ケイ酸ナトリウム

ケイ酸ナトリウムとは

ケイ酸ナトリウムとは、ケイ酸のナトリウム塩の総称です。

Na4SiO4、Na2Si2O5、Na2Si4O9など様々な組成のものがありますが、一般的にはメタケイ酸ナトリウムと呼ばれるNa2SiO3を指してケイ酸ナトリウムと呼ぶ場合が多いです。

ケイ酸ナトリウムは常温で無色の結晶固体で、水に可溶です。濃水溶液は刺激性の水溶液で、水ガラスと呼ばれています。水ガラスに塩酸を加えるとケイ酸が得られます。ケイ酸とナトリウムの比率によって粘性が異なります。

ケイ酸ナトリウムの使用用途

ケイ酸ナトリウムは接着剤や陶芸など様々な場面で使用されています。ケイ酸ナトリウムは安全性が高く環境への負担も少ないことから、トイレットペーパーの芯や段ボールなどの様々な紙製品の製造過程で接着剤として使用されています。

陶芸においてはカップに取り付ける前のカップハンドルなどをケイ酸ナトリウムでコーティングすることで発泡による破損を防ぐことができます。

ケイ酸ナトリウムは、金属の防錆剤としても利用されます。金属とケイ酸ナトリウムが反応し、金属の表面にケイ酸および金属酸化物の層を生じ、それ以上の侵食を防止します。

その他には、石鹸や洗剤の添加剤、建材、鋳物などに用いられます。また、ケイ酸ナトリウムの誘導体としては、シリカゲル、ゼオライト、無水ケイ酸などが挙げられます。

ケイ酸ナトリウムの性質

ケイ酸ナトリウムの水溶液は弱いアルカリ性を示します。pH10.2以上で溶液は安定となります。酸を添加するとpHが低下し、シロキサン結合生成が進んで粘度が上昇します。

ケイ酸ナトリウムの水溶液は重金属などと反応して、沈殿を生じます。この性質を利用して、汚水処理や水処理などに広く利用されています。ケイ酸ナトリウムにアルコールやフェノール、アルデヒドなどを添加すると、脱水してケイ酸ゲルを遊離します。

ケイ酸ナトリウムの種類

ケイ酸ナトリウムはナトリウムのケイ酸塩であり、一般的にはNa2O、nSiO2、mH2Oで表されます。3成分の比率に応じて、ガラス質・結晶質・水溶液の形で物理的、化学的性質が異なる種々のケイ酸ナトリウムが存在します。工業的には、SiO2/Na2Oが0.5〜4の範囲で製造されています。

結晶性のケイ酸ナトリウムは、オルソケイ酸ナトリウム (2Na2O・SiO2・xH2O) 、セスキケイ酸ナトリウム (3Na2O・2SiO2・xH2O) 、メタケイ酸ナトリウム (Na2O・SiO2・xH2O) などがあります。水溶液 (水ガラス) も1号、2号など、Na2OとSiO2の比率を変えた商品が販売されています。

ケイ酸ナトリウムの構造

ケイ酸ナトリウムの構造はその種類によって異なりますが、一般的にはケイ酸四面体が共有酸素原子を介して結合し、ケイ素と酸素原子の三次元ネットワークを形成しています。ナトリウム陽イオンがネットワークに組み込まれ、ケイ酸塩四面体の間の空間を満たし、酸素原子の負電荷のバランスをとります。

水溶液中ではオルトケイ酸イオンではなく、鎖状のメタケイ酸イオンとして存在します。ナトリウムイオン濃度が低下すると、ケイ酸イオンに分岐や架橋が生じて網目構造が生じます。

ケイ酸ナトリウムのその他情報

1. ケイ酸ナトリウムの製造方法

ケイ酸ナトリウム (水ガラス) の製造方法は、乾式法と湿式法があります。

乾式法では、まず珪砂と水酸化ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムを混合し、熔解します。得られたカレットと水をオートクレーブ中で溶解し、フィルタープレスにて濾過し、モル比を調整することでケイ酸ナトリウムが得られます。

湿式法では、水酸化ナトリウムと珪砂をオートクレーブにて、加圧蒸気を吹き込み反応させます。その後、濾過、濃縮をして、ケイ酸ナトリウムが得られます。

2. ケイ酸ナトリウムの歴史

ケイ酸ナトリウムが科学的に認知され、本格的に研究され始めたのは1820年代頃です。ドイツ人のvon Fucksが接着剤やセメントなどに用いることを提案しました。1920年以降はアメリカやヨーロッパで工業生産が始まり、用途展開していきました。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mukimate1953/1991/231/1991_231_131/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/1/66_26/_pdf/-char/ja

ケイ酸カリウム

ケイ酸カリウムとは

ケイ酸カリウムとは、K2SiO3という化学式で表されるカリウムのケイ酸塩です。

常温で白色の固体か、高い粘性を持つ水あめ状の液体である水ガラスに近い形態の物質です。水酸化カリウムとケイ酸を湿式または乾式で反応させることにより合成されます。

水和水を含んだ状態で存在することが多く、K2O、SiO2、H2Oなどの様々な組成のものが知られていますが、これらの多くは200℃以上で得られ、常温ではその存在を確認されていません。

