赤外分光光度計

赤外分光光度計とは

赤外分光光度計とIRスペクトルのイメージ

図1. 赤外分光光度計とIRスペクトルのイメージ

赤外分光光度計 (英: Infrared Spectrophotometer、略称: IR) とは、試料に赤外線を照射し、透過、反射した赤外線を検出する分析装置です。

試料の分子構造などに関する情報を得ることを目的に使用されます。装置の主な構成は、光源、分光部、試料部、検出器などです。分子に赤外線を照射すると、試料中の分子の振動や回転によって吸収が生じます。この吸収スペクトルは分子の構造によって異なっているため、分子構造に関する情報を得ることが可能です。

特に分子構造に含まれる官能基を特定する目的で使用されたり、試料の定性分析や定量分析に使用されます。非破壊で簡便に測定を行うことが可能で、粉末試料や薄膜など様々な材料に対応することができる手法です。

赤外分光光度計の使用用途

赤外分光光度計 (IR) は有機化合物を取り扱う、薬学、農学、生物学、ガス分析、鑑識などの広い分野で使用されています。物質の定性分析や定量分析に利用される手法です。

主な用途の一つに、化合物の部分的な構造決定があります。官能基はそれぞれ固有の吸収を持ち、ピークがそれぞれほぼ一定の波数域 (特性吸収帯) に検出されることを利用したものです。

また、IRスペクトルは物質に固有な情報であるため、標準試料のスペクトルと、測定したスペクトルを照合することにより未知試料を同定する、という利用方法もあります。局所的に赤外線を照射できる顕微赤外分光光度計では、微量試料の測定や材料中の異物分析の特定が可能です。

赤外分光光度計の原理

赤外吸収によって観測される分子の振動の例

図2. 赤外吸収によって観測される分子の振動の例

赤外分光光度計で用いられている手法は、赤外分光法 (英:infrared spectroscopy, 略称:IR) と呼ばれる分析手法です。物質に赤外線 (2500~25000nm) を照射すると、分子の振動や回転などに基づいた吸収が起こります。

このとき、分子内の原子を繋ぐ結合部分は結合の種類によって異なった伸縮を示すため、その結果として吸収スペクトルも結合の種類によって異なります。これが、IRが官能基の構造決定に適している所以です。吸収された赤外線の波数を調べることで、官能基の種類を判別することができます。

検出器では、試料に吸収 (もしくは反射) されることにより、照射された赤外線からどの程度減少したか、を測定しています。これによって得られるIRスペクトル (赤外吸光スペクトル) は、照射した赤外線の波数 (単位の表記:cm-1、読み:カイザー) を横軸に、透過率%Tを縦軸にとります。

赤外分光光度計の種類

分散型IR (上) とFT-IR(下) の概略図

図3. 分散型IR (上) とFT-IR(下) の概略図

赤外分光光度計には、分散型とフーリエ変換型 (フーリエ変換赤外分光光度計 FT-IR) があります。

1. 分散型

分散型では、分光器回折格子を用い、試料を透過した後の光を分散させた後、各波長を順次検出器で検出します。

2. フーリエ変換型 (FT-IR)

フーリエ変換型では、干渉計を用いて干渉波を作り、これを試料に照射します。非分散で全波長を同時に検出した後、コンピュータ上でフーリエ変換を行って各波長成分を計算する方法です。

一度にすべての波数で測定することが可能で、短時間で簡単に測定することができます。感度や分解能にも優れているため、現在はフーリエ変換型が赤外分光法の主流です。

分散型と比較してフーリエ変換型 (FT-IR) のメリットとして以下4点が挙げられます。

多波長同時検出
フーリエ変換型では移動鏡を動かすことでIRスペクトルが得られます。分散型のように回折格子を動かして多波長をスキャンする必要がなく、高速測定が可能です。

測定対象の数が多い場合や、積算をおおくかけてノイズを低減させたい場合には、FT-IRを使う方が時間効率が圧倒的に良くなります。加えて多波長を同時に測定できるため、波長ごとに時間的な変動が少ないとうメリットがあります。 (測定装置の温度ドリフトの低減)

SNRの向上
分散型ではスリットを用いますが、FT-IRではスリットを用いず、検出器にに到達するエネルギーが大きくなるため、SNRが向上します。

波数分解能が高い
波数分解能の高いスペクトルを測定するにはスリットを絞る必要のある分散型と異なり、FT-IRでは移動鏡の移動距離を伸ばすことで波数分解能を簡単に上げることが可能です。

測定波数域の拡張が可能
光源、ビームスプリッター、ディテクタ、窓板の交換により、遠赤外から可視域まで波数域を拡張可能です。

赤外分光光度計のその他情報

測定試料の調製

赤外分光光度計を用いて化合物同定を行う場合の大半は、透過法で分析します。透過法には、粉末状の試料をKBrプレートに挟み込んだり (KBrプレート法)、粉末化してKBr粉末と混ぜ合わせて錠剤状に固めたり (KBr錠剤法) するなどの調製法があります。

このように調製した測定試料に赤外線を照射し、透過した赤外光を分析します。吸湿性を有する試料の場合は、粉末化した試料と流動パラフィンを練り合わせ、ペースト上にしたものを窓板に塗布する方法があります (ヌジョール法)。高分子化合物など薄膜上の試料は、赤外光が試料を透過するため、直接赤外光を照射し、測定することが可能です。

また、調製法によっては、分析できない吸収体が存在するので注意が必要です。例えば、KBr錠剤法では、KBrの吸湿の影響により、OH基の吸収帯の評価は困難であり、ヌジョール法では流動パラフィンの吸収が出るため、該当吸収体の測定はできません。

参考文献
https://www.kobelcokaken.co.jp/tech_library/pdf/no06/b.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/78/10/78_480/_pdf
http://www.jsir.org/wp/wp-content/uploads/2014/10/1995.12VOL.5NO.2_4.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/90/12/90_571/_pdf/-char/ja
https://www.jasco.co.jp/jpn/technique/internet-seminar/ftir/ftir2.html
https://co-labo-maker.com/equipment/733

