ネーバル黄銅

ネーバル黄銅とは

ネーバル黄銅とは六四黄銅(銅60%、亜鉛40%の銅合金)に1%程度の微量の錫を添加した特殊黄銅の一種であり、JISの材料記号ではC4621であらわされます。耐海水性が高いことから海軍黄銅とも呼ばれ、主に船舶や化学工業用途に用いられます。

同様に錫を添加した特殊黄銅としては七三黄銅に錫やヒ素を添加したアドミラルティ黄銅などが知られていますが、アルミニウムを添加したアルミニウム黄銅(アルブラック)と比較して、耐潰食性に劣ることから、日本国内での使用は限定的です。

ネーバル黄銅の使用用途

ネーバル黄銅の使用用途としては、その高い海水耐性を利用した船舶用途が挙げられます。また通常の耐食性にも優れていることから、このほかにも化学工業などの器具に加え、ボルトやナット、バルブステム、コンデンサープレートなどのさまざまな用途に使用されています。

また関連する合金として、ネーバル黄銅に鉛とマンガンをそれぞれ1%弱添加した銅合金は打ち抜き性や耐疲労性に優れており、楽器弁用黄銅(JIS:C6711)と呼ばれます。この合金はその名の通りオルガンなどの楽器弁に広く用いられています。

ネーバル黄銅の特徴

ネーバル黄銅の特徴はその耐食性の高さにあります。通常の黄銅も比較的耐食性に優れた合金といわれますが、脱亜鉛腐食と呼ばれる脱成分腐食の発生が知られています。この脱亜鉛腐食は合金中の亜鉛成分が優先的に溶解することで、銅成分が偏って残存してしまい、腐食が進みやすくなる現象です。亜鉛成分の含有比が低い場合には問題となりませんが、通常の黄銅合金は30~40%程度の亜鉛を含むためこの腐食が無視できず、腐食条件下での信頼性に問題があるといわれていました。

ネーバル黄銅は錫を添加することにより、この脱亜鉛腐食の抑制が図られており、淡水・海水いずれに対しても優れた耐腐食性を有しています。また錫の添加により硬度・強度は増加する反面、伸び性は低下していると言われます。

このように特に耐海水性に優れたネーバル黄銅ですが、近年ではアルミニウムを黄銅に添加した合金であるアルミニウム黄銅(アルブラック)、ニッケルを含む銅合金であるキュプロニッケルなど、より高い耐腐食性を有する合金の使用が増加しており、特に船舶や伝熱管などでのネーバル黄銅の使用頻度は低下していると言われています。

トロイダルコイル

トロイダルコイルとは

トロイダルコイル

トロイダルコイル (英: toroidal coil) とは、円環状の磁性体コアに電線を巻いて作られたコイルです。

円環という閉じた磁性回路を形成することで、通常のコイルとは異なる特性があります。円柱状に電線を巻いた通常のコイルは、誘起される磁力線がコイル内を通り外部へ放射されることから、周囲の物質に影響を及ぼす可能性が出てきます。

トロイダルコイルは、内部の磁性体コアの影響で磁力線が閉塞していることで、周囲への影響を最小限に抑えることが可能です。

トロイダルコイルの使用用途

トロイダルコイルは、漏れ磁束が少ない閉磁路構造の特性を活かす用途で使われます。電源回路内のチョークコイル、高周波回路内の高調波除去用やインダクタとコンデンサ構成によるフィルタなど、エレクトロニクス分野で幅広く活用されます。中でも車載向けや電源装置の昇圧およびAC平滑用途向け、医療機器や産業用FA機器向けなどの使用用途が多いです。

また、核融合装置や超電導磁石あるいは荷電粒子加速器用などの大型装置のコイルとしても使われます。電動機用のステータ側コイルなどにも利用されます。

トロイダルコイルの種類

トロイダルコイルの種類ですが、コアの形状には様々な形があります。コイルの内部に使われるコア材料で代表的なものをあげます。

1. フェライトコア

マンガン系とニッケル系が代表的な材料のコアです。マンガン (Mn) 系は透磁率が高いですが、適用周波数は低いです。ニッケル (Ni) 系は逆にマンガン系と比較して透磁率は低いですが適用周波数は高いので、適用アプリケーションで所望の材料を選択します。

2. ダストコア

鉄系の材料のコアです。具体的には、FeSiケイ素鋼板鉄心、ナノ結晶合金鉄心、FeSi系合金鉄心、Fe(CO)5カーボニル鉄心などです。コストは低いですが、周波数特性はフェライトに劣ります。

3. アモルファスコア

商用のトランス用途で良く使われています。損失が少なく透磁率が高いという特徴を有しています。

トロイダルコイルの原理

電線を巻いたコイルは、電流が流れると電線と直角方向に磁束が発生します。トロイダルコイルは、ドーナツ状の円環コアに銅線を巻いたものです。コアが円環であるため、磁力線が内部にとどまり、外部へはほとんど出ません。多数回銅線を巻けば磁束が重なり合い、強力な磁界が得られます。

トロイダルコイルは、ドーナツ状の磁性体に巻いたコイルに電流を流して発生した磁力線を閉じ込めることが可能で、コンパクト化、高磁性化を可能にし、外部への磁力線の漏れを防止します。発生する磁束が外部に漏れにくいため、コイル効率が非常に優れ、磁束がほかの素子などに影響を与えにくい長所があります。電源チョークコイル向けのトロイダルコイルに使用されるコアは、鉄系の鋼板が良く使われます。漏れ磁束が少なくインダクダンスが安定しています。

トロイダルコイルは、空芯コイルより大きなインダクタンスを得られるインダクタで、流す電流の周波数が高くなるほど効果も大きくなることから、高調波の除去などに使うことができます。また、トロイダルコイルの磁性体にもう1つコイルを追加すれば、高周波トランスになります。

トロイダルコイルのその他情報

トロイダルコイルには、AC平滑や電源のチョークコイルの役割の他に、以下のような役割があります。

1. 相互誘導作用

相互誘導作用は、コイルを2個近づけると、一方の電力を他方のコイルに誘導することです。この原理を利用して、トロイダルコイルが電源トランスに使用されます。

電源トランスは、1次側のコイルの巻き数と2次側のコイルの巻き数の比により、出力電圧を変えます。2次側コイルに中間タップを設ければ、複数の電圧を得ることが可能です。

