溝加工

溝加工とは

図1. 溝加工の例

溝加工とは、材料の表面に溝や切込みを切削する工程です。

溝加工の主な目的は、他の部材と篏合 (かんごう) させて回転方向に空回りしないよう固定したり、加工した溝に部品取り付け用のボルトを設けたりすることです。部品の形状を調整し、精密な寸法を得るために行われます。

加工する溝の本数は1本だけのときもあれば、複数本の溝を形成する「スプライン加工」を行う場合もあります。通常使用される工作機械は、フライス盤マシニングセンタ、スロッター、ブローチ盤などです。これらを使用して、平面上または回転体に溝を切削加工します。

溝加工の使用用途

図2. 使用用途の例

溝加工は機械部品、シール、歯車など、さまざまな製品で用途があります。正確な溝加工は、製品の性能と信頼性を向上させるため、多くの産業分野で不可欠です。

1. 確実な動力伝達

シャフトとギアのように、回転体機構の空回り防止のための固定によく使われます。シャフトに入力ギアと出力ギアが組付けられた構造の場合に、入力ギアからシャフトを介して出力ギアへ確実な動力伝達を行うには、セレーションやスプラインといわれる構造が必要です。この構造を実現するために溝加工が行われます。

2. シール性の確保

ピストンエンジンのピストン側面や、油圧シリンダの内面円筒面などに加工されます。この目的は、シール性の確保です。

ピストンリングのための溝加工をすることで、燃焼室の圧力を管理し、効率な燃焼をサポートします。また、油圧シリンダなどにおいては、内部から油漏れ防止や外部からのコンタミ混入の防止のため、Oリングやダストシールを取り付けるための溝が加工されます。

3. 加工・組立精度の向上

フライス盤などで使用されるワーク (非加工物) を固定する台などに設けられている溝です。簡単で正確なワークの位置決めが可能で、加工精度の向上につながります。

4. メンテナンス・維持管理コストの低減

航空機のジェットエンジンに使用されるブレードを保持する箇所に対して、溝加工が施されています。この目的は、交換時のコスト抑制です。

消耗品したブレードを交換する際に、全体ではなく、損傷の大きなもののみを交換することで、交換コストを抑えることができます。シャフトとギアのアッセンブリにおいても同様で、損傷したギアのみの交換が可能となります。

溝加工の原理

溝加工は、さまざまな切削工具を使用して材料に溝をつくる工程です。溝の形状に合わせて、使用される切削工具が選定されます。代表的な例としては、エンドミルやT字スロッター、ホブ、ブローチなどです。

溝加工の工程では、勘合させることが目的であることから、高い加工精度が要求されます。また、JIS規格などによって、その形状が定義づけられています。

溝加工の種類

図3. 溝加工形状の例

溝加工は、溝の形状や本数、使用目的で分類できます。溝加工の形状は、一般的な形状が規格化されており、大量生産が可能なものもあります。

1. キー溝加工

四角形状 (キー型) の溝を1本加工する方法です。シャフトとギアの構成においては、シャフトの側面とギアの内面、各々が接する箇所に同じ幅の溝を加工します。

組立時には、「キー」と呼ばれる板を差し込みます。ギアとシャフト間の空転がなくなり、動力伝達が可能です。シャフト側のキー溝には、フライスやエンドミルなどの切削工具を使用します。ギア側にはスロッターやブローチによる加工が代表的です。

2. T溝加工

T文字を逆さにした形状の溝を加工し、下部の広くなった部分に他の部材との固定用ボルト穴を設けて、固定することを可能とした方法です。加工は、最初にキー溝加工を施したのちTスロットカッターという専用刃を使用して、溝下部の広い部分を作るように加工します。ワーク固定台などに施されます。

3. スプライン加工

四角形状の溝を複数本加工した方法です。キー溝同様に回転物における確実な動力伝達を目的にしたものです。キー溝に比べて、篏合 (かんごう) 時の強度が大きく、より大きな動力を伝達したいときに使用されます。

4. インボリュートスプライン加工

スプライン加工と異なり、溝の形状を鋸歯状 (インボリュートスプライン) に加工した方法です。回転の伝達性能を向上させたい時に使われます。加工が容易なわりに精度が出やすいことが特徴です。ホブ加工や専用のエンドミル (ミーリング加工)、鍛造などによって形成されます。

5. ブローチ加工

加工時使用する切削工具のブローチという名称から名づけられた加工です。一本の棒上に連続した切削刃が取り付けられた「ブローチ」と呼ばれる切削刃を使用します。

ブローチを使用すると一度の動作で、目的の形状を実現可能で、大量生産に使用できます。一方で、工作物を貫通する形でブローチを引き抜いて加工するため、底がある (貫通していない) 加工には適しません。この場合は、スロッターを使用します。

