

硫化マンガン (II) のγ形は、塩化マンガン (II) 水溶液を煮沸して、塩化アンモニウムを加え、硫化水素を通じながら、アンモニア水を加えることで、沈殿として得ることが可能です。

2. 硫化マンガン (IV) の生成方法

硫化マンガン (Ⅳ) は二硫化マンガン (英: manganese disulfide) とも呼ばれています。天然ではハウエル鉱 (英: hauerite) として産出します。硫酸マンガン (II) 水溶液に硫黄と多硫化カリウムを加え、封管中で加熱することで、硫化マンガン (Ⅳ) を得ることが可能です。

硫化マンガン (Ⅳ) は加熱すると、分解して硫黄を放出します。硫化マンガン (Ⅳ) は塩酸と反応し、塩化マンガン (II) を生成します。

参考文献
https://www.kojundo.net/category/C_SS/MNI09PB_ASK.html?__pc_site_mode=pc

硫化バリウム

硫化バリウムとは

硫化バリウム (英: Barium sulfide) とは、硫黄臭のある白色の結晶性の粉末です。

硫黄とバリウムで構成される無機化合物で、化学式はBaS、分子量は169.39、CAS登録番号は21109-95-5です。塩化ナトリウム型の立方晶系結晶で、バリウムと硫黄を中心に持つ八面体構造をしています。硫化バリウムは、イタリアの錬金術師ヴィンセンツォ・カシャロロ (Vincenzo Casciarolo、1571–1624) によって、硫酸バリウム (BaSO4) の熱化学的還元を介して初めて調製されました。

硫化バリウムの使用用途

硫化バリウムの使用用途は、ゴムの加硫、硫化水素の発生用試薬などとして用いられます。また硫化亜鉛と混合してリトポンと呼ばれる白色の顔料を製造するのに使用されます。硫化バリウムは、銅やその合金の表面を黒色に着色する硫化着色法と呼ばれる方法で用いる硫化物の一つとしても使用できます。

硫化バリウムの多硫化物として、黄色結晶の三硫化バリウム (BaS3)、淡赤色の斜方晶系柱状晶の四硫化バリウムなどがあります。これらの混合物は硫化バリウム華と呼ばれ、殺虫剤や皮革の脱毛剤として用いられます。

また有毒のため急性中毒や刺激性があり、酸と接触すると硫化水素ガスが発生するため注意が必要です。保護具として、保護眼鏡や保護手袋、保護衣、防じんマスクなどの使用が想定されます。

硫化バリウムの性質

1. 物理的特性

硫化バリウムは、融点が1,200℃と非常に高く、密度は4.3g/cm3、水への溶解度は72.8g/Lです。空気中で酸化されて黄色をおびたり、水分と二酸化炭素を吸収して毒性のある硫化水素を発生させます。水中では徐々に加水分解して硫化水素バリウムと水酸化バリウムを生じますが、炭酸ナトリウムまたは二酸化炭素で処理すると、多くの市販バリウム化合物の原料である炭酸バリウムの白色固体を得ることができます。

2. その他の特徴

硫化バリウムは、りん光を発することからボロニア石 (英: Bologna stone) やラピスボロニエンシスなどの別名を持ち、様々な錬金術師や化学者たちによって実験が行なわれてきました。アルカリ土類金属の他のカルコゲニドと同様に、硫化バリウムは電子ディスプレイの短波長用エミッターとしての性質も持ちます。

硫化バリウムのその他情報

1. 硫化バリウムの製法

硫化バリウムは、古来実施していた方法で用いる蛍石の代わりに、コークスを使って硫酸バリウムを熱化学的還元することで製造されます (BaSO4+2C→BaS+2CO2)。この種の変換は、炭素熱還元と呼ばれています。約1,000℃に熱した炭酸バリウムに硫化水素と水素との等量混合気体を通じることでも得ることができます。

