ヨードとは
ヨード (英: Iodine) とは、分子式I2で表される二原子分子である単体のヨウ素の別名です。
元素としてのヨウ素は原子番号53のハロゲン原子であり、二原子分子を形成します。ヨウ素分子I2のCAS登録番号は、7553-56-2です。人間にとって必要不可欠なミネラルの1つであり、人間の体内では甲状腺に多く存在します。
また、甲状腺から分泌されるホルモンの主要な構成成分です。ヨードは海のミネラルとも呼ばれ、コンブやワカメなどの海藻や魚介類に多く含まれています。
ヨードの使用用途
ヨードは、化学、医学を中心に幅広い分野において、多様な用途で使用されている物質です。主なものを下記に列挙します。
- 有機合成の中間体及び触媒、有機化合物安定剤、希有金属の製錬、分析用試薬
- 医薬品、保健薬、殺菌剤
- 診断治療、内科放射治療 (放射性ヨウ素131)
- 家畜飼料添加剤、染料、写真製版、農薬
- 薄層膜厚測定、送水管の欠陥検査、油田の検出
1. 分析化学
ヨウ素 (ヨード) の溶液は、デンプンを加えると、ヨウ素デンプン反応を起こして青紫色を呈する性質があります。この性質を活かしてヨウ素滴定 (ヨードメトリー) が行われたりします。
2. 医療分野
ヨウ素 (ヨード) は、消毒薬として広く用いられている物質です。代表的な消毒液には、ヨードチンキ (ヨウ素のアルコール溶液) や、ルゴール液 (ヨウ素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液) 、ポビドンヨード (ヨウ素とポリビニルピロリドンの錯化合物) があります。
その他には、血管や各種臓器の診断に用いられるレントゲン造影剤の原料や、うがい薬があります。
3. その他産業分野
ヨードは、工業用触媒や農業分野でも使用されている物質です。防かび剤の原料等にも用いられます。さらに、最近では液晶パネルの偏光フィルム、太陽電池などのハイテク分野でも活用されています。
ヨードの性質
図1. ヨードの基本情報
ヨード (ヨウ素) は、分子量253.808、融点113.7℃、沸点184.4℃であり、常温での外観は黒紫色で光沢のある結晶です。刺激臭を有し、昇華性があります。
液体の状態では、赤褐色をしており、気体は紫色です。密度は4.933g/mL、エタノール及びジエチルエーテルに溶けやすく、水に溶けにくい物質です。水への溶解度は0.3g/Lです。
ヨードの種類
ヨードは、主に研究開発用試薬製品や、産業用化学薬品などとして販売されている物質です。
1. 研究開発用試薬製品
ヨードは、研究開発用試薬製品としては、主に医薬原料、試液調製原料、有機合成原料などに用いられます。容量の種類には、5g、25g、100g、500gなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供が中心です。昇華性があることから、通常冷蔵で輸送・保管されることの多い物質です。
2. 産業用化学薬品
産業用化学薬品としては、ヨードは20kgファイバードラムや50kgファイバードラムなどの荷姿で提供されている物質です。工場などで取り扱いやすい、大型容量での提供が中心となっています。
主に、レントゲン造影剤、殺菌防カビ剤、液晶関連などの一般工業や、医薬・保健薬・分析用試薬・有機化合物安定剤・飼料などの用途を中心として想定されている製品です。
ヨードのその他情報
1. ヨウ化カリウム水溶液への溶解
図2. ヨードのヨウ化物イオンとの反応
ヨウ素 (ヨード) は水にはあまり溶解しませんが、ヨウ化カリウム (KI) 水溶液には溶解します。これは、ヨウ化物イオンと反応して三ヨウ化物イオンを形成するためであると考えられています。
2. ヨウ素結晶の特性
ヨウ素の結晶は斜方晶系の構造を持ち、反磁性を示します。電気抵抗率 (0℃) は1.3×107Ω⋅m、熱伝導率 (300K) は0.449 W/(m⋅K)です。酸化力は、フッ素、塩素、臭素のほかのハロゲン元素よりも小さいです。
3. ヨードの有害性
図3. ヨードの有害性
ヨウ素はGHS分類において下記の様な有害性が認められています。取り扱いの際は、適切な排気設備や個人用保護具を使用することが必要です。
- 急性毒性 (経口) : 区分4
- 急性毒性 (吸入:蒸気) : 区分1
- 皮膚腐食性及び刺激性: 区分2
- 眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性: 区分2
- 皮膚感作性: 区分1
- 特定標的臓器毒性 (単回ばく露) : 区分3 (気道刺激性)
- 特定標的臓器毒性 (反復ばく露): 区分1 (甲状腺)
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7553-56-2.html