深絞り加工とは
深絞り加工とは、1枚の板金に型を当てて加工する方法です。
容器などの奥行きを持たせた形状に加工可能で、完成品の直径よりも深い形状に加工します。製品の直径よりも浅い形状に加工する浅絞り加工と区別されます。
使用できる材料は4つの機械的特性 (引張強さ、降伏点、伸び、硬さ) を考慮して選定可能です。深絞り加工の可否を検討する際には限界絞り比を計算します。直径Dの円盤を直径dのポンチで絞り加工する場合、限界絞り比はD/dで示されます。各材質による限界絞り比の目安として、純チタン1種は2.7で、アルミニウムと銅は2.0です。
深絞り加工の使用用途
深絞り加工は、型を使用して1枚の板金を加工するため溶接やリベット加工品と比べると継ぎ目がない製品を短時間で製作可能です。エンジンカバー、アルミ缶、風呂容器、キャップ類などの加工に使用されています。
コストを抑えて見栄えの良い製品が作れますが、生産導入時に金型費用が発生するため、少量多品種には不向きで大量生産に向いています。深絞り加工を検討する際には、あらかじめ加工する治具が整っている業者を選ぶことで初期費用を抑えられます。
深絞り加工の原理
深絞り加工は金型によって圧を加えて成形するシンプルな加工法です。成形したい形状の凹みを持った下側の金型と、沈み込む上側の金型がセットになって1枚の板に圧力を加えます。下側の金型はダイス、上側の金型はポンチと呼ばれます。
仕組みがシンプルで少ない加工工数で品質が安定しやすいですが、金型の設計に緻密な計算が必要です。質が悪い金型を用いると、しわや割れがある欠陥品が製造される可能性もあります。
円筒、円錐、角筒など多種多様な形状の底付容器において金属の薄板を加工することができます。大量生産には適していますが、精度や品質を向上するための設計コストは高いです。
深絞り加工の種類
深絞り加工は製作する形状によって加工方法が異なります。製作する板金製品の形状が、以下6種類の加工方法のどれに該当するか把握することが大切です。
1. 円筒絞り加工
中央を空洞にした金型を挟んで空洞部から板金にパンチを打ち込み、金属塑性により成形する加工法です。鍋やフライパンの加工に使用されます。
2. 角筒絞り加工
キッチンのシンクなど、底の容器が角の形状を伴う製品に使用されます。
3. 異形絞り加工
複雑な形状を形成するために必要な加工で、自動車のプレス加工が該当します。形状の箇所によって板金にかかる応力値が異なるため形状の妥当性を確認するための強度設計が必要です。
4. 円錐絞り加工
タンブラーのような深さによって径が異なる形状を加工する方法です。円形の板金を回転させながら、へらと呼ぶ棒を押し当てながら加工します。
5. 角錐絞り加工
円錐加工のように深さ方向に形状が異なる容器を製作する方法ですが、奥行形状に平面部がある点が特徴です。角錐形状の加工に用いられます。
6. 球頭絞り加工
調理に用いるボウルなど、球体の面を形成する製品に使われます。
深絞り加工の選び方
深絞り加工では、まずブランク形状や寸法を決めます。最初に絞る初絞りの後に続く再絞りも考慮しながら設計が必要です。次に絞り工程数を検討します。絞り率を基準に1回あたりの搾り径を計算し、絞り工程数を決めます。
深絞り加工のためにはダイスとパンチの金型の設計も必要です。ダイスの金型は、ダイスの中にパンチが入り込んだときの隙間を基準にして直径を算出し、フランジの幅に合わせて押さえ台の幅を設定します。押さえ台の設計が甘い場合にはフランジ部成形時にしわが生じます。
使用するプレス機械は、算出した絞り加工力を基準にしてトルク出力を満たすように選び、加工の対象となる絞り材料を選定します。潤滑油には水性タイプと油性タイプの2種類が存在します。