風力発電機

風力発電機とは

風力発電機

風力発電機とは、風の力を利用して羽を回し、その回転力を発電機で電気に変える装置のことです。

火力発電などとは違い、自然エネルギーのみを利用するため、クリーンな発電機として注目されています。 風の多い、広い空間に設置する必要がありますので、日本では主に北海道と九州地方等に設置されています。また、洋上風力発電機もあり、こちらは海の上に設置するので、 陸上よりも広々としたスペースを確保することができ、陸上よりも安定して発電することができます。主にヨーロッパなどで使用されています。

風力発電の長所

  • 発電時に二酸化炭素を排出しないため、環境に優しい。
  • 風力をエネルギーとするため、風さえ吹けば発電可能。

風力発電の短所

  • 発電時に騒音が発生する。
  • 風により発電をするため、発電量が天気などに左右されやすい。

風力発電機の導入について

世界における国別風力発電ランキング

世界における国別風力発電ランキング

風力発電は今や世界に導入されている発電方式です。導入量が多い国として上から「中国、アメリカ、ドイツ、インド、スペイン」の順で導入が多くなっており、日本は19位となっています。(2017年時点)

2017年GWEC Global Wind2017 Reportより

都道府県別風力発電設置場所ランキング 

都道府県別風力発電設置場所ランキング

都道府県別の風力発電設置場所ランキングとしては、1位: 北海道の304基、2位: 青森県の253基、3位: 秋田県の210基となっています。

2018年国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構より

 

日本では2019年の発電量調査によると、風力発電は全体の0.8%のエネルギー量を発電していることになっています。 風力発電は設置場所が広大な土地かつ風力が強い地域であること、騒音問題や野鳥問題などがあげられるため近隣に住民が少ない地域であることが必要になります。 そのため土地が少ない日本では、自然エネルギーを活用した発電方法は太陽光が主流であり、陸上風力発電はあまり適していないともいえるでしょう。

風力発電機の原理

ここでは風力発電の動作方法や原理について解説します。 風力発電は、まず風の力をブレードと呼ばれている大きな羽で受け止めることで、主に正面からくる風を回転力に帰ることができます。 そうして回転を始めたブレードは、中心につながっているギアボックスにつながれ、発電機に必要な回転力までギアを用いて増幅させます。 そうしてギアボックスから伝わってきた回転力を発電機で変換し、変電所に送っています。

風力発電は羽の向きによって種類が異なり、2種類あるとされています。1つは水平軸型、もう1つは垂直軸型です。 水平軸型は風車の羽が地面に対して垂直である風車、垂直軸型は地面に対して平行に回転する方式です。一般的な風力発電のイメージは水平軸型ですが、 垂直軸型は水平軸型にくらべて、騒音をあまり出さないという特徴があります。しかし、出力が弱いため公園などの小規模な範囲で活用されています。

風力発電機の大きさ

風力発電機は、国際電気標準会議(IEC)の定義で、出力が1kW未満の製品はマイクロ風車、1~50kW未満を小形風車、50kW以上を大型風車と区別されています。

1. 小型風力発電機

小型風力発電機は、受風面積が200㎡以下、プロペラの直径が16m以下のものが該当します。

2. 600kWの大型風力発電機

定格出力が600kWの大型風車の場合、一般にタワーの高さが40~50m、プロペラの直径が45~50mとなります。

*40mの目安として、10階建てオフィスビルに相当します。

3. 1,000kW~2,000kWの大型風力発電機

また定格出力が1,000kW~2,000kWの大型風車の場合は、タワーの高さが60~80m、プロペラの直径が60~90mとなります。

*60mの目安として、15階建てオフィスビルに相当します。

風力発電機の設置場所

風力発電機の設置場所は、大きく「陸上」と「洋上」とに分けられます。

1. 陸上の風力発電機

陸上の風力発電機

陸上の風力発電機は、一定以上の風速の風(一般的には年間風速6m以上の風)が安定して吹いている広い土地があれば設置が可能であり、日本国内では北海道や東北、九州地方に多く設置されています。

なお条件を満たす風が吹いているエリアは、NEDOが提供する局所風況マップを参考したり、シミュレーションを行ってくれる業者に依頼することで調べることができます。

NEDO提供の局所風況マップリンク

日本国内で設置する場合には、周辺環境との調和だけでなく、台風などの気象条件に対応できるようにすることが課題とされています。小型の風力発電の導入を検討するときはおよそ130㎡の面積が必要だと言われており、設置面積や近隣の住宅との位置関係、自然環境、風況などをふまえることが大切となります。

2. 洋上の風力発電機

洋上の風力発電機

洋上風力発電とは、海上や湖面に建設された風車で風力発電を行うもののことです。

陸上に比べより大きな風力を安定的に得ることができ、さらに騒音や万が一の人的被害などのリスクが避けられます。単に海上だけはなく、湖やフィヨルド、港湾などにも設置されています。

洋上風力発電の最大のメリットは、貴重な土地資源を占有することなく、風の力を利用できることです。また、洋上風力発電は風速の強い場所に建設できるため、高い発電量を得ることが可能です。再生可能エネルギーの研究開発が活発化する中、次世代のエネルギー供給を担う発電方式として大きな期待を集めています。

洋上風力発電の普及が進んでいる背景は、世界的に脱炭素化への関心が高まっているためです。2020年に設定された「2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする」という目標を達成するためには、日本も再生可能エネルギーの発電量を増やす必要があります。日本政府は2040年までに洋上風力発電の発電規模を原子炉45基分 (原子炉1基=1GW) とする目標を掲げています。

一般的に、再生可能エネルギーといえば水力発電や太陽光発電などが挙げられますが、これらはそれぞれ降雨量と日照量 (時間帯) に発電量が左右されていました。風力発電は夜間でも安定的に発電できるため、太陽光発電の弱点を補うことができます。

しかし、風力発電は風の弱い時間帯や台風通過時には発電できないため、1つの発電方式だけに頼るのではなく他の発電方式で補うことが重要となります。洋上発電が増えれば、化石燃料の発電所を廃止することができ、2050年までに温室効果ガスをほぼゼロにするという目標達成に貢献することができます。

洋上風力発電の最大のデメリットはコストの高さです。洋上風力発電は初期投資とメンテナンス費用が陸上風力発電に比べて非常に高くなります。また、環境に悪影響を及ぼす可能性があることもデメリットのひとつです。騒音や景観の悪化、海洋生物への影響が懸念されます。

浮体式洋上風力発電機

洋上風力発電には、発電機を海底に固定する「着床式」と発電機を海底に浮かべる「浮体式」の2種類があります。

着床式は浅い海域に限られますが、堅牢で大型の発電機を設置することができます。一方、浮体式は発電機の大きさや効率に制限がありますが、場所を選ばず大量に設置することが可能です。

