溝加工

溝加工とは

溝加工とは、部品の設計通りに材料に溝を彫る加工方法です。

溝加工の主な目的は、部品同士を固定するために必要な形状を設けたり、軽量化や材料削減のため、部品の形状を調整し、製造コストの削減に繋げることなどです。溝加工は、機械部品の性能や機能性を向上させるための重要な加工技術であり、その用途は産業機械、自動車、航空宇宙、電子機器など多岐にわたり、設計や用途に応じた精密な加工が求められます。また、加工対象の材料は金属だけではなく、樹脂、木材など多岐にわたり、幅広い用途で使用されています。

溝加工の使用用途

溝加工の使用用途は多岐にわたり、主に以下のような目的で活用されています。それぞれの用途に応じて、加工される溝の形状や寸法が設計されます。正確で精密な溝加工は、製品の性能と信頼性に直結するため、多くの産業分野での技術革新に貢献しています。

1. 確実な動力伝達

溝加工は、部品間で確実に動力を伝達するために重要な形状を加工するために使われます。例えば、キー溝のような軸と回転部品をしっかりと結合させる溝を加工するために使われます。この加工が精密に行われることで、部品同士の摩耗や力の損失を最小限に抑え、機械全体の性能と耐久性を向上させます。

2. シール性の確保

溝加工は、流体やガスの漏れを防ぐための密閉性 (シール性) を高める目的でも使用されます。例えば、Oリングやパッキンを設けるための溝を加工することで、配管やバルブの接合部での流体の漏れを防ぎます。適切な溝加工により、密閉性能を長期間にわたり維持することが可能になります。

3. 加工・組立精度の向上

溝加工は、部品の組み立てや位置決めの精度を向上させるためにも使用されます。ガイド溝や基準溝を加工することで、部品同士のズレを防ぎ、正確な位置に取り付けることが可能となります。

4. メンテナンス・維持管理コストの低減

溝加工による設計は、機械のメンテナンスや維持管理のコストを削減する効果があります。例えば、航空機のジェットエンジンに使用されるブレードには溝加工が施されています。消耗したブレードを交換する際に、全てを交換するのではなく、損傷の大きな箇所のみを追加工することで、交換コストを抑えることができます。

溝加工の原理

溝加工は、様々な工具を使用して材料の表面に溝を形成する加工方法です。この加工は、対象物の形状や寸法に応じた切削技術を活用して行われます。工作機械や専用工具を用いて材料の一部を除去することで、必要な溝を形成します。溝加工は単なる材料を削るだけの加工方法ではなく、目的に応じた技術の選択が求められる高度な加工です。

溝加工の種類

図2. 溝加工形状の例

溝加工には、用途や目的に応じてさまざまな種類があります。これらの加工技術を適切に組み合わせることで、設計で意図した性能が発揮できるようになります。以下に代表的な溝加工の種類とその特徴を説明します。

1. キー溝加工

キー溝加工とは、回転軸と歯車などの部品を固定し、動力を確実に伝達するための溝を形成する加工です。この溝に「キー」と呼ばれる部品を挿入することで、軸と部品が回転時に一体化し、滑りを防ぎます。キー溝は、ブローチ盤、フライス盤、または専用のCNCマシンを用いて加工されます。機械や自動車の部品で広く採用されている重要な技術です。

2. T溝加工

T溝加工は、工作機械や装置のテーブル上に、工具や治具を固定するために用いられる溝を加工するものです。溝の形状が「T」の字に似ているため、この名称が付けられています。主にフライス盤やCNC加工機を使って加工されます。

3. スプライン加工

スプライン加工とは、軸や穴の内側に複数の溝を等間隔で加工する方法で、主に動力を効率よく伝達するために使用されます。キー溝に比べて、篏合 (かんごう) 時の強度が大きく、より大きな動力を伝達したいときに使用されます。

4. インボリュートスプライン加工

インボリュートスプライン加工は、歯車のような「インボリュート曲線」を持つ溝を加工する方法です。この特殊な溝形状により、高い精度で動力伝達を行うことができます。特に、精密な動力伝達や負荷のかかる機械部品に用いられることが多く、歯車の加工などに用いられます。

5. ブローチ加工

ブローチ加工は、長い切削工具 (ブローチ) を素材に挿入して溝を形成する加工方法です。ブローチを使用すると一度の動作で高精度な溝を形成できるため、大量生産に向いています。特にキー溝や内径に溝を設ける際に使用され、自動車部品や産業用機械部品などの製造で重要な役割を担っています。

6. Oリングの溝加工

Oリングの溝加工はピストンリングやOリングなどを組み込むための溝を形成する加工方法です。シール性の確保などを目的に、使用されるピストンリングやOリング (O文字形状のゴム) の形状に合わせて溝を形成します。

精密加工

精密加工とは

精密加工

精密加工とは、マイクロメートル (μm: 10-6m) レベルの精度で行われる加工技術です。

精密加工は現代社会において欠かせない技術の一つです。その大部分の工程が機械により自動化されており、精密機械加工とも呼ばれます。特に精密さが求められる部品の場合、ナノメートル (nm: 10-9m) レベルでの超精密加工が必要です。精密加工技術は製品の小型化や高性能化とともに進化を続け、幅広い分野で重要な役割を果たしています。

