スパナ

スパナとは

スパナ

スパナとは、主に六角ボルトやナットを締めたり緩めたりするために使用する工具です。

スパナ (SPANNER) はイギリス英語、レンチ (WRENCH) はアメリカ英語で、もともとの意味に違いはなく、明確に定義されません。しかしながら、日本では一般的に工具の先端が開いているものをスパナと呼び、先端が閉じているものをレンチと呼びます。

スパナの使用用途

スパナは、一般的なDIYから専門的な現場まで、幅広く使われる工具です。主に六角ボルトやナットを、締めたり緩めたりするときに使用します。機械設備、精密機器、車両、エンジン、建築、家具、DIYなど、あらゆる場面で欠かせない工具です。

スパナは先端がU字型に開放されているので、横から差し込むことが可能で、狭いところにあるボルトやナットの作業に使用されます。また、スパナは2点で支え締めるため、大きな力をかけるのに適している工具ではありません。したがって、一般的には仮止めとして使用されます。

ボルトやナットのサイズに合わせたスパナを使用します。サイズは固定されているので、作業効率の面からもサイズ違いのスパナを揃えておくと便利です。

スパナの原理

スパナは「てこの原理」を利用して、小さい力で大きな力を生み出しボルトやナットを締めたり緩めたりします。支点はボルトやナットの中心、力点は手でスパナを持っているところ、作用点はボルトやナットとスパナが接する2点の角です。

スパナの端の方を持って回すだけで、簡単にボルトやナットを締めたり緩めたりすることができます。ボルトとナットに接する部分は2点で、レンチは6点で接するので、レンチの方がしっかり力ををかけて締めることが可能です。

スパナの種類

ボルトやナットを掴む部分を「口径部」、U字型になっている開口部の幅を「二面幅」と呼びます。

1. 片口スパナ

持ち手の片方にボルトやナットを掴む口径部がついています。ワンサイズ専用です。使用するボルトやナットのサイズが同じものの場合に便利です。

2. 両口スパナ

持ち手の両側に、二面幅の違う口径部がついています。

3. コンビネーションスパナ

片方がスパナ、もう片方がレンチになっています。素早く締められるスパナで仮止めし、レンチで強く締め上げます。

4. モンキースパナ

開口部か可動式になっているスパナです。可動部はネジで調節します。さまざまなサイズのボルトやナットに使用できますが、可動部があることで、通常のスパナに比べ掴む力が劣ります。

5. 薄口スパナ

通常よりも薄いスパナです。狭い場所の作業や、ボルトやナットが薄い場合に使用します。大きいボルトやナットには向いていませんが、小さいボルトやナットに使う場合は便利です。

6. 打撃スパナ

通常のスパナはハンマーなどで叩いたりする強度はありません。必要以上に強い力を加えると、ボルトやナットを傷める可能性があります。

この打撃スパナは、強度がありハンマーで柄を打撃することができます。錆びついたナット類の取り外しや増し締めが必要な場合に使います。

スパナの選び方

作業目的にあったスパナを使用することによって、作業効率や安全の向上、仕上がりの正確さに影響します。

1. サイズ

ボルトやナットを挟む部分は、固定されているので、ボルトやナットのサイズにあったものを選びます。サイズは直径や半径ではなく、スパナがボルトやナットにはまる「二面の幅」の距離を確認します。

サイズは持ち手に数字で記してあるのが一般的です。サイズはメートルで記してありますが、稀にインチのものもあるので確認が必要です。

2. セット

スパナは使用頻度が高いので、複数のサイズのスパナを揃えておくと便利です。

スパナのその他情報

1. スパナの使い方

  1. まず手でボルトやナットを回して締めます。
  2. ボルトやナットが口径部の一番奥にしっかりとはまるように当てます。口径部はボルトとナットと平行になるようにします。
  3. スパナを回しボルトやナットを締めていきます。持ち手の端の方を持って回した方が効率よく力が伝わります。
  4. 硬く締まって動かないボルトやナットを緩めたいときは、油をさしてしばらく置いてから回すと良いです。

参考文献
https://kotobank.jp/word/%E3%82%B9%E3%83%91%E3%83%8A-84590
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td06/x0239.html
https://04510.jp/times/articles/-/1300?page=1
https://ktc.jp/kiso/lesson/spanner.html

スプロケット

スプロケットとは

スプロケット

スプロケット (英: sprocket) とは、回転運動をチェーンを介して伝達する歯車形状の機械部品です。

回転する軸に固定し、別の軸にも同様にスプロケットを取付チェーンでつなぐことで動力を伝達でき、歯車の大きさや歯数を大小組み合わせることで加減速可能です。

Vベルト駆動に比べ滑りがないため応答性も良く、タイミング機構としても使用できます。スプロケットはチェーンホイールとも呼ばれ、適切なスプロケットやチェーンのメンテナンスによって寿命を延ばせます。

