塑性加工

塑性加工とは

塑性加工

塑性加工とは、材料に外力を加えて目的の形状に変形させる加工方法です。

アルミニウムなどの材料はある程度の大きさの外力が加わると、元の形状に戻らなくなり、形状が固定されます。例えば、鋼の塊をハンマーで叩いて製作する日本刀は、塑性加工で形状が固定されています。

このように、材料を求められる形状に変形させる加工が塑性加工です。

塑性加工の使用用途

塑性加工は、金属材料の加工に利用されています。例えば、プレス加工の分野では、金属を機械式プレス機に投入し、圧力を加えることで決まった型に変形させます。

自動車のフレームなどの決まった型の製品は、塑性加工が利用されている良い例です。プレス加工機によって圧力を加え、フレームの形に加工しています。

塑性加工の原理

塑性加工は、材料が塑性域に達する性質を利用します。アルミニウムなどの材料には、ある程度の力を加えても元の形状に戻る弾性域と元の形状に戻らない塑性域が存在します。塑性加工は、元の形状に戻らない塑性域に達する性質を利用し、力を加えて製品形状を形成する加工方法です。

塑性加工が不可能な材料として、変形すると割れる脆性材料があります。例えば、ガラスなどの材料が脆性材料なので、ガラスには塑性加工を適用できません。塑性加工をさせたときに加工した材料が硬くなる現象を加工硬化と呼びます。塑性加工は、加工硬化により強度を向上できるのが特徴です。

また、材料を変形させる際は外力を加えるため、材料には応力が発生します。変形させた材料から外力を取り除いても残る応力があり、これを残留応力と呼びますが、塑性加工では残留応力を減らせる特徴があります。

塑性加工種類

1. 鍛造加工

工具や金型で金属を叩いて成形する方法です。鍛造ハンマーや鍛造プレス機などを使用して加工します。

2. 圧延加工

厚みをもった金属を引き延ばす方法で、圧延ロールの間に材料を通過させます。製鉄所で板材を作るときに使用されます。加工するための機械は代表的な2段圧延機のほか、4段圧延機やクラスターミルなどがあります。

3. プレス加工

プレス加工はせん断加工曲げ加工絞り加工の3種類の加工方法に分類されます。3種類とも塑性加工の代表的な加工方法です。加工するための機械は機械式プレス機や油圧式プレス機、ハンドプレス機などがあります。

  1. せん断加工
    板材の上下に2つの刃を用意してプレスして板材を目的の大きさや形に切断する加工法です。
  2. 曲げ加工
    金型を板金に押し当てることで、板金を金型の形状に変形させる加工法です。自動車や家電などの大量生産品に使用されます。
  3. 絞り加工
    プレス機の受け側に金型の凹部を用意し押し出し側に凸部を用意してプレスすることによって板材を凹部の形 (容器型) にする加工法です。

4. 押し出し加工

材料を金型の部屋に配置し、金型を押し込んでダイと呼ばれる金型の穴から材料を押し出す加工方法です。線材、丸棒、各棒など押し出す形状に対応した長い材料に変形させます。加工するための機械として、押出成形機 (押出機・押出プレス) などが使用されます。

5. 引き抜き加工

押し出しとは反対にダイの穴から材料を引っ張ってバー材を製作する方法です。ピアノ線や注射針のような細い線を製作します。加工するための機械は引抜成形機などです。

6. 転造加工

凹凸の付いた金型を丸棒に押し当て、平行または回転運動を与えボルトを製作します。5%以上の伸びと、最高1,700MPaまでの材料に適用できます。加工するための機械として、転造盤などが使用されます。

塑性加工のその他情報

塑性加工のメリット

1. 品質向上
塑性加工は品質向上のためにも利用されます。加工硬化により材料を硬くすることと、残留応力の除去によって品質向上を図ることが可能です。

ただし、切削加工に比べて寸法精度の品質は低下するため、寸法精度の要求が高い場合にはそれほど利用されません。

2. コスト削減
塑性加工は低コストの加工を実現します。塑性加工は、切削加工のように削りくずが発生しません。そのため、素材材料を捨てずに加工ができるので、必要な材料が切削加工よりも少なく、低コストでの加工が実現します。

ただし、製品の大きさや形状に応じて、型を製作するためのコストが高くなります。型の変更にはコストがかかるため、製品の最終形状が決まるまでは、総削りや3Dプリンタで試作を行う場合が多いです。

3. 加工時間の短縮
型を使用して自動的に加工できれば加工時間を短縮できます。生産現場では、生産数を増やすことで1個あたりの製造コストを安くすることが可能なため、自動車部品や家電などの大量生産を要する金属部品に塑性加工が多く適用されます。

深絞り加工

深絞り加工とは

深絞り加工とは、1枚の板金に型を当てて加工する方法です。

容器などの奥行きを持たせた形状に加工可能で、完成品の直径よりも深い形状に加工します。製品の直径よりも浅い形状に加工する浅絞り加工と区別されます。

使用できる材料は4つの機械的特性 (引張強さ、降伏点、伸び、硬さ) を考慮して選定可能です。深絞り加工の可否を検討する際には限界絞り比を計算します。直径Dの円盤を直径dのポンチ絞り加工する場合、限界絞り比はD/dで示されます。各材質による限界絞り比の目安として、純チタン1種は2.7で、アルミニウムは2.0です。