ケイ酸カリウムの使用用途

ケイ酸カリウムは様々な用途で使用されますが、植物用の肥料として使用されることが多いです。カリウムはカルシウムやマグネシウムと並んで植物の成長に必要な物質であるため、これらの鉱物をケイ酸の化合物を配合したものがケイ酸肥料として販売されています。

工業的にはK2Oに対するSiO2の比率 (モル比) が2~3であるものが多く製造されており、溶接棒の被覆材や塗料の硬化剤、洗剤の原料など用途に合わせた組成のものが使用されています。

ケイ酸カリウムの性質

ケイ酸カリウムは水溶液で取り扱われることが多いです。ケイ酸ナトリウムと特徴が似ていて、粘稠性液体で無色無臭で強アルカリ性を示します。皮膚や眼に触れると炎症を引き起こします。水には自由に混合し、エタノールには不溶です。通常条件では安定ですが、酸と接触すると反応し、シリカゲルを生成します。

ケイ酸ナトリウムは、メタケイ酸ナトリウム9水塩、メタケイ酸ナトリウム5水塩、セスキケイ酸ナトリウム5水塩などの含水結晶がよく知られています。一方、ケイ酸カリウムの含水結晶の存在条件は、非常に限定されています。

ケイ酸カリウムの構造

ケイ酸四面体が共有酸素原子を介して結合し、ケイ素と酸素原子の三次元ネットワークを形成しています。カリウム陽イオンがネットワークに組み込まれ、ケイ酸塩四面体の間の空間を満たし、酸素原子の負電荷のバランスをとります。

水溶液中ではオルトケイ酸イオンではなく、鎖状のメタケイ酸イオンとして存在します。カリウムイオン濃度が低下すると、ケイ酸イオンに分岐や架橋が生じて網目構造が生じます。

ケイ酸カリウムのその他情報

1. ケイ酸カリウムの肥料としての利用

ケイ酸カリウムは、植物の成長と発達に不可欠な栄養素であるカリウムとケイ素の両方を植物に提供するため、肥料としてよく使用されます。フライアッシュや水酸化マグネシウムなどと混合し、焼成して肥料として製造されます。

カリウムは植物にとって必須の栄養素の1つであり、光合成、水分調節、タンパク質合成などのさまざまな生理学的プロセスに必要です。

シリコンは植物にとって必須の栄養素とは見なされていませんが、害虫や病気に対する抵抗力の向上、干ばつや熱などの非生物的ストレスに対する耐性の向上など、植物の成長と健康に多くの有益な効果があることが示されています。

2. ケイ酸カリウム肥料の環境安全性

ケイ酸カリウム肥料は環境的に安全であると考えられています。ケイ酸カリウム肥料そのものはpH10程度ですが、生理的中性肥料のため、土壌pHの変化は小さいです。また、雨水などによって流れ出すことがないため、土壌に栄養素を保持し、植物にゆっくりと放出できます。

3. ケイ酸カリウムの表面改質材としての利用

ケイ酸カリウムを用いたコンクリート表面改質材を用いると、施工後にクラックが発生した場合でも、水によりコンクリート内部の水酸化カルシウムと改質剤が反応してセメント水和物と似た組成のゲルを生成します。

防水・劣化防止保護層を形成し、クラックを自己補修することができます。防水・劣化防止効果を長期間発揮できるため、高耐久なコンクリート構造物とライフサイクルコストの低減が実現できます。ケイ酸ナトリウムと混合して使用されることが多いです。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/66/1/66_26/_pdf/-char/ja

ケイ酸アルミニウム

ケイ酸アルミニウムとは

ケイ酸アルミニウムとは、酸化アルミニウム二酸化ケイ素、水の混合物の総称です。

様々な組成のものがあり、天然にも多く存在します。最も多く存在するけい線石はAl2SiO5という化学式で表されます。けい線石のみを指してケイ酸アルミニウムという場合もあります。けい線石は常温で白色の斜方晶系個体で水に不溶です。酸や塩基に耐性があり、浸食されません。

天然のケイ酸アルミニウムにはけい線石とは組成が異なるナクル石と呼ばれるものなどがあります。また、人工的に合成された様々な組成のケイ酸アルミニウムが存在します。

ケイ酸アルミニウムの使用用途

ケイ酸アルミニウムは陶器や塗料の原料に用いられているほか、合成ケイ酸アルミニウムは医薬品としても使用されています。

医薬品としての合成ケイ酸アルミニウムは胃や腸の炎症を抑える薬として使用される場合が多いです。ケイ酸アルミニウムは長期的に投与することで腎結石などの副作用を発症する可能性があるため腎障害のある患者に対しての投与は控えられる傾向にあります。