質量分析計

質量分析計とは

質量分析計のイメージ

図1. 質量分析計のイメージ

質量分析計 (英語:Mass Spectrometer、略称: MS) は、試料中の分子をイオン化し、生じたイオンの検出・質量電荷比 (m/z) の同定を行う装置です。

略称の”MS”は、日本語では慣用的に「マス」と読むこともありますが、日本質量分析学会では国際的に使用されている「エムエス」を推奨しています。分子を何らかのイオン化法によってイオン化すると、静電力によって飛行するようになります。

質量分析計は、飛行しているイオンを真空中において電気的・磁気的な作用等により質量電荷比 (m/z) に応じて分離し、検出する分析装置です。装置は主に試料導入部、イオン源、質量分離部、検出器などから構成されています。

イオン化、質量分離の方法によっていくつか種類があり、測定試料や用途に合わせて使い分けられています。質量分析計では、主に試料の同定や未知試料の成分解析を行うことが可能です。また、同位体を区別して検出することもできます。

質量分析計の使用用途

質量分析計は、低分子化合物から、タンパク質や合成高分子化合物などの高分子化合物まで、幅広い分子の定性・定量分析する際に使用されます。

既知物質の同定や未知物質の構造決定において有効な分析方法であるため、有機化学や生化学をはじめとする化学・生物学分野全般で広く用いられています。具体的には、様々な農薬や医薬品、天然由来化合物などに関連する研究開発や品質管理、分析、検査などです。

また近年では、大きな分子量を有するタンパク質もイオン化できるようになったため、ライフサイエンスや医療分野でも活用されています。

質量分析計の原理

質量分析計の原理

図2. 質量分析計の原理

質量分析計の基本的な原理は次のようになります。下記の一連の工程で得られるマススペクトルは、m/zを横軸、検出強度を縦軸とします。

  1. 試料を試料導入部から装置内に導入します。
  2. イオン源によってイオン化されます。
  3. 質量分離部において、m/zに応じて磁場や電場から受ける作用の大きさが異なることを利用して分離され、検出器で検出されます。

質量分析計では、試料分子が電荷を1つだけ持った1荷イオンの他、2価以上に荷電した多価イオンや、解離によって生成したフラグメントイオン、あるいは試料同士が会合した会合イオンなどが生成し、それぞれを検出することができます。また、ピークは通常、元の分子の同位体比に由来する固有の分布を持ちます。

質量分析計の種類

質量分析計には様々な種類がありますが、主にイオン源の種類と質量分離部の種類の組み合わせによって分類されます。例えば、”MALDI-TOF-MS”や”ESI-TOF-MS”などのように表記されます。

1. 試料導入部

イオン化源と質量分離部の例

図3. イオン化源と質量分離部の例

質量分析計には、試料導入部の前に他の装置を組み合わせたものもあり、研究開発や品質管理の分野で使用されています。例えば、液体クロマトグラフィーを組み合わせたLC-MS、ガスクロマトグラフを組み合わせたGC-MS、誘導結合プラズマを組み合わせたICP-MSなどの分析機器があります。

2. イオン源

EI法 (Electron Ionization、電子イオン化法)
高真空下で熱気化した分子(M)に加速した電子を衝突させます。それによって分子から電子が放出し、分子イオンと呼ばれるラジカルカチオン (M+・) が生成する方法です。

ESI法 (ElectroSpray Ionization、エレクトロスプレーイオン化法)

  1. まず、試料溶液を高電圧をかけたキャピラリに導入します。
  2. キャピラリの外側から霧化ガス (ネブライザーガス) を流してスプレーすることで、帯電液滴を形成します。
  3. 帯電液滴は移動の過程で溶媒の蒸発・表面電場の増加が進み、やがて電荷同士の反発力が液体の表面張力を越え、液滴が分裂します。
  4. 蒸発と分裂の繰り返しにより、最終的には試料イオンが気相中に放出されます。

MALDI法 (Matrix Assisted Laser Desorption Ionization、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法)
マトリックス芳香族有機化合物などのマトリックス中に試料を混ぜて結晶を作成し、これにレーザーを照射することでイオン化する方法です。適用できる分子量範囲は1~1000000程と非常に幅広く、タンパク質などの高分子化合物も安定にイオン化することができることが最大の特徴です。

FAB法 (Fast Atom Bombardment、高速原子衝撃法)
グリセリンなどのマトリックスと、有機溶媒に溶かした試料溶液とをよくかき混ぜ、高速の中性原子を衝突させて、試料分子をイオン化する方法です。

この他にも、CI法、FD法、APCI法、ICP法などがあります。

3. 質量分離部

四重極型 (Quadrupole, Q)
4本の電極ロッドを用い、イオン源から放出されたイオンに高周波電圧を印加する手法です。電極ロッドは直流電圧と交流電圧をかけられ、ある特定のm/zをもつイオンのみが検出器に到達可能な電場を作り出します。

直流電圧と交流電圧の比を一定に保ちながら、交流電圧を直線的に変化させることにより、目的とするm/z範囲の全イオンを測定することを原理上可能とする手法です。m/z 4000程度までの範囲に対応しています。

二重収束型
磁場セクター型 (Magnetic Sector) の質量分離部の一つです。磁場セクター型では、イオンを磁場中に通し、その際に受けるローレンツ力による飛行経路の変化を利用します。二重収束型は、特に磁場セクターと電場セクターを組み合わせて、イオンの速度収束と方向収束の両方を実現したものです。

飛行時間型 (Time-of-Flight, TOF)
既知の電界強度の電場によってイオン化した試料を加速し、各イオンが検出器に到達するまでの時間差を検出する手法です。m/zが大きいものほど飛行速度が遅くなり、検出器に到達するまで時間がかかることを利用して、各イオンを同定します。原理上は測定可能な質量範囲に制限がありません。