2. 電磁石作用

コイルの電磁石を利用するのが、回路の開閉を行うリレーです。また、発電機、電動機、ベル、ブザーなどにも応用されます。

ティンフリースチール

ティンフリースチールとは

ティンフリースチールとは、錫を使用しない表面処理鋼板のことです。

JIS (日本産業規格) G3315で規定された材料であり、電解クロム酸処理金属クロムクロム水和酸化物のめっきが形成された炭素鋼板す。めっきの形成により、一般的な鋼板より腐食に強くなっています。

ティンフリースチールは腐食しにくいだけでなく、錫めっき鋼板と比べて環境負荷が低く、リサイクルも容易です。錫めっき鋼板と比較して低価格であるため、飲料缶や電子部品など多くの用途で活用されています。

ティンフリースチールの使用用途

ティンフリースチールは耐食性や機械的強度に優れていることから、使用用途が多岐にわたっています。

1. 缶詰

食品や飲料用の缶詰は、主要用途の1つですティンフリースチールは耐食性が高く、長い間使用してもほとんど錆が発生しません。酸素や湿気などから食品を保護できるため、食品・飲料水の品質劣化を防げます。

2. 電子部品

薄いシート状にされたものが、パソコンケースや電子機器の筐体などで使用されています。腐食しにくい特性に加え、強度や加工性が良好であることが採用理由です。

3. 建築材料

屋根材、壁材、サイディング材、屋根排水管などの建築材料として使用されることもあります。適用される理由は、強度と耐久性、外観の美しさのためです。

4. 車両部品

ティンフリースチールは、自動車の外装パネルやドアなどの車両部品の材料としても使用されています。

5. 家庭用品

調理器具、食器、玩具、ゴミ箱、洗濯機、乾燥機などの家庭用品も用途の1つです。

ティンフリースチールの性質

ティンフリースチールは、以下に示す様々な性質を持っています。

1. 耐食性

ティンフリースチールは、化学的に安定なクロム水和酸化物層で表面が覆われており、耐食性が高いことが特長です表面のクロム水和酸化物層が、基材 (鉄) の腐食を防ぎます。

2. 塗料の密着性

塗料の密着性が高いことも、ティンフリースチールの性質です。クロム水和酸化物層は均一に形成されており、塗料均等に塗布できるため、密着性が向上します。化学的に安定な層であり、塗料との反応性が低いことも密着性が良好な理由です。

3. 機械的強度・加工性

ティンフリースチールは冷間圧延コイルで製造されており、金属組織が微細であるため強度が高く、加工性が良いです。容易に形状を変えられるので、自動車部品や建材など幅広い用途に使用されます。

4. 環境負荷が低い

ティンフリースチールは錫を使用しないため、鉛やカドミウムといった有害物質を含まず、環境負荷が低いことが特徴です。材質の主成分は鉄であり、鉄として再利用できます

5. 耐熱性

耐熱性が高いことも特長の1つです。表面に形成されるクロム水和酸化物層は、高温下でも化学的に安定です。耐熱性に優れていることから、オーブンやレンジなどの高温環境で使用される食品容器などにも使われています。

6. 耐摩耗性

クロム水和酸化物層は非常に硬く、耐摩耗性に優れていることが特長です。ティンフリースチールは摩耗により損傷・破損しにくい材料であるため、自動車部品や建材など摩擦や摩耗が激しい環境でも長期間使用できます。

7. 耐硫化黒変性

硫化黒変に対して良好な耐性を持つことも特長の1つです。硫化黒変とは、食品や飲料水などが加熱滅菌されたときに発生する硫黄と、食品缶の鉄が反応して硫化鉄ができ、変色する現象です。ティンフリースチールは、クロム水和酸化物層が硫黄と鉄との反応を防ぐ役割を果たし、硫化黒変から保護します。ただし、使用環境や条件によっては、硫化黒変が発生する可能性がありますので、適切なメンテナンスが必要です。

ティンフリースチールの構造

ティンフリースチールは、基材表面に金属クロム層を形成し、その上にクロム水和酸化物層が成膜された二層構造です。最表層のめっきが基材の腐食を防いでおり、金属クロム層は基材との密着性を高める効果があります。

ティンフリースチールのその他情報

色彩の種類

ティンフリースチールは、表面に電解着色処理を施すことで、様々な色彩を表現できるのが特徴です。

金属の色彩は、表面の酸化膜の厚みに応じて変化します。電解着色処理によって酸化膜の厚みを変えられるため、建築用材料や家電製品など、色彩の重要性が高い用途にも使用されています。

チタン銅

チタン銅とは

チタン銅とは、チタンを添加元素とする銅合金です。

展延性や耐食性、耐熱性、耐摩耗性、耐疲労性に優れており、さらに強度、耐応力緩和特性、曲げ加工性に優れている点が特徴です。

同じく高強度合金であるベリリウム銅よりも安価であるため、代替材料として用いられおり、JIS (日本産業規格) ではC1900に分類されるものの他、NKT322、YCuT-F、YCu-Mなどの種類があります。またチタン銅には微量の鉄 (Fe) などが添加される場合があり、銅チタン合金やCu-Ti系合金などと呼ばれることもあります。

チタン銅の使用用途

チタン銅は強度が高く、曲げ加工性に優れた合金です。また、高温環境下での接触力保持に優れており、複雑な曲げ加工を施す電気・電子部品、自動車部品など幅広い分野で使用されています。

1. 電子機器分野

チタン銅は、その優れた強度と曲げ加工性により、スマートフォンやパソコンといった小型電子機器のコネクタ材として最適な素材です。また電気伝導性と機械的強度を兼ね備えていることから、電子部品の端子、スイッチ、リレーなどにも幅広く利用されています。

さらに、高い精度と耐久性が求められるカメラモジュールにおいては、レンズを支えるばね材としても採用されています。

2. 自動車分野

自動車の電装品用コネクタは、振動や高温環境に晒されるため、高い信頼性が求められます。チタン銅は、優れた強度と導電性を兼ね備え、このような過酷な環境下でも安定した接続を維持できるため、コネクタに最適な材料です。