深絞り加工の使用用途

深絞り加工は、型を使用して1枚の板金を加工するため溶接やリベット加工品と比べると継ぎ目がない製品を短時間で製作可能です。エンジンカバー、アルミ缶、風呂容器、キャップ類などの加工に使用されています。

コストを抑えて見栄えの良い製品が作れますが、生産導入時に金型費用が発生するため、少量多品種には不向きで大量生産に向いています。深絞り加工を検討する際には、あらかじめ加工する治具が整っている業者を選ぶことで初期費用を抑えられます。

深絞り加工の原理

深絞り加工は金型によって圧を加えて成形するシンプルな加工法です。成形したい形状の凹みを持った下側の金型と、沈み込む上側の金型がセットになって1枚の板に圧力を加えます。下側の金型はダイス、上側の金型はポンチと呼ばれます。

仕組みがシンプルで少ない加工工数で品質が安定しやすいですが、金型の設計に緻密な計算が必要です。質が悪い金型を用いると、しわや割れがある欠陥品が製造される可能性もあります。

円筒、円錐、角筒など多種多様な形状の底付容器において金属の薄板を加工することができます。大量生産には適していますが、精度や品質を向上するための設計コストは高いです。

深絞り加工の種類

深絞り加工は製作する形状によって加工方法が異なります。製作する板金製品の形状が、以下6種類の加工方法のどれに該当するか把握することが大切です。

1. 円筒絞り加工

中央を空洞にした金型を挟んで空洞部から板金にパンチを打ち込み、金属塑性により成形する加工法です。鍋やフライパンの加工に使用されます。

2. 角筒絞り加工

キッチンのシンクなど、底の容器が角の形状を伴う製品に使用されます。

3. 異形絞り加工

複雑な形状を形成するために必要な加工で、自動車のプレス加工が該当します。形状の箇所によって板金にかかる応力値が異なるため形状の妥当性を確認するための強度設計が必要です。

4. 円錐絞り加工

タンブラーのような深さによって径が異なる形状を加工する方法です。円形の板金を回転させながら、へらと呼ぶ棒を押し当てながら加工します。

5. 角錐絞り加工

円錐加工のように深さ方向に形状が異なる容器を製作する方法ですが、奥行形状に平面部がある点が特徴です。角錐形状の加工に用いられます。

6. 球頭絞り加工

調理に用いるボウルなど、球体の面を形成する製品に使われます。

深絞り加工の選び方

深絞り加工では、まずブランク形状や寸法を決めます。最初に絞る初絞りの後に続く再絞りも考慮しながら設計が必要です。次に絞り工程数を検討します。絞り率を基準に1回あたりの搾り径を計算し、絞り工程数を決めます。

深絞り加工のためにはダイスとパンチの金型の設計も必要です。ダイスの金型は、ダイスの中にパンチが入り込んだときの隙間を基準にして直径を算出し、フランジの幅に合わせて押さえ台の幅を設定します。押さえ台の設計が甘い場合にはフランジ部成形時にしわが生じます。

使用するプレス機械は、算出した絞り加工力を基準にしてトルク出力を満たすように選び、加工の対象となる絞り材料を選定します。潤滑油には水性タイプと油性タイプの2種類が存在します。

炭酸水素アンモニウム

炭酸水素アンモニウムとは

炭酸水素アンモニウムとは、炭酸のアンモニウム塩で、別名重炭酸アンモニウムや重炭安とも呼ばれる物質です。

分子式NH₄HCO₃で表され、分子量79.06g/molです。化学物質固有の番号であるCAS番号は、1066-33-7が割り当てられています。炭酸水素アンモニウムは、アンモニア水と二酸化炭素の合成により製造可能です。

常温常圧では、無色または白色の結晶性粉末として存在しており、分解することで強いアンモニア臭が生じます。また、水に対する溶解度は30℃で27g/100mlと溶けやすく弱アルカリ性の水溶液となるものの、エタノールやアセトンなどほとんどの有機溶媒には溶けないという性質を持っています。

炭酸水素アンモニウムの使用用途

炭酸水素アンモニウムは、古くから欧米や中国でベーキングパウダー (膨張剤) として用いられてきました。日本では重曹の方がベーキングパウダーとして馴染みがありますが、炭酸水素アンモニウムはサクサクとした食感を与えるといった特徴があり、主に業務用として用いられています。また、より低温で膨張しやすいという特徴を活かし、光熱費の削減を目的としてお菓子に使用される場合も多いです。

炭酸水素アンモニウムは、多くのカラートリートメントにpH調整剤として配合されています。酸性が強くなるほど髪のキューティクルが閉じてしまうため、染毛料が入りにくくなることがあります。その際に、炭酸水素アンモニウムで髪を一時的に弱アルカリ性にすることで、キューティクルを少し開かせ、染料が浸透しやすくしています。

その他、食品加工用途や咳止めシロップ、制酸剤も用途の1つです。化学実験でのpH緩衝液 (バッファー) や試薬、工業用途では肥料、染料、医薬品、触媒、セラミック、難燃剤、プラスチックの製造等に使用されています。