スプロケットの使用用途

スプロケットは自転車の駆動、バイクや車のエンジン、コンベアの駆動や搬送、映画や写真のフィルムの給送などに使用されます。

最も身近なスプロケットは自転車のクランクからチェーンを伝って後輪に伝達する部分です。ペダルを回すとスプロケットが回転して力がチェーンに伝わり、後輪のスプロケットを介して軸を回転させて自転車が進めます。バイクは自分の力ではなく動力にエンジンを使い、同じように後輪へ伝達して前進可能です。動力を発生させるエンジンの内部にもスプロケットは使用されています。

スプロケットの原理

2つのスプロケットがチェーンやベルトで繋がっており、一方が駆動、もう一方が従動です。運動機構や動力で駆動され、動力を伝達したり機械システムのトルクや速度を変えます。歯数が多いスプロケットは重い物を動かせますが、摩擦が大きく動作速度が遅くなります。

スプロケットには滑りがなく回転の同期が可能で、伝達ロスが少ないです。スプロケットの大きさを組み合わせると回転数を調整可能です。

大きな力を伝達するスプロケットは大きく製作され、刃先の摩耗を軽減するため焼き入れ処理が施されます。焼き入れ処理により刃先が硬くなり摩耗しにくくなるため、未処理のスプロケットより長く使用可能です。小さなモーターで大きな機械を動かす場合にも減速機を使用しますが、スプロケットの大きさの比を大きく取ることでさらに減速でき、大きくトルクを稼げます。

スプロケットの種類

スプロケットは大きさ、形状、歯の数によって下記の通り種類が異なります。

1. ダブルデューティー

1つのピッチに歯が2つあります。1つが摩耗してもリンクを進めて新しい歯に変えられます。

2. ハンティング歯

歯の数は奇数で、回転により新しい歯とリンクがかみ合います。歯1つの接触回数が半分で、長寿命が期待できます。

3. セグメントリム

ボルトで固定するリムで、3〜4以上のパーツで構成されます。リムの交換が容易で、設置や調整の時間が短縮されてコストを削減できます。

4. マルチストランド

ドライブシャフト1つで複数の機構を駆動でき、大きな力やトルクが必要な場合に用いられます。

5. クイックディスコネクト

高負荷で使われ、逆向きに取り付け可能なタイプもあります。

6. アイドラー

チェーンが長くてたるむときにむち打ち現象を防止し、障害物を回避できます。

スプロケットの構造

スプロケットの形状は、A形、新B形、BW形、C形、2列B形などに分類されます。

1. A形

歯部のみのフラットな板状です。低速で軽荷重用によく用いられ、熱処理加工を施さないスプロケットです。

2. 新B形

削り出し仕様で、A形の片側にボスが付いています。

3. BW形

新B形の溶接構造はBW形と呼びます。

4. C形

A形の両側にボスが付いています。低速回転の従動用に用いられます。

5. 2列B形

2列新B形、2列BW形、2列C形などがあります。

スプロケットのその他情報

スプロケットのメンテナンス

スプロケットとチェーンは摩擦による摩耗を発生させるため、無給油 (潤滑なし) 状態で使用を続けると摩耗の進行が早まります。グリスやオイルを塗布して潤滑させながら稼働可能です。チェーンも内部のピンとブッシュ間で摩耗を発生させ、伸びることでスプロケットの歯に乗り上げる可能性があります。どちらもきちんと潤滑させメンテナンスを怠らないことが重要です。

参考文献
https://www.tsubakimoto.jp/power-transmission/sprocket/
https://www.monotaro.com/s/pages/productinfo/supurocket/

セットカラー

セットカラーとは

セットカラー

セットカラーとは、軸(シャフト)に六角穴付き止めねじなどで固定する機械部品で、ベアリングスプロケットプーリー、ギヤ、軸などの位置を固定させるために使用します。市販されているセットカラーの多くは金属性ですが、樹脂製のセットカラーも一般的に流通しています。セットカラーの軸への取り付けは作業性が良くて簡易であるため、設計時に前述の部品を固定する際には最初の選択肢となる事が多く、様々な場面で使用されています。

セットカラーの使用用途

セットカラーは汎用機械部品であるため分野を問わずあらゆる機器に使用されています。主な用途としては、セットカラーを軸に固定することで、ベアリング、スプロケット、プーリー、ギヤ、軸などの部品を軸方向に対して固定する用途で使用されています。また、軸の任意の位置で固定できる特徴を活かし、セットカラーにブラケットやプレートなどを取り付け可能にしておくことで、ブラケットやプレートを軸上の任意の位置にスライドさせて固定することも可能です。

