グリセリンとは
図1. グリセリンの基本情報
グリセリン (Glycerine) とは、化学式C3H8O3で表される3価アルコールの一種です。
別名ではグリセロールと呼ばれます。CAS登録番号は、56-81-5です。
分子量92.09、融点17.8℃、沸点290℃であり、常温では無色透明の無臭の液体です。粘性が高く、甘味を帯びています。密度は1.261g/cm3であり、水及びエタノールに溶けやすく、ジエチルエーテルに極めて混ざりにくい性質があります。
医薬品や多くの産業で種々の利用法がある他、生体内でも中性脂肪、リン脂質、糖脂質などの骨格として存在している物質です。
グリセリンの使用用途
グリセリンの使用用途は、食品添加物、医薬品や化粧品など、多岐にわたります。食品添加物としての用途は、甘味料、保存料、保湿剤、増粘安定剤などです。グリセリンは、虫歯の原因になりにくいという特徴があります。
医薬品や化粧品には、保湿剤・潤滑剤として使われています。医薬品としては、溶剤、軟膏基剤、湿潤・粘滑剤として調剤に用いる他、浣腸液の調剤に広く用いられている物質です。咳止めシロップ、うがい薬、練り歯磨き、石鹸、ローションなどにも広く使用されています。
機械工業などでは、不凍液の成分として用いられる場合もあります。また、合成化学の分野でも原料として活用されている物質です。具体的には、ニトログリセリンの原料や、ヨウ化アリルの原料物質として用いられたりします。界面活性剤、ポリウレタン樹脂などの製造においても原料として使用されています。
グリセリンの性質
1. グリセリンの合成方法
図2. トリアシルグリセロールの加水分解によるグリセリンの合成
グリセリンは、大豆油や獣脂などに含まれるトリアシルグリセロール (トリグリセリド) の加水分解によって得ることが可能です。化学合成的にはプロピレンから合成することもできます。この場合は、エピクロロヒドリンを経由して、塩基性条件での加水分解によりグリセリンが生成します。
また、バイオディーゼル燃料として脂肪酸メチルエステルを合成する際に副産物としてグリセリンが生成します。この反応は、触媒を用いた油脂とメタノールのエステル交換反応です。ただし、この場合は不純物が多い場合があるため、焼却処分される場合も多いです。
2. グリセリンの物性
グリセリンは水に溶けやすく、非常に強い吸湿性があります。水溶液は凝固点降下により凍結しにくく、共晶点は0.667で−46.5°Cです。この特徴を利用して、不凍液として使用される場合があります。
グリセリンの融点は17.8°Cですが、非常に過冷却になりやすい性質があるため結晶化は困難です。冷却を続けると−100°C前後でガラス状態となり、更に液化した空気で冷却した後、1日以上の時間をかけて緩やかに温度を上げることにより、結晶を得られます。
3. グリセリンの化学反応
図3. グリセリンの化学反応の例
グリセリンは、3価アルコールであることから、種々の物質と化学反応を起こします。例えば、ギ酸と加熱するとエステル化を経て脱離が起こり、アリルアルコールを得ることができます。
また、グリセリンは、分子内で脱水を起こしやすい物質です。硫酸水素カリウムなどの存在下で加熱すると、脱水によってアクロレインが生成します。酸触媒の存在下にアセトンと加熱した場合では、脱水して1,2位がイソプロピリデン基で保護された形の誘導体を得ることができます。
グリセリンを用いた反応で有名なものに、「スクラウプのキノリン合成」があります。この合成方法は、グリセリンから生成したアクロレインとアニリン誘導体とを酸化条件で縮合させることにより、キノリン骨格を構築するものです。具体的な反応機構は、下記のようになると考えられています。
- アニリンのアクロレインへのマイケル付加: β-アミノアルデヒドの生成
- カルボニル基への分子内フリーデル・クラフツ反応
- 脱水反応: 1,2-ジヒドロキノリンの生成
- 脱水素反応によるキノリンの生成: ニトロベンゼンなどが酸化剤として働く
グリセリンの種類
グリセリンは様々な分野で広く用いられているため、様々な販売形態で提供されています。具体的な製品の種類には、医薬品、食品添加物用、工業用化学原料用、化粧品原料用、研究開発用試薬などが挙げられます。
医薬品としては様々なメーカーより販売されていますが、一番多い用途は浣腸剤です。調剤における溶剤、軟膏基剤、湿潤・粘滑剤用途で販売されているものもあります。
工業用原料としては、22kg缶、250kgドラムなど、大型容量で提供されていますが、研究開発用の試薬は500mL , 3L , 20kgなどの容量の種類となっています。