炭酸水素アンモニウムの性質

加熱により分解されると、アンモニアと二酸化炭素および水が生成します。また、炭酸水素アンモニウム自体は不燃性ですが、分解物のアンモニアガスは引火性であるため注意が必要です。

水酸化ナトリウムなどの強塩基と混触するとアンモニアガスを生じ、酸と激しく反応することで炭酸ガスを発生します。また、食品添加物のバニリンや糖類 (特に単糖) などアルデヒド基を有する物質と混触することで、炭酸水素アンモニウムに含まれるアンモニアが反応して着色するという性質があります。

炭酸水素アンモニウムは、国際化学物質安全性カードに収録されています。吸入すると咳や咽頭痛を憶えたり、目に入ることで発赤や痛みを感じたりするため大変危険です。さらに、皮膚への刺激性もあると報告されています。そのため、カラートリートメントとして使用する際に頭皮に刺激を感じるようであれば、炭酸水素アンモニウムが含まれていないカラートリートメントを選んだ方が無難です。

炭酸水素アンモニウムのその他情報

1. 炭酸水素アンモニウムの法規情報

  • 消防法: 非該当
  • 毒物及び劇物取締法: 非該当
  • 化学物質排出管理促進法 (PRTR法) : 非該当
  • 航空安全法及び航空法: 非該当
  • 水質汚濁防止法: 有害物質 (施行令第二条)
  • 輸出貿易管理令: 非該当

2. 取扱い及び保管上の注意

  • 直射日光を避け、換気のよいなるべく涼しい場所に保管する。
  • ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン製の容器での保存を推奨する。
  • 強酸との混触を避ける。
  • やや吸湿性があるため、容器を密閉して保管する。
  • 湿気、水、高温体との接触を避ける。
  • 35℃以上で分解が生じやすいため、25℃以下で保管する。
  • 火災によってアンモニアや一酸化炭素などの有害ガスが発生するおそれがあるため、扱いには十分に注意する。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/01304250.pdf
https://www.recolor.jp/seibun/ammonium.html

水酸化カルシウム

水酸化カルシウムとは

水酸化カルシウムとは、カルシウムの水酸化物です。

消石灰 (英: Slaked lime) とも呼ばれています。水溶液は石灰水 (英: Lime water) と呼ばれ、二酸化炭素を検出する試薬として用いることが可能です。

天然ではポートランダイト (英: Portlandite) として産出します。工業的な製造方法として乾式消化法が知られており、酸化カルシウムに水を加えて消化させた後、余分な水分を蒸発して水酸化カルシウムを得ています。

水酸化カルシウムの使用用途

水酸化カルシウムは、主にこんにゃくの凝固剤として添加されるほか、糖、食肉加工品などのpH調整に使われています。建築分野では漆喰、モルタルの材料として使用されています。

革製造では皮表面の処理に、水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を使うことが可能です。他にも、さらし粉の原料、歯の根管治療の根管貼薬など、さまざまな形で利用されています。

また、強アルカリ性であるため、排ガス・排水の中和処理や酸性土壌の中和剤として利用可能です。また、畜産・農業分野では土壌のミネラル補給を目的として用いられる以外にも、畜舎に散布して防疫に役立てられています。

水酸化カルシウムの性質

水酸化カルシウムは、無色の結晶または白色の粉末です。グリセリンには溶けますが、エタノール、エーテルにはほとんど溶けません。水に少し溶解し、飽和溶液の電離度は約0.8です。

そのため、水溶液や懸濁液は強アルカリ性を示します。ただし、アルカリ金属の水酸化物と比べて溶解度がはるかに低いため、塩基としての作用は弱いです。水への溶解熱は発熱的であり、温度が上がると溶解度は減ります。具体的には、100gの水に対して、溶解度は0℃で0.18 g、50℃で0.13g、100℃で0.077gです。

水酸化カルシウムは強塩基ですが、劇物指定を受けていません。塩基であり、酸と中和反応が起こります。例えば、塩酸との中和反応によって、塩化カルシウムと水が生成します。

水酸化カルシウムの構造

水酸化カルシウムは、水酸化物イオンとカルシウムイオンから構成されるイオン結晶です。水中に放置すると、六方晶系の板状晶になります。

化学式はCa(OH)2、モル質量は74.0927g/mol、密度は2.211g/cm3です。

水酸化カルシウムのその他情報

1. 水酸化カルシウムの反応

水酸化カルシウムの飽和水溶液に二酸化炭素を吹き込むと、炭酸カルシウムが析出するため白く濁ります。生成した炭酸カルシウムが、水に溶けにくいためです。二酸化炭素を過剰に吹き込んだ際には、炭酸カルシウムが二酸化炭素や水と結合して、炭酸水素カルシウムが生成します。

炭酸水素カルシウムは水に溶けるため、濁りがなくなります。水酸化カルシウムは、アンモニアの発生実験にも使用可能です。つまり、実験室で塩化アンモニウムと水酸化カルシウムを混合して熱すると、アンモニアが発生します。

また、580℃まで水酸化カルシウムを加熱すると分解して、酸化カルシウムを得ることが可能です。さらに、水酸化カルシウムは塩素を吸収すると、次亜塩素酸カルシウムが生成します。