また、ケイ酸アルミニウム繊維は熱伝導率が低く熱安定性、化学安定性ともに優れている繊維として注目を集めています。

ケイ酸アルミニウムの性質

ケイ酸アルミニウムは一般的に無臭な白色固体です。自然の鉱物の形では、安全で無毒であると考えられています。

しかし、ケイ酸アルミニウムの粉塵に長時間さらされると珪肺症などの呼吸器系の問題を引き起こす可能性があります。 珪肺症は、肺組織の瘢痕化と肺機能の低下を引き起こす肺疾患で、肺がんのリスクも高まる可能性があります。

ゼオライトのような合成形態などの一部の形態のケイ酸アルミニウムは化学的に変化する可能性があり、人間の健康に大きなリスクをもたらす可能性があります。

ケイ酸アルミニウムを扱う際には、暴露防止対策のためにマスクなどの適切な個人用保護具を使用することが大切です。

ケイ酸アルミニウムの種類

ケイ酸アルミニウムは、組成と構造が異なる鉱物や化合物が多くあります。 一般的なタイプのケイ酸アルミニウムには次のものがあります。

1. カオリナイト

土壌によく見られる粘土鉱物で、陶器、紙、その他の材料の製造に使用されます。

2. アンダルサイト (紅柱石)

カイアナイトより低い圧力、シリマナイトよりも低い温度で晶出する鉱物です。結晶系は斜方晶系です。

3. カイヤナイト (藍晶石)

アンダルサイトに似た組成を持つ鉱物で、装飾品に利用されることがあります。結晶系は三斜晶系です。

4. シリマナイト (珪線石)

結晶系は斜方晶系です。カイヤナイトやアンダルサイトと同じ組成ですが、違う結晶構造をとり、これらの鉱物は同質異像の関係にあります。

5. ゼオライト

高度に多孔質で、触媒、吸着剤、およびイオン交換剤として使用される合成ケイ酸アルミニウムです。

6. マイカ (雲母)

耐熱性と絶縁性に優れ、化粧品、断熱材、電子機器によく使用される鉱物グループです。

7. 長石

融点が低く、熱膨張を抑える能力があるため、セラミックやガラスの製造に一般的に使用される鉱物グループです。

他にも多くの種類のケイ酸アルミニウム鉱物や化合物があり、それぞれに独自の特性と用途があります。

ケイ酸アルミニウムの構造

ケイ酸アルミニウム化合物は一般に、1つのアルミニウム原子と6つの酸素原子からなる八面体と、1つのケイ素原子と4つの酸素原子からなる正四面体で構成される三次元ネットワークで構成されています。化学組成やネットワーク構造の形態に応じて、様々な特性をもたらします。

ネットワーク構造は、ケイ酸アルミニウムの種類によって異なります。 たとえば、鉱物カオリナイトでは、ケイ素四面体が層状に配置され、層の間にアルミニウム八面体が配置されています。 対照的に、ゼオライトでは、SiO4あるいはAlO4の四面体構造が無限に連なった構造となっています。

参考文献
http://lib.ruralnet.or.jp/nrpd/#koumoku=11513
https://jza-online.org/about/q1/

https://www.jrs.or.jp/file/disease_i02.pdf
https://okabe-mica.co.jp/about/

ケイ皮酸

ケイ皮酸とは

ケイ皮酸とアロケイ皮酸

図1. ケイ皮酸とアロケイ皮酸

ケイ皮酸 (Cinnamic acid)とは、示性式C6H5CH=CHCOOH で表される有機化合物です。

ベンゼン環にエチレンカルボキシル基が置換した構造を持ち、芳香族不飽和カルボン酸に分類されます。「桂皮酸」「けい皮酸」と表記される場合もあります。シス-トランス異性体の双方をケイ皮酸と呼ぶこともありますが、厳密にはE体のみをケイ皮酸、Z体はアロケイ皮酸と呼ばれます。

なお、アロケイ皮酸は不安定で容易にE体へと異性化する物質です。CAS登録番号は、順に621-82-9 (混合物) 、140-10-3 (E体) 、102-94-3 (Z体) です。

ケイ皮酸の使用用途

ケイ皮酸の使用用途は、除草剤、植物成長阻害剤、殺菌持続剤、防腐剤などです。また、ケイ皮酸のエステル誘導体は、香料や食品添加物、化粧品、農業用薬品の原料として使用されています。

例えば、ケイ皮酸メチルとケイ皮酸エチルは、主にフレーバーとして食品添加物に使用されている物質です。医薬品としては、局部麻酔剤、殺菌剤や止血薬の製造や発赤剤などとして使用されています。

さらに、その他の誘導体としては、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルやジイソプロピルケイヒ酸メチルなどの物質は高い紫外線吸収能力があることから、褪色防止剤、紫外線吸収剤・散乱剤などの化粧品として利用されています。

ケイ皮酸の性質

ケイ皮酸の基本情報

図2. ケイ皮酸の基本情報

ケイ皮酸の化学式はC9H8O2であり、分子量は148.16です。E体の融点は133 ℃、沸点は300 ℃で、常温では特異臭を呈す無色の固体です。

密度は0.91g/mLであり、エタノールに溶けやすく水には溶けにくい性質があります。光により変質するおそれがあるとされています。自然界においては、天然油類などにエステルとして存在している物質です。