欧米では着床式が主流です。一方、設置場所の制約が少ない浮体式風力発電は、沿岸付近の水深が深く洋上風力発電の発電量を増やすことができるため、日本でも注目され始めています。浮体式風車の設置はコストや電力輸送の面で課題が多く、さらなる研究が必要となります。

参考文献
https://solarjournal.jp/windpower/1967/
https://www.kepco.co.jp/brand/for_kids/teach/2017_06/detail1.html
https://enechange.jp/articles/wind-power-generation#i-4
https://energy.fjtex.co.jp/blog/post-1669/

https://www.tainavi-pp.com/investment/wind/46/
https://enechange.jp/articles/wind-power-generation

ヒートポンプ

ヒートポンプとは

ヒートポンプとは

図1. ヒートポンプとは

ヒートポンプとは、空気や液体中の熱を低温部から高温部へ移動させる技術です。今や生活に欠かすことのできないエアコンや冷蔵庫、エコキュートなどに利用されています。

熱を移動させるために電力を消費しますが、その消費量よりも大きな熱エネルギーを生み出すことから、高い省エネ効果が見込まれています。また、ガスや石油を燃焼する方式に比べてCO2の排出量を大幅に削減できることから、地球に優しい環境技術という側面でも注目を集めている技術です。

ヒートポンプの使用用途

ヒートポンプは、かつては主に冷蔵庫や冷房に用いられ、物を冷やす冷熱用として使われていました。しかし、技術の進歩により低温から高温への用途が広がり、暖房や給湯などさまざまな分野で利用されるようになってきました。

家庭の中では、冷蔵庫やエアコン、洗濯乾燥機など毎日の生活に欠かせない家電製品に使われ、省エネ効果の高いエコキュートや床暖房などの設備にも使われています。また、オフィスや病院など利用者の多い施設では業務用のエアコンや給湯器などに利用され、大幅な光熱費の削減が期待されています。

ヒートポンプの原理

ヒートポンプの原理

図2. ヒートポンプの原理

気体は圧縮すると温度が上がり、逆に膨張させると温度が下がります。ヒートポンプはこの性質を利用し、熱を移動させています。そして、熱を移動させるフロンのような冷媒は常温に近い温度で圧縮や膨張により液化と気化を繰り返すことで、効果的に熱を移動させることができます。

ヒートポンプの構造は、圧縮機・膨張弁・蒸発器と凝縮器と呼ばれる2つの熱交換器、これらをつなげる配管から構成されており、配管の中には低沸点の冷媒が循環しています。

冷媒は熱エネルギーを移動させる役割を持つ媒体です。主にフロンガスが使用され、圧力や温度により蒸発と凝縮を繰り返し、気体や液体に変化します。

膨張弁は高温高圧になったフロンガスを急激に膨張させて温低圧状態にし、再び液体にする器具です。

圧縮機はフロンガスを圧縮して高温高圧にする機器です。遠心式圧縮機や往復動圧縮機などがあります。

熱交換器は役割から蒸発器と凝縮器の二つに分けられます。蒸発器は熱を外部から吸収してフロンガスを気体に変えるための働きをし、凝縮器は気体を液体に変え、熱を外部に放出する働きを持ちます。

冷媒は蒸発器で熱を吸収し、気体化して圧縮機に吸収されます。高温高圧に圧縮された気体は、凝縮器に送られ液体になり、膨張弁で低温低圧にされ再び蒸発器に戻ります。ヒートポンプは、これらのサイクルを繰り返し行うことで、空気中の熱を低温部から高温部へ移動させているのです。

ヒートポンプの種類

ヒートポンプは熱輸送の原理によって下記の通り類別されます。

1. 冷媒の発熱、吸熱を利用したヒートポンプ

蒸気圧縮ヒートポンプや、吸収式ヒートポンプ、吸着式ヒートポンプは、冷媒が気化する際に発生する気化熱、凝縮熱を利用します。アンモニアの気化熱を利用したヒートポンプは冷蔵庫や冷凍庫に主に利用されています。

2. 空気熱以外の熱を利用したヒートポンプ

地中熱、水源熱、太陽熱を利用したヒートポンプになります。いずれの場合も熱源が近くにある必要がありますが、空気熱と比較して熱を効率よく伝播することが出来ます。

3. 格子振動を用いたヒートポンプ

半導体を用いたヒートポンプです。電流を熱電素子に流すことで、素子において格子運動を発生させます。この格子運動によって熱移動を行うと、細かい温度コントロールが可能となります。そのため、精密な温度コントロールを必要とする医療器具、実験装置に主に利用されています。しかしながら、高性能な分、高コストなヒートポンプとなっています。

4. その他のヒートポンプ

最近は熱電導と気化熱の両方を利用したヒートポンプが現れ始めました。この通り、年々新たなヒートポンプ技術が開発されてきており、より効率的に熱を取り入れて蓄えることが可能になってきています。

ヒートポンプのその他情報

1. ヒートポンプの性能指標 

ヒートポンプの性能は消費電力(kW)に対して生み出せる冷却または暖房能力(kW)の比で表され、これをエネルギー消費効率COP(Coefficient Of Performance)と呼びます。この値が高いほど省エネ効果が期待でき、特にエアコンでは冷房COP、暖房COPとしてエアコンの省エネ能力を表す指標として用いられています。

しかし、COPは一定の温度環境下でのエネルギー消費効率を示すものであり、実際にエアコンを使用する場合は部屋や外の温度によって性能が異なります。そのため、現在では省エネ基準として通年エネルギー消費効率 APF (Annual Performance Factor)が主流となっている。APFは2006年9月に改正された「省エネ法」でCOPに代わる省エネの指標として定められており、COPと異なり1年間運転した場合の運転効率を示しています。そのため、APFはより実際の運転に近い運転効率を示していると言えます。

2. ヒートポンプのメリット・デメリット

効率的に外部から熱を集めて大きな熱源として利用する技術、ヒートポンプのメリット、デメリットをご紹介します。

メリット

  • 節電になる
    熱を外部から集めることで、新たに熱を作り出す必要がないため、ヒートポンプを搭載した電子機器は電気代が比較的安いです。
  • 安全性が高い
    熱を生み出す際に燃焼を伴わないため、安全性が高くなっています。
  • 二酸化炭素排出量の抑制が期待できる
    燃焼という過程がないため、二酸化炭素排出量は比較的抑えられます。

