硫化亜鉛

硫化亜鉛とは

硫化亜鉛とは、化学式ZnSで表される亜鉛の硫化物です。

硫化亜鉛は白色または黄色の粉末や結晶で、密度は4.0g/cm3、融点は1,718°C、昇華点は1,180°Cです。天然ではせん亜鉛鉱 (英: sphaleriteまたはzincblende) として産出され、ウルツ鉱 (英: wurtzite) としてもまれに産出されます。

一般的には安定な立方晶系型として存在しており、閃亜鉛鉱として産出されます。六方晶系型は合成により得られますが、ウルツ鉱として天然にも存在しています。

硫化亜鉛の使用用途

硫化亜鉛の使用用途は、蛍光体の原料、塗料、ゴム用顔料、リトポン、皮革、歯科用ゴム、X線スクリーン、半導体レーザー結晶材料などです。適当な不純物を添加した硫化亜鉛は、紫外線を照射するとケイ光を発するため、古くからケイ光体として利用されてきました。

発光色は不純物の種類によって変更可能で、電子ビームによっても発光するため、テレビなどのブラウン管のケイ光面に塗布されています。少量のラジウムやトリウムを混ぜることで、時計用の夜光塗料としても使用されています。

硫化亜鉛の性質

硫化亜鉛が水分を含んでいるときは、空気中で徐々に酸化され、硫酸亜鉛となります。硫化亜鉛は水やアルカリには不溶で、鉱酸には可溶です。新しく作った硫化亜鉛は酸に溶けます。

天然で産出される閃亜鉛鉱とウルツ鉱は、それぞれ大きな固有のバンドギャップ (英: band gap) を有する半導体です。300Kにおけるバンドギャップの値は、ウルツ鉱が3.91eV、閃亜鉛鉱が3.54eVです。

なお、硫化亜鉛は組成式がZnSの、共有結合性の化合物です。およそ1,293Kで、閃亜鉛鉱型からウルツ鉱型の結晶構造の転移が起きます。閃亜鉛鉱型の硫化亜鉛の融点は1,991Kで、298Kにおける標準生成エンタルピーは−204.6kJ/molです。

硫化亜鉛のその他情報

1. 硫化亜鉛の合成法

硫黄と亜鉛の直接化合によって、硫化亜鉛は生成します。亜鉛イオンを含んだ水溶液に、硫化水素を吹き込むことによって、硫化亜鉛を得ることも可能です。

2. 原子物理学における硫化亜鉛

初期の原子物理学で、アーネスト・ラザフォード (英: Ernest Rutherford) らは、蛍光体材料であるシンチレータ (英: Scintillator) として硫化亜鉛を用いました。アルファ線、X線、電子線などの放射線により励起されたときに、硫化亜鉛が発光する性質を利用しています。そのため硫化亜鉛は、X線の増感剤やブラウン管の材料としても有用です。不純物が存在する場合には燐光になり、青色光や紫外線を発します。

当時の技術では自動計測が困難だったため、硫化亜鉛の粉末を用いて、ラザフォードらは暗室で目測により発光を数えていました。そしてアルファ線を物質に照射するラザフォード散乱 (英: Rutherford scattering) の実験に応用することで、原子核の存在を証明しました。未だに硫化亜鉛は、アルファ線の検出用素子として有用です。

3. 蓄光剤としての硫化亜鉛

硫化亜鉛は蓄光剤として使用することが可能です。数ppmほどの活性剤を添加すると、ブラウン管やX線スクリーンのほか、暗所などで光る部品として役立ちます。例えば発する光は、銀が活性剤に使われた場合には明るい青色に、マンガンの場合には黄色になります。

蓄光剤として良く知られているのは、発光時間が長いの場合の、緑色っぽい色です。銅をドーピングした硫化亜鉛は、エレクトロルミネセンスパネル (英: Electroluminescence) にも利用されています。

4. 硫化亜鉛のその他応用

硫化亜鉛は赤外光用の光学素子としても使用されています。可視光から12μm以上の波長を透過し、平面状の光学窓やレンズとして使用可能です。

さらにドーピングによって、P型半導体とN型半導体の両方として利用できます。II-VI族半導体としては、珍しい性質です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0126-0043JGHEJP.pdf

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です