ケイ皮酸の種類

ケイ皮酸は、研究開発用試薬製品や工業用化成品などとして一般的に販売されています。研究開発用製品としては、trans-ケイ皮酸などの表記で販売されています。容量の種類は25g、500gなどです。室温で保存可能な試薬製品として取り扱われます。

化成品としては、ファインケミカル、医薬品中間体などの用途が一般的です。100g、1kg、25kgなどの単位で販売されており、工場需要に対応した供給となっています。

ケイ皮酸のその他情報

1. ケイ皮酸の合成

ケイ皮酸の合成 (パーキン反応)

図3. ケイ皮酸の合成 (パーキン反応)

ケイ皮酸は、工業的にはベンズアルデヒドと無水酢酸に酢酸カリウムを作用させるパーキン反応によって合成されます。その他の方法では、シンナムアルデヒドの酸化によって合成可能です。

自然界において、ケイ皮酸はフェニルプロパノイドの一種です。天然に存在するケイ皮酸は、フェニルアラニンがフェニルアラニンアンモニアリアーゼによる脱アミノ化を受けることで生成します。

2. ケイ皮酸の誘導体

ケイ皮酸のエステル誘導体の中には、芳香を持つものが知られています。代表的な例として、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸n-ブチルなどが挙げられます。

ケイ皮酸メチルは、いわゆるマツタケ臭、バルサム臭を呈す物質です。ケイ皮酸エチルはいわゆるシナモン臭といわれる果実臭、バルサム臭を呈します。

その他の誘導体では、無水ケイ皮酸や、コーヒー酸 (3,4-ジヒドロキシケイ皮酸: ケイ皮酸のパラ位及びメタ位がヒドロキシ化された構造を持つ芳香族カルボン酸) などがよく知られている物質です。

3. 有機化学合成におけるケイ皮酸

ケイ皮酸は合成原料としても有用な化合物です。具体的な例としては、trans-ケイ皮酸ヒドラジド誘導体 (強力な抗抗酸菌活性を有する)  の合成、均質エステル化反応によるケイ皮酸グリセリドの合成、植物細胞培養による生体触媒脱炭酸を介したスチレンの合成などを挙げることができます。

参考文献
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907094161809939

グルコン酸

グルコン酸とは

グルコン酸の基本情報

図1. グルコン酸の基本情報

グルコン酸 (Gluconic acid) とは、化学式C6H12O7で表される有機化合物であり、グルコースの1位の炭素を酸化することによって生成するカルボン酸です。

光学活性化合物であり、天然にはD体のみが存在します。アルドン酸 (単糖を酸化して得られる誘導体のうち、アルドースの1位のホルミル基がカルボキシル基に変わったカルボン酸) の1種でもあります。

CAS登録番号は、D体が526-95-4、ラセミ体が133-42-6です。

グルコン酸の使用用途

1. 食品分野

グルコン酸は不揮発性であること、酸味度が低いという特徴から、食品添加物として使用されています。主な用途は、米飯、餅等の米加工品に対するpH調整剤や、各種飲料、漬物、ドレッシング、タレ等に対する調味料及びpH調味料です。

食品に使用される場合には、「酸味料」、「水素イオン濃度調整剤」又は「pH調整剤」、もしくは「グルコン酸」などの表記で表示されています。また、グルコン酸の塩類であるグルコン酸カリウム及びグルコン酸ナトリウムも同様に食品添加物として使用されている物質です。

例えば、パン、味噌、醤油等の製造における食塩の加工機能の代替、魚肉すり身の冷凍保存時のタンパク質変性の防止等の目的に使用されています。米国では、甘味料のサッカリンナトリウムの呈味改善剤としても使用されております。

  • カルシウム塩: 安定剤
  • 乳酸グルコン酸カルシウム: カルシウム剤
  • グルコン酸鉄: オリーブの黒味

2. 医療分野

医療分野では、主に鉄の欠乏症に対する薬として利用されています。取り込まれたグルコン酸イオンには体内の金属イオンを効果的に吸収されやすくする作用があります。

また、フッ化水素で薬傷を受けた際にはグルコン酸カルシウムの軟膏が有効です。グルコン酸塩として取り込まれたカルシウムイオンには、溶解性のフッ化物イオンと結合して不溶性のフッ化カルシウムを形成し、無毒化する作用があります。また、キニーネとの塩は筋肉注射の形でマラリア治療薬として使われ、亜鉛塩は雄イヌの去勢に使われる物質です。

3. 工業分野

工業分野では、金属塩の沈殿の除去や金属を洗浄する際に弱い酸として使われることもあります。

グルコン酸の性質

グルコン酸の平衡

図2. グルコン酸の平衡

グルコン酸は酸性の溶液に溶かすことにより、容易に脱水して環状エステルであるグルコノデルタラクトン (D-(+)-グルコン酸-δ-ラクトン) へと変化する物質です。また、溶液から遊離酸の単離を試みる場合にも、容易に脱水が起こります。水溶液中ではこの化合物との平衡混合物として存在しているため、純粋なものは塩の形でしか得ることができません。

