超音波風速計

超音波風速計とは

超音波風速計

超音波風速計とは、風速計の1種で、大気中の風や排気口から出る風などの強さを測定するために、風向きや速さを測定する装置です。

風速計には複数の方式がありますが、超音波風速計は他の風速計のように2次元ではなく、3次元での立体的な観測が可能なのが大きな特徴です。つまり、風の吹上や吹き下ろしといった鉛直方向成分も観測することが可能になります。

また、機械的に可動する構造ではないため、強風でも破損の恐れが少なく、過渡的な変化にも追従しやすいのも特徴の1つです。

超音波風速計の使用用途

風速計は、屋外向けに雨や雪などに強いものから、屋内向けにクリーンルームや精密性が要求される製造現場での環境調査の使用に適したものまであります。中でも超音波風速計は、以下の用途で使用される場合が多いです。

1. 屋内での使用例

  • クリーンルーム内気流変化の確認
  • 液晶パネル
  • LED製造のライン
  • 住環境や冷蔵庫内監視

2. 屋外での使用例

  • 大気拡散観測建設
  • 土木の安全管理
  • 底層気象及び極地気象測定
  • 交通機関の安全運転

超音波風速計の原理

超音波風速計は、風速によって変化する音速の変化量で音速を測定します。超音波で風速が計測できるのは、空間の中で風が吹いているような状態、つまり運動している大気の中を音波が伝播する際には、音は風によって流されるために、伝わるまでの時間が変化するからです。

具体的には、向かい合わせたトランスデューサー (超音波送受信器) の間を、発信部から発信した超音波パルスが受信部で受信されるまでの時間から、超音波が2点間を伝播する所要時間を計測し、双方からの伝播時間を比較しています。空気に動きが無い状態では、すべての方向の超音波パルスの伝播時間が等しくなります。

しかし、風等の影響がある場合、伝播時間は等しくなりません。風下方向に発射された超音波と、風上方向に発射された超音波が、対面のトランスデューサーに到達する時間には差異が生じます。この原理を利用し、それぞれの対のトランスデューサー間での伝播時間の変化を元に、システムが風速と風向の値を算出します。

超音波風速計の種類

1. 2次元 (2軸) 超音波風速計

2つのトランデューサー間の超音波パルスを送受信する時間から、水平の風向風速の測定が可能です。

2. 3次元 (3軸) 超音波風速計

2次元超音波風速計に加え、鉛直成分風速 (吹き上げ・吹き下ろし) の3次元風速の測定が可能となり、立体的な観測が可能となります。3方向120度の角度で測定します。

超音波風速計のその他情報

風速計の種類

1. 熱式風速計
熱式風速計は、熱を持ったセンサーが、風によって冷却される際に生じる電気抵抗の変化を利用して風速を計測します。風速以外にも風量、風温、湿度、圧力などの項目も測定できるのが特徴です。

空調機器の検査やメンテナンス、クリーンルーム内や製造現場の環境検査など、主に屋内で使用されます。

2. ベーン式風速計
ベーン式風速計は、扇風機のような回転翼の回転数から、風速を計測します。手軽に持ち運びできるので、屋内外問わず広く使われます。ただし、計測時には風速計を、風の向きに上手く向けなければなりません。

3. 風杯型風速計
風杯型風速計は、風を受けた風杯という半球状の部品が回転軸を中心に回る速度によって風速を計測します。風杯は通常2つか3つ備えられています。2次元に対して方向を問わずに計測することが可能です。

クレーンなどの高所や鉄道、ロープウェイ等の強風監視に使用されます。風向きによらず風速だけを知りたい場合に向いている風速計です。

4. 風向風速計
風向風速計は自由に回転できる本体の一方にプロペラがあり、その反対側に垂直尾翼があります。風が吹くと垂直尾翼によって自動的にプロペラが風上を向き、正しく風速を計測できるのが特徴です。気象観測や屋外での環境調査に使用されます。

参考文献
https://metoree.com/categories/anemometer/
https://www.rex-rental.jp/feature/37/anemometer#p03-01

デジタル風速計

デジタル風速計とは

デジタル風速計

デジタル風速計とは、その名のとおり、デジタル表示型の風速計です。

特徴として、誰でも手軽にに風速を計測可能で、軽量コンパクトなものが多くあるため、持ち運びに便利な点が挙げられます。近年のデジタル風速計は、風速だけでなく、特に熱線式風速計では温度や湿度も同時に測ることができます。

また、データのホールド、単位の切り替え、電池の残量表示、データの記録ができるなど機能が豊富です。最大値、最小値や平均値を表示可能なため、さまざまなシチュエーションで活用されています。

デジタル風速計の使用用途

デジタル風速計は屋外イベントやスポーツから、建設現場、農業、漁業まで幅広い分野で使用されています。近年ではドローンを飛行させる際に、デジタル風速計が重宝されています。

ドローンは飛行エリアの風速の影響を受けるため、飛行エリアの風速計測にも使用されています。デジタル風速計は、コンパクトで容易に計測可能であるため、屋内外問わず使用可能です。

1. 屋内の場合

  • 空調設備のメンテナンスや検査
  • 分煙効果の確認
  • 換気扇の風速測定
  • 空調設備の排気測定
  • 室内の対流測定
  • クリーンルームの空気環境調査
  • 製造現場での室内環境調査