セットカラーの特徴

セットカラーはねじを用いて簡単に軸に固定することができるのが特徴です。固定方法の違いにより、いくつかの種類に分かれています。

  • 標準タイプ
    標準的なタイプのセットカラーです。内径は軸径に応じた精度穴が開いており、多くの場合は六角穴付きボルトで軸に固定します。六角穴付きボルトで固定するため、軸には傷がついてしまいます。
  • スリットタイプ
    カラーにスリットが切られているタイプで、見た目はC型をしています。スリットで分かれている片側にはタップが、他方の同軸上には穴とザグリが有り、この部分をボルトで締め付けることで内径部分が締まり、軸に固定します。標準タイプと比べ、締め付けを強くでき、また軸を傷つけません。
  • スプリット(分割)タイプ
    カラーを2つに切ったような半円形状の2部品をねじ止めして軸に固定するセットカラーです。完全に2つに分離する為、軸の端面から挿入する必要が無く、止めたいところに直接組付けできるのが特徴です。

セットカラーはたいへん多くの種類の市販部品が有りますが、製品の設計者が自分自身でセットカラーを設計する場合も多いです。部品のコストや要する時間を考慮して適した方法を選択しています。

参考文献
https://www.iwata-fa.jp/html/index-t1.html
https://www.monotaro.com/s/pages/cocomite/220/

センタードリル

センタードリルとは

センタードリルとは工作機械に用いる切削工具の一種です。

下穴を加工する前の位置決めをするためのドリルですが、汎用性が高いため位置決め以外の用途に使用されることも多いです。

位置決めするための穴とは旋盤や円筒研磨などで円筒形状の工作物 (軸類) を加工する際に、工作物を支持するための穴です。位置決め穴は下穴加工のベースとなる為、曲がりや歪みがなく高精度である必要があります。よって普通のドリルと比較すると剛性が高く、加工時に位置ずれを起こしにくい特徴があります

センタードリルの使用用途

センタードリルは円筒形の工作物 (軸) の端面にセンター穴を加工する際に使われます。センター穴をあける以外の用途としては、以下の場面で使われます。

1. 位置決め穴加工

穴あけをする際に、精度よく下穴を加工するために使用されています。加工を開始する時にドリルでは先端がぶれてしまう事が有り、このようなときにぶれにくいセンタードリルを使う事ができます。

2. 穴の面取り

センタードリルには、60°、75°、90°、R型の刃がそろっているので、これらで面取り加工をする事ができます。

3. 板材の穴あけ

薄い板であれば貫通穴の加工が可能です。下穴をあける工程が不要となる事や、穴あけ後に面取りまで一度に加工できるため、作業時間の短縮につながります。

センタードリルの種類

センタードリルの形状は全長が短く、シャンクが太くて剛性が高いです。普通のドリルでの加工は、刃がワークに食いつく際に刃の先端がブレてしまい、穴あけの位置の精度に影響を与えます。高い剛性をもつセンタードリルは刃のブレが非常に少ないです。センタードリルの種類は下記の通りです。

1. A型

刃先の短い小径部分の次に、60°のテーパ部分が付いています。テーパ部は、75°や90°のものも流通しています。A型60°/A型75°/A型90°と表します。

2. B型

刃先の短い小径部分の次に、60°のテーパ部分がありその次に3段目として大きく面取りが取れる刃がついています。これは加工や段取り替えの際にセンター穴を保護する役割があります。

3. C型

刃先の短い小径部分の次に、60°のテーパ部分がありその次に3段目としてザグリ加工を行う形状に刃がついています。ザグリ部分はB型の面取りと同様にセンター穴を保護する役割があります。

4. R型

刃先の短い小径部分の次のテーパ部の形状にRがついています。Rになっているため、センターとの接触が線接触です。テーパの角度が合わない場合や軸芯がずれている場合でも線接触で支持が可能です。小さな工作物の精密な加工のときなどによく用いられます。

センタードリルの使い方

センタードリルを用いて位置決めを行う際は、センタードリルの深さに注意します。

センタードリルの深さが浅いと下穴加工の精度が低下し、下穴を加工した後に再度面取り加工を施さないといけなくなるので二度手間となり、効率が良くありません。

逆に深すぎるとセンタードリルの負荷が増え、テーパ部を超えて深く加工してしまうと最悪の場合、センタードリルが折れてしまうこともあるため、必ずテーパ部の途中で加工を完了しましょう。

また、下穴の直径を考慮して面取り部が残るように加工深さを計算してから位置決め加工をすると、穴加工後の面取り作業が省けるので効率良く穴加工をすることができます。

センタードリルのその他情報

センタードリルの回転数

センタードリルの回転数は、おおむね1,000rpmが基準です。

S45CSS400など広く使われている鋼材では1,000rpm前後で問題ありませんが、ダイス鋼といった非常に硬い鋼材を加工する際は、500rpm前後まで落とし、送り速度も遅くする必要があります。また、材料の硬度が硬い時は超硬センタードリルを用いることもあります。

