水酸化カルシウムとは
水酸化カルシウムとは、カルシウムの水酸化物です。
消石灰 (英: Slaked lime) とも呼ばれています。水溶液は石灰水 (英: Lime water) と呼ばれ、二酸化炭素を検出する試薬として用いることが可能です。
天然ではポートランダイト (英: Portlandite) として産出します。工業的な製造方法として乾式消化法が知られており、酸化カルシウムに水を加えて消化させた後、余分な水分を蒸発して水酸化カルシウムを得ています。
水酸化カルシウムの使用用途
水酸化カルシウムは、主にこんにゃくの凝固剤として添加されるほか、糖、食肉加工品などのpH調整に使われています。建築分野では漆喰、モルタルの材料として使用されています。
革製造では皮表面の処理に、水酸化カルシウムの懸濁液である石灰乳を使うことが可能です。他にも、さらし粉の原料、歯の根管治療の根管貼薬など、さまざまな形で利用されています。
また、強アルカリ性であるため、排ガス・排水の中和処理や酸性土壌の中和剤として利用可能です。また、畜産・農業分野では土壌のミネラル補給を目的として用いられる以外にも、畜舎に散布して防疫に役立てられています。
水酸化カルシウムの性質
水酸化カルシウムは、無色の結晶または白色の粉末です。グリセリンには溶けますが、エタノール、エーテルにはほとんど溶けません。水に少し溶解し、飽和溶液の電離度は約0.8です。
そのため、水溶液や懸濁液は強アルカリ性を示します。ただし、アルカリ金属の水酸化物と比べて溶解度がはるかに低いため、塩基としての作用は弱いです。水への溶解熱は発熱的であり、温度が上がると溶解度は減ります。具体的には、100gの水に対して、溶解度は0℃で0.18 g、50℃で0.13g、100℃で0.077gです。
水酸化カルシウムは強塩基ですが、劇物指定を受けていません。塩基であり、酸と中和反応が起こります。例えば、塩酸との中和反応によって、塩化カルシウムと水が生成します。
水酸化カルシウムの構造
水酸化カルシウムは、水酸化物イオンとカルシウムイオンから構成されるイオン結晶です。水中に放置すると、六方晶系の板状晶になります。
化学式はCa(OH)2、モル質量は74.0927g/mol、密度は2.211g/cm3です。
水酸化カルシウムのその他情報
1. 水酸化カルシウムの反応
水酸化カルシウムの飽和水溶液に二酸化炭素を吹き込むと、炭酸カルシウムが析出するため白く濁ります。生成した炭酸カルシウムが、水に溶けにくいためです。二酸化炭素を過剰に吹き込んだ際には、炭酸カルシウムが二酸化炭素や水と結合して、炭酸水素カルシウムが生成します。
炭酸水素カルシウムは水に溶けるため、濁りがなくなります。水酸化カルシウムは、アンモニアの発生実験にも使用可能です。つまり、実験室で塩化アンモニウムと水酸化カルシウムを混合して熱すると、アンモニアが発生します。
また、580℃まで水酸化カルシウムを加熱すると分解して、酸化カルシウムを得ることが可能です。さらに、水酸化カルシウムは塩素を吸収すると、次亜塩素酸カルシウムが生成します。
2. 水酸化カルシウムの危険性
水酸化カルシウムの水溶液は、粘膜や皮膚を侵します。とくに目に入ると、角膜や結膜に障害が起きる可能性があり、失明する危険性もあります。したがって、速やかに十分な流水で洗眼して、すぐ眼科医の診察を受けるべきです。その一方で、胃に入っても胃液で中和されるので、人体への影響は少ないです。
ただし、大量に摂取すると、呼吸困難、血圧上昇、内出血、肝機能障害、腎機能障害などを起こす可能性があります。以前は白線用としてラインパウダーに、水酸化カルシウムが使用されていました。現在では校庭の白線を引くために、より安全な炭酸カルシウムを用いています。
水酸化カルシウムは、微生物の繁殖も抑制できます。そのため、中世ヨーロッパのペストの流行時には、家に消石灰を撒く対策が実施されていました。現代でも防疫対策として、消石灰が利用されます。