また、強力なキレート剤としての性質を有し、特にアルカリ性の溶液中でよく作用します。具体的には、カルシウム、鉄、アルミニウム、銅やその他の重金属イオンにキレート配位することが知られています。

なお、グルコン酸は、自然界では特に蜂蜜、ローヤルゼリーに多く含まれています。その他には、大豆、米、椎茸などや、発酵食品であるワイン、味噌、醤油、醸造酢などに含有されます。ビフィズス菌を増やすことが知られている唯一の有機酸です。柔らかな酸味を有し、腐食性、刺激性があります。

グルコン酸の構造

グルコン酸の構造

図3. グルコン酸の構造

グルコン酸の分子量は196.155、融点は131 ℃であり、常温では無色の結晶です。密度は1.23g/mL、酸解離定数pKaは3.86です。水に容易に溶解します。水への溶解度は316 g/Lです。

グルコン酸は、6個の炭素鎖の末端にカルボキシル基を持ち、また2番目から6番目の炭素原子に1個ずつ計5個のヒドロキシ基を持つ構造をしています。

グルコン酸の種類

グルコン酸は、主に研究開発用試薬や産業用原料として販売されています。どちらも通常50%程度の水溶液です。

研究開発用試薬製品は、25g、500gなどの容量の種類があります。実験室で取り扱いやすい容量での提供です。断りなく「グルコン酸」と表記される場合、通常はD-グルコン酸を指します。

産業用原料として販売される場合、通常酸味料・pH調整剤などの食品添加物原料としての提供が中心です。20kgや250kgなど、工場などでの需要に合わせた大容量で販売されています。こちらも通常はD-グルコン酸を指します。

グルコン酸のその他情報

グルコン酸の生合成

グルコン酸は、グルコースの生体内での代謝経路の1つであるホスホグルコン酸経路で生成されます。ブドウ糖を還元した物質が糖アルコールのソルビトールであるのに対して、ブドウ糖を酸化した物質が、糖酸であるグルコン酸です。

参考文献
https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_card_id=1738&p_version=2&p_lang=ja

グルカン

グルカンとは

ブドウ糖を含む多糖類の全般的な名称です。類に多く含まれるβ-グルカンが有名で、α-グルカンとβ-グルカンがあります。
α-グルカンを代表する物は、米や餅に含まれるアミロースや、動物の貯蔵糖であるグリコーゲンなどです。植物が光合成によってつくるデキストリンやデンプンなどを含有し、食物の甘味を生み出します。
β-グルカンは、真菌や植物に多く含まれています。人間の体内では分解、吸収されませんが、健康に大きな効果があるとされています。

グルカンの使用用途

大きく、下記3つの効果があります。

  1. 集中力を高める効果
    α-グルカンのでんぷんやアミロース、アミロペクチンは、アミラーゼという酵素で分解され、ブドウ糖として体に取り込まれます。ブドウ糖は、脳のエネルギー源で脳を活性化させ、集中力や記憶力を高めます。
  2. 免疫力を高める効果
    β-グルカンは免疫力を持ち、細菌やウイルスに対する抵抗力を高めます。β-グルカンは免疫関連物質であるインターフェロンの生成促進作用があります。また、体内でマクロファージやナチュラルキラー細胞、白血球など免疫機能として細胞の働きを活性化します。β-グルカンは免疫効果があるので、β-グルカンの摂取による風邪やアレルギー症状の予防・改善をする効果もあります。
  3. ガンを予防および抑制する効果
    β-グルカンの免疫効果によるガンの抑制力が期待されています。β-グルカンは、免疫力を高めることによって間接的にガンを攻撃します。β-グルカンは、ガン細胞の成長を抑制するナチュラルキラー細胞やマクロファージなどの免疫細胞を活性化させる作用によって、腫瘍抑制効果が認められています。

グルクロノラクトン

グルクロノラクトンとは

グルクロノラクトン (英: Glucuronolactone) とは、白色〜淡褐色の結晶性粉末の有機化合物です。

別名として、D (+) -グルクロノラクトン (英: D (+) -Glucuronolactone) やグルクロノ-3,6-ラクトン (英: D-Glucurono-3,6-lactone) 、グルクロン (英: Glucurone) 、グルクロン酸ラクトン (英: Glucuronic acid lactone) とも呼ばれます。

なお、グルクロノラクトンは、主な国内法規には該当しません。

グルクロノラクトンの使用用途

グルクロノラクトンは主に医薬品分野で使用され、肝臓病の薬や疲労回復ドリンク、ニキビや肌荒れの改善薬などに有用です。ヒトの体内において、グルクロノラクトンは肝臓に作用し、肝臓の働きを助ける効果があります。

ヒトの体内の水分で、グルクロン酸に変化します。グルクロン酸は、肝臓においてヒトにとって不要な老廃物質と結合しグルクロン酸抱合体になります。複合体の形成により、老廃物質を体外に排出させやすくすることが可能です。この仕組みにより、肝臓の解毒能力が高まり血流が増えるという効果が得られます。