2. 水酸化カルシウムの危険性

水酸化カルシウムの水溶液は、粘膜や皮膚を侵します。とくに目に入ると、角膜や結膜に障害が起きる可能性があり、失明する危険性もあります。したがって、速やかに十分な流水で洗眼して、すぐ眼科医の診察を受けるべきです。その一方で、胃に入っても胃液で中和されるので、人体への影響は少ないです。

ただし、大量に摂取すると、呼吸困難、血圧上昇、内出血、肝機能障害、腎機能障害などを起こす可能性があります。以前は白線用としてラインパウダーに、水酸化カルシウムが使用されていました。現在では校庭の白線を引くために、より安全な炭酸カルシウムを用いています。

水酸化カルシウムは、微生物の繁殖も抑制できます。そのため、中世ヨーロッパのペストの流行時には、家に消石灰を撒く対策が実施されていました。現代でも防疫対策として、消石灰が利用されます。

塩化カルシウム

塩化カルシウムとは

塩化カルシウムとは、カルシウム塩素の化合物です。

天然では南極石などごく限られた鉱石として産出し、微量ながら海水中にも含まれています。物性は無色または白色の結晶で潮解性を有し、水に溶けやすく、エタノールアセトンにも溶けます。

塩化カルシウムの使用用途

1. 乾燥剤

塩化カルシウムは吸湿性に優れており、吸湿容量はシリカゲルの5倍程度ありますので、タンスやクローゼットなどの除湿剤として広く使われています。食品用の乾燥剤としては、潮解性がないように工夫されたものが製造されています。塩化カルシウムの吸湿は化学的吸着 (共有結合)によるものであり

活性炭やシリカゲルの物理的吸着 (ファンデルワールス吸着) とは異なります。路面に撒くことで、湿り気を与えてホコリの発生を防ぐことができるため、グランドやテニスコート・未舗装道路の防塵にも効果があります。

2. 融雪剤・凍結防止剤

塩化カルシウムは水分と反応して溶解熱 (285J/g) を発します。また、塩化カルシウム水溶液 (濃度30%) は、凝固点降下により-50℃近くになるまで凍らないため、道路の凍結防止剤、融雪剤として利用されています。他の凍結防止剤としては、塩化ナトリウム塩化マグネシウムなどがあります。

3. 医薬品

医療の分野でも注射液、輸液などに使われています。骨粗鬆症の治療にも使用されることがあります。

4. 食品

食品添加物として認められており、アルコール飲料、清涼飲料水の硬度・pH調整やチーズ、豆腐などの凝固剤として用いられています。

5. 石油化学

塩化カルシウムは、石油化学工業においても広く使用されています。例えば、油田での採油時において、地下の水分を吸収することで、オイルリザーバー内の水分を減らし、採油効率を上げることができます。また、エチレンガスの脱水にも利用され、エチレンを高純度で取り出すことができます。

6. その他の使用用途

塩化カルシウムは石膏 (CaSO4・2H2O) の原料としても用いられます。石膏は硫酸ナトリウムなどの硫酸塩とカルシウム塩の反応によって生成しますこのように人工的に作られた石膏を化学石膏と呼びます。

また、排水のフッ素除去にも塩化カルシウムが用いられます。フッ素含有廃液に塩化カルシウムなどのカルシウム化合物を添加することで、フッ化カルシウム (CaF2) として沈殿し、フッ素を除去することができます。そのほかのフッ素除去方法としては、アルミニウムを用いて水酸化物を共沈させる方法があります。

塩化カルシウムの性質

塩化カルシウムの分子量は111、比重は2.15、融点は772℃、CAS番号は10043-52-4です。溶解度は20℃のとき、水100mLに対して74.5 gです。塩化カルシウムを溶融塩電解することにより、カルシウムを単離することができます。炎色反応では濃い橙色を示します。

塩化カルシウムの種類

塩化カルシウムは水和物としても存在します。製品としては、液体としても扱われています。そのほかには、原料別、グレード別、産業別用途などの分類があります。

1. 塩化カルシウム二水和物 (CaCl2・2H2O)

塩化カルシウムの分子量は147.01、比重は0.835、融点は175.5 ℃、CAS番号は10035-04-8です。水に溶けやすく、エタノールにもやや溶けます。鉱物であるシンジャル石の主成分です。

2. 塩化カルシウム六水和物 (CaCl2・6H2O)

南極石の主成分であり、針状結晶鉱物です。三方晶系で、比重は1.7程度、融点は29.8 ℃です。低い融点から、結晶成長の教材としても用いられています。

塩化カルシウムのその他情報

塩化カルシウムの製造方法

工業的には、アンモニアソーダ法(ソルベー法)による炭酸ナトリウムの製造工程(消石灰と塩化アンモニウムを反応させる工程)で塩化カルシウムを得ています。塩酸と石灰石 (CaCO3) や水酸化カルシウム (Ca(OH)2) を反応させることでも、塩化カルシウムが得られます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10043-52-4.html

塩化アンモニウム

塩化アンモニウムとは

塩化アンモニウムとは、化学式NH4Clで表される無機化合物です。

塩化アンモン、塩安と呼ばれることもあります。無色または白色の結晶で、少し吸湿性があります。水に溶けやすく、無臭で辛みと苦味があります。水酸化ナトリウム等の強塩基と混合するとアンモニアを発生します。また、強熱すると昇華し、アンモニアと塩化水素 (ガス) に分解されます。

