フッ化マグネシウム

フッ化マグネシウムとは

フッ化マグネシウム (英: Magnesium fluoride) とは、無機化合物の1種であり、フッ化物イオンとマグネシウムイオンからなるイオン化合物です。

CAS登録番号は7783-40-6、組成式はMgF2です。フッ化マグネシウムは、セッラ石として天然にもごくわずかに存在していますが、希産鉱物に分類されます。皮膚刺激性や眼刺激性を持つ他、経口摂取することにより有害となるため注意が必要です。

フッ化マグネシウムの使用用途

フッ化マグネシウムは、代表的な低屈折率材料として幅広く利用されている物質です。レンズやプリズムなどの表面に蒸着させてフッ化マグネシウムの膜を張ることにより、反射防止膜を作ることができます。

この性質を応用した具体的な工業用途には、反射防止膜、多層膜、ビームスプリッター、液晶ディスプレイ用の偏光フィルム、ガラスコーティングなどがあります。

また、フッ化マグネシウムの単結晶はフッ化物の単結晶の中で比較的加工性に優れていおり、0.11–7.5μmの透過波長領域をもつ物質です。そのため、紫外域での偏向素子、光学基板や窓板、レンズの原料として用いられることもあります。

デジタル一眼レフカメラ向け光学用フッ化物レンズ原料、シンチレータ等の光学用単結晶原料、光ファイバー母材などの工業利用を例として挙げられます。

フッ化マグネシウムの性質

フッ化マグネシウムの基本情報

図1. フッ化マグネシウムの基本情報

フッ化マグネシウムは、式量62.30、融点1,248°C、沸点2,260°Cであり、常温常圧での外観は白色の粉末状固体です。密度は3.15g/mLです。水には溶けにくく (溶解度8.7mg/100g (18°C) ) エタノールにも溶けません。希塩酸にも溶けにくい物質ですが、硝酸には溶解します。

0.11~7.5μmの波長を持つ電磁波を透過し、紫外域での偏向素子として用いることができる物質です。また、熱や衝撃に対する耐久性にも比較的優れています。通常の保管条件では安定とされていますが、分解生成物としてハロゲン化物 (フッ化水素) 、金属酸化物などが生成する可能性があるため、強酸化剤との混触や、高温と直射日光などを避けて保管することが必要です。

フッ化マグネシウムの種類

フッ化マグネシウムは、主に研究開発用試薬製品や、工業用材料として一般に販売されています。研究開発用試薬製品としては、5g、25g、100g、500gなどの容量があり、実験室で取り扱いやすい容量を中心とした提供です。室温で保管可能な試薬製品として販売されており、真空蒸着などに適しているとされています。

工業用材料としては、光学薄膜材料や透明な低屈折率コーティング素材として提供されており、希少金属材料にも分類されます。液晶ディスプレイ用の偏光フィルム、ガラスコーティングなどを想定用途として提供されており、容量は20kg (袋) などの工場で取り扱いやすい大容量が中心です。材料としてのフッ化マグネシウムの外観は白色~透明・顆粒状・タブレット状などとされます。

フッ化マグネシウムのその他情報

1. フッ化マグネシウムの合成

フッ化マグネシウムの合成

図2. フッ化マグネシウムの合成

フッ化マグネシウムは、酸化マグネシウムにフッ化水素アンモニウムのようなフッ化水素源となる化合物を加えることで合成が可能です。

2. フッ化マグネシウムの結晶構造

フッ化マグネシウムの結晶構造

図3. フッ化マグネシウムの結晶構造 (灰色: Mg、黄緑: F)

フッ化マグネシウムの結晶構造はルチル型です。ルチル型とは、典型的にはTiO2に見られる結晶構造であり、正方晶系に属します。

単位格子中には2化学単位が含まれており、具体的な構造は、1つのMg原子を中として見たときには6つのF原子が八面体を形成して配位しており、1つのF原子を中心として見たときには3つのMg原子が配位しているような構造です。なお、気相中では1分子のMgF2が直線構造を取っています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0020JGHEJP.pdf

フッ化ビニリデン

フッ化ビニリデンとは

フッ化ビニリデンとは、化学式CH2=CF2で表され、常温常圧で無色の気体です。

また、エーテル臭を有します。フッ化ビニリデンは爆発性を有する化合物であり、加熱すると大量の有毒物質を放出しながら激しく燃焼する危険物です。

フッ化ビニリデンを重合させて得られるポリフッ化ビニリデンは、フッ素系樹脂の1種です。ポリフッ化ビニリデンは薬品や酸に対して耐久性を有するため、耐薬品性能や耐酸性能を要求される製品に用いられます。

なお、労働安全衛生法で「名称等を表示・通知すべき有害物質」に指定されています。

フッ化ビニリデンの使用用途

フッ化ビニリデンの主な使用用途は、上述したポリフッ化ビニリデンの原料です。ポリフッ化ビニリデンは、PVDFと称され乳白色であり、フッ素系樹脂の1種として幅広く利用されています。

ポリフッ化ビニリデンの強度や加工性は、他のフッ素系樹脂よりも良好です。また、耐薬品性、耐高温性、耐酸性、およびさまざまな電気特性の点でも優れています。それらの特性を活かし、半導体製造装置、食品製造機械、産業機械、医療機器などの各部品のなど用途で使用されます。具体的には、リチウムイオン二次電池の電極用バインダ、膜材料、パッキン、ガスケット、ボルト、釣り糸などです。