一般的なセンタードリルの材質はHSS (ハイス鋼) ですが、超硬はダイス鋼といった硬い鋼材の加工にも対応できます。

参考文献
https://toolremake.com/center-drills/
https://www.monotaro.com/s/pages/cocomite/038/
https://sakusakuec.com/shop/pg/1drill03/

デマルチプレクサ

デマルチプレクサとは

デマルチプレクサは、回路内の信号を制御するために使われるICです。

デマルチプレクサは略語としてDEMUXと表されることがあり、マルチプレクサ (MUX) と逆の動作を行います。マルチプレクサとデマルチプレクサを一つの装置内でセットで使う場合もあり、その場合全体としてマルチプレクサと呼ぶこともあります。

デマルチプレクサは、入力信号1つあり出力信号が複数あります。入力信号として受け取った信号を複数ある出力に切り替える動作を行います。マルチプレクサはその逆で、入力信号が複数あり出力信号が1つで複数の入力信号から切り替えて1つの出力信号を出力します。

デマルチプレクサの使用用途

デマルチプレクサは、マルチプレクサと組み合わせて用いられることがあります。マルチプレクサは複数の入力信号を1つの出力信号に切り替える機能を持ち、情報を多重化することができます。

マルチプレクサは送信側、デマルチプレクサは受信側で用いられ、情報を多重化して送ることができます。マルチプレクサにより多重化された情報をデマルチプレクサにより本来の複数のラインに戻すことができます。デマルチプレクサは、音声信号の転送や通信システム、電話ネットワークなど通信分野の製品で多く用いられます。

デマルチプレクサの原理

デマルチプレクサは、入力信号が1つあり出力信号が複数あります。入力信号として受け取った信号を複数ある出力に切り替える動作を行います。

ディジタル回路で用いられるマルチプレクサは、論理素子の組み合わせ回路により、回路を実現することができます。組み合わせ回路とは、入力信号が決まれば、それに対する出力信号が一意に決まる論理回路のことです。ディジタルマルチプレクサもAND回路やOR回路、NOT回路の組み合わせで形成することができます。

デマルチプレクサと似た組み合わせ回路として、デコーダがあります。デコーダとは2進数を10進数に変換する論理回路です。デコーダはn個の入力とn個の制御入力があり、n個の入力に基づいてバイナリ値をデコードすることで2のn乗個の出力のうち1つを選択します。

そのためデコーダをデマルチプレクサとして用いることができます。デコーダはビットの検出やデータエンコーディングなどに使われるのに対し、デマルチプレクサはデータの配布や切り替えなどを行うことができます。

参考文献
https://ja.natapa.org/difference-between-demultiplexer-and-decoder-3109

ニカド電池

ニカド電池とは

ニカド電池

ニカド電池とは二次電池の一種で、負極側に水酸化カドミウム、正極側に水酸化ニッケルを用いた製品であり、充放電可能な二次電池の一種です。

1世紀以上の長い歴史を持つ電池で大電流の放電が可能、繰り返しの使用に耐えうるといった長所を活かし、様々な場所に使用されてきました。

近年では人体に有害なカドミウムが使用されていることや電池のメモリー効果が課題とされ、カドミウムを使用せず電池としての性能にも優れているニッケル水素電池リチウムイオン電池が主流となり、ニカド電池の使用は減少傾向です。

ニカド電池の使用用途

ニカド電池は過充放電に強く、大電流の放電が可能な特性を生かす形で充電式工具や掃除機等のモーターの駆動、非常用の電源等に用いられてきました。

ニカド電池には2種類が存在し、モーターの駆動には大出力の放電が可能な焼結式、電源としての用途には比較的大容量の発泡式が適当とされてきましたが、特に後者の用途においてはでニッケル水素電池やリチウムイオン電池に劣るため、現在では限られた用途でのみ利用されています。

また、かつては充電式の乾電池としても利用されましたが、メモリー効果が顕著で継ぎ足し充電に向かないため、現在ではニッケル水素電池が主流となっています。

ニカド電池の原理

ニカド電池は電極及びセパレータ電解液)である水酸化カリウム水溶液で構成されており、1.2Vの公称起電力を持ちます。

ニカド電池が放電する際、水酸化物イオンの存在下で負極の金属カドミウムと水が反応して水酸化カドミウムが生成し、その際に水素イオンと電子が放出されます。一方、正極側では水の存在下でオキシ水酸化ニッケルが水素イオンと電子を受け取り、水酸化ニッケルを生成します。

