ケルビンプローブとは
ケルビンプローブとは、仕事関数を測定する手法であり、顕微鏡の測定手法の1つです。
試料表面に金属製のプローブを近づけて試料とプローブの間の仕事関数の差に起因する接触電位差を測定します。仕事関数が既知のプローブを用いることで、試料表面の仕事関数を求めることが可能です。
ケルビンプローブの使用用途
1. 薄膜の仕事関数
試料表面の仕事関数は、薄膜の膜質や不純物の有無によって変化します。太陽電池やセンサーにおいて薄膜の膜質や高次構造は、デバイスの特性に影響を与える可能性があります。
種々の条件で成膜した薄膜をケルビンプローブ法で測定することで、膜構造と特性の相関解析などを行うことが可能です。
2. 太陽電池やELデバイス
ケルビンプローブを用いた測定は金属、半導体材料で用いられることが多いです。シリコン太陽電池や有機薄膜太陽電池、有機EL、電極表面の解析でケルビンプローブを用いた測定が行われます。
ケルビンプローブでは表面の仕事関数をマッピングすることが可能となるため、顕微鏡で測定した表面の画像と合わせて解析を行います。
3. 金属の腐食箇所の特定
ケルビンプローブ法で仕事関数のマッピングを行うことで、金属の腐食部分の特定も行うことが可能です。腐食等の化学変化が起こった箇所では仕事関数が変化しているため、試料のどこで予期せぬ反応が起こっているかマッピングすることが可能になります。
ケルビンプローブの原理
ケルビンプローブ法は原子間力顕微鏡 (AFM) を応用した測定手法であり、マイクロメートルのオーダーの空間分解能を持っています。ケルビンプローブ法とは、金属製のプローブを試料表面に接触させる手法です。
試料表面にプローブが接触したときに電子の移動が起こり、フェルミ準位が変化するため試料表面の電位が変化します。この電位の変化量はプローブと試料の仕事関数に依存する値であるため、仕事関数が既知のプローブを用いることで試料表面の仕事関数を求められます。
試料全体に対してプローブを接触させることで、薄膜内の仕事関数をマッピングすることが可能となり、仕事関数の変化から腐食や膜質の変化が起こっている箇所の特定が可能です。
ケルビンプローブのその他情報
1. 測定可能な物質
ケルビンプローブ法では、試料を非破壊で測定することが可能です。また有機物、無機物いずれの薄膜でも測定ができます。
そのため、多層膜の断面で各層の仕事関数を測定したり、薄膜成長過程での仕事関数の測定を行ったりすることもあります。その他、表面の仕事関数の変化から触媒表面で起こる化学反応解析など、物理化学の基礎的な研究に用いられることも多いです。
2. 仕事関数
仕事関数とは、個体内の電子を固体の外に取り出すために必要な最低限のエネルギーです。電子は固体中に多数あり、最低運動エネルギーの真空準位から順次高いエネルギーまで幅広く持っています。最上部はフェルミ準位に該当し、この真空準位からフェルミ準位までの差が仕事関数です。
放電電極やプラズマディスプレイパネル等のデバイスは固体内部から電子を取り出す必要があり、仕事関数が重要な役割を果たします。仕事関数はエレクトロニクスデバイスのキーワードです。
3. フェルミ準位
物質内の電子は、温度に応じた種々のエネルギーを持ちます。電子が任意の温度で持つエネルギー準位を占める確率を表したものがフェルミ・ディラックの分布関数です。占有確率が0.5になるエネルギー準位をフェルミ準位と呼びます。
単独の原子が保有する電子のエネルギー準位は離散的であるのに対して、複数原子から成る物体では電子の取りうるエネルギー準位に幅があります。電子が持つことができるエネルギー準位には制限があるため、フェルミ準位とエネルギー準位の構造で導体・半導体・絶縁体の区別が生じています。
参考文献
https://www.tokyoinst.co.jp/products/detail/work_function_surface_potential_measurement/KT01/index.html
https://www.toyo.co.jp/material/products/detail/skp470.html
http://microscopy.or.jp/jsm/wp-content/uploads/publication/kenbikyo/47_1/pdf/47-1-18.pdf