フェニレンジアミン

フェニレンジアミンとは

フェニレンジアミン (Phenylenediamine) とは、ベンゼン環上に置換基として2つのアミノ基がついた有機化合物です。

示性式C6H4(NH2)2で表され、分子量は108.1です。置換基の位置によって3種類の位置異性体があります。

具体的な化合物は、o-フェニレンジアミン (1,2-フェニレンジアミン) 、m-フェニレンジアミン (1,3-フェニレンジアミン) 、p-フェニレンジアミン (1,4-フェニレンジアミン) の3種類です。尚、ジアミノベンゼンという別名が用いられる場合もあります。

CAS登録番号は、o-フェニレンジアミンが95-54-5 、m-フェニレンジアミンが108-45-2、p-フェニレンジアミンが106-50-3です。PRTR法では、どれも第1種指定化学物質に該当しています。

フェニレンジアミンの使用用途

1. o-フェニレンジアミン

o-フェニレンジアミンは、有機化合物の合成前駆体、特に複素環式化合物の前駆体に用いられます。また、ペルオキシダーゼとの反応により492nm 付近に吸収極大を持つ蛍光を発する性質を利用し、生化学では二塩酸塩の形でELISA法などの呈色試薬に用いられます。錯体化学においては重要な配位子として用いられる物質です。

2. m-フェニレンジアミン

m-フェニレンジアミンは、アラミド繊維、エポキシ樹脂、電線エナメルコーティングや、ポリ尿素エラストマーなどの、様々なポリマーの調製に使用される物質です。他の用途としは、接着剤促進剤、皮革や繊維用の染料などがあります。

3. p-フェニレンジアミン

p-フェニレンジアミンの用途には、アラミド繊維・プラスチックの前駆体などのポリマー材料や、毛髪染料、ゴム製品の酸化防止剤などがあります。ただし、アレルギーの原因物質として接触性皮膚炎を起こすことがあるため、染髪に関しては近年では他の化合物が用いられる場面も多くなってきました。

フェニレンジアミンの特徴

1. o-フェニレンジアミン

o-フェニレンジアミンの基本情報

図1. o-フェニレンジアミンの基本情報

o-フェニレンジアミンは、”オルト”フェニレンジアミンという名称の通り、ベンゼン環の1位と2位がアミノ基で置換されている化合物です。融点102-104℃、沸点252℃、密度1.031g/cm3であり、常温では白色または褐色の粉末です。

2. m-フェニレンジアミン

m-フェニレンジアミンの基本情報

図2. m-フェニレンジアミンの基本情報

m-フェニレンジアミンは、”メタ”フェニレンジアミンという名称の通り、ベンゼン環の1位と3位がアミノ基で置換されている化合物です。融点64-66℃、沸点282-284℃、密度1.14g/cm3であり、常温では淡灰色のフレーク状の固体です。

合成的には、ベンゼンのニトロ化により1,3-ジニトロベンゼンを得た後、水素化還元処理を行うことで得ることができます。

3. p-フェニレンジアミン

p-フェニレンジアミンの基本情報

図3. p-フェニレンジアミンの基本情報

p-フェニレンジアミンは、”パラ”フェニレンジアミンという名称の通り、ベンゼン環の1位と4位がアミノ基で置換されている化合物です。融点145-147℃、沸点267℃、密度0.72g/cm3であり、常温では白色固体ですが、空気酸化によって暗色になります。

毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている化合物です。合成方法はいくつか存在しますが、一般的なものは、4-ニトロクロロベンゼンをアンモニア処理して、4-ニトロアニリンに変換し、これを水素化する方法です。

それ以外では、アニリンをジフェニルトリアジンに変換して酸触媒によって4-アミノアゾベンゼンを得た後、水素化によってp-フェニレンジアミンを得る方法が産業的に用いられています。

フェニレンジアミンの種類

冒頭記載の通り、フェニレンジアミンには3種類の位置異性体が存在します。どの化合物も研究開発用の試薬製品として一般に販売されています。5g , 25g , 100g , 500gなどの容量の種類があり、室温で取り扱われる場合も、冷蔵で保管される場合もある試薬です。

p-フェニレンジアミンについては、ヘアカラー染料中間体としての用途などがあるため、染料用としても販売されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/106-50-3.html

フェナントレン

フェナントレンとは

フェナントレンの基本情報

図1. フェナントレンの基本情報

フェナントレン (Phenanthrene) とは、分子式 C14H10で表される有機化合物です。

3個のベンゼン環が縮合した多環芳香族炭化水素です。フェナントレンという名前は、フェニル基のついたアントラセンという意味に由来しています。CAS登録番号は、85-01-8です。

分子量178.23、融点101℃、沸点332℃であり、常温では無色または淡黄色で無臭の固体です。青い蛍光を放つ性質があります。密度は1.18g/cm3です。水にはほぼ不溶 (溶解度0.00011g/100mL) ですが、トルエンや四塩化炭素、エーテルやクロロホルムベンゼンなど、比較的極性の低い有機溶媒には溶けやすい性質を示します。