精密加工の使用用途

精密加工は、主に自動車や半導体、IT、医療、宇宙産業など幅広い分野で欠かせない技術です。

1. 自動車業界

自動車業界では、エンジン部品やトランスミッションのギア、クランクシャフトなどの製造に精密加工が求められます。動力の伝達ロスを極力抑え、長期間にわたる性能の維持が求められるからです。

2. IT業界

IT関連の装置や機器では、プリント基板、光学レンズ、精密コネクタなどの部品製造に精密加工が欠かせません。これらの部品には高い寸法精度と加工品質が求められるからです。

3. 航空業界

航空機エンジンの部品製造では、極限環境に耐える必要があります。耐熱性や高い寸法精度を実現するために精密加工が不可欠です。

精密加工の原理

精密加工にはホーニング加工、ラッピング加工、放電加工、レーザー加工、ワイヤーカット、プラズマ加工、溶射加工が存在します。各加工についてそれぞれ原理を説明します。

1. ホーニング加工

ホーニング加工は、砥石を使用して材料の表面を研削し、高精度な仕上げを実現する手法です。対象に一定の圧力を加えながら砥石を往復させ、微小な凹凸を均一化して寸法精度や表面粗さを向上させます。エンジンシリンダーや油圧シリンダーなどの内面仕上げに適用されます。

2. ラッピング加工

ラッピング加工は、加工面に磨耗剤を塗布し、加工対象物を研磨面に押し付けながら動かして表面を仕上げる方法です。切削ではなく摩耗による微細な材料除去を利用します。加工面の滑らかさと寸法精度を追求するため、レンズや半導体基板、光学部品などに使用されます。

3. 放電加工

放電加工は、導電性材料の表面にアーク放電を発生させ、放電による熱を利用して材料を加工する方法です。電極と対象物の間に間隔を設けて放電を起こし、非接触で材料を加工します。硬度の高い金属や複雑な形状にも対応でき、金型製作などに広く使用されます。

4. レーザー加工

レーザー光を一点に集中させ、その熱で材料を溶融させる非接触の加工法です。レーザー光の精密な制御により、熱影響を最小限に抑えながら複雑で微細な加工を実現します。金属、プラスチック、ガラスなど幅広い材料に対応します。

5. ワイヤーカット

ワイヤーカットは、導電性ワイヤーを電極として使用し、ワイヤーと材料の間で発生する放電現象を利用して材料を切断する方法です。放電による熱で材料が溶融し、その後冷却されて加工が進行します。ワイヤーは材料に直接触れず、高精度な切断が可能です。微細な形状や複雑なパターンの加工に適します。

6. プラズマ加工

プラズマ加工は、高温のプラズマを噴射して材料を切断する方法です。プラズマは電子とイオン化された粒子から構成され、高いエネルギーを持ちます。金属や厚い材料を切断できるため、表面処理や塗装前の下地処理にも活用されます。

7. 溶射加工

溶射加工は、金属やセラミックを熱源で溶融し、高圧で対象物に吹き付けて表面をコーティングする技術です。コーティング材が冷却する過程で密着し、耐摩耗性や耐腐食性を向上させます。航空部品やエンジン部品の表面処理に広く活用されます。

精密加工の選び方

精密加工の選び方は以下の手順で進めます。

1. 加工目的を明確にする

加工材料や要求精度、加工品の使用用途を明確にします。例えば建設機械のフレーム部品は剛性が求められるため、全体の構造が適切に組み合わさる程度の精度で問題ありません。一方で、半導体加工ではナノメートル (nm: 10-9m) レベルの精度が求められます。

2. 目的に合わせ加工種類を選ぶ

材料、要求精度、加工品の使用用途に合わせ加工手法を選びます。主な種類はホーニング加工、ラッピング加工、放電加工、レーザー加工、ワイヤーカット、プラズマ加工、溶射加工の7つです。

3. 外注か内製か判断する

コスト、技術力、納期を踏まえ外注するか、自社で内製するか判断します。精密加工における外注、内製の特徴は下記の通りです。

外注
高精度な加工技術が要求される場合に実用的です。精密加工に特化した外注業者は専用機械や高度なノウハウを持っており、自社で対応が難しい加工でも高品質な仕上がりが期待できます。試作品でスポット的に利用する際も外注が利用されます。

内製
長期的なコスト削減やノウハウを自社で蓄積できるため、将来的な競争力向上につながります。一方で、ノウハウがない状態で内製を始めると、多大な時間とコストがかかります。

ステンレス板加工

ステンレス板加工とは

ステンレス板加工

ステンレス板加工とは、ステンレスの板材に対しておこなう加工です。

ステンレス板の特性として、耐食性や耐熱性が挙げられます。その特性を活かし、例えばキッチンツールや医療器具、産業用設備等に用いられています。しかし、ステンレス板は、高硬度であることや、靱性 (外力が加わったときの変化割合) やスプリングバック (加工後に外力を除いたときの戻り) などの割合が大きいため加工が難しい材料です。

しかし、少しでも加工の難しさを解消するため、素材メーカーでは使用目的に合わせたステンレスの改良が進められています。

ステンレス板加工の使用用途

ステンレス板加工の使用用途は、キッチン用具、家電、インフラ、医療分野の製品の加工と多岐にわたります。ステンレス板の耐久性と美観が評価され、日常生活品から専門用品まで幅広く利用されており、目的に応じた加工が必要です。

