ネーバル黄銅

ネーバル黄銅とは

ネーバル黄銅とは六四黄銅(銅60%、亜鉛40%の銅合金)に1%程度の微量の錫を添加した特殊黄銅の一種であり、JISの材料記号ではC4621であらわされます。耐海水性が高いことから海軍黄銅とも呼ばれ、主に船舶や化学工業用途に用いられます。

同様に錫を添加した特殊黄銅としては七三黄銅に錫やヒ素を添加したアドミラルティ黄銅などが知られていますが、アルミニウムを添加したアルミニウム黄銅(アルブラック)と比較して、耐潰食性に劣ることから、日本国内での使用は限定的です。

ネーバル黄銅の使用用途

ネーバル黄銅の使用用途としては、その高い海水耐性を利用した船舶用途が挙げられます。また通常の耐食性にも優れていることから、このほかにも化学工業などの器具に加え、ボルトやナット、バルブステム、コンデンサープレートなどのさまざまな用途に使用されています。

また関連する合金として、ネーバル黄銅に鉛とマンガンをそれぞれ1%弱添加した銅合金は打ち抜き性や耐疲労性に優れており、楽器弁用黄銅(JIS:C6711)と呼ばれます。この合金はその名の通りオルガンなどの楽器弁に広く用いられています。

ネーバル黄銅の特徴

ネーバル黄銅の特徴はその耐食性の高さにあります。通常の黄銅も比較的耐食性に優れた合金といわれますが、脱亜鉛腐食と呼ばれる脱成分腐食の発生が知られています。この脱亜鉛腐食は合金中の亜鉛成分が優先的に溶解することで、銅成分が偏って残存してしまい、腐食が進みやすくなる現象です。亜鉛成分の含有比が低い場合には問題となりませんが、通常の黄銅合金は30~40%程度の亜鉛を含むためこの腐食が無視できず、腐食条件下での信頼性に問題があるといわれていました。

ネーバル黄銅は錫を添加することにより、この脱亜鉛腐食の抑制が図られており、淡水・海水いずれに対しても優れた耐腐食性を有しています。また錫の添加により硬度・強度は増加する反面、伸び性は低下していると言われます。

このように特に耐海水性に優れたネーバル黄銅ですが、近年ではアルミニウムを黄銅に添加した合金であるアルミニウム黄銅(アルブラック)、ニッケルを含む銅合金であるキュプロニッケルなど、より高い耐腐食性を有する合金の使用が増加しており、特に船舶や伝熱管などでのネーバル黄銅の使用頻度は低下していると言われています。

トロイダルコイル

トロイダルコイルとは

トロイダルコイル

トロイダルコイル (英: toroidal coil) とは、円環状の磁性体コアに電線を巻いて作られたコイルのことです。

円環という閉じた磁性回路を形成することで、通常のコイルとは異なる特性があります。円柱状に電線を巻いたコイルは、誘起される磁力線がコイル内を通り外部へ放射されることから、周囲の物質に影響を及ぼす可能性が出てきます。

トロイダルコイルは、磁力線が閉塞していることで、周囲への影響を最小限に抑えることが可能です。

トロイダルコイルの使用用途

トロイダルコイルは、漏れ磁束が少ない閉磁路構造の特性を活かす用途で使われます。電源回路内のチョークコイル、高周波回路内の高調波除去用やインダクタとコンデンサ構成によるフィルタなど、エレクトロニクス分野で幅広く活用されます。

例えば、携帯電話や無線LANなどでは、超高周波数帯域で回路近辺の環境の影響を受けるので、通常のインダクタは正常に作用しないことがあります。トロイダルコイルの採用により解決が可能です。

また、核融合装置や超電導磁石あるいは荷電粒子加速器用などの大型装置のコイルとしても使われます。電動機用のステータ側コイルなどにも利用されます。

トロイダルコイルの原理

電線を巻いたコイルは、電流が流れると電線と直角方向に磁束が発生します。トロイダルコイルは、ドーナツ状の円環コアに銅線を巻いたものです。コアが円環であるため、磁力線が内部にとどまり、外部へはほとんど出ません。多数回銅線を巻けば磁束が重なり合い、強力な磁界が得られます。

発生する磁束が外部に漏れにくいため、コイル効率が非常に優れ、磁束がほかの素子などに影響を与えにくい長所があります。トロイダルコイルに使用されるコアは、鉄系の鋼板が使われます。具体的には、FeSiケイ素鋼板鉄心、ナノ結晶合金鉄心、FeSi系合金鉄心、Fe(CO)5カーボニル鉄心などです。漏れ磁束が少なくインダクダンスが安定しています。

トロイダルコイルの特徴

トロイダルコイルは、ドーナツ状の磁性体に巻いたコイルに電流を流して発生した磁力線を閉じ込めることが可能で、コンパクト化、高磁性化を可能にし、外部への磁力線の漏れを防止します。

電気回路の基本となるのが、RLCという「R」の抵抗、「L」のインダクタンス (デバイスはインダクタ) 、そして「C」のコンダクタンス (デバイスはコンデンサ) の3つです。

トロイダルコイルは、空芯コイルより大きなインダクタンスを得られるインダクタで、流す電流の周波数が高くなるほど効果も大きくなることから、高調波の除去などに使うことができます。また、トロイダルコイルの磁性体にもう1つコイルを追加すれば、高周波トランスになります。

さらに、周波数と反比例して周波数が高くなるほど、電流を通りやすくなるコンデンサCと組み合わせることで、各種フィルタの構成が可能です。

トロイダルコイルのその他情報

トロイダルコイルの役割

1. 平滑化作用
トロイダルコイルは、銅線などに電流が流れようとすると、コイルは電流を流すまいとし、電流が減ると流し続けようとする性質を有します。これはレンツの法則と呼ばれ、ある閉じた回路を貫く磁束が時間的に変化するとき、その磁束の変化を妨げる方向に磁界を生じるような誘導起電力を生じる現象です。