充電時は放電時と逆の反応が起こり、負極では水酸化カドミウムが電子を受け取りカドミウムに還元され、正極側では水酸化カドミウムが水酸化物イオンの存在下でオキシ水酸化ニッケルとなり、水と電子を放出します。

電解液や電極の性質上内部抵抗が少ないため大電流の放電に向いており、過放電を行っても充放電を繰り返すことで性能を回復することができます。また、-20~-40℃の低温の環境でも用に耐えうる電圧を維持することが可能です。

ニカド電池の構造

ニカド電池は円筒形と角型がありますが、円筒型について詳しく説明します。

円筒型では正極のニッケル化合物、水酸化カリウムと不繊維で構成されたセパレータ、負極としてカドミウム化合物板を重ねて渦巻き状に巻いたものを外装缶に挿入した構造となっています。負極、正極はそれぞれマイナス端子とプラス端子に接触(または集電リードを介する)ことで電気を外部に出力しています。角型の場合は正極板と負極板がセパレータを介して対向させた形で複数枚設置された構造となっています。

ニカド電池の構造

図1. ニカド電池の構造

現在のニカド電池は密閉型と呼ばれる構造です。ニカド電池が発明された当初は開放型でしたが、密閉型になることで過充電時に電解液の分解による水の消費およびそれに伴う補充液が不要となります。また、ニカド電池は負極の容量が正極よりも大きくなるよう設計されています。これにより、正極が満充電状態になったとしても負極には放電状態の部分が残り、放電部分が酸素を吸収することで負極での水素の発生が抑制されます。この結果、電解液の消費だけでなく内圧増加による破裂を防止することができます。加えて、ニカド電池は仮に内圧が増加した際にもガスを排出するための弁が用意されています。

ニッケル水素電池

ニッケル水素電池とは

ニッケル水素電池

ニッケル水素電池とは充放電が可能な二次電池の一種で、負極に水素吸蔵合金、正極に水酸化ニッケルを用いた製品です。

同じく正極にニッケルを用いているニカド電池と比較して カドミウムの代わりに水素吸蔵合金を用いているため高価ですが、 大電流を用いた充放電が可能で、単位質量あたりの電池容量も大きいことが特長です。

また、他の充電池と比較してメモリー効果 (完全に放電せず継ぎ足し充電を繰り返すと、放電中に電圧の降下が起こる効果) が比較的小さいことも特長で、 性能を劣化させることなく繰り返し使用することが可能です。

ニッケル水素電池の使用用途

ニッケル水素電池はその高性能、高寿命を活かす形での利用がされており、高い出力や信頼性が求められる自動車向けのバッテリーやノートパソコン、乾電池等に利用されています。

近年ではメモリー効果や自己放電が存在せず、より単位質量あたりの電池容量が大きく作動電圧も高いリチウムイオン電池が利用されるようになりましたが、 入出力特性に優れることや製造コストの面から両者は併用され続けています。

ニッケル水素電池の原理

1. ニッケル水素電池の構成

ニッケル水素電池は電極 (正極:オキシ水酸化ニッケル、負極:水素吸蔵合金) 及びオレフィン系不織布等のセパレータ電解液としての水酸化カリウム水溶液で構成されています。 乾電池の場合、これらを捲回した構造体を缶の中に納めています。

2. ニッケル水素電池の充放電反応

図1にニッケル水素電池の化学反応式を示します。ニッケル水素電池の放電時、正極では水の存在下でオキシ水酸化ニッケルが電子を受け取り、水酸化ニッケルと水酸化物イオンを生成します。負極では水酸化物イオンの存在下で水素吸蔵合金から水素イオンと電子が放出されて水が生成されます。

放電時は逆方向に反応が進行し、正極では水酸化物イオンが水酸化ニッケルと反応してオキシ水酸化ニッケルを生成し、電子を放出します。負極では電子を供給することによって水素が吸着されます。

ニッケル水素電池の充放電反応式

図1. ニッケル水素電池の充放電反応式

ニッケル水素電池の充放電は、水素を吸蔵して水を生じるという単純な反応によって起こるものです。 例えば、自動車のバッテリーに用いられる鉛蓄電池は、電極の析出溶解反応で充放電を行うため充放電を繰り返すと電極の劣化が避けられません。ニッケル水素電池はそのような劣化モードはないため、 電極そのものが劣化しない限りは半永久的に使用できることから寿命の長い電池と言えます。

3. ニッケル水素電池の電極

負極の水素吸蔵合金に関しては、かつて高容量を実現するためCo合金が主に使用されてきましたが、 主にコスト面の観点からCoレスの動きが進んできました。研究開発が進みCoレスでも高容量な水素吸蔵合金が開発されてきています。 また正極に関しては、充電状態のオキシ水酸化ニッケルは導電性が高いものの、放電状態の水酸化ニッケルは絶縁体であるため、放電時に電子パスのパス切れなどの問題が生じます。このため導電性付与のためにオキシ水酸化コバルトなどが付加されています。