2. 屋外の場合

  • 屋外や高所などの安全管理・風速管理
  • クレーンや屋外現場に固定し測定
  • 気象観測
  • ドローン飛行条件の確認

デジタル風速計の原理

Fig1 デジタル風速計の原理

図1. デジタル風速計の原理

風速計には複数の種類が存在しますが、小型で持ち運びができるデジタル風速計の場合、熱線式と翼車 (ベーン) 式が主流です。そのほか、ピトー管式や風杯型風速計なども存在しています。

1. 熱線式

室内用途で多い方式です。センサー先端に熱によって抵抗値が変化する抵抗体が設置されており、風を受けるとセンサが冷却されて熱線の温度が下がります。

流れが速いほど冷却は早いため、この流速と冷却熱量の関係を利用することで抵抗値風速を測定します。この関係式はKINGの関係式と呼ばれています。屋外であると太陽の熱などで温度が変化してしまうため正確な測定ができません。

構造が簡単で、コンパクトな測定器です。また、風温や湿度などほかの特性も同時に測定することができます。

2. 翼車 (ベーン) 式

ベーン式風速センサの測定原理は、流体により回転するベーン (羽根車) の回転数を計測して速度を演算します。回転数は速度に対して比例するという原理に基づきます。

回転数は流体の密度、圧力および温度からの影響はほとんど受けません。ベーンの回転数は近接スイッチやフォトカプラによりカウントされます。

熱線式に比べて、熱の影響を受けないため屋外でも使用可能です。しかし、微風領域の精度が低くなり、応答速度も遅いため風速が小刻みに変化する場合には適しません。

Fig2 デジタル風速計の種類

図2. デジタル風速計の種類

3. ピトー管式風速センサ

産業用途でよく使用されています。ピトー管式風速センサは、風の流れに対して正面と側面に小さな穴を設け、その圧力差を測定してベルヌーイの定理から風速を測定します。空気の流れに対して垂直に向けていないと正確な流速は得られませんが、原理が単純なため安価なものが多いです。

4. 風杯風速センサ

カップのような形状をした風杯が風の強さによって表側と裏側でうける風圧による力が異なることを利用して、回転します。この回転数を測定することで、風速を測定します。共に回転するという動作を伴うため、風速の変化に対しての応答が遅く、また微風速度域の測定には不向きです。

このように原理および特徴が異なるため、目的や使用用途に応じて、使い分ける必要があります。

デジタル風速計のその他情報

デジタル風速計のメリット

Fig3

図3. 風速・風向の時間変動

風速計をデジタル化しするメリットは、平均風速や最大値・最小値などの計測を自動化してくれることです。通常、風速は時間によって大きく変動します。さらに、風速は向きまで変動することが多いため、風速計のプローブの向きまでもが精度に影響し、手の振動などによっても値が変わってしまいます。

平均風速が欲しい場合でも値が振れていると、主観を挟まない正確なデータは取りづらいです。デジタル風速計の表示器には 、これらの〇〇秒の間の平均風速を算出する機能や、〇〇秒間の最大風速・最小風速などを表示する機能などが備わっているため、誰が扱っても公平なデータをとることができます。

参考文献
http://www.kanomax.co.jp/technical/detail_0001.html
http://www.myzox.co.jp/data/products/article/958

真空ゲートバルブ

真空ゲートバルブとは

真空ゲートバルブ

主に真空設備や半導体製造設備などで、複数の真空室同士や真空室と大気側環境を仕切る為の弁体です。

ゲートバルブには様々な開閉タイプや開閉動力、弁体構造があり、弁体を挟んでどの様な圧力差が生じるか、開閉速度や開閉時のゴミや塵の発生レベル、耐熱性、耐化学性などを考慮して選定します。 直径数十ミリの小型の物から、フラットパネルディスプレイ生産設備に用いられる幅数メートルの大型のものまで、幅広いサイズが存在します。

真空ゲートバルブの使用用途

複数の真空室同士を仕切る場合や、大気側と真空室を仕切る目的で用いられます。 この場合は、ある真空室を常に真空状態に保ちながら、内在する処理物を他の真空室へ搬送する際や、大気側との出し入れの際に仕切る役割を果たします。

その他に真空室より排気されるガスの流量を調整する為の弁としても用いられ、その場合は開弁率を調節しながら排気速度を調節します。流量調整弁として用いる場合は開閉速度の早いバタフライ式が用いられます。

真空ゲートバルブの原理

真空ゲートバルブは弁体や開閉構造により多数のバリエーションがあります、 弁体の素材はステンレス製又はアルミ製が主流で、開閉動力は手動式、電動式、圧縮空気によるエアー式が挙げられます。 弁体には真空室の気密性を維持する為にOリングやシール材などが備わっており、高温管理されている真空室と同温とする為にヒータを内蔵した製品もあります。

  • 昇降型ゲートバルブ
    最も一般的なタイプで、弁体が上下する事で開閉します。小型の物は上昇の1アクションで気密までを得ますが、大型の製品では 上昇→押しつけ の2アクションをとる事が多いです。
    弁体の両側が真空となる為、ハウジングにもOリングなどの機密構造を持ちます。 弁体は角型と丸形があります。
  • ドアーバルブ
    大気側と真空室を仕切るバルブをドアーバルブと言います。昇降型ゲートバルブと似ていますが、一方が大気圧の為ハウジングを持たず、弁体を真空室に押し当て気密を取ります。
  • 振り子式ゲートバルブ
    丸形の弁体を持ち、弁体が振り子の様に動く事で開閉します。 コンパクトさが特徴で、摺動部が少ない事から低発塵というメリットもあります。