この他にも、イオントラップ型 (Ion Trap, IT) フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型 (Fourier-Transform Ion Cyclotron Resonance, FT-ICR) 、加速器質量分析 (Accelerator Mass Spectrometry, AMS) などの手法があります。

参考文献
https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2017/201706NYUUMON.pdf
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/03/09/1368133_05.pdf
http://jsac.jp/bunseki/pdf/bunseki2009/200901nyuumon.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/67/10/67_484/_pdf

ソーラーパネル

ソーラーパネルとは

ソーラーパネル

ソーラーパネルは、太陽の光エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する機能を持ったパネル状の電池です。

ソーラーパネルは太陽光パネル、太陽光発電モジュールとも呼ばれます。ソーラーパネルは自宅の屋根に取り付ける住宅用の小型パネルから、空き地や山間部の広大なスペースを利用して大容量発電を行う企業や投資家向けの産業用ソーラーアレイ(ソーラーパネルを複数組み合わせたもの)といったものが存在します。

ソーラーパネルの使用用途

ソーラーパネルは発電による電気機器の駆動(消費)、営利目的の売電(生産)も含めて電気を発電することで何らかの利益を享受することを目的に利用されます。

ソーラーパネルは、主に3つのタイプに分類でき、用途や設置環境に応じて適切な素材や構造のソーラーパネルを選ぶ必要があります。

  • 屋根一体型パネル+蓄電池:オール電化を導入している家庭において、日中に高くなる電気代を抑えるため夜間に発電と蓄電を行う。
  • ソーラーカー、電卓、モバイルバッテリー:機器にソーラーパネルを搭載し、機器を駆動するための電力を発電により賄う。

ソーラーパネルの原理

ソーラーパネルは、一般的に太陽光の光エネルギーをパネル表面に照射させることで、光起電力効果を利用することで電力を取り出しています。

電力を増やすためには複数のソーラーパネルを直列に接続して電圧を確保する必要があり、また、それらのパネルを並列に接続して電流量も確保する必要があります。取り出した電力は直流のため、実際に家庭で使用する交流電力に変換するためには別途パワコン(パワーコンディショナ)という装置が必要です。

ソーラーパネルからの発電の原理にはいくつかの種類があります。

古くから使われ様々な形式を持つ「シリコン系」、コストダウンを図った「化合物系」、さらなる薄型化や柔軟性、着色性付加価値を持たせられる「有機系」などの方式がありますが、生産コストやエネルギー変換効率の二点から主に「結晶シリコン系」が多く採用されています。

1. シリコン系

シリコン系とは、言葉通りシリコンを素材としたソーラーパネルのことです。

シリコン系はシリコンウエハーを半導体として利用しており、光エネルギーを電子が吸収することで光起電力効果により電力が発生します。光起電力効果は主にpn接合型のフォトダイオードなどにより実現させています。

シリコン系は材料や構造でさらに細分化されています。

  • 材料としての分類:単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型があります。
    それぞれ、発電効率の良い単結晶型、安価な多結晶型、薄くて軽いが発電量が比較的低いアモルファスシリコン型といった違いがあります。
  • 形態としての分類:薄膜シリコン型、多接合型など
    シリコン層を薄くすることで生産コストの低減を図った薄膜シリコン型、異なる種類のシリコン層を積層化することで高い変換効率、優れた温度特性をもつ多接合型と、それぞれメリットがあります。

2. (無機)化合物系

(無機)化合物系とは、結晶シリコンの代わりとなるような無機化合物を素材としたソーラーパネルのことです。

半導体を用いたCIS系やGaAs系など、様々な無機化合物の組み合わせにより構成されています。シリコン系と同じく、化合物系も半導体を用いた光起電力効果により電力が発生します。

3. 有機系

有機物系とは、上記のシリコンや無機化合物の代わりに有機化合物を素材としたソーラーパネルのことです。寿命や変換効率が課題ではありますが、柔軟で軽量、着色可といった付加価値が特徴です。

有機系は有機色素を利用して光起電力を得ています。二枚の電極間に色素を吸着させた二酸化チタン層があり、色素中の電子が光励起を起こして電力が発生します。

ソーラーパネルの価格

太陽光発電システムを家庭に導入するため、ソーラーパネルの設置を検討されている方が増えています。同時に、その価格を懸念されている方も多いのではないでしょうか。

設置費用は、部材費や人件費はもちろん、コーキング材などの諸経費が必要です。そのため、設置容量を5.00kWと想定すると、設置価格の目安は145万円程度が相場です。これは、経済産業省の資料から算出されています。

費用で懸念されている方は、月々の電気代や売電収入、メンテナンス代などと合わせて設置費用も参考にしてください。メリットを確保した上で、長期的な計画が大切です。

ソーラーパネルの寿命

ソーラーパネルの寿命は約20年、長いもので約30年と考えられています。寿命を迎えたソーラーパネルは、交換するしか手段がありません。

また、屋外に設置することから経年劣化は免れません。劣化具合によって、寿命を迎えるよりも早く発電効率が悪くなる可能性もあります。

そのためソーラーパネルには、こまめなメンテナンスは必要不可欠です。一般的には、4年に1度の定期メンテナンスが推奨とされています。有償メンテナンスとなると、1回の費用は10万〜20万円程度が目安です。

蓄電や、売電での収益を目的としている方は、しっかりと電力を供給できるように、少しでも寿命を延ばすことが大切です。

ソーラーパネルと蓄電池

家庭用ソーラーパネルの設置に合わせて普及しだしたのが、蓄電池です。自家消費用として使用するためにも、売電するためにも、電気を蓄える装置が必要です。そのため多くの方が、ソーラーパネルと蓄電池を合わせて購入するものとして検討しています。