ニッケル水素電池のその他情報

ニッケル水素電池の特徴

1. 電池特性
ニッケル水素電池の公称電圧は1.2Vとなっておりニカド電池と同じです。これは充放電に利用している反応が同様であるためです。 鉛蓄電池の公称電圧は2.0V、リチウムイオン電池の定格電圧が3.7Vであるため、比較的電圧の小さい電池と言えます。大電流を流しやすい電池であるため、ハイブリッドカーなど出力が求められる機器に搭載されています。

ニッケル水素電池には、メモリー効果 (継ぎ足し充電を繰り返し行うと電池の電圧が降下し、利用できる容量が減少する効果。図2参照) や不活性化 (長時間使用しないと、充放電反応が起こりにくくなること) などのデメリットも持っているため、 使用する際は電池の特性を理解して利用することで、電池の寿命を最大限引き出すことができます。

メモリー効果

図2. メモリー効果

2. 安全性
基本的に電池の爆発・火災事故は、ショートなどで生じた火種が電解液の溶媒である有機溶媒に引火することで生じます。

図3に示すように、ニッケル水素電池の電解液の溶媒は水であるため万が一火種が発生しても引火することはありません。 そのため、電流・電圧の制御機構をリチウムイオン電池ほど厳密に設計する必要がなく、製造コストを引き下げることができます。このコストの小ささが今もなおニッケル水素電池が産業界で多く使われている理由の一つです。

リチウムイオン電池とニッケル水素電池の比較

図3. リチウムイオン電池とニッケル水素電池の比較

3. 環境負荷
リチウムイオン電池や鉛蓄電池、ニカド電池は環境負荷の高い有害物質を含みますが (例:ニカド電池に含まれるカドミウムは四代公害病の一つであるイタイイタイ病の原因物質) 、 ニッケル水素電池の構成部材の環境負荷はこれらの蓄電池よりも小さく、電解液も有機溶媒を用いていないため環境に優しい蓄電池と言えます。

参考文献
https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter201301.html
https://www.fdk.co.jp/battery/nimh/
https://jeea.or.jp/course/contents/09106/
https://www.khi.co.jp/energy/battery_energy/faq/
https://wajo-holdings.jp/media/2237#01-03

ネオジム磁石

ネオジム磁石とは

ネオジム磁石は希土類磁石に分類される磁石で、主原料がネオジム、鉄、ホウ素(ボロン)で構成される永久磁石です。1982年に住友特殊金属の佐川眞人氏によって発明されました。主相はNd2Fe14Bです(Nd:ネオジム、Fe:鉄、B:ホウ素)。市場に流通している永久磁石の中では最も強い磁力を持っています。その磁力はフェライト磁石の6~10倍程度にも達します。

ネオジム磁石の原料であるネオジムは、希土類(レアアース)の中では比較的豊富にあるとされ、希土類磁石の中ではコスト的に安価です。ひと昔前は産業用に使用されていましたが、最近では100円ショップでも購入が可能で一般家庭でも使われます。

ネオジム磁石の使用用途

小さなサイズで大きな磁力を得ることができるネオジム磁石は多くの場面で使用されています。モーター、ソレノイドなどの動力源に使用する磁石にネオジム磁石が使用されており、小型化に貢献しています。また、スピーカーの磁気回路にもネオジム磁石は使用されることがあり、こちらも小型化に一役買っています。

携帯・スマホにはスピーカーが内蔵されていますし、着信のバイブレーションにはモーターが使われています。こういった機器が小型化しているのも、小型で磁力の強いネオジム磁石が使われているためです。

電気自動車のモーターにもネオジム磁石を利用したモーターが使われています。車輪速センサー、エンジン回転センサー、イグニッションコイル(エンジン点火用高電圧発生装置)、スピードメーター、タコメーターなど、自動車の様々なところで活躍しています。

一般家庭では、マグネットで保持するタイプのフック部品などに使用されており、小さくても重たいものを保持することが可能です。これらのように、製品の小型化、高性能化が求められている分野で多く使われています。

ネオジム磁石の特徴

群を抜いて磁力が強いことがネオジム磁石の特徴です。フェライト磁石と比較すると6倍以上の磁力を有し、いくつか種類がある希土類磁石の中でも最も優れていると言えます。

ネオジム磁石の機械的強度は比較的強く、割れや欠けに対しては強いです。そして熱に対しては他の磁石と比較すると弱い特性を示します。熱による減磁が大きく、磁石が磁力を失うキュリー温度は300℃前後です。ただし、添加剤としてテルビウムやディスプロシウムなどを加えることで温度特性の良いネオジム磁石もつくられています。また、結晶粒を微細化させることで、添加剤が少量(あるいはゼロ)でも温度特性の良いネオジム磁石がつくられるようになっています。ネオジム磁石の実用上の耐熱温度は60~80℃程ですが、上記のような加工をした耐熱ネオジム磁石では200℃程度まで使用できるものもあります。