安定性は高いですが、水生環境に関しては、短期、長期ともに有害性があるため、廃棄する際には注意が必要です。

フェナントレンの使用用途

フェナントレンは主に有機合成用途で用いられます。特に、染料、樹脂、医薬品の合成原料として重要な化合物です。溶液の状態になると青色の蛍光を示すことが特徴の一つです。また、天然に存在する誘導体としては、モルヒネやコデイン、アリストロキア酸などがあります。

フェナントレン系化合物には、医薬品の他に、殺虫剤などの用途もあります。尚、染料として使用される場合は、アリザリンなどの原料として使用されます。

フェナントレンの性質

1. フェナントレンの合成

フェナントレンの合成法の例

図2. フェナントレンの合成法の例

フェナントレンは、ビフェニル同様、コールタール中に存在しています。アントラセン油からの分離によって得ることができます。また、天然の鉱物であるラバト石からも採取することが可能です。

古典的な合成法としては、バーダン・セングプタのフェナントレン合成があります。この反応はベンゼンの一つの水素をシクロヘキサノール基で置換した化合物を出発物質として、五酸化二リンを用いた芳香族求電子置換反応と、続くセレンを用いた脱水素化反応によって芳香環を形成する二段階反応です。また、ビベンジル、スチルベンなどから合成されるジアリールエテン類における、光環化・脱水素反応によってもフェナントレンを得ることが可能です。

2. フェナントレンの化学的性質と反応

フェナントレンの化学反応の例

図3. フェナントレンの化学反応の例

フェナントレンの異性体には、芳香環が直線状に並んだアントラセンがありますが、フェナントレンはこのアントラセンよりも安定です。近年では、この理由は4位と5位の炭素に結合する水素-水素結合の効果によるものであるとされています。

フェナントレンはアントラセンと同じく、9・10位の反応性が高い化合物です。主要な化学反応の例には次のようなものがあります。

  • オゾン酸化によるジフェニルアルデヒドの生成
  • クロム酸酸化によるフェナントレンキノンの生成
  • 水素ガスとRaney Niを用いた還元による、9,10-ジヒドロフェナントレンの生成
  • 臭素を用いた求電子ハロゲン化反応による9-ブロモフェナントレンの生成

フェナントレンの種類

フェナントレンは、現在主に研究開発用試薬製品として販売されています。製品容量には、1g , 5g , 25g , 500gなどの種類があり、実験室で取り扱いやすい形態で提供されています。室温で保管可能な試薬製品として取り扱われる物質です。

純粋なフェナントレン製品の他に、メタノール溶液・トルエン溶液・イソオクタン溶液・アセトニトリル溶液・塩化メチレン溶液などが販売されています。また、通常フェナントレンの他に水素原子を全て重水素で置換したd-10フェナントレン製品も販売されています。本製品の主な用途はGC/MS分析用内部標準物質です。環境ホルモンの疑いのある品目などをGC/MSを用いて分析する際に、内部標準物質として使用することができます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0085JGHEJP.pdf

ビフェニル

ビフェニルとは

ビフェニルの構造式

図1. ビフェニルの構造式

ビフェニルとは、ベンゼン系芳香族炭化水素の1種です。

図1のように、二つのベンゼン環が単結合で結合した構造をしています。外観は白色または無色の結晶です。水にはほとんど溶けませんが、アセトンやアルコールにはよく溶けます。ビフェニル及びその誘導体は安定性が高く用途が広いものもありますが、その反面毒性が強いものもあるため、取り扱いから廃棄する際まで注意が必要です。

ビフェニルの性質

1. 外観

ビフェニルの外観は、無色あるいは白色の結晶です。フレーク状になっていることもあります。

2. 溶解性

ビフェニルは有機化合物であり親水基 (ヒドロキシル基など) を持たないため、水溶媒に溶解しません。ビフェニルは芳香族化合物であるため、同様にベンゼン環を持つ芳香族溶剤 (トルエンキシレンなど) によく溶けます。芳香族溶剤以外にも、アセトン、エタノールなどの有機溶媒に溶かすことができます。

3. 構造

ビフェニルは室温下の結晶においては、図1のような平面構造をとっていますが、固相あるいは液相、または結晶を相転移温度以下まで冷却すると、二つのベンゼン環が互いにねじれた構造をとります。

有機化合物は共役構造をとることで安定化します。単純に共役構造をとるだけであれば、各々の元素の電子軌道をできるだけ重ねるために平面構造をとることがエネルギー的に有利になりますが、ビフェニルの場合はオルト基の水素原子同士が立体障害を起こします。

つまり、「共役構造による安定化」と「水素原子の立体障害」のバランスによって、エネルギー的に有利なねじれ角度が決まります。

3. その他物性

  • 融点: 68~72℃
  • 沸点: 254~256℃ (1気圧において)
  • 比重: 0.992

ビフェニルの使用用途

PCBの構造式

図2. ポリ塩化ビフェニル (PCB)

ビフェニルの主な用途として、防カビ剤、合成樹脂、熱媒体およびその原料が挙げられます。

日本では防カビ剤としての使用が多く、特に柑橘類の防カビ目的でよく使用されていましたが、ビフェニルに対する耐性菌が発見されてからはあまり使用されていません。他の使用用途としては、過充電防止剤としてリチウムイオン電池電解液に添加されることがあります。