ステンレス板を使った製品は、小さいものでは時計や携帯電話などの精密機器用部品、大きくなると洗濯機の脱水槽のドラムやオーブンレンジ、冷蔵庫など家電製品があります。さらに大きな製品では、流し台などの厨房関連製品があります。

また、建築資材もステンレス板加工により製作されており、具体的な製品は、建物の外装や屋根材、橋や道路のガードレール、エレベーターの内装などです。さらに、輸送機器関連や産業機器関連の製品もステンレス板加工により製作されています。

少し変わった分野では、医療分野が挙げられます。ステンレス板加工で製作される手術器具や診療用機器、病院の内装等は、衛生的な環境の維持が可能です。

ステンレス板加工の原理

ここでは、ステンレス加工の原理を「一般的な加工方法」と「微細な製品の加工方法」に分けて解説します。

1. 一般的な加工方法

ステンレス板加工は、さきほどの使用用途で述べたように大小の多岐にわたる製品の製造に使用されます。そのため、通常の金属板と同じように基本的な加工方法がおこなわれます。代表的なものは溶接加工や切断加工、曲げ加工、プレス加工などです。

切断加工や曲げ加工、プレス加工などの機械的な加工は刃物などの工具を使用して切る、曲げる、打ち抜くなどの加工をおこないます。溶接加工は、金属が熱で溶融する性質を利用した方法です。熱により溶融した金属を接合したい素材に接触させ、冷却固化させてステンレス板を溶着させます。

ステンレス板の材質であるステンレス鋼には、さまざまな種類があります。それぞれのステンレス鋼の特性により、好適な加工方法は異なるため注意が必要です。また、板厚が大きくなるにつれて加工が難しくなるため注意が必要です。

2. 微細な製品の加工方法

医療機器の部品などの微細な製品は切削加工や研削加工、研磨加工などの金属除去加工で製造されます。化学的な反応を利用したウェットエッチングでも加工可能です。切削加工などの機械的な加工方法を使用する場合は、一般的な加工方法と同様にステンレスの種類に応じて条件を精査する必要があります。

ステンレス板加工の種類

ステンレス板加工は、他の金属板と同様に切断加工や曲げ加工、溶接といった基本的な加工のほか、表面加工なども行われています。ステンレス板加工には以下のように主に4種類の加工があります。

1. 溶接加工

溶接加工はステンレス板を溶かしてつなげる加工です。ステンレス板を溶接する方法には、レーザー溶接、ガス溶接、被覆アーク溶接などがあります。手動でおこなう場合もありますが、ステンレスの部品同士を溶接で結合する際に用いられる溶接機も使用されています。アーク溶接の種類であるTIG溶接やMIG溶接などの方式があり、ステンレスの種類や目的に応じて選択が必要です。

2. 切断加工 (カット)

切断加工は、ステンレス板を切る加工です。グラインダーなどの工具を使用します。機械を用いてレーザー切断やウォータージェット切断などもおこなわれています。

3. 曲げ加工

曲げ加工はステンレス板を曲げる加工です。プレス機による曲げ加工が一般的です。プレス機は、ステンレス板に高い力をかけ、曲げ加工をします。プレス機では、金型を強い力で押しあてて打ち抜くことも可能です。プレス機は、製品の大量生産に適しています。

4. 表面処理

表面処理はステンレス板の表面に処理を施し、表面粗さや外観をコントロールする加工方法です。具体的な方法は、化学処理や熱処理、研磨、エンボス加工、エッチング加工、メッキ処理、塗装などです。研磨には、電解研磨、バレル研磨、バフ研磨、ヘアライン仕上げといった多くの処理が使われています。例えばヘアライン仕上げは、鏡面のようなステンレス板表面を加工して、高級感を出すことができます。

例えば、洗濯機の脱水槽はステンレス板にパンチング加工と表面処理をして製造されています。エスカレーターの乗降部に使われているステンレス板製品では、滑り止め防止の表面加工が施されています。

金属加工

金属加工とは

金属加工

金属加工とは、金属素材に対して行われる各種の加工です。

具体的な金属加工の例としては、工具や機械を用いた切断加工切削加工、および曲げ加工などがあります。また、非鉄金属を金型に流し込んで形を作る鋳造加工も金属加工の一部です。

さらに、金属加工には熱処理の焼入れ、焼き戻し、焼きなましに加え、表面処理としてメッキも広く含まれています。金属加工は、石材加工や木材加工と比較されることが多いです。

金属加工の使用用途

金属加工の使用用途はその形状によって、異なります。金属板を使用する場合、必要な寸法で切断し、プレスによる曲げ加工を行います。丸棒の金属素材の場合は、旋盤で必要な長さに切り落とし、切削加工で所定の形状に仕上げます。その後、ねじ切りが必要であればねじ切り加工を行うこともあり、切削加工や曲げ加工が施された半製品は、表面処理として熱処理やメッキなどを行い、完成です。

また、金属粉や粉末金属を使用する場合もあります。その場合、大きく分けて2つの用途が挙げられます。一つは3Dプリンタなどの粉末冶金に代用されるような、固めて形を作ることです。もう一つは、製品の表面コーティングに挙げられるように、金属粉末のまま使用します。

金属加工の原理

金属加工は、橋や船といった大規模な製造・加工から、ペンダントや指輪の製作・リフォームといった小規模なものまで、さまざまなスケールで可能です。そして、それぞれの分野には、特有の道具や技術、工程が存在します。

