fc200

FC200とは

FC200とは、ねずみ鋳鉄、または普通鋳鉄と呼ばれる鋳鉄の一種です。FC200の200という数字は、引張強さを示します。JIS規格においては、引張強さの異なるねずみ鋳鉄が6種類(FC100からFC350まで)定められており、FC200は、引っ張り強さが200 MPa以上のものを指しています。また、硬度は、223以下とされています。炭素鋼と比べると粘り気がなく脆い一方、耐熱性や耐摩耗性に優れるというのが特徴です。

FC200の使用用途

FC200は、ほかの鋳鉄や鉄鋼と比較すると強度が弱く脆いものの硬く、成形しやすい素材です。また、耐摩耗性に優れるため、軸受や歯車ブレーキディスク、マンホールの蓋などの耐摩耗部品に用いられております。

この他、比熱や熱伝導率も高いため、高温となりにくく、さらに振動を吸収する能力にも優れるため、工作機械のテーブル、防火扉、ディーゼルエンジン用のシリンダライナー、油圧ポンプの部品などにも使用されます。

関連する金属材料

塩酸グアニジン

塩酸グアニジンとは

塩酸グアニジン (英: Guanidine hydrochloride) とは、化学式CH6CIN3であらわされるグアニジンの塩酸塩です。

潮解性を有する白色粉末で、たん白質可溶化剤、合成繊維用の帯電防止剤、医薬品合成用試薬として使用されています。塩酸グアニジンの製造方法としては、ジシアンジアミドとアンモニウム塩酸塩から得る方法などが知られています。

塩酸グアニジンの使用用途

1. タンパク質可溶化剤

塩酸グアニジンの主な用途はタンパク質可溶化剤 (タンパク質変性剤) です。グアニジン塩酸塩はタンパク質の水素結合に影響して分子構造を不安定化させる、いわゆるカオトロピック剤としての働きを有しています。

この性質を利用し、生化学の分野においてDNA精製などの用途に広く使用されています。また、リボ核酸の分解酵素であるリボヌクレアーゼを失活させる働きがあることからRNAの抽出にも用いられます。

2. 帯電防止剤

塩酸グアニジンは、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維の帯電防止剤の成分です。

塩酸グアニジンと界面活性剤および陽イオン性高分子を組み合わせた外部用帯電防止剤を用いることで、合成繊維の性能を損なわずに表面を均一に保護することができます。

3. 合成用試薬

塩酸グアニジンは医薬品の合成試薬としても重要です。例えば、赤血球の生産を助けるビタミンの一種である葉酸の原料や、抗菌剤であるサルファ剤の合成原料として用いられています。

4. 医薬品

塩酸グアニジンは以前は、ランバート・イートン症候群という疾病による筋力低下などを改善する経口薬として用いられていました。しかし、消化器系への障害など副作用を有するため、現在では塩酸グアニジンは医薬品用途としてはほとんど使用されていません。

塩酸グアニジンの性質

化学式 CH6CIN3
日本語名 塩酸グアニジン
英語名 Guanidine hydrochloride
CAS番号 50-01-1
分子量 95.53 g/mol
融点/凝固点 182℃

 

塩酸グアニジンの別名は、塩化グアニジン、グアニジン塩酸塩、塩酸グアニジニウムです。略称としてGdmCl、GndCl、GuHClなどが使用されることがあります。厚生労働省による職場の安全データシートや日本国内の大手試薬メーカーのウェブサイトでは、主に「塩酸グアニジン」の名称が使用されています。

塩酸グアニジンは、水やアルコール類 (エタノールなど) に良く溶ける性質を持っています。空気中の水分にも溶解しやすいため、取り扱いには注意が必要です。

塩酸グアニジンのその他情報

1. 塩酸グアニジンの有害性

塩酸グアニジンの法規制について、労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法において、いずれも非該当となっています。しかし、塩酸グアニジンは、GHS分類において急性毒性、皮膚腐食性/刺激性、眼刺激性に区分されています。