グルクロノラクトンは、肝臓の働きを高める作用の他、じん麻疹や湿疹、妊娠中毒などの症状にも改善効果があります。これらの作用は強力ではありませんが、その分副作用もほとんどありません。

グルクロノラクトンの性質

化学式はC6H8O6で表され、分子量は176.12です。CAS登録番号は32449-92-6です。

融点は170°Cで、常温では固体です。無臭の化合物で、水に溶けやすく、エタノールや酢酸にはほとんど溶けません。

グルクロノラクトンの種類

水に溶かすと、互換異性体であるグルクロノラクトンとグルクロン酸の両方が存在する水溶液が得られます。生体内でも、両互換異性体が存在することが報告されています。

グルクロノラクトンのその他情報

1. グルクロノラクトンの製造法

金属触媒存在下、トレハロースを酸化したのち、加水分解することでグルクロノラクトンが得られます。また、グルコースを微生物発酵によりグルクロン酸とした後、ラクトン化を経てグルクロノラクトンを得る製造方法も報告されています。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
強酸化剤との接触は避けてください。局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用する必要があります。また、使用の際は、個人用保護具を着用します。

火災の場合
燃焼分解により、刺激性で有毒なガスや蒸気を生成するおそれがあります。消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、消化砂などを使用します。

皮膚に付着した場合
皮膚に付着しないよう注意してください。使用時は必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用します。保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにしてください。

万が一皮膚に付着した場合は、石けんと大量の水で洗い流します。衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱いで隔離します。症状が続く場合は、医師の診療を受けてください。

眼に入った場合
使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用してください。万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。

コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。直ちに、医師の診察を受けてください。

保管する場合
保管する際は、ガラス製容器に入れて不活性ガスを封入し、密閉します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所に施錠して保管してください。

参考文献
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/92283
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0107-0048JGHEJP.pdf

グリセリン

グリセリンとは

グリセリンの基本情報

図1. グリセリンの基本情報

グリセリン (Glycerine) とは、化学式C3H8O3で表される3価アルコールの一種です。

別名ではグリセロールと呼ばれます。CAS登録番号は、56-81-5です。

分子量92.09、融点17.8℃、沸点290℃であり、常温では無色透明の無臭の液体です。粘性が高く、甘味を帯びています。密度は1.261g/cm3であり、水及びエタノールに溶けやすく、ジエチルエーテルに極めて混ざりにくい性質があります。

医薬品や多くの産業で種々の利用法がある他、生体内でも中性脂肪、リン脂質、糖脂質などの骨格として存在している物質です。

グリセリンの使用用途

グリセリンの使用用途は、食品添加物、医薬品や化粧品など、多岐にわたります。食品添加物としての用途は、甘味料、保存料、保湿剤、増粘安定剤などです。グリセリンは、虫歯の原因になりにくいという特徴があります。

医薬品や化粧品には、保湿剤・潤滑剤として使われています。医薬品としては、溶剤、軟膏基剤、湿潤・粘滑剤として調剤に用いる他、浣腸液の調剤に広く用いられている物質です。咳止めシロップ、うがい薬、練り歯磨き、石鹸、ローションなどにも広く使用されています。

機械工業などでは、不凍液の成分として用いられる場合もあります。また、合成化学の分野でも原料として活用されている物質です。具体的には、ニトログリセリンの原料や、ヨウ化アリルの原料物質として用いられたりします。界面活性剤、ポリウレタン樹脂などの製造においても原料として使用されています。

グリセリンの性質

1. グリセリンの合成方法

グリセリンの合成方法

図2. トリアシルグリセロールの加水分解によるグリセリンの合成

グリセリンは、大豆油や獣脂などに含まれるトリアシルグリセロール (トリグリセリド) の加水分解によって得ることが可能です。化学合成的にはプロピレンから合成することもできます。この場合は、エピクロロヒドリンを経由して、塩基性条件での加水分解によりグリセリンが生成します。

また、バイオディーゼル燃料として脂肪酸メチルエステルを合成する際に副産物としてグリセリンが生成します。この反応は、触媒を用いた油脂とメタノールのエステル交換反応です。ただし、この場合は不純物が多い場合があるため、焼却処分される場合も多いです。

2. グリセリンの物性

グリセリンは水に溶けやすく、非常に強い吸湿性があります。水溶液は凝固点降下により凍結しにくく、共晶点は0.667で−46.5°Cです。この特徴を利用して、不凍液として使用される場合があります。

グリセリンの融点は17.8°Cですが、非常に過冷却になりやすい性質があるため結晶化は困難です。冷却を続けると−100°C前後でガラス状態となり、更に液化した空気で冷却した後、1日以上の時間をかけて緩やかに温度を上げることにより、結晶を得られます。

3. グリセリンの化学反応

グリセリンの化学反応の例

図3. グリセリンの化学反応の例

グリセリンは、3価アルコールであることから、種々の物質と化学反応を起こします。例えば、ギ酸と加熱するとエステル化を経て脱離が起こり、アリルアルコールを得ることができます。