振動発生装置

振動発生装置とは

振動発生装置とは、機械的な振動を発生させる装置のことです。

携帯電話の中に組み込まれる微小なものから、地震を再現するための大型なものまで多岐にわたります。中には目標とする振動を正確に発生させる装置もあり、利用方法も様々です。

発生させる振動の周波数、振幅、加わる方向など、あらゆる条件が存在し、駆動方法も電気、空圧、油圧を利用したものまで多種多様です。必要に応じてそれぞれの条件に見合った装置が組み込まれています。

振動発生装置の使用用途

最も身近な振動発生装置は、携帯電話のバイブレーションの発生装置のように、振動によって人に何かを伝える用途で使用されます。

産業機器では主に振動を与えて部品を搬送したり、整列させたりする装置のほか、パーツフィーダや粉体の切り出し装置に用いられます。

それ以外にも、トラックでの荷物の輸送を想定して試験を行ったり、大地震を再現して建物などの強度を確認する試験装置などにも利用可能です。

振動発生装置の原理

携帯電話のバイブレーションなどは、モーターの先端に偏心させた重りをつけて回転させ、モーターが安定して回転できずに振動が起きる原理を利用しています。産業用途では振動の再現性を重視するため、1軸の振動発生装置を複数方向に組み合わせて、目的の振動を発生させる仕組みが多いです。

油圧を利用する振動発生装置は、大きな力と振幅を出すことも可能ですが、周波数が高くなると油の移動が追従できません。空圧を利用する振動発生装置の構造はシンプルで設置しやすく、クリーンな環境で利用可能ですが、空気自体が圧縮性を有するため正確な振動を発生させる場合に向いていません。電磁コイルを利用する振動発生装置は、高周波まで対応できますが、発生する振幅は小さいです。

試験装置などは振動を正確に発生させるために、振動装置にセンサーを取り付けてフィードバックを行うことで、目的の振動を正確に再現できます。

振動発生装置の種類

振動発生装置は、油圧型、動電型、アンバランスマス型の3種類に分類されます。

1. 油圧型

油圧型の振動発生装置は、油圧によってピストンを駆動して、振動を発生させます。

2. 動電型

動電型はコイルに電流を流して、磁界中で生じる力を利用して、振動を発生させる装置です。スピーカーと同じ原理で、フレミングの左手の法則 (英: Fleming’s left hand rule) と呼ばれています。フレミング左手の法則とは、磁場中の導線に電流が流れると導線にローレンツ力が作用して、導線がある方向へ動く、左手の指で示す電磁気現象の記憶法であり、ジョン・フレミング (英: John Ambrose Fleming) が考案しました。

3. アンバランスマス型

アンバランスマス型の振動発生装置は、モーターに偏芯した重りを付けて回転させ、遠心力で振動を発生させます。アンバランスマス型は、携帯電話のバイブレーションと同様の原理で、整列機などにも使用される場合が多いです。

振動発生装置の選び方

1. 油圧型

油圧型の振動発生装置では、容易に大きな力を生み出せます。振動発生装置の上に家を建てられるほど大型にでき、1,000Hzのような中域まで駆動可能です。その一方で、小さい振動発生装置は製作不可能であり、大規模な油圧ポンプのメンテナンスが大変で、使用環境が悪く、高域にも向きません。

2. 動電型

動電型の振動発生装置は非接触で駆動でき、広帯域で歪みがない波形を作れます。また、多種多様な外部入力信号に対応可能です。さらに、非常に小型の装置から大型の装置まで製作でき、電源だけで研究室にも容易に設置できます。しかし大振幅や大出力が難しく、駆動のために信号源と電力増幅器が必要で、システムがとても高価です。

3. アンバランスマス型

アンバランスマス型の振動発生装置は簡単で安く、電源だけで駆動できます。ただし性質上回転運動になり、再現性が悪いため、振動試験には向いていません。周波数の限界が低く、地震波、ランダム波、ショック波などの外部信号で駆動できません。

参考文献
https://www.imv.co.jp/pr/simulation_system/
https://www.sinfo-t.jp/vibrator/about.html

卓上遠心機

卓上遠心機とは

卓上遠心機

卓上遠心機とは、遠心分離機の卓上型のものです。

遠心分離機 (遠心機) は、遠心力を利用して試料を粒子の比重に応じて分離させる装置を指します。卓上型と言っても、簡易的な構造・機能を持つ小型のものから、床置き型と同様の機能を卓上型にまとめたものまで多種多様です。

使用できる容器も、マイクロプレートマイクロチューブ、試験管、遠沈管など目的に応じて色々な種類があります。卓上遠心機は国内外で製造されており、国産の装置も多いです。

卓上遠心機の使用用途

遠心分離機は様々な業種で使われていますが、卓上型は科学実験用として運用されることが多い状況です。

  • 細胞培養
  • 血液 (血球、血清、血漿の分離など)
  • 生化学 (DNA、RNA抽出など)
  • 分析関連 (液-液抽出など)

また、医療用としても血球、血清、血漿の分離などに使用されています。血液採取後、速やかに血漿や血清を分離する必要がある場合は、比較的場所を取らない卓上遠心機を設置しておけば便利です。