ポリフッ化ビニリデンを用いた膜 (メンブレン) は、アミノ酸に対して親和性を有するため、タンパク質やアミノ酸の分析に利用されます。一方、下水処理分野では膜分離活性汚泥法、水浄化分野ではろ過用の水処理膜に利用されています。

その他、例えばポリフッ化ビニリデンを用いた釣り糸はフロロカーボンラインといわれています。高い耐久性だけでなく、透明で魚に気付かれにくいのが特徴です。

フッ化ビニリデンの分子構造

フッ化ビニリデンの分子構造は、エチレンの2つの水素 (H) がフッ素 (F) に置き換わっています。2つの炭素は不飽和結合しています。フッ化ビニリデンは低分子化合物ですが、不飽和結合している2つの炭素を有するため、重合してつながりポリマー (高分子化合物) に変化します。すなわち、フッ化ビニリデンはモノマーの1種です。

フッ化ビニリデン (CH2=CF2) と分子構造が類似するモノマーとして、テトラフルオロエチレン (CF2=CF2) が挙げられます。また、フッ化ビニル (CH2=CHF) も分子構造が類似します。モノマーとしてフッ化ビニリデン (CH2=CF2) だけを重合させたポリマー (樹脂) がポリフッ化ビニリデン (通称PVDF) であり、テトラフルオロエチレン (CF2=CF2) だけを重合させたポリマーがポリテトラフルオロエチレン (通称PTFE) です。

モノマーとしてフッ化ビニル (CH2=CHF) だけを重合させたポリマーは、ポリフッ化ビニル (通称PVF) です。そのほか、クロロトリフルオロエチレン (CF2=CClF) というモノマーもあります。

フッ化ビニリデンの性質

フッ化ビニリデンは、重合反応性を持っています。すなわち、フッ化ビニリデンはモノマーであり、重合して高分子化してポリマーとなります。

フッ化ビニリデンを単独で重合させると上記のポリフッ化ビニリデンになりますが、他のモノマーと共重合させることも可能です。例えば、フッ化ビニリデンと他のモノマーとを共重合させて得られるフッ化ビニリデン系ゴム (FKM) が知られています。

フッ化ビニリデン系ゴムとしては、例えばフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロプロピレンの三元共重合体などが知られています。

フッ化ビニリデンのその他情報

フッ化ビニリデンの製造方法

工業的に利用されるフッ化ビニリデンは、例えば1,1,1-トリクロロエタンをフッ素化して1,1-ジフルオロ-1-クロロエタンを得た後、脱塩化水素処理することによって製造されます。近年、フッ化ビニリデンから合成されるフッ素樹脂は、半導体関連部材または自動車向けのリチウムイオン電池で需要が急増したため、供給不足の懸念があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0921.html

フッ化バリウム

フッ化バリウムとは

フッ化バリウムとは、フッ化物イオンとバリウムイオンからなるイオン化合物で、組成式BaF2で表される物質です。

CAS登録番号は、7787-32-8であり、常温常圧で白色の粉末状個体です。フッ化物結晶は共通して赤外線を透過する性質がありますが、フッ化バリウムはその中でも特に広い範囲の波長を透過します。

そのため、赤外線に対応したレンズやガラスなどの材料としても利用されています。フッ化バリウムは労働基準法で疾病化学物質に、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。

フッ化バリウムの使用用途

フッ化バリウムの主な使用用途は、 高純度アルミニウム製錬用、溶接棒用フラックス、釉薬などです。フッ化バリウムは、紫外線から赤外線まで (波長約0.15~14μm) 非常に広範囲の電磁波を透過します。

そのため、幅広い波長に対応したレンズやプリズムに用いられたり、赤外分光法における窓板や、X線検出におけるシンチレーターなどの用途もあります。その他、光学分野の用途としては、デジタル一眼レフカメラ向け光学用フッ化物レンズ原料、光ファイバー母材、NDIRガス計測用セル窓、放射温度計や赤外線カメラなどの温度測定用の観察窓、中赤外カメラレンズの保護窓などがあります。

フッ化バリウムは、フッ化物結晶の中で最も広範囲の波長を透過する物質です。また、フッ化カルシウムなどと比べて高エネルギー電磁波への耐久性に優れています。

フッ化バリウムの性質

フッ化バリウムの基本情報

図1. フッ化バリウムの基本情報

フッ化バリウムは、式量175.324、融点1,253℃、沸点2,260℃であり、常温では無臭の白色固体です。密度は4.893g/mL、水への溶解度は1.58 g/L (10 °C)であり、水にはほぼ不溶です。

通常の取り扱い条件下では安定ですが、急激な加熱や衝撃に弱い性質があります。直射日光を避け、冷暗所に保管することが推奨されています。

混触危険物質は、酸化剤、還元剤です。不燃性の物質ですが、火災等の場合は、毒性の強いフッ化水素ガスなどの分解生成物が発生する可能性があるため、注意が必要です。

フッ化バリウムの種類

フッ化バリウムは、主に研究開発用試薬製品や、工業用原料物質などとして販売されています。研究開発用試薬製品としては、20g、50g、100g、500gなどの容量で販売されており、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。通常、室温で保管可能な試薬製品として取り扱われます。