2. 法規情報

国内法規上の適用は、消防法の危険物や化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) には非該当ですが、毒物及び劇物取締法では「劇物」に指定されており、注意が必要です。労働安全衛生法では、「名称等を通知すべき危険物及び有害物 (法第57条の2、施行令第18条の2別表第9) 」「名称等を表示すべき危険物及び有害物 (法第57条の2、施行令第18条) 」に指定されています。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、冷暗所に保管する。
  • 熱や発火源から遠ざける。
  • 耐腐食性あるいは耐腐食性内張りのある容器に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 粉塵が飛散しないように注意する。
  • 混触危険物質とされる酸、酸化剤、リン酸化物、鉛、塩素酸カリウム、硝酸カリウムとの接触を避ける。
  • 使用時は保護衣、保護手袋、保護眼鏡、保護面を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、全ての汚染された衣類を脱ぎ、皮膚を流水かシャワーで洗い流し、直ちに医師を呼ぶ。
  • 眼に入った場合は、多量の水で注意深く洗い、直ちに眼科医の診察を受ける。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/21109-95-5.html

硫化ニッケル

硫化ニッケルとは

硫化ニッケルとは、化学式がNiSの無機化合物です。

ニッケル塩を硫化水素で処理することにより、硫化ニッケル (NiS) が生成されます。硫化ニッケルは複数知られており、一硫化ニッケル (NiS) は針ニッケル鉱に含まれます。水に不溶、硝酸に可溶で、無結晶の黒色です。

また、二硫化ニッケル (NiS2) は、炭酸ニッケル(Ⅱ)を炭酸カリウムと硫黄とともに加熱することで得られます。暗鉄灰色の結晶で水に不溶です。二硫化三ニッケル (Ni3S2) は、水にほとんど不溶で硝酸に可溶です。

硫化ニッケルの使用用途

ニッケルの硫化物は、硫化ニッケル触媒として広く用いられています。例えば、重油の高圧水素添加分解や有機化合物の脱水素、脱硫触媒などです。

硫化ニッケルの危険有害情報として、吸入するとアレルギー、喘息、呼吸困難やアレルギー性皮膚反応を引き起こすおそれや、発がん性、長期にわたるまたは反復曝露による呼吸器の障害があります。使用時には適切な保護手袋、適切な呼吸用保護具などを着用し、取扱後は手をよく洗うことが必要です。

硫化ニッケルの性質

NiSは黒色の固体で、ニッケル(II)塩を硫化水素で処理することで生成します。同じ化学式のNiSを持つ鉱物の針ニッケル鉱などを含めて、多数の硫化ニッケルが知られています。有用な鉱石だけでなく、脱硫反応の産物として得られる硫化ニッケルもあり、触媒として用いられることも多いです。

硫化ニッケルの構造

硫化ニッケルには、一硫化ニッケル (NiS) 、二硫化ニッケル (NiS2) 、二硫化三ニッケル (Ni3S2) などが存在します。それ以外にも、Ni9S8やNi3S2などの不定比化合物も知られています。ベース鉱 (NiS2) のように、1つのニッケル原子は複数の硫黄原子と結合することが可能です。

硫化ニッケル(II)も多くの関連物質と同様に、ヒ化ニッケルのモチーフを取っています。この構造においてニッケルは八面体型で、硫化物中心は三方柱型です。

硫化ニッケル(II)には、α型とβ型の多形があります。α型は六角形の単位胞で、β型は菱面体の単位胞です。α型は379℃以上になると安定していますが、低温ではβ型に変換します。この相転移によって、体積は2〜4%増えます。

硫化ニッケルのその他情報

1. 硫化ニッケル(II)の合成法

硫化ニッケル(II)の黒色沈殿は、伝統的な定性無機分析において有名です。つまり、硫化物の溶解度の差に基づいて、ニッケル(II)を含む金属を分離できます。

固相メタセシス合成や元素の高温反応など、制御されたあらゆる合成方法が開発されています。

2. 天然の硫化ニッケル(II)

針ニッケル鉱は、化学式がNiSと同じ硫化ニッケル(II)です。低温の熱水系や炭酸塩岩の空洞といった天然に生じる以外にも、他のニッケル鉱物の副産物として生成することもあります。ただし、硫化ニッケル(II)が形成される条件によって、合成化学量論的NiSとは構造が違います。

3. ガラス中の硫化ニッケル(II)

フロートガラスには、清澄剤の硫酸ナトリウムや不純物の金属合金に含まれているニッケルによって形成された硫化ニッケル(II)が、少量含まれています。このような硫化ニッケル包摂物は、強化ガラスの製造において問題になります。