用途に応じて、さまざまなローターの形状や回転数の製品があります。一度に処理する必要があるサンプルの数や、必要な遠心力が異なっているためです。

卓上遠心機の原理

物質にはそれぞれ特有の比重があります。卓上遠心機で分離の対象となる生体試料の特定の画分や様々な粒子も、それぞれの成分構成に応じた比重を持ちます。

遠心分離は、遠心力を利用して、これらの比重の差で各画分を分離させるものです。一般に比重が大きいものは沈降しやすく、静置しても重力によりいつかは分離します (他の性質の影響で分離しないこともあります) が、遠心分離では遠心力を加えることで速やかに分離を行います。

卓上遠心機の種類

1. 簡易的な構造・機能を持つ小型のもの

回転数を厳密に設定せずに使う、簡易の卓上型の遠心分離機です。主にマイクロチューブと呼ばれる小型のプラスチック試験管 (容積1.5 mL) に対応しています。

ちょっとしたスピンダウン (沈殿を下部に集める) や、遠心ろ過 (フィルターカートリッジを備えたマイクロチューブに遠心力を加えて迅速にろ過を行う) に用いられます。

2. 床置き型と同様の機能を卓上型にまとめたもの

床置き型と同じ用途ですが、床置きの面積を確保しなくても卓上に設置できるのが利点です。冷却・加温ができるものもあります。

大型のものではスイングローターの使用が可能なものがありますが、卓上型ではアングルローターのみに対応しているものが多いです。スイングローターは大型の遠沈管やマイクロプレートなど寸法が大きい容器に対応できますが、回転数を高くすることができません。

アングル型はローターに適合する遠沈管 (適合するマイクロチューブを含む) しか使用できませんが、高い回転数で使用できます。

卓上遠心機のその他情報

1. 回転数と遠心力の関係

遠心力は回転半径に比例し、回転数の二乗に比例します。同一のローターであれば回転半径は同じであるため、遠心力のために設定で変えられる部分は回転数です。

遠心力 (相対遠心加速度) の単位はg (gravity) 、回転数の単位はrpm (revolutions per minute) です。使用時には、各メーカーが提供している換算表を用いてgとrpmの変換ができます。

2. 回転数・遠心力と機種選定

遠心分離を行う際は、目的に応じて対応可能な機種を選ぶ必要があります。沈降しやすいものを分離するだけであれば強い遠心力が必要とされませんが、分離したいもの相互 (例えば目的物の粒子と分散媒体である水溶液) の比重の差が小さい時には分離が難しいためです。

細胞や血球を分離するときは、3,000rpm程度の低速遠心でほとんどが分離できます。代表的なローターで、遠心力1,000g程度に相当します。DNAやRNA抽出の場合は、数万rpmの遠心力が必要となるため、高速遠心機を用います。この場合は、12,000g程度が必要です。

3. 取り扱いの留意点

遠心分離する前には、試料のバランスを確認することが重要です。試料の重さが偏った状態で高速回転させると振動が生じ、遠心分離機が壊れる危険性があるためです。

遠心分離する前に使用する容器の材質の強度が遠心力に耐えうるか確認することも必要です。通常は遠心機で使用することを前提に設計された容器を用います。使用前に、容器が損傷していないことを確認することも重要です。

冷却下での使用後には、装置内の水分を乾燥させることが求められます。精密に加工されている遠心機は少しの腐食や錆でも不具合の原因となるためです。

参考文献
https://doi.org/10.14894/faruawpsj.2.2_110
https://www.himac-science.jp/useful/centrifugation/centrifugation.html

デジタルpH計

デジタルpH計とは

デジタルpH計とは、溶液のpHを測定するための計測器です。

pHとはpotential hydrogen、またはpower of hydrogenの略であり、液体の水素イオン濃度指数のことです。0~14の数値で表され、数値7の時に中性、7より小さい状態を酸性、7より大きい状態はアルカリ性であることを示します。

デジタルpH計を用いれば、溶液の水素イオン濃度指数をデジタル値として読み取ることが可能です。pHは「ペーハー」や「ピーエイチ (ピーエッチ) と呼ばれていますが、JIS Z8802:2011では「ピーエイチ又はピーエッチと読む」としています。

デジタルpH計の使用用途

デジタルpH計は、環境測定や化学分析などに用いられます。環境測定では上水や排水の水質管理、化学分析においては実験室から工業製品の生産ラインにおける品質管理に使われています。

化学分析において、pHはサンプルの前処理条件・分析条件に影響を与える指標の1つです。pHは化学反応の進行にも影響を与えるため、製造現場における大切な管理項目の1つです。

デジタルpH計の原理

デジタルpH計に多く用いられている測定法は、ガラス電極法です。ガラス電極方法では2本の電極 (ガラス電極・比較電極) を使います。電極のガラス薄膜で隔てられた2つの領域にpHが異なる液体がある場合、その差に応じた起電力が発生するため、ガラス電極・比較電極の電位を装置本体で測定することによってpHが計算されます。

なお、pH計は使用する前に校正が必要です。pH標準液はpH7をゼロ点とし、pH4とpH9の三点校正を行うのが一般的ですが、サンプルのpHに応じて校正に使用するpH標準液を変える場合もあります。また、検量線の傾きは温度による影響を受ける点に留意しなければなりません。

pHを精度良く測定するためには、pH標準液とサンプルの温度を可能な限り揃えること、電極のメンテナンスを適切に行うこと、電極の液落部をしっかりとサンプルに浸す必要があります。pH測定の作業自体は簡単ですが、測定時のポイントを押さえること、ならびにメンテナンス法を手順化させることが大切です。

