EMC対策部品
EMC対策部品とは、信号を扱う電気機器に対するノイズの対策に使う電子部品のことです。
EMCは「electro-magnetic compatibility (電磁環境両立性) 」の略で、「compatibility」は両立性と訳されます。EMCは大きく分けて、EMI (electro-magnetic interference:電磁干渉) と呼ばれる当該機器自身が放出する電磁波ノイズを規制するものと 、EMS (electro-magnetic susceptibility: 電磁的感受性) と呼ばれるもので当該機器自身が受けるノイズにより動作傷害などを起こさないようにするものに分類できます。
国内ではJIS C61000、国際的にはIEC61000などの規格により詳細を定義しているのが一般的です。他方で電気回路などを設計する段階においてノイズの発生度合いや外来ノイズへの耐性を予測することは難しく、製品を試作して動作させてみないとEMIやEMSの具合を伺い知ることができないのが実情です。
一般的な開発プロセスでは、設計→試作→評価→生産という流れの中で、評価の段階で実験的に測定して知り得ることになります。
EMC対策部品の使用用途
EMC対策部品は、当該機器自身が出して周辺機器に悪影響を及ば差ないように規制されたEMIと、外部から当該機器自身がノイズの影響を受けて誤動作を起こさないように規制されたEMSに効果を発揮する用途で使用されます。
EU圏向けではCEマークが付いたもの、国内向けでは概ね電気用品安全法で規制されている◇で囲われるPSEマークが付いた家電製品やOA機器、自動車部品、医療機器などです。我々が日常的に接する機会がある電気製品の大半が対象で、それらの開発途上においてEMC試験により基準を満たなかった場合の対策部品として使用されます。
EMC対策部品の原理
EMC対策部品は大別すると、電気回路上で電気的に対策するもの、電気回路外で電磁的に対策するもの、サージ系のノイズに対策するものの3つに分類できます。
1. 電気回路上での対策部品
電気回路上で短時間で大きな電位の変化が生じると、これが電波となって機器の外部に電波として放出され、この放射されたノイズはEMIとして扱われます。そのため、電気回路設計においては、なるべくこの様な放射ノイズが発生しないように工夫する必要があります。
例えば、スイッチング回路であればスナバ回路を付帯したり、電源回路ならば電源フィルターを付帯したり、信号回路ならばLPF (low pass filter) を付帯したりするのが有効的です。これらの対策部品は、抵抗やコンデンサ、コイル等により構成され、時定数やコンデンサやコイルの周波数特性を組み合わせ特定の周波数帯域に作用します。この周波数帯域をノイズの周波数帯域と併せることで、ノイズに作用させることが可能です。
2. 電気回路外での電磁的な対策部品
電気機器を設計する場面においては、例えばモーターに配線したり、ランプに配線したり、基板間を電線で接続したりするなど、電線を用いる場合が多々存在します。そのような状況で、電気回路では対策しきれず電線上にノイズが乗ってしまうと、電線がアンテナのような作用をしてしまい、ノイズが放射されやすくなる現象が起きやすいです。
このような線路上のノイズを対策するために、磁気的な対策部品としてフェライトコアなどがあります。磁気的な部品は、線路 (電線など) に装着することで、電線自身にインダクタンス特性を発生させ、電波として放射されやすい周波数帯域のノイズを減衰させる作用があります。
3. サージノイズ系の対策部品
EMS規格の中で静電気に対する耐性は、JIS C61000-4-2などで定義されています。人が触った際にその静電気で誤動作しないことなどを定めた物で、製品群により規格は電圧は異なります。しかし、気中放電の最大で言えば15KVもの電圧に耐えるようにしなければなりません。
一般の電子回路は数V~数十Vの電圧で設計されているため、このような大きな電圧が直接印可して回路を誤動作させたり破壊しないようバリスタ、ツェナーダイオード、サージフィルターなどにより電圧の制限を行う素子で静電気に対して対策する必要があります。
EMC対策部品のその他情報
1. EMC対策部品の目的
現在、国内販売向けならPSE認証、EU圏へ輸出する際にはCE認証を取得しなければ、その商品自体を販売できない法律があります。PSEやCEなどの認証を受ける際には、JISやIECの規格で定めるEMCの試験に合格することが必須の条件です。
EMC対策部品は、開発途上の製品をこれらの規格をクリアさせて合法的に製品を販売できるようにすることを目的としています。
2. EMC対策を予期した設計
設計段階において、事前にEMCを全て予見して対策することは非常に困難です。多くの場合では、設計→試作→評価→生産という一連の流れの中で、評価段階でEMCに対する評価を行い、その結果から対策方針を決めていくような流れとなっています。
そのため、設計上で事前に対策する場合は、過去の経験や回路の性質からノイズ源になりそうな箇所をピックアップして、そこにフィルターなどを後付けで追加できるように予め基板設計をしておくと、対策の選択肢を増やすことができます。
3. フェライトコアの活用
EMC (特にEMI) は予見が難しく、かつ評価の段階では開発が進捗した状態であり、試作にも費用を投じた後であるため、大きな設計変更ができない可能性が高いです。
そのような場合に、大きな効果を発揮してくれる可能性を秘めているのがフェライトコアです。フェライトコアに信号線や電源線を通すだけで大きな効果を発揮する場合もありますが、フェライトコアは後付けできるタイプも多く、開発途上の機器に大きな変更を加えず対策できるという利点があります。