また、工業用原料としては、主にガラス (レンズ) 製造を用途として販売されています。容量は20kg (袋) からの提供が中心で、工場などで取り扱いやすい容量での提供です。

フッ化バリウムのその他情報

1. 自然界におけるフッ化バリウム

フッ化バリウムは、自然界ではフランクディクソナイトという鉱物の形で産出されます。ネバダ州ユーレカ郡のカーリン金鉱床で、水晶と共に産出される物質です。

2. フッ化バリウムの結晶構造

フッ化バリウムの結晶構造

図2. フッ化バリウムの結晶構造 (常温常圧下)

フッ化バリウムは、常温常圧下ではCaF2と同様の構造を取りますが、高圧下ではPbCl2と同様の構造へと変化します。

3.  フッ化バリウムの安全性・有害性情報

フッ化バリウムの有害性

図3. フッ化バリウムの有害性

フッ化バリウムは下記のような危険性が指摘されている物質です。

  • 経口摂取による有毒性
  • 強い眼刺激
  • 呼吸器への刺激の危険性
  • 長期又は反復ばく露によって心血管系、神経系、筋肉系、腎臓、骨の障害を起こす危険性

これらの有害性のため、各種法令によって規制されている物質です。毒物及び劇物取締法では劇物に指定されており、労働基準法では、疾病化学物質に指定されています。

水道法 (有害物質) 、下水道法 (水質基準物質) 、土壌汚染対策法 (特定有害物質) 、水質汚濁防止法 (有害物質) でもそれぞれ指定を受けており、廃棄の際には注意が必要な物質です。フッ化バリウム自体は不燃性の物質ですが、燃焼によってフッ化水素ガスが発生する可能性があるため、消防法では、貯蔵等の届出を要する物質に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7787-32-8.html

フッ化セシウム

フッ化セシウムとは

フッ化セシウム (英: Cesium fluoride) とは、組成式CsFで表されるイオン化合物で、フッ化物イオンとセシウムイオンから成る無機化合物です。

CAS登録番号は、13400-13-0です。吸湿性のある物質ですが、減圧下で加熱することで容易に水分を除去することができます。フッ化物イオンの発生源として反応したり、塩基として用いられたりする物質です。

フッ化セシウムは労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき有害物質に指定されている他、PRTR法で第一種指定化学物質に指定されています。

フッ化セシウムの使用用途

フッ化セシウムは、化学分野において種々の反応に用いられる物質です。例えば、有機フッ素化学ではフッ素化物イオン源として利用され、有機合成においては求核性の低い有用な塩基として用いられます。

また、フッ化セシウムは赤外線を透過する性質があるため、分析化学の分野では赤外分光法に利用されることがあります。赤外分光法とは、物体に赤外線を照射し、反射光や透過光をスペクトル分析する分析法のことです。フッ化セシウムは、赤外分光法において物体を挟む「窓板」という部分に用いられています。

フッ化セシウムの性質

フッ化セシウムの基本情報

図1. フッ化セシウムの基本情報

フッ化セシウムの式量は151.90であり、沸点は1,251℃、融点は682℃です。常温常圧での外観は白色固体または粉末です。密度は4.115g/mLであり、吸湿性があります。フッ化セシウムを空気中に放置すると水分を吸収してしまいますが、減圧下で 100 ℃に加熱することによって簡単に乾燥することができます。

メタノールに溶解しますが (溶解度: 191g/100g (15℃) ) 、ジオキサン、ピリジンには不溶です。水には可溶で(溶解度: 366.5g/100g (25℃) ) 、フッ酸には容易に溶解します。

フッ化セシウムの種類

フッ化セシウムは、研究開発用試薬製品や、工業用マテリアル製品などとして一般的に販売されています。研究開発用試薬製品としては、5g、25g、100g、500g、1kgなどの、実験室で取り扱いやすい小容量を中心に販売されています。冷蔵保管が必要な試薬製品です。

工業用マテリアル製品としては、主にフラックス原料、医薬中間体などの用途を想定して販売されています。こちらは業務用容量を中心に販売されているため、サプライヤーへの個別問い合わせが必要です。

フッ化セシウムのその他情報

1. フッ化セシウムの合成

フッ化セシウムの合成

図2. フッ化セシウムの合成

フッ化セシウムは、フッ化水素と水酸化セシウム或いは炭酸セシウムを反応させ、水を除去することによって合成が可能です。

2. フッ化セシウムの化学反応

フッ化セシウムの化学反応の例 (脱シリル化反応)

図3. フッ化セシウムの化学反応の例 (脱シリル化反応)

フッ化セシウムは、非水性溶液中でもほぼ完全に解離する物質です。そのため反応性が高く、溶液は弱塩基性を示します。また、フッ化物イオンは求核性が低いので有機合成において有用な塩基であり、例えば、クネーフェナーゲル縮合に用いた場合、KFやNaFよりも良い結果を与えます。

フッ化物イオンの発生源としても反応性を有しており、特にフッ化物イオンはケイ素置換基と容易に反応します。これは、ケイ素−フッ素結合が生成しやすいためです。有機合成で脱シリル化反応や、シリルエーテルの脱保護に用いられます。