ガラス電極式以外のpH測定方法には、リトマス試験紙等の指示薬を使う方法や水素電極法、キンヒドロン電極法、アンチモン電極法などがありますが、ガラス電極式法は他の測定方法と比べて安全で精度が高く、再現性も高いのが特徴です。

デジタルpH計のその他情報

1. デジタルpH計の校正

pH計の校正とは、pH計のゼロ点およびスパン点 (感度) を、pH標準液を用いて正しく調整することです。使用するデジタルpH計によって特有の操作があるので、実際に校正する場合には、付属の説明書を優先します。

校正には、1種類のpH標準液を使用する一点校正、2種類を使用する二点校正、3種類を使用する三点校正などがありますが、pH計の校正には二点校正を行うことが多いです。一点校正は、簡易的な校正です。より厳密に校正するためには、三点校正を行います。

ガラス電極における「pH当たりの起電力」の実際値は、ガラス膜の汚れや「アルカリ誤差」「酸誤差」 (それぞれ、強アルカリ性、強酸性における誤差) などの影響を受けます。このため一般的に、理論値 (59.16mV、25℃) より低い値を示します。また「pH7の起電力」も同じく、理論値 (0mV) から誤差が生じます。

測定前および定期的な校正を行うことで、精度の高いpH測定を行うことができます。

2.  デジタルpH計の校正液

pH標準液の種類と品質・組成は、下記の通りです。

シュウ酸塩pH標準液
0.05mol/kg二シュウ酸三水素カリウム水溶液で、25℃の時pH1.68

フタル酸pH標準液
0.05mol/kgフタル酸水素カリウム水溶液で、25℃の時pH4.01

ホウ酸塩pH標準液
0.01mol/kg四ホウ酸ナトリウム水溶液で、25℃の時pH9.18

炭酸塩pH標準液
0.025mol/kg炭酸水素ナトリウム、0.025mol/kg炭酸ナトリウム溶液で、pH10.02

中性リン酸塩標準液
0.025mol/kgリン酸に水素カリウム、0.025mol/kgリン酸水素二ナトリウム水溶液で、25℃の時pH6.86 

参考文献
https://www.yokogawa.co.jp/library/resources/faqs/an-ph-orp-02-measuring-methods/
https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2020/202005p161.pdf
https://www.horiba.com/
http://www.y-dkk.com/yusb01setu07.shtml
https://kikakurui.com/z8/Z8802-2011-01.html 

凍結乾燥機

凍結乾燥機とは

凍結乾燥機の構造

図1. 凍結乾燥機の構造

凍結乾燥機は凍結状態にある試料から水分を除去するための装置です。

基本的な装置構成は、以下の3つです。

  • チャンバー (乾燥庫):試料を格納し、乾燥させる
  • 冷却トラップ:コンデンサーで気化した水蒸気を再度凝結して回収する
  • 真空ポンプ:装置内を減圧する

予め凍結させた試料を庫内で減圧し、氷を昇華させることによって、水分・溶媒を除去する仕組みです。試料の構造の変化を最小限に抑えながら乾燥させることができます。

凍結乾燥機の使用用途

凍結乾燥機は、常温保存、冷蔵保存、凍結保存などにおいて試料を長期間保存する際、試料中の水分の影響により、どうしても劣化が防げない物質に対して使用されます。

凍結乾燥した試料は、密封すれば常温で長期間の保存が可能です。そのうえ、他の保存方法に比べて保存している間の装置の維持にかかるコストを抑えられます。

具体的な使用用途は下記のとおりです。

1. 食品

フリーズドライ食品と呼ばれるものは、凍結乾燥によって製造されている製品です。インスタントコーヒーや味噌汁をはじめ、最近では宇宙食や非常食もあります。メリットは、長期保存が可能であること、乾燥していて軽いため輸送に向いていること、風味が変わりにくいことなどです。

2. 医薬品

加熱せずに粉末化できるため、熱に弱いタンパク製剤、酵素製剤等の注射剤を製造するのに用いられています。また、動物の精子を凍結乾燥機で保存する研究等も行われています。

凍結乾燥機の原理

凍結乾燥機の模式図

図2. 凍結乾燥機の模式図

凍結乾燥機の工程は次のようになります。

  1. 予備凍結を行い、試料を十分に凍結させます。
  2. 凍結した試料をチャンバー (乾燥庫) の庫内に格納します。
  3. 一次凍結:真空ポンプで庫内を減圧し、真空状態にすることによって、試料から溶媒を昇華させます。棚板式では、昇華によって失われる熱エネルギーを棚板の加温によって補填し、効率的に乾燥させることが可能です。
  4. 二次凍結:棚板式では、棚温度を昇温し、溶質成分中に不凍水 (結合水) として取り込まれている水分を除去します。比較的短時間の工程です。
  5. 減圧を解除し、試料を取り出します。棚板式凍結乾燥機では、打栓シェルフ・打栓バイアルを用いることにより、減圧を解除する前にバイアルに打栓できるようになっています。