この性質を利用して、トロイダルコイルは、交流から直流に変換する電源回路の平滑化や高周波のフィルタなどに使われます。

2. 相互誘導作用
相互誘導作用は、コイルを2個近づけると、一方の電力を他方のコイルに誘導することです。この原理を利用して、トロイダルコイルが電源トランスに使用されます。

電源トランスは、1次側のコイルの巻き数と2次側のコイルの巻き数の比により、出力電圧を変えます。2次側コイルに中間タップを設ければ、複数の電圧を得ることが可能です。

3. 電磁石作用
コイルの電磁石を利用するのが、回路の開閉を行うリレーです。また、発電機、電動機、ベル、ブザーなどにも応用されます。

ティンフリースチール

ティンフリースチールとは

ティンフリースチールとは、錫を使用しない代替の表面処理鋼板のことです。

ティンフリースチールはJIS (日本産業規格) G 3315に規定されています。ティンフリースチールでは、冷間圧延された炭素鋼板に、電解クロム酸処理を施して、表層に金属クロムおよびクロム水和酸化物層を形成することが特徴です。電解クロム酸処理により、耐食性が向上します。錫めっき鋼板と比べて環境負荷が低く、リサイクルも容易です。また、錫めっき鋼板と比較して比較的低価格であることも特徴です。

ティンフリースチールの使用用途

1. 缶詰

ティンフリースチールは缶詰の材料として広く使用されています。理由は、食品が保管される間、酸素や湿気などの要因から食品を保護するために必要な耐久性を持っているからです。

2. 電子部品

電子部品においては薄いシート状にされたものが使用されます。理由は、金属の柔軟性と導電性の両方を持っているためです。

3. 建築材料

屋根材、壁材、サイディング材、屋根排水管などの建築材料として使用されることがあります。理由は、強度と耐久性、外観の美しさのためです。

4. 車両部品

ティンフリースチールは、車両部品の材料としても使用されています。

5. 家庭用品

ティンフリースチールは、家庭用品として、例えば調理器具、食器、玩具、ゴミ箱、洗濯機、乾燥機などに使用されることがあります。

ティンフリースチールの性質

1. 耐食性

ティンフリースチールは、電解クロム酸処理によって表面にクロム水和酸化物層を形成し、錆や腐食から保護されます。クロム水和酸化物層は非常に硬く、化学的に安定しているため、耐食性に優れていることが特徴です。またクロム水和酸化物層は、塗料の密着性を高める効果もあります。

電解クロム酸処理とは、鉄や鋼の表面にクロム水和酸化物層を形成する処理法のことです。この処理によって、鉄や鋼の表面に硬質で化学的に安定したクロム水和酸化物層を形成し、表面を保護できます。

2. 塗料の密着性

ティンフリースチールの表面には電解クロム酸処理によってクロム水和酸化物層が形成されています。クロム水和酸化物層は非常に硬く、化学的に安定しているため、塗料の密着性が高くなっています。

クロム水和酸化物層は均一に形成されており、塗料が均等に塗布されることで塗料の密着性が向上し、塗装工程が簡単になり、美しい仕上がりを実現できます。また、ティンフリースチールは塗料が剥がれにくく、塗装後も長期間美しい状態を保てるため建材や家電製品などの表面にも使用されています。

3. 機械的強度・加工性

ティンフリースチールは冷間圧延コイルを使用しているため、表面の金属組織が微細で強度が高く、加工性が良いです。成形や加工が容易で、自動車部品や建材など幅広い用途に使用されます。

4. 環境負荷が低い

ティンフリースチールは錫を使用しないため、鉛やカドミウムといった有害物質を含まず、環境負荷が低いことが特徴です。また、鉄として再利用されるためリサイクルに適しています。

5. 防水性

ティンフリースチールは、表面にスズめっきがされているため、水分や湿気を通しにくく、屋根材や外壁材など、防水性の高い用途に使用され、建物の耐久性や居住性を高められます。

6. 耐熱性

ティンフリースチールは耐熱性があります。理由は、表面に形成されるクロム水和酸化物層が、高温下でも化学的に安定しているためです。オーブンやレンジなどの高温環境で使用される食品容器や、高温処理が必要な自動車部品などにも使用されます。

7. 耐衝撃性

ティンフリースチールは、表面に金属クロムおよびクロム水和酸化物層を形成します。形成されたクロム水和酸化物層は非常に硬く、化学的に安定しており、耐摩耗性に優れています。また、冷間圧延コイルを使用しているため、表面の金属組織が微細で、機械的強度が高く、耐衝撃性にも優れています。

自動車部品や家電製品など、摩擦や衝撃が激しい環境で使用される製品にも適しています。例えば、自動車のドアやボンネット、ホイールなどの部品や、家電製品の筐体や外装部品などが使用用途の例です。また、建築材料としても使用され、地震などの衝撃にも耐える強度が求められる場合にも利用されます。

8. 耐摩耗性

ティンフリースチールの表面に形成されるクロム水和酸化物層は非常に硬く、化学的に安定しているため、耐摩耗性に優れているのが特徴です。

耐摩耗性に優れているため、自動車部品や建材など摩擦や磨耗が激しい環境でも長期間使用できます。例えば、自動車部品では、ドアやボンネットなどの開閉部品や、ホイールなどが使用用途の例です。また、建材では屋根材や外壁材など、屋外にさらされる部材に使用されます。屋根材や外壁材などの部材は、風雨や紫外線などの自然環境にさらされるため、表面硬度が高く、耐摩耗性に優れた材料が必要です。

ティンフリースチールのその他情報

1. 色彩の種類

ティンフリースチールは、表面に電解着色処理を施すことで、様々な色彩を表現できるのが特徴です。具体的には、電解着色液によって酸化膜を生成し、その酸化膜の厚みに応じて、光の干渉・反射・屈折により色彩が変化します。