現代の自動車工場においては、自動化の製造ラインにおいて、巨大なプレス機械が数千トンの圧力をかけてロール状の鋼板を成形可能です。また、溶接ロボットが自動車のボディパーツを製造し、組み立てるなど、金属加工の応用技術です。

一方、研究部門等では研究者やエンジニアが金属部品を精密に加工しています。特定の部品を製作するために、コンピュータ制御の工作機械を用いて切削ビットを自動的に交換し、アルミニウムのブロックを削り出しも可能です。

金属加工の種類

金属加工の種類は、形状を形成するものと性質を変化させるものの2つに大別されます。

形状を形成する金属加工(成型加工)には、機械加工塑性加工、鋳造加工、その他の方法(溶接加工、粉末冶金加工、金属3Dプリンターなど)が含まれます。性質を変化させる金属加工の代表例は、熱処理や表面処理です。具体例な機械加工として、研削加工(円筒研削および平面研削)、切削加工(旋盤加工フライス加工)や、特殊加工(放電加工レーザー加工など)が挙げられます。塑性加工には、プレス加工、鍛造(自由鍛造および型鍛造)、転造などが含まれます。

鍛造はハンマーのような工具を用いて金属を叩く加工方法です。転造は棒状の工具で加工物を挟み込む手法です。鋳造には「砂型鋳造」とダイカストが挙げられます。熱処理の方法として焼入れ、焼戻し、焼きならし、焼きなまし、侵炭などが挙げられます。表面処理の代表的方法としては、メッキや化成処理(リン酸塩処理やクロメート処理など)です。

金属加工の選び方

金属加工には多様な種類が存在し、それぞれ異なる特徴を持っています。選択の仕方によって、同一の寸法や特性を持つ製品を作成する際に、時間やコストに差異が生じることがあります。各加工法の得意分野と不得意分野を理解し、適するものを選ぶ必要があります。

具体的に挙げると、鋳造は同一形状の製品を大量に効率的に生産することが可能ですが、寸法精度に相違が生じることがあります。その一方で、切削加工やプレス加工を繰り返すことにより、鋳造よりも高い寸法精度を維持することが可能です。納期のタイミングや製造期間を考慮しながら、適切な加工方法を選定する事が必要です。

材料費に関しては、コストが発生することもあり、検討が必要です。流通量が多い材料は単価が低下し、コストを抑えることが可能です。しかし、材料費が安価であっても、製品に適さない素材を選択すると、人件費や製造時間に余計なコストかかることがあります。また、3Dプリンタは効率的な加工が可能ですが、初期投資やランニングコストが発生します。

窒化ガリウム

窒化ガリウムとは

窒化ガリウム (英: Gallium nitride) とは、淡い灰色の粉末です。

化学式はGaNで、ガリウムと窒素の1:1の化合物であり、分子量は83.73、CAS登録番号は25617-97-4で表される半導体です。そのバンド構造において禁制帯のエネルギー幅が広いことから「ワイド・バンドギャップ半導体」とも呼ばれています。

主に青色発光ダイオードの材料として用いられています。また、近年ではパワー半導体やレーダーへの応用も期待されています。その性能の高さからシリコンに代わる「次世代の半導体」として注目されています。

窒化ガリウムの使用用途

窒化ガリウムは従来、青色LEDやレーザーダイオードの材料として広く用いられてきました。現在は、バンドギャップが3.4と高いため、Siのバンドギャップ1.1に対して、ワイドギャップ半導体と呼ばれています。

窒化ガリウムは、飽和ドリフト速度が高いことや破壊電界強度が高いことが特徴です。高耐圧化や低損失化、スイッチングスピードの高速化を可能とします。シリコン製のダイオードやトランジスタを窒化ガリウム機器へと置き換えることで、電力損失を小さくし、発熱量を減少させ、機器そのものを小型化することが可能です。

また、5G通信基地局用途として、GaN HEMT (高電子移動度トランジスタ) の需要も高まっています。

窒化ガリウムの性質

窒化ガリウムは、融点が800℃、沸点が1,600℃以上、密度が6.1g/cm3です。化学的に非常に安定な物質で、塩酸、硫酸、硝酸などの一般的な酸や塩基には溶けませんが、紫外線を照射することで、強アルカリに溶解します。

なお、窒化ガリウムの主な特徴は、以下のとおりです。

  • 熱伝導率が大きく、放熱性に優れている
  • 高速スイッチング・高温動作が可能
  • 飽和電子速度が大きい
  • 絶縁破壊電圧が高く、耐久性に優れている

窒化ガリウムの構造

窒化ガリウムの結晶構造はウルツ鉱型の四面体構造をとっており、空間群はC6v4P63mcで格子定数はa=3.19Å、c=5.19Åです。純粋な結晶では、格子定数の異なるサファイアまたは炭化ケイ素の薄膜に堆積することができます。

シリコンまたは酸素をn型に、マグネシウムをp型にドープすることができますが、Si原子とMg原子はGaN結晶の成長方法を変えてしまい、引張応力により結晶が脆くなってしまいます。

窒化ガリウムのその他情報

1. 窒化ガリウムの製法

窒化ガリウムの結晶は、100℃、750気圧の窒素圧力下に保持されたNa/Ga溶融液から成長させることができます。また、常圧で900〜980℃の溶融ガリウムにアンモニアガスを注入することによっても合成できます。 