2. 塩酸グアニジンの使用上の注意

塩酸グアニジンは、皮膚や眼に強い刺激を有します。そのため、塩酸グアニジンを使用する場合は、保護手袋、保護メガネ、保護衣を着用し眼と皮膚を保護することが推奨されています。

万が一、塩酸グアニジンが皮膚や眼に触れた場合は、十分に水で洗い流したのち、医師の診断・手当を受けてください。厚生労働省による職場の安全データシートでは、塩酸グアニジン使用時の設備対策について、作業場に洗顔器と安全シャワーを設置すること、防爆タイプの全体換気装置および局所排気装置を設置することが推奨されています。

塩酸グアニジンは室温で安定に保管できます。しかし、潮解性を有しており空気中の水分を吸着して溶解しやすい化合物であるため、容器を密閉して湿気の少ない場所で保管してください。

3. 輸送方法および廃棄処分方法

塩酸グアニジンを輸送する場合、移送者はイエローカードの保持が必要です。また、化学薬品であるため、食品や飼料とは一緒に輸送してはならないと定められています。塩酸グアニジンは環境中に放出してはならない化合物です。塩酸グアニジンを廃棄処分する場合は、各地方自治体の基準にしたがって安全に廃棄処分してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/50-01-1.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/safety/20/6/20_355/_pdf/-char/ja

ヘキシルアミン

ヘキシルアミンとは

ヘキシルアミンとは、化学式C6H15Nであらわされるモノアルキルアミンの1種です。

1-アミノヘキサンとも呼ばれます。ヘキシルアミンの製造方法としては、その他の一級アミンと同様に、間接法と呼ばれるハロアルカンからシアノ化を経由してアミンへ変換する手法が一般的です。

ヘキシルアミンの法規制では、消防法において危険物第4類第二石に、労働安全衛生法において危険物・引火性の物質に指定されています。

ヘキシルアミンの使用用途

ヘキシルアミンは、主に界面活性剤、農薬、腐食防止剤、ゴム、乳化剤、医薬品などの中間体として利用されています。また、ヘキシルアミンは香料としての用途も知られており、諸外国では従来より用いられてきました。

日本では食品添加物としての認可が得られておらず、使用されていませんでしたが、近年要請が受理されたことで使用可能となっています。その他、染料の原料も用途の1つです。

これはアゾ染料の原料としての利用であり、その他のアゾ染料と同様に、ジアゾ化カップリング反応を経てから合成されます。

ヘキシルアミンの性質

ヘキシルアミンは、アミン臭のある、無色〜わずかにうすい黄色の透明の液体です。CAS番号は、111-26-2で表わされます。pHは11.6、蒸気圧は0.87kPa/20°C、密度は0.77です。

融点−19℃、引火点27℃、沸点130℃、自然発火温度270℃、爆発下限界及び爆発上限界/可燃限界は、下限2.1%、上限9.3%です。水への溶解度は1.2g/100mLで、わずかに溶解します。

エーテルおよびエタノールに可溶です。通常の環境下において安定ですが、火花、裸火、静電気放電を避け、混触危険物質である酸化剤と酸との接触を避けます。

ヘキシルアミンのその他情報

1. 安全性

ヘキシルアミンはGHSの物理化学的危険性分類において、引火性液体 (区分3) に該当します。引火性液体および蒸気を発生させるため、取り扱い時は注意が必要です。

また、健康に対する有害性分類において、急性毒性・経口 (区分4) 、急性毒性・経皮 (区分3) 、皮膚腐食性/刺激性 (区分1A) 、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 (区分1) に該当します。

環境に対する有害性分類では、水生環境有害性長期 (区分3) に該当します。長期継続的な影響によって、水生生物に有害であるため、環境流出には特に注意が必要です。

2. 応急措置

飲み込んだ場合は直ちに口をすすぎ、無理に吐かせず速やかに医師に連絡します。皮膚等に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱ぎ、皮膚を石鹸および大量の流水、シャワーで洗い流します。