また、バッテリーターミナルは、大電流を安全に流す必要がありますが、チタン銅は高い導電性だけでなく、強度も持ち合わせているため、大電流による発熱や振動にも耐えることができます。そのため、バッテリーターミナルの材料としても適しています。

3. その他分野

高精度計測器においては、微小な力を正確に伝えるばねが不可欠です。チタン銅は、優れたばね特性を有しており、このような用途に最適な材料として採用されています。

また、高温環境で使用される真空管の部品には、耐熱性と電気伝導性が求められ、チタン銅は、これらの要求を満たす材料として、真空管の部品にも利用されています。

チタン銅の性質

チタン銅は、鋼に匹敵する硬度と強度を誇りながら、優れた導電性、熱伝導性、耐食性、耐疲労性も兼ね備えた、さまざまな分野で注目される高性能な銅合金です。

時効硬化処理温度が高いほど導電率が高くなる傾向があるうえ、高温強度にも優れるという特徴も持ち合わせています。他の銅合金と比較しても軟化温度が高く、300℃付近までほとんど引張強度が低下しません。さらに、疲労特性と耐食性においても、代表的な銅合金である銅-ベリリウム合金に匹敵する優れた性能を有しています。

1.  機械的性質

銅にチタンを加えることで、強度と硬度が飛躍的に向上し、鋼に匹敵するほどになります。さらに高強度ながらも、曲げ加工性やプレス加工性にも優れており、複雑な形状の部品にも加工できます。また、繰り返し荷重に対する耐久性も高く、振動や衝撃を受ける環境にも最適です。

2.  電気的・熱的性質

純銅に匹敵する高い導電性を持ち、電気回路や電子部品の材料として最適です。くわえて熱伝導性も高く、放熱が必要な場面でも有効です。

3.  化学的性質

銅にチタンを添加すると耐食性が向上し、海水や酸性環境などの様々な腐食環境で使用できます。さらに、磁性を帯びないため、磁気の影響を受けやすい部位にも適用可能です。

4.  その他

高温下でも強度を維持できるため、高温環境での使用に適します。さらに、高温下で長時間負荷を受けても、応力低下が少なく、信頼性が求められる用途に最適です。

チタン銅の種類

チタン銅は、チタンや添加元素の含有量によってさまざまな種類が存在します。代表的なチタン銅の種類と組成は以下の通りです。また、それぞれの加工材の硬さの区分には、EH材、1/4H材、SH材などがあり、これらの硬さの程度は、硬化処理の温度と時間の違いによって生じます。

1. C1990

C1990の化学組成は、Ti: 2.90~3.50%、Cu: Rem. (残り) です。最も一般的なチタン銅合金で、優れた強度と応力緩和特性を持ちます。また同じ組成でありながら、加工プロセスの制御によって、強度、曲げやすさ、電気伝導率などを向上させた製品も提供されています。

2. NKT322

NKT322は、チタン銅に少量のFeを添加することで強度や曲げ加工性を向上させた素材です。組成はTi: 2.9~3.4%、Fe: 0.17~0.23%、Cu: Rem. (残り) です。高い導電性と耐応力緩和特性を兼ね備えた合金で、特に高温下での接触力保持に優れています。

3. その他

耐食性やはんだ付け性を向上させるために、表面に銅メッキを施したチタン銅箔があります。とくに導電率を重視した製品では、電子部品に通電した際の発熱抑制や放熱性向上が期待できます。

チタン銅のその他情報

1.  製造

チタンと銅を溶解炉で溶かし、均一な合金を製造します。溶解した合金は鋳型に流し込まれ、連続鋳造法やダイカスト法などによってインゴットまたはビレットに成形されます。成形後は、熱間または冷間で圧延・鍛造を行い、板、棒、線などの形状に加工する流れです。

さらに、圧延・鍛造後の材料には、焼入れと焼戻しによる溶体化処理や時効硬化処理などの熱処理を施し、所望の機械的性質や電気的性質を付与します。時効硬化処理は材料の酸化を防ぐため、非酸化性雰囲気下または真空中で行うのが望ましいとされます。加えて、溶体化処理後に冷間加工を施すことで、機械的強度をさらに高めることが可能です。

2.  化学組成

チタン銅の化学組成は、合金の種類によって異なりますが、一般的にはチタン (Ti) が1.8%~3.5%程度含まれています。残りは銅 (Cu) が占めますが、微量の鉄 (Fe) が0.2%程度添加される場合もあります。鉄が添加されたチタン銅は、優れた曲げ特性を持ちながらも、1GPa以上の高い強度(耐力)を示す点が特徴です。

タフピッチ銅

タフピッチ銅とは

タフピッチ銅とは、銅の含有量が99.90%以上の合金です。

JIS (日本産業規格) ではC1100という規格番号で規定されています。一般的に電気伝導性が高く、熱伝導性も優れています。一般的な銅と比較して比重が軽く耐食性も高いため、電気配線や機械部品、建築材料など様々な分野で使用されている材料です。

さらに加工性も優れており、板、棒、管など、様々な形状に加工できます。多様な用途に対応できる優れた性能を持つ銅合金であり、広く利用されている材料の1つです。

タフピッチ銅の使用用途

タフピッチ銅の使用用途は下記の通りです。

1. 電気・電子部品

高い導電性と可塑性を持ち、電気・電子部品の製造に広く使用されています。例えば、コイル、トランス、コネクター、配線、プリント基板などが挙げられます。ト

ランス (英: transformer) とは、電磁誘導の原理を利用して、電圧や電流を変換するための電気部品です。プリント基板 (英: printed circuit board, PCB) とは、電気回路を構成するための基盤となる板状の部品です。一般的には、ガラス繊維強化樹脂やポリイミド樹脂などの基板に、銅箔を薄く張り付け、その上に導電性のパターンを印刷して作られます。