水溶液は中性~弱酸性であるが、煮沸するとアンモニアが放出され、酸性となります。窒素含有量が25%程度あり、窒素肥料の1種でもあります塩化アンモニウム以外の窒素肥料としては、硫酸アンモニウム硝酸アンモニウム尿素などが知られています。

塩化アンモニウムの使用用途

塩化アンモニウムの主な使用用途は下記の通りです。

1. 化学反応実験

塩化アンモニウムは、分析用試薬として、主にpH緩衝液として汎用されております。また、グリニャール試薬を用いた反応などのクエンチ剤としても使用されます。

2. 食品添加物

食品添加物としては、国内では厚労省で、また、米国食品医薬品局 (FDA) や、EUでも食品添加物としても認められており、ベーキングパウダー等の原料として使用されております。フィンランドの有名なリコリス菓子である、サルミアッキという飴にも使用され、独特な匂いと塩辛い味をもたらします。

3. メッキ処理

亜鉛のメッキ処理において、フラックス処理と呼ばれる工程があります。酸洗浄を行った後、メッキ処理の前にフラックス処理がなされ、塩化アンモニウムと塩化亜鉛の混合水溶液が用いられます。フラックス処理の目的は以下の4つです。

  1. 酸洗浄後の基材表面への錆び防止
  2. 鉄亜鉛合金化阻害物の基材への付着防止
  3. 酸化亜鉛除去
  4. 溶融亜鉛の基材表面での流動性の向上

4. その他

工業的には、薬品の製造原料、乾電池、染料、写真薬原料など幅広い用途で用いられております。また、肥料用、医薬・医薬部外品配合原料としても重要な役割をしています。

塩化アンモニウムの性質

分子量は53.49で、比重は1.527です。338℃で分解します。非常に水に溶けやすく、溶解度は25℃の水100mLに対して28.3gです。塩化アンモニウム1wt%水溶液のpHは5.5です。水には溶けやすいですが、エタノールには溶けにくいです。吸熱反応の例として、塩化アンモニウムと水酸化バリウムの反応がよく知られています。

塩化アンモニウムの構造

塩化アンモニウムはイオン性化合物であり、陽イオンのアンモニウムイオン (NH4+) と陰イオンの塩化物イオン (Cl-) から構成されます。結晶構造では、アンモニウムイオンと塩化イオンが交互に配列し、イオン結合によって結びついています。塩化アンモニウムは塩化セシウム型構造をとり、塩化イオンは水素結合を形成します。

アンモニウムイオンは四面体構造をしており、窒素原子を中心に水素原子が四方向に配位しています。塩化物イオンは単純なイオンとして存在し、塩化アンモニウムの結晶中では陰イオンとして配位します。

塩化アンモニウムのその他情報

塩化アンモニウムの製造方法

塩化アンモニウムは、アンモニア (NH3) と塩酸 (HCl) を反応させることで生成されます。アンモニウムも塩化水素も揮発性が高く、通常は液相で反応させます。反応液を加熱して水分を蒸発させ、固形物として塩化アンモニウムを得ます。

工業的な生産方法として、塩化アンモニウムは塩安ソーダ併産法により、塩化ナトリウムと炭酸ナトリウムの生産副産物として製造されています。炭酸ナトリウムの製造法である、アンモニアソーダ法 (ソルベー法) では、反応過程で塩化アンモニウムが生成しますが、水酸化カルシウムとの反応により、最終的に得られる副産物は塩化カルシウムです。塩安ソーダ併産法では副産物として塩化アンモニウムを得ることができ、低コストで大量に生産することが可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/12125-02-9.html
https://www.jsia.gr.jp/history/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/66/3/66_95/_pdf/-char/ja

ヨード

ヨードとは

ヨード (英: Iodine) とは、分子式I2で表される二原子分子である単体のヨウ素の別名です。

元素としてのヨウ素は原子番号53のハロゲン原子であり、二原子分子を形成します。ヨウ素分子I2のCAS登録番号は、7553-56-2です。人間にとって必要不可欠なミネラルの1つであり、人間の体内では甲状腺に多く存在します。

また、甲状腺から分泌されるホルモンの主要な構成成分です。ヨードは海のミネラルとも呼ばれ、コンブやワカメなどの海藻や魚介類に多く含まれています。

ヨードの使用用途

ヨードは、化学、医学を中心に幅広い分野において、多様な用途で使用されている物質です。主なものを下記に列挙します。

  • 有機合成の中間体及び触媒、有機化合物安定剤、希有金属の製錬、分析用試薬
  • 医薬品、保健薬、殺菌剤
  • 診断治療、内科放射治療 (放射性ヨウ素131)
  • 家畜飼料添加剤、染料、写真製版、農薬
  • 薄層膜厚測定、送水管の欠陥検査、油田の検出

1. 分析化学

ヨウ素 (ヨード) の溶液は、デンプンを加えると、ヨウ素デンプン反応を起こして青紫色を呈する性質があります。この性質を活かしてヨウ素滴定 (ヨードメトリー) が行われたりします。