また、昇華した水蒸気は冷却トラップという装置で冷却し、再度氷として回収します。この時、乾燥室と冷却トラップの温度差が大きいほど乾燥が早く進みます。

食品の場合、溶けやすい、水や熱湯で戻しやすいというメリットがありますが、密封を解いてしまうと酸化、吸湿しやすくなり、劣化が進みやすくなります。

凍結乾燥機の種類

様々な凍結乾燥機

図3. 様々な凍結乾燥機

凍結乾燥機の形状には、大きく分けて、「マニホールド式 (多岐管式) 」と「棚板式」の2種類があります。

また、ラボスケールで使用される小型のものから、製造現場で用いられる大型のものまでサイズ展開も豊富です。乾燥能力としては、小型のものは150mL程度のものから、大型のものは100Lを超えるものまで機種によって大きく異なります。

1. マニホールド式 (多岐管式)

比較的小規模で主に基礎研究に適しており、棚板式は小規模から大規模まで対応可能です。

2. 棚板式

棚板を加温することで、温度調節が可能です。昇華に必要な熱エネルギーを試料に補填することができ、効率的に試料を乾燥させることができます。また、棚板式の製品の中には、打栓機能が備わっているものがあります。試料容器に打栓バイアルを用い、打栓シェルフを稼働させることにより、庫内の真空を維持したまま自動で打栓することが可能です。

参考文献
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0035043
http://dx.doi.org/10.1016/j.cryobiol.2012.01.010
https://doi.org/10.14894/faruawpsj.6.3_203

デシケーター

デシケーターとは

デシケータ

デシケーター(除湿庫)とは、湿気を避けるべきものを保管するために用いる容器のことです。

古くから使われているタイプは、円形で厚肉のガラスでできています。乾燥状態を維持するために、シリカゲル等の乾燥剤を用いる場合があります。内部の空気組成や、湿度をコントロールできるようになっています。

吸湿性・潮解性を持つ試薬や試料、電子機器などを保管します。中に入れる試料・物質の性質やサイズに合わせて、多様なサイズや機能を持ったデシケーターが販売されています。

デシケーターの使用用途

デシケーターの主な目的として以下の項目が挙げられます。

 除湿・乾燥保管

ガラス器具、試料・試薬、潮解性がある試料、植物種子、電子機器などを入れることが多いです。デシケーターは乾燥状態を維持させるための機器なので、濡れている物質を入れることには向いていません。予め乾燥させてから入れます。

光学製品の保管

カメラのレンズや半導体部品などは、湿気やカビにより性能が低下することがあります。そのため、強力な除湿機能を持つデシケーター(オートドライタイプ)に入れる場合があります。

物質の酸化防止

より強力な除湿や、酸素を遮断したいものを保管する場合は、ガスによる置換や真空によって内部の空気をコントロールする必要があります。

デシケーターの原理

デシケーターの種類は除湿方式により分けられ、大分すると以下の通りです。

オートドライデシケーター

除湿機などがついており、電気的なコントロールをすることで、湿度を管理します。庫内の湿度を制御可能であり、メンテナンスが少なく済みます。

ガス置換デシケーター

デシケーター内部の空気を、不活性ガス(窒素やアルゴンなど)で置き換える手法で、最も除湿能力が高いです。また、水分だけでなく内部の酸素を追い出すことが可能であり、酸素とも反応してしまうような試料の保管に向いています。

真空(減圧)デシケーター

デシケーター内部の空気を抜き、真空状態にする方法(真空デシケーター)があります。真空デシケーターは、真空乾燥・脱気・脱泡(液体のガスを除去する工程)の作業にも使用されます。

除湿剤タイプデシケーター

シリカゲルなどの乾燥剤に庫内の水分を吸着させます。乾燥剤のメンテナンスが必要ですが、価格が安いので、手に入りやすいです。円形のガラス製のデシケーターは、気密性を高めるために本体と蓋の接点にグリスが塗ってあるので、ホコリがつかない様に注意する必要があります。このタイプは、ガラスデシケーターとも呼ばれています。

デシケーターのその他情報

1. デシケーターの使い方

ここでは、除湿剤タイプの真空デシケーターについて、使い方を説明します。

真空デシケーターの場合は容器に真空引き用の穴などが空いています。ガラスデシケーターとも呼ばれますが、現在は同じ形状のポリカーボネート製やステンレス製のものもあります。また、真空ゲージ付きの製品や小型の角形の製品もあります。

除湿剤タイプのデシケーターは、持ち運びの際、蓋と本体をしっかりと支えます。蓋と本体の間のすり合わせ部分には、ワセリンやグリスを均一に塗り広げます。ポリカーボネート製のものでは、Oリングによるドライシール方式でグリスの塗布の必要がないものもあります。この際、ほこりなどが入らないように注意しましょう。

デシケーターの下部(中板の下)に、乾燥剤を入れます。結晶皿などの容器に入れて置くと、交換が楽です。乾燥剤には、シリカゲルのほか、ゼオライト水酸化カリウム、無水塩化カルシウム、五酸化リン、濃硫酸などがあります。シリカゲルやゼオライトは再生処理することで繰り返し利用が可能です。

試薬や試料など乾燥したい物を、中板の上に置きます。グリスを塗るタイプのデシケーターの場合、蓋が固着して開かなくなることがあるので、本体と5mm程度ずらして蓋をします。

真空乾燥する場合には、上部のコックを開き、チューブの途中にはトラップを挟みます。アスピレータなどで吸引して、徐々に減圧します。完全に減圧してから、コックを閉めます。