2. 建築材料

美しさと耐久性から建築材料としても使用されます。例えばドアノブ、手すり、シンク、浴槽、天井や壁の装飾などが挙げられます。

3. 熱伝導性材料

熱が伝わりやすい材料です。例えば熱交換器、放熱板、冷却器などで利用されます。

4. その他の用途

自動車部品、船舶部品、加工機械、医療機器などが挙げられます。

タフピッチ銅の性質

タフピッチ銅の主な性質は下記の通りです。

1. 導電性

タフピッチ銅が導電性が高い理由は、銅自体が電気伝導性に優れているためです。銅は電気抵抗率が非常に低い金属の1つであり、金属の中でも高い電気伝導性を持ちます。

高純度の銅をベースにした合金であるため、銅自体が持つ高い導電性能をより引き出せる材料です。また、微細な結晶粒子を持ち、電子が結晶粒子同士を移動する際に障害となる隙間が少ないため導電性が高くなります。さらに、熱処理によって結晶粒子を均一に形成できるため、導電性が向上します。熱処理によって、微細な結晶粒子同士が近接して存在するため、電子の移動に妨げが生じにくく、導電性が高くなります。

2. 加工性

タフピッチ銅が加工しやすい理由は、微細な結晶粒子が均一に分布して良好な可鍛性と可延性があるためです。また、低い強度と高い塑性を持っているため変形しやすく、形状を保持しやすいことや、熱が伝わりやすい特性により加工時に発生する熱が均一に逃げやすく温度上昇が抑えられることなども挙げられます。

可鍛性とは、金属が加工される際に鍛造や圧延などの力によって変形しやすい性質のことです。可延性とは、金属が引っ張られたり伸ばされたりすることによって変形しやすい性質のことです。塑性とは、金属が圧力や力によって変形し、新しい形状を維持できる性質のことを指します。つまり、金属が変形する際に元の形状を保持せず、新たな形状に維持できる能力を表します。

3. 耐食性

タフピッチ銅は高純度の銅をベースにした合金であり、銅自体が持つ耐食性が特徴です。銅は一般的に、多くの酸化物や水酸化物に対して安定しており、さらに銅表面に形成される酸化被膜により、腐食を防げる材料です。また、結晶粒子が微細で均一であるため、材料内部での組織構造が安定し耐食性を高められます。特殊な熱処理により結晶粒子を均一に保てるため、熱処理後は耐食性が高くなります。

4. 熱伝導性

タフピッチ銅は結晶粒子が微細で均一であるため、熱が伝わりやすい材料です。銅自体、熱を効率的に伝導する性質を持っています。銅原子が密に詰まっているため、原子間の距離が短く、熱エネルギーが伝達されやすいためです。

銅自体が持つ熱の伝わりやすさに加え、特殊な製造方法により微細な結晶粒子を形成します。材料内部で熱がスムーズに伝わります。また、結晶粒子の均一性が高いため、熱の伝わりやすさが一様に保たれ、材料全体での熱が伝わりやすい点が特徴です。

5. 耐食性が優れている

高純度の銅をベースにした合金であり、腐食に強い優れた耐食性を持っている材料です。また、特殊な熱処理により均一な結晶粒子構造を持ち、さらに耐食性を高められます。さらに、微生物に対する抗菌性があるため耐食性に優れた材料として使用されます。

6. 抗菌性

銅特有の抗菌性を持ち、多くの細菌やウイルスを殺菌できる材料です。この抗菌性は、表面の銅イオンによる作用で、細胞膜や酵素を損傷させ発揮されます。純度が高く結晶粒子が均一であるため、一般的な銅と比較して抗菌性能が高いです。医療機器や食品加工装置など、衛生管理が求められる分野に適します。

タフピッチ銅のその他情報

1. タフピッチ銅の代替品

タフピッチ銅の代替品として、銅ニッケル合金や銀めっき銅などがあります。これらの材料も高い導電性や耐食性を持っていますが、加工性や熱の伝わり方などの特性が異なるため、用途に応じ適した材料の選定が不可欠です。

2. タフピッチ銅と無酸素銅との違い

タフピッチ銅と無酸素銅は、含まれる酸素量や製造方法の違いから、特性や用途が異なります。タフピッチ銅は、約0.02〜0.05%の酸素を含んでおり、製造工程における脱酸処理の簡略化が可能です。コストパフォーマンスの高い導電材料として広く使用されます。

無酸素銅は酸素含有量が0.001%以下と純度の高い銅です。酸素をほぼ含まないため、加工時の割れや高温環境での酸化を抑えられます。高い信頼性が求められる電子部品や精密機器に適します。

3. タフピッチ銅の溶接方法

タフピッチ銅の溶接は、水素脆化や熱伝導の高さが課題となるため、適切な溶接方法の選定が必要です。主な溶接方法を下記で説明します。

  • TIG溶接
    アルゴンガスで酸化を防ぎ溶接する方法です。精密な処理が可能ですが、接合維持が難しいです。
  • レーザー溶接
    強いレーザー光で狭い範囲を一瞬で溶かし接合します。熱による影響を抑えながら高精度な接合が可能です。
  • 電子ビーム溶接
    真空中で電子を高速でぶつけて材料を溶かし、接合する方法です。
  • ロウ付け
    母材を溶かさずに金属のロウを流し込んで接着する方法です。細かい部品の接合に適します。
  • 抵抗溶接
    電流による発熱で局所的に接合できますが、銅は低抵抗のため高電流が必要です。
  • FSW
    摩擦熱で材料を軟化させ強固に接合可能です。

スラグ

スラグとは

スラグ

スラグとは、鉄や銅などの金属を溶かして精錬する際に発生する金属と不純物の混合物です。

スラグは、金属製造の原料である鉱石の中に含まれる不純物が溶出し、石灰やシリカなどの酸化物と反応して生成されるものです。材料として再利用する場合もあります。

スラグは原料 (金属、セメント、ガラスなど) としてだけでなく、鉄道または舗装の素材として再利用するケースもあります。スラグは、再利用にすれば資源の有効活用や廃棄物の削減が期待されます。しかし、環境汚染の原因になる一面もあり、製造過程で適切な処理が必要です。

スラグの使用用途

1. セメントの原料

スラグはシリカ、アルミナ、酸化鉄などの酸化物を含む材料です。スラグに含有する成分 (シリカ、アルミナ、酸化鉄など) はセメントの原料として利用されています。

セメントの主な成分である石灰と一緒にスラグを加熱すると化学反応を起こし、固化した材料として利用可能です。さらにスラグをセメントと混合すると、酸化物の除去やセメントの強度を向上できます。