吸入した場合は、空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させ、眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗い流し、コンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外し、洗浄の継続が必要です。

いずれの場合も、応急措置が終わった後、直ちに医師への連絡を行います。診断時は、SDSなどを持参し情報提供を行います。

3. 取扱方法

作業場所は、密閉化した設備または局所排気装置を設置し、換気の良い場所で作業を行います。また、取扱い場所の近くに、洗眼および身体洗浄用の設備の設置が必要です。

引火性液体であることから、作業場所は静電気対策を行い、設備は防爆型のものを使用します。作業者は、防毒マスク、自給式呼吸器、送気マスク等を着用し、不浸透性の手袋、保護眼鏡 (ゴーグル型) 、状況に応じて保護面、不浸透性の保護衣、状況に応じて保護長靴を着用します。

4. 火災時の措置

消火時は、火災が拡大し危険な場合があることから水での消火を行ってはいけません。粉末、泡、二酸化炭素消火剤を使用して消火を行います。

消火作業は、風上から行い、周囲の状況に応じた適切な消火方法を用います。燃焼や高温により分解し、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素酸化物などの有毒なヒュームを発生する恐れがあるため、消火を行う者は、必ず保護具を着用が必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0332JGHEJP.pdf

アリルラジカル

アリルラジカルとは

アリルラジカルとはC3H5の化学式であらわされる有機化合物であり、共鳴によって化合物内の3つの炭素にラジカルが非局在化することから高い安定性を有することで知られています。本来は単一の化合物を示す名称ですが、化合物そのものではなく、アリル位の炭素にラジカルを有する化合物の総称として用いられることが一般的です。

通常のラジカルと比較して安定ではあるものの、単離されることはなく、反応中間体としてのみ存在します。そのためGHS分類や法規制について、アリルラジカルそのものについての定めはないため、出発物質にあたるアリル化合物、およびその反応生成物について確認が必要です。

アリルラジカルの使用用途

アリルラジカルの使用用途としては、安定な反応中間体としての使用が挙げられます。炭素原子上にラジカルを持つ化合物はさまざまな反応の中間体として存在しますが、その中でもアリルラジカルはベンジルラジカルと同様に安定な中間体であることから、反応の進行が促進されます。

具体的には二重結合への臭素付加反応としてよく知られるウォール・チーグラー反応における中間体として存在し、臭素の付加位置選択性に影響を与えることで知られています。

アリルカチオン

アリルカチオンとは

アリルカチオンとはC3H5の化学式であらわされる有機化合物であり、共鳴によって化合物内の3つの炭素に正電荷が非局在化することで高い安定性を有することで知られています。本来は単一の化合物を示す名称ですが、化合物そのものではなくアリル位の炭素に正電荷を有するカルボカチオンの総称として用いられることもあります。

いずれの場合においてもアリルカチオンはその他のカルボカチオンと比較して安定化されたカチオンではありますが、通常単離されることはなく、反応中間体として存在します。そのためGHS分類や法規制について、アリルカチオンそのものについての定めはないため、出発物質にあたるアリル化合物、およびその反応生成物について確認が必要です。

アリルカチオンの使用用途

アリルカチオンの使用用途としては、安定な反応中間体としての使用が挙げられます。炭素原子上に正電荷を持つカルボカチオンはさまざまな反応の中間体として存在しますが、その中でもアリルカチオンは安定な中間体であることから、反応の進行が促進されます。具体的にはアリル化合物に対するハロゲン化水素の付加反応などで中間体として存在し、その付加位置選択性に影響を与えることで知られています。

またアリルカチオンは重合性を有することから、アリルカチオンそのものをモノマーとして用いたアリルカチオン性ポリマーの開発も進められており、これもアリルカチオン自体の安定性を利用した使用用途ということができます。

