クロロキンとは
クロロキン(化学式: C18H26ClN3) とは、マラリアの治療のために1940年代に最初に開発されたアミノキノリン誘導体です。
別名アラレンとも呼ばれ、マラリア原虫に対して特異的に作用し、原虫のDNA合成を妨げることで治療効果を示します。また、マラリア治療以外に、関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療にも用いられます。
室温では白色の結晶性個体として存在し、水に溶解です。無臭で苦味があります。クロロキンは、pH 8.5以下の環境ではアルカリ性を示し、pH 8.5以上の環境では塩基性を示します。市販のクロロキンには、リン酸クロロキンとヒドロキシクロロキンの2種が存在します。
クロロキンに側鎖末端にヒドロキシル基 (-OH) が結合した構造であるヒドロキシクロロキンの方が、消化管からの吸収がより速くクロロキンより毒性が低いため使用される場合が多いです。
クロロキンの使用用途
クロロキンは主に医薬品分野で、抗マラリア薬として使用されています。同じく抗マラリア薬として使用されているキニーネの構造をもとに開発された薬剤で、キニーネの十数倍から数十倍も抗マラリア作用が強いとされています。
クロロキンは、特に病原体が耐性を持つプラスモジウム・ファルシパルム種に感染した患者に対して有効です。そのほか、全身性エリテマトーデスやリウマチ関節症状など、自己免疫疾患に対する治療にも使用されることがあり、多岐に渡る症例に用いられます。
しかし、クロロキンが自己免疫疾患に対してどのような作用機序で効果を及ぼしているのかについては十分に明らかになっておらず、現在も研究が進められています。
クロロキンの性質
クロロキンは白色の結晶性の粉末で、苦味があり、無臭の物質です。水にほとんど溶けませんが、酸性条件下では溶解度が上昇します。アルコールやジクロロメタン、およびアセトンなどの有機溶媒には容易に溶解します。融点は250°C以上、沸点は約455°Cです。クロロキンは塩基性であり、pKaは8.4です。
光に対しては比較的不安定で、光や酸化剤による分解を受けます。また、空気に曝露されることで劣化する傾向があるため、保管する際は密閉できる遮光容器が必要です。
そのほか、物薬物相互作用を有するため、臨床使用時には注意が要されます。例えば、胃酸分泌を抑制する制酸剤はクロロキンの吸収率を低下させる恐れがあり、アンピシリンはクロロキンとの併用により血中濃度が低下する可能性が示唆されています。
クロロキンは、腸から急速に吸収されるため、副作用や過剰接種による症状は一般的に1時間以内に現れます。過剰摂取した場合の死亡リスクは約20%と言われており、眠気や視覚変化、発作、呼吸停止、心室細動や低血圧など症状が見られます。クロロキンは人間以外にも、水族館での原虫感染症や、農場での鶏マラリアなど広く利用されている例があります。
クロロキンの構造
クロロキンは、塩基性の有機化合物で、化学式はC18H26ClN3で、分子量は319.9g/molです。塩基性キノリン化合物の1種で、その構造は天然の抗マラリア薬であるキニーネに類似しています。
キニーネを元構造とするキナクリンをもとに、構造最適化を行って開発が進められた薬剤です。末端にピペラジン構造を模した官能機を持つ側鎖を有しており、この側鎖はクロロキンの生物学的活性に重要な役割を果たしています。
クロロキンは、塩酸や硫酸などの酸と反応して塩を形成します。医薬品として市販される場合は、一般的に塩酸塩やリン酸塩が用いられます。光学異性体を持たないため、単一の分子構造を持ちます。
また、紫外線スペクトルや赤外線スペクトルを含むさまざまな分析技術によって、クロロキンの構造を特定することが可能です。
クロロキンのその他情報
クロロキンの製造方法
クロロキンの工業的な製造方法はいくつか存在します。
一例として、リン酸クロロキンの製造方法を以下に示します。
反応工程は大きく分けて、4,7-ジクロロキノリンの調製と、1-ジエチルアミノ-4-アミノペンタンの縮合、リン酸塩化のの3つからなります。
- キノリンを塩化チオニルで処理し、4-クロロキノリンを得たのち、得られた4-クロロキノリンを塩素ガスでさらに塩素化し、4,7-ジクロロキノリンとします。
- そこに1-ジエチルアミノ-4-アミノペンタンを加熱条件下縮合し、クロロキンを得ることができます。
- 得られたクロロキンをリン酸と反応させ、保存安定性に優れたリン酸クロロキンを得ます。