デメリット

  • 外部環境に左右されやすい
    ヒートポンプは外部から熱を集めるため、外気温が低い場合などはかえって効率が悪くなってしまいます。

3. ヒートポンプの効果的な利用方法

ヒートポンプの温度差

図3. ヒートポンプの温度差

ヒートポンプは消費電力以上の冷房・暖房能力を生み出せることから省エネ・省コストに優れているが、外部環境に作用されやすいというデメリットがある。しかし、ヒートポンプは小さな温度差から大きなエネルギーを取り出せるため。より効果的に利用することでさらなる省エネ効果が期待できる。

ヒートポンプは熱移動によって、片側は加熱され、もう片側は逆に冷却される。通常であればどちらかの利用となるが、加熱と冷却を同時に利用できるシステムを構築すれば、より大きな省エネ効果を生み出すことが可能である。

また、ヒートポンプの効果的な利用方法として地下熱を熱源として用いる方法がある。外気と比較して地下熱は年間を通して温度変化が少ないため、地中や地下水の温度は夏は冷たく、冬は暖かい。これを利用することで、地中にある未利用熱を有効利用することができ、CO2の排出を大きく抑えることができます。

そのほかにも工場排熱や温泉の排湯などそのままでは利用が難しい熱エネルギーを最大限利用できることがヒートポンプの最大の特徴といえます。

オムニホイール

オムニホイールとは

オムニホイール

オムニホイールとは、あらゆる方向への移動が可能なホイールであり、本体部分の主動回転部と本体外円上に配置されたローラーの受動回転部によって構成される車輪です。

通常、3輪1セットまたは4輪1セットで使用されます。自動車のようなステアリングなどを用いたタイヤでの車輪構成と比較すると、移動機構が簡素になるため、小型化や軽量化に向いています。

オムニホイールの使用用途

オムニホイールは、主にロボットや台車などの移動機構として使用されています。狭いスペースの移動に適しているため、工場や倉庫内で無人搬送ロボットとしての利用や病院等の室内環境を想定した車いすとして利用される場合が多いです。

無人搬送ロボットとしてのオムニホイールには、センサを搭載した人追尾機能を持つロボットもあります。作業装置を載せたまま移動できるため、台車と作業台を兼ねた使用も可能です。

オムニホイールの原理

オムニホイールは、モータの駆動力を縦方向に伝達し、横方向への回転は自己駆動力を持たないフリーの機構によって行う車輪です。旋回や全方向への平行移動は、オムニホイールの路面へのグリップ力に対して、各モータの速度制御を調節することで可能になります。

通常は、3輪1セットもしくは4輪1セットで使用されることが多いです。それぞれの特徴を以下に示します。

1. 3輪構成

4輪での車輪構成に比べ、駆動系が1つ少ないために小型化や軽量化が見込めるという利点があります。しかし、どの方向に移動する場合でも、移動量がベクトルの合力となるため、路面との相性によっては、直進性が悪くなる場合があります。

2. 4輪構成

4輪構成の場合は、前後左右方向への移動は自動車の様に通常のタイヤで移動するのと変わらない動きとなるため、高い直進性が見込めます。一方で、駆動系としては3輪構成に比べて駆動系が1つ多い状態となるため、装置全体として大きくなり、重さも増えてしまうという短所もあります。

オムニホイールの特徴

長所

  • その場での旋回や全方向への平行移動が可能
  • 最低3つあれば車輪として駆動系が構成可能で、4輪駆動に比べて移動機構が簡素になり、小型軽量化が可能
  • 動作時の振動が少ない

特に、移動ロボットにおいては、2輪ロボットは「基本的に目標に対して動く向きを変えながら常に前に向かって動く」のに対し、オムニホイールロボットは「常に目標に向かって向きを固定させた状態で平行移動する」という大きな違いがあります。

これは、オムニホイールを用いることで「移動時に向きを変えてから動く」という手順を省けることを意味し、「最短距離で素早い動きを行える」という大きなアドバンテージになります。

このように、オムニホイールは素早い移動に対して大きなアドバンテージを持つため、ゴールまでの到達時間などを競うロボットコンテスト用のロボットでは、オムニホイールを使用した移動機構を搭載しているロボットも多いです。

オムニホイールの部品構成には決まったものはなく、受動回転部に配置されるローラーの数や角度、素材などは様々なものが存在します。各オムニホイールによって得意とする環境や用途、耐荷重性などがことなるため、使用用途に合わせた選定が必要となります。

短所

オムニホイールの短所としては、「段差に弱いこと」、「屋外での使用に弱いこと」が挙げられます。オムニホイールの動作原理によるもので、どちらの条件も地面とのグリップ力を十分に発揮できないという課題が原因です。

オムニホイールのその他情報

1. オムニホイールロボットの制御方法

4輪タイプの場合、オムニホイールは機台に対して90度ごとに4つ取り付けられています。各オムニホイール一つずつにモーターが取り付けられており、独立にモーターへの指令を出すことで、機台の速度と進行方向を決定します。

例えば、X方向に機台を直進させる場合、Y方向における各オムニホイールの速度ベクトルの和が0になるように制御が必要です。

2. 制御における注意点

制御時の注意点としては、地面とのグリップが不十分だとタイヤに滑りが生じます。オムニホイールの内一つでも空転が生じると、オムニホイールの速度ベクトルの総和が想定値からズレてしまいます。フィードバック制御を取り入れる等してモータへの指令を都度修正する仕組みが必要です。

フィードバック制御とは、出力である制御量を入力値にフィードバックして出力と入力の差が0になるように入力値の修正を行う制御を指します。空転のような外乱が生じても修正を加えることができる制御になります。

ファレンスPC

ファンレスPCとは

ファンレスPCとは、PCの冷却用にファンを付属していないPCです。

別名称ではエンベデッドPC、FAPC (英:Factory Automation PC) 、組み込みコンピュータ、工業用PC、IPC (英:Industrial PC) とも言われます。民生用PCと比較して信頼性が高く耐環境性も有しており、障害発生時の解析対応といった機能も有しています。

ファンレスPCの使用用途

ファンレスPCは主に産業用途で使用される製品です。具体的な使用用途としては、振動や粉塵にさらされる工場のオートメーション制御、常時稼働を求められるサイネージシステム、受付端末などがあります。オペレーティングシステム (OS) に自由度があり、設置環境や制御先の特性に応じて選定してハードウェア構成をカスタマイズする必要があります。

ファンレスPCの原理

ファンレスPCは通常のPCのアーキテクチャであるx86をベースにしています。最大の特徴は電源ユニットなどの冷却用ファンを持たないことです。冷却ファンのベアリングが使用時間とともに劣化して不稼働時間が発生し、熱による故障を誘発する恐れがあるため、ファンレスPCは多くは自然放熱でPCを冷却できるように設計されます。さらに構成パーツの品質と長期供給体制を整えて可用性を向上させています。