ティンフリースチールの電解着色処理により、様々な色調を表現できます。よって、ティンフリースチールは、建築用材料や家電製品など、色彩の重要性が高い用途にも使用されています。

2. 耐硫化黒変性

ティンフリースチールは一般的に硫化黒変に対して良好な耐性を持っています。これは、ティンフリースチールが電解クロム酸処理を施して、表面にクロム水和酸化物層を形成しているためです。形成されたクロム水和酸化物層は、硫化黒変の発生を防止するための保護膜として機能し、ティンフリースチールを硫化黒変から保護します。ただし、使用環境や条件によっては、硫化黒変が発生する可能性がありますので、適切なメンテナンスが必要です。

食品缶で発生する硫化黒変とは、缶材に含まれる硫化水素が、缶内に充満した酸性食品の成分によって反応して発生する、黒褐色の沈着物です。食品缶は、鉄やアルミニウムなどの金属材料で作られていますが、これらの材料には微量の硫化物が含まれています。加熱殺菌などの処理により、缶内に充満した食品の成分が酸性化され、この酸性条件下で硫化水素と反応して硫化黒変が発生します。

チタン銅

チタン銅とは

チタン銅とは、チタンを添加元素とする銅合金です。

展延性や耐食性、耐熱性、耐摩耗性、耐疲労性に優れています。また、耐応力緩和特性も特徴の1つです。同じく高強度合金であるベリリウム銅よりも安価であるため、代替材料として用いられています。JIS (日本産業規格) においてC 1900に分類されるものの他、製品名ではC1990HP、C1990HC、NKT322、YCuT-F、YCu-Mなどの種類があります。

チタン銅は、優れた曲げ加工性、高強度、高加工性を生かして電子部品などに使用されている合金です。微量の鉄 (Fe) などが添加される場合もあります。チタン銅を指す別の名称には、銅チタン合金やCu-Ti系合金などがあります。

チタン銅の使用用途

チタン銅は強度が高く、曲げ加工性に優れた特徴の合金です。複雑な曲げ加工を施す電子機器向けコネクタに特に採用されています。チタン銅の主な使用用途は下記の通りです。

  • 電子機器、通信機、計測器用高強度ばね
  • 電子部品用端子、スイッチ、コネクタ、リレー、ブラシ、ジャック
  • スマートフォンやパソコンなどの電子機器のコネクタ
  • カメラモジュール (レンズ支持用ばね材) など
  • 自動車用コネクタ
  • バッテリーターミナル
  • 真空管部品材料

チタン銅の性質

チタン銅は、 鋼に匹敵する硬度および強度チタン銅の導電率は時効硬化処理温度が高いほど高くなる傾向があります。また、時効硬化処理温度が高いため、高温強度が優れていることもチタン銅の特徴の1つです。他の銅合金と比較しても軟化温度が高く、300℃ 付近までほとんど引張強度が低下しません。

疲労特性や耐蝕性も、優れた銅合金の代表である銅-ベリリウム合金と遜色ない性能であると言えます。なお、磁気に対しては非磁性です。

チタン銅の種類

チタン銅は、様々な製品が販売されています。代表的なチタン銅の種類と組成は下記の通りです。また、それぞれの加工材の硬さの区分にはEH材、1/4H材、SH材など様々な種類があります。硬さの程度は硬化処理温度と時間の違いにより生じるものです。

1. C1990

C1990の化学組成は、Ti: 2.90~3.50%、Cu: Rem. (残り) です。ベリリウム銅と同等以上の特性を有し 、強度、応力緩和特性に優れています。組成をそのままに、加工プロセスの制御によって強度・曲げ性・導電率などを向上させた製品も販売されています。

2. NKT322

NKT322は、チタン銅に少量のFeを添加することで強度や曲げ加工性を向上させた素材です。組成はTi: 2.9~3.4%、Fe: 0.17~0.23%、Cu: Rem. (残り) です。耐応力緩和特性が有り、特に高温下での接触力保持に優れています。

3. その他

耐食性の向上やはんだ加工の加工性を向上させる目的で、表面にCuめっきを施したチタン銅泊も販売されています。また、特に導電率バランスを高めた製品では、電子部品における通電時の発熱抑制/放熱性向上が期待されます。

チタン銅のその他情報

1. 製造

チタン銅は時効硬化型合金であり、焼入れと焼戻しによる、溶体化-時効硬化処理のプロセスにより製造される合金です。時効硬化処理は材料の酸化を防ぐため、非酸化性雰囲気下もしくは真空中で行うことが望ましいとされます。

溶体化処理後、冷間加工を施すことで機械的強度を高めることが可能です。冷間加工性は時効硬化処理 により劣化するため、一般には時効処理前冷間加工を行います。ただし、時効処理後でもある程度の冷間加工は可能です。

2. 化学組成

チタン銅の化学組成は、合金の種類にもよりますが、チタン (Ti) が1.8%~3.5%程度です。残りを銅 (Cu) が占めますが、微量の鉄 (Fe) が0.2%程度添加される場合もあります。鉄が添加されたものは、良好な曲げ性を有しながらも非常に強い強度 (1GPa以上の耐力) を示します。

タフピッチ銅

タフピッチ銅とは

タフピッチ銅とは、銅の含有量が99.90%以上である銅合金です。

JIS (日本産業規格) ではC1100という規格番号で規定されています。一般的に電気伝導性が高く、熱伝導性も優れています。また、タフピッチ銅は比重が軽く耐食性も高いため、電気配線や機械部品、建築材料など様々な分野で使用されている材料です。さらに加工性も優れており、板、棒、管など、様々な形状に加工できます。多様な用途に対応できる優れた性能を持つ銅合金であり、広く利用されている材料の1つです。