過去にはビフェニルの水素を塩素に置換した図2のようなPCB (ポリ塩化ビフェニル) が広く利用されていました。その使用用途は、絶縁体、熱媒体、可塑剤、感圧紙と幅広く、特に絶縁性の高さが評価され、1970年代初めごろまではトランスなどに使用されていました。

しかし、PCBは油にとけやすいため、徐々に体に取り込まれ健康に悪影響を及ぼします。また安定性が非常に高いため、廃棄しても分解は容易でなく、自然への負荷が大きくなることが明らかになり1974年に使用禁止となりました。

該当する年代のトランス・変圧器を廃棄する際は、製品にPCBが含まれていないか確認する必要があります。

ビフェニルのその他情報

1. ビフェニルの合成方法

ウルマン反応

図3. ウルマン反応

ビフェニルは様々な方法で合成することができます。知られている合成法のうち、一部を以下に紹介します。

  • ハロゲン化アリールと銅粉の加熱 (ウルマン反応)
  • ベンゼンを赤熱した管に通す
  • 臭化ベンゼンをベンゼン中で光分解

収率やコストの観点から、状況に応じて適切な合成法を選択することが重要です。

2. ビフェニルの安全性、法令

ビフェニルは、眼刺激性及び発がん性が指摘されています。また、長期の暴露により肝臓、腎臓、神経系への悪影響をもたらす可能性があります。ビフェニルだけでなく、ビフェニルの誘導体も毒性が高いため、利用する際には使用環境に応じた安全設備や保護具の着用が必要です。

ビフェニルは以下の法令指定物質に指定されています。

  • 労働安全衛生法  健康障害防止指針公表物質
  • PRTR法 第一種指定化学物質
  • 大気汚染防止法 有害大気汚染物質

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/92-52-4.html

ヒドロキシ安息香酸

ヒドロキシ安息香酸とは

ヒドロキシ安息香酸の化合物群

図1. ヒドロキシ安息香酸の化合物群

ヒドロキシ安息香酸 (Hydroxybenzoic acid) とは、安息香酸 (Ph-COOH) のフェニル基の水素が一つヒドロキシ基に置換されている化合物です。

化学式C7H6O3で表され、分子量は138.12です。ヒドロキシ基の位置によって3つの位置異性体があり、順に2-ヒドロキシ安息香酸 (o-ヒドロキシ安息香酸) 、3-ヒドロキシ安息香酸 (m-ヒドロキシ安息香酸) 、4-ヒドロキシ安息香酸 (p-ヒドロキシ安息香酸) の3つです。

特に、2-ヒドロキシ安息香酸は、消炎鎮痛作用があり、「サリチル酸 (salicylic acid)」の慣用名で知られます。CAS登録番号は、順にサリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸) 69-72-7、3-ヒドロキシ安息香酸 99-06-9 、4-ヒドロキシ安息香酸99-96-7です。

ヒドロキシ安息香酸の使用用途

ヒドロキシ安息香酸のうち、サリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸) は、消炎鎮痛作用、皮膚の角質軟化作用があることから、皮膚疾患用剤として承認されている医薬品です。剤形は、絆創膏、軟膏、液剤などがあります。絆創膏としての主な効能は、疣贅・鶏眼・胼胝腫の角質剥離です。軟膏・液剤の効能は、乾癬、白癬、角化症、角化を伴う湿疹、アトピー性皮膚炎、挫瘡などが挙げられます。

それ以外では、有機合成の原料として使用されることもある物質です。また、4-ヒドロキシ安息香酸は生体内ではユビキノン合成などの中間体であり、動物、植物、微生物を含め幅広い生物に含まれます。サリチル酸も植物に広く含まれている物質です。このような背景から、研究開発において、培養工学用試薬、植物組織培養、植物生長制御試薬、生長阻害剤などに用いられることもあります。

ヒドロキシ安息香酸の特徴

1. サリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸)

サリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸) の基本情報

図2. サリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸) の基本情報

サリチル酸 (Salicyric acid) は、融点159℃、沸点211℃であり、常温では無色の針状結晶です。密度は1.443g/cm3、酸解離定数pKaは2.97です。エタノール、エーテル、アセトンに溶けやすく、水に溶けにくい物質です。

サリチル酸の合成方法 (コルベ・シュミット反応)

図3. サリチル酸の合成方法 (コルベ・シュミット反応)

サリチル酸の合成方法は、コルベ・シュミット反応として知られています。この反応は、アルカリ金属のフェノキシドに高温・高圧で二酸化炭素を作用させてオルト位をカルボキシル化させた後、酸による中和後にサリチル酸を得る反応です。

2. 3-ヒドロキシ安息香酸

3-ヒドロキシ安息香酸は、融点201-205℃であり、常温では白色から淡黄色の結晶性粉末もしくは粉末です。エタノールやアセトン、エーテル、熱水に溶けやすく、冷水に溶けにくい性質です。3-ヒドロキシ安息香酸は、グラム陰性桿菌の一種であるシュードモナス属においては3-クロロ安息香酸から合成されています。