6. Oリングの溝加工

ピストンリングやOリングなどを組み込むための溝を加工する方法です。シール性の確保などを目的に、使用されるピストンリングやOリング (O文字形状のゴム) の形状に合わせて溝を形成します。

丸棒の外面や円筒内面には旋盤を、フランジの合わせ面など平面上であればフライスなどで加工します。

精密加工

精密加工とは

精密加工

精密加工とは、マイクロメートル (㎛: 10マイナス6乗メートル) レベルの精度で行われる加工のことです。

精密加工は現代社会において欠かせないものとなっており、その大部分が機械によって行われ、工程は精密機械加工とも呼ばれます。さらに、精密さが求められる場合、ナノメートル (nm: 10マイナス9乗メートル) レベルでの超精密加工が行われます。

超精密加工の技術は、製品の小型化とともに日々進化を遂げています。精密加工が必要とされるのは小型製品だけでなく、精密部品を扱う治具や測定具、光学関連部品など、厳しい精度が要求される製品に至るまで幅広いです。

精密加工の使用用途

精密加工は、モノづくりの現場で工作機械や半導体製造装置、各種測定機器などの道具や装置の製作に必要な技術です。

自動車業界でも、機構部品の製造に精密加工は求められます。動力の伝達ロスを極力抑え、さらには長期間にわたる性能の維持が求められるからです。

また、IT関連の装置や機器の部品製造にも精密加工は欠かせません。高精度な製品が求められるこの分野では、精密加工の能力が試されます。

航空機エンジンの部品製造も、精密加工が重要な役割を果たします。極限の状況下でも動きを支えるための高度な部品が必要とされ、製造には精密加工が必要です。

精密加工の原理

精密加工は、高度な技術を駆使して材料から極微細な粒子を削り取ることで、製品の形状を制御し、精度の高い製品を作り出します。マイクロメートル (µm:10^-6m) やナノメートル (nm:10^-9m) レベルの精度が要求される場合、精密加工技術が必要です。

具体的な作業手順としては、材料を適切な工作機械に取り付け、設計図に基づいて予め決められたパラメータに従いながら、工作機械が自動的に加工を行います。そして、精密な加工を達成するためには、工具の摩耗や温度変動などの要素に注意しながら、適切な管理と調整が行われます。

精密加工は自動車部品から半導体、航空宇宙産業まで、あらゆる分野で使用されています。精密加工技術の進歩は、生活をより便利で快適なものにする製品開発を支えていると言っても過言ではありません。

精密加工の種類

精密加工にはホーニング加工、ラッピング加工、放電加工、レーザー加工、ワイヤーカット、プラズマ加工、溶射加工が存在します。各種の精密加工はそれぞれの特性を活かし、製品の精度を追求するために用いられています。

1. ホーニング加工

一次加工後、さらなる精度向上を求められる場合に用いられます。砥石 (ホーン) を使用し、加圧研削を行います。精度が求められる部分の微細な調整が可能となります。

2. ラッピング加工

高精度の研磨加工の1つで、加工面を非常に滑らかに仕上げます。精度の高さから、精密機器の製造などに使用されます。

3. 放電加工

金属の表面処理を行う方法で、アーク放電の熱を利用します。金属を精密に削ることが可能で、形状に制限のない加工が可能となります。

4. レーザー加工

レーザー光を用いて加工を行う方法です。レーザー光は、工作物に触れずに切断でき、切断面の変形を抑えることが可能です。

5. ワイヤーカット

放電現象を利用した加工方法で、複雑な形状の工作物も精密に加工することが可能です。形状の複雑な部品製造などに欠かせない技術です。

6. プラズマ加工

プラズマ加工は、分子レベルで発生したプラズマ (電子とイオン化された原子からなる状態) を噴射させて行う加工方法です。プラズマの噴射は、高温と高速を生み出し、その力を利用して材料を精密に切断します。

7. 溶射加工

溶射とは、金属やセラミックを各種熱源で溶融させ、その溶融した材料を高速で噴射し、対象物の表面に塗布する技術です。耐磨耗性、耐腐食性、絶縁性などの特性を目的の物体に付与することが可能です。

ステンレス板加工

ステンレス板加工とは

ステンレス板加工

ステンレス板加工とは、ステンレスの板材に対して行う加工のことです。

ステンレスは、耐食性をはじめ、多くの優れた特性がありますが、高硬度であることや、靱性 (外力が加わったときの変化割合) やスプリングバック (加工後に外力を除いたときの戻り) などの割合が大きいため加工が難しいと言われています。

少しでも加工の難しさを解消するため、素材メーカーでは使用目的に合わせたステンレスの改良が進められています。

ステンレス板加工の使用用途

ステンレス板加工は、広範囲におよぶステンレス製品に対応するため、目的に合った加工が行われます。

薄いステンレス板は、プレス機で一気に切断・曲げ・穴あけ加工されるのに対し、ステンレス板の厚みが増すにつれ、加工の難しさも増し、個別の加工となります。

ステンレス板を使った製品は、小さいものでは時計や携帯電話などの精密機器用部品があり、大きくなると洗濯機の脱水槽のドラムやオーブンレンジ、炊飯器、冷蔵庫などの家電製品があります。さらに大きな製品では、キッチンの流し台といった厨房関連製品をはじめ、輸送機器関連や産業機器関連、トンネルの内装板といった土木関連、野球場の屋根材のような建築関連などがあります。