タフピッチ銅の使用用途

タフピッチ銅の主な使用用途は下記の通りです。

1. 電気・電子部品

タフピッチ銅は高い導電性と可塑性を持ち、電気・電子部品の製造に広く使用されています。例えば、コイル、トランス、コネクター、配線、プリント基板などが挙げられます。トランス (英: transformer) とは、電磁誘導の原理を利用して、電圧や電流を変換するための電気部品です。プリント基板 (英: printed circuit board, PCB) とは、電気回路を構成するための基盤となる板状の部品です。一般的には、ガラス繊維強化樹脂やポリイミド樹脂などの基板に、銅箔を薄く張り付け、その上に導電性のパターンを印刷して作られます。

2. 建築材料

タフピッチ銅は、その美しさと耐久性から建築材料としても使用されます。例えばドアノブ、手すり、シンク、浴槽、天井や壁の装飾などが挙げられます。

3. 熱伝導性材料

高い熱伝導性能があることから熱伝導性材料として使用されます。例えば熱交換器、放熱板、冷却器などが挙げられます。

4. その他の用途

自動車部品、船舶部品、加工機械、医療機器などが挙げられます。

タフピッチ銅の性質

タフピッチ銅の主な性質は下記の通りです。

1. 導電性

タフピッチ銅が導電性が高い理由は、銅自体が電気伝導性に優れているためです。銅は電気抵抗率が非常に低い金属の1つであり、金属の中でも高い電気伝導性を持ちます。

タフピッチ銅は、高純度の銅をベースにした合金であるため、銅自体が持つ高い導電性能をより引き出せる材料です。また、微細な結晶粒子を持ち、電子が結晶粒子同士を移動する際に障害となる隙間が少ないため導電性が高くなります。さらに、熱処理によって結晶粒子を均一に形成できるため、導電性が向上します。熱処理によって、微細な結晶粒子同士が近接して存在するため、電子の移動に妨げが生じにくく、導電性が高くなります。

2. 加工性

タフピッチ銅が加工しやすい理由は、微細な結晶粒子が均一に分布して良好な可鍛性と可延性があるためです。また、低い強度と高い塑性を持っているため変形しやすく、形状を保持しやすいことや、高い熱伝導性により加工時に発生する熱が均一に逃げやすく温度上昇が抑えられることなども挙げられます。

可鍛性とは、金属が加工される際に鍛造や圧延などの力によって変形しやすい性質のことです。可延性とは、金属が引っ張られたり伸ばされたりすることによって変形しやすい性質のことです。塑性とは、金属が圧力や力によって変形し、新しい形状を維持できる性質のことを指します。つまり、金属が変形する際に元の形状を保持せず、新たな形状に維持できる能力を表します。

3. 耐食性

タフピッチ銅は高純度の銅をベースにした合金であり、銅自体が持つ耐食性を持っています。銅は一般的に、多くの酸化物や水酸化物に対して安定しており、さらに銅表面に形成される酸化被膜により、腐食を防げる材料です。また、結晶粒子が微細で均一であるため、材料内部での組織構造が安定し耐食性を高められます。特殊な熱処理により結晶粒子を均一に保てるため、熱処理後は耐食性が高くなります。

4. 熱伝導性

タフピッチ銅は結晶粒子が微細で均一であるため、熱伝導性が高い材料です。また、銅自体が熱伝導性に優れているため、タフピッチ銅も熱伝導性が高くなります。銅自体は、熱を効率的に伝導する性質を持っています。理由は、銅原子が密に詰まっているため、原子間の距離が短く、熱エネルギーが伝達されやすいためです。

タフピッチ銅は高純度の銅をベースにした合金であり、銅自体が持つ熱伝導性に加えて、特殊な製造方法により微細な結晶粒子を形成しています。よって材料内部での熱伝導がスムーズに行われるため、熱伝導性能が高くなります。また、結晶粒子の均一性が高いため、熱の伝わりやすさが一様に保たれ、材料全体での熱伝導が高くなるのが特徴です。

5. 耐食性が優れている

タフピッチ銅は高純度の銅をベースにした合金であり、腐食に強い優れた耐食性を持っている材料です。また、特殊な熱処理により均一な結晶粒子構造を持ち、さらに耐食性を高められます。さらに、タフピッチ銅には微生物に対する抗菌性があるため耐食性に優れた材料として使用されます。

6. 抗菌性

タフピッチ銅には、一般的な銅材料と同様に抗菌性があリマス。銅は抗菌性に優れ、多くの種類の細菌やウイルスなどの微生物を殺菌することが知られています。抗菌性は銅の表面に存在するイオンによってもたらされます。

タフピッチ銅も純度が高く、均一な結晶粒子が存在するため、抗菌性能が高くなります。また、タフピッチ銅の表面は、細胞膜や酵素などを損傷できる銅イオンを放出しやすくなっています。そのため医療機器や食品加工装置などの分野で、抗菌性が要求される用途に適しています。

タフピッチ銅のその他情報

タフピッチ銅の代替品

タフピッチ銅の代替品として、銅ニッケル合金や銀めっき銅などがあります。これらの材料も高い導電性や耐食性を持っていますが、タフピッチ銅と比較して、加工性や熱伝導性などの特性が異なるため、用途によってはタフピッチ銅が適している場合があります。

スラグ

スラグとは

スラグ

スラグとは、鉄や銅などの金属を溶かして精錬する際に発生する副産物のことです。

金属鉱石中に含まれる不純物が溶け出して石灰やシリカなどの酸化物と反応して生成されます。金属以外にもセメントやガラスの原料として利用されたり、鉄道や舗装の素材として再利用されたりすることもあります。再利用により資源の有効活用や廃棄物の削減が期待されますが、環境汚染の原因となることがあるため、製造過程において適切に処理する必要があります。

スラグの使用用途

1. セメントの原料

スラグは主にシリカ、アルミナ、酸化鉄などの酸化物を含んでいる材料です。シリカ、アルミナ、酸化鉄などはセメントの原料として利用され、セメントの主成分である石灰と一緒に加熱することで、スラグは化学反応を起こし、固化した材料となります。スラグをセメントに使用することで、酸化物を取り除いたり、セメントの強度を向上できます。