硫化ニッケル包摂物は焼戻し過程後に準安定α相になり、最終的には低温で安定なβ相に変換されるため、体積が増えてガラスのヒビの原因になるからです。強化ガラスの内部で材料に張力がかかり、亀裂が伝搬することで、自発的なガラスの破壊に繋がっています。この自発的なガラスの破壊は、通常ガラスを製造して数年から数十年後に起こります。

4. その他の硫化ニッケルの構造

硫化ニッケルには、NiS、NiS2、Ni3S2だけでなく、Ni9S8やNi3S2などの化合物も知られています。例えば、ベース鉱と呼ばれるNiS2は、硫化ニッケルを主成分として、コバルトや鉄を少量含む硫化鉱物です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/16812-54-7.html

硫化スズ

硫化スズとは

硫化スズとは、スズと硫黄からなる化合物です。

4価の硫化スズ(IV)や2価の硫化スズ(II)があります。硫化スズ(IV)のCAS登録番号は1315-01-1で、硫化スズ(II)のCAS登録番号は1314-95-0です。

また、硫化スズの国内法規上の主な適用法令は、毒劇法では「劇物・包装等級3」、安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」および「名称等を通知すべき危険物および有害物No. 322」に指定されています。

硫化スズの使用用途

硫化スズは、リチウムイオン電池の電解質のうち、全固体電池の固体電解質材料として使用されています。現在、リチウムイオン電池は、液体の有機系溶剤と無機系の固体電解質が主流とされています。主流の一つとされる有機系溶剤は、液体のため漏れによる発火の危惧が払拭できません。それに対して、硫化スズのような無機系の固体電解質材料には、漏れなどの心配がなく重用されています。

さらに、硫化スズは、電池研究用として不純物金属の試験にも用いることも可能です。

とくに硫化スズ(IV)は、彩色金やモザイク金とも呼ばれ、黄金色で変化しにくいため、金色顔料としてニスやラッカーなどに使われます。その一方で硫化スズ(II)は、重合反応の触媒、分析試薬、軸受剤などに使用可能です。

硫化スズの性質

硫化スズ(IV)の融点は600°Cです。水、硝酸塩酸には、ほとんど溶けません。トリチオスズ(IV)酸塩やヘキサヒドロキソスズ(IV)酸塩として、アルカリには溶解します。硫化アルカリや硫化アンモニウム水溶液には、硫化スズ(IV)はトリチオスズ(IV)酸塩を生成するため可溶です。空気中で熱すると酸化スズ(IV)と二酸化硫黄が生じ、王水と加熱すると酸化スズ(IV)と硫酸が生成します。

硫化スズ(II)の融点は880℃、沸点は1,230℃です。硫化スズ(II)は水にほとんど溶けません。濃塩酸に溶け、アルカリ性では水酸化スズ(II)が沈殿しますが、過剰にアルカリを加えると沈殿は溶解します。多硫化アンモニウム水溶液中では、トリチオスズ(IV)酸塩として溶けます。空気中で強熱するか、硝酸で処理すると、硫化スズ(II)が酸化して酸化スズ(IV)を得ることも可能です。

硫化スズの構造

硫化スズ(IV)は無臭の金黄色粉末であり、二硫化スズとも呼ばれています。化学式はSnS2、分子量は182.84で、密度は4.5g/cm3です。硫化スズ(IV)はヨウ化カドミウム型構造を取っており、6個の硫化物中心による八面体孔にSn(IV)が位置しています。

硫化スズ(II)は茶黒色の粉末であり、化学式はSnSで、分子量は150.78です。岩塩型構造の斜方晶系結晶であり、0℃での密度は5.08g/cm3です。

硫化スズのその他情報

1. 硫化スズ(IV)の合成法

塩化スズ(IV)塩を含んだ酸性水溶液と硫化水素の反応によって、コロイド状の黄色沈殿として硫化スズ(IV)が生じます。

塩化アンモニウム共存下で直接スズ箔と硫黄を加熱すると、黄金色の六方晶系板状晶を得ることが可能です。

天然で塩化スズ(IV)は、ベルンド鉱 (英: Berndtite) と呼ばれる珍しい鉱物として産出します。

2. 硫化スズ(II)の合成法

可溶性のスズ(II)塩水溶液と硫化水素の反応で、硫化スズ(II)は生成します。

直接スズと硫黄を加熱しても、硫化スズ(II)の灰黒色の結晶を得ることが可能です。

3. 三流化二スズの特徴

硫化スズ(IV)や硫化スズ(II)以外にも、三流化二スズが知られています。化学式はSn2S3ですが、SnIISnIVS3となっています。分子量は333.6で、比重は4.9g/cm3です。硫化スズ(II)と硫黄の混合物を強熱すると、黄色結晶として三流化二スズは得られます。濃塩酸によって三流化二スズは、SnSとSnS2になります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-2112JGHEJP.pdf
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01ALF014051.html

