はすば歯車とは
はすば歯車とは、軸に対して歯筋がねじれている形をした歯車で、ヘリカルギアと呼ばれています。軸に対して平行な歯筋をしている平歯車よりも歯車同士の噛み合い率が高いため(歯車同士が噛み合っている面積が広い)強度と静音性に優れています。
各伝達装置や減速機、静音性や高い伝達効率を求められる自動車のトランスミッションなどに幅広く採用されている歯車です。らせん状の角度は種類により様々で、噛み合う歯車同士の角度が合っている必要があります。
はすば歯車の使用用途
振動が少なく、滑らかに噛み合うので、静粛性と乗り心地を良くし、エンジンからの出力を効率良く動力に変えることができる特性から、一般的な乗用車のトランスミッションには、ほとんどがはすば歯車を採用しています。
また、モーターから得た動力源を一定の速度に保つ「減速機」、速度を自在に変更することができる「変速機」などでも採用されています。この2つは、モーターで動かすものには必ずと言って良いほど付いている機械なので、はすば歯車の存在は大きな役割を果たしています。
はすば歯車の原理
平歯車のように断続的に噛み合うのに対してはすば歯車は連続して噛み合うので、高速回転時においても騒音を発生させにくく、強度も高いメリットがある一方、シンプルな平歯車よりも複雑な作りをしているため、製造コストがかかってしまいます。
また、はすば歯車ならではの欠点として、構造上歯車の軸方向に推力が発生してしまいます。(スラスト荷重)
スラスト荷重は、動力が大きくなるほど強くなりますので、これを受け止めるための軸受けが別途必要になります。軸受けがないと、摩耗や回転不良の原因になってしまいます。
歯車とは別にスラスト軸受けが必要になることから、軸受けを設けるためのスペースが必要になります。
応用として、はすば歯車の欠点であるスラスト荷重を抑えるために右ねじれと左ねじれの歯車を組み合わせた「やまば歯車」があります。(ダブルヘリカルギア)
やまば歯車はスラスト荷重が働く方向を打ち消しあう特性があるため、スラスト荷重が発生しません。
はすば歯車の設計
歯直角方式のはすば歯車では、歯の正面で見たかみ合いが平歯車と同じになるため、平歯車と同じ計算式を使用することができます。
計算式はメーカー技術資料に詳しく記載がありますが、歯車の中心間距離など、歯車の取付設計に必要な寸法や、強度計算に必要な値を計算することができます。
気を付けなければならないのが軸方向の力です。はすば歯車は歯が斜めになっているため、歯の接触面で軸方向の力が発生します。ねじれ角が大きいほど力も大きくなり、回転方向とねじれ方向で力の向きが変わります。
そのため、軸受には軸方向の荷重を受けられるものが必要となり、アンギュラベアリングなど軸方向荷重を受けられる軸受を使用します。正転逆転の両方を行う場合には両方向に力が発生するので、組合せベアリングで両方の荷重を受けられるようにします。一般的には片側を軸方向固定とし、もう片側を支持とする方法が多く用いられます。
また、材質も金属や樹脂などがあり、用途にあった材質を選択する必要があります。
はすば歯車のバックラッシ
はすば歯車のバックラッシ量の計算は、JIS規格に規定されている「バックラッシ算出数値表」を使用し、歯厚減少量を求めることで、歯と歯の隙間を算出し、それを角度に変換します。
例えば、JIS5級で、歯直角モジュールを2、歯数を30と60、ねじれ角を30°の歯車では、正面モジュールは2.31、ピッチ円直径が69.3と138.6、となります。これらの条件から歯厚減少量は、小歯車が60~250ミクロン、大歯車が70~300ミクロンとなり、歯の最小隙間は60+70=130ミクロン、最大隙間が250+300=550ミクロンとなります。
使用用途によっては、規定よりも歯の隙間を小さくしたい場合や、隙間の公差範囲を小さくしたい場合があります。この時、またぎ歯厚と呼ばれる値の公差を小さく設定することで、小さくすることが可能ですが、小さくしすぎると潤滑油が不足し、潤滑が不十分になり、歯の摩耗が早くなったり、駆動トルクや騒音が大きくなったりします。特に高速運転では小さくしすぎないように注意が必要です。大きすぎる場合には停止時のガタツキ、負荷変動時の振動などが発生します。
参考文献
https://nagatatekko.co.jp/topics-news/faq/440
https://www.khkgears.co.jp/gear_technology/basic_guide/KHK365.html