ヒドロキシ安息香酸とは
図1. ヒドロキシ安息香酸の化合物群
ヒドロキシ安息香酸 (Hydroxybenzoic acid) とは、安息香酸 (Ph-COOH) のフェニル基の水素が一つヒドロキシ基に置換されている化合物です。
化学式C7H6O3で表され、分子量は138.12です。ヒドロキシ基の位置によって3つの位置異性体があり、順に2-ヒドロキシ安息香酸 (o-ヒドロキシ安息香酸) 、3-ヒドロキシ安息香酸 (m-ヒドロキシ安息香酸) 、4-ヒドロキシ安息香酸 (p-ヒドロキシ安息香酸) の3つです。
特に、2-ヒドロキシ安息香酸は、消炎鎮痛作用があり、「サリチル酸 (salicylic acid)」の慣用名で知られます。CAS登録番号は、順にサリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸) 69-72-7、3-ヒドロキシ安息香酸 99-06-9 、4-ヒドロキシ安息香酸99-96-7です。
ヒドロキシ安息香酸の使用用途
ヒドロキシ安息香酸のうち、サリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸) は、消炎鎮痛作用、皮膚の角質軟化作用があることから、皮膚疾患用剤として承認されている医薬品です。剤形は、絆創膏、軟膏、液剤などがあります。絆創膏としての主な効能は、疣贅・鶏眼・胼胝腫の角質剥離です。軟膏・液剤の効能は、乾癬、白癬、角化症、角化を伴う湿疹、アトピー性皮膚炎、挫瘡などが挙げられます。
それ以外では、有機合成の原料として使用されることもある物質です。また、4-ヒドロキシ安息香酸は生体内ではユビキノン合成などの中間体であり、動物、植物、微生物を含め幅広い生物に含まれます。サリチル酸も植物に広く含まれている物質です。このような背景から、研究開発において、培養工学用試薬、植物組織培養、植物生長制御試薬、生長阻害剤などに用いられることもあります。
ヒドロキシ安息香酸の特徴
1. サリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸)
図2. サリチル酸 (2-ヒドロキシ安息香酸) の基本情報
サリチル酸 (Salicyric acid) は、融点159℃、沸点211℃であり、常温では無色の針状結晶です。密度は1.443g/cm3、酸解離定数pKaは2.97です。エタノール、エーテル、アセトンに溶けやすく、水に溶けにくい物質です。
図3. サリチル酸の合成方法 (コルベ・シュミット反応)
サリチル酸の合成方法は、コルベ・シュミット反応として知られています。この反応は、アルカリ金属のフェノキシドに高温・高圧で二酸化炭素を作用させてオルト位をカルボキシル化させた後、酸による中和後にサリチル酸を得る反応です。
2. 3-ヒドロキシ安息香酸
3-ヒドロキシ安息香酸は、融点201-205℃であり、常温では白色から淡黄色の結晶性粉末もしくは粉末です。エタノールやアセトン、エーテル、熱水に溶けやすく、冷水に溶けにくい性質です。3-ヒドロキシ安息香酸は、グラム陰性桿菌の一種であるシュードモナス属においては3-クロロ安息香酸から合成されています。
3. 4-ヒドロキシ安息香酸
4-ヒドロキシ安息香酸は、融点214-217℃であり、常温では白色からほとんど白色の結晶性粉末または粉末です。密度は1.443g/cm3です。エタノール及びアセトンに容易に溶けますが、水やクロロホルムに溶けにくい性質です。
工業的には、4-ヒドロキシ安息香酸はカリウムフェノキシドと二酸化炭素から製造されています。実験室的製法では、サリチル酸カリウムと炭酸カリウムを230℃に加熱して反応後に酸で処理する方法が一般的です。
また、4-ヒドロキシ安息香酸のエステルはパラベンと呼ばれ、保存料として用いられる物質です。
ヒドロキシ安息香酸の種類
ヒドロキシ安息香酸には、前述の通り3つの位置異性体があります。どれも、研究開発用試薬として製品化されており、販売されています。25g , 100g , 500gなどの実験室で取り扱いやすい容量での提供です。
3つの異性体のうち、サリチル酸については、皮膚疾患用剤として認可され、販売されている医薬品です。日本薬局方サリチル酸の他、10%サリチル酸軟膏や液剤、サリチル酸含有絆創膏などの製品があります。様々なメーカーから製品が発売されている薬品です。