また、グリセリンは、分子内で脱水を起こしやすい物質です。硫酸水素カリウムなどの存在下で加熱すると、脱水によってアクロレインが生成します。酸触媒の存在下にアセトンと加熱した場合では、脱水して1,2位がイソプロピリデン基で保護された形の誘導体を得ることができます。

グリセリンを用いた反応で有名なものに、「スクラウプのキノリン合成」があります。この合成方法は、グリセリンから生成したアクロレインとアニリン誘導体とを酸化条件で縮合させることにより、キノリン骨格を構築するものです。具体的な反応機構は、下記のようになると考えられています。

  • アニリンのアクロレインへのマイケル付加: β-アミノアルデヒドの生成
  • カルボニル基への分子内フリーデル・クラフツ反応
  • 脱水反応: 1,2-ジヒドロキノリンの生成
  • 脱水素反応によるキノリンの生成: ニトロベンゼンなどが酸化剤として働く

グリセリンの種類

グリセリンは様々な分野で広く用いられているため、様々な販売形態で提供されています。具体的な製品の種類には、医薬品、食品添加物用、工業用化学原料用、化粧品原料用、研究開発用試薬などが挙げられます。

医薬品としては様々なメーカーより販売されていますが、一番多い用途は浣腸剤です。調剤における溶剤、軟膏基剤、湿潤・粘滑剤用途で販売されているものもあります。

工業用原料としては、22kg缶、250kgドラムなど、大型容量で提供されていますが、研究開発用の試薬は500mL , 3L , 20kgなどの容量の種類となっています。

グアニジン

グアニジンとは

グアニジンの基本情報

図1. グアニジンの基本情報

グアニジン (英: Guanidine) とは、分子式CH5N3で表される有機化合物です。

別名にはイミド炭酸ジアミドの名称が有り、CAS登録番号は113-00-8です。分子量59.07、融点50℃、沸点160℃ (分解) であり、常温では無色の結晶状粉末で存在します。強い塩基性を持ち、酸解離定数pKa12.5です。水に容易に溶解し、エタノール、メタノール、ジメチルホルムアミドにも溶解します。

キノコやミミズなど自然界にも存在する化学物質であり、タンパク質の代謝によって生成するため、ヒトの尿中にも検出されます。空気中では二酸化炭素を吸収してしまい性質が変わってしまうため密栓して貯蔵する必要があります。

グアニジンの使用用途

グアニジンの塩

図2. グアニジンの塩

グアニジンは、プラスチックや爆薬の原料として用いられている物質です。

また、水素結合を作りやすい性質から、グアニジンの塩は様々な分野で活用されています。例えば、生化学分野においてはタンパク質の変性剤として塩酸塩 (塩化グアニジニウム) やチオシアン酸塩 (グアニジンチオシアン酸塩) がよく用いられます。

合成的には、硝酸グアニジンは火薬の原料として、塩酸グアニジンは医薬品や染料の合成原料として用いられます。また、リン酸グアニジンは紙、木材に対する優れた防炎剤として使用される物質です。難燃性も高い上、吸湿を防ぎ、鉄の腐食を防止する効果をもたらすとされます。

近年では、グアニジンを化石燃料に代わる燃料とする研究も進められています。また、グアニジン及びグアニジノ基は強塩基性を示すため、グアニジンの誘導体は、有機合成において強塩基として用いられる物質が多く存在します。その他、写真材料、消毒剤等を合成するための原料など様々な分野での用途があります。

グアニジンの性質

1. グアニジンの化学的性質

グアニジンの共鳴構造

図3. グアニジンの共鳴構造

グアニジンは、共鳴により共役酸の正電荷が3つの窒素上に非局在化して安定化されており、強い塩基性を示します。このため、生理的条件においては、プロトン化された+1価の陽イオン (グアニジニウムイオン) として存在します。

また、潮解性を有し、空気中では二酸化炭素を吸収しやすい物質です。160度に加熱すると、アンモニアを放出しメラミン(C3H6N6)に変化します。

2. グアニジンの誘導体

グアニジノ基を含む化合物としてアミノ酸の一種であるアルギニンがあります。アルギニンは、タンパク質内でDNAとの結合など重要な役割を負っていることが知られている物質です。

また、天然物アルカロイドでは、アルギニンから生合成されたグアニジノ基を含む化合物が知られており、代表的なものにはサキシトキシンやテトロドトキシンなど強い生理作用を持つものものも多く存在します。

その他では、グアニジンにニトロ基が置換したニトログアニジンは、爆薬の原料として知られる物質です。

グアニジンの種類

グアニジンの純物質は、主に研究開発用試薬製品として販売されています。5g、10gなどの容量で販売され、潮解性があることから冷蔵保管されることもある化合物です。

グアニジンは、グアニジンそのものよりも、塩として販売されることが一般的です。研究開発用試薬製品や、工業用薬品などの製品があります。研究開発用試薬製品として入手可能なものは、グアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジンりん酸塩、グアニジン炭酸塩、グアニジンスルファミン酸塩、グアニジン臭化水素酸塩などです。