ステンレス板加工の種類

ステンレス板加工は、他の金属板と同様に切断加工や曲げ加工、溶接といった基本的な加工のほか、表面加工なども行われています。

耐食性を活かした洗濯機の脱水槽では、パンチング加工と表面処理がされています。エスカレーターの乗降部に使われているステンレス板製品では、滑り止め防止の表面加工が施されています。

ステンレス板加工で表面処理されたものは、見た目がよいことから各種製品のケースに使われます。表面処理の種類は化学処理や熱処理、研磨、エンボス加工、エッチング加工、メッキ処理、塗装などです。

研磨は、電解研磨、バレル研磨、バフ研磨、ヘアライン仕上げといった多くの処理が使われています。例えばヘアライン仕上げは、鏡面のようなステンレス板表面を加工することで、高級感を出すことができます。

金属加工

金属加工とは

金属加工

金属加工とは、金属材料に施す加工全般のことです。

金属加工の具体例として、工具や機械を使った切断加工切削加工曲げ加工などの加工が挙げられます。ダイカストと呼ばれる金型に非鉄金属素材を流し込んで形を作る鋳造加工も、金属加工の一つです。

さらに、金属加工には熱処理の焼入れ、焼き戻し、焼きなましだけでなく、表面処理で行われているメッキも広く含まれます。金属加工はよく石材加工や木材加工と対比されます。

金属加工の使用用途

金属加工は形状により変わります。金属板を使用するときは、所要の寸法に切断する加工を行い、プレスによる曲げ加工が必要です。丸棒の金属素材であれば、必要な長さに旋盤で切り落とし、切削加工で必要な形状に削り込みます。

その後、必要に応じてねじ切り加工を行う場合もあれば、曲げ加工や切削加工が施された半製品は熱処理やメッキなどの表面処理が行われ、完成品となります。

金属加工の原理

金属加工にはさまざまなスケールがあり、橋や船などの製造や加工のような大規模な金属加工から、ペンダントや指輪などの装身具の製作やリフォームのような小さな金属加工まであります。そしてそれぞれの領域ごとに、独特の道具、技能、工程があります。

現代の自動車工場では、毎日大量に自動化された製造ラインの中で、巨大なプレス機械によって数千トンもの圧力でロール状の鋼板を打ち抜いて成形可能です。溶接ロボットは、自動車のボディーのパーツを製造して、つなぎ合わせています。

その一方で研究所では、研究員やエンジニアによって、金属部品を精密に加工可能です。一つの部品を作るため、コンピュータにより数値制御された工作機械を使用し、切削ビットを自動交換させて、アルミのブロックを削っています。

金属加工の種類

金属加工は「形をつくるもの」と「性質を変えるもの」に大きく分けられます。

形をつくる金属加工 (成型加工) は、機械加工塑性加工、鋳造加工、その他 (溶接加工、粉末冶金加工、金属3Dプリンター等) が該当します。性質を変える金属加工は、熱処理と表面処理が代表的です。機械加工の具体的には、切削加工 (旋盤加工フライス加工) や研削加工 (円筒研削と平面研削) 、特殊加工 (放電加工レーザー加工など) が含まれます。塑性加工は、プレス加工や鍛造 (自由鍛造と型鍛造) 、転造などです。

鍛造はハンマーのような工具で金属を叩いて行う加工で、転造は棒状の工具で加工物を挟み込んで行う加工です。鋳造には、「砂型鋳造」とダイカストが含まれます。熱処理には焼入れと焼戻し、焼きならし、焼きなまし、侵炭などがあります。表面処理は、メッキと化成処理 (りん酸塩処理やクロメート処理など) が代表的です。

金属加工の選び方

金属加工には多種多様な種類があり、特徴が違います。選び方次第で同じ寸法や特性を作る際に、時間やコストに差が出ます。それぞれの加工法の得意や不得意を理解すると便利です。

具体的には、鋳造は同じ形状の製品を大量生産でき、スピーディーです。ただし鋳造では、寸法精度にばらつきが生じる場合があります。それに対して、プレス加工や切削を繰り返すと、高い寸法精度を維持可能です。製作期間や納期を考慮して、加工方法を検討する必要があります。

その一方で、材料費によってはコストがかかります。流通量の多い材料は単価が下がって、コストを抑制可能です。しかし材料費が安くても、製品に合わない素材を使用すると、余計な人件費や製作時間が必要な場合もあります。例えば、3Dプリンタを用いた加工は効率的ですが、初期費用がかかります。