時代が進むにつれ、自家消費用としての蓄電池を検討している方が、ますます増加しています。2019年には、経済産業省から10年間の電気の固定買取期間を終了すると発表があると同時に、蓄電池補助金の制度が発表されたからです。また、自然災害による大規模停電がニュースで報じられたことも大きく影響し、災害対策としての蓄電池の需要が高まったことも理由です。

参考文献
https://www.nedo.go.jp/content/100544817.pdf
https://www.solar-partners.jp/category/price
https://www.shouene.com/photovoltaic/cost/cardinal-rules-of-photovoltaic-system.html
https://limia.jp/idea/131787/
https://www.solar-partners.jp/category/battery

実体顕微鏡

実体顕微鏡とは

実体顕微鏡

実体顕微鏡は、光学顕微鏡の1種であり、双眼実体顕微鏡とも言われます。 光学顕微鏡は、微小な物体を対物レンズで拡大した実像を、接眼レンズによってさらに拡大して観察する光学機器です。実体顕微鏡は2つの光路を持ち、左右の目による視差を利用して、物体を立体的に観察できます。一般的にその倍率は数倍~40倍と比較的低いですが、対物レンズとステージまでの距離が長いため、比較的大きな試料をそのまま観察することが可能です。 また、拡大した像を見ながら、解剖や組立てなどの作業を行うことができます。

実体顕微鏡の使用用途

生物学分野では、昆虫や草花など動植物の観察や解剖に用いられ、教育現場では理科の教材としても使われています。 医療分野では、解剖や細胞操作などに利用されています。また、脳外科や眼科で手術時に用いられる顕微鏡も、本体部分は実体顕微鏡です。 機械工学分野、精密機械・電子産業分野では、組立て作業や検査に用いられます。 その他、歯科技工、手工芸、はんだ付けなどの精密作業や、古銭や宝飾品の観察・研究など、実体顕微鏡の使用用途は非常に幅広いです。

実体顕微鏡の原理

レンズには、「正レンズ」(凸レンズ)と「負レンズ」(凹レンズ)があります。顕微鏡に使用されているのは、正レンズです。

正レンズは縁より中心が厚く、レンズ曲面の中心をレンズに垂直に通る線(光軸)に平行な光を屈折させて光軸上の1点に集めます。この点を、「焦点」と言います。

正レンズ(凸レンズ)の仕組み

図1. 正レンズ (凸レンズ) の仕組み

正レンズの焦点は、レンズの前後に1つずつあり(前側焦点、後側焦点)、焦点とレンズの中心の距離を「焦点距離」と言います。前後の焦点距離は等しく、 物体が正レンズの前側焦点より遠くにある時にレンズによって形成される像を「実像」、前側焦点より近くにある時に形成される像を「虚像」と言います。実像は上下左右が反対になった倒立の像、虚像は正立です。

一般的な生物顕微鏡は、2枚の正レンズを組み合わせて、物体を拡大して見る装置です。本装置は対物レンズ(物体に近いレンズ)によって形成された実像を、接眼レンズ(目に近いレンズ)でさらに拡大した虚像を観察しているため、観察される像は倒立となります。

一方で実体顕微鏡は、本体内に正立プリズムが組み込まれているため、観察される像は正立です。これにより、試料の姿をそのまま観察することができ、顕微鏡下での精密な作業が可能になっています。

光学顕微鏡の種類

光学顕微鏡には、その原理や使用目的により様々な種類が存在しますが、生物顕微鏡と実体顕微鏡の二種類に分類されるのが一般的です。生物顕微鏡は透過型顕微鏡の一種であり、最も一般的な顕微鏡と考えて下さい。このタイプの顕微鏡は、試料を薄くスライドしてこれに光を透過させる事で観察します。

一方で実体顕微鏡は、照明方法としては、透過照明、落斜照明の両方が用いられます。実体顕微鏡は、接眼レンズが2個あり、両目で同時に観察できることから、立体的に試料を観察することができる特徴があります。また、接眼レンズと試料を乗せるステージとの距離が長い事から、生物試料を観察しながら解剖するなどの作業にも適しています。

実体顕微鏡のその他情報

1. 実体顕微鏡の使い方

一般的な実体顕微鏡の使い方は以下の通りです。

  1. 必要に応じて光源をセットする。
  2. ステージに試料を乗せる。
  3. 接眼レンズを眼の幅に合うように調節し、視野が一つに重なるようにする。
  4. 右目で右の接眼レンズを覗きながら合焦装置を操作し、試料にピントを合わせる
  5. 左目で左の接眼レンズを覗きながら視度調節環を調節し、ピントを正確に合わせる。

実体顕微鏡は仕様の異なる様々な機種が販売されており、使用用途に合わせて選定する必要があります。これには例えば以下のような違いがあり、選定する際のポイントとなります。

2. 光学系の違い

実体顕微鏡には大きく分けてガリレオ式平行光学系とグリノー式光学系の2種類があります。 ガリレオ式平行光学系の顕微鏡は、接眼レンズから対物レンズまでの光軸が平行で、一つの対物レンズから構成されています。光軸が平行になるように設計されているため、中間部分に別のユニットを挿入して様々な機能を付加することが可能です。

また光は一つの対物レンズに収束するため、高倍率での観察が可能となります。ズームを大きくしても精度が維持しやすく、対物レンズの組み合わせの自由度も高いという特徴があります。 一方、グリノー式光学系の顕微鏡は、接眼レンズから対物レンズまでの光路や光軸は、一定の角度をもってすべて左右独立となるように設計されています。立体的な像が得やすく、顕微鏡本体をコンパクトに設計しやすいという特徴があります。ただし、光路の平行部分がないため、ガリレオ式のように中間部分に別の機能を加えたり、ズームを大きく設定したりするには不向きです。