   2Ga + 2NH3 → 2GaN + 3H2
   Ga2O3 + 2NH3 → 2GaN + 3H2O

低温でバッファー層を堆積させることで、結晶性の高い窒化ガリウムを得ることができ、このような高品質の窒化ガリウムから、p型GaN、pn接合青色/UV-LEDなどの発見につながりました。

2. 法規情報

毒物及び劇物取締法、消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) など、主要な法規制のいずれにも該当していません。

ただし、窒化ガリウムのダストは、皮膚、目、肺を刺激する物質ですので、取り扱いには注意が必要です。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 水や湿気と接するとアンモニアガスを生じるため、湿気を避ける。
  • 有害なガリウム酸化物や窒素酸化物を生じるため、強酸化剤との接触を避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 粉塵を吸い込まないよう、充分注意する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/481769

炭化カルシウム

炭化カルシウムとは

炭化カルシウム (英: Calcium carbide) とは、灰色がかった白色の固体です。

炭化カルシウムの化学式はCaC2、分子量は64.10、CAS登録番号は75-20-7で、カルシウムカーバイドが別名です。1862年にドイツの化学者であるフリードリヒ・ヴェーラーは、炭化カルシウムと水との反応からアセチレンと水酸化カルシウムが生成することを初めて発見しました。

燃料用に市販されているカルシウムカーバイドは、灰白色の塊状固体です。 主にアセチレンガスの簡易な製造源として利用されます。工業製品名としては、カーバイドと呼ばれています。

炭化カルシウムの性質

炭化カルシウムの融点は約2,300℃で、相対密度は2.22です。常温での一般的な結晶形は正方晶系で、カルシウムイオン (Ca2+) とアセチリドイオン (C22−) で満たされた塩化ナトリウム型の結晶構造をとります。

加熱していくと、450℃ で立方晶系に転移します。純粋な炭化カルシウムは無色ですが、低純度の炭化カルシウムの破片は灰色または茶色で、約80〜85%のCaC2で構成されています。残りはCaO (酸化カルシウム)、Ca3P2 (リン化カルシウム)、CaS (硫化カルシウム)、Ca3N2 (窒化カルシウム)、SiC (炭化ケイ素) などです。

炭化カルシウムの使用用途

炭化カルシウムのおもな用途は、石灰窒素肥料の原料および溶切断用アセチレンバーナーへの使用です。また、実験室・野外などで、小規模なアセチレン発生用にも用いられています。伝統的な照明器具であるアセチレンランプは、炭化カルシウムに水を滴下することで発生させたアセチレンガスを燃焼させています。

各種の有機化合物を合成するためのアセチレンは、古くには炭化カルシウムからレッペ反応で製造していましたが、その後石油化学製品を原料にする形に変わりました。金属製造用の還元剤にも用いられており、製鉄製造の製鋼工程においては、脱硫、脱酸剤としても使用されています。

炭化カルシウムのその他情報

1. 炭化カルシウムの製法

炭化カルシウムは、コークスと生石灰を2,200℃ 以上に電気炉などで加熱して製造します 。

   CaO+3C→CaC2+CO

この反応に必要な高温は、従来の燃焼では実際には達成できないため、反応はグラファイト電極を備えた電気炉で行われます。電気炉法は、1892年にT.L.ウィルソンによって発見され、同じ年にH.モアッサンによって独立して発見されました。

2. 炭化カルシウムの反応

炭化カルシウムは、水と接触するとアセチレンを生成します (CaC2+2H2O→C2H2+Ca(OH)2)。1gの炭化カルシウムから370mLのアセチレンが合成できます。

炭化カルシウムは、高温下 (約1,100℃) で窒素と反応させると、肥料として使われているカルシウムシアナミドが生成します (CaC2+N2→CaCN2+C)。窒素分子の三重結合を化学的に切断する数少ない方法の一つです。

3. 法規情報

炭化カルシウムは国内法規上において、毒物及び劇物取締法や化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) には指定がありません。

一方で、労働安全衛生法では「危険物・発火性の物」、消防法では「危険物第3類自然発火性物質及び禁水性物質 (危険等級II)、カルシウムの炭化物」に指定されているので、取り扱いには注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 直射日光を避け、換気の良いなるべく涼しい場所に容器を密栓して保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 水や湿気と激しく反応し爆発のおそれがあるため、接触を避ける。
  • 発火し激しく燃焼する可能性があるため、塩化鉄、酸化鉄、塩化スズとの混合は避ける。
  • 火災や爆発のおそれがあるため、ハロゲンや塩化水素、鉛、フッ化マグネシウム、過酸化ナトリウム、硫黄との接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護衣、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、大量の水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で15~20分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1385.html

次亜塩素酸

次亜塩素酸とは

次亜塩素酸 (英: Hypochlorous acid) とは、カルキ臭と呼ばれる特有の臭いをもつ塩素のオキソ酸の1種です。

次亜塩素酸の化学式はHClOで表され、分子量は52.46、CAS番号は7790-92-3です。溶液中にのみ存在する弱く不安定な酸で、放置すると分解します。次亜塩素酸は、1834年にフランスの化学者のアントワーヌ・ジェローム・バラール (1802–1876) が、塩素ガスのフラスコに酸化水銀 (II) の希薄な懸濁液を加えたことによって発見されました。

