硫酸タリウムとは
硫酸タリウムとは、タリウムの硫酸塩です。
無色の結晶性粉末で、味や臭いはありません。水やエタノールに溶けるため、液剤の状態でも使用されます。
硫酸タリウムは劇物に指定されており、保管・使用には注意が必要です。急性毒性および慢性毒性を持ち、経口摂取すると消化管や神経系、呼吸器、腎臓等に影響を与えます。
さらに生殖毒性も確認されており、精巣や胎児の発生に影響する恐れがあります。これらの毒性を活かして殺鼠剤として使用されていましたが、現在は用いられていません。
硫酸タリウムの使用用途
硫酸タリウムは、かつて殺鼠剤に利用されていました。水に溶けるため毒餌を調整しやすく、ネズミが避けずに食べるため、ネズミが好む餌に硫酸タリウム溶液を加えて毒餌を調製していました。
硫酸タリウムは排泄されずにネズミの体内に蓄積されるため、一度に致死量を食べなかった個体も、継続的に毒餌を摂取することで死亡します。また、生殖毒性を持つためネズミの繁殖が抑えられ、長期的に個体数を低く抑えることが可能です。
硫酸タリウムを含む殺鼠剤は、以前は農薬として登録されていましたが、毒性の高さや流通量の少なさ等の理由により登録が失効しました。硫酸タリウムの農薬登録が失効してからは、リン化亜鉛やクマリン、ジフェチアロール等の別の成分が殺鼠剤に用いられています。
硫酸タリウムの特徴
硫酸タリウムはタリウムの硫酸塩であり、化学式はTl2SO4です。室温では安定な無色の結晶で、水に溶かすとタリウムイオン (1価) と硫酸イオンに電離します。
原料であるタリウムは13族の金属元素で、銅、鉛、亜鉛などの精錬工程で副産物として回収されます。タリウムは主に1価イオンの状態で存在しますが、酸化されると3価イオンを生じ、酸化タリウム等を形成することがあります。
硫酸タリウムの基本的な特性 (分子量、比重、溶解性) は以下の通りです。
- 分子量:504.83
- 比重:6.77
- 溶解性:水に溶ける (20℃のとき4.87g/100mL)
硫酸タリウムのその他情報
1. 人間への毒性
硫酸タリウムは人体に対しても有毒です。過去の事故や事件による摂取例では、食欲不振、嘔吐、腹痛、血便等が起きた後、手足の知覚異常や幻覚、痙攣、頻脈、脱毛等の症状が報告されています。重症化すると、腎臓や中枢神経系の異常、心不全によって死亡します。
誤飲防止のため、硫酸タリウムの入った容器には必ず物質名を明記する必要があります。食品に使われるような容器に入れて保管したり、飲食しながら取り扱ったりすると、誤飲・誤食のリスクが高まるため大変危険です。
ラットを用いた実験では、硫酸タリウムの原体 (製剤化されていない純品) は経皮毒性も確認されているため、皮膚への付着にも注意が必要です。ニトリル手袋や保護めがね等の保護具を着用し、皮膚に付着した場合は水でよく洗い流します。目に入った場合は流水でよく洗浄した後、医師の診察を受けましょう。
2. 劇物としての規制
硫酸タリウム、および硫酸タリウムを0.3%以上含む製剤は、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。容器には「医薬用外劇物」と明記されたラベルを貼付し、盗難や漏洩を予防するために鍵のかかる場所での保管が必要です。
3. 加熱及び酸化による分解
硫酸タリウムを加熱すると分解し、有害なタリウムや硫黄酸化物などのフュームを生じます。フュームとは、蒸発または昇華した物質が空気中で凝縮し、微細な粒子になったものです。煙やエアロゾルとなって広範囲に拡散するため、作業者が吸入してしまうリスクがあります。硫酸タリウムはフュームにも毒性があるため、実験等で硫酸タリウムが加熱される恐れがある場合はドラフト内で換気しながら扱う等の対策が必要です。
硫酸タリウムは酸化剤と激しく反応し、酸化物を生成します。酸化される際の反応熱によって有毒なフュームが生じる恐れもあるため、酸化剤と接触させないように保管・使用するよう注意が必要です。
4. 環境への影響
硫酸タリウムは野鳥や水生生物への毒性があり、環境中への流出防止が必要です。廃棄する際は自治体の定める基準に従うか、専門業者に処理を委託します。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7446-18-6.html
http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/Ti2SO4.pdf
https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=0336&p_version=2
https://www.acis.famic.go.jp/toroku/sikkou3.html