THFやDMF溶媒中で様々な有機ケイ素化合物と反応し、ケイ素フッ化物とカルバニオンを発生させます。このカルバニオンは求電子剤と反応させることが可能です。フッ化セシウムは吸湿性が低いため、水に敏感な中間体を含む反応を収率良く進行させることができるところが長所です。

3. フッ化セシウムの安全性情報

フッ化セシウムは、一般的なフッ化物と同様に、中程度の毒性があります。酸と混合することにより、毒性・腐食性の高いフッ化水素が発生します。冷蔵庫 (2~10°C) に密閉し て保管することが推奨され、この推奨保管条件では安定と考えられますが、高温・直射日光などの条件や、酸・強酸化剤との混触を避けることが必要です。

フッ化アンモニウム

フッ化アンモニウムとは

フッ化アンモニウム (英: Ammonium Fluoride) とは、白色結晶性粉末のイオン化合物です。

化学式はFH4Nで表され、分子量は37.04です。CAS番号は、12125-01-8で登録されています。

フッ化アンモニウムの使用用途

1. エッチング剤

フッ化アンモニウムはガラスを溶かすため、古くからガラスのエッチング加工に利用されてきました。ガラス用のエッチング剤としての需要は限定的でしたが、フッ化アンモニウムはシリコン系素材も溶かすため、半導体材料のエッチング加工にも使用されます。

2. 洗剤

フッ化アンモニウムがシリコン樹脂を溶かす性質は、洗剤にも応用されています。水垢であるシリカスケールの洗浄は、通常困難とされていますが、フッ化アンモニウムにより除去可能です。

そのため、シリカスケール洗浄に対応した一部の洗剤には、人体への影響を考慮して微量のフッ化アンモニウムが配合されています。

3. その他

醸造行程に用いる器具の消毒や醸造に用いる木材の防腐剤、金属の表面処理剤、織物の印刷や染色、防虫剤、化学分析用試薬としても使用されます。

フッ化アンモニウムの性質

融点は238°Cで、潮解性を持つ固体です。刺激臭を持つ化合物で、水に極めて溶けやすく、エタノールやアセトンにはあまり溶けません。ガラスを侵食し、アルミニウムを腐食します。

酸性・アルカリ性の程度を表すpHは6.0〜7.5 (100g/L、25℃) で酸性を示します。

フッ化アンモニウムのその他情報

1. フッ化アンモニウムの製造法

実験室で大量に合成する場合は、1モルのアンモニア水と1モルの二フッ化アンモニウムを混合することで、容易に生成可能です。

工業的には、氷冷した40%フッ化水素酸にアンモニアガスを通して析出させることで合成できます。また、塩化アンモニウムフッ化ナトリウムを加熱、もしくは硫酸アンモニウムとフッ化カルシウムを加熱し、昇華させてフッ化アンモニウムを単離する方法があります。

2. 法規情報

フッ化アンモニウムは、以下の国内法令に該当します。

  • 毒物及び劇物取締法: 劇物 包装等級3
  • 労働安全衛生法: 名称等を表示すべき危険物及び有害物 (法57条、施行令第18条) 、名称等を通知すべき危険物及び有害物 (法第57条の2、施行令第18条の2別表第9) No. 487
  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則: 毒物類・毒物 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法: 毒物類・毒物 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
  • 化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) : 第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1)
  • 改正化学物質排出管理促進法: 第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1)
  • 水質汚濁防止法: 有害物質 (法第2条、施行令第2条、排水基準を定める省令第1条)
  • 大気汚染防止法: 有害大気汚染物質
  • 土壌汚染対策法: 特定有害物質

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
強酸化剤との接触は避けてください。個人用保護具を着用し、局所排気装置内で使用してください。

火災の場合
フッ化アンモニウムは、不燃性の固体ですが、熱分解により刺激性のある有毒なガスや蒸気を放出することがあります。水噴霧や炭酸ガス、粉末消火剤、泡消火剤、乾燥砂などを使用して消火します。棒状放水は行わないでください。

吸入した場合
万が一吸引してしまった場合は、外など新鮮な空気のある場所に移動し、呼吸しやすい姿勢で休ませます。咳や咽頭痛を感じる時は、医師に連絡してください。

皮膚に付着した場合
使用時は、必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用し、皮膚に付着しないようにしてください。万が一皮膚に付着した場合は、水と石鹸でしっかり洗います。

衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱ぎます。発赤などが続く時は、医師に連絡してください。

眼に入った場合
眼に対する重篤な損傷性や強い眼刺激性があります。必ず保護メガネまたはゴーグルを着用して使用してください。

眼に入った場合は、水でしっかり洗浄します。コンタクトレンズを着用している場合は外します。眼の発赤、痛みを引き起こすおそれがあります。直ちに、医師の診断を受けてください。

保管する場合
ガラスを侵食する作用があるため、ポリプロピレンまたはポリエチレン製容器に入れて密閉します。換気が良好な冷所で、直射日光を避け、施錠して保管してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/12125-01-8.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0309JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Ammonium-fluoride