3. 4-ヒドロキシ安息香酸

4-ヒドロキシ安息香酸は、融点214-217℃であり、常温では白色からほとんど白色の結晶性粉末または粉末です。密度は1.443g/cm3です。エタノール及びアセトンに容易に溶けますが、水やクロロホルムに溶けにくい性質です。

工業的には、4-ヒドロキシ安息香酸はカリウムフェノキシドと二酸化炭素から製造されています。実験室的製法では、サリチル酸カリウムと炭酸カリウムを230℃に加熱して反応後に酸で処理する方法が一般的です。

また、4-ヒドロキシ安息香酸のエステルはパラベンと呼ばれ、保存料として用いられる物質です。

ヒドロキシ安息香酸の種類

ヒドロキシ安息香酸には、前述の通り3つの位置異性体があります。どれも、研究開発用試薬として製品化されており、販売されています。25g , 100g , 500gなどの実験室で取り扱いやすい容量での提供です。

3つの異性体のうち、サリチル酸については、皮膚疾患用剤として認可され、販売されている医薬品です。日本薬局方サリチル酸の他、10%サリチル酸軟膏や液剤、サリチル酸含有絆創膏などの製品があります。様々なメーカーから製品が発売されている薬品です。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/19013250.pdf

ニトロトルエン

ニトロトルエンとは

ニトロトルエン (Nitrotoluene, NT) とは、トルエンのフェニル基上の水素がニトロ基で置換されている有機化合物です。

通常、「ニトロトルエン」と呼ぶ場合には、ニトロ基が一つのものを指します (ニトロ基が複数個の場合は、ジニトロトルエン、トリニトロトルエン…のようになります)。そのため、別名にモノニトロトルエン (Mononitrotoluene, MNT) 、メチルニトロベンゼン (Methylnitrobenzene) などがあります。

示性式CH3(C6H4)NO2、分子式C7H7NO2で表され、分子量は137.136です。置換基の位置によって3種類の位置異性体があります。具体的には、2-ニトロトルエン (o-ニトロトルエン)、3-ニトロトルエン (m-ニトロトルエン)、4-ニトロトルエン (p-ニトロトルエン) の3つの化合物です。

CAS登録番号は、2-ニトロトルエンが88-72-2、3-ニトロトルエンが99-08-1、4-ニトロトルエンが99-99-0です。

ニトロトルエンの使用用途

ニトロトルエンは3つの異性体とも、有機合成材料・有機合成中間体として使用されています。特に、4-ニトロトルエンは、4トルイジン、2,4-ジニトロトルエン、2,4,6-トリニトロトルエン、p-ニトロトルエン‐o‐スルホン酸などの中間体に用いることが可能です。

それ以外では、2-ニトロトルエンは、染料中間体 (トルイジン、マゼンタ) に用いられたり、Pseudomonas (シュードモナス) 菌株ClS1の培養培地における窒素サプリメントとして使用されたりする場合があります。

また、ニトロトルエンを更にニトロ化することにより、爆薬の成分であるトリニトロトルエンを合成できます。

ニトロトルエンの特徴

1. 2-ニトロトルエン

2-ニトロトルエンの基本情報

図1. 2-ニトロトルエンの基本情報

2-ニトロトルエンは、トルエンの2位、すなわちオルト位がニトロ基で置換されている化合物です。融点-4〜-3℃、沸点225℃、密度1.163g/cm3であり、常温では芳香を呈する黄色の液体です。pHは6 – 8、水への溶解度は0.65 g/L (20°C) です。

引火性のある液体のため、火災や爆発の危険性があります。消防法では、第4類引火性液体・第三石油類・非水溶性液体に指定されています。

2. 3-ニトロトルエン

3-ニトロトルエンの基本情報

図2. 3-ニトロトルエンの基本情報

3-ニトロトルエンは、トルエンの3位、すなわちメタ位がニトロ基で置換されている化合物です。融点14-16℃、沸点230-231℃、密度1.157g/cm3であり、常温では特徴的な臭気を呈する黄色の液体です。水への溶解度は0.419g/L (20°C)です。

引火性のある液体のため、火災や爆発の危険性があります。消防法では、第4類引火性液体・第三石油類・非水溶性液体に指定されています。

3. 4-ニトロトルエン

4-ニトロトルエンの基本情報

図3. 4-ニトロトルエンの基本情報

4-ニトロトルエンは、トルエンの4位、すなわちパラ位がニトロ基で置換されている化合物です。融点52-54℃、沸点238℃、密度1.392g/cm3であり、常温では淡黄色の結晶性固体です。水への溶解度は0.345g/L (20°C)です。

ニトロトルエンの種類

前述の通り、ニトロトルエンには3種類の位置異性体が存在します。どの化合物も研究開発用の試薬製品として、一般販売されています。

容量の種類には、5mL・100mL (2-ニトロトルエン) 、100g (3-ニトロトルエン) 、100g・1kg (4-ニトロトルエン) などの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。室温で保管可能な試薬として取り扱われます。

ニトロトルエンのその他情報

ニトロトルエンの合成

ニトロトルエンは、トルエンを混酸でニトロ化することで合成できます。通常のニトロ化条件では、2-ニトロトルエン58%、4-ニトロトルエン38%、3-ニトロトルエン4%の比率で得られるとの報告があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/88-72-2.html