次亜塩素酸の使用用途

次亜塩素酸を主成分とした電解水である「次亜塩素酸水」は、殺菌消毒剤として野菜や食器、施設等の消毒に使われています。例えば、キュウリのうどんこ病やイチゴの灰色カビ病対策などに用いられ、特定農薬にも指定されています。また、食品工場、飲食店、内視鏡などの医療機器の消毒に用いられます。

次亜塩素酸は、消毒用途において液体スプレー、ウェットワイプ、エアロゾルなどの形で使用されてきました。次亜塩素酸水は、消毒室の霧やエアロゾル化用途に適しており、オフィス、病院、診療所などの屋内環境の消毒に適していることが研究により示されています。

またナトリウム塩である「次亜塩素酸ナトリウム」は物質を漂白する性質があり、パルプの漂白や、身近なところでは、塩素系漂白剤としてキッチン用漂白剤等に使用されています。

次亜塩素酸の性質

次亜塩素酸は強力な酸化剤であり、漂白や殺菌などに使用されます。次亜塩素酸としては不安定なため、ナトリウム塩である次亜塩素酸ナトリウムなどの化合物として用いられます。

なお、コロナウイルス感染対策として注目を集めた「次亜塩素酸水」は、次亜塩素酸を主成分とした電解水であり、塩化ナトリウム塩酸を水に溶かして電気分解して得られる水溶液です。

次亜塩素酸のその他情報

1. 次亜塩素酸の製法

次亜塩素酸は、実験室的には水酸化カリウム水溶液などに塩素を通じるなどして調製した次亜塩素酸塩水溶液を、硫酸で中和してから水蒸気蒸留することにより、遊離酸の水溶液を得ることができます。技術開発により製造コストが削減され、家庭用および業務用の次亜塩素酸水の製造と瓶詰めが可能になっています。ほとんどの次亜塩素酸水は貯蔵寿命が短いですが、熱や直射日光を避けて保管すると、劣化を遅らせることができます。

2. 次亜塩素酸の反応

次亜塩素酸は、水溶液中では部分的にアニオン次亜塩素酸ClOに解離します (HClO⇌ClO+H+)。次亜塩素酸は、HClと反応して塩素を形成し (HClO+HCl→H2O+Cl2)、アンモニアと反応してモノクロラミンを (NH3+HClO→ NH2Cl+H2O)、また有機アミンと反応してN-クロロアミンを形成することもあります。過酸化水素水と反応させる場合には、酸素が生じます (HClO+H2O2→HCl+H2O+O2)。さらに次亜塩素酸は、DNA、RNA、脂肪酸基、コレステロール、タンパク質など、さまざまな生体分子とも反応します。

3. 法規情報

次亜塩素酸は、毒物及び劇物取締法や消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法)、労働安全衛生法などのいずれの法令にも指定はありません。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 保管容器は、換気の良い冷暗所で保管する。
  • 常温保存中も微量が分解され、アルカリ性に移行してしまうため、早めに使用する。
  • 日光、特に紫外線の照射や有機物との接触により急速に分解するため、保管場所の環境に注意する。
  • 塩素ガスを発生するため、酸との接触は避ける。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://aimg.as-1.co.jp/c/64/5211/71/64521171msds.pdf

二酸化窒素

二酸化窒素とは

二酸化窒素とは、窒素の酸化物で刺激臭のある気体です。

物質が高温で燃えるときに発生する一酸化窒素 (NO) が、大気中で酸化すると、二酸化窒素は生成されます。二酸化窒素の発生源は、工業用および家庭用ボイラーや自動車エンジンなどの燃焼過程で排出される一酸化窒素です。

特に、高圧で燃料を燃焼させる自動車エンジンが原因で、なかでもディーゼルエンジンは高濃度の排出源です。また、呼吸器など人の健康にも影響があり、二酸化窒素は代表的な大気汚染物質として知られています。

二酸化窒素の使用用途

二酸化窒素の使用用途として、分析化学の試料溶解剤や分解剤が挙げられます。また、硝酸等の窒素化合物の原料および合成中間体や、漂白剤、触媒、有機化合物のニトロ化剤にも用いられます。さらに、酸化剤としての爆薬の原料や重合禁止剤にも使用可能です。

発煙硝酸などのロケット燃料の酸化剤としても、二酸化窒素は利用されます。実際に、ロケットのタイタン、ジェミニ計画の打ち上げ、スペースシャトルのサイドスラスター、惑星に送った無人宇宙探査機などで使用されました。

二酸化窒素の性質

二酸化窒素は、21.2°C以上では赤褐色の気体です。21.2°C以下では、黄色の液体になります。−11.2°C以下になると、無色の四酸化二窒素 (N2O4) に変化します。四酸化二窒素は、二酸化窒素の二量体です。

二酸化窒素の持つ赤褐色は、400〜500nmの青色光を吸収するためです。400nmよりも短波長の光によって光分解を起こし、原子状酸素であるOとNOが形成されます。とくに大気中では、O原子がO2へ付加してオゾンが生じます。二酸化窒素は不対電子を1個有し、常磁性です。