フッ化アルミニウム

フッ化アルミニウムとは

フッ化アルミニウム (英: Aluminium fluoride) とは、化学式AlF3で表されるイオン化合物です。

アルミニウム1原子に対し3つのフッ素原子が結合していることから、三フッ化アルミニウムの別名があります。CAS登録番号は、7784-18-1です。

フッ化アルミニウムは、労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき有害物質に指定されています。

フッ化アルミニウムの使用用途

フッ化アルミニウムの主な使用用途は、 非鉄金属の製錬用融剤、陶磁器の釉薬、溶接棒フラックス、アルミナインジング用、光学レンズ原料などです。

また、アルミニウムを電解製錬する際に添加剤として用いられています。具体的には、アルミナの融点を下げ、導電性を高める効果があります。

また、フッ化アルミニウムは紫外線を透過させる性質があるため、紫外線領域に対応したカメラのレンズの原料としても用いられている物質です。カメラ・光学分野では、デジタル一眼レフカメラ向け光学用フッ化物レンズ原料、シンチレータ等の光学用単結晶原料や光ファイバー母材などの用途もあります。

フッ化アルミニウムの性質

フッ化アルミニウムの基本情報

図1. フッ化アルミニウムの基本情報

フッ化アルミニウムは、式量83.98、融点1,291℃、沸点1,272℃であり、常温では無臭の白色固体です。昇華性を示します。密度は3.07g/mL、水への溶解度は0.559g/100 mL (25℃) です。酸塩基にはわずかに溶解しますが、アルコールやアセトンには溶けません。不燃性の物質です。

フッ化アルミニウムは、ナトリウム及びカリウムとの接触で激しく反応し、酸及び酸のヒュームとの接触により、毒性の高いヒュームを生じることが知られています。また、空気、湿度、及び活性水素を含む化合物とも激しく反応する物質です。加熱によってフッ化水素ガスが発生します。

フッ化アルミニウムの種類

フッ化アルミニウムは、主に研究開発用試薬製品や工業用材料として販売されています。研究開発用試薬製品では、10g、50g、500gなどの容量があり、実験室で取り扱いやすい小容量が中心です。

工業用には、光学膜材料やフッ化物レンズ製造、アルミニウム電解製錬用溶剤などの用途で主に提供されています。容量は工場などで取り扱いやすい20kgからの大型容量が中心です。

フッ化アルミニウムのその他情報

1. フッ化アルミニウムの合成

フッ化アルミニウムの合成方法

図2. フッ化アルミニウムの合成方法

フッ化アルミニウムは酸化アルミニウムフッ化水素を混合し、約700℃に加熱することで合成が可能です。また、実験室的製法では、水酸化アルミニウムまたは金属アルミニウムをフッ化水素と反応させることでも得られます。

また、ヘキサフルオロアルミン酸アンモニウムを窒素気流中で赤熱するまで加熱すると熱分解によってフッ化アルミニウムが生成します。

2. フッ化アルミニウムの結晶構造

フッ化アルミニウムの結晶構造

図3. フッ化アルミニウムの結晶構造

フッ化アルミニウムの結晶構造は、アルミニウムの周りが歪んだ八面体構造となっています。この構造は結晶構造は酸化レニウム (VI) と類似したものです。この構造のために、他のハロゲン類縁体と異なり耐火性を持ちます。

3. フッ化アルミニウムの水和物

フッ化アルミニウムの水和物はAlF3·xH2Oの構造で表され、複数種類の物質が報告されています。具体的にはx=1の一水和物、三水和物 (x=3) 、六水和物 (x=6) 、九水和物 (x=9) などです。

4. フッ化アルミニウムの安全性情報

フッ化アルミニウムは、人体への有害性が指摘されている物質です。具体的な危険性としては、下記のような症状が挙げられます。

  • 経口摂取によって有毒
  • 強い眼刺激
  • 呼吸器への刺激のおそれ
  • 生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑い
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による骨の障害

そのため、労働安全衛生法では、「名称等を表示すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」に指定されています。その他、水道法、下水道法、航空法、水質汚濁防止法などでも有害物質として指定されている物質です。法令を遵守して正しく取り扱い、正しい方法で廃棄することが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7784-18-1.html

フタルイミド

フタルイミドとは

フタルイミド (英: Phthalimide) とは、白色〜淡黄色、結晶性粉末のイミド化合物です。

IUPAC名は1H-イソインドール-1,3 (2H) -ジオン (英: 1H-Isoindole-1,3 (2H) -dione) 、別名として1,3-ジオキソイソインドリン (英: 1,3-dioxoisoindoline) とも呼ばれます。

フタルイミドの使用用途

フタルイミドは、有機合成原料として用いられています。

1. ガブリエルアミン合成

1級アミンの合成は、通常アルキル基が2つ結合したジアルキルアミンや3つ結合したトリアルキルアミンの生成が同時に進行するため困難です。フタルイミドを出発原料として用いると、確実に1級アミンが合成できます。

ジメチルホルムアミド (DMF) などの非プロトン性溶媒中、水酸化カリウムを作用させ、ハロゲン化アルキルと反応させることで求核置換的に反応が進行し、アルキルフタルイミドが得られます。その後、ヒドラジンを作用させフタロイル基を除去することで、目的の1級アミンを合成可能です。