ナトリウムアミド

ナトリウムアミドとは

ナトリウムアミド (英: Sodium amide) とは、N-Na 結合がポリマー状に連続している無機化合物です。

アンモニアのような臭いで、融点は210℃、約500℃で分解します。化学式はNaNH2で表され、化学合成では主に強塩基として使用されています。モル質量は30.01でCAS番号は7782-92-5です。別名「ソーダミド」とも呼ばれています。常温では、固体で存在しており、純度の高いものは無色、純度が下がると灰色をしています。

市販で発売されているナトリウムアミドは、不純物として鉄が入っているため、灰色に見えますが、品質に影響はありません。潮解性があり、空気中の酸素によって加水分解され、亜硝酸ナトリウムへと変化します。また、光によって変質するおそれがあることから保存には注意が必要です。

ナトリウムアミドの使用用途

化学合成においては求核性が低いことから、求核攻撃を避けたい場面などにおいて使用できるような強塩基として用いられています。しかし、通常の有機溶媒に対する溶解度が低いため、主に液体アンモニアを溶媒とする反応を中心に使用されることが特徴です。

具体的には、アセチレンを脱プロトンして、アセチレンを求核材として使うことで炭素-炭素結合を形成する反応に用いられます。この反応は、合成したアセチレンを還元することでアルカンやアルケンを合成でき、加水分解することでカルボニル化合物を合成することも可能です。

また、ベンザイン反応ではナトリウムアミドの塩基性を利用してベンゼン環から水素を引き抜き、ベンザインとすることでベンゼン環上の置換基を交換します。他には、アルキルケトンの合成、ピリジン環の窒素原子に隣接した炭素にアミノ基を導入するチチバビン反応に用いられることもあります。

有機溶媒中で行われる反応はリチウムジイソプロピルアミド (LDA) などが用いられることが多いです。塩基としての使用以外では、縮合剤や有機分子の還元剤にも使用されています。

他の用途として、インディゴやヒドラジンシアン化ナトリウムの原料としての使用が挙げられます。インディゴは、染料であり、デニムやジーンズを染め上げる時に使用されてきました。ナトリウムアミド単体で使用する場合は、アンモニア中の微量な水分を除く乾燥剤、脱水剤としても使用されます。2018年には、塩化物とナトリウムアミドを混合すると瞬間的な昇温反応によって酸窒化物を合成できるという反応が報告されました。

ナトリウムアミドの構造

ナトリウムアミドの結晶構造は、窒素原子とナトリウム原子が交互にポリマー状に連続していて、斜方晶系の構造となっています。

一つのナトリウム原子に四つの窒素原子が配位した構造になっており、液体アンモニアに溶解させると導電性を示します。液体アンモニアにナトリウムアミドを溶かしたものをアンモノ塩基と言います。アンモノ塩基は、マグネシウム、亜鉛、モリブデンなどの金属や、ガラスなどを溶かすことが特徴です。

ナトリウムアミドの性質

ナトリウムアミドは、金属ナトリウムと気体アンモニアから合成することができますが、通常は硝酸鉄 (III) を触媒として液体アンモニアから合成します。38という高い酸解離定数 (pKa) を持っているため強塩基です。

ナトリウムアミドのその他情報

ナトリウムアミドの刺激性

主な国内法規には該当しませんが、強塩基化合物のため強い刺激性を持ち、皮膚に付着すると炎症を起こします。取り扱う際には、必ず白衣と保護メガネ、手袋の着用を行うようにしましょう。

また、水に触れると激しく反応し、水酸化ナトリウムと有毒な気体であるアンモニアを発生させるため、乾燥した環境下で保存することが必要です。特に水分に触れることによって火が発生する事故が過去にも発生しているため、注意しなければいけません。30℃以上で保存するのが良いとされています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-1194JGHEJP.pdf

トルエンスルホン酸

トルエンスルホン酸とは

トルエンスルホン酸の異性体

図1. トルエンスルホン酸の異性体

トルエンスルホン酸 (Toluenesulfonic acid) とは、化学式C7H8O3Sで表される芳香族スルホン酸です。

トルエンの芳香環の水素が、1つスルホン酸で置換された構造をしています。原理上はo-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸がの3つの異性体が存在しますが、トルエンがo (オルト)、p (パラ) 配向性であり、かつ、オルト体の場合は立体障害が大きく不利であるため、一般的にはp-トルエンスルホン酸のことを指します。

以下においても、特記しない限りp-トルエンスルホン酸について記述します。

p-トルエンスルホン酸の基本情報

図2. p-トルエンスルホン酸の基本情報

通称は「トシル酸 (Tosic acid) 」であり、略称にはPTSA、TSA、TsOHなどがあります。潮解性があり、吸湿しやすい性質があるため多くは一水和物として市販されています。

CAS登録番号は104-15-4 (無水物)、6192-52-5 (一水和物) です。分子量172.20、融点は106-107℃ (無水物)/ 103-106℃ (一水和物) であり、常温では無色または白色の固体です。