スラグに含有しているシリカは、化学式がSiO2で表され、酸化ケイ素と呼ばれる化合物です。また、スラグに含有しているアルミナは、酸化アルミニウムと呼ばれる化合物で化学式はAl2O3で表されます。

2. ガラスの原料

スラグは酸化物 (シリカやアルミナ) を含んでおり、これらの成分はガラスの主要成分であるシリカ酸やアルミナなどと同様の成分であり、主にガラス製造で利用されます。

3. 道路や鉄道の下部構造の素材

スラグは密度が高くて耐久性があるため、道路や鉄道の基礎に使用される素材に最適です。また、スラグは浸透性が低い性質があり、水はけが良いため、道路や鉄道の建設現場で排水性に優れた素材としても利用されます。

4. 建材、石灰岩などの原料

スラグに含まれる成分 (シリカ、アルミナ、酸化鉄、カルシウムなど) は石灰岩やセメントなどの建材に利用されます。また、スラグは固体である性質を活かし、建材に利用する際には、そのまま使用できる材料です。

5. 路盤の安定化

スラグは、道路や鉄道の路盤安定化にも役立つ材料です。スラグは固体であり、密度が高い性質を活かして土壌に混ぜると、路盤の安定性が向上し、土壌の圧縮性向上にも役立ちます。

6. 防音壁、防護壁、舗装材料

スラグは音響特性に優れており、防音壁や防護壁、舗装の材料として利用します。

7. 土壌改良剤

スラグは、農業の土壌改良剤としても利用される材料です。土壌の酸性度を中和し、栄養素を供給するため、農業では肥料にも活用されます。スラグに含有している鉄分やカルシウム分は、作物の成長に必要な栄養素としてとても重要です。

8. 地盤改良材

スラグは土壌の密度を高めて圧縮性を向上させるため、地盤改良に適しています。地盤改良材として、道路や鉄道の建設にも利用されます。

9. 環境浄化材

スラグには金属イオンが含まれており、主な成分は鉄分やアルミニウム分などです。また、スラグの含有成分は、汚染物質を吸着・除去する効果があり、主に水質浄化などに利用されています。

10. 再生鉄粉の製造原料

スラグを細かく粉砕すれば再生鉄粉の製造原料としても利用可能です。再生鉄粉とは、鉄の製造過程で発生する鉄スケールやスチールスクラップなどの廃棄物を再利用したものです。

スラグの原理

スラグは、金属の原料となる金属鉱石を高温で溶かし、金属と不純物を分離する過程で発生するため、基本的な発生過程を解説します。

1. 金属鉱石の溶解

金属鉱石を高温で溶かすと、金属と不純物を分離する溶解過程が始まります。金属鉱石に含まれる不純物は純粋な鉱石よりも融点が低いです。そのため、溶解中に純粋な鉱石よりも早く溶け出す傾向にあります。

2. 酸素吹き込み

金属鉱石が溶けた溶融スラグ中には、金属とともに酸化物も含まれています。この酸化物を不純物とともに取り除くためには、製造工程上、酸素の吹き込みが必要です。溶解スラグに酸素を吹き込めば不純物が酸化し、スラグに溶け込みやすくなります。

3. 不純物の反応

溶融スラグ中に溶け込んだ不純物は、添加物 (石灰やシリカなど) と反応して新たに生み出されたものがスラグです。この反応によってスラグは金属とは異なる性質を持つ液体として残ります。

4. スラグの取り出し

スラグは金属よりも軽く、液体のまま溶解金属の表面に浮かび上がり、金属と分離する性質があるため、回収が容易です。金属とスラグが分離し、冷却・固化したものがスラグであり、金属を製造した際の副産物として処理します。

スラグの種類

スラグは金属鉱石の種類や精錬方法により、種類が豊富です。スラグは金属を製造する際に用いる原料によって分類も異なるため、代表的なスラグの分類方法を紹介します。

1. 材料の種類による分類

スラグを再利用すると材料としての利用価値が生まれます。ただし、スラグを材料として使用価値を見出すには、スラグの主たる成分を正確に判別することが重要です。

その際、スラグ (材料) の種類によって分類します。また、スラグには豊富な種類 (鉄スラグ、銅スラグ、鉛スラグ、亜鉛スラグ、アルミニウムスラグなど) が存在します。

2. 化学組成による分類

スラグは鉱石中の不純物や添加剤により、異なる化学組成を持ち、化学組成に基づいて分類されます。例えば (石灰スラグ、シリカスラグ、アルミナスラグ、マンガンスラグ) などが代表的です。

3. 製造工程による分類

スラグは金属鉱石の精錬プロセス中で発生して生まれます。この精錬プロセスによって異なる特性を持つ分類方法が製造工程による分類です。

例えば、高炉スラグは、高炉による鉄鋼製造プロセスで発生します。溶融スラグは、主に溶解炉による銅製造プロセスで発生する銅スラグです。

スラグの種類

代表的なスラグおよびスラグの生成過程と再利用方法は下表の通りです。

スラグ名 生成過程 再利用方法
鉄スラグ 金属鉱石を高温で溶かし、酸素の吹き込みにより生成 コンクリートやセメントの原料、道路や鉄道の下部構造の素材、砂利や舗装材料の代替素材として利用
銅スラグ 銅の製造過程で、鉱石を高温で溶かし、酸素の吹き込みにより生成 セメントや舗装材料、研磨剤、道路の下部構造の素材として利用
アルミニウムスラグ アルミニウムを含む金属鉱石を高温で溶かし、酸素の吹き込みにより生成 セメント、土壌改良剤、舗装材料、金属部品の製造などに利用
シリコンスラグ シリコン鉱石を還元する過程で発生 石灰岩、セメント、土壌改良剤、建材の製造、鉄鋼製造の添加剤として利用
鉄鋼スラグ 鉄鋼製造プロセスで発生する セメントやコンクリートの原料、道路や鉄道の下部構造の素材、砂利の代替素材、鉄鋼の精錬時に不純物を取り除く添加剤、鉄鋼製造プロセスの燃料
亜鉛スラグ 亜鉛鉱石の精錬プロセスで発生する セメント、土壌改良剤、道路の下部構造の素材、金属のリサイクル
ニッケルスラグ ニッケル鉱石の精錬プロセスで発生する セメントや土壌改良剤、道路の下部構造の素材、金属のリサイクル