2. 光延反応

水酸基の立体反転反応として知られる光延反応の応用として、フタルイミドを用いることで、立体反転を伴い水酸基をアミノ基へ変換できます。光延反応は、使用する求核剤プロトンのpKaが13より大きいと進行しません。イミド構造による酸性度の低下が、上記反応を可能にします。

3. 1級アミンの保護基

1級アミンに無水フタル酸を作用させることで、フタロイル基として1級アミンを保護することが可能です。フタロイル基は酸や塩基性、酸化条件などにも強く、有用な1級アミンの保護基として知られています。アルキル金属などの求核剤やヒドリドとは反応します。脱保護には、ヒドラジンの使用が一般的です。

特にペプチド合成では、1級アミンの2つの水素をブロックできるため、基質のラセミ化を避けるためによく用いられます。

4. その他

フタルイミドを水酸化カリウムなどのアルカリ金属塩基で処理し、N-アルカリ金属塩とした後、ハロゲンを作用させることでN-ブロモフタルイミドやN-クロロフタルイミドなどのN-ハロゲン化合物の合成が可能です。これのN-ハロゲン化合物は、ハロゲン化剤として用いられます。

フタルイミドに次亜塩素酸を作用させ、ベックマン転位により得られるアントラニル酸は、インディゴやメチルレッドなど染料や顔料の原料として使用されています。

その他、アミノ酸やフタロシアニン色素などの合成中間体として用いられたり、殺菌剤や酸化反応、光反応の阻害剤としても使用されます。

フタルイミドの性質

化学式はC8H5NO2で表され、分子量は147.13です。CAS番号は85-41-6で登録されています。

融点は233〜237 °Cです。昇華性を持ち、常温で固体です。水酸化ナトリウム溶液に溶け、水やエタノールアセトンにはほとんど溶けません。

酸性・アルカリ性の程度を表すpHは3.8 (0.6 g/L、H₂O) 、酸解離定数 (pKa) は8.3です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKa が小さいほど、強い酸であることを示します。

イミド窒素は、窒素原子に求電子性のカルボニル基が2つ直接結合しているため、酸性度はアルキルアミン化合物よりも低くなり、酸性を示します。

フタルイミドのその他情報

1. フタルイミドの製造法

フタルイミドは、無水フタル酸アンモニア炭酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、尿素などと加熱し、イミド化することで得られます。

また、フタルアミドやフタル酸アンモニウムの脱水でも合成可能です。水中または酢酸中で再結晶により精製できます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
強酸化剤との接触は避けてください。局所排気装置内で使用してください。使用の際は、個人用保護具を着用します。

火災の場合
熱分解により、一酸化炭素や二酸化炭素、窒素酸化物を放出する恐れがあります。消火には水スプレーや粉末消火剤、泡消火剤、二酸化炭素消火剤、消化砂などを使用します。

皮膚に付着した場合
必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用し、皮膚が暴露しないようにして、皮膚に付着しないよう注意します。

皮膚に付着してしまった場合は、石けんと大量の水で洗い流します。皮膚刺激が続く場合は、医師の診断を受けてください。

眼に入った場合
必ず保護メガネやゴーグルなどを着用してください。万が一眼に入った場合は、水でしっかりと洗います。コンタクトレンズを使用している場合、可能なら外します。直ちに、医師に相談してください。

保管する場合
フタルイミドは、光により変質する恐れがあります。遮光性のガラス製容器に入れて密閉し、直射日光を避け、換気が良好な涼しい場所に施錠して保管してください。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-1413JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Phthalimide

フタル酸ジブチル

フタル酸ジブチルとは

フタル酸ジブチル (Dibutyl phthalate) とは、有機化合物の1つで、化学式C16H22O4で表されるエステル化合物です。

別名には、「ジブタン-1-イル=フタラート」「DBP」「フタル酸ジn-ブチル」「フタル酸ブチル」「フタル酸n-ブチル」「n-ブチルフタラート」「フタル酸ジブチルエステル」などの名称があります。CAS登録番号は、84-74-2です。

可塑剤として広く使用されている物質であり、接着剤や印刷インクの添加剤としても利用されています。

フタル酸ジブチルの使用用途

フタル酸ジブチルは、ポリ塩化ビニルポリスチレンおよびアクリル系樹脂の可塑剤として用いられている物質です。また、その他の用途としては、ラッカー接着剤、印刷インク、顔料、セロファン、染料の添加剤、および織物用潤滑油などが挙げられます。

合成的にも広く利用されている物質であり、フタル酸ジブチルは、角質溶解薬、殺菌薬、制瀉薬、抗寄生虫薬などの医薬品の原料です。また、化粧品に配合する香料、溶剤としても用いられています。植物成長調整剤、農薬の補助剤、醸造工程における添加剤などの用途もあります。

フタル酸ジブチルの性質

フタル酸ジブチルの基本情報

図1. フタル酸ジブチルの基本情報

フタル酸ジブチルは、分子量278.35、融点-35℃、沸点340℃であり、常温においては無色から黄色の芳香のある粘ちょう液体です。特徴的な臭気があります。密度は1.05g/mLで、アルコール、エーテルあるいはベンゼンなど様々な有機溶媒に溶解する一方、水にはほとんど溶けない物質です。水への溶解度は、10mg/L (25℃) です。