水に溶けやすく、エタノール、エーテルにも溶解します。潮解性や光によって変質する性質を持つので、保存する際は日光や湿気などを入れないように注意が必要です。

トルエンスルホン酸の使用用途

トルエンスルホン酸は、合成化学の分野では、医薬品の合成原料や農薬、染料、塗料などの中間体、樹脂の硬化剤原料の他、汎用酸触媒として広く使用されます。

また、親水基 (スルホン酸) と疎水基 (トルエン) の両方を有していることから、界面活性剤としての作用があります。合成洗剤の可溶化剤として用いることにより、成分が均一に混ざるのを助け、配合安定性を向上させるのに役立っている物質です。

トルエンスルホン酸の特徴

トルエンスルホン酸の水溶液は強酸性を示します。p-トルエンスルホン酸の酸解離定数pKaは-2.8です。有機合成においては、酸触媒として多用されます。p-トルエンスルホン酸が有機溶媒に可溶な強酸であり、共役塩基の陰イオンの求核性が低いことなどの特徴を有するためです。

また、p-トルエンスルホン酸のナトリウム塩に対して、五塩化リンを作用させると塩化パラトルエンスルホニルが得られます。アルコールのヒドロキシ基を求核置換する場合に、ヒドロキシ基をいったんパラトルエンスルホン酸エステル (トシラート) に変換し、それから求核剤を作用させてトシル基と望みの求核種を置き換える経路が用いられる場合があります。

これは、パラトルエンスルホナートアニオンが優れた脱離基であるためです。

トルエンスルホン酸の種類

トルエンスルホン酸には、前述の通りo-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸の3種類があります。o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸は僅かに流通しているのみで、基本的にはp-トルエンスルホン酸がが主流です。製品には、研究開発用の試薬製品や工業用薬品などがあります。

研究開発用試薬製品は、主にp-トルエンスルホン酸一水和物として販売されています。容量の種類には25 g , 100g , 500g , 1kg , 5 kgなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。

工業用薬品では、一水和物 (固体) 、水溶液 (70%など)、メタノールやエーテル溶液などの種類があります。固体製品では20kg (紙袋)、60kg (ドラム缶) 、200〜230kg (フレキシブルコンテナバッグ) などの容量の製品があり、液体製品はタンクローリー、コンテナ、ケミカルドラムなどの荷姿での提供です。工場等のニーズに合わせた大容量での提供となっています。

トルエンスルホン酸のその他情報

トルエンスルホン酸の合成

p-トルエンスルホン酸の合成

図3. p-トルエンスルホン酸の合成

トルエンスルホン酸は、トルエンを、濃硫酸あるいは発煙硫酸の作用によりスルホン化させることにより合成されます。主生成物はパラ体ですが、副生成物であるオルト体は、サッカリンの原料となります。主な不純物はベンゼンスルホン酸、硫酸です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-1340JGHEJP.pdf

トリメチルアミン

トリメチルアミンとは

トリメチルアミンとは、アンモニアの3つの水素がメチル基に置換されたメチルアミンの一種です。

特定悪臭物質に分類され、非常に強烈な魚の臭いがする常温で気体の有機化合物です。別名として、N,N-ジメチルメタンアミンなどがあります。

トリメチルアミンの使用用途

トリメチルアミンは、多くのものに使用されていますが、一般的に気体の状態ではなく、水に溶かして30~40%程度の水溶液状態で使用されることが多いです。水との溶解性は高く、水とは任意の比率で混和します。

具体的には、イオン交換樹脂の原料や塩化コリン、繊維油剤、逆性せっけん、医薬品の原料として使用されます。また、身近なものでは、するめいか、にしん、ぼらなどの脂肪分の少ない魚の加工品、すずき等の生魚の食品中に元から存在しており、欧米においては、菓子類、肉製品、冷凍乳製品、清涼飲料等の様々な食品に香り付け、風味の向上を目的に食品添加物として使用されることも多いです。

日本国内での扱いは、食品衛生法において添加物として使用することは差し支えないが、香りを付ける目的以外には使用してはならないとされています。

トリメチルアミンの特徴

トリメチルアミンの構造式は (CH3)3Nで、構造式からもわかるように、アンモニア (NH3) の水素がすべてメチル基に置換された構造をしています。分子量は59.11、密度が0.67g/ml (0℃) 、融点が-117.1℃、沸点が2.9℃であり、常温で無色透明の気体です。

極めて可燃性、引火性の高いガスで、吸入や付着による有害性も認められている物質です。トリメチルアミンは、強烈な魚の臭いであることが特徴ですが、アルカリ物質であるため、酸性のものと反応させると無臭化できることも知られており、アミン系の悪臭には酸性の消臭剤を使用することが一般的です。

悪臭防止法の規制対象であり、特定悪臭物質に登録されています。特定悪臭物質とは不快な臭いの原因となり、生活環境を損なうおそれのある物質です。現在、22物質しか指定されていないことから、その臭いの強さが分かると思います。