二酸化窒素の構造

二酸化窒素の化学式は、NO2で表されます。C2v対称性を有する曲がった分子です。窒素原子と酸素原子の結合長は119.7pmであり、1と2の間の結合次数とも一致しています。二酸化窒素の結合角と結合長は、対応するカチオン (NO2+) とアニオン (NO2) の中間の値を取っています。

二酸化窒素のその他情報

1. 二酸化窒素の合成法

工業的に二酸化窒素は、アンモニアの触媒酸化で生じる一酸化窒素に、空気 (酸素) を混ぜて反応させることにより製造されます。銀や銅を濃硝酸と反応させても、二酸化窒素を生成可能です。

ただし、二酸化窒素は、さまざまな物質の燃焼や製造の過程で、意図せず副生成物として発生しています。例えば、燃焼により生じた一酸化窒素は、大気中で光反応を起こし酸化されて、二酸化窒素が生成します。

生物活動が原因で自然発生する場合もあり、地球規模では生物活動が発生源の大部分です。都市では移動発生源や固定発生源を含めて、二酸化窒素が高密度で生じており、大気汚染の要因の1つになっています。

2. 二酸化窒素の反応

二酸化窒素と四酸化二窒素は、平衡状態です。ルシャトリエの原理より平衡は、高温ほど二酸化窒素側へ移動します。液体窒素を用いて急速に冷やした場合には、二酸化窒素が固体として生成しますが、固体中には四酸化二窒素が存在しています。

また、水との反応で硝酸や亜硝酸が生じ、この反応が酸性雨の原因です。さらに、二酸化窒素と二酸化硫黄が反応すると、一酸化窒素と三酸化硫黄が得られます。

3. 二酸化窒素による環境汚染

二酸化窒素は、大気汚染防止法で特定物質に指定されています。1970年代頃までは、自動車保有台数の増加に伴って、二酸化窒素による汚染が進んでいました。その後、排出ガス規制の効果もあり、年平均値は長期的に横ばいの状況が続いています。幹線道路の沿線を中心に、環境基準が達成できていない状況です。

ヒトに対して、主に呼吸器系統の健康影響が報告されています。1日の二酸化窒素の平均値が、0.04〜0.06ppmの範囲内かそれ以下であるべきと、環境基準は定められています。

乳酸ナトリウム

乳酸ナトリウムとは

乳酸ナトリウムとは、乳酸のナトリウム塩です。

分子式で表すと、CH3CH (OH) COONaです。無臭またはわずかに特有の臭いを有します。乳酸ナトリウムは、皮膚上に存在する天然保湿因子の1成分であり、肌に対して保湿作用を有します。

また、酸性またはアルカリ性のpH値を調整するpH緩衝作用も有します。化粧品の配合成分、食品添加物、医薬品などの用途で広く使用される物質です。乳酸ナトリウムは、例えばコーンスターチや砂糖大根などを原料として発酵させて得られた乳酸を中和して製造されます。

乳酸ナトリウムの使用用途

乳酸ナトリウムは、化粧品、食品、および医薬品などの各分野でさまざまな用途で利用されます。

1. 化粧品

化粧品用途では、保湿性およびpH緩衝性の高さを利用して、化粧水などのスキンケア化粧品、ボディローションなどのボディケア用品で使用されます。乳酸ナトリウムは、保湿性以外に穏やかな角質剥離効果も有するため、皮膚の最表面にある角質層のターンオーバーを促進できます。

なお、ターンオーバーとは、古い角質層が剥がれ落ちて新しい角質層に置き換わる肌の新陳代謝です。

2. 食品

食品用途では、食品添加物として用いられ、例えば酸味をコントロールする酸味料、食品のpHをコントロールするpH調整剤、調味料、防腐剤などの用途で使用されています。

3. 医療用医薬品

医療用医薬品用途では、非経口製剤、局所製剤、または輸液などに使用されています。

乳酸ナトリウムの性質

乳酸ナトリウムは、-COOHと-OHの両方を有するため、有機酸および水酸基の両方の性質を有します。乳酸は有機酸であるため酸性物質ですが、ナトリウムで中和された乳酸ナトリウムはほぼ中性を呈します。

したがって、強酸性でもなく強アルカリ性でもなく、pHの点では人体に対して安全性が高い物質です。

乳酸ナトリウムの構造

乳酸ナトリウムは、有機酸の1種である乳酸がナトリウム塩となったイオン性化合物です。ナトリウム塩になる前の乳酸は、有機酸のうちカルボン酸の1種であり、カルボキシ基 (-COOH) およびヒドロキシ基 (-OH) を含みます。

すなわち、乳酸ナトリウムは、-COOHと-OHの両方を有するカルボン酸のナトリウム塩です。カルボキシ基 (-COOH) およびヒドロキシ基 (-OH) の両方を分子中に有する有機酸は、ヒドロキシ酸 (またはヒドロキシカルボン酸) とも称されます。

なお、-COOHおよび-OHは合成反応によって互いに結合できます。具体的には、カルボキシ基 (-COOH) およびヒドロキシ基 (-OH) がエステル結合してつながったポリマーとして、ポリエステルと称されるプラスチックが有名です。乳酸は分子中に-COOHと-OHの両方を有するため、乳酸同士をエステル結合させることによりポリマーに変えることが可能です。