金属加工の構造

効率的に金属などの硬い素材を加工する際に、工作機械が必要です。主に工作機械は除去加工で使用され、具体例として、フライス盤、ボール盤、旋盤などが挙げられます。工作機械は、装置や機械を構成している部品を製造する役割も担います。人の手では難しいスピードや精度で加工が可能です。

窒化ガリウム

窒化ガリウムとは

窒化ガリウム (英: Gallium nitride) とは、淡い灰色の粉末です。

化学式はGaNで、ガリウムと窒素の1:1の化合物であり、分子量は83.73、CAS登録番号は25617-97-4で表される半導体です。そのバンド構造において禁制帯のエネルギー幅が広いことから「ワイド・バンドギャップ半導体」とも呼ばれています。

主に青色発光ダイオードの材料として用いられています。また、近年ではパワー半導体やレーダーへの応用も期待されています。その性能の高さからシリコンに代わる「次世代の半導体」として注目されています。

窒化ガリウムの使用用途

窒化ガリウムは従来、青色LEDやレーザーダイオードの材料として広く用いられてきました。現在は、バンドギャップが3.4と高いため、Siのバンドギャップ1.1に対して、ワイドギャップ半導体と呼ばれています。

窒化ガリウムは、飽和ドリフト速度が高いことや破壊電界強度が高いことが特徴です。高耐圧化や低損失化、スイッチングスピードの高速化を可能とします。シリコン製のダイオードやトランジスタを窒化ガリウム機器へと置き換えることで、電力損失を小さくし、発熱量を減少させ、機器そのものを小型化することが可能です。

また、5G通信基地局用途として、GaN HEMT (高電子移動度トランジスタ) の需要も高まっています。

窒化ガリウムの性質

窒化ガリウムは、融点が800℃、沸点が1,600℃以上、密度が6.1g/cm3です。化学的に非常に安定な物質で、塩酸、硫酸、硝酸などの一般的な酸や塩基には溶けませんが、紫外線を照射することで、強アルカリに溶解します。

なお、窒化ガリウムの主な特徴は、以下のとおりです。

  • 熱伝導率が大きく、放熱性に優れている
  • 高速スイッチング・高温動作が可能
  • 飽和電子速度が大きい
  • 絶縁破壊電圧が高く、耐久性に優れている

窒化ガリウムの構造

窒化ガリウムの結晶構造はウルツ鉱型の四面体構造をとっており、空間群はC6v4P63mcで格子定数はa=3.19Å、c=5.19Åです。純粋な結晶では、格子定数の異なるサファイアまたは炭化ケイ素の薄膜に堆積することができます。

シリコンまたは酸素をn型に、マグネシウムをp型にドープすることができますが、Si原子とMg原子はGaN結晶の成長方法を変えてしまい、引張応力により結晶が脆くなってしまいます。

窒化ガリウムのその他情報

1. 窒化ガリウムの製法

窒化ガリウムの結晶は、100℃、750気圧の窒素圧力下に保持されたNa/Ga溶融液から成長させることができます。また、常圧で900〜980℃の溶融ガリウムにアンモニアガスを注入することによっても合成できます。 

   2Ga + 2NH3 → 2GaN + 3H2
   Ga2O3 + 2NH3 → 2GaN + 3H2O

低温でバッファー層を堆積させることで、結晶性の高い窒化ガリウムを得ることができ、このような高品質の窒化ガリウムから、p型GaN、pn接合青色/UV-LEDなどの発見につながりました。

2. 法規情報

毒物及び劇物取締法、消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) など、主要な法規制のいずれにも該当していません。

ただし、窒化ガリウムのダストは、皮膚、目、肺を刺激する物質ですので、取り扱いには注意が必要です。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 水や湿気と接するとアンモニアガスを生じるため、湿気を避ける。
  • 有害なガリウム酸化物や窒素酸化物を生じるため、強酸化剤との接触を避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 粉塵を吸い込まないよう、充分注意する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/481769

炭化カルシウム

炭化カルシウムとは

炭化カルシウム (英: Calcium carbide) とは、灰色がかった白色の固体です。

炭化カルシウムの化学式はCaC2、分子量は64.10、CAS登録番号は75-20-7で、カルシウムカーバイドが別名です。1862年にドイツの化学者であるフリードリヒ・ヴェーラーは、炭化カルシウムと水との反応からアセチレンと水酸化カルシウムが生成することを初めて発見しました。

燃料用に市販されているカルシウムカーバイドは、灰白色の塊状固体です。 主にアセチレンガスの簡易な製造源として利用されます。工業製品名としては、カーバイドと呼ばれています。

炭化カルシウムの性質

炭化カルシウムの融点は約2,300℃で、相対密度は2.22です。常温での一般的な結晶形は正方晶系で、カルシウムイオン (Ca2+) とアセチリドイオン (C22−) で満たされた塩化ナトリウム型の結晶構造をとります。

