トリフルオロ酢酸とは
トリフルオロ酢酸とは、CAS登録番号76-05-1、化学式 CF3COOHで表されるカルボン酸です。
一般には、TFAと略称されることが多く、トリフルオロメタンスルホン酸 (TFSA) に次ぐ強さをもつ有機酸として知られています。1922年に初めて合成されて以来、特徴的な性質を持つ重要な化学的物質であることから、広くさまざまな目的のために、有機化学の世界で使用されています。
需要は世界で年数百トン、国内で数十トンと推定されています。
トリフルオロ酢酸の使用用途
トリフルオロ酢酸は、有機合成原料、調製液原料、医薬・農薬中間体、電子材料製造原料及び溶媒などに利用されます。その他工業用途では、酸触媒として、各種付加反応、エステル化、縮合反応触媒に用いられます。
1. 有機合成原料
トリフルオロ酢酸は、無水トリフルオロ酢酸やトリフルオロ酢酸エステル等の原料です。無水トリフルオロ酢酸はトリフルオロアセチル化剤として使用されています。
例えば、GC/MS分析ではアミンやアルコールを無水トリフルオロ酢酸を用いて誘導体化することで、分析感度を高くできる場合があります。
R-NH2 + (CF3CO)2O → R-NHCOCF3 + CF3COOH
R-CH2-OH + (CF3CO)2O → R-CH2-OCOCF3 + CF3COOH
無水トリフルオロ酢酸は、トリフルオロ酢酸とα位がハロゲン化された酸塩化物 (ジクロロ塩化アセチルなど) を反応させることで合成できます。
2CF3COOH + Cl2CHCOCl → (CF3CO)2O + Cl2CHCOOH + HCl
また、トリフルオロ酢酸を五酸化二リンで脱水することでも得られます。
2. 医薬・農薬の合成
医薬・農薬の原料としては特に、含フッ素系除草剤中間体としての需要が大きいです。また、医薬品などの合成ではアミノ基の保護基として、t-ブトキシカルボニル基 (Boc基) が頻繁に用いられますが、Boc基の脱保護試薬としてトリフルオロ酢酸を使用されています。
トリフルオロ酢酸の性質
トリフルオロ酢酸は、沸点72℃、密度1.49g/cm3で、常温では刺激臭のある無色の液体です。水に溶けやすく、エタノールやアセトン、エーテルなどの有機溶媒にもよく溶けるため、有機合成で使用しやすい酸です。
低沸点なので揮発しやすく、蒸気は有毒であるため局所排気が設置されている場所で使用する必要があります。また、眼や皮膚に対しても刺激性が高いため、使用時は手袋や保護メガネなどの着用が必須です。
金属に対しての腐食性も高く、使用条件によってはステンレスなども腐食します。そのため、使用する器具や保管容器はガラス製が推奨されています。
トリフルオロ酢酸のその他情報
1. トリフルオロ酢酸の酸性度
トリフルオロ酢酸は、酢酸のメチル基の水素をすべてフッ素で置換した構造をしており、プロトン電離後のアニオン (共役塩基CF3COO–) はフッ素原子の電子吸引効果により安定性が高くなっています。そのため、プロトンを放出しやすく、酸性度は酢酸よりも高いです。
また、置換したフッ素原子の数が多いほど、共役塩基の安定性は高くなるため、酸性度は次のようになります。
CF3COOH > CF2HCOOH > CFH2COOH > CH3COOH
数値で比較すると、プロトンの解離しやすさを表す定数である酸解離定数 (pKa) は酢酸は4.8 (水中) 、トリフルオロ酢酸は-0.3 (水中) です。pKaが低いほど酸を解離しやすい強い酸であるため、トリフルオロ酢酸は酢酸よりも強い酸であるといえます。
2. トリフルオロ酢酸の製造方法
トリフルオロ酢酸の製造方法には下記のものがあります。
- CCl3COClのHFによる気相フッ素化法
- CH3COFの電解フッ素化法
- R-123 (CF3CHCl2) の気相酸素酸化 法
- R-113a (CF3CCl3) のSO3酸化法
また、合成的には酢酸のフッ素化反応 (シモンズ法) が有用な反応として知られています。シモンズ法は酢酸とフッ化水素の混合物を電気分解することで、トリフルオロ酢酸が得られる反応法です。