シリカは、化学式がSiO2で表される酸化ケイ素と呼ばれる化合物です。アルミナは、化学式がAl2O3で表される酸化アルミニウムと呼ばれる化合物です。

2. ガラスの原料

主にシリカやアルミナなどの酸化物を含んでおり、これらの成分はガラスの主要な成分であるシリカ酸やアルミナなどと同様の成分であるため、ガラス製造において利用されます。

3. 道路や鉄道の下部構造の素材

密度が高く耐久性があるため、道路や鉄道の下部構造に使用される素材として最適です。また、浸透性が低いため水はけがよく、道路や鉄道の建設においては排水性に優れた素材としても利用されます。

4. 建材、石灰岩などの原料

スラグは、シリカ、アルミナ、酸化鉄、カルシウムなどの成分を含んでおり、これらの成分は石灰岩やセメントなどの建材に利用されます。固体であるため、建材の材料として利用される際には、そのまま使用可能です。

5. 路盤の安定化

スラグは、道路や鉄道の路盤の安定化にも利用される材料です。固体であるため、土壌と混ぜることで路盤の安定性を向上できます。また、密度が高いため土壌の圧縮性を向上できます。

6. 防音壁、防護壁、舗装材料

音響特性に優れているため、防音壁や防護壁、舗装材料に利用されることがあります。

7. 土壌改良剤

スラグは、農業において土壌改良剤としても利用される材料です。土壌の酸性度を中和し、栄養素を供給するため、農業においては肥料として利用されます。スラグに含まれる鉄分やカルシウム分は、作物の成長に必要な栄養素としても利用されます。

8. 地盤改良材

土壌の密度を高めて圧縮性を向上させるため、地盤改良に適しています。地盤改良材として、道路や鉄道の建設にも利用されます。

9. 環境浄化材

スラグに含まれる成分は、汚染物質を吸着し、取り除く効果があります。例えば水質浄化に利用されることがあります。スラグには鉄分やアルミニウム分などの金属イオンが含まれており、これらのイオンは水質浄化に必要な処理に利用されます。

10. 再生鉄粉の製造原料

スラグは再生鉄粉の製造原料としても利用されます。再生鉄粉は、鉄の製造過程で発生する鉄スケールやスチールスクラップなどの廃棄物を再利用して製造される鉄の粉末で再生鉄粉の製造原料として使用されています。

スラグの性質

スラグは、金属鉱石を高温で溶かし、金属と不純物を分離する過程で発生します。基本的な過程は以下の通りです。

1. 金属鉱石の溶解

金属鉱石を高温で溶かすことで金属と不純物を分離する溶解過程が始まります。この際、金属鉱石中に含まれる不純物は鉱石自体よりも低い融点を持つため、溶解中に溶け出してくる傾向があります。

2. 酸素吹き込み

金属鉱石が溶けた溶融スラグ中には、金属とともに酸化物も含まれています。この酸化物を不純物とともに取り除くために、酸素を吹き込むと、不純物が酸化されてスラグになるために溶け込みやすくなります。

3. 不純物の反応

酸素吹き込みによって不純物が酸化され、溶融スラグ中に溶け込んだ後、石灰やシリカなどの添加剤と反応してスラグが生成されます。この反応によってスラグは金属とは異なる性質を持つ液体として残ります。

4. スラグの取り出し

スラグは金属よりも軽いため、液体のまま表面に浮かび上がるため、スラグは金属と分離しやすくなります。金属とスラグが分離した後、スラグは冷却されて固化され、副産物として処理されます。

スラグの種類

スラグは、金属鉱石の種類や精錬方法によって多様な種類があり、分類方法がいくつかあります。以下に、スラグの代表的な分類方法を紹介します。

1. 材料の種類による分類

スラグは、金属鉱石の種類によって異なる材料から生成されるため、その材料に基づいて分類することもあります。代表的なスラグの材料としては、鉄スラグ、銅スラグ、鉛スラグ、亜鉛スラグ、アルミニウムスラグなどがあります。

2. 化学組成による分類

スラグは、鉱石中の不純物や添加剤によって異なる化学組成を持っているため、化学組成に基づいて分類することもあります。例えば、石灰スラグ、シリカスラグ、アルミナスラグ、マンガンスラグなどが挙げられます。

3. 製造工程による分類

スラグは、金属鉱石の精錬プロセス中で発生する副産物であるため、製造工程によって異なる特性を持つことがあります。例えば、高炉スラグは、高炉による鉄鋼製造プロセスで発生するスラグであり、溶融スラグは、溶解炉による銅製造プロセスで発生するスラグです。このように、スラグの製造工程を基準にして分類することもあります。

スラグの種類

代表的なスラグと、その生成過程と再利用方法は下表の通りです。

スラグ名 生成過程 再利用方法
鉄スラグ 金属鉱石を高温で溶かして、酸素を吹き込むことで生成 セメントやコンクリートの原料、道路や鉄道の下部構造の素材、砂利や舗装材料の代替素材として利用
銅スラグ 銅の製造過程で、鉱石を高温で溶かして、酸素を吹き込むことで生成 セメントや舗装材料、研磨剤、道路の下部構造の素材として利用
アルミニウムスラグ アルミニウムを含む金属鉱石を高温で溶かして、酸素を吹き込むことで生成 セメント、土壌改良剤、舗装材料、金属部品の製造などに利用
シリコンスラグ シリコン鉱石を還元する過程で発生する セメント、石灰岩、土壌改良剤、建材の製造、鉄鋼製造の添加剤として利用
鉄鋼スラグ 鉄鋼製造プロセスで発生する セメントやコンクリートの原料、道路や鉄道の下部構造の素材、砂利の代替素材、鉄鋼の精錬時に不純物を取り除く添加剤、鉄鋼製造プロセスの燃料
亜鉛スラグ 亜鉛鉱石の精錬プロセスで発生する セメント、土壌改良剤、道路の下部構造の素材、金属のリサイクル
ニッケルスラグ ニッケル鉱石の精錬プロセスで発生する セメントや土壌改良剤、道路の下部構造の素材、金属のリサイクル