加熱していくと、450℃ で立方晶系に転移します。純粋な炭化カルシウムは無色ですが、低純度の炭化カルシウムの破片は灰色または茶色で、約80〜85%のCaC2で構成されています。残りはCaO (酸化カルシウム)、Ca3P2 (リン化カルシウム)、CaS (硫化カルシウム)、Ca3N2 (窒化カルシウム)、SiC (炭化ケイ素) などです。

炭化カルシウムの使用用途

炭化カルシウムのおもな用途は、石灰窒素肥料の原料および溶切断用アセチレンバーナーへの使用です。また、実験室・野外などで、小規模なアセチレン発生用にも用いられています。伝統的な照明器具であるアセチレンランプは、炭化カルシウムに水を滴下することで発生させたアセチレンガスを燃焼させています。

各種の有機化合物を合成するためのアセチレンは、古くには炭化カルシウムからレッペ反応で製造していましたが、その後石油化学製品を原料にする形に変わりました。金属製造用の還元剤にも用いられており、製鉄製造の製鋼工程においては、脱硫、脱酸剤としても使用されています。

炭化カルシウムのその他情報

1. 炭化カルシウムの製法

炭化カルシウムは、コークスと生石灰を2,200℃ 以上に電気炉などで加熱して製造します 。

   CaO+3C→CaC2+CO

この反応に必要な高温は、従来の燃焼では実際には達成できないため、反応はグラファイト電極を備えた電気炉で行われます。電気炉法は、1892年にT.L.ウィルソンによって発見され、同じ年にH.モアッサンによって独立して発見されました。

2. 炭化カルシウムの反応

炭化カルシウムは、水と接触するとアセチレンを生成します (CaC2+2H2O→C2H2+Ca(OH)2)。1gの炭化カルシウムから370mLのアセチレンが合成できます。

炭化カルシウムは、高温下 (約1,100℃) で窒素と反応させると、肥料として使われているカルシウムシアナミドが生成します (CaC2+N2→CaCN2+C)。窒素分子の三重結合を化学的に切断する数少ない方法の一つです。

3. 法規情報

炭化カルシウムは国内法規上において、毒物及び劇物取締法や化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) には指定がありません。

一方で、労働安全衛生法では「危険物・発火性の物」、消防法では「危険物第3類自然発火性物質及び禁水性物質 (危険等級II)、カルシウムの炭化物」に指定されているので、取り扱いには注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 直射日光を避け、換気の良いなるべく涼しい場所に容器を密栓して保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 水や湿気と激しく反応し爆発のおそれがあるため、接触を避ける。
  • 発火し激しく燃焼する可能性があるため、塩化鉄、酸化鉄、塩化スズとの混合は避ける。
  • 火災や爆発のおそれがあるため、ハロゲンや塩化水素、鉛、フッ化マグネシウム、過酸化ナトリウム、硫黄との接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護衣、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、大量の水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で15~20分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1385.html

次亜塩素酸

次亜塩素酸とは

次亜塩素酸 (英: Hypochlorous acid) とは、カルキ臭と呼ばれる特有の臭いをもつ塩素のオキソ酸の1種です。

次亜塩素酸の化学式はHClOで表され、分子量は52.46、CAS番号は7790-92-3です。溶液中にのみ存在する弱く不安定な酸で、放置すると分解します。次亜塩素酸は、1834年にフランスの化学者のアントワーヌ・ジェローム・バラール (1802–1876) が、塩素ガスのフラスコに酸化水銀 (II) の希薄な懸濁液を加えたことによって発見されました。

次亜塩素酸の使用用途

次亜塩素酸を主成分とした電解水である「次亜塩素酸水」は、殺菌消毒剤として野菜や食器、施設等の消毒に使われています。例えば、キュウリのうどんこ病やイチゴの灰色カビ病対策などに用いられ、特定農薬にも指定されています。また、食品工場、飲食店、内視鏡などの医療機器の消毒に用いられます。

次亜塩素酸は、消毒用途において液体スプレー、ウェットワイプ、エアロゾルなどの形で使用されてきました。次亜塩素酸水は、消毒室の霧やエアロゾル化用途に適しており、オフィス、病院、診療所などの屋内環境の消毒に適していることが研究により示されています。

またナトリウム塩である「次亜塩素酸ナトリウム」は物質を漂白する性質があり、パルプの漂白や、身近なところでは、塩素系漂白剤としてキッチン用漂白剤等に使用されています。

次亜塩素酸の性質

次亜塩素酸は強力な酸化剤であり、漂白や殺菌などに使用されます。次亜塩素酸としては不安定なため、ナトリウム塩である次亜塩素酸ナトリウムなどの化合物として用いられます。

なお、コロナウイルス感染対策として注目を集めた「次亜塩素酸水」は、次亜塩素酸を主成分とした電解水であり、塩化ナトリウム塩酸を水に溶かして電気分解して得られる水溶液です。