ネオジム磁石のもう一つの特徴として、さびやすいという特性が有ります。表面がさびると磁力が低下するため、通常はニッケルめっきなどのコーティングが施されています。

ネオジム磁石の取り扱い上の注意

磁力の強さゆえに周囲への影響を考慮する必要があります。磁気カードや精密機器に対してネオジム磁石を近づけた場合、データが破損するなどの悪影響を与える可能性があります。

また、複数のネオジム磁石を使用するときには、磁石同士が互いに強力な磁力で引き合うため、指の皮膚を挟まれたりしないよう注意しなければなりません。くっついた磁石を取り外す際は、むやみに引っ張るのではなく平行にスライドさせるようにすると、比較的弱い力で安全に取り外すことができます。また、強度が高いとはいえ、勢いよく吸着したときの衝撃で欠けたり割れたりすることがあります。

ネオジム磁石の取り外し

図1. ネオジム磁石の取り外し

ネオジム磁石はさびやすいので、めっきをしてあっても、水分が付着しているなどの条件下では錆が進行することがあるため、注意が必要です。

パイプレンチ

パイプレンチとは

パイプレンチ

パイプレンチとは、パイプや円筒形の物体を回転させたり、掴んだりするための工具です。

一般的に、パイプの周囲を締め付けることができる調節可能な鋸歯状のアゴと、パイプを回すためのテコの役割を果たす長いハンドルがあります。パイプレンチは、配管工事や機械工事で、パイプの継手やその他の接続部分を緩めたり締めたりするのによく使われます。

パイプの直径や用途に合わせて、さまざまなサイズやスタイルがあります。

パイプレンチの使用用途

パイプレンチは、配管工事や機械工事で、パイプや継手を掴んだり、回転させたりする作業に使われます。調節可能な鋸歯状のアゴは、滑ることなくパイプをしっかりとつかむことができます。

また、パイプを変形させずに回すために大きな力を加えることが可能です。そのほか、手で回すことができない錆びた金具や頑固な金具を取り外す際にも有用です。

パイプレンチの原理

パイプレンチには、ハンドルに対して垂直に調節可能なアゴが上下についています。パイプの大きさに合わせて調節し、パイプを掴みます。一般的にアゴは細かい溝がついている鋸歯状で、パイプが掴みやすく、且つ変形しにくいようになっています。

パイプレンチの原理は、てこの原理と同じです。てこの原理を使うことにより、パイプや継手を小さな力で、簡単に締めたり緩ませたりすることができます。長めのハンドルがついているので、効率的な作業が可能です。

パイプレンチの種類

パイプレンチの種類はさまざまで、それぞれに固有の形と使用目的があります。一般的なパイプレンチの種類には、以下のようなものがあります。

1. トライモ型レンチ

ストレートパイプレンチとも呼ばれ、パイプレンチの中で最も一般的なタイプです。ハンドルにある丸ナットを回すことで締め付け、または緩めることができる調節可能な顎を備えています。アゴはハンドルに対して垂直で、さまざまな直径のパイプに対応できるよう設計されています。

2. コーナーパイプレンチ

アングルドパイプレンチやマルチアングルパイプレンチとも呼ばれるこのタイプのレンチは、ハンドルに対して90度でアゴが配置されています。ストレートレンチでは届かないような狭い場所や障害物にも手が届きます。

3. チェーンレンチ

パイプや継手にチェーンが巻かれており、一方の端にハンドル、もう一方の端にフックがついています。ハンドルを回すと、チェーンがパイプを締め付け、強力なグリップ力でパイプを回すことができます。

4. ベルトレンチ

鋸歯状のアゴではなく、柔軟なベルトを使ってパイプや継手をつかみます。プラスチックやクロムメッキされた真鍮など、繊細で傷つきやすいパイプに使用するように設計されています。

パイプレンチの選び方

パイプレンチを選ぶ際には、いくつかの重要なポイントがあります。

1. サイズ

パイプレンチにはさまざまなサイズがありますが、一般的に長さは300mmや400mmです。300mmは外径が10mm〜32mm、400mmは26mm〜52mmのパイプに使用します。作業するパイプや継手のサイズに合ったパイプレンチを選びます。