スラグのその他情報

1. スラグに関連したJIS規格

スラグ骨材に関するJIS (日本産業規格) には以下があります。スラグ骨材は、鉄や非鉄金属を製錬する際に発生する溶融スラグを再生利用した建築資材の一種です。

  1. JIS A 5011 (コンクリート用スラグ骨材)
    高炉スラグ骨材
    フェロニッケルスラグ骨材
    銅スラグ骨材
    電気炉参加スラグ骨材
  2. JIS A 5012 (コンクリート用高炉スラグ細骨材)
  3. JIS A 5015 (道路用鉄鋼スラグ)
  4. JIS A 5021 (コンクリート用再生骨材H)

スピネル

スピネルとは

スピネル

スピネルとは、マグネシウムとアルミニウムから構成される酸化物鉱物です。

化学式はMgAl2O4と表され、高い硬度と耐久性を持ちます。天然に産出する他に、人工的にも合成できます。人工合成されたスピネルは工業用途に使用される場合があります。また生体適合性が高いため医療用途にも使用されます。

スピネルには、カトライト、クロムスピネル、マグネシオクロムスピネルなどの多くの種類が存在します。これらの鉱物はスピネル構造を持っているため高い耐久性や耐熱性を持っています。

スピネルの使用用途

1. セラミックス

スピネルは高温に耐えることができるためセラミックスの材料として使用されます。具体例としては、陶磁器や磁器、半導体製造装置の部品、光学機器などが挙げられます。

2. 電子材料

スピネルは絶縁体であり、また高周波やマイクロ波を通すことができるため電子材料の基板やキャパシターの材料として使用されます。キャパシターは、電気的なエネルギーを貯めることができる装置です。2つの電極 (導体) の間に、絶縁材料 (誘電体) を挟んで構成されています。

3. 触媒

スピネルは触媒として使用され化学反応を促進します。具体例としては,自動車用排気ガス浄化触媒、石油精製触媒などが挙げられます。触媒とは、化学反応を促進する物質であり、反応に必要な活性化エネルギーを下げる働きを持ちます。

4. 光学材料

スピネルは光学的に透明であり、レーザーダイオードの材料などに使用されます。レーザーダイオード (LD) は、半導体素子の一種であり、電気信号を光信号に変換するデバイスです。

5. 宝石や顔料

スピネルは宝石として人工的に合成され、宝石市場で販売されています。顔料としても使用され、陶磁器やガラスなどの色付けに使用されます。

6. 磁性材料

スピネルには磁性を持つ種類もあり、磁気ディスクやスピーカーの磁性材料として使用されます。

7. 耐火物

スピネルは高温に耐えるため耐火物の材料として使用されます。使用例としては、耐火レンガ、ガラス製造の原料、耐火コーティング剤、工業用炉の材料などが挙げられます。

8. カメラレンズ

スピネルは光学的に透明であり優れた光学性能を持つため、カメラレンズの材料として使用されます。

スピネルの性質

1. 耐久性

スピネルは非常に硬くて傷がつきにくいため、工業材料や宝石として使用されます。アルミニウムイオンとマグネシウムイオンが酸素イオンを共有して形成された結晶構造を持っています。この結晶構造は、非常に強力なイオン結合を形成しており、強い結合力が硬度と耐久性をもたらす要因です。

2. 耐熱性

スピネルは高温に耐えるため、耐火物やセラミックスの材料として使用されます。結晶構造は非常に安定していて、イオン結合が強く、結晶構造中にあるイオンは非常に密に詰まった状態です。

そのため高温下でもイオンの移動や結晶構造の変化が起こりにくく、熱による膨張も抑制されます。さらにスピネルの結晶構造は非常に均一で欠陥が少ないため、高温下でも結晶構造が崩れることが少なく、耐久性が高くなります。

3. 耐食性

スピネルは化学的に安定であり、酸やアルカリに対して耐性があるため、触媒や光学材料の材料として使用されます。結晶構造は、外部からの酸やアルカリの攻撃を防げます。また高温にも耐えられるため、加熱による酸化や腐食を防げます。

さらに化学的な組成も耐食性に効果的です。スピネルはアルミニウムと酸素のイオンが八面体を形成し、その八面体の中にマグネシウムイオンが配位しています。この構造によりスピネルは密な結晶構造を持ち、外部からの物質の侵入を防ぎます。

4. 電気絶縁性

スピネルは絶縁体であり高周波やマイクロ波を通せるため、電子材料の基板やキャパシターの材料などとして使用されます。

スピネルはイオン結晶であり、正電荷を持つ金属イオンと負電荷を持つ酸素イオンが交互に配列した結晶構造を持つ点が特徴です。そのため電子の移動を阻害し、電気絶縁性が高くなります。

また結晶構造は、空間が小さいことも特徴です。このため電荷を帯びた粒子が通過する際に衝突する可能性が高くなり、電気絶縁性が高くります。

5. 光学的特性が優れている

スピネルは光学的に透明です。密度が高く、内部の欠陥や不純物が少ないため非常に透明度が高く、特に紫外線や可視光線をよく透過します。また高い屈折率を持ち、光の伝播速度が非常に速いため、反射が少なく光の透過性が高くなっています。

スピネルの種類

1. レッドスピネル

レッドスピネルは、主に酸化マグネシウムと酸化アルミニウムからなる無機化合物です。クロムを含むため赤く、天然のルビーと類似した発色特性を示します。耐熱性や耐薬品性に優れ、工業用途にも活用されます。

2. ブルースピネル

ブルースピネルは、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを主成分とする青みを帯びた化合物です。特にコバルトを多く含む場合、深みのある青色になります。高い安定性を持ち、セラミックスや顔料としても利用されます。