乳酸をエステル結合によってつなげたポリマーは、ポリ乳酸といわれ、生分解性プラスチックとして注目されています。

乳酸ナトリウムのその他情報

乳酸ナトリウムを含むpH緩衝液

食品や化粧品などでは、製造工程中や使用中にpH変動を抑える必要があります。品質管理の点でも、pHを常にほぼ一定に保つ必要があります。一般的に、pH緩衝作用を有するpH緩衝液を作るためには、弱酸と弱酸のナトリウム塩を混合します。

弱酸の例としては、乳酸の他に例えば酢酸、リン酸、クエン酸などが挙げられます。pH緩衝液の具体例は以下の通りです。

  • 乳酸緩衝液 (乳酸 + 乳酸ナトリウム)
  • 酢酸緩衝液 (酢酸 + 酢酸ナトリウム)
  • リン酸緩衝液 (リン酸 + リン酸ナトリウム)
  • クエン酸緩衝液 (クエン酸 + クエン酸ナトリウム)

乳酸ナトリウムは、乳酸と混合されることでpH緩衝液となります。例えば食品製造工程中に他の添加剤によってpHが変動する状況になっても、乳酸ナトリウムを含むpH緩衝液が存在すればpHの急激な変動を抑制可能です。

乳酸ナトリウムを含むpH緩衝液は、マイルドな酸味であるため食品の味への影響も小さいといわれています。

参考文献
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00055482

テルル

テルルとは

テルルとは、第16族元素の1つで、原子番号が52の元素です。

非金属元素であり、元素記号はTeと表されます。原子量は127.60です。105~132の質量数の同位体が知られています。その中で8種類が安定で、それ以外は放射性同位体です。

人体に有毒で「テルル及びその化合物」は、PRTR法・第二種指定化学物質で、作業環境クラス2です。

テルルの使用用途

金属テルルは、加工性や耐硫酸性の向上のために、耐酸性合金や鋼の合金添加剤に用いられます。テルル化合物は、特殊な着色剤 (ガラスや陶磁器の着色) 、酸化剤、熱電素子に使用可能です。

特に、電子冷凍装置の熱電対として多く使用されます。また、乾式コピー用感光ドラムに高純度の金属間化合物 (Se-Te) が使用されており、回収・再使用率も高いです。

さらに、金属テルルを鉄鋼に0.01~1.0%添加すると、快削性、強靭性、耐蝕性が改善されます。そのため、快削鋼 (切削性に優れた鋼) は、自動車部品や精密機械部品などに使用されています。

テルルの性質

にんにく臭がするテルル化合物が多いですが、テルル単体は無臭です。金属テルルの融点は449.51°C、沸点は988°Cであり、比重は6.232です。

化学的性質は、硫黄やセレンに似ています。空気中で青緑炎を上げて燃えて、二酸化テルル (TeO2) が生じます。酸化力が強い酸に溶解し、ハロゲンと激しく反応してハロゲン化物を生成可能です。

テルルは弱酸性酸化物であり、酸化数は6、5、4、2、-2を取ります。

テルルの構造

金属テルルは銀白色の結晶で、六方晶構造を取っています。電子配置は、[Kr] 4d10 5s2 5p4です。天然には、元素鉱物としてテルル単体やテルル金銀鉱物のほか、テルル銅鉱物やテルル鉛鉱物として、数多く存在します。

テルルのその他情報

1. テルルの産出

テルルの環境中の存在量は少ないです。ただし、単体の自然テルルとして、極まれに産出します。一般的にはテルル化物として硫化鉱中に少量混在し、金や銀のテルル化物としてわずかに存在します。

テルルの埋蔵量が多い国は、上位からアメリカ合衆国、ペルー、カナダの順です。年間生産量が多い国は、上位からカナダ、ベルギー、アメリカ合衆国、ペルー、日本であり、上位5ヶ国だけで生産量の82.3%に達します。

日本国内では、静岡県の河津鉱山や北海道の手稲鉱山で、マックアルパイン石や手稲石からテルル鉱物が得られます。工業的には、や鉛の電解精錬工場からのアノード泥が主原料です。ソーダ灰などと熱処理して可溶性のテルル酸塩とした後、中和して亜テルル酸 (TeO2・nH2O) として分離します。

2. テルルの同位体

テルルの同位体は、30種類知られています。天然に存在する128Teや130Teは放射性同位体であり、二重ベータ崩壊を起こします。128Teの半減期は2.2×1024年であり、知られている放射性同位体の中で最も長いです。

テルルはアルファ崩壊が起こる元素の中で、最も軽いです。110Teの0.003%がアルファ崩壊し、106Snに変わり、それ以外は電子捕獲によって110Sbになります。質量数が109以下のテルルの同位体も、アルファ崩壊を起こします。

安定同位体の130Teの中性子捕獲によって、人工放射性核種の131Teを生成可能です。131Iを人工的に得るときに使用されています。

3. テルルの毒性

テルル単体やテルル化合物には、毒性があります。テルルは化合物を作って環境中に露出し、体内にも入りやすいです。体内でテルルは代謝され、生じたジメチルテルリド (英: dimethyltelluride) はニンニクに似た悪臭を持っています。

テルル化合物によって、鉱山労働者などに症状が多く報告されています。その場合には、暴露から遠ざけると改善可能です。具体的には、食欲不振、口渇、頭痛、悪心、傾眠、発汗停止、呼吸困難などの症状が報告されています。それ以外にも、体に青黒い斑点が現れ、発疹を生じるほか、口に金属味を感じます。