トリメチルアミンのその他情報

1. トリメチルアミンの製造方法

トリメチルアミンは、最も基本的な第3級アミンで、工業的にはメタノールアンモニアを脱水触媒の存在下で反応させて製造します。

1. メチルアミンの合成
まずは、メタノールとアンモニアの混合物を、1.0~2.1MPaの加圧下で、アルミナなどの脱水触媒に450~500℃で通し、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンの3種類のメチルアミンの混合物を合成します。

  • モノメチルアミンの生成
    CH3OH + NH3 → CH3NH2 + H2O
  • ジメチルアミンの生成
    2CH3OH + NH3 → (CH3)2NH2 + 2H2O
  • トリメチルアミンの生成
    3CH3OH + NH3 → (CH3)3NH2 + 3H2O

2. 脱水・蒸留によるトリメチルアミンの分離
生成物を加圧下で蒸留して、原料のメタノールと生成した水を分離した後、アンモニアとトリメチルアミンの共沸混合物を留出させることで、モノメチルアミンとジメチルアミンを分離させます。最後に、アンモニアとトリメチルアミンの共沸混合物を抽出蒸留してトリメチルアミンを回収します。

2. トリメチルアミンの安全性

トリメチルアミンはガスまたは水溶液として販売、利用されており、性状だけでなく、安全性や適用法規が異なります。水溶液でも引火性は高く、消防法で「第4類引火性液体・第一石油類・水溶性液体」に該当します。同様に労働安全衛生法、船舶安全法、航空法においても引火性液体となっています。

ガス、水溶液に共通する点としては、両方とも悪臭防止法の特定悪臭物質に該当します。また、燃焼すると分解して有毒ガスである亜酸化窒素を生成します。

その他、以下のような危険性があるため、取扱いには注意が必要です。

  • 強酸化剤、酸、酸化エチレンと激しく反応する。
  • アルミニウム亜鉛に対して腐食性を示す。
  • 水銀との反応で衝撃に敏感な化合物を生成する。
  • 亜硝酸塩や硝酸と反応して、極めて有毒なニトロソアミンを生成する

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0867.html

トリプロピレングリコール

トリプロピレングリコールとは

トリプロピレングリコールとは、グリコールの一種で、分子内に水酸基 (-OH) を2つ有する化合物です。

自然界には存在せず人工的に合成されて作られます。トリプロピレングリコールの分子構造に類似している物質として、プロピレングリコールまたはジプロピレングリコールが挙げられます。トリプロピレングリコールは、ジプロピレングリコールに対してさらにプロピレンが結合したような分子構造を有します。

トリプロピレングリコールは、常温で液体であり無色透明です。引火性のある液体であるため、火気から遠ざける必要があります。消防法では、第4類引火性液体、第三石油類水溶性液体に該当します。

トリプロピレングリコールの使用用途

トリプロピレングリコールの使用用途は、各種ポリウレタンや各種アクリル酸エステルの中間体原料、塗料やインキの溶剤、不凍液、ポリエステル樹脂の中間原料などです。トリプロピレングリコールは、別の化合物を合成するための原料としても使用されます。トリプロピレングリコールが出発原料となって合成される化合物として、トリプロピレングリコールジアクリレートなどが挙げられます。

他にもトリプロピレングリコールは、プロピレングリコールまたはジプロピレングリコールと同様に、化粧品原料として使用されます。トリプロピレングリコールは、保湿や防腐を目的として使用される場合が多いプロピレングリコールと異なり、保水性または乳化安定性の効果を発揮させる目的で使用されます。

トリプロピレングリコールは、比較的安全性が高く毒性が低い物質ですが、アルコール過敏症の方などが使用するとまれに皮膚トラブルが発生する場合があるため注意が必要です。

トリプロピレングリコールの特徴

トリプロピレングリコールの特徴は、分子内に水酸基 (-OH) およびエーテル基 (-O-) の両方を有するため、比較的親水性が高い点にあります。言い換えると、トリプロピレングリコールは極性の高い有機化合物です。そのため、油と水の中間のような性質を有しています。

トリプロピレングリコールは、水と完全に混ざり合って溶解します。アルコールなどの極性有機溶媒にも溶解しやすい物質です。極性が高いため、沸点は高く約270℃です。融点は-30℃以下であるため氷点下になっても固体にならず液体のままです。

トリプロピレングリコールの構造

トリプロピレングリコールは、3つのプロピレングリコールがエーテル結合を介して直列に結合したような構造です。具体的には、中間のプロピレングリコールの両端部の-OH基が、エーテル結合となって残りの2つのプロピレングリコールとそれぞれ結合しているような分子構造を有します。分子鎖の両端部にそれぞれ1つの-OH基があるためジオール類の一種です。

分子式で単純に示すとHO (C3H6O) 3Hとなりますが、カッコ内の部分は直鎖ではなく、一般的には分岐鎖です。より詳細に表記すると、CH3CHOHCH2OCH (CH3) CH2OCH (CH3) CH2OHとなります。分子鎖の両端部にそれぞれ-OHがあり、両端部の間には2つのエーテル結合が炭化水素を挟んで配置された分子構造です。

トリプロピレングリコールのその他情報

トリプロピレングリコールの製造方法

トリプロピレングリコールは、プロピレングリコールまたはジプロピレングリコールと同様に、一般的にはプロピレンオキサイドから製造されます。詳しくは、水の存在下でプロピレンオキサイドを開環させることによって得られます。この製造法ではプロピレングリコールが主産物として得られる一方で、トリプロピレングリコールは副産物として得られます。