硫化カルシウム

硫化カルシウムとは

硫化カルシウム (英: Calcium sulfide) とは、組成式CaSで表されるカルシウムの硫化物です。

CAS登録番号は、20548-54-3です。常温常圧では無色固体の形状を取ります。通常、「硫化カルシウム」という名称は単硫化物を指しますが、その他には四硫化物、五硫化物が存在します。

硫化カルシウムの使用用途

硫化カルシウムの主な使用用途は、潤滑油の添加物、電子エミッターの材料、塗料、ニス、食物保存剤などです。また、脱毛作用を利用して皮のなめしに使われます。処分場での埋め立て材にも使われており、石膏製ギプスのリサイクルや石炭製品の処理過程などでも用いられている物質です。

電子エミッターの材料としては、特に純度の高い硫化カルシウムに希土類元素を加えて、エレクトロルミネッセンス材料として使用する用途があります。また、四硫化物や五硫化物などの多硫化物は、農業用殺虫・殺菌剤への用途もあります。

硫化カルシウムの性質

硫化カルシウムの基本情報

図1. 硫化カルシウムの基本情報

硫化カルシウムは、分子量72.14、融点2,525℃であり、常温での外観は無色の結晶です。密度は2.8g/mLです。冷水に極めて溶けにくい性質を持ちます (溶解度: 0.015g/100mL (10°C)) 。

硫化カルシウムの構造

硫化カルシウムの結晶は立方晶系結晶です。結晶構造中では、1つの硫黄原子が八面体を形成する6つのカルシウム原子に取り囲まれた構造をしており、また、それぞれのカルシウム原子は6つの硫黄原子に取り囲まれた構造をしています。

硫化カルシウムの種類

硫化カルシウムは、一般には主に研究開発用試薬製品として販売されています。

容量の種類には10g、25g、100g、500gなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供が中心です。通常、室温で保管可能な試薬製品として取り扱われています。

硫化カルシウムのその他情報

1. 硫化カルシウムの合成

硫化カルシウムの合成

図2. 硫化カルシウムの合成

硫化カルシウムは、硫酸カルシウムと炭素を無酸素条件下で900℃に加熱することで合成が可能です。この反応は、すなわち硫酸カルシウムの炭素還元反応でもあります。

また、酸化カルシウムを赤熱するまで加熱して硫化水素を通じる方法によっても硫化カルシウムを得ることができます。

2. 硫化カルシウムの化学反応

硫化カルシウムの化学反応

図3. 硫化カルシウムの化学反応

硫化カルシウムは、湿度が高い環境下では、空気中の水分と反応して、水硫化カルシウム Ca(SH)2水酸化カルシウムCa(OH)2、Ca(OH)(SH)の混合物を生じます。また、この時生じるCa(SH)(OH)はさらに水と反応して水酸化カルシウムと硫化水素を生成します。

乾燥空気中では、酸化が進行することにより硫化カルシウムからチオ硫酸カルシウムが生じます。また、希酸を加えることにより簡単に分解して硫化水素を発生します。例えば、塩酸との反応では、生成物は塩化カルシウムと硫化水素です。

3. 硫化カルシウムの有害性

硫化カルシウムは、前述の通り水に触れると可燃性/引火性ガス (硫化水素) を発生します。また、人体への有害性も知られており、具体的には以下のような症状などが挙げられます。

  • 皮膚刺激
  • 強い眼刺激
  • 呼吸器への刺激のおそれ

GHS分類においては、以下が指定されています。

  • 皮膚腐食性/ 刺激性 : 区分2 (皮膚刺激)
  • 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激: 区分2 (強い眼刺激)

また、硫化カルシウムは自然界において、水生生物に非常に強い毒性を及ぼすことが知られている物質です。

4. 硫化カルシウムの保管上の注意

硫化カルシウムは加熱や酸との混触により、刺激性の有毒なガスやヒュームを生じます。大気中の水分とも徐々に反応し、硫化水素を発生することから、保管の際は密閉容器内での保管が必要です。熱、湿気を避け、また酸化剤、酸との混触を避ける必要があります。