2. 医療分野

ヨウ素 (ヨード) は、消毒薬として広く用いられている物質です。代表的な消毒液には、ヨードチンキ (ヨウ素のアルコール溶液) や、ルゴール液 (ヨウ素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液) 、ポビドンヨード (ヨウ素とポリビニルピロリドンの錯化合物) があります。

その他には、血管や各種臓器の診断に用いられるレントゲン造影剤の原料や、うがい薬があります。

3. その他産業分野

ヨードは、工業用触媒や農業分野でも使用されている物質です。防かび剤の原料等にも用いられます。さらに、最近では液晶パネルの偏光フィルム、太陽電池などのハイテク分野でも活用されています。

ヨードの性質

ヨードの基本情報

図1. ヨードの基本情報

ヨード (ヨウ素) は、分子量253.808、融点113.7℃、沸点184.4℃であり、常温での外観は黒紫色で光沢のある結晶です。刺激臭を有し、昇華性があります。

液体の状態では、赤褐色をしており、気体は紫色です。密度は4.933g/mL、エタノール及びジエチルエーテルに溶けやすく、水に溶けにくい物質です。水への溶解度は0.3g/Lです。

ヨードの種類

ヨードは、主に研究開発用試薬製品や、産業用化学薬品などとして販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

ヨードは、研究開発用試薬製品としては、主に医薬原料、試液調製原料、有機合成原料などに用いられます。容量の種類には、5g、25g、100g、500gなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供が中心です。昇華性があることから、通常冷蔵で輸送・保管されることの多い物質です。

2. 産業用化学薬品

産業用化学薬品としては、ヨードは20kgファイバードラムや50kgファイバードラムなどの荷姿で提供されている物質です。工場などで取り扱いやすい、大型容量での提供が中心となっています。

主に、レントゲン造影剤、殺菌防カビ剤、液晶関連などの一般工業や、医薬・保健薬・分析用試薬・有機化合物安定剤・飼料などの用途を中心として想定されている製品です。

ヨードのその他情報

1. ヨウ化カリウム水溶液への溶解

ヨードのヨウ化物イオンとの反応

図2. ヨードのヨウ化物イオンとの反応

ヨウ素 (ヨード) は水にはあまり溶解しませんが、ヨウ化カリウム (KI) 水溶液には溶解します。これは、ヨウ化物イオンと反応して三ヨウ化物イオンを形成するためであると考えられています。

2. ヨウ素結晶の特性

ヨウ素の結晶は斜方晶系の構造を持ち、反磁性を示します。電気抵抗率 (0℃) は1.3×107Ω⋅m、熱伝導率 (300K) は0.449 W/(m⋅K)です。酸化力は、フッ素、塩素、臭素のほかのハロゲン元素よりも小さいです。

3. ヨードの有害性

ヨードの有害性

図3. ヨードの有害性

ヨウ素はGHS分類において下記の様な有害性が認められています。取り扱いの際は、適切な排気設備や個人用保護具を使用することが必要です。

  • 急性毒性 (経口) : 区分4
  • 急性毒性 (吸入:蒸気) : 区分1
  • 皮膚腐食性及び刺激性: 区分2
  • 眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性: 区分2
  • 皮膚感作性: 区分1
  • 特定標的臓器毒性 (単回ばく露) :  区分3 (気道刺激性)
  • 特定標的臓器毒性 (反復ばく露): 区分1 (甲状腺)

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7553-56-2.html

メチルイソブチルケトン

メチルイソブチルケトンとは

メチルイソブチルケトンとは、分子式 C6H12Oで表される有機化合物の1つです。

IUPAC命名法においては、4-メチル-2-ペンタノンと命名されます。メチルイソブチルケトンは、アセトンを原料として、3段階の過程で合成可能です。第1段階では、2分子のアセトンをアルドール反応にてジアセトンアルコールに変換します。

第2段階で、ジアセトンアルコールを脱水することで、メシチルオキシドとなり、最後にメシチルオキシドを水素化することで、メチルイソブチルケトンが合成されます。

メチルイソブチルケトンの使用用途

メチルイソブチルケトンは、有機化合物を常温で溶解させる特性を利用し、合成樹脂などの溶媒、塗料用の溶剤として多く用いられています。

そのほか、接着剤、インキ、脱油剤、医薬品抽出用の溶剤、不凍液の原材料、エチルセルロース、硝化綿用の溶剤、特殊な金属用の抽出用の溶剤、ゴム薬品、写真現像用の溶剤、磁気テープ用の溶剤など、非常に用途が幅広いです。また。広く医療に使用されているペニシリン類の抽出溶剤として利用できます。

メチルイソブチルケトンの性質

メチルイソブチルケトンは、分子量100.16、CAS番号 108-10-1で表される特異的な甘い臭いがある液体 (20℃、1気圧) です。

1. 物理的性質

熱的性質は、融点-80℃、沸点、初留点及び沸騰範囲116.50 ℃、引火点18℃、自然発火温度448℃、爆発下限界及び爆発上限界、可燃限界濃度1.4~7.5 vol% (空気中) です。

蒸気圧は、 2.1 kPa (20℃) 、密度及び、又は相対密度は 0.80  (水=1) 、相対ガス密度は 3.45 (空気=1) です。購入するメーカーによって数値が前後するため、使用前にSDS等の取り扱い説明書を確認する必要があります。

