高マンガン鋼とは
高マンガン鋼とは、鋼材にマンガンを10~11%以上含んだ、鉱山機械や工作機械に使われる特殊鋼です。
一般の鋼材に含まれるマンガンの量は2%以下程度であるため、非常にマンガンを多く含んだ鋼材です。発明者にちなんで、ハッドフィールド鋼とも呼ばれます。ハイマン、ハイマンガン鋼と称呼されることもあります。
高マンガン鋼は、水靭処理を行って製作をします。水じん処理とは、1,000℃~1,100℃前後に加熱後、急冷する方法で、靭性を向上することができます。これにより鋼材内部にある炭化物を固溶することで、完全オーステナイトの組織にします。焼入れと似ている操作ですが、硬度を上げるのではなく、粘り強さを示す靭性が向上する手法です。
高マンガン鋼の使用用途
高マンガン鋼は耐摩耗性と靭性があり、切削性がなく主に鋳造に利用されるため、用途としては、比較的サイズが大きくで精密さを要しないものに使われています。また、磁性がないため、精密機械やリニアモーターカーに関する部品の利用に適しています。
使用例を挙げると、インパクトクラッシャー用ライナーや粉砕ミル用のミルライナー、チャージングシャフト、カッターバー、ローラーミル用のブルリング、鉄道レールの分岐 (クロッシング) 、ライナー、バケットツースなどの材料です。衝撃が加わって摩耗する部分に用いるには最適な材料ですが、加工硬化が激しく加工が難しいのがデメリットと言えます。
高マンガン鋼の原理
図1. フェライトとオーステナイトの違い
炭素鋼は、1,000℃程度の高温になると面心立法格子であるオーステナイト相が安定相ですが、そこから冷却するとフェライト相へ結晶構造が変化します。これを変態と呼びますが、炭素鋼に特定の金属を一定以上添加すると、変態現象が起こらなくなります。
靭性低下の原因となる炭化物を溶解して、再生成する前に水冷する水靭処理により、靭性を向上させることが可能です。一般的な炭素鋼で水靭処理をすると焼入れ効果が起こり、マルテンサイトが生成し硬く、脆くなりますが、先述したように高マンガン鋼はオーステナイト相を保つため、水靭処理をしても脆くなりません。
図2. 水靱処理
焼入れが入らないので、炭素量が多いグレードほど炭素が多く固溶し、硬度を上げる効果をもたらしています。一般の炭素鋼の炭素含有率は0.3%程度ですが、高マンガン鋼は1%程度炭素を含んでいます。
高マンガン鋼の特徴
1. 加工硬化が強い
図3. 高マンガン鋼の強い加工硬化
高マンガン鋼は、荷重を受けるほどに表面が硬くなり、耐摩耗性も向上していきます。高マンガン鋼の引張試験を行うと、変形した部分がどんどん加工硬化するため、変形していない部分が優先的に変形していきます。このため、伸び性能が非常に優れています。
衝撃を与えると硬くなったり、耐摩耗性が高かったりするのは、この加工硬化しやすさに起因します。加工硬化により、初期状態の数倍硬くなることもあります。小さな衝撃が断続的に加わる場面よりも、鉱山における採掘のような、大きな衝撃が加わる場面において強みを発揮する鋼材です。
2. 磁性がない
鋼材ですが、磁性がありません。これはオーステナイト系ステンレスと同様に、オーステナイト相を保っているためです。
オーステナイト系ステンレスは加工によりわずかに磁性を持つことがありますが、高マンガン鋼は基本的に非磁性です。マグネットによるハンドリングが行えない点に注意が必要です。
高マンガン鋼その他情報
マンガン鋼の種類
高マンガン鋼のほかに、比較的少量 (1~数%) のマンガンを加えたマンガン鋼 (低マンガン鋼) があります。この材料は靭性の強化や焼入れ性の向上したものであり、オーステナイト相を利用する高マンガン鋼とは性質が異なります。
機械的性質や加工性が異なるので、用途に合ったマンガン鋼を選択することが大切です。