3. 照明の違い

実体顕微鏡において、試料を最適な状態で観察するためには、照明の選択も重要です。使用する顕微鏡と観察の目的に合った照明を選択する必要があります。照明の種類としては、明るく均一に光を当てることのできるリングライト、影の生じにくいニアバーチカル照明、フラットで光反射率の高い試料の観察に適した同軸照明などが挙げられます。なお、光源としてはハロゲンランプ、LEDが一般的に用いられます。

4. 実体顕微鏡の倍率

顕微鏡の倍率には対物倍率、総合倍率及びモニタ倍率の3種類があります。 対物倍率とは、対物レンズのみの倍率のことを指し、総合倍率とは、対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率の積で表します。顕微鏡は、対物レンズで得られた像を、接眼レンズで拡大して観察することから、同じ総合倍率の像であっても、対物レンズの倍率の高い方が分解能は高く、より細かい点まで判別できるという特徴があります。モニタ倍率とは、モニタディスプレイに表示された際の倍率のことで、モニタに映し出されたときに何倍の大きさで見えるかを表します。 同じ倍率の数字でも、その倍率が何を表しているかによって見方は大きく変わります。

参考文献
https://www.wraymer.com/stereo/index.html
https://www.healthcare.nikon.com/ja/ss/cell-image-lab/glossary/optical-microscope.html
https://www.olympus-lifescience.com/ja/support/learn/02/029/
https://www.olympus-lifescience.com/ja/support/learn/02/033/
http://www.microscope.jp/knowledge/03-3.html
https://www.sci.keio.ac.jp/eduproject/practice/biology/additional.php?eid=00003
http://blog.livedoor.jp/aritouch/archives/3710941.html
https://www.olympus.co.jp/jp/news/2003b/nr030930szx7trj.html
https://xlab.leica-microsystems.com/blog/industrial/stereo_05jun
https://www.wraymer.net/magnificationofmicroscope/

断路端子台

断路端子台とは

断路端子台とは、回路を断路する機能を有した端子台です。

通常の端子台と同様に、ケーブル同士を電気的に接続する機能を有します。さらに、端子台上で配線を断路する機能も有している点が特徴です。機構部を手で引っ張るなどの動作を行うだけで、簡単に電気的に縁を切ることのできる端子台です。

断路端子台は電路の切断を容易に行えるため、電気系統の安全性を向上させます。保守作業などの際に電源を簡単に遮断し、事故や危険を防ぐのに役立ちます。また、定期的な保守作業や修理が容易になり、システムの可用性を維持するのに有利です。

断路端子台の使用用途

断路端子台は電子回路や電気配線において、接続と切断を容易に行うための特殊な端子台です。以下はその主な使用用途です。

1. 制御システム

工業用制御システムや自動化プロセスにおいて、断路端子台は制御信号の接続と切断を管理するために使用されます。これにより、特定の機器や部品を選択的に制御し、プロセスの動作を調整することが可能です。例えば、製造工程において機械のON/OFF信号を管理するのに使用されます。

2. 保守作業

問題の特定やトラブルシューティングの際、断路端子台は特定の回路を切断して問題を分離し、診断するのに役立ちます。電子回路や制御システムにおいて、特定の部分を遮断することで、どの部分が問題を引き起こしているかを特定しやすくなることが多いです。これにより、迅速な修理やメンテナンスが可能です。

3. 有線電話

有線電話配線においても、断路端子台が使用されることがあります。企業や大規模な組織の通信システムでは、複雑な配線が必要となることも多いです。このような場合、断路端子台が電話回線の配線と接続管理に使用されることがあります。

4. 建物

オフィスビルなどの建物において、断路端子台が使用されることがあります。建築物内の照明制御は、照明のON/OFFなどを管理するために断路端子台が使用される場合も多いです。これにより、照明システムの効率性を向上させ、電力の節約が可能となります。

断路端子台の原理

断路端子台は電子回路や電気配線システムで使用され、電線やケーブルの接続と切断を管理するための装置です。電線を確実に接続するための端子が備わっており、通常はねじやクランプ、バネ圧着などの方法を使用して電線を確実に保持します。電線の導体部分を端子に挿入し、しっかりと保持することで信号や電力の伝達を確実に行えるようになります。

電線が端子に接続されると、電気的な接触が確立されます。この接触により、電流が電線から端子、そして他の電線や部品に伝導される仕組みです。電気信号が断路端子台内で適切に伝達され、配線系統内の他のデバイスに供給されます。

断路端子台の特徴的な部分は、接続と切断を簡単に行えるようにする機能です。断路端子台には手動のスイッチやレバーが取り付けられており、これを操作することで電路を切断することができます。これにより、電源を遮断し、安全性や保守性を向上させることが可能です。

断路端子台の選び方

断路端子台を選ぶ際には、いくつかの重要な要因を考慮する必要があります。以下は断路端子台の選定要素一例です。

1. 定格電流

定格電流は、端子台が安全に送電できる最大電流を示す重要な仕様です。選択する断路端子台の定格電流は、接続する電線や回路の電流要件と一致する必要があります。電流が定格電流を超えると端子台が過熱し、故障や危険が生じるため注意が必要です。

2. 結線方式

断路端子台はさまざまな結線方式で提供されます。一般的な結線方式はねじ締め式やバネ圧着式などです。結線方式は電線の取り付けや取り外しの容易さ、電気的接触の品質に影響を与えます。

3. 取付方式

断路端子台の取り付け方法も考慮すべき要素です。取り付け方法には、DINレール取り付けやパネル取り付けなどがあります。設計仕様に応じて、適切な取付方法を選択することが重要です。

4. 定格電圧

定格電圧は端子台が耐えられる最大電圧を示す指標です。電線や回路の定格電圧と一致させる必要があります。定格電圧を超えると、絶縁破壊や漏電などの問題が発生する可能性があります。