ファンレスPCのその他情報

1. ファンレスPCのOS

ファンレスPCはx86アーキテクチャがベースとなっているため、搭載するオペレーティングシステムを用途別に選ぶことができます。

Windows 10 IoT Enterprise
拡張性に優れるWindowsをベースに挙動を細かく制御できる機能を搭載しています。例えば、起動可能なソフトの制限やUSBデバイスへのアクセス制限などの機能です。広く使われているWindowsがベースになっているため、保守管理がしやすいというメリットがあります。
Linux
柔軟なカスタマイズ性に優れ、ライセンス規定に準じた使い方であれば無償で商用利用が可能です。組み込み向け用途としてのLinuxはミドルウェア・デバイスドライバの種類が豊富で、柔軟にシステムを構築することができます。ファイルシステムを選ぶこともできるため、用途に応じて書き込み性能や耐障害性に重きを置くことが可能です。組込みシステム開発に必要な開発環境が無償で提供されているのも大きなメリットと言えます。
PMC T-Kernel
細やかな制御を必要とする産業ロボットなどに採用例が多いリアルタイムOSを、ファンレスPCのアーキテクチャ上でも利用可能としたのがPMC T-Kernelです。μsecオーダーのリアルタイム性を有しているため、細やかな制御を必要とする用途に向いています。

2. ファンレスノートPC

ノートパソコンは持ち運びが便利で携帯性に優れています。

従来ノートPCを構成するCPUや電源などの発熱を冷却するためには、冷却ファンによる放熱が一般的でした。小型化・薄型化を難しくする一因でもあり、騒音の原因でもありました。近年は部品の発熱が低減して放熱技術が進んだことで、小型薄型軽量でデザイン性も優れたファンレスノートPCが数多く登場しています。

CPUは製造プロセスの微細化などの省電力化技術により、モバイル機器やノートパソコン用に性能とバランスの取れた省電力タイプも販売中です。記憶装置は、HDDからSSDに置き換わり、無音化に寄与しています。ファンに代わる放熱(冷却)技術としては、筐体設計の工夫やヒートシンクによる自然空冷が一般的です。先進技術としては、ヒートパイプによる液冷方式などの宇宙開発技術の活用が検討されています。

3. 産業用PC市場

耐久性や安定性が求められる産業用PCはサポート期間も長く長寿命のため、変化の少ない市場でした。近年は生産の効率化や省人化の流れの中で工場の自動化が進行しています。工場や生産現場においては、産業用PCを活用してIoT連携やAIの活用によるデータ収集解析の導入が検討されています。
産業PCは信頼性・耐久性の向上と共に高性能化も進行中です。生産現場において機器の情報を収集してリアルタイムに分析・処理できるエッジコンピューティングにおけるサーバーの役割が期待されています。

参考文献
https://ascii.jp/elem/000/001/731/1731970/
https://shop.epson.jp/pc/emb/embqa/
http://www.t-engine4u.com/sangyo_pc.html
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1610/26/news023.html
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1507/02/news006_2.html
https://www.portwell.co.jp/blog/ipc_vs_consumer-pc/
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP512789_V20C19A6000000/
https://www1.stratus.com/jp/stratus-blog/increasing-demand-industrial-pcs-information-key-future-control/
https://www.furukawa.co.jp/jiho/fj108/fj108_03.pdf

排水処理装置

排水処理装置とは

排水処理装置

排水処理装置とは、工業、農業などの産業や下水など人の生活により排出された汚水を浄化する装置です。

水処理は、水の効率的利用の面、環境汚染防止の面、悪臭などの公害防止の面から、私たちの生活に欠かすことができない工程です。そのため多くの企業が、排水処理の効率化のため、技術革新に努めています。

排水の種類によって、重金属除去、有機物除去、脱窒、リン除去など様々な種類の物質の除去が必要となります。

排水処理装置の使用用途

排水処理装置は、工業、農業、畜産、浄水場などあらゆる産業に利用されています。

工業分野では、水が不足するシンガポールで工業排水のリサイクルが強く求められています。また中国、中東、東南アジアなどの新興国では、排水の再利用だけでなく環境汚染防止の面から見た汚水の浄化が必要です。

また、畜産分野では、家畜の糞尿を多量に含んだ汚水が大量に排出されるため、環境汚染、悪臭を防ぐために排水処理装置が利用されています。

排水処理装置の原理

一般に排水処理装置は、受け入れた汚水の前処置、凝集・沈殿分離、濾過を行い、pH等の調整後放流や再利用します。排水処理工程は、前処理工程と生物処理工程の大きく2つにわけられます。

1. 前処理工程

前処理工程では主に生物処理を阻害する物質を除去します。油分や有機溶剤などは、浮上しやすいため分離機により浮上させて分離し、重金属 (ニッケル亜鉛など) や懸濁物質は、凝集沈殿により処理します。

2. 生物処理工程

生物処理工程では、微生物の分解能力を利用して前処理後の水から有機物を除去します。水の中の有機物の量は、BOD (生物化学的酸素要求量) やCOD (化学的酸素要求量) といった指標で表され、この数値が基準を下回るまで水を浄化します。

排水処理や浄水場で多く用いられているのは活性汚泥法です。活性汚泥法とは、排水を曝気することで好気性微生物が水中の溶存酸素を利用して有機物を分解し、沈降分離することで排水を処理する方法を指します。

また、生物膜法という方式もあります。生物膜法は担体に微生物を張り付けて膜のようなものを作製し、汚水中の汚濁物質を吸収、分解させる処理方法です。

排水処理装置のその他情報

1. 小型の排水処理装置

小型の廃水処理装置は、工事現場や小規模な工場などで使用されています。排出量自体が少なく自所内で処理可能な規模であるためです。

用途としては、洗剤の排水、研磨時に出る排水、食品加工で出る排水などが挙げられます。小型であるため、2t~4tユニック車などで運ぶことができ、容易に設置も可能です。合わせて、先に述べた一連の処理操作ができ、また操作もシンプルで、設備投資費用も安く済みます。

一方で、生活排水や産業排水は日々、多くの量が排出されています。よって、排水処理装置自体が大規模になるため、小型の廃水処理装置の使用には向きません。

2. 工場の排水処理装置

工場の排水には、多くの汚染物質が含まれています。したがって、汚染物質の種類や各工場の排水特性により処理設備を検討する必要があります。

汚染物質の種類
処理水中の処理水中の油分、有機物、アンモニア、有害金属などの物質ごとに処理設備を検討します。例えば、BOD (生物化学的酸素要求量) やCOD (化学的酸素要求量) の低減には活性汚泥設備が、SS (浮遊物質) の処理には凝集沈殿設備が必要になります。