したがって、トリプロピレングリコールは必ずしも多量に製造されているわけではありません。プロピレンオキサイドを3つだけ結合させるように反応が起こればトリプロピレングリコールを効率的に製造できますが、反応を完全に制御することは困難です。

例えば、2つのプロピレンオキサイドが結合したジプロピレングリコールも生成されてしまいます。トリプロピレングリコールだけを特異的に製造する方法も検討されていますが、まだ主流の製造方法になっていません。

参考文献
https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=1348&p_version=2
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/T0523

トリニトロベンゼン

トリニトロベンゼンとは

トリニトロベンゼンとは、ベンゼン硝酸硫酸の混合物を、非常に強い条件下で作用させることで生成される化合物です。

「TNB」と略される場合も多くあります。通常では、白色の結晶状態で存在しており、衝撃や熱が加えられると激しい爆発を起こす危険性があります。

トリニトロベンゼンの使用用途

トリニトロベンゼンは、主に爆薬・火薬として利用されます。急激に加熱をすることで爆発を起こせるためです。

また、同様の用途でよく使用されているものに、トリニトロトルエンがあります。トリニトロベンゼンは、トリニトロトルエンに比べて鈍感で爆発力が強いことが特徴です。

しかし、生産コストが高いため、トリニトロトルエンの方が広く一般的に使用されています。

トリニトロベンゼンの性質

トリニトロベンゼンは反応性が高く爆発しやすい物質です。実際に爆薬として使われることがあります。 このようなトリニトロベンゼンの性質は、ニトロ基によるものです。

同じく爆薬として有名なトリニトロトルエン (TNT) も3つのニトロ基をもち、トリニトロベンゼンと構造が非常に似ています。

図1. トリニトロトルエンの構造

1. ニトロ基

ニトロ基は強い電子吸引性を持ち、反応性が高い官能基です。多数のニトロ基を含むニトロ化合物は爆発性を持つものが多く存在します。

ニトロ化合物が爆発しやすいのは、ニトロ基の中の窒素と酸素の結合が不安定であるためです。窒素と酸素の結合は壊れやすく、分解したときに多くの熱が発生します。

ニトロ基が多く存在すると、一旦反応が始まれば連鎖的かつ急速に反応が進むため、爆発現象が発生します。

2. 窒素酸化物

窒素と酸素の結合が分解するときに熱を発生するのは、窒素と酸素の結合は周りの熱を吸収する吸熱反応だからです。常温では窒素と酸素は反応しませんが、高温の環境では周囲の熱を吸収して結合し窒素酸化物  (NOx) を生成します。

例えば、車のエンジン内でガソリンが燃えるときなどに窒素酸化物が発生するケースです。窒素酸化物は大気汚染や酸性雨の原因になるので、触媒などにより窒素に戻してから排気されます。

ニトロ基には、窒素と酸素が結合した際の高いエネルギーが詰まっているため、このエネルギーが一気に解放されると、爆発現象が起こります。

3. ベンゼン環

反応性が高いニトロ基を3つも含んだトリニトロベンゼンが存在できるのは、ベンゼン環が安定した基盤だからです。ベンゼン環は、有機化合物の分子構造の中で非常に安定性の高い構造をとっています。実際、ベンゼン環そのものが変化して別の構造に変化することは少ないです。

通常、炭素の2重結合は壊れやすく、1本の結合が開いて別の原子団と結合する付加結合が発生しやすいですが、ベンゼン環は特別な性質をもっているため、このような付加結合が起きにくくなっています。

実は、上図でベンゼン環の2重結合の内側に描かれている結合は2つの炭素原子間だけの結合ではなく、全体の結合です。ベンゼン環全体が電子を共有することでつながっています。そのため、ベンゼン環は壊れにくくなっています。

トリニトロベンゼンの構造

図2. トリニトロベンゼンの構造

トリニトロベンゼンはベンゼン環に3つのニトロ基 (NO2) が付加された 構造をしています。
それぞれのニトロ基はベンゼン環の炭素原子に1つ置きに結合しています。これをメタ結合といいます。

 

トリニトロベンゼンのその他情報

1. ベンゼン環の置換反応

ベンゼン環の炭素と結合している水素が別の官能基に置き換わる置換反応は比較的起きやすいため、トリニトロベンゼンのようにベンゼン環に多数の官能基が付加された化合物を生成することが可能です。

2. トリニトロベンゼンの製造方法

トリニトロベンゼンの製造

図3. トリニトロベンゼンの合成

工業的には、2,4,6-トリニトロ安息香酸を脱炭酸させて合成することで得られます。1,3,5-トリニトロトルエンを酸化し、1,3,5-トリニトロ安息香酸にした後、脱炭酸により1,3,5-トリニトロベンゼンとなります。

3. トリニトロベンゼンの安全性情報

消防法では、第5類自己反応性化学品、ニトロ化合物に該当します。また、労働安全衛生法法では、危険物・爆発性のものに該当しているため、取り扱いには注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1380.html