塩化アンモニウムとは
塩化アンモニウムとは、化学式NH4Clで表される無機化合物です。
塩化アンモン、塩安と呼ばれることもあります。無色または白色の結晶で、少し吸湿性があります。水に溶けやすく、無臭で辛みと苦味があります。水酸化ナトリウム等の強塩基と混合するとアンモニアを発生します。また、強熱すると昇華し、アンモニアと塩化水素 (ガス) に分解されます。
水溶液は中性~弱酸性であるが、煮沸するとアンモニアが放出され、酸性となります。窒素含有量が25%程度あり、窒素肥料の1種でもあります塩化アンモニウム以外の窒素肥料としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素などが知られています。
塩化アンモニウムの使用用途
塩化アンモニウムの主な使用用途は下記の通りです。
1. 化学反応実験
塩化アンモニウムは、分析用試薬として、主にpH緩衝液として汎用されております。また、グリニャール試薬を用いた反応などのクエンチ剤としても使用されます。
2. 食品添加物
食品添加物としては、国内では厚労省で、また、米国食品医薬品局 (FDA) や、EUでも食品添加物としても認められており、ベーキングパウダー等の原料として使用されております。フィンランドの有名なリコリス菓子である、サルミアッキという飴にも使用され、独特な匂いと塩辛い味をもたらします。
3. メッキ処理
亜鉛のメッキ処理において、フラックス処理と呼ばれる工程があります。酸洗浄を行った後、メッキ処理の前にフラックス処理がなされ、塩化アンモニウムと塩化亜鉛の混合水溶液が用いられます。フラックス処理の目的は以下の4つです。
- 酸洗浄後の基材表面への錆び防止
- 鉄亜鉛合金化阻害物の基材への付着防止
- 酸化亜鉛除去
- 溶融亜鉛の基材表面での流動性の向上
4. その他
工業的には、薬品の製造原料、乾電池、染料、写真薬原料など幅広い用途で用いられております。また、肥料用、医薬・医薬部外品配合原料としても重要な役割をしています。
塩化アンモニウムの性質
分子量は53.49で、比重は1.527です。338℃で分解します。非常に水に溶けやすく、溶解度は25℃の水100mLに対して28.3gです。塩化アンモニウム1wt%水溶液のpHは5.5です。水には溶けやすいですが、エタノールには溶けにくいです。吸熱反応の例として、塩化アンモニウムと水酸化バリウムの反応がよく知られています。
塩化アンモニウムの構造
塩化アンモニウムはイオン性化合物であり、陽イオンのアンモニウムイオン (NH4+) と陰イオンの塩化物イオン (Cl-) から構成されます。結晶構造では、アンモニウムイオンと塩化イオンが交互に配列し、イオン結合によって結びついています。塩化アンモニウムは塩化セシウム型構造をとり、塩化イオンは水素結合を形成します。
アンモニウムイオンは四面体構造をしており、窒素原子を中心に水素原子が四方向に配位しています。塩化物イオンは単純なイオンとして存在し、塩化アンモニウムの結晶中では陰イオンとして配位します。
塩化アンモニウムのその他情報
塩化アンモニウムの製造方法
塩化アンモニウムは、アンモニア (NH3) と塩酸 (HCl) を反応させることで生成されます。アンモニウムも塩化水素も揮発性が高く、通常は液相で反応させます。反応液を加熱して水分を蒸発させ、固形物として塩化アンモニウムを得ます。
工業的な生産方法として、塩化アンモニウムは塩安ソーダ併産法により、塩化ナトリウムと炭酸ナトリウムの生産副産物として製造されています。炭酸ナトリウムの製造法である、アンモニアソーダ法 (ソルベー法) では、反応過程で塩化アンモニウムが生成しますが、水酸化カルシウムとの反応により、最終的に得られる副産物は塩化カルシウムです。塩安ソーダ併産法では副産物として塩化アンモニウムを得ることができ、低コストで大量に生産することが可能です。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/12125-02-9.html
https://www.jsia.gr.jp/history/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/66/3/66_95/_pdf/-char/ja