ケイ皮酸

ケイ皮酸とは

ケイ皮酸とアロケイ皮酸

図1. ケイ皮酸とアロケイ皮酸

ケイ皮酸 (Cinnamic acid)とは、示性式C6H5CH=CHCOOH で表される有機化合物です。

ベンゼン環にエチレンカルボキシル基が置換した構造を持ち、芳香族不飽和カルボン酸に分類されます。「桂皮酸」「けい皮酸」と表記される場合もあります。シス-トランス異性体の双方をケイ皮酸と呼ぶこともありますが、厳密にはE体のみをケイ皮酸、Z体はアロケイ皮酸と呼ばれます。

なお、アロケイ皮酸は不安定で容易にE体へと異性化する物質です。CAS登録番号は、順に621-82-9 (混合物) 、140-10-3 (E体) 、102-94-3 (Z体) です。

ケイ皮酸の使用用途

ケイ皮酸の使用用途は、除草剤、植物成長阻害剤、殺菌持続剤、防腐剤などです。また、ケイ皮酸のエステル誘導体は、香料や食品添加物、化粧品、農業用薬品の原料として使用されています。

例えば、ケイ皮酸メチルとケイ皮酸エチルは、主にフレーバーとして食品添加物に使用されている物質です。医薬品としては、局部麻酔剤、殺菌剤や止血薬の製造や発赤剤などとして使用されています。

さらに、その他の誘導体としては、メトキシケイヒ酸エチルヘキシルやジイソプロピルケイヒ酸メチルなどの物質は高い紫外線吸収能力があることから、褪色防止剤、紫外線吸収剤・散乱剤などの化粧品として利用されています。

ケイ皮酸の性質

ケイ皮酸の基本情報

図2. ケイ皮酸の基本情報

ケイ皮酸の化学式はC9H8O2であり、分子量は148.16です。E体の融点は133 ℃、沸点は300 ℃で、常温では特異臭を呈す無色の固体です。

密度は0.91g/mLであり、エタノールに溶けやすく水には溶けにくい性質があります。光により変質するおそれがあるとされています。自然界においては、天然油類などにエステルとして存在している物質です。

ケイ皮酸の種類

ケイ皮酸は、研究開発用試薬製品や工業用化成品などとして一般的に販売されています。研究開発用製品としては、trans-ケイ皮酸などの表記で販売されています。容量の種類は25g、500gなどです。室温で保存可能な試薬製品として取り扱われます。

化成品としては、ファインケミカル、医薬品中間体などの用途が一般的です。100g、1kg、25kgなどの単位で販売されており、工場需要に対応した供給となっています。

ケイ皮酸のその他情報

1. ケイ皮酸の合成

ケイ皮酸の合成 (パーキン反応)

図3. ケイ皮酸の合成 (パーキン反応)

ケイ皮酸は、工業的にはベンズアルデヒドと無水酢酸に酢酸カリウムを作用させるパーキン反応によって合成されます。その他の方法では、シンナムアルデヒドの酸化によって合成可能です。

自然界において、ケイ皮酸はフェニルプロパノイドの一種です。天然に存在するケイ皮酸は、フェニルアラニンがフェニルアラニンアンモニアリアーゼによる脱アミノ化を受けることで生成します。

2. ケイ皮酸の誘導体

ケイ皮酸のエステル誘導体の中には、芳香を持つものが知られています。代表的な例として、ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸n-ブチルなどが挙げられます。

ケイ皮酸メチルは、いわゆるマツタケ臭、バルサム臭を呈す物質です。ケイ皮酸エチルはいわゆるシナモン臭といわれる果実臭、バルサム臭を呈します。

その他の誘導体では、無水ケイ皮酸や、コーヒー酸 (3,4-ジヒドロキシケイ皮酸: ケイ皮酸のパラ位及びメタ位がヒドロキシ化された構造を持つ芳香族カルボン酸) などがよく知られている物質です。

3. 有機化学合成におけるケイ皮酸

ケイ皮酸は合成原料としても有用な化合物です。具体的な例としては、trans-ケイ皮酸ヒドラジド誘導体 (強力な抗抗酸菌活性を有する)  の合成、均質エステル化反応によるケイ皮酸グリセリドの合成、植物細胞培養による生体触媒脱炭酸を介したスチレンの合成などを挙げることができます。

参考文献
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907094161809939

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