スラグのその他情報

1. スラグの活用

スラグは、金属精錬の他にも、環境対策や建設分野、農業など幅広い分野で活用されています。

例えば、スラグは土壌改良材として利用されることがあります。スラグには、石灰や鉄分などの成分が含まれており、土壌のpH値を調整し、土壌中の栄養素の吸着力を高める効果があるのが特徴です。また、スラグは通気性を改善し、水はけを良くするため、農作物の生育を促進できます。

さらに環境対策にも有効です。スラグは酸性雨や土壌汚染物質の吸着剤として利用されることがあります。特に、石灰スラグは酸性雨の中和に効果的であり、環境保全に役立っています。

建設分野では、スラグは道路や鉄道の下部構造材料や建材の原料として利用されています。耐久性や耐久性に優れ、環境にもやさしい素材として注目されています。

2. スラグに関連したJIS規格

スラグ骨材に関するJIS (日本産業規格) には以下があります。スラグ骨材は、鉄や非鉄金属を製錬する際に発生する溶融スラグを再生利用した建築資材の一種です。

  1. JIS A 5011 (コンクリート用スラグ骨材)
    高炉スラグ骨材
    フェロニッケルスラグ骨材
    銅スラグ骨材
    電気炉参加スラグ骨材
  2. JIS A 5012 (コンクリート用高炉スラグ細骨材)
  3. JIS A 5015 (道路用鉄鋼スラグ)
  4. JIS A 5021 (コンクリート用再生骨材H)

スピネル

スピネルとは

スピネル

スピネルとは、マグネシウムとアルミニウムから構成される酸化物鉱物です。

化学式はMgAl2O4と表され、高い硬度と耐久性を持ちます。スピネルは天然に産出する他に、人工的にも合成できます。人工合成されたスピネルは工業用途に使用されることがあります。また生体適合性が高いため医療用途にも使用されます。

スピネルには、カトライト、クロムスピネル、マグネシオクロムスピネルなどの多くの種類が存在します。これらの鉱物はスピネル構造を持っているため高い耐久性や耐熱性を持っています。

スピネルの使用用途

1. セラミックス

スピネルは高温に耐えることができるためセラミックスの材料として使用されます。具体例としては、陶磁器や磁器、半導体製造装置の部品、光学機器などが挙げられます。

2. 電子材料

スピネルは絶縁体であり、また高周波やマイクロ波を通すことができるため電子材料の基板やキャパシターの材料として使用されます。キャパシターは、電気的なエネルギーを貯めることができる装置です。2つの電極 (導体) の間に、絶縁材料 (誘電体) を挟んで構成されています。

3. 触媒

スピネルは触媒として使用され化学反応を促進します。具体例としては,自動車用排気ガス浄化触媒、石油精製触媒などが挙げられます。触媒とは、化学反応を促進する物質であり、反応に必要な活性化エネルギーを下げる働きを持ちます。

4. 光学材料

スピネルは光学的に透明であり、レーザーダイオードの材料などに使用されます。レーザーダイオード (LD) は、半導体素子の一種であり、電気信号を光信号に変換するデバイスです。

5. 宝石や顔料

スピネルは宝石として使用され、人工的に合成されたスピネルは、宝石市場で販売されています。またスピネルは顔料として使用され、陶磁器やガラスなどの色付けに使用されます。

6. 磁性材料

スピネルには磁性を持つ種類もあり、磁気ディスクやスピーカーの磁性材料として使用されます。

7. 耐火物

スピネルは高温に耐えるため耐火物の材料として使用されます。使用例としては、耐火レンガ、ガラス製造の原料、耐火コーティング剤、工業用炉の材料などが挙げられます。

8. カメラレンズ

スピネルは光学的に透明であり優れた光学性能を持つため、カメラレンズの材料として使用されます。

スピネルの性質

1. 耐久性

スピネルは非常に硬くて傷がつきにくいため、工業材料や宝石として使用されます。スピネルは、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンが酸素イオンを共有して形成された結晶構造を持っています。この結晶構造は、非常に強力なイオン結合を形成しており、強い結合力が硬度と耐久性をもたらす要因です。

2. 耐熱性

スピネルは高温に耐えるため、耐火物やセラミックスの材料として使用されます。スピネルの結晶構造は非常に安定していて、イオン結合が強く、結晶構造中にあるイオンは非常に密に詰まった状態です。

そのため高温下でもイオンの移動や結晶構造の変化が起こりにくく、熱による膨張も抑制されます。さらにスピネルの結晶構造は非常に均一で欠陥が少ないため、高温下でも結晶構造が崩れることが少なく、耐久性が高くなります。

3. 耐食性

スピネルは化学的に安定であり、酸やアルカリに対して耐性があるため、触媒や光学材料の材料として使用されます。スピネルの結晶構造は、外部からの酸やアルカリの攻撃を防げます。また高温にも耐えられるため、加熱による酸化や腐食を防げます。

さらにスピネルの化学的な組成も耐食性に効果的です。スピネルはアルミニウムと酸素のイオンが八面体を形成し、その八面体の中にマグネシウムイオンが配位しています。この構造によりスピネルは非常に密な結晶構造を持ち、外部からの物質の侵入を防ぎます。

4. 電気絶縁性

スピネルは絶縁体であり高周波やマイクロ波を通せるため、電子材料の基板やキャパシターの材料などとして使用されます。

スピネルはイオン結晶であり正電荷を持つ金属イオンと負電荷を持つ酸素イオンが交互に配列した結晶構造を持っているため、スピネルは電子の移動を阻害し、電気絶縁性が高くなります。