2. タイプ

パイプレンチのタイプはさまざまで、それぞれに用途があります。具体的にどのような作業を行うかを考え、その作業に適したタイプのレンチを選びます。

3. 材質

滑らずしっかり握れる丈夫な顎がついており、鉄やアルミニウムなどの高品質な素材を使用しているものが良いです。

4. 使い心地の良さ

ハンドルのデザイン、グリップ、重量など、使いやすいものが望ましいです。使いやすいレンチは、長時間使用しやすく、手や手首の疲労を軽減するのに役立ちます。

パイプレンチは、作業に適したもの、品質の良いもの、使い心地の良いものを選ぶことが重要です。適切なレンチを選ぶと、作業を正確にかつ効率的に進められます。

参考文献
https://www.supertool.co.jp/products/basic_knowledge_detail.php?eid=00004
https://www.monotaro.com/s/pages/productinfo/pipewrench_howtouse/

ばね鋼

ばね鋼とは

ばね鋼

ばね鋼 (英: spring steel) とは、各種ばねを作るための材料となる鋼材です。

材料の形には、線材、棒材、帯板材などがあります。ばねを製作する方法はばね形状に成形した後に熱処理を行う「熱間成形 (英: hot forming) 」と熱処理を行った材料を用いて常温でばね形状に成形する「冷間成形 (英: cold forming) 」に分類可能です。

JIS G4801で「ばね鋼鋼材」として規格化されています。この中では熱間成形ばね用途の材料 (熱処理されていない材料) のみ規定されていますが、冷間成形ばねの材料 (熱処理済の材料) も一般的にばね鋼と呼ばれています。

ばね鋼の使用用途

ばね鋼は各種ばねを作る際に用いられます。引張りコイルばね圧縮コイルばね、ネジリコイルばね、トーションバー、重ね板ばね、板ばねなどの材料に使われます。

1. 熱間成形用ばね鋼

熱間成形用のばね鋼はJISでは標準寸法として線材の場合にはΦ9から規定されており、自動車の懸架用などの大型ばね用として使用されています。

2. 冷間成形用ばね鋼

冷間成形用のばねは小さな径や薄板の材料から揃っており、精密機器、産業機械、玩具、一般家庭で使用されるばね製品など幅広く用いられます。

ばね鋼の種類

1. 熱間成形用ばね鋼

ばね鋼には強度の高い材料が使用されます。熱間成形ばねの材料は「ばね鋼鋼材 (SUP) 」が JISG4801:2021で9種類規定されています。これらの材料はばねの形状に加工する前は強度などが調整されていません。材料を900°C~1,200°C程度で真っ赤になるまで加熱し、必要な長さに切断してコイリングして成形します。

その後焼入れや焼き戻しを行うとばね特性が得られます。熱間成形ばねは大型ですが、このような工程を経ると小さな力で加工可能です。ただし厳密な温度管理が必要です。

2. 冷間成形用ばね鋼

冷間成形用のばね鋼の具体例は、硬鋼線 (SW) 、ピアノ線 (SWP) 、ステンレス鋼 (SUS) などです。これら冷間成形ばね用の材料は素材としてすでに熱処理を施され、ばね性を有しています。

ばねの成形は常温で行われ、その後焼きなまし処理を行います。熱間成形と比較して加工時に必要な力が大きいため小型のばねの加工に適しています。安定してばねを加工でき、通常目にするばねは冷間成形ばねが多いです。

ばね鋼の構造

ばね鋼の素材には、ステンレス鋼 (英: stainless steel) 、合金鋼 (英: alloy steel) 、高炭素鋼 (英: carbon steel) などが使用されます。ばね鋼の形状は細長い線材と平たい板材の2種類に分けられます。

1. 線材

線材や棒材の形状は細長いです。冷間成形用のばね鋼の線材の代表例は硬鋼線やピアノ線です。いずれもダイスの穴を通し、直径を小さくしながら引き抜いて製造されます。針金のような線材とは違い、硬鋼線の成分には炭素が多く含まれます。硬鋼線は日用品のベッドや椅子などに利用可能です。

2. 板材

板材は平たい形状です。薄板ばねに用いるばね鋼は鋼帯と呼ばれます。ピアノ線と同様に圧延加工で製造可能です。冷間圧延後にそのままばね成形に使用されるタイプ、圧延後に焼なましが施されるタイプ、圧延後に焼入れや焼戻しが施されるタイプなどがあります。

ばね鋼の選び方

鋼材の種類でばね鋼の使用用途は異なります。例えばマンガンクロム鋼鋼材やシリコンマンガン鋼鋼材は、コイルばね、重ね板ばね、トーションバーなどに使用可能です。クロムバナジュウム鋼鋼材はコイルばねやトーションバーに、シリコンクロム鋼鋼材はコイルばねに主に使われます。

クロムモリブデン鋼鋼材は大型のコイルばねや重ね板ばねに、マンガンクロムボロン鋼鋼材は大型のコイルばね、重ね板ばね、 トーションバーに用いられます。

参考文献
https://www.fusehatsu.co.jp/technology/sekkei/zairyo.html
https://caddi.jp/articles/