参考文献
https://www.toho.yoshida-elec.com/products/78

リニアブッシュ

リニアブッシュとは

リニアブシュ

リニアブッシュとは、内蔵されたボールの転がりを利用してリニアシャフト上を直線運動させる転がり軸受です。メーカーによってはスライドブッシュとも呼ばれます。

リニアブッシュの移動にボールの転がりを使うのは、ボールがリニアシャフトと点で接触させながら少ない摩擦で転がり運動をさせるためです。このため、リニアブッシュは小さい力で滑らかに移動ができます。

リニアブッシュ自体では推進力を持っていないため、リニアシャフト上で任意の方向を動かすためにシリンダタイミングベルトボールネジなどの機構と組み合わせて使用されます。

リニアブッシュの使用用途

リニアブッシュはリニアシャフトと組み合わせて精密機器や産業機械、医療機器、OA機器など、様々な機器内部において軽荷重で振動・衝撃等の作用しないスライド機構に使用されています。

リニアブッシュ単体では動力を持たないため、シリンダやモータなどと併用させることで直線運動が可能です。

リニアシャフトとの間は低摩擦かつ高精度での直線運動が可能です。負荷を掛けながら使用する場合はリニアシャフトのたわみや使用環境に注意が必要です。

リニアブッシュの原理

リニアブッシュは外筒・ボール・保持器で構成されています。リニアシャフトと組み合わせて使用され、ボールの転がりを利用して直線運動します。

外筒には耐摩耗性と靭性に富んだ軸受鋼を使用し、熱処理後は内径・外形を研削加工し仕上げています。直線運動上で高精度な位置決めが可能です。

保持器(リテーナ)にはボールが転がるための案内溝が設けられております。ボールは案内溝と外筒の内面に沿って転がり、外筒の軌道部とシャフトの間の距離を一定間隔に保ちながら移動できるようになっています。ボールとリニアシャフトの間は点接触のため、許容荷重は小さいが少ない摩擦で転がり運動し、高精度で滑らかに移動できます。

リニアブッシュには、取付姿勢や移動速度、使用頻度などにより選定します。水平方向の案内で負荷を掛けながら使用する場合、リニアシャフトのたわみ量が問題になります。使用の際は荷重計算を行い、定格寿命や使用環境を考慮した上で使用することが求められます。

参考文献
http://www.hephaist.co.jp/ir/image_ir/20150210.pdf
https://jp.misumi-ec.com/special/linearbushing/support/notes/

マッフル炉

マッフル炉とは

マッフル炉

マッフル炉とは、高温域での加熱に使用される電気炉の一種で、熱源でアルミナなどでできた耐熱性のある板を遮蔽し、この板により高温で加熱する機械です。

マッフル炉の使用用途

マッフル炉は雰囲気の変化が少なく、比較的温度ムラが少なく加熱できるため、多用途に使われます。

  • セラミックス (タイルガラス、がいし) の焼成・脱脂
  • 厚膜焼成 (貴金属導体・抵抗体・誘導体) 
  • 電極乾燥
  • ガラス封止
  • 金属の焼きなまし
  • 重金属、ヒ素、強熱残分などの高温での過熱を必要とする医薬品や食品、化粧品などの品質試験
  • 高温測定用センサ試験

マッフル炉の原理

マッフルは「包む」という意味で、アルミナ磁器などの耐火材を指します。従来るつぼの加熱などではバーナーの火力が低くても高温になるように、マッフルでできた容器にるつぼを入れ、直接バーナーで加熱する方法がとられていました。また、セラミック焼成はヒーターが露出した電気炉が使用されていましたが、使用温度制御の点で問題がありました。

これを電気炉に応用したものが、マッフル炉です。マッフル炉では、炉内は耐火物で覆われており、熱源は露出していません。炉体の外側から間接加熱する構造のため、断熱保温性があり温度の変動が少なく安定した雰囲気を維持できます。温度の均一性が高く、温度のひずみが製品の品質に影響を及ぼしたり、実験器具が割れたりする場合にも使えます。

また、重金属やヒ素、強熱残分などは強酸を使用してサンプルを処理する必要があるため、少なからず炉内の雰囲気に酸が混入していました。マッフル炉であれば、ヒーターが守られるためリスク回避が可能です。

マッフル炉の種類

1. 卓上型

実験室で使われるのが卓上型です。より精度を向上させるために、ガス置換が可能で窒素を通せるタイプや真空タイプも販売されています。またダクトへ有害ガスを排気する仕様も可能です。扉の開閉方式もレバーで上下するタイプや扉を開けるタイプがあります。

2. ベルト搬送式

大量生産に合致した方式では、マッフル炉内をメッシュベルトが動き、マッフル炉を入ってから出るまでの間に焼成が完了するように設定します。

マッフル炉の構造

1. 熱源

熱源は上下左右4面に配置されており、高速な昇温が可能です。熱源には鉄ークロム線 (常用温度850℃) や、より高温の使用範囲を持つ製品 (1,600℃) では、二硅化モリブデンなどが用いられます。

熱の発生には、抵抗加熱で電流を流す方法がとられています。これは、電気エネルギーが100%熱に変換される非常に効率的な方法です。そのうえ、熱量=電力量なので温度の管理が簡単に行えるメリットがあります。

2. 温度センサ

温度センサには、異なる2種類の金属導体で構成された温度センサである熱電対が使用されています。JIS規格では、熱電対はR、K、Bなど規定されており、それぞれ使用範囲によって使い分けられています。

炉内のマッフルとなる断熱材にはアルミナシリカを主成分とした無機繊維のセラミックファイバーが耐火物として用いられます。これらは、急熱、急冷に強く化学的に安定した素材です。機種によっては温度の昇降をプログラム制御したり、徐冷機能がついた製品もあります。

3. 安全装置

マッフル炉内は高熱であり、加熱時には大変危険です。過加熱を防ぐため、過電流ブレーカーやマイコン異常検知装置がついていたり、扉を開けると電流が流れなくなる装置など安全面で配慮されています。