各工場の排水特性
食品や電子部品、石油・石油化学など、各工場ごとで処理水中の有害物質の濃度やpHなど排水特性が異なるため、工場ごとで設備の仕様が異なります。食品工場の場合、メタン発酵による嫌気処理、バイオフィルタによる濾過などです。

電子部品工場の場合は、フッ素やヒ素などの無機物質が多く使用されていることから、無機排水と有機排水を分けて処理をします。また、工場の処理水中の各有害物質の濃度は、関係法令によって決められています。必要に応じた処理濃度にするため、処理水の処理量や原水濃度の前提条件を固めてから設備の仕様が決まります。

参考文献
https://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/513/513021.pdf
https://www.sanki.co.jp/skk/solution/mizusyori/mizusyori09.html

渦流量計

渦流量計とは

渦流量計は、カルマン渦を利用した流量計です。

カルマン渦とは、流体の流れの中に置かれた物体 (渦発生源) の下流に発生する渦列を指します。物理学者であるカルマンが理論的に解明したことから、「カルマン渦」という名前が付きました。

渦流量計は構造が簡単で堅牢です。精度がよく、流量範囲が広く、多種類の流体に対応していることが大きな特徴です。

渦流量計の使用用途

渦流量計の主な使用用途は以下です。

  • 蒸気配管の流量測定
  • ドレン回収量の測定
  • ボイラー給水量の測定
  • 自動車エンジンの制御
  • 冷却器の冷却水の流量制御

渦流量計は気体・液体・蒸気を測定できるので、あらゆる流量計測シーンに使うことができます。

注意点は渦が発生しないと測定ができないため、渦発生のための適切な口径を選定することです。低流量範囲ではカルマン渦が発生しなくなり、流量を測定することはできません。

渦流量計の原理

渦流量計はカルマン渦を数えることで流量を測定します。
カルマン渦の周波数は流速に比例するので、パイプの中に渦発生用の障害物を設置して発生する渦を数えることで流速がわかります。

具体的な数式を用いた説明は以下の通りです。

渦周波数をf (Hz) 、渦発生体の代表長さをd (m) 、流速をv (m/s) とすると、

f = S・v/d

という式が成立します。ここで、Sは、ストローハル数と呼ばれる比例定数です。渦発生体の形状や寸法で決定される数です。

流量Q (m3/s) は、管の断面積をA (m2) とすると、

Q = A・v = A・f・d/S = K・f

で、あらかじめ流量と周波数の比例定数Kを求めておけば、周波数から流量を求めることが可能です。

実際の渦発生体の形状は、三角形状、平面形状、台形形状などがあり、台形形状が最も正確性が高いと考えられています。渦の検出方法は、渦によって生じる力をセンサ (圧電素子か半導体歪ゲージ) で電気信号にして検出し、変換器で増幅しパルス信号またはアナログ信号として取り出されます。 

渦流量計のその他情報

1. 渦流量計の直管長

配管内の流体の流量を測定する計器としては、他にも差圧式流量計やコリオリ式流量計などがあります。差圧式流量計はシンプルな構造ですが、測定精度がやや低いことがデメリットとなり、コリオリ式では使用できる流体が限定されることがデメリットとなります。

一方、渦流量計は、検出部に設置されている渦を発生させる物体の下流で生じたカルマン渦による圧力変化を測定し、流量へ変換します。渦流量計は液体・固体・気体のいずれも測定ができ、機器がシンプルであることが特徴です。

多くの流量計に言えることですが、流量測定をより正確に行うためには測定器の上流側配管の直管部はある程度長さが必要になります。渦流量計では、配管内での旋回流や流速分布が不均一である場合は、測定に影響を及ぼします。従って流体は層流であることが必要条件となります。

以上より、流量計の上流は整流としなければならず、バルブや温度計圧力計などが配管内に突き出ていないようにしなければなりません。なお、必要な直管部の長さは配管の設計によって異なります。

2. 渦流量計と蒸気

蒸気の流量測定に差圧式流量計が使用される場合も多いです。差圧式流量計は仕組みは簡単ですが、流量精度は他の流量計と比較すると劣ります。

その際、蒸気の測定に渦流量計を用いると精度良い流量の測定が可能です。

蒸気の場合は、温度・圧力によって密度が異なります。渦流量計では流量の測定精度が高いだけではなく、質量流量への換算ができるように温度センサーが付属している計器もあります。

また、主にボイラーでは蒸気は湿り蒸気となっているため、差圧式よりも渦流量計が最適です。しかしながら、この湿り蒸気の温度・圧力・乾き度による影響で渦式流量計においても精度が低くなることがあります。

蒸気用の渦流量計は検出部に乾き度センサーを内蔵しており、質量流量の換算ができるように工夫されています。

参考文献
https://www.keyence.co.jp/ss/products/process/flowmeter/type/karman.jsp
https://www.oval.co.jp/techinfo/keisoku/vortex.html
https://www.tokyokeiso.co.jp/techinfo/magazine/pdf/flow5.pdf
https://www.yokogawa.co.jp/solutions/products-platforms/field-instruments/flow-meters-j/vortex-flow-meters-j/vortex-flow-meters-jj/digitalyewflo-series-products/

アルミダイカスト

アルミダイカストとは

アルミダイカスト

アルミダイカストとは、アルミ合金や亜鉛合金などを溶かし、金型へ圧入して成形する特殊な鋳造方法のことです。アルミダイカストは、高い寸法精度と美しい表面を持つ、複雑な形状の製品を大量生産することが可能であるという特徴があります。

このため、アルミダイカストは、金属加工手法の中でも高く評価されています。アルミダイカストと混同されるのがアルミ鋳造です。アルミ鋳造は、アルミ合金やなどの金属を、融点よりも高い温度で液体にして型に流し込み、冷やして固める方法を指すため、アルミダイカストとは異なる鋳造方法です。

また、アルミダイカストでは金属の金型を使用するのに対して、アルミ鋳造の場合は一般的に砂型を利用します。アルミダイカストは、金属の塊から金型を設計・製作を行う必要があるため、製作コストが高いという特徴があります。

アルミダイカストの使用用途

アルミダイカストは主に、自動車部品で使用されています。その中でも近年の需要が高いのは、ステアリング関係の部品です。アルミダイカストであれば、複雑な形状や高精度の製品でも大量かつ短時間で製造できるという特徴があるからです。

アルミダイカストが使われているのは自動車部品だけではありません。その他にも、普段使っているパソコンや携帯電話、デジタルカメラ、冷蔵庫や洗濯機など、日常生活のさまざまな製品に使われています。アルミダイカストは、小型部品の製造も可能であるため、製品の軽量化にも貢献しているのです。

