ピロールとは
図1. ピロールの基本情報
ピロールとは、五員環構造を持つ複素環式芳香族化合物のアミンの1つです。
ピロールには二重結合の位置が異なる異性体が存在し、2H-ピロールと3H-ピロールと呼ばれています。通常ピロールと呼ぶ場合には、1H-ピロールのことを指します。
常温でピロールは、クロロホルムのような臭い、あるいは軽度のナッツ臭がある、薄黄色透明の液体です。可燃性液体であり、消防法により「第4類危険物・第二石油類 (非水溶性液体) 」に指定されています。
ピロールの使用用途
ピロールは、有機合成やポリマーの製造、鉄鋼材料の腐食防止剤、電解コンデンサなどの電解質、および溶剤として利用されています。
また、ピロールとアルデヒドを酸性条件で縮合するとポルフィリンが合成可能です。ポルフィリンは、導電性や発光性などの特徴を持っています。
この性質により、風洞実験で圧力センサーとして用いられるとともに、太陽電池や有機ELの発光材料への応用などが検討されています。そのほか、ピロールは、亜セレン酸やケイ酸の検出試薬としても使用可能です。
ピロールの性質
ピロールの融点は-24℃、沸点は129.79℃です。水に溶けにくく、有機溶媒に溶解します。濃塩酸などと反応して重合します。
ピロールの窒素原子の塩基性は、ピリジンやアミンと比較するととても低いです。理由として、窒素原子が有する孤立電子対が、環全体に非局在化していることが挙げられます。
ピロールの構造
ピロールの分子式はC4H5Nで、分子量は67.09、密度は0.967g/cm3です。分子内の部分構造としてピロールを含む化合物は非常に多いです。ピロールの部分構造は、ピロール環と呼ばれています。
ピロールのその他情報
1. ピロールの合成法
図2. ピロールの合成
ピロールは、アルミナを触媒として、フランとアンモニアを反応させると生成可能です。ピロリジンの接触脱水素によっても合成できます。
それ以外にも、ピロール環の合成法が多数知られています。例えば、ハンチュのピロール合成では、β-ケトエステル、α-ハロケトン、アンモニアを用いて、置換ピロールが生成可能です。
また、クノールのピロール合成によって、カルボニル基のα位にメチレン基を持つ化合物とα-アミノケトンから、置換ピロールが得られます。さらに、パール・クノール合成では、1,4-ジカルボニル化合物からフランを経由して、ピロールが生じます。
2. ピロールの反応
図3. ピロールの反応
ピロールは芳香族であり、反応性はベンゼンやアニリンに似ています。一般的なオレフィンのような水素化が起こりにくく、通常ジエンとしてのディールス・アルダー反応も進行しません。
その一方で、アルキル化やアシル化は起こりやすいです。それに加えて、酸性条件下でピロールは、容易に重合します。
ピロールは、プロトン化された中間体の安定性が高いα位で、求電子剤と反応します。具体的には、ニトロ化剤 (HNO3/Ac2Oなど) 、スルホン化剤 (Py・SO3) 、ハロゲン化剤 (Br2、SO2Cl2、KI/H2O2など) と反応しやすいです。
3. ピロールの酸性
ピロールの窒素原子に結合している水素原子は、pKaが16.5であり、やや酸性を示します。そのため、ブチルリチウムや水素化ナトリウムなどの強塩基を用いて、脱プロトン化が可能です。生成したアニオンは求核性を有し、ヨードメタンなどの求電子試薬と反応すると、N-メチルピロールが得られます。
脱プロトン化したピロールは、配位金属の種類によって、窒素原子上または炭素原子上で求電子試薬と反応可能です。リチウム、ナトリウム、カリウムなどの金属では、N-アルキル化が進行します。それに対して、MgXなどの場合には、C-アルキル化が起こります。
4. ピロールの還元
ピロールが還元されると、ピロリジンやピロリンが生成します。具体的には、ピロールエステルやピロールアミドのバーチ還元によって、ピロリンを合成可能です。