4. 扉

扉と炉体 (本体) の間には隙間があり、それぞれ熱による膨張率が異なるため、破損防止のための仕様となっています。

参考文献
https://www.yamato-net.co.jp/word/40
https://www.keyence.co.jp/ss/products/recorder/lab/thermometry/thermocouple.jsp
https://www.hakko.co.jp/qa/qa_0_01.htm
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000641289.pdf

湿度ロガー

湿度ロガーとは

湿度ロガーとは、湿度をユーザー指定の一定間隔で記録し、その測定データの分析をするための機器です。

相対湿度 (relative humidity) の単位は%RHと表されます。相対湿度とはある温度中の空気中に含まれる最大限の水分量(飽和水蒸気量)と比較した場合の水分調を示します。

相対湿度 (%RH) =水蒸気量/飽和水蒸気量×100で表されます。通常温度と湿度はセットで測定され、これは温度と湿度の密接な関係性があることが理由として挙げられます。

具体的には、温度が低いほど空気中に含むことが出来る水蒸気の量が少なくなり、逆に温度が高いほどより多くの水蒸気を含むことが出来るためです。 

湿度ロガーの使用用途

品質管理においては重要な項目です。ISO9001の品質マネジメントシステムにおいての規格要求のひとつである湿度管理に対応するため使用します。

美術館、博物館での温度・湿度管理に用いられていて、高温多湿によるカビの発生や、乾燥による美術品の破損を防ぐために用いられています。倉庫や物流、病院環境、土木建築、ビニールハウスなどの温湿度管理に適しています。

機器の種類はセンサー分離型、センサー一体型、紙に常時記録されるアナログ式、多点測定用のマルチロガー等多岐にわたります。

湿度ロガーの原理

電気抵抗式と静電容量式の2種類に分類されます。電気抵抗式も静電容量式も質分を吸湿、脱湿する感湿材を使用し、電極で挟んでいる構造で、水分を電気抵抗として捉えるか、静電容量で捉えるかの違いです。

主流は静電容量式で、湿度20%以下でも測定出来、応答速度も早いのがメリットです。電気抵抗式はノイズに強いため、センサー部分が小型化出来ます。

湿度ロガーの登場で、ユーザー指定の間隔で長期間の測定が可能となり、機器によっては多点同時測定や、無線により広範囲の同時測定が可能となりました。記録した湿度や温度、機器によっては衝撃度まで同時測定し、パソコンのアプリケーション上で誰でも簡単に測定、データ解析が出来るようになりました。

特に美術品の保存や環境の最適化には、無線による常時モニタリングが最適です。高温多湿は美術品の破損・劣化を招くため、環境管理はとても重要ですが、以前はアナログ式の湿度ロガーを使用していたものが、無線の湿度ロガーへ置き換わったことで、データ回収のために展示ケースを開ける時間と手間と、何よりケース内の環境変化が無くなりました。

参考文献
https://www.jqa.jp/service_list/management/management_system/

耐熱手袋

耐熱手袋とは

耐熱手袋

耐熱手袋とは、作業者の手や腕が高温または低温に晒される危険性から守る保護具の一つです。

高温・低温の環境を扱う研究機関や樹脂、金属、ガラス類などの材料を溶融させて用いる作業現場において、特に重要な保護具であり、作業者を火傷や凍傷から保護するために用いられます。

材質は綿、シリコン、アラミド繊維、アルミ被膜、ポリウレタン等と多岐に渡り、使用環境に応じて材料の耐熱温度や作業性を考えて選択します。

耐熱手袋の使用用途

高温での主な使用環境は、食品加工工場やガラス加工工場、製鉄所、研究室などです。低温での使用環境は冷凍庫内作業、漁業、液体窒素の取り扱い作業で使用されます。

食品加工現場では、下準備に使用する炊事用手袋や、火傷防止のために耐油性のシリコンゴムの手袋を用います。シリコン素材の手袋はゴミが付きにくいため、食品を扱う現場で使用される場合が多いです。

ただし、断熱効果に乏しく、インナー手袋との併用が推奨されます。ガラス加工現場や製鉄所で用いる手袋には、500℃から1,000℃近い温度まで高い耐熱温度が要求されます。アルミ蒸着加工による耐熱・耐炎対策がされた高機能耐熱手袋が選ばれます。

漁業などでは、氷詰めや寒冷地での作業に適した-60℃でも樹脂が硬化しないポリウレタン製の耐熱手袋が一般的です。液体窒素に代表される超低温液体ガスの取り扱いには、超低温耐久性 (-196℃) を備えた手袋を使用します。主に研究室や、バイオテクノロジー分野において使用されています。

耐熱手袋の特徴

耐熱手袋は材質によって、特徴が異なります。それぞれの特徴は以下の通りです。

1. 綿素材

綿素材は軍手に用いられる材質であり、綿100%でできた純綿軍手は吸汗性に優れています。熱にも強く、使用用途は幅広いです。

ポリエステルレーヨンと綿を合わせた混紡軍手は、シワ防止や速乾性といった綿以外の繊維が持つ特徴があります。

2. シリコン素材

シリコン素材は200℃以上の高温にも耐えられる上、撥水性を有するためホコリ等がつきにくい点が特徴です。食品を扱う業界やクリーンルームでの用途が多いです。

3. アラミド繊維

アラミド繊維は耐熱温度370℃と優れた難燃性をもつ一方で、紫外線、酸、アルカリ等で劣化します。

4. ポリウレタン素材

ポリウレタン素材の耐熱温度は150℃程度であり、伸縮性に優れているのが特徴です。そのほか、耐寒性に優れる点も特徴として挙げられます。

5. シリカ繊維 (無機繊維)