アルミダイカストの原理

アルミダイカストは、金型を使った鋳造方法です。ダイカストとは、金型(Die)による鋳造(Cast)という意味があります。ダイカストマシンの構成は、金型を開閉する型締装置、金型に溶解した金属を射出する射出装置、金型から押し出す押し出し装置です。

アルミダイカストは、まずアルミニウム合金を溶解させます。このとき、アルミニウム以外の金属も溶解させ、目的の成分をもつ合金を作り出すため、入念な成分調整と管理が必要です。アルミニウム合金が溶解したあと、金型を清掃し、型締装置で金型を閉じます。

そして、閉じられた金型に対して、射出装置により溶解アルミニウム合金を充填します。アルミダイカストは、金型に溶解金属が射出され、急速に冷却されるため、表面層の組織が細かくなるのが特徴です。アルミダイカストは、この細かい表面組織によって表面が硬くなり、強度を持った製品を製造することが可能になります。

一方で、アルミダイカストは、急冷されるため、鋳巣ができやすいのがデメリットです。この鋳巣は、表面だけでなく、最後に凝固していく中心部でも発生します。アルミダイカストで鋳巣が発生してしまうと、強度低下など期待した製品性能を達成できなくなります。このため、アルミダイカストでは、ダイカスト時の温度管理や、金型形状の十分な検討が必要です。

アルミダイカストのその他情報

1. アルミダイカストとアルミ鋳造の違い

アルミダイカストは、アルミ合金や亜鉛合金などを溶かし、金型へ圧入することで成形を行います。一般的に材料はおよそ500℃~700℃程度に熱して溶かし、金型に低速で流し込んだ後、高い圧力をかけて冷やすことで成形されます。

一方でアルミ鋳造は、高温の炉で溶かした液体状のアルミニウム合金を、金属やセラミックスの鋳型に流し込んで成形する方法です。アルミ鋳造では、基本的に外部からの力はかけず、液体金属の落下による投入と、その後の流れを利用しています。アルミ鋳造は、アルミダイカストと比較して、重力鋳造と呼ばれることもあります。

アルミダイカストのメリットは、寸法精度が高く、複雑な形状でも製造できることです。この理由は、溶けたアルミニウム合金に圧力をかけて型に投入するため、型の隅々までアルミニウム合金が瞬時に行きわたるからです。一方でアルミ鋳造は、目的の寸法にならないことや、表面に皺が発生する場合があります。高温のアルミニウム合金は流動性が比較的低いため、落下による投入だけでは型の隅々にまで行き渡るのに時間がかかるからです。

このため、アルミ鋳造では、凝固するときにアルミニウムが収縮するため、寸法変化や流動の際に生じた皺などの欠陥が生じることがあります。アルミダイカストは、寸法精度が、高く表面粗さにも優れていることも特徴です。アルミニウム合金が瞬時に行きわたるため、製造時間を短縮することが可能となり、製品を大量生産することができるというメリットもあります。

アルミダイカストでは表面粗さが高品質を保っていることから、仕上げや検査工程を削減できるという点も、アルミ鋳造とは異なる特徴です。しかし、アルミダイカストのデメリットとして、金型の設計と製造にかかるコストが高いという特徴があります。このため、小ロット生産の場合には、砂型を利用するアルミ鋳造の方が費用を抑えられる場合があります。

また、アルミダイカストは、強度が必要な部品には適さないということもデメリットです。アルミダイカストでは製造の都合上、成型時に空気や蒸発した離型剤を巻き込んでしまいます。これによって「巣」と呼ばれる空洞ができるため、製品の強度が低下することに注意が必要です。

2. アルミダイカストの材料

アルミ合金には鋳造用や展伸用材料がありますが、ダイカスト用材料はADCを先頭にしたシリーズで、多数の種類があります。アルミダイカスト材料の主成分系はAl-SiとAl-Mgで、そこにCuやMnなどの元素が添加されています。アルミダイカストで要求される耐食性、鋳造性、耐衝撃性に合わせて各素材が選定されているのが特徴です。

アルミダイカスト材料の金属組織は、Al固溶体が母相です。母相にはラメラ―状のAl-Si共晶組織やMg2Si,やAl2Cuなどの微細析出物による析出強化を利用したものがあり、これによって発現する特性が異なります。

通常、アルミニウム合金は鋳造や加工後の熱処理加工により、結晶粒を整えたり微細析出物を形成したりします。しかしアルミダイカストでは、ダイカスト中に巻き込む空気やガスが熱処理により膨張し欠陥化することを避けるため、熱処理加工をしないことが多いです。

しかし、最近適用が進んでいる真空ダイカストや無孔性ダイカスト法では、これらの欠陥が発生しにくいという特徴があります。したがって、近年のアルミダイカストでは、熱処理加工を追加することにより、アルミダイカスト材料の特性を引き出すことが可能になっています。

参考文献
https://www.taiyoparts.co.jp/blog/960/
https://www.taiyoparts.co.jp/blog/4458/
https://www.hakkokinzoku.co.jp/forging-encyclopedia/hot-forging/superiority01.html
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1304/17/news019.html

アルマイト

アルマイトとは

アルマイト

アルマイトとは、アルミ表面に酸化皮膜 (アルマイト膜) を人工的に形成させる表面処理のことです。

膜を形成している物質もアルマイトと称します。アルマイト膜を形成することにより、耐食性や耐摩耗性の向上などを図ることが可能です。アルマイト膜は、メッキ加工とは異なり、ただ表面を覆うだけではなく製品自体を溶解しながら入り込む形で生成されて表面を覆うため、より丈夫な表面処理が施されています。

なお、アルマイト膜を形成することをアルマイト処理とも言います。

アルマイトの使用用途

アルマイトは家庭用製品から工業用製品まで幅広い分野で用いられています。アルマイトよりなるアルマイト膜を形成すると、「高耐食」「高耐摩耗」「表面特性 (撥水性など) の付与」「着色など装飾性が高い」という特長があるためです。

  • 家庭用製品
    弁当箱、やかん、鍋、携帯電話、サッシ等
  • 工業用製品等
    建築材、自動車部品、光学部品、半導体部品、医療機器等

アルマイトの原理

アルマイトが形成される母材であるアルミニウムは、酸素と結びつきやすく、空気との接触により薄い酸化膜を形成する性質があります。このため、アルミニウムには、さびにくい、つまり耐食性が良い特性があります。