2. 化学的性質

水への溶解度は、1.91g/100 ml (20℃) です。エタノール、エーテル、アセトン、ベンゼンに容易に溶解します。引火性が高く、揮発性があります。蒸気は空気とよく混合し、爆発性混合物を生成しやすいです。また強酸化剤および強還元剤と激しく反応します。

使用する際は、熱、空気、強酸化剤、強還元剤との接触を避ける必要があります。

メチルイソブチルケトンのその他情報

1. 安全性

消防法において、第4類引火性液体に分類されます。GHSにおいては、引火性液体、急性毒性 (吸入:蒸気) 、眼に対する重篤な損傷性および眼刺激性、発がん性、 特定標的臓器毒性 (単回、反復暴露) に分類されます。

非常に危険な、引火性の高い液体および蒸気を発生させ、吸引すると人体に有毒です。眼および呼吸器への刺激の危険性があり、眠気またはめまいを引き起こす可能性があります。

長期または反復暴露によって中枢神経系に障害を起こす危険性があります。

2. 取扱方法

使用者は、保護手袋、保護眼鏡、保護衣を着用し、状況に応じて適切な呼吸器系保護具 (防毒マスク) を着用します。防毒マスクは、日本工業規格に適合したものを使用します。

作業場は、洗眼及び身体洗浄のための設備が必要です。また全体換気を行い、可能であれば取り扱い場所は、密閉系とし局所排気装置の設置を行います。

引火性が非常に高いことから、設備は、防爆型の電気機器、換気装置、照明機器を使用し、静電気放電に対する対策が必要です。取り扱い時は、飲食、喫煙を避け、取り扱い後はよく手を洗います。

3. 保管

換気の良く涼しいところで、容器を密閉し、施錠して保管します。保管場所は耐火構造とし、強酸化剤などの混触危険物質と離れた場所で保管を行います。

保管容器に不適切な材料は銅です。消防法および国連危険物輸送勧告モデル規則で規定されている保管容器を使用します。廃棄時は、都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼します。

4. 化学物質排出把握管理促進法 (化管法) 

化学物質排出把握管理促進法 (化管法) とは、PRTR制度とSDS制度を柱として、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした法律です。

メチルイソブチルケトンは、特定化学物質 (第2類物質) に分類されており、事業者は作業主任者の選任、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施が義務付けられています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/108-10-1.html
https://www2.env.go.jp/chemi/prtr/factsheet/factsheet/pdf/fc00737.pdf

マルトール

マルトールとは

マルトール (英: Maltol) とは、環状ケトン・エーテル・アルコール化合物です。

IUPAC名は3-ヒドロキシ-2-メチル-4H-ピラン-4-オン (英: 3-Hydroxy-2-methyl-4H-pyran-4-one) です。別名として、3‐ヒドロキシ‐2‐メチル‐4‐ピロン (英: 3-Hydroxy-2-methyl-4-pyrone) やベルトール (英: Veltol) 、パラトン (英: Palatone) 、ラリキシン酸 (英: Larixic acid) とも呼ばれます。

天然には、カラマツの樹皮や松葉、木材のタールやオイル、小麦、大豆、バターなどに含まれており、麦芽コーヒーの製造時、薫煙凝縮物として生成されます。

マルトールの使用用途

マルトールは、主に食品分野で香料として使用されています。具体的な使用例は、パンやケーキに焼きたての香りや風味を与える食品香料や果実フレーバーなどです。フルーツフレーバーとしては、30ppmまでの濃度で使用され、5~75ppmの濃度で使用するとマルトールは食品の甘味を増強します。その他の添加される製品は、ビールなどのアルコール飲料や動物の飼料などです。

トドマツの葉からの抽出物は、香料原料としても使用されており、通常3〜8%のマルトールを含みます。この抽出物は、カラメルノートを持つアロマ組成物や、例えばフルーツフレーバー (特にストロベリーフレーバー組成物) として味の増強剤として使用されてきました。

マルトールは、一般に、本質的に無毒で刺激性のない物質とみなされていますが、WHOは、マルトールの1日許容摂取量を1 mg/kg体重までとしています。

マルトールの性質

化学式はC6H6O3で表され、分子量は126.11です。CAS番号は118-71-8で登録されています。融点は161.5°Cで、93℃で昇華する常温で白色の結晶です。

特徴的なキャラメルのような香りを持ち、希薄溶液ではフルーティーなイチゴ様の香りを呈します。200ppmほどで、甘く、キャラメルや綿菓子、フルーティーでジャムのようなイチゴのニュアンスの味を示します。エタノールやプロピレングリコールなどのアルコール、クロロホルムベンゼン、エーテル、アセトンなどに可溶です。水へは、15℃で10.9 mg/mLほど溶けます。

酸性・アルカリ性の程度を表すpHは5.3 (0.5%の水溶液) 、酸解離定数 (pKa) は8.6です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKaが小さいほど強い酸であることを示します。

マルトールのその他情報

1. マルトールの製造法

マルトールは主に、ブナの木やその他の木材のタール、松葉、チコリ、カラマツの若木の樹皮などの天然に存在するものから単離されます。また、フルフラールまたはピぺリジンを出発原料とする多段階合成やストレプトマイシン塩のアルカリ加水分解によっても生成可能です。