またスピネルの結晶構造は、空間が小さいことも特徴です。このため電荷を帯びた粒子が通過する際に衝突する可能性が高くなり、電気絶縁性が高くります。

5. 光学的特性が優れている

スピネルは光学的に透明です。スピネルは密度が高く、内部の欠陥や不純物が少ないため非常に透明度が高く、特に紫外線や可視光線をよく透過します。またスピネルは高い屈折率を持ち、光の伝播速度が非常に速いため、反射が少なく光の透過性が高くなっています。

スピネルのその他情報

スピネルの色合い

スピネルは、多様な色合いを持つ鉱物の1つです。その色合いは、スピネル中に含まれる不純物や置換物によって決まります。スピネル中にはアルミニウムイオンがスピネル構造の中心に位置するため、他のイオンが置換されることで色が変わります。

例えば赤色のスピネルはクロムイオンによって着色されたものです。クロムイオンがアルミニウムイオンの代わりにスピネル構造中に取り込まれることで鮮やかな赤色が現れます。青色のスピネルは鉄イオンがスピネル構造中に取り込まれることで発色します。また黒色のスピネルはマグネシウムや鉄などのイオンが多く含まれるために現れます。

スピネルは単色のものだけでなく色の混ざったものも存在します。例えばピンク色のスピネルは、マンガンやクロムなどのイオンがスピネル構造に取り込まれることで色合いが調整されます。また茶色やオレンジ色のスピネルは、鉄やクロムなどのイオンが含まれることで発色します。

スキンパス

スキンパスとは

スキンパス

スキンパスは、鋼板などの金属素材を加工する際に用いられる加工方法の一つです。

目的は冷間圧延によって生じる歪みを矯正することで、板材の表面を滑らかに整えて板材の表面のつやだしができます。スキンパスによって板材の強度が低下することがあるため、板材の強度を補強するためにスキンパスを終えた後に熱処理を施す場合があります。スキンパス加工は鋼板をはじめとする金属素材の加工に広く利用されています。

スキンパスの使用用途

1. 建築・建設

外壁材や屋根材、エレベーターやエスカレーターの踏板やフレーム部品、水道施設や河川橋梁の鋼構造部品などが挙げられます。

2. 自動車・輸送機器

自動車の外板やフレーム部品、鉄道車両の外板やフレーム部品、船舶の外板や構造部品などが挙げられます。

3. 家電・電子

家電製品の筐体やフレーム部品、医療機器の筐体やフレーム部品、自動販売機やATMの筐体やフレーム部品、工作機械や測定器の筐体やフレーム部品などが挙げられます。

4. その他

照明器具やシーリングファンの筐体やフレーム部品、ゴルフクラブやテニスラケットのフレーム部品などが挙げられます。

スキンパスの性質

スキンパスは板材の表面を滑らかに整えるように軽く圧延するため、板材の歪を矯正でき、板材の表面の凹凸を均一化することで光の反射が均等になり、つや (光沢) を出せます。平坦度や表面硬度も向上できます。

スキンパスは軽い圧延や引き抜きなどの簡易的なものであり、加工後の板材に大きな変形が生じないため、より精密な加工を施す前の最終仕上げとして用いられます。

スキンパスの種類

スキンパスには、主に以下の3種類があります。名称は異なる場合もあります。

1. 切板用スキンパス

切板用スキンパスは、板材を1枚ずつ切断して加工する方法で、板材の表面状態の調整や圧延歪の矯正に使用されます。板材の歪みを矯正するために軽い圧力をかけながら板材を加工します。圧力は板材の強度や硬度に合わせて調整されます。

切板用スキンパスは1枚ずつ板材を加工するため、生産性が低くて時間がかかりますが、加工対象の板材が小さく様々な形状に加工できるため、柔軟性が高いです。また、加工後の板材の表面が滑らかであり平坦度が高くなるため、精密な加工を施す前の最終仕上げとしてよく利用されます。

2. 連続スキンパス

連続スキンパスは、金属素材を連続的に加工する方法の1つです。コイル状態の金属板を使用して一度に大量の板材を短時間で加工でき、コイルに巻かれた板材がスキンパスミルを通過することで板材の表面状態を調整して歪みを矯正します。

連続スキンパスは大量生産に向いた加工方法であり、生産性が高くて加工コストを抑えられます。加工速度が速いため短時間で多くの板材を加工できます。また板材の厚さによって調整可能な加工力を持ち、板材の厚みに合わせて加工できるため多様な種類の金属素材に対応できます。

3. テンションレベリング

テンションレベリングはスキンパスの一種で、鋼板にテンションをかけつつその反作用を利用して表面の凹凸を取り除き、平坦な状態にする加工方法です。

テンションレベラーは、コイル状態の板材を繰り返し曲げることで圧延歪の矯正やそりの除去を行う加工機械です。テンションレベラーは、コイルの内部に巻かれたテンション (引っ張り力) を利用して板材を曲げ、曲げた状態で加工します。

スキンパスミルよりも精度が高く、圧延歪を効果的に除去できます。また板材を繰り返し曲げることで表面の凹凸を均一化でき、つや出し効果があることが特徴です。さらに板材の硬度の改善にも有効であり、高品質の板材を製造するために欠かせない加工機械の1つです。

テンションレベラーには、前後にロールを備えたローラレベラーと、上下にロールを備えた上下レベラーがあります。前者は板材を前後に移動させながら圧延歪を矯正し、後者は板材を上下に移動させながら圧延歪の矯正します。使用する板材の形状や加工目的に応じて適切なテンションレベラーを選択することが重要です。

スキンパスのその他情報

プラスチックのスキンパス

スキンパスは主に金属素材の加工に用いられますが、プラスチック素材の加工にも利用されることがある加工技術です。プラスチック素材の場合、透明なプラスチック素材であるポリカーボネートやアクリル樹脂などをスキンパスすることで、表面の凹凸を均一化して美しい仕上がりになります。