しかしながら、この自然に形成される酸化膜の膜厚は非常に薄いものです。環境によっては化学反応による腐食が生じ、アルミニウムまで腐食が及ぶ可能性があります。

そこで、人工的に酸化物 (アルマイト) よりなる膜を形成してアルミニウムを保護しています。アルマイトの主成分は非晶質アルミナ (Al2O3) です。なお、アルマイトよりなるアルマイト膜は 膜厚方向に伸びる孔部を多数有する多孔質層の形状をしています。

アルマイトのその他情報

1. アルマイト (アルマイト膜) の形成方法

アルマイト (アルマイト膜) の基本的な形成方法は、以下の通りです。なお、アルマイト処理もこれに準じた方法です。

  1. アルミ製品を治具に取付け、電解液の中に入れる。
  2. 治具に電極を繋ぎ、プラスの電気を流し、同時に陰極にも同様に電気を流す。
  3. 電気分解により、表面に酸化皮膜(アルマイト膜)が生成される。

この時に生成される酸化被膜 (アルマイト膜) の厚さは、電解時間に比例します。また、アルマイト膜は、アルミニウムの表面を溶解しながら生成されるため、その表面形状はアルミニウムの表面の形状を反映した形です。

すなわち、アルミニウムの表面に微小な凸凹であった場合でも、その形状を反映してアルマイト膜が形成されるため、塗装の様に表面を平らにならすことはできません。

2. アルマイト膜を形成する際の注意点

アルマイト膜を形成する際に注意するべきポイントは5つあります。

  • アルミ加工を切削で行ったか、放電加工で行ったかによって、膜の成長具合が変わるため、アルマイト膜生成後の見込み寸法に差が出る。
  • 鉄や、ステンレスなど、アルミ以外の素材が接合されている状態でアルマイト膜を形成すると、アルミ以外の素材が溶けてしまう可能性がある。
  • 異なる種類のアルミ合金で構成されている部品に一度にアルマイト膜を形成すると、色ムラや膜厚ムラが発生する。
  • はめあいを想定した穴形状などがある部品にアルマイト膜を形成すると、アルマイト膜の膜厚の寸法精度によっては、はめあいが機能しなくなる可能性がある。
  • はめあいの穴の深さや、貫通穴または止まり穴などの形状によって、アルマイト膜の膜厚寸法精度に差が出ることを考慮する。

上記の様に、アルマイト膜を形成する部品の形状や施した加工手段などにより、生成されるアルマイト膜の厚さに差が出てしまいます。そのため、精密な寸法が必要となる部品などにアルマイト膜を形成する場合は、事前の検討と確認が重要です。

3. アルマイトのデメリット

アルマイト膜は、柔軟ではなく脆い性質も有しており、アルマイト膜を形成したパーツを、加工したり曲げたりすると、剥離あるいは割れが生じます。また、物質ごとに、熱によって膨張する割合 (熱膨張係数) は異なります。酸化処理する前のアルミニウム合金と、酸化処理後のアルマイトは異なる熱膨張係数です。

特に高温環境 (100℃以上) 下では、この2つの物質における熱膨張割合の差がどんどん開くため、アルマイト膜に剥離やクラック (ひび割れ) が発生してしまいます。

4. アルマイトの着色方法

アルマイトには様々な色の着色が可能です。着色方法として、電解着色と染料着色の2つに大別されます。

電解着色
電解着色とは、アルマイト膜を形成した部品をスズやニッケルなどの金属塩を含む電解溶中で二次的に電解して、多孔質層であるアルマイト膜の孔部に金属を析出させて着色する方法です。この方法でアルマイト処理をすると、黒やブロンズ、黄色などの金属の持つ色合いをアルマイトにつけることができます。

また、電解着色にはアルマイト膜に着色するだけでなく、補強する効果もあります。

染料着色
染色着色とは、アルマイトの膜の多孔質層の孔部の内側に染料を入れることで、アルマイトに着色する方法です。カラーアルマイトと呼ばれています。

染料によってアルマイト膜を着色した後は、封孔処理を施します。これは端的に言うと、染料が入った穴にフタをする処理で、アルマイトの着色が剥がれないようにします。ただし、アルマイト膜自体が剥離した場合は、着色も剥がれることになるため注意が必要です。

電解着色、染料着色 (カラーアルマイト) のどちらの処理においても、着色の濃度は皮膜の厚さ、処理にかける時間や温度などの条件によって変わります。これは、穴の中に入る金属や染料の量が、条件によって変化するためです。量が多ければ多いほど、着く色は濃くなります。

参考文献
http://toeidenka.co.jp/alumite.html
http://toeidenka.co.jp/alumite.html#almt_chap01
http://toeidenka.co.jp/assets/doc/Q&A_160921.pdf

スイッチングACアダプター

スイッチングACアダプターとは

スイッチングACアダプター

スイッチングACアダプターとは、ACアダプターの現在の主流な方式であるスイッチング方式を採用した、交流(AC)電源から情報機器などへの直流 (DC) 電源へ変換するためのアダプターです。

スイッチング方式が登場する以前のリニア方式のACアダプターでは、電源を鉄芯 (トランス) を通して低電圧に変換、ダイオードで交流を整え、コンデンサーなどの回路を使って使用機器側に電気を流していました。一方で、スイッチングACアダプターの場合、リニア方式と異なり最初から交流の電気を高周波の直流に変換し、鉄芯 (トランス) を使いません。

スイッチングトランジスタにより高速で電圧変換を行い、使用機器側へ電気を流すことができるのがスイッチングACアダプターの特徴です。重く大きなトランスを用いないため、パーツは小型軽量化されており、高電源効率を実現しています。

スイッチングACアダプターの使用用途

スイッチングACアダプターは、主にPC向けの電源ケーブルに使用されています。その他、タブレットなどの情報通信用端末や、医療用機器、オーディオ機器なども用途の1つです。電源変換回路を本体機器から分離できるため、機器の使い方の可能性や収納性を高められます。

そして、スイッチングACアダプターは、トランスを使わずにスイッチのオン・オフを行うことができるので、小型化・軽量化が進んでいます。コンセント形状や電源・電圧が異なる海外でも変換器や変圧器を使えば、国内製品を使うことも可能です。

安全で高精度な機器動作を実現し、衝撃や振動に対する耐性も十分なので、昨今は幅広い電子機器に使用用途が広がっています。

スイッチングACアダプターの原理

スイッチングACアダプターは、パルス変調に代表される高効率なスイッチング方式を用いて、比較的高い周波数のパルス状態にて所望のDC電源に変換しています。トランジスタやMOSFETなどの半導体素子を使い、高速スイッチングを行って入ってきた交流電圧をパルス式に区切る仕組みです。