シリカ繊維 (無機繊維) の耐熱温度は600℃~800℃であり、有機繊維では対応できない温度帯のものに対応できる点が特徴です。

耐熱手袋のその他情報

1. 耐熱手袋の点検

耐熱手袋を適切に使用する上で、使用前の点検は非常に重要です。保護具は継続的に使用することで劣化し、使用環境に耐えられなくなる可能性があります。

例えば、アラミド繊維はアミド結合によるポリマーで、ナイロンの脂肪族ポリアミドと化学構造が異なり、芳香族ポリアミドです。耐熱手袋の他にも、タイヤの補強材や防弾チョッキなどに使用されています。アラミド繊維は、紫外線や酸アルカリによって劣化するため、使用前の確認が必要です。

どんなハイテク繊維を使用していても劣化を防ぐことはできません。炭化した部分があるものや油分や洗濯による洗剤残りは防炎性を損なうため、使用前の点検と適切な管理が事故を防止するには不可欠です。

2. 火傷に関する災害事例

耐熱手袋は、作業者の安全を守る上で最も一般的な保護具ですが、耐熱手袋を着用していれば必ず事故が防げるという訳ではありません。事故が起きる主な原因は、以下の3つだと言われています。

  1. 危険を認識していない
  2. 作業手順が定められていない
  3. 危険性・有害性について教育がされていない

重大な事故を防ぐためには、適切な保護具の着用とともに日々の安全活動が重要です。耐熱手袋という防具があったとしても、作業者や管理者が危険を認識していなければ事故は防げないので、安全教育指導の徹底を心がけましょう。

参考文献
https://ec.midori-anzen.com/shop/c/cHAMA/
http://www.fibex.co.jp/about-Aramid.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo24_1.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_FND.aspx

真空チャンバー

真空チャンバーとは

真空チャンバ

真空チャンバーとは、内部の気圧を極めて低く保つために設計された密閉された容器です。

一般的には金属製の箱状の構造をしており、内部から気体を取り除くことによって真空状態を作り出します。真空チャンバーや真空容器とも呼ばれます。

真空状態では酸素や水分がほとんど存在しないため、金属やプラスチックなどの材料を酸化や腐食から保護することが可能です。真空チャンバーを使用して材料を処理することで、耐久性や品質を向上させることができます。

ただし、極低気圧や突然の気圧変化は危険を引き起こす可能性があるため、適切な訓練や指導のもとで操作する必要があります。また、チャンバーの構造や封閉性を確保し、事故や漏れのリスクを最小限に抑えるための注意が必要です。

真空チャンバーの使用用途

真空チャンバーは、さまざまな用途で使用される装置です。以下は真空チャンバーの使用用途一例です。

1. 材料研究

真空チャンバーを使用することで、材料物性を調査するのに使用されます。真空状態では気体や水分の影響を受けずに、材料の物理的な特性を調査可能です。熱伝導性、電気伝導性、弾性特性などを評価するために真空チャンバーを使用します。

また、真空チャンバーを使用して材料の表面処理や酸化防止の研究を行います。表面の腐食防止やコーティング技術の開発に利用されることが多いです。また、真空状態下で材料の劣化や酸化の挙動を観察し、耐久性や寿命を評価する場合もあります。

2. 表面処理

真空チャンバーを使用することで、物質の表面処理を実施する場合があります。中でも蒸着は、真空チャンバー内で金属や他の物質を蒸発させて基板や素材の表面に均一な薄膜を形成するプロセスです。光学コーティングや半導体製造などで広く使用されます。

3. 半導体製造

半導体製造プロセスには、真空が必要となる場合も多いです。デポジッションやエッチングは、真空下で行われることもあります。

デポジションは真空状態でガスや蒸気を導入し、半導体基板上に薄膜を成長させるプロセスです。半導体素子の製造や集積回路の形成に利用されます。

エッチングは真空中で化学的または物理的な方法で半導体表面を削除するプロセスです。微細なパターン形成や回路構造の形成に用いられます。

真空チャンバーの原理

真空チャンバーは、内部の気圧を低下させ、気体や気体分子の存在を極力排除することによって真空状態を作り出します。真空状態の維持には、真空ポンプ、シールによる気密向上、気体の除去などが重要です。

真空チャンバーではガスを除去するために、真空ポンプが使用されます。ポンプはチャンバー内のガスを吸引し、外気へ排気する場合が多いです。一般的なポンプの種類には、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ、吸引ポンプなどがあります。また、真空チャンバーは気密性が重要です。

チャンバーの閉じる部分や窓などの接合部分は、ゴム、Oリング、金属ガスケットなどのシール材料によって気密性が確保されます。適切なシール設計とシールの密閉性の確認が必要です。

ガスや揮発性物質を除去するために、真空チャンバー内にガス導入や排気装置が設置されます。これにより、チャンバー内の気体を制御し、真空度を維持することが可能です。

真空チャンバーの選び方

真空チャンバーを選ぶ際には、以下の要素を考慮することが重要です。

1. 使用目的

最初に真空チャンバーを使用する目的を明確にします。材料研究や宇宙環境シミュレーションなど、具体的な用途に合わせたチャンバーを選ぶことが重要です。

2. 必要な真空度

使用するプロセスや実験に応じて必要な真空度を決定します。一般的な真空度の範囲は、大気圧から高真空 (約10^-3 Pa) や、超高真空 (約10^-7 Pa) までさまざまです。必要な真空度に応じて適切なポンプシステムやチャンバーの設計を選びます。

3. 容積と寸法

使用する試料や装置のサイズに応じて、チャンバーの容積と寸法を選びます。十分なスペースが確保されているか、試料のサイズや形状が収容可能かを確認することが必要です。

4. 材料と気密性

チャンバーの材料と気密性は重要な要素です。耐久性と気密性の高い材料を選び、シールや接合部の気密性を確保するための適切なシール材料を選ぶ必要があります。真空チャンバーの材質は、一般的にはステンレス鋼が使用されます。

参考文献
https://www.shinku-kogaku.co.jp/vacuumchamber/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1989/48/11/48_11_1043/_pdf/-char/ja
https://www.samco.co.jp/company/primer/2018/05/necessity.php