次亜塩素酸のその他情報

1. 次亜塩素酸の製法

次亜塩素酸は、実験室的には水酸化カリウム水溶液などに塩素を通じるなどして調製した次亜塩素酸塩水溶液を、硫酸で中和してから水蒸気蒸留することにより、遊離酸の水溶液を得ることができます。技術開発により製造コストが削減され、家庭用および業務用の次亜塩素酸水の製造と瓶詰めが可能になっています。ほとんどの次亜塩素酸水は貯蔵寿命が短いですが、熱や直射日光を避けて保管すると、劣化を遅らせることができます。

2. 次亜塩素酸の反応

次亜塩素酸は、水溶液中では部分的にアニオン次亜塩素酸ClOに解離します (HClO⇌ClO+H+)。次亜塩素酸は、HClと反応して塩素を形成し (HClO+HCl→H2O+Cl2)、アンモニアと反応してモノクロラミンを (NH3+HClO→ NH2Cl+H2O)、また有機アミンと反応してN-クロロアミンを形成することもあります。過酸化水素水と反応させる場合には、酸素が生じます (HClO+H2O2→HCl+H2O+O2)。さらに次亜塩素酸は、DNA、RNA、脂肪酸基、コレステロール、タンパク質など、さまざまな生体分子とも反応します。

3. 法規情報

次亜塩素酸は、毒物及び劇物取締法や消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法)、労働安全衛生法などのいずれの法令にも指定はありません。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 保管容器は、換気の良い冷暗所で保管する。
  • 常温保存中も微量が分解され、アルカリ性に移行してしまうため、早めに使用する。
  • 日光、特に紫外線の照射や有機物との接触により急速に分解するため、保管場所の環境に注意する。
  • 塩素ガスを発生するため、酸との接触は避ける。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://aimg.as-1.co.jp/c/64/5211/71/64521171msds.pdf

二酸化窒素

二酸化窒素とは

二酸化窒素とは、窒素の酸化物で刺激臭のある気体です。

物質が高温で燃えるときに発生する一酸化窒素 (NO) が、大気中で酸化すると、二酸化窒素は生成されます。二酸化窒素の発生源は、工業用および家庭用ボイラーや自動車エンジンなどの燃焼過程で排出される一酸化窒素です。

特に、高圧で燃料を燃焼させる自動車エンジンが原因で、なかでもディーゼルエンジンは高濃度の排出源です。また、呼吸器など人の健康にも影響があり、二酸化窒素は代表的な大気汚染物質として知られています。

二酸化窒素の使用用途

二酸化窒素の使用用途として、分析化学の試料溶解剤や分解剤が挙げられます。また、硝酸等の窒素化合物の原料および合成中間体や、漂白剤、触媒、有機化合物のニトロ化剤にも用いられます。さらに、酸化剤としての爆薬の原料や重合禁止剤にも使用可能です。

発煙硝酸などのロケット燃料の酸化剤としても、二酸化窒素は利用されます。実際に、ロケットのタイタン、ジェミニ計画の打ち上げ、スペースシャトルのサイドスラスター、惑星に送った無人宇宙探査機などで使用されました。

二酸化窒素の性質

二酸化窒素は、21.2°C以上では赤褐色の気体です。21.2°C以下では、黄色の液体になります。−11.2°C以下になると、無色の四酸化二窒素 (N2O4) に変化します。四酸化二窒素は、二酸化窒素の二量体です。

二酸化窒素の持つ赤褐色は、400〜500nmの青色光を吸収するためです。400nmよりも短波長の光によって光分解を起こし、原子状酸素であるOとNOが形成されます。とくに大気中では、O原子がO2へ付加してオゾンが生じます。二酸化窒素は不対電子を1個有し、常磁性です。

二酸化窒素の構造

二酸化窒素の化学式は、NO2で表されます。C2v対称性を有する曲がった分子です。窒素原子と酸素原子の結合長は119.7pmであり、1と2の間の結合次数とも一致しています。二酸化窒素の結合角と結合長は、対応するカチオン (NO2+) とアニオン (NO2) の中間の値を取っています。

二酸化窒素のその他情報

1. 二酸化窒素の合成法

工業的に二酸化窒素は、アンモニアの触媒酸化で生じる一酸化窒素に、空気 (酸素) を混ぜて反応させることにより製造されます。銀や銅を濃硝酸と反応させても、二酸化窒素を生成可能です。

ただし、二酸化窒素は、さまざまな物質の燃焼や製造の過程で、意図せず副生成物として発生しています。例えば、燃焼により生じた一酸化窒素は、大気中で光反応を起こし酸化されて、二酸化窒素が生成します。

生物活動が原因で自然発生する場合もあり、地球規模では生物活動が発生源の大部分です。都市では移動発生源や固定発生源を含めて、二酸化窒素が高密度で生じており、大気汚染の要因の1つになっています。