電流の波動をならすことにより、平坦にして直流電圧を取りますが、この際に周波数の異なる電力や信号を組み合わせることが可能になるので、トランスがなくても降圧することができます。ただし、回路が複雑になるため制御方法には注意が必要で、特に新たに発生するスイッチングノイズの回路的なケアは非常に重要です。

スイッチングACアダプターの制御方法はいくつかありますが、最も代表的なのは「PWN」(パルス幅変調) という方式です。パルス波の幅、つまりスイッチングオン・オフのオンの時間を調整して、各パルスの面積を同じにすることによって、電圧の安定化を図るというものです。スイッチングACアダプターでは電力をオン・オフにすることによって無駄なく出力ができるので、電源の変換効率が非常に高いことが特徴として挙げられます。

スイッチングACアダプターの場合、パルスの周波数自体が数10kHzから数100KHzと商用のACの周波数に比較して高い周波数を扱います。よって大きく重いトランスを使用せずに済むため、小型で軽量となっています。

スイッチングACアダプター選び方

現在市場には、数多くのスイッチングACアダプターが流通しています。使用するアダプタの選定を間違えると、電子機器などが使用できないばかりか、最悪の場合壊してしまう場合もあるため、選定時は以下の点を確認することが大切です。

1. 最大定格

使用したい電子機器に適した電圧 (V) 、使用できるだけの電流 (A) が流せるアダプターでなければなりません。一般的に、電子機器の入力端子の近くや定格銘板に記載されています。この時、電圧はちょうど同じ電圧を選定しますが、電流は同じもしくは少し高めのものを選定します。

2. プラグの形状や極性

多くの場合、プラグ部分はパイプ状の電極になっており、電子機器の入力端子の接点とそれぞれつながることで電力を供給します。外形・内径やその極性についてはある程度規格が決まっているため、適合するものを選定して使用します。

外形・内径を変換するプラグも市販されていますが、電気接点が増れるとその分電気抵抗が増えるので、接触不良などのリスクも内包しています。特に高い電圧・電流を扱う物には、なるべく使用しないのが望ましいです。

スイッチングACアダプターのその他情報

GaNを用いたスイッチング式ACアダプター

従来のリニア方式と比較して、高効率なパルススイッチング方式を用いているため、小型軽量なスイッチングACアダプターですが、PCやタブレット用の電源変換アダプターとしてはそれなりの重量と大きさがあります。そこで昨今、さらに小型軽量高効率な電源変換アダプターとして次世代デバイスであるGaN (窒化ガリウム) を用いたUSBタイプの電源アダプターが市場に登場しています。

GaNデバイスは従来のSi系デバイスと比較して、バンドギャップエネルギーや破壊耐圧が飛躍的に大きく、またSiC (シリコンカーバイド) と比較してもさらに高速動作が可能です。そのため、より高温、高周波数でのスイッチング動作に適しています。トランジスタの単位面積あたりのパワー密度をSi系デバイスと比較して大きく確保可能で、冷却機能を簡略化できるため、より小型軽量、高効率なスイッチングACアダプターになります。

このような背景のもと、GaNデバイスを採用したより小型な携帯用のUSBタイプのスイッチングACアダプターがメーカーから近年製品化されています。

 参考文献
https://www.jp.tdk.com/tech-mag/power/002
https://contents.zaikostore.com/semiconductor/4299/
https://techweb.rohm.co.jp/knowledge/acdc/s-acdc/01-s-acdc/13

たわみ軸継手

たわみ軸継手とは

たわみ軸継手

たわみ軸継手とは、たわみ性を持たせた軸継手です。

たわみ性を持たせることで軸芯のずれを許容し、軸受の摩耗や装置に伝わる振動などを低減できることが特徴です。軸継手はカップリングとも呼ばれ、モータなどの駆動軸と従動軸の間に設置し、動力を伝達します。

たわみ軸継手の使用用途

たわみ軸継手は接続しようとする2つの軸の軸線が一致させにくい場合や振動、衝撃を緩和させたい場合などに使用します。太さの異なる2軸を結合可能であり、駆動側の熱を従動側へ伝達するのを防止できます。

既存の駆動装置を別の従動機器に取り付けたい場合や駆動側の熱による従動側の変形を防ぎたい場合に使用されます。

たわみ軸継手の原理

たわみ軸継手は、ゴムやばねなどのたわみ性を持った素材を内蔵しています。これらによって振動や軸線のずれを吸収することでスムーズな動力伝達が可能です。通常は正確に固定しても温度変化や経年劣化で徐々にズレや振動、破損が発生します。

衝撃や振動の影響が大きい場合や長期的にスムーズな回転伝達が必要となる場合には、軸継手を使用することが多いです。部品の特性上、素材によって耐久性や耐荷重性が異なるため、使用用途や使用期間に合う軸継手を選定することが必要です。

たわみ軸継手の種類

たわみ軸継手は使用先のトルクや回転数などの仕様などに合わせて選定します。ゴム軸継手は振動や衝撃の緩和用途以外に電気的な絶縁を必要とする場合にも使用することもあります。

主要なたわみ軸継手の種類は以下の通りです。

たわみ軸継手のその他情報

1. たわみ軸継手芯出しの許容値

回転機の設置やメンテナンス時の復旧の際には必ず芯出し調整を行います。たわみ軸継手の面方向、周方向それぞれを求められる精度によって調整します。一般的なたわみ軸継手の芯出し許容値は5/100mm以下として芯出し調整を行う場合が多いです。

メーカー許容値は9/100mm以下程度ですが、例外としてカップリング毎に大きさが定められていることもあるため、メーカー許容値を確認して芯出し調整をします。芯出し調整はカップリング同士の面間、面方向のズレ、周方向のズレをそれぞれ調整することが必要です。

基本的には駆動側に調整用の金属板を入れてモーターの位置調整を行うことで補正します。

2. たわみ軸継手と固定軸継手の違い

軸継手にはたわみ軸継手の他に固定軸継手があります。たわみ軸継手がミスアライメントを吸収しながら動力を伝達するのに対し、固定軸継手は別名リジットカップリングリーマボルトと呼ばれ、しっかりと固定され動力を伝達します。取付位置の精度が高い必要があり、軸心の一致が必要となります。

取付自体はリーマボルトを閉め込むだけなので簡単です。一般的に使用頻度が高いものではフランジ型固定軸接手があります。たわみ軸継手にはカップリング同士を固定するボルトにゴムなどの衝撃吸収材を使用しますが、固定軸継手には吸収材はありません。

参考文献
https://www.nbk1560.com/resources/coupling/article/powertransmission-about/
https://em.ten-navi.com/dictionary/1395/

https://www.nbk1560.com/products/coupling/powertransmission/FCL/FCL-355/