減圧していた場合、コックを開けて常圧に戻してから、蓋を開けます。デシケーター内に空気が勢いよく入ると、試料が飛ばされるおそれがあるので、ろ紙を空気が入るガラス管に当ててコックを開けます。ろ紙が落ちれば、デシケーターの中は常圧に戻っています。

横にスライドさせるようにして、蓋を開けます。力を入れすぎると、落として割る可能性があります。ガラス製の場合、特に注意が必要です。

2. オートドライデシケーター

オートドライデシケーター

図1. オートドライデシケーター

オートドライデシケーターは、一般的な保管庫や保管棚のような形状をしています。40cm×35cm×45cm程度の小型のものから、高さが180cm近い大型のものまで、大きさはさまざまです。大型のものには、通常キャスターがついていて、移動が可能です。

オートドライデシケーターの多くは、固体高分子電解質膜を用いた除湿方法を採用しており、庫内の空気中の水分を直接電気分解してデシケーターの外に放出する仕組みです。この方法での除湿能力は~25%までになり、湿度も調整可能であり、ドレンも出ないようになっています。シリカゲルと併用することでより強力な除湿も可能となります。また、UVカットや静電気対策が施された製品もあります。

チェーンカップリング

チェーンカップリングとは

チェーンカップリング_図1

図1. チェーンカップリングの外観

チェーンカップリング (英: Chain Couplings) とは、2軸間をスプロケットとチェーンを使用して連結とする軸継手で、たわみ型軸継手 (カップリング) の1種です。

軸継手とは、2つの軸 (シャフト) を接合するための機械要素で、駆動軸の動力・回転を従動側へ伝達する役割を担っています。軸継手はジョイントやカップリングとも呼ばれています。

たわみ型軸継手は、2軸間の芯ずれを吸収可能で、軸取り付け誤差を緩和する特徴があります。

チェーンカップリングの使用用途

チェーンカップリング_図2

図2. チェーンカップリングの使用例

チェーンカップリングは、汎用的な一般産業用モータと機器や装置との連結に使用されている軸継手です。例えば、生産工場の設備では、電動モータとポンプの軸継手として使用されています。

電動モータの動力でポンプを駆動させて、冷却水が機器を循環することで機器を冷却します。チェーンカップリングは、特に汎用的な用途として使用されています。

軸外径はφ10~φ700mm、トルク範囲は100~700,000N・m (数値はあくまでも一例です) と、適用範囲が幅広いのが特徴です。また、機械を分解や移動させずに軸間の連結が外せるため、突発的な故障やメンテナンス時に工事が容易になります。

チェーンカップリングの原理

一般的に軸継手は、軸継手はトルクを伝える力と一定のミスアライメントの許容幅が求められます。軸継手で連結する機械軸間の芯出しが正確に施工できない場合は、芯ずれにより発生した振動で機械が損傷する可能性があります。

このような場合は、たわみ軸継手を使用し機械軸間の芯ずれを吸収し、モータなどの機械に負荷が掛からないようにします。チェーンカップリングは、たわみ軸継手の1つとして使用され、たわみ型軸継手の中でも伝達能力が高く構造も簡単です。

芯出しが容易で、チェーンとスプロケットの嚙み合いの遊びで、機械などを過大な負荷から保護します。また、ローラチェーンとスプロケットの歯に噛み合っていて、加わるトルクは複数のチェーンローラとスプロケット歯に分散されるため、耐久性に優れています。

チェーンカップリングの構造

チェーンカップリング_図3

図3. チェーンカップリングの構造

チェーンカップリングは、2個のスプロケット、2列のローラチェーンとカップリング全体を保護するカバーで構成されています。チェーンカップリングは他の軸継手と比較して、構造がシンプルで部品が少ないのが特徴です。

機械への取り付けは、2軸に取り付けた2個のスプロケットに2列のローラチェーンを巻き付け、チェーンの連結されていない端部にピンを差し込み連結します。分解する場合は、その逆の手順です。

また、専用カバーを取り付けて安全性を向上させ、チェーン部にグリースを塗布しても飛散させずに耐久性を向上させます。2分割のカバーは、パッキンを挟みボルトで組み立てられ、両端部にOリングが取り付けグリース漏洩を防止しています。高速回転する場合や粉塵が多い環境や腐食雰囲気で使用する場合は、ケースの取り付けが必須です。

チェーンカップリングのその他情報

1. チェーンカップリングのメリット・デメリット

チェーンカップリングには実用的なメリットもありますが、デメリットもあります。

メリット

  • 比較的コストが安い
  • トルク伝達能力が高い
  • 許容が大きい芯ずれ
  • 簡単な連結と分解

デメリット

  • 大きなバックラッシュ
  • グリースによる潤滑が必要
  • チェーンとスプロケットの摩耗

2. チェーンカップリングの規格

チェーンカップリングという名称でのJIS規格はありませんが、同義語のローラチェーン軸継手 (英: Roller Chain Shaft Couplings) は、下記で規定されています。

  • JIS B1456 ローラチェーン軸継手 Roller Chain Shaft Couplings

参考文献
https://www.tsubakimoto.jp/power-transmission/shaft-coupling/transmission/roller-chain/body/

ダイカスト

ダイカストとは

ダイカスト

ダイカスト (英語:die casting) は、加熱して溶融した材料を金型に流し込んで成形する鋳造法の一種です。

溶融する材料は、アルミニウム亜鉛・マグネシウムなどの金属が用いられます。製造工程は自動化されており、大量生産に向いています。また、一度金型を作製すれば、連続的に利用できるため、コストの低さも利点です。