フタル酸ジブチルの種類

フタル酸ジブチルは、主に研究開発用試薬製品や工業用薬品として販売されています。試薬製品としては、25mL、100mL、500mL、1L、2.5L、4Lなどの容量の種類があります。実験室で取り扱いやすい容量を中心として提供されており、通常、室温で保管可能な試薬製品です。有機合成原料、高沸点溶剤、合成樹脂可塑剤などの用途で用いられます。

工業用薬品としては、主に可塑剤製品として販売されています。DBPの名前で表記されることも多く、可塑化効率、加工性に大変優れた可塑剤です。主に塗料、接着剤、ゴム製品などの用途を対象としています。

フタル酸ジブチルのその他情報

1. フタル酸ジブチルの合成

フタル酸ジブチルの合成

図2. フタル酸ジブチルの合成

フタル酸ジブチルは、n-ブタノールと無水フタル酸のエステル化反応により製造されます。

2. フタル酸ジブチルの分解

フタル酸ジブチルの加水分解 (上) とフタル酸モノブチルの構造 (下)

図3. フタル酸ジブチルの加水分解 (上) とフタル酸モノブチルの構造 (下)

フタル酸ジブチルは、加水分解によってn-ブタノールとフタル酸に分解されます。通常、生体内における主要な代謝物はフタル酸モノブチルです。

強酸化剤、強酸と反応し、 燃焼によって一酸化炭素、二酸化炭素などが生成します。保管においては、強酸、強酸化剤、強塩基との混触を避け、高温条件を避けるべきとされます。

3. フタル酸ジブチルの安全性情報

フタル酸ジブチルは、 引火点174℃であり、引火性のある物質です。そのため、消防法では、第4類引火性液体、第三石油類非水溶性液体に指定されています。

また、有害性として、下記の症状が確認されています。

  • アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ
  • 呼吸器への刺激のおそれ
  • 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による呼吸器の障害
  • 水生生物に非常に強い毒性

労働安全衛生法において、名称等を表示すべき危険有害物、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物、に指定されています。PRTR法においては、第1種指定化学物質に指定されている物質です。

大気汚染防止法では有害大気汚染物質に指定されており、海洋汚染防止法では 有害液体物質に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/84-74-2.html

フェロシアン化カリウム

フェロシアン化カリウムとは

フェロシアン化カリウムとは、無機化合物の1種であり、K4[Fe(CN)6]という化学式で表される錯塩です。

別名には、ヘキサシアニド鉄 (Ⅱ) 酸カリウムや黄血塩などの名称があります。多くの場合三水和物として存在している物質です。かつては動物血液や骨を鉄、炭酸カルシウムと強熱することで合成され、黄血塩という名の由来となっています。

フェロシアン化カリウムは労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき有害物に指定されている物質です。

フェロシアン化カリウムの使用用途

フェロシアン化カリウムは、青写真の現像液、鉄イオンの検出試薬、鉄、銅、銀の安定化試薬などの用途があります。また、組織細胞化学などの分野では、電子顕微鏡用染色剤としても用いられる物質です。

これは、電子密度の高い重金属が、検体組織を構成する元素に比して電子顕微鏡で観察する際のコントラストに優れている性質があるためです。また、塩の凝固を防止する作用があるため、食塩に添加されることがあり、食品添加物として認可されています。

1. 鉄 (Ⅱ) イオンの検出

フェロシアン化カリウムと鉄イオンの反応

図1. フェロシアン化カリウムと鉄イオンの反応

化学実験に使用される場合、フェロシアン化カリウムはヘキサシアニド鉄 (Ⅱ) 酸カリウムと呼ばれることが多いです。ヘキサシアニド鉄 (Ⅱ) 酸カリウム水溶液に鉄 (Ⅱ) イオンを加えると、ヘキサシアノ鉄 (II) 酸鉄 (II) の青白色沈殿を生じます。

また、3価の鉄イオンの溶液に加えると濃青色沈澱 (プルシアンブルー、ベルリンブルー) を生じます。

2. 食品添加物

フェロシアン化カリウムは、人体に悪影響を及ぼすとして食品へ添加することが禁じられていましたが、現在では人への影響はないとして食品添加物としての使用が認められています。

フェロシアン化カリウムは食塩の凝固を防止するための添加物として使用されており、食塩以外への添加は禁止されています。

フェロシアン化カリウムの性質

フェロシアン化カリウム三水和物の基本情報

図2. フェロシアン化カリウム三水和物の基本情報

フェロシアン化カリウムの無水物は、分子量368.4であり、CAS登録番号は、13943-58-3です。常温では吸湿性無色粉末の状態で存在します。密度は1.88g/mLです。

空気中の水分を吸湿して生成する三水和物は、分子式K4[Fe(CN)6]・3H2Oで表される物質です。分子量422.39、融点70℃であり、常温では黄色の結晶または粉末の状態で存在します。

結晶構造は単斜晶系であり、密度は1.85g/mL、CAS登録番号は、14459-95-1です。水に溶けやすく、エタノールにはほとんど溶けません。水溶液は淡黄色です。

フェロシアン化カリウムの種類

フェロシアン化カリウムは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。通常は、三水和物K4Fe(CN)6 · 3H2Oとして、或いは、1%などの溶液として販売されている物質です。