参考文献
https://www.kojundo.co.jp/dcms_media/other/CAI04PAG.pdf

硫化カリウム

硫化カリウムとは

硫化カリウム (英: Potassium sulfide) とは、カリウムの硫化物であり、通常組成式K2Sで表される一硫化カリウムです。

CAS登録番号は1312-73-8です。また、多硫化カリウムとしては、二、三、四、五硫化カリウムがありますが、こちらは通常ポリ硫化カリウムと称されます。水和物には、二水和物、五水和物、十二水和物があります。

硫化カリウムの使用用途

硫化カリウムの主な用途は、医薬、医薬中間体、脱毛剤、分析試薬などです。入浴剤、銅板めっきの材料をはじめ、肥料、染色、還元剤、農薬、皮膚病薬などにも用いられます。分析試薬や医薬品の中間原料としては、硫化物イオンの供給源として用いられる物質です。

また、硫化カリウムは、花火の原料ではないものの花火の発色に寄与します。花火の黒色火薬が燃焼中に硫化カリウムを生成し、炎色反応により華やかさを演出します。

さらに、硫黄ナノ粒子を合成する場合において、硫化カリウムは硫黄源としての用途もあります。硫化カリウムの水和物は、多種ありますが、水溶解度が大きく、二次電気を化学的に貯蔵できる装置として高エネルギー密度の電池への応用が可能です。

硫化カリウムの性質

硫化カリウムの基本情報

図1. 硫化カリウムの基本情報

硫化カリウムは、分子量110.262、融点840℃であり、常温での外観は白色の結晶です。

ただし、吸湿したものは赤色または茶色を帯びます。特徴的な臭気があり、密度は1.805g/mLです。水に易溶であり、アルコールやグリセリンにも可溶ですが、エーテルには溶解しません。 発火性、爆発性、潮解性があります。

硫化カリウムの種類

硫化カリウムは、主に研究開発用試薬製品や工業用薬品として販売されています。研究開発用試薬製品としては、25gや500gの容量単位で販売されており、実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。

通常、室温で保管可能な試薬製品として取り扱われます。工業用薬品としては、液体 (溶液) でも提供されている物質です。液体の場合は35%以上などの濃度が一般的であり、7.5kgや15kgなどの単位で提供されています。液体の硫化カリウムは、染料としての用途が一般的です。

硫化カリウムのその他情報

1. 硫化カリウムの合成

硫化カリウムの合成

図2. 硫化カリウムの合成

硫化カリウムの実験室的製法では、無水液体アンモニア中でカリウムと硫黄とを反応させる方法が一般的です。また、工業的には、硫酸カリウムを炭素 (石炭) を反応させる方法によっても合成が可能です。

2. 硫化カリウムの化学反応

硫化カリウムの加水分解

図3. 硫化カリウムの加水分解

硫化カリウムは、強い還元性、腐食性を持つアルカリ性物質です。引火しやすく、空気に触れると自然発火する可能性があり、燃焼の際は硫化水素や硫黄酸化物などの有毒ガスが発生します。また、空気中の酸素や炭酸ガスと徐々に反応して硫化水素が発生します。

硫化カリウムは、加水分解によって水酸化カリウムと硫化水素カリウムに分解されます。このため、水溶液は強いアルカリ性です。また、酸との接触では分解して硫化水素が発生する他、酸化剤との接触では二酸化硫黄が生じます。

3. 水和物

硫化カリウムの五水和物は、硫化水素カリウムの水溶液に水酸化カリウムの水溶液を加えて濃縮することで得ることができます。また、硫化カリウムの五水和物を水素気流中で加熱することで硫化カリウムの無水物を得ることが可能です。

4. 硫化カリウムの危険性

硫化カリウムは、前述の通り、自己発熱及び発火のおそれがある物質です。吸い込むと呼吸器系の障害を起こす危険性があり、具体的には肺水腫を起こす危険性があり、飲み込むと生命に危険を及ぼします。その他では、重篤な皮膚の薬傷や眼の損傷の危険があります。適切な保護手袋、衣類及び保護眼鏡、保護面などの保護具を着用し、安全に取り扱うことが大切です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/cas-1312-73-8.html