2. 二酸化窒素の反応

二酸化窒素と四酸化二窒素は、平衡状態です。ルシャトリエの原理より平衡は、高温ほど二酸化窒素側へ移動します。液体窒素を用いて急速に冷やした場合には、二酸化窒素が固体として生成しますが、固体中には四酸化二窒素が存在しています。

また、水との反応で硝酸や亜硝酸が生じ、この反応が酸性雨の原因です。さらに、二酸化窒素と二酸化硫黄が反応すると、一酸化窒素と三酸化硫黄が得られます。

3. 二酸化窒素による環境汚染

二酸化窒素は、大気汚染防止法で特定物質に指定されています。1970年代頃までは、自動車保有台数の増加に伴って、二酸化窒素による汚染が進んでいました。その後、排出ガス規制の効果もあり、年平均値は長期的に横ばいの状況が続いています。幹線道路の沿線を中心に、環境基準が達成できていない状況です。

ヒトに対して、主に呼吸器系統の健康影響が報告されています。1日の二酸化窒素の平均値が、0.04〜0.06ppmの範囲内かそれ以下であるべきと、環境基準は定められています。

乳酸ナトリウム

乳酸ナトリウムとは

乳酸ナトリウムとは、乳酸のナトリウム塩です。

分子式で表すと、CH3CH (OH) COONaです。無臭またはわずかに特有の臭いを有します。乳酸ナトリウムは、皮膚上に存在する天然保湿因子の1成分であり、肌に対して保湿作用を有します。

また、酸性またはアルカリ性のpH値を調整するpH緩衝作用も有します。化粧品の配合成分、食品添加物、医薬品などの用途で広く使用される物質です。乳酸ナトリウムは、例えばコーンスターチや砂糖大根などを原料として発酵させて得られた乳酸を中和して製造されます。

乳酸ナトリウムの使用用途

乳酸ナトリウムは、化粧品、食品、および医薬品などの各分野でさまざまな用途で利用されます。

1. 化粧品

化粧品用途では、保湿性およびpH緩衝性の高さを利用して、化粧水などのスキンケア化粧品、ボディローションなどのボディケア用品で使用されます。乳酸ナトリウムは、保湿性以外に穏やかな角質剥離効果も有するため、皮膚の最表面にある角質層のターンオーバーを促進できます。

なお、ターンオーバーとは、古い角質層が剥がれ落ちて新しい角質層に置き換わる肌の新陳代謝です。

2. 食品

食品用途では、食品添加物として用いられ、例えば酸味をコントロールする酸味料、食品のpHをコントロールするpH調整剤、調味料、防腐剤などの用途で使用されています。

3. 医療用医薬品

医療用医薬品用途では、非経口製剤、局所製剤、または輸液などに使用されています。

乳酸ナトリウムの性質

乳酸ナトリウムは、-COOHと-OHの両方を有するため、有機酸および水酸基の両方の性質を有します。乳酸は有機酸であるため酸性物質ですが、ナトリウムで中和された乳酸ナトリウムはほぼ中性を呈します。

したがって、強酸性でもなく強アルカリ性でもなく、pHの点では人体に対して安全性が高い物質です。

乳酸ナトリウムの構造

乳酸ナトリウムは、有機酸の1種である乳酸がナトリウム塩となったイオン性化合物です。ナトリウム塩になる前の乳酸は、有機酸のうちカルボン酸の1種であり、カルボキシ基 (-COOH) およびヒドロキシ基 (-OH) を含みます。

すなわち、乳酸ナトリウムは、-COOHと-OHの両方を有するカルボン酸のナトリウム塩です。カルボキシ基 (-COOH) およびヒドロキシ基 (-OH) の両方を分子中に有する有機酸は、ヒドロキシ酸 (またはヒドロキシカルボン酸) とも称されます。

なお、-COOHおよび-OHは合成反応によって互いに結合できます。具体的には、カルボキシ基 (-COOH) およびヒドロキシ基 (-OH) がエステル結合してつながったポリマーとして、ポリエステルと称されるプラスチックが有名です。乳酸は分子中に-COOHと-OHの両方を有するため、乳酸同士をエステル結合させることによりポリマーに変えることが可能です。

乳酸をエステル結合によってつなげたポリマーは、ポリ乳酸といわれ、生分解性プラスチックとして注目されています。

乳酸ナトリウムのその他情報

乳酸ナトリウムを含むpH緩衝液

食品や化粧品などでは、製造工程中や使用中にpH変動を抑える必要があります。品質管理の点でも、pHを常にほぼ一定に保つ必要があります。一般的に、pH緩衝作用を有するpH緩衝液を作るためには、弱酸と弱酸のナトリウム塩を混合します。