3. ピンクスピネル

ピンクスピネルは、酸化マグネシウムと酸化アルミニウムを含み、マンガンの微量添加によりピンクに発色する点が特徴です。発色のメカニズムは、マンガンイオンの価数と結晶場による影響を受けます。耐摩耗性が高く、装飾材料や工業材料としても使用されます。

4. バイオレットスピネル

バイオレットスピネルは、鉄やクロムが共存することで紫に発色するスピネルです。酸化物イオンが立方晶の格子内に配置された安定した結晶構造を持ちます。電気的特性にも優れ、電子材料としての利用が期待されます。

5. ブラックスピネル

ブラックスピネルは、不純物として鉄を多く含むことで黒色となる化合物です。強い耐久性と耐薬品性を持ち、研磨材や磁性材料として利用されるケースもあります。一般的なスピネルは絶縁体ですが、導電性を持つ組成の結晶も存在し、セラミックスや電極材料としての研究が進められています。

スピネルのその他情報

スピネルの色合い

スピネルは幅広い色の種類を持つ鉱物の1つです。その色は含まれる不純物やイオンの置換によって決まります。そのため、同じスピネルでも異なる色調を持つものが存在します。

例えばクロムイオンが含まれると赤色に、鉄イオンが加わると青色に変わります。さらに、スピネルには単色だけでなく複数の色が混ざるケースも存在します。マンガンやクロムが含まれるとピンク色になり、鉄やクロムの割合によって茶色やオレンジ色を呈することもあります。こうした色の変化は、スピネルの組成の違いによるものです。

スキンパス

スキンパスとは

スキンパス

スキンパスは、鋼板などの金属素材を加工する際に用いられる加工方法の1つです。

目的は冷間圧延によって生じる歪みを矯正することで、板材の表面を滑らかに整えて板材の表面のつやだしが可能です。スキンパスによって板材の強度が低下する場合があるため、板材の強度を補強するためにスキンパスを終えた後に熱処理を施すケースもあります。スキンパス加工は鋼板をはじめとする金属素材の加工に広く利用され、自動車や建築、家電製品の分野で活用されます。

スキンパスの使用用途

1. 建築・建設

外壁材や屋根材、エレベーターやエスカレーターの踏板やフレーム部品、水道施設や河川橋梁の鋼構造部品などが挙げられます。

2. 自動車・輸送機器

自動車の外板やフレーム部品、鉄道車両の外板やフレーム部品、船舶の外板や構造部品などが主な用途です。

3. 家電・電子

家電製品の筐体やフレーム部品、医療機器の筐体やフレーム部品、自動販売機やATMの筐体やフレーム部品、工作機械や測定器の筐体やフレーム部品などで利用されます。

4. その他

照明器具やシーリングファンの筐体やフレーム部品、ゴルフクラブやテニスラケットのフレーム部品などが活用事例です。

スキンパスの原理

1. 残留応力の調整

材料内部に蓄積された残留応力の均一化により、歪みを抑制可能です。圧延方向に適度な圧縮応力を加え内部の引張応力を低減、材料の安定性を向上させます。冷間圧延後の鋼板が時間経過によって変形するリスクを減らし、寸法精度を確保できます。

2. ルーダーズバンドの抑制

ルーダーズバンドは、材料の変形時に局所的に発生するひずみ帯です。スキンパスにより降伏伸びを減少させ、材料が均一に変形しやすくなることで表面ムラを防ぎます。自動車外装用の鋼板では、美しい仕上がりを実現するために用いられます。

3. 表面粗さの最適化

圧延ロールの表面テクスチャを材料に転写し、意図的な粗さ制御が可能です。塗装やメッキの密着性が向上し、最終製品の外観や耐久性が向上します。家電製品や建材用途でも、表面の均一化を目的として、この工程が活用されます。

4. 加工硬化の制御

微小な塑性変形を加え、材料の硬さと強度を調整可能です。圧延後の加工硬化の適切なコントロールにより、要求される形状、硬度を両立します。特にプレス成形が必要な材料では、硬すぎず柔らかすぎないバランスを取るために重要な工程です。

5. 平坦性の向上

冷間圧延後の鋼板には、ローリング時の応力分布の影響で、波打ちや反りが発生する場合があります。スキンパスの実施により、材料全体の応力を均一化し平坦な状態に近づけます。後工程の加工精度が向上し、安定した品質で製造可能です。

スキンパスの種類

スキンパスには、主に以下の3種類があります。名称は異なる場合もあります。

1. 切板用スキンパス

板材を1枚ずつ切断して加工する方法で、板材の表面状態の調整や圧延歪の矯正に使用されます。板材の歪みを矯正するために軽い圧力をかけながら板材を加工します。圧力は板材の強度や硬度に合わせて調整されます。

1枚ずつ板材を加工するため、生産性が低くて時間がかかりますが、加工対象の板材が小さく様々な形状に加工できるため、柔軟性が高いです。また、加工後の板材の表面が滑らかであり平坦度が高くなるため、精密な加工を施す前の最終仕上げとしてよく利用されます。

2. 連続スキンパス

金属素材を連続的に加工する方法の1つです。コイル状態の金属板を使用して一度に大量の板材を短時間で加工でき、コイルに巻かれた板材がスキンパスミルを通過することで板材の表面状態を調整して歪みを矯正します。

大量生産に向いた加工方法であり、生産性が高くて加工コストを抑えられます。加工速度が速いため短時間で多くの板材を加工できます。また板材の厚さによって調整可能な加工力を持ち、板材の厚みに合わせて加工できるため多様な種類の金属素材に対応できます。

3. テンションレベリング

鋼板にテンションをかけた反作用を利用し、表面の凹凸を除去して平坦にする加工方法です。

テンションレベラーは、コイル状の板材を繰り返し曲げながら圧延歪の矯正や反りの除去を行います。スキンパスミルより精度が高く、圧延歪を効果的に除去できる点が特徴です。板材を繰り返し曲げて表面の凹凸を均一化し、つや出しや硬度を改善します。前後にロールを備えたローラレベラーと、上下にロールを備えた上下レベラーがあり、用途に応じて選択されます。