塩酸塩やチオシアン酸塩など生化学用途のある化合物には、分子生物学用/生化学用などのグレードが用意されていることが多いため、自分の用途にあった製品グレードを選択することが必要です。容量の種類は、25g、100g、500gなどが一般的に存在します。

工業用薬品としても同様にグアニジン塩酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジンりん酸塩、グアニジン炭酸塩、グアニジンスルファミン酸塩、などが入手可能です。こちらについては、60%塩酸塩水溶液などの製品も用意されていることがあります。有機合成原料、繊維処理剤原料、バイオプロセス原料、臨床検査薬用原料などで利用されている製品です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/113-00-8.html

クロロキン

クロロキンとは

クロロキン(化学式: C18H26ClN3) とは、マラリアの治療のために1940年代に最初に開発されたアミノキノリン誘導体です。

別名アラレンとも呼ばれ、マラリア原虫に対して特異的に作用し、原虫のDNA合成を妨げることで治療効果を示します。また、マラリア治療以外に、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療にも用いられます。

室温では白色の結晶性個体として存在し、水に溶解です。無臭で苦味があります。クロロキンは、pH 8.5以下の環境ではアルカリ性を示し、pH 8.5以上の環境では塩基性を示します。市販のクロロキンには、リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキンの2種が存在します。

クロロキンに側鎖末端にヒドロキシル基 (-OH) が結合した構造であるヒドロキシクロロキンの方が、消化管からの吸収がより速くクロロキンより毒性が低いため使用される場合が多いです。

クロロキンの使用用途

クロロキンは主に医薬品分野で、抗マラリア薬として使用されています。同じく抗マラリア薬として使用されているキニーネの構造をもとに開発された薬剤で、キニーネの十数倍から数十倍も抗マラリア作用が強いとされています。

クロロキンは、特に病原体が耐性を持つプラスモジウム・ファルシパルム種に感染した患者に対して有効です。そのほか、全身性エリテマトーデスやリウマチ関節症状など、自己免疫疾患に対する治療にも使用されることがあり、多岐に渡る症例に用いられます。

しかし、クロロキンが自己免疫疾患に対してどのような作用機序で効果を及ぼしているのかについては十分に明らかになっておらず、現在も研究が進められています。

クロロキンの性質

クロロキンは白色の結晶性の粉末で、苦味があり、無臭の物質です。水にほとんど溶けませんが、酸性条件下では溶解度が上昇します。アルコールやジクロロメタン、およびアセトンなどの有機溶媒には容易に溶解します。融点は250°C以上、沸点は約455°Cです。クロロキンは塩基性であり、pKaは8.4です。

光に対しては比較的不安定で、光や酸化剤による分解を受けます。また、空気に曝露されることで劣化する傾向があるため、保管する際は密閉できる遮光容器が必要です。

そのほか、物薬物相互作用を有するため、臨床使用時には注意が要されます。例えば、胃酸分泌を抑制する制酸剤はクロロキンの吸収率を低下させる恐れがあり、アンピシリンはクロロキンとの併用により血中濃度が低下する可能性が示唆されています。
 
クロロキンは、腸から急速に吸収されるため、副作用や過剰接種による症状は一般的に1時間以内に現れます。過剰摂取した場合の死亡リスクは約20%と言われており、眠気や視覚変化、発作、呼吸停止、心室細動や低血圧など症状が見られます。クロロキンは人間以外にも、水族館での原虫感染症や、農場での鶏マラリアなど広く利用されている例があります。

クロロキンの構造

クロロキンは、塩基性の有機化合物で、化学式はC18H26ClN3で、分子量は319.9g/molです。塩基性キノリン化合物の1種で、その構造は天然の抗マラリア薬であるキニーネに類似しています。

キニーネを元構造とするキナクリンをもとに、構造最適化を行って開発が進められた薬剤です。末端にピペラジン構造を模した官能機を持つ側鎖を有しており、この側鎖はクロロキンの生物学的活性に重要な役割を果たしています。

クロロキンは、塩酸や硫酸などの酸と反応して塩を形成します。医薬品として市販される場合は、一般的に塩酸塩やリン酸塩が用いられます。光学異性体を持たないため、単一の分子構造を持ちます。

また、紫外線スペクトルや赤外線スペクトルを含むさまざまな分析技術によって、クロロキンの構造を特定することが可能です。

クロロキンのその他情報

クロロキンの製造方法

クロロキンの工業的な製造方法はいくつか存在します。
一例として、リン酸クロロキンの製造方法を以下に示します。

反応工程は大きく分けて、4,7-ジクロロキノリンの調製と、1-ジエチルアミノ-4-アミノペンタンの縮合、リン酸塩化のの3つからなります。

  1. キノリンを塩化チオニルで処理し、4-クロロキノリンを得たのち、得られた4-クロロキノリンを塩素ガスでさらに塩素化し、4,7-ジクロロキノリンとします。
  2. そこに1-ジエチルアミノ-4-アミノペンタンを加熱条件下縮合し、クロロキンを得ることができます。
  3. 得られたクロロキンをリン酸と反応させ、保存安定性に優れたリン酸クロロキンを得ます。