弱酸の例としては、乳酸の他に例えば酢酸、リン酸、クエン酸などが挙げられます。pH緩衝液の具体例は以下の通りです。

  • 乳酸緩衝液 (乳酸 + 乳酸ナトリウム)
  • 酢酸緩衝液 (酢酸 + 酢酸ナトリウム)
  • リン酸緩衝液 (リン酸 + リン酸ナトリウム)
  • クエン酸緩衝液 (クエン酸 + クエン酸ナトリウム)

乳酸ナトリウムは、乳酸と混合されることでpH緩衝液となります。例えば食品製造工程中に他の添加剤によってpHが変動する状況になっても、乳酸ナトリウムを含むpH緩衝液が存在すればpHの急激な変動を抑制可能です。

乳酸ナトリウムを含むpH緩衝液は、マイルドな酸味であるため食品の味への影響も小さいといわれています。

参考文献
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00055482

テルル

テルルとは

テルルとは、第16族元素の1つで、原子番号が52の元素です。

非金属元素であり、元素記号はTeと表されます。原子量は127.60です。105~132の質量数の同位体が知られています。その中で8種類が安定で、それ以外は放射性同位体です。

人体に有毒で「テルル及びその化合物」は、PRTR法・第二種指定化学物質で、作業環境クラス2です。

テルルの使用用途

金属テルルは、加工性や耐硫酸性の向上のために、耐酸性合金や鋼の合金添加剤に用いられます。テルル化合物は、特殊な着色剤 (ガラスや陶磁器の着色) 、酸化剤、熱電素子に使用可能です。

特に、電子冷凍装置の熱電対として多く使用されます。また、乾式コピー用感光ドラムに高純度の金属間化合物 (Se-Te) が使用されており、回収・再使用率も高いです。

さらに、金属テルルを鉄鋼に0.01~1.0%添加すると、快削性、強靭性、耐蝕性が改善されます。そのため、快削鋼 (切削性に優れた鋼) は、自動車部品や精密機械部品などに使用されています。

テルルの性質

にんにく臭がするテルル化合物が多いですが、テルル単体は無臭です。金属テルルの融点は449.51°C、沸点は988°Cであり、比重は6.232です。

化学的性質は、硫黄やセレンに似ています。空気中で青緑炎を上げて燃えて、二酸化テルル (TeO2) が生じます。酸化力が強い酸に溶解し、ハロゲンと激しく反応してハロゲン化物を生成可能です。

テルルは弱酸性酸化物であり、酸化数は6、5、4、2、-2を取ります。

テルルの構造

金属テルルは銀白色の結晶で、六方晶構造を取っています。電子配置は、[Kr] 4d10 5s2 5p4です。天然には、元素鉱物としてテルル単体やテルル金銀鉱物のほか、テルル銅鉱物やテルル鉛鉱物として、数多く存在します。

テルルのその他情報

1. テルルの産出

テルルの環境中の存在量は少ないです。ただし、単体の自然テルルとして、極まれに産出します。一般的にはテルル化物として硫化鉱中に少量混在し、金や銀のテルル化物としてわずかに存在します。

テルルの埋蔵量が多い国は、上位からアメリカ合衆国、ペルー、カナダの順です。年間生産量が多い国は、上位からカナダ、ベルギー、アメリカ合衆国、ペルー、日本であり、上位5ヶ国だけで生産量の82.3%に達します。

日本国内では、静岡県の河津鉱山や北海道の手稲鉱山で、マックアルパイン石や手稲石からテルル鉱物が得られます。工業的には、や鉛の電解精錬工場からのアノード泥が主原料です。ソーダ灰などと熱処理して可溶性のテルル酸塩とした後、中和して亜テルル酸 (TeO2・nH2O) として分離します。

2. テルルの同位体

テルルの同位体は、30種類知られています。天然に存在する128Teや130Teは放射性同位体であり、二重ベータ崩壊を起こします。128Teの半減期は2.2×1024年であり、知られている放射性同位体の中で最も長いです。

テルルはアルファ崩壊が起こる元素の中で、最も軽いです。110Teの0.003%がアルファ崩壊し、106Snに変わり、それ以外は電子捕獲によって110Sbになります。質量数が109以下のテルルの同位体も、アルファ崩壊を起こします。

安定同位体の130Teの中性子捕獲によって、人工放射性核種の131Teを生成可能です。131Iを人工的に得るときに使用されています。

3. テルルの毒性

テルル単体やテルル化合物には、毒性があります。テルルは化合物を作って環境中に露出し、体内にも入りやすいです。体内でテルルは代謝され、生じたジメチルテルリド (英: dimethyltelluride) はニンニクに似た悪臭を持っています。

テルル化合物によって、鉱山労働者などに症状が多く報告されています。その場合には、暴露から遠ざけると改善可能です。具体的には、食欲不振、口渇、頭痛、悪心、傾眠、発汗停止、呼吸困難などの症状が報告されています。それ以外にも、体に青黒い斑点が現れ、発疹を生じるほか、口に金属味を感じます。