アミノシラン

アミノシランとは

アミノシランとは、アミノ基を有するケイ素化合物一般を指す総称です。

アミノ基とは、一般式-NH2、-NHR、-NRR’で表される官能基です。特に官能基にアミノ基を持つシランカップリング剤の総称 (アミノシランカップリング剤) を指すケースが多くあります。

アミノシランの使用用途

アミノシランに分類される化合物群は、主に半導体製造やシランカップリング剤などにおける用途があります。

1. 半導体製造

半導体製造に使用される主なアミノシランの構造

図1. 半導体製造に使用される主なアミノシランの構造

アミノシランは、半導体製造において、化学気相成長 (CVD) を利用した酸化ケイ素膜の成膜に用いられる物質です。具体的な物質の例としてトリスジメチルアミノシラン (3DMAS) 、ジイソプロピルアミノシランや、ビス (tert -ブチルアミノ)シラン (BTBAS) などが挙げられます。

2. アミノシランカップリング剤

シランカップリング剤に用いられる主なアミノシランの構造

図2. シランカップリング剤に用いられる主なアミノシランの構造

アミノシランカップリング剤の主な用途は、ガラス繊維の表面処理剤、樹脂改質剤、密着助剤などです。特に、ガラス繊維の表面処理では、ガラス繊維と樹脂を化学結合させることで、機械的強度や耐熱性、耐水性、電気特性などを向上させる硬化があります。

具体的な物質の例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシランやN-ベンジルトリメチルシリルアミンなどが挙げられます。

3. その他

半導体やカップリング剤以外のアミノシランの用途では、塗料や接着剤、コーティング剤への添加剤やプライマなどが挙げられます。フェノール樹脂バインダーへの添加剤として用いられたり、鋳物用樹脂であるフェノール樹脂、フラン樹脂およびメラミン樹脂への添加剤としても有用です。

合成化学の分野において、他の有機ケイ素化合物同様に合成材料に用いられることもあります。

アミノシランの性質

3-アミノプロピルトリエトキシシランの構造

図3. 3-アミノプロピルトリエトキシシランの構造

アミノシランの代表的な物質である3-アミノプロピルトリエトキシシラン (英: 3-Aminopropyltriethoxysilane、CAS登録番号: 919-30-2) は、分子量221.372、融点-70℃、沸点119℃であり、常温での外観は液体です。

密度は0.964g/mL、引火点は96℃です。水、エタノール及びアセトンに溶解します。

アミノシランの種類

アミノシランの化合物群は、主に研究開発用試薬製品やシランカップリング剤などとして販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、代表的な物質である3-アミノプロピルトリエトキシシランやN-ベンジルトリメチルシリルアミンをはじめ、多くの物質が販売されています。実験室で取り扱いやすい容量で提供されていますが、物質によって100gや500gなどの比較的大きな容量で販売されているものから、1gや5gなどの小容量で販売されているものまで、さまざまです。通常、暗所保存とされています。

2. シランカップリング剤

アミノシランは、工業向けシランカップリング剤として多くの製品が販売されています。荷姿・容量の種類は、1kg、5kg、16kg、180kg、190kg、950kgなど、さまざまなものがあります。代表的な物質は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(N-フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランなどです。

アミノシランのその他情報

3-アミノプロピルトリエトキシシランの有害性情報

アミノシランの代表的な物質である3-アミノプロピルトリエトキシシランは人体への有害性が指摘されている物質です。GHS分類では下記のように分類されています。

  • 急性毒性 (経口) : 区分4
  • 皮膚腐食性・刺激性: 区分1
  • 眼に対する重篤な損傷・眼刺激性: 区分1
  • 皮膚感作性: 区分1
  • 特定標的臓器・全身毒性 (単回ばく露) :  区分3 (気道刺激性、麻酔作用)
  • 特定標的臓器・全身毒性 (反復ばく露) : 区分2 (呼吸器)