スキンパスによって透明なプラスチック素材の表面が均一になり、美しい仕上がりになります。その際にプラスチック素材の表面にできる小さな傷やキズも磨き取ることが可能です。

スカルピング

スカルピングとは

スカルピング (英: scalping) とは、機械加工では表面の欠陥等を除去する作業のことです。

粉体工学の分野では粒子群から少量の粗大粒子を除去する操作を指す場合に使われることもあります。この場合のスカルピングは、一般的に異物除去が目的でふるい分けされる操作をいい、選鉱採掘した鉱石群のなかから高品位粒子だけを分ける操作が該当します。

スカルピングの使用用途

スカルピングという名称は、スカルピングカッタという工具として知られています。スカルピングカッタは、金属素材を圧延加工で長尺シートの板材に成形するような場合、その前処理として板材の表面を覆っている酸化層や汚れを除去する目的のために使用されています。

板材を広範囲に連続して行う面削工具をいい、円柱状の本体と本体外周に間隔をおいて、もうけた切れ刃で構成されています。そして、板材を軸線方向に動かすと同時にスカルピングカッタを反対方向に回転させていくことで、板材の面を広く浅く切削していきます。

スカルピングの原理

スカルピングは、板材の表面を薄く削っていく円柱状のスカルピングカッタのほか、ビレット (円柱もしくは管状の素材) の外周を薄く削る加工も行われています。

スカルピング装置は、従来は軸線状に沿ってビレットを移動させ、表面を削り取っていく手法が一般的で、この時使用された装置の本体をローダーと呼び、切れ刃をスカパーと呼ばれていました。この方法は、角度の変えられる2面のローダーを使って行われていましたが、不都合もありローダーの形状が改良された経緯があります。

選鉱のふるい分けとして使われるスカルピングは、粒子の大きさによって分離するもので、その大きさは一般的には100μm以上とされていますが、簡易な方法でもあることが好まれ、改良が加えられた結果、3μmというレベルまで向上しています。この場合のスカルピングは、鉱石の選別となる選鉱で使用されるもので、大きさでふるい分ける操作を指しています。

ジュラルミン

ジュラルミンとは

ジュラルミン

ジュラルミンとは、高力アルミニウム合金の一種です。

アルミニウムに対して4%のと少量のマグネシウム、マンガンを加えた組成が標準組成です。540℃程に加熱した後に、水の中で急冷してから常温の状態で96時間程放置することで、徐々に硬く変化し軟鋼に匹敵する強度となります。ジュラルミンは鋼と同等の強度でありながら密度が鋼の3分の1程度であるため、実用性が極めて高い合金です。

航空機の発達に伴って改良が重ねられており、さらに高力の超ジュラルミン超々ジュラルミンなども実用化されています。

ジュラルミンの使用用途

ジュラルミンの比重は鉄の約3分の1であり、同一重量当りの強さは鉄材の3倍となります。そのため、この値の大きいことを要求する航空機用材に最適で、飛行機の機体用の構造材として長く使用されています。また、優れた特性から自動車の構造材や建築、その他の強力構造材などにも利用されています。

ねじ類・航空宇宙機器・ギヤ部品・リベット類・油圧部品・船舶用部品などの工業用途としても用いられている他、身近な製品では、スキーや金属バットなどのスポーツ用品にも幅広く利用されています。 

ジュラルミンの性質

ジュラルミンは、他のアルミニウム合金と比べて優れた切削加工性がありますが、溶融溶接性や耐食性が比較的弱いといった特徴もあります。そのため、腐食環境にて使用する部品や製品にジュラルミンを利用する場合には十分な防食処理が必要です。

この欠点は、硬度を高めるために添加された銅による耐食性の低下が原因です。防食処理の手段の例としては、ステンレス等の耐食性に優れた材質で挟み込んで利用するなどの方法が挙げられます。

ジュラルミンの種類

ジュラルミンには、通常のジュラルミンの他に、超ジュラルミンと超々ジュラルミンが存在しています。

1. 超ジュラルミン

超ジュラルミンは、銅とマグネシウムの添加量が通常のジュラルミンと異なります。銅とマグネシウムの添加量を増加させることによって、ジュラルミンよりも高い強度と切削加工性を持ち合わせるようになります。

2. 超々ジュラルミン

超々ジュラルミンは、ジュラルミンと比べて遥かに高い強度をもっています。超々ジュラルミンは、銅とマグネシウムに、さらに亜鉛を加えた合金です。超々ジュラルミンの強度は、ステンレス鋼にわずかに劣る程度であり、アルミ合金の中では最高クラスの強さをもっています。 

切削性については、ジュラルミンと超ジュラルミンは良好で切削加工をしやすい部類になりますが、超々ジュラルミンは強度が高いため切削しにくい難削材の部類になります。

ジュラルミンのその他情報

1. ジュラルミンの強度

ジュラルミンはアルミニウムの引張強さである260N/mm2を大幅に上回る425N/mm2の強度があります。鋼材のひとつであるSS400が400N/mm2であるため、アルミニウム合金でありながら鋼材並みの引張強さを持つ材料といえます。また、比重は鉄の7.87を大幅に下回る2.79であるため、鋼材と同程度の強度を持ちながら約3倍ほど軽いメリットがあります。

2. ジュラルミンの欠点

ジュラルミンの欠点として、溶接性が低いことが挙げられます。アルミニウムと同様に熱伝導率が高く、鉄と比較すると歪みが生じやすいため溶接時間を短くしなければなりません。融点も低いため母材が溶け落ちやすいことから、ジュラルミンは溶接加工が非常に難しい材料です。そのため溶接には通常の溶接よりも温度が低い抵抗スポット溶接機を用いるといった対策がとられたり、そもそも接合には溶接ではなくリベットやボルトで接合する例もあります。

また、アルミニウム合金の中でも特にジュラルミンは耐食性が悪く、金属の結晶と結晶の間が腐食する粒界腐食が起こりやすいため腐食が進行すると割れが生じやすくなるデメリットがあります。