トルエンスルホン酸とは
図1. トルエンスルホン酸の異性体
トルエンスルホン酸 (Toluenesulfonic acid) とは、化学式C7H8O3Sで表される芳香族スルホン酸です。
トルエンの芳香環の水素が、1つスルホン酸で置換された構造をしています。原理上はo-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸がの3つの異性体が存在しますが、トルエンがo (オルト)、p (パラ) 配向性であり、かつ、オルト体の場合は立体障害が大きく不利であるため、一般的にはp-トルエンスルホン酸のことを指します。
以下においても、特記しない限りp-トルエンスルホン酸について記述します。
図2. p-トルエンスルホン酸の基本情報
通称は「トシル酸 (Tosic acid) 」であり、略称にはPTSA、TSA、TsOHなどがあります。潮解性があり、吸湿しやすい性質があるため多くは一水和物として市販されています。
CAS登録番号は104-15-4 (無水物)、6192-52-5 (一水和物) です。分子量172.20、融点は106-107℃ (無水物)/ 103-106℃ (一水和物) であり、常温では無色または白色の固体です。
水に溶けやすく、エタノール、エーテルにも溶解します。潮解性や光によって変質する性質を持つので、保存する際は日光や湿気などを入れないように注意が必要です。
トルエンスルホン酸の使用用途
トルエンスルホン酸は、合成化学の分野では、医薬品の合成原料や農薬、染料、塗料などの中間体、樹脂の硬化剤原料の他、汎用酸触媒として広く使用されます。
また、親水基 (スルホン酸) と疎水基 (トルエン) の両方を有していることから、界面活性剤としての作用があります。合成洗剤の可溶化剤として用いることにより、成分が均一に混ざるのを助け、配合安定性を向上させるのに役立っている物質です。
トルエンスルホン酸の特徴
トルエンスルホン酸の水溶液は強酸性を示します。p-トルエンスルホン酸の酸解離定数pKaは-2.8です。有機合成においては、酸触媒として多用されます。p-トルエンスルホン酸が有機溶媒に可溶な強酸であり、共役塩基の陰イオンの求核性が低いことなどの特徴を有するためです。
また、p-トルエンスルホン酸のナトリウム塩に対して、五塩化リンを作用させると塩化パラトルエンスルホニルが得られます。アルコールのヒドロキシ基を求核置換する場合に、ヒドロキシ基をいったんパラトルエンスルホン酸エステル (トシラート) に変換し、それから求核剤を作用させてトシル基と望みの求核種を置き換える経路が用いられる場合があります。
これは、パラトルエンスルホナートアニオンが優れた脱離基であるためです。
トルエンスルホン酸の種類
トルエンスルホン酸には、前述の通りo-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸の3種類があります。o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸は僅かに流通しているのみで、基本的にはp-トルエンスルホン酸がが主流です。製品には、研究開発用の試薬製品や工業用薬品などがあります。
研究開発用試薬製品は、主にp-トルエンスルホン酸一水和物として販売されています。容量の種類には25 g , 100g , 500g , 1kg , 5 kgなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。
工業用薬品では、一水和物 (固体) 、水溶液 (70%など)、メタノールやエーテル溶液などの種類があります。固体製品では20kg (紙袋)、60kg (ドラム缶) 、200〜230kg (フレキシブルコンテナバッグ) などの容量の製品があり、液体製品はタンクローリー、コンテナ、ケミカルドラムなどの荷姿での提供です。工場等のニーズに合わせた大容量での提供となっています。
トルエンスルホン酸のその他情報
トルエンスルホン酸の合成
図3. p-トルエンスルホン酸の合成
トルエンスルホン酸は、トルエンを、濃硫酸あるいは発煙硫酸の作用によりスルホン化させることにより合成されます。主生成物はパラ体ですが、副生成物であるオルト体は、サッカリンの原料となります。主な不純物はベンゼンスルホン酸、硫酸です。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-1340JGHEJP.pdf