取り扱いの際は、適切な局所排気装置や全体換気を設置し、保護衣や保護メガネなどの個人用保護具を使用することが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/919-30-2.html

高速度工具鋼

高速度工具鋼とは

高速度工具鋼

高速度工具鋼とは、金属加工で使用する切削工具の材質の一つです。

より高速での金属材料の切削を可能にする工具の材料とするために開発されました。高速度工具鋼は、高炭素鋼に合金元素を含有した鋼です。英語でhigh-speed steel (ハイスピードスチール) と呼ばれるため、略して「ハイス」と言うこともあります。

基本的にはほとんどの工作物材質に対して使用できますが、約600℃以上の高温下になると鋼の硬さが急激に低下するため、切削点の温度は600℃以下である必要があります。

高速度工具鋼の使用用途

高速度工具鋼は、その名の通り高速度切削のために開発された材料です。切断用工具や刃物等によく使用されています。開発時においては「高速」で「切削加工」ができるものでありましたが、現在では超硬合金を用いた「超硬工具」の方が高速切削加工が行えます。

そのため、高速度工具鋼は高速での切削が可能です。その他にも耐摩耗性および硬度に優れるといった点を利用し、切削用工具以外に冷間加工用工具にも用いられるほか、工具以外では塑性加工用金型などにも使用されます。

高速度工具鋼の性質

高速度工具鋼は鋼の中では最も硬度が高い種類ですが、超硬合金よりも柔らかく靭性があるため加工時の衝撃に強い性質があります。そのため工具の割れや欠け、折損といった不具合が発生しにくいメリットがあり、チッピングの耐性を求めたり、コストを抑えたい場合には高速度工具鋼の方が優れています。

一方、約600℃以上の高温では急激に硬度が低下してしまう性質から加工時の熱に弱いデメリットがあります。そのため切削速度を抑えてクーラントを適切に使用するなど、工具に熱が加わらないように配慮する必要があります。

切削速度や耐摩耗性、耐熱性に優れている超硬工具と比べると高速度工具鋼はデメリットが多く、特に加工効率がコストに直結する量産品の加工では同じ時間でも超硬工具を使用したほうがより多くの部品を加工することができます。結果、超硬工具は一つの値段が高くてもその分、寿命が長くて速く加工ができるためコスト面でも超硬工具が優れているケースも多いです。

高速度工具鋼の種類

高速度工具鋼は、大きく分けてタングステン系 (W系) とモリブデン系 (Mo系) の2種類に分けられます。

1. タングステン系

タングステン系高速度鋼は、高炭素鋼にタングステンなどを添加した鋼です。18%のタングステンを添加したものが基本であり、18-4-1型とも呼ばれます。18がタングステン、4がクロム (Cr) 、1がバナジウム (V) を示しています。主に旋盤のバイトなどに使われています。

2. モリブデン系

モリブデン系高速度鋼は、タングステン系の廉価版として開発されました。モリブデンが約5%、タングステンが約6%添加されています。タングステン系に比べ、硬さと粘性に優れ、衝撃に強いため、衝撃のかかるドリルなどに使用されています。

タングステン系とモリブデン系ともにコバルトを添加することで、添加しないものに比べて耐摩耗性を高めることができ、より摩耗性の強いものを求める際に選ばれます。

高速度工具鋼のその他情報

高速度工具鋼の硬さ

高速度工具鋼は、ビッカース硬さ722HVです。一般的な鋼材でよく使われている炭素鋼のS45Cが201-269HVなので鋼のなかでも非常に硬度が高いことがわかります。

超硬合金は1700-2050HVと高速度工具鋼の約3倍の硬度を誇っているので、切削加工において最も使用頻度が高い工具といえますが、試作品や1点ものの加工など加工時間をそれほど追求しない場面においてはかえって寿命を持て余し、コストパフォーマンスが悪いです。そのため1つの価格が安く、研削機で再研磨しやすい高速度工具鋼は超硬工具に次いで加工現場で重宝されています。