三水和物の場合は、5g、25g、100g、500gなどの容量で販売されています。実験室で取り扱いやすい容量を中心とした提供です。室温で保管可能な試薬製品として販売されています。

フェロシアン化カリウムのその他情報

1. フェロシアン化カリウムの合成

フェロシアン化カリウムの合成

図3. フェロシアン化カリウムの合成

フェロシアン化カリウムは、シアン化ナトリウム硫酸鉄 (II) 、塩化カリウムを原料として合成することが可能です。また、過剰量のシアン化カリウムと硫酸鉄 (II) の反応によっても合成することができます。

2. フェロシアン化カリウムの化学反応

[Fe(CN)6]4− (フェロシアン化物イオン) は、水溶液中で電離しても配位子のCNが安定しているため、無機シアン化物のような毒性は示しません。ただし、熱希硫酸を加えると分解し、シアン化水素を発生します。また、フェロシアン化カリウムにヨウ素を反応させることにより、K3[Fe(CN)6]・KIを得ることが可能です。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/16353250.pdf

フェノールスルホン酸亜鉛

フェノールスルホン酸亜鉛とは

フェノールスルホン酸とは、フェノールにスルホ基 (-SO3H) が結合した芳香族化合物です。

フェノールスルホン酸亜鉛は、フェノールスルホン酸が亜鉛の塩となった化合物を指します。つまり、ベンゼン環に1つの-OH基が結合したフェノールに、さらにスルホ基 (-SO3H) が結合し、亜鉛 (Zn) の塩になった化合物がフェノールスルホン酸亜鉛です。

消防法や労働基準法などの国内法規で指定されていませんが、特定の化粧品への配合量は所定濃度以下に規制されています。

フェノールスルホン酸亜鉛の使用用途

フェノールスルホン酸亜鉛の主な使用用途は、化粧品の配合成分です。具体的には制汗剤の有効成分として幅広く利用されています。薬機法上の化粧品だけでなく、医薬部外品 (薬用化粧品) にも配合されます。

また、皮脂による皮脂臭を抑える物質として注目されています。いわゆるデオドラント製品に配合されて使用される成分です。例えば、比較的皮脂臭が強い中年男性をターゲットにした製品に配合されます。

皮脂臭は、汗や皮脂を栄養源にする雑菌の増殖によって引き起こされるため、汗や皮脂の分泌を抑制し、雑菌の増殖を抑制することで皮脂臭を防げます。フェノールスルホン酸亜鉛は、汗や皮脂の分泌を抑制する効果、および、雑菌の増殖を抑制する効果 (殺菌効果) を併せ持つため、汗の臭いや皮脂臭を抑制可能です。

フェノールスルホン酸亜鉛の性質

フェノールスルホン酸亜鉛は、毛穴を引き締めて皮脂の分泌を抑制する収れん性を有します。収れん性とは、皮膚組織や毛細血管などを縮める作用です。アストリンゼント効果といわれる場合もあります。

発汗を抑える作用や皮脂の異常分泌を抑える作用も有するため、ニキビ予防の効果も期待できます。フェノールスルホン酸亜鉛は、医薬部外品の有効成分の1つとして配合される場合があります。

なお、制汗成分としては、塩化アルミニウム (アルミニウムクロリド) 、クロルヒドロキシアルミニウムなどが知られています。フェノールスルホン酸亜鉛は、これら成分よりも制汗力が低いと考えられていますが、安全性は高いです。

フェノールスルホン酸亜鉛の構造

フェノールスルホン酸亜鉛は、ベンゼン環に1つのヒドロキシ基 (-OH) と、1つのスルホ基 (-SO3H) が結合した分子構造を有します。スルホ基 (-SO3H) の部分は、亜鉛の塩 (-SO3)2 Znの状態です。亜鉛は2価 (Zn2+) であるため、1つの亜鉛と2つのフェノールスルホン酸がイオン結合しています。

フェノールスルホン酸亜鉛は、化学式Zn ( HOC6H4SO3 ) 2です。フェノールスルホン酸亜鉛にはいくつかの種類が存在します。フェノールの-OH基に対するスルホ基の位置によって、o-フェノールスルホン酸亜鉛、p-フェノールスルホン酸亜鉛、m-フェノールスルホン酸亜鉛があります。これらのうち、最も一般的に利用されているのはp-フェノールスルホン酸亜鉛です。

なお、亜鉛の塩となる前のフェノールスルホン酸は、例えば医薬中間体、電気メッキ助剤、金属表面処理剤などの用途で使用されます。

フェノールスルホン酸亜鉛のその他情報

1. フェノールスルホン酸亜鉛の配合規制

フェノールスルホン酸亜鉛は、直ちに洗い流す石けんやシャンプー等には配合規制がありませんが、それ以外の化粧品では100g中2.0gまでしか配合できません。

2. フェノールスルホン酸亜鉛の他成分との組み合わせ

フェノールスルホン酸亜鉛は、他の殺菌成分などと組み合わされて化粧品に配合される場合があります。例えば、イソプロピルメチルフェノールまたはシメン-5-オールなどと組み合わせてフェノールスルホン酸亜鉛を化粧品に配合すると、制汗作用や防臭作用などを向上できると報告されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0865JGHEJP.pdf