スキンパスのその他情報

プラスチックのスキンパス

スキンパスは主に金属素材の加工に用いられますが、プラスチック素材の加工にも利用されることがある加工技術です。プラスチック素材の場合、透明なプラスチック素材であるポリカーボネートやアクリル樹脂などをスキンパスすることで、表面の凹凸を均一化して美しい仕上がりになります。

スキンパスによって透明なプラスチック素材の表面が均一になり、美しい仕上がりになります。その際にプラスチック素材の表面にできる小さな傷やキズも磨き取ることが可能です。

スカルピング

スカルピングとは

スカルピング (英: scalping) とは、機械加工では表面の欠陥等を除去する作業のことです。

粉体工学の分野では粒子群から少量の粗大粒子を除去する操作を指す場合に使われることもあります。この場合のスカルピングは、一般的に異物除去が目的でふるい分けされる操作をいい、選鉱採掘した鉱石群のなかから高品位粒子だけを分ける操作が該当します。

スカルピングの使用用途

スカルピングという名称は、スカルピングカッタという工具として知られています。スカルピングカッタは、金属素材を圧延加工で長尺シートの板材に成形するような場合、その前処理として板材の表面を覆っている酸化層や汚れを除去する目的のために使用されています。

板材を広範囲に連続して行う面削工具をいい、円柱状の本体と本体外周に間隔をおいて、もうけた切れ刃で構成されています。そして、板材を軸線方向に動かすと同時にスカルピングカッタを反対方向に回転させていくことで、板材の面を広く浅く切削していきます。

スカルピングの原理

スカルピングは、板材の表面を薄く削っていく円柱状のスカルピングカッタのほか、ビレット (円柱もしくは管状の素材) の外周を薄く削る加工も行われています。

スカルピング装置は、従来は軸線状に沿ってビレットを移動させ、表面を削り取っていく手法が一般的で、この時使用された装置の本体をローダーと呼び、切れ刃をスカパーと呼ばれていました。この方法は、角度の変えられる2面のローダーを使って行われていましたが、不都合もありローダーの形状が改良された経緯があります。

選鉱のふるい分けとして使われるスカルピングは、粒子の大きさによって分離するもので、その大きさは一般的には100μm以上とされていますが、簡易な方法でもあることが好まれ、改良が加えられた結果、3μmというレベルまで向上しています。この場合のスカルピングは、鉱石の選別となる選鉱で使用されるもので、大きさでふるい分ける操作を指しています。

ジュラルミン

ジュラルミンとは

ジュラルミン

ジュラルミンとは、高力アルミニウム合金の一種です。

アルミニウムに対して4%のと少量のマグネシウム、マンガンを加えた組成が標準組成です。540℃程に加熱した後に、水の中で急冷してから常温の状態で96時間程放置することで、徐々に硬く変化し軟鋼に匹敵する強度となります。ジュラルミンは鋼と同等の強度でありながら密度が鋼の3分の1程度であるため、実用性が極めて高い合金です。

航空機の発達に伴って改良が重ねられており、さらに高力の超ジュラルミン超々ジュラルミンなども実用化されています。

ジュラルミンの使用用途

ジュラルミンの比重は鉄の約3分の1であり、同一重量当りの強さは鉄材の3倍となります。そのため、この値の大きいことを要求する航空機用材に最適で、飛行機の機体用の構造材として長く使用されています。また、優れた特性から自動車の構造材や建築、その他の強力構造材などにも利用されています。

ねじ類・航空宇宙機器・ギヤ部品・リベット類・油圧部品・船舶用部品などの工業用途としても用いられている他、身近な製品では、スキーや金属バットなどのスポーツ用品にも幅広く利用されています。 

ジュラルミンの性質

ジュラルミンは、他のアルミニウム合金と比べて優れた切削加工性がありますが、溶融溶接性や耐食性が比較的弱いといった特徴もあります。そのため、腐食環境にて使用する部品や製品にジュラルミンを利用する場合には十分な防食処理が必要です。

この欠点は、硬度を高めるために添加された銅による耐食性の低下が原因です。防食処理の手段の例としては、ステンレス等の耐食性に優れた材質で挟み込んで利用するなどの方法が挙げられます。

ジュラルミンの種類

ジュラルミンには、通常のジュラルミンの他に、超ジュラルミンと超々ジュラルミンが存在しています。

1. 超ジュラルミン

超ジュラルミンは、銅とマグネシウムの添加量が通常のジュラルミンと異なります。銅とマグネシウムの添加量を増加させることによって、ジュラルミンよりも高い強度と切削加工性を持ち合わせるようになります。

2. 超々ジュラルミン

超々ジュラルミンは、ジュラルミンと比べて遥かに高い強度をもっています。超々ジュラルミンは、銅とマグネシウムに、さらに亜鉛を加えた合金です。超々ジュラルミンの強度は、ステンレス鋼にわずかに劣る程度であり、アルミ合金の中では最高クラスの強さをもっています。 

切削性については、ジュラルミンと超ジュラルミンは良好で切削加工をしやすい部類になりますが、超々ジュラルミンは強度が高いため切削しにくい難削材の部類になります。

ジュラルミンのその他情報

1. ジュラルミンの強度

ジュラルミンはアルミニウムの引張強さである260N/mm2を大幅に上回る425N/mm2の強度があります。鋼材のひとつであるSS400が400N/mm2であるため、アルミニウム合金でありながら鋼材並みの引張強さを持つ材料といえます。また、比重は鉄の7.87を大幅に下回る2.79であるため、鋼材と同程度の強度を持ちながら約3倍ほど軽いメリットがあります。

2. ジュラルミンの欠点

ジュラルミンの欠点として、溶接性が低いことが挙げられます。アルミニウムと同様に熱伝導率が高く、鉄と比較すると歪みが生じやすいため溶接時間を短くしなければなりません。融点も低いため母材が溶け落ちやすいことから、ジュラルミンは溶接加工が非常に難しい材料です。そのため溶接には通常の溶接よりも温度が低い抵抗スポット溶接機を用いるといった対策がとられたり、そもそも接合には溶接ではなくリベットやボルトで接合する例もあります。

また、アルミニウム合金の中でも特にジュラルミンは耐食性が悪く、金属の結晶と結晶の間が腐食する粒界腐食が起こりやすいため腐食が進行すると割れが生じやすくなるデメリットがあります。