高力黄銅

高力黄銅とは

高力黄銅とは、六四黄銅にマンガン、アルミ、鉄を添加することで硬度や耐摩耗性を向上させた黄銅合金の一種です。

銅と亜鉛の合金でできており、機械加工性が優れている材料です。また、磁気特性が非常に低く電気伝導率が高いため、電子部品やコネクタ、配線端子などにも使用されています。自己潤滑性があり加工時に熱が発生しにくいため、加工性が良好です。また、塩水中での耐食性が高く熱にも強いため、海洋環境や高温環境でも使用されます。

高力黄銅の使用用途

1. 電気機器部品

電子部品、コネクタ、配線端子などが挙げられます。

2. 船舶、海洋設備、油田設備、高温環境の部品

  • 船舶の部品: プロペラ、クランプ、ジョイントなどの部品
  • 海洋設備の部品: バルブ、配管などの部品
  • 油田設備の部品: ポンプ、フランジなどの部品
  • 高温環境の部品: 燃焼室、エンジン、タービンなどの熱処理装置、熱交換器、歯車などが挙げられます。

3. 交通機器部品

自動車部品、バイク部品、自転車部品などが挙げられます。

4. 楽器部品

楽器、ピストン、バルブなどが挙げられます。

5. 食品関連部品

食品加工機器、調理器具、食器などが挙げられます。

6. 医療関連部品

医療機器、歯科用具、医療器具などが挙げられます。

7. アクセサリー部品

宝飾品、時計、眼鏡などが挙げられます。

8. 電気部品

電気抵抗器、スイッチなどが挙げられます。

高力黄銅の種類

JIS H 3250では,以下の2種類の高力黄銅棒が規定されています。製造方法によってC6782はさらに3種類、C6783はさらに2種類の合計5種類に分類されています。

種類 記号
合金番号 製法
C6782 押出 C6782BE
引抜 C6782BD
鍛造 C6782BF
C6783 押出 C6783BE
引抜 C6783BD

JIS H 5120では,以下の二種類の高力黄銅品鋳物が規定されています。

種類 記号
高力黄銅鋳物1種 CAC301
高力黄銅鋳物2種 CAC302
高力黄銅鋳物3種 CAC303
高力黄銅鋳物4種 CAC304

高力黄銅の性質

1. 耐摩耗性

高力黄銅は銅と亜鉛の合金でできており、亜鉛の添加によって硬度が向上しています。また、亜鉛と銅の結晶構造が違うため、合金の結晶構造が細かくなり、強度が高くなる傾向があります。高力黄銅が耐摩耗性に優れている理由は、亜鉛が銅よりも硬く、摩擦による磨耗を抑える効果があるためです。

2. 耐腐食性

高力黄銅は、亜鉛の添加により銅単体よりも耐腐食性が高まります。また、亜鉛は酸化物の形成を促進する効果があるため、亜鉛を含むことで錆びにくくなります。

3. 熱伝導率

高力黄銅は銅の熱伝導率が非常に高いため、熱が均等に伝わります。また、亜鉛の添加により耐熱性が向上します。そのため高温での使用に適した材料です。

4. 見た目

高力黄銅は金属色が美しく、見た目が高級感があるためインテリアやアクセサリーなどのデザイン品にも使用されます。

5. 電気伝導率

銅は非常に優れた電気伝導率を持っており、高力黄銅には、さらに亜鉛の添加により電気伝導率が向上した材料です。よって高力黄銅は、電気部品や接点部品に広く使用されています。

6. 非磁性

高力黄銅は非磁性体です。理由は、高力黄銅の結晶構造に亜鉛が影響を与えるためです。銅と亜鉛は、原子構造が異なるため、合金化すると結晶構造が複雑になり、磁場を作れないため、高力黄銅は非磁性体となります。

