フッ化ビニリデンとは
フッ化ビニリデンとは、化学式CH2=CF2で表され、常温常圧で無色の気体です。
また、エーテル臭を有します。フッ化ビニリデンは爆発性を有する化合物であり、加熱すると大量の有毒物質を放出しながら激しく燃焼する危険物です。
フッ化ビニリデンを重合させて得られるポリフッ化ビニリデンは、フッ素系樹脂の1種です。ポリフッ化ビニリデンは薬品や酸に対して耐久性を有するため、耐薬品性能や耐酸性能を要求される製品に用いられます。
なお、労働安全衛生法で「名称等を表示・通知すべき有害物質」に指定されています。
フッ化ビニリデンの使用用途
フッ化ビニリデンの主な使用用途は、上述したポリフッ化ビニリデンの原料です。ポリフッ化ビニリデンは、PVDFと称され乳白色であり、フッ素系樹脂の1種として幅広く利用されています。
ポリフッ化ビニリデンの強度や加工性は、他のフッ素系樹脂よりも良好です。また、耐薬品性、耐高温性、耐酸性、およびさまざまな電気特性の点でも優れています。それらの特性を活かし、半導体製造装置、食品製造機械、産業機械、医療機器などの各部品のなど用途で使用されます。具体的には、リチウムイオン二次電池の電極用バインダ、膜材料、パッキン、ガスケット、ボルト、釣り糸などです。
ポリフッ化ビニリデンを用いた膜 (メンブレン) は、アミノ酸に対して親和性を有するため、タンパク質やアミノ酸の分析に利用されます。一方、下水処理分野では膜分離活性汚泥法、水浄化分野ではろ過用の水処理膜に利用されています。
その他、例えばポリフッ化ビニリデンを用いた釣り糸はフロロカーボンラインといわれています。高い耐久性だけでなく、透明で魚に気付かれにくいのが特徴です。
フッ化ビニリデンの分子構造
フッ化ビニリデンの分子構造は、エチレンの2つの水素 (H) がフッ素 (F) に置き換わっています。2つの炭素は不飽和結合しています。フッ化ビニリデンは低分子化合物ですが、不飽和結合している2つの炭素を有するため、重合してつながりポリマー (高分子化合物) に変化します。すなわち、フッ化ビニリデンはモノマーの1種です。
フッ化ビニリデン (CH2=CF2) と分子構造が類似するモノマーとして、テトラフルオロエチレン (CF2=CF2) が挙げられます。また、フッ化ビニル (CH2=CHF) も分子構造が類似します。モノマーとしてフッ化ビニリデン (CH2=CF2) だけを重合させたポリマー (樹脂) がポリフッ化ビニリデン (通称PVDF) であり、テトラフルオロエチレン (CF2=CF2) だけを重合させたポリマーがポリテトラフルオロエチレン (通称PTFE) です。
モノマーとしてフッ化ビニル (CH2=CHF) だけを重合させたポリマーは、ポリフッ化ビニル (通称PVF) です。そのほか、クロロトリフルオロエチレン (CF2=CClF) というモノマーもあります。
フッ化ビニリデンの性質
フッ化ビニリデンは、重合反応性を持っています。すなわち、フッ化ビニリデンはモノマーであり、重合して高分子化してポリマーとなります。
フッ化ビニリデンを単独で重合させると上記のポリフッ化ビニリデンになりますが、他のモノマーと共重合させることも可能です。例えば、フッ化ビニリデンと他のモノマーとを共重合させて得られるフッ化ビニリデン系ゴム (FKM) が知られています。
フッ化ビニリデン系ゴムとしては、例えばフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの二元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロプロピレンの三元共重合体などが知られています。
フッ化ビニリデンのその他情報
フッ化ビニリデンの製造方法
工業的に利用されるフッ化ビニリデンは、例えば1,1,1-トリクロロエタンをフッ素化して1,1-ジフルオロ-1-クロロエタンを得た後、脱塩化水素処理することによって製造されます。近年、フッ化ビニリデンから合成されるフッ素樹脂は、半導体関連部材または自動車向けのリチウムイオン電池で需要が急増したため、供給不足の懸念があります。