クロロホルムやトルエン、50%のエタノール水溶液などから再結晶により精製できます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
強酸化剤は、マルトールの混触危険物質です。取り扱い時または保管時に、接触させないよう気を付けてください。取り扱う際は、保護手袋と長袖の作業衣、側板付き保護眼鏡など適切な保護具を着用します。

必要に応じて、粉塵マスクなどを使用してください。使用後は、手や顔を洗います。

火災の場合
熱分解で、一酸化炭素や二酸化炭素などの刺激性で有毒なガスと蒸気を放出するおそれがあります。消火の際は、水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、乾燥砂などを使用します。棒状放水は行わないでください。

保管する場合
マルトールは光により変質する恐れがあります。容器を密閉し、直射日光や熱、火花、裸火のような着火源を避け、換気の良い冷所で保管してください。保管場所は施錠します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/118-71-8.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0611JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/8369

トリフルオロ酢酸

トリフルオロ酢酸とは

トリフルオロ酢酸とは、CAS登録番号76-05-1、化学式 CF3COOHで表されるカルボン酸です。

一般には、TFAと略称されることが多く、トリフルオロメタンスルホン酸 (TFSA) に次ぐ強さをもつ有機酸として知られています。1922年に初めて合成されて以来、特徴的な性質を持つ重要な化学的物質であることから、広くさまざまな目的のために、有機化学の世界で使用されています。

需要は世界で年数百トン、国内で数十トンと推定されています。

トリフルオロ酢酸の使用用途

トリフルオロ酢酸は、有機合成原料、調製液原料、医薬・農薬中間体、電子材料製造原料及び溶媒などに利用されます。その他工業用途では、酸触媒として、各種付加反応、エステル化、縮合反応触媒に用いられます。

1. 有機合成原料

トリフルオロ酢酸は、無水トリフルオロ酢酸やトリフルオロ酢酸エステル等の原料です。無水トリフルオロ酢酸はトリフルオロアセチル化剤として使用されています。

例えば、GC/MS分析ではアミンやアルコールを無水トリフルオロ酢酸を用いて誘導体化することで、分析感度を高くできる場合があります。

R-NH2 + (CF3CO)2O → R-NHCOCF3 + CF3COOH

R-CH2-OH + (CF3CO)2O → R-CH2-OCOCF3 + CF3COOH

無水トリフルオロ酢酸は、トリフルオロ酢酸とα位がハロゲン化された酸塩化物 (ジクロロ塩化アセチルなど) を反応させることで合成できます。

2CF3COOH + Cl2CHCOCl → (CF3CO)2O + Cl2CHCOOH + HCl

また、トリフルオロ酢酸を五酸化二リンで脱水することでも得られます。

2. 医薬・農薬の合成

医薬・農薬の原料としては特に、含フッ素系除草剤中間体としての需要が大きいです。また、医薬品などの合成ではアミノ基の保護基として、t-ブトキシカルボニル基 (Boc基) が頻繁に用いられますが、Boc基の脱保護試薬としてトリフルオロ酢酸を使用されています。

トリフルオロ酢酸の性質

トリフルオロ酢酸は、沸点72℃、密度1.49g/cm3で、常温では刺激臭のある無色の液体です。水に溶けやすく、エタノールやアセトン、エーテルなどの有機溶媒にもよく溶けるため、有機合成で使用しやすい酸です。

低沸点なので揮発しやすく、蒸気は有毒であるため局所排気が設置されている場所で使用する必要があります。また、眼や皮膚に対しても刺激性が高いため、使用時は手袋や保護メガネなどの着用が必須です。

金属に対しての腐食性も高く、使用条件によってはステンレスなども腐食します。そのため、使用する器具や保管容器はガラス製が推奨されています。

トリフルオロ酢酸のその他情報

1. トリフルオロ酢酸の酸性度

トリフルオロ酢酸は、酢酸のメチル基の水素をすべてフッ素で置換した構造をしており、プロトン電離後のアニオン (共役塩基CF3COO) はフッ素原子の電子吸引効果により安定性が高くなっています。そのため、プロトンを放出しやすく、酸性度は酢酸よりも高いです。

また、置換したフッ素原子の数が多いほど、共役塩基の安定性は高くなるため、酸性度は次のようになります。

CF3COOH > CF2HCOOH > CFH2COOH > CH3COOH

数値で比較すると、プロトンの解離しやすさを表す定数である酸解離定数 (pKa) は酢酸は4.8 (水中) 、トリフルオロ酢酸は-0.3 (水中) です。pKaが低いほど酸を解離しやすい強い酸であるため、トリフルオロ酢酸は酢酸よりも強い酸であるといえます。

2. トリフルオロ酢酸の製造方法

トリフルオロ酢酸の製造方法には下記のものがあります。

  • CCl3COClのHFによる気相フッ素化法
  • CH3COFの電解フッ素化法
  • R-123 (CF3CHCl2) の気相酸素酸化 法
  • R-113a (CF3CCl3) のSO3酸化法

また、合成的には酢酸のフッ素化反応 (シモンズ法) が有用な反応として知られています。シモンズ法は酢酸とフッ化水素の混合物を電気分解することで、トリフルオロ酢酸が得られる反応法です。