また、高力黄銅は非磁性体であるため、磁気ノイズや磁気干渉の影響を受けず、電子機器などの電磁環境に影響を与えません。そのため電子部品や機械部品など、高精度な製品に使用されることがあります。

高力黄銅のその他情報

使用上の注意

高力黄銅は、一般的に耐腐食性に優れた材料として知られています。亜鉛の添加によって銅単体よりも耐腐食性が高まり、亜鉛は酸化物の形成を促進する効果があるため、高力黄銅の表面には酸化膜が形成され、内部まで腐食が進行するのを防ぎます。よって、高力黄銅は、一般的には耐腐食性に優れている材料です。

しかし、特に酸性やアルカリ性の強い環境や長時間の使用によっては、高力黄銅の表面に腐食が生じる場合があります。そのため、使用環境や使用方法に応じた注意が必要です。また、低温下で脆性を示すことがあります。

高力黄銅は、亜鉛の添加により結晶構造が細かくなり強度が向上しますが、低温下で結晶の変化が生じると結晶粒が粗大化し、強度が低下して脆性が増すことがあります。また、高力黄銅に含まれる亜鉛が低温下で析出すると結晶構造に変化が生じ、脆性が増すこともあります。そのため低温環境での高力黄銅の使用には十分な注意が必要です。

高マンガン鋼

高マンガン鋼とは

高マンガン鋼とは、鋼材マンガンを10~11%以上含んだ、鉱山機械や工作機械に使われる特殊鋼です。

一般の鋼材に含まれるマンガンの量は2%以下程度であるため、非常にマンガンを多く含んだ鋼材です。発明者にちなんで、ハッドフィールド鋼とも呼ばれます。ハイマン、ハイマンガン鋼と称呼されることもあります。

高マンガン鋼は、水靭処理を行って製作をします。水じん処理とは、1,000℃~1,100℃前後に加熱後、急冷する方法で、靭性を向上することができます。これにより鋼材内部にある炭化物を固溶することで、完全オーステナイトの組織にします。焼入れと似ている操作ですが、硬度を上げるのではなく、粘り強さを示す靭性が向上する手法です。

高マンガン鋼の使用用途

高マンガン鋼は耐摩耗性と靭性があり、切削性がなく主に鋳造に利用されるため、用途としては、比較的サイズが大きくで精密さを要しないものに使われています。また、磁性がないため、精密機械やリニアモーターカーに関する部品の利用に適しています。

使用例を挙げると、インパクトクラッシャー用ライナーや粉砕ミル用のミルライナー、チャージングシャフト、カッターバー、ローラーミル用のブルリング、鉄道レールの分岐 (クロッシング) 、ライナー、バケットツースなどの材料です。衝撃が加わって摩耗する部分に用いるには最適な材料ですが、加工硬化が激しく加工が難しいのがデメリットと言えます。

高マンガン鋼の原理

フェライトとオーステナイトの違い

図1. フェライトとオーステナイトの違い

炭素鋼は、1,000℃程度の高温になると面心立法格子であるオーステナイト相が安定相ですが、そこから冷却するとフェライト相へ結晶構造が変化します。これを変態と呼びますが、炭素鋼に特定の金属を一定以上添加すると、変態現象が起こらなくなります。

靭性低下の原因となる炭化物を溶解して、再生成する前に水冷する水靭処理により、靭性を向上させることが可能です。一般的な炭素鋼で水靭処理をすると焼入れ効果が起こり、マルテンサイトが生成し硬く、脆くなりますが、先述したように高マンガン鋼はオーステナイト相を保つため、水靭処理をしても脆くなりません。

高マンガン鋼_水靱処理

図2. 水靱処理

焼入れが入らないので、炭素量が多いグレードほど炭素が多く固溶し、硬度を上げる効果をもたらしています。一般の炭素鋼の炭素含有率は0.3%程度ですが、高マンガン鋼は1%程度炭素を含んでいます。