ダイカストという言葉は製造方法だけではなく、この方法で作られた製品自体を指すこともあります。他の鋳造法に比べ、方法が確立してから歴史が浅く、現在でも新しい工法が生まれています。

ダイカストの使用用途

1. 自動車部品

ボディの一部やウォーターポンプ周りのカバー・エンジン・トランスミッション・エアコンのコンプレッサなど、複雑な形状の部品を含め、様々な自動車部品で使われています。

最近では電動化や軽量化のニーズに伴い、パワーステアリング周りの部品や、コントロールユニットのカバーにも使われています。自動車部品は複雑な部品が多く、また放熱性も必要なので、アルミダイカストを使用する場合が多いです。ABSなどの樹脂による代替品もありますが、アルミダイカストは、自動車部品には現在も欠かせないものになっています。

2. 家電製品

テレビ・エアコン・洗濯機・電気調理器など、身近な家電製品でもダイカスト製品が用いられています。

家電製品は自動車部品同様、精密な製品が多く、また大量生産が求められます。そのため、複雑な形状に対応可能で、生産コストが抑えられるダイカストが使用されます。

3. その他の製品

ダイカスト製品は、小型化や軽量化にも寄与しています。そのため、ゴルフ用品・カメラ・釣り具・OA機器・携帯電話など、軽さが求められる製品にも多く使われます。

ダイカストの原理

ダイカストには、いくつか種類があります。一般的な工法は、以下の手順です。

  1. ダイカスト金型の固定型と可動型を大きな力で押し合わせます。
  2. 押し合わせた空間に数十メガパスカルという高圧で、溶融した金属 (湯と呼ばれる) を注入します。
  3. 湯が固まったら、可動型を移動して部品を取り出します。

特殊な工法は以下の通りです。

1. 真空ダイカスト法

型を押し合わせた後、空気を抜き真空状態にします。真空状態にしてから湯を注入し、製品を取り出します。空気を除去するため、酸化物の抑制につながり、高品質の製品を作ることが可能です。

2. 無孔性ダイカスト法

型を押し合わせた後、型内に酸素を充填します。充填後に湯を注入し、製品を取り出します。酸化反応により減圧され巣の発生を防ぐ特徴があります。この方法は、強度が必要な製品に適しています。

3. 局部加圧ダイカスト法

型を合わせた後、湯を注入します。湯が半凝固の時点で、型の一部を再加圧する工法です。再加圧により、凝固時に収縮を起こしている部分に湯が補給できるため、ひけの少ない製品を作ることが可能です。

ダイカストのその他情報

1. ダイカストと鋳造の違い

鋳造は、高温の炉で溶かした液体状の金属を、砂・金属・ワックスなどの鋳型に流し込んで成形する方法です。基本的には外部からの力はかけずに、液体金属の自重とその後の流れを利用します。一方で、ダイカストは鋳造をさらに発展させた方法であり、液体の金属を圧力をかけて金型に注入して成形する方法です。

鋳造の場合、高温の液体金属は流動性がそれほど高くないため、自重だけでは型の隅々にまで行き渡るのに時間がかかります。さらに、凝固する際に収縮するため、寸法変化や流動の際に生じた皺などが欠陥になりやすいと言えます。

一方、ダイカストは、液体金属に圧力をかけて型に注入するため、型の隅々まで金属が早く行き渡ります。圧力をかけて成形するため、寸法精度が高く、表面粗さも優れています。このため、大量製造での高い生産性が実現可能です。また、高品質であるため、仕上げや検査工程を削減できる点が鋳造との大きな違いです。

2. ダイカストのデメリット

アンダーカット形状は不利
ダイカストは、成型後に製品を押し出して型から抜くため、抜き方向に対して垂直な横穴やフランジ部分などは、押し出すことが困難です。このような部分のことをアンダーカット形状と呼びます。アンダーカットのある製品を作るには、鋳造後に取り出すことが出来る置き中子を用います。金型が複雑になり、製造コストが上がることになります。

鋳造品より低強度
ダイカストでは高温の液体金属を高速・高圧で押し込むため、逃げきれなかった空気や金型と製品の分離を良くする離型剤の蒸発ガスが製品に巻込まれます。このため、内部に欠陥を含むことが避けられなく、強度が低下します。

熱間鍛造や冷間鍛造のように外部の力で塑性加工を加える場合は、この欠陥を押しつぶしすことが可能なので、ダイカストよりも強度が優れています。しかし最近では、この問題を解決するダイカスト法も開発されています。

初期費用が高い
ダイカストは金型形状が複雑であり、さらに耐熱・耐アルミ溶損性に優れる高価な素材を使用する必要があるため、初期費用が高くなる点がデメリットです。また、高温・高圧な負荷を一日に数百回や数千回繰り返し受けることになるので、寿命も長く持たず、ランニングコストが高くなります。 

参考文献
https://www.taikennet.com/about.html
https://www.fujii-k.co.jp/recruit/die-casting-mold/
http://www.diecasting.or.jp/diecast/whats_diecast.php
https://www.diecast.co.jp/die-casting/
https://www.taiyoparts.co.jp/blog/2264/
http://hirakawa-in.co.jp/products/consumer/
https://www.hakkokinzoku.co.jp/forging-encyclopedia/hot-forging/superiority01.html
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1304/17/news019.html