高マンガン鋼の特徴

1. 加工硬化が強い

高マンガン鋼の強い加工硬化

図3. 高マンガン鋼の強い加工硬化

高マンガン鋼は、荷重を受けるほどに表面が硬くなり、耐摩耗性も向上していきます。高マンガン鋼の引張試験を行うと、変形した部分がどんどん加工硬化するため、変形していない部分が優先的に変形していきます。このため、伸び性能が非常に優れています。

衝撃を与えると硬くなったり、耐摩耗性が高かったりするのは、この加工硬化しやすさに起因します。加工硬化により、初期状態の数倍硬くなることもあります。小さな衝撃が断続的に加わる場面よりも、鉱山における採掘のような、大きな衝撃が加わる場面において強みを発揮する鋼材です。

2. 磁性がない

鋼材ですが、磁性がありません。これはオーステナイト系ステンレスと同様に、オーステナイト相を保っているためです。

オーステナイト系ステンレスは加工によりわずかに磁性を持つことがありますが、高マンガン鋼は基本的に非磁性です。マグネットによるハンドリングが行えない点に注意が必要です。

高マンガン鋼その他情報

マンガン鋼の種類

高マンガン鋼のほかに、比較的少量 (1~数%) のマンガンを加えたマンガン鋼 (低マンガン鋼) があります。この材料は靭性の強化や焼入れ性の向上したものであり、オーステナイト相を利用する高マンガン鋼とは性質が異なります。

機械的性質や加工性が異なるので、用途に合ったマンガン鋼を選択することが大切です。

音響パワーレベル

音響パワーレベルとは

音響パワーレベルとは、音が単位時間に発生するエネルギーの総音響出力に対して、基準となる音響出力10の-12乗との比を常用対数に換算して10を掛けたものです。

単位はdBで、音圧レベルでも同じ単位を使用しますが、音圧レベルは定義が異なります。音圧レベルは測定した音圧に対して、基準となる2×10の-5乗との比を常用対数に換算して20を掛けたものです。音響パワーレベルは発生源の測定値を指しますが、音圧パワーレベルは測定点における音の強さを表します。

音響パワーレベルの使用用途

音響パワーレベルは測定環境や場所に依存しないため、条件を指定することなく、製品仕様の記載、騒音規制値の表示に使うことができます。音響パワーレベルが把握できれば、そこから距離減衰による音圧パワーレベルを計算することができます。

1970年から汎用的な音響パワーレベルの測定方法について、アメリカ、ドイツ、フランスを中心にISO規格が作成されました。日本では、1980年代後半から、ISO規格に準じた音響パワーレベル測定のJISが制定されてきました。まず、空調機器、建設機械、複写機で音響パワーレベルの測定が普及されました。

音響パワーレベルの原理

音響パワーレベルの測定方法として、音場によって以下の種類があります。

1. 実用半自由音場法 (A法)

半自由音場と見なせる、響きの少ない大きな室や屋外などに適用しており、JISZ8731で規定されている精密法に従った精度で測定しています。ISO3744に対応しています。

2. 簡易半自由音場法 (B法) 

A法よりも狭い通常の室などを想定しており、反射音の影響があって、半自由音場法の原理に従って測定点が配置できる場所で、簡易的に音響パワーレベルの概略値を測定する方法です。ISO3746に対応しています。

3. 簡易拡散音場法 (C法) 

ある程度以上の残響がある状況を想定し、壁・床・天井などの境界面が特定できる室内で、音響パワーレベルを拡散音場法の原理に従って簡易的に測定する方法です。直接対応しているISO規格は存在していません。C法は、ビルや工場の機械室・一般の室、工場試験室などでの測定に広く適用できるよう、加えられた方法です。

それぞれの方法で、オクターブバンド音響パワーレベルとA特性音響パワーレベルを測定することができます。A法のみ、これらの他に1/3オクターブバンド音響パワーレベルと指向指数及び指向係数も測定することができます。