スラグとは
スラグとは、鉄や銅などの金属を溶かして精錬する際に発生する金属と不純物の混合物です。
スラグは、金属製造の原料である鉱石の中に含まれる不純物が溶出し、石灰やシリカなどの酸化物と反応して生成されるものです。材料として再利用する場合もあります。
スラグは原料 (金属、セメント、ガラスなど) としてだけでなく、鉄道または舗装の素材として再利用するケースもあります。スラグは、再利用にすれば資源の有効活用や廃棄物の削減が期待されます。しかし、環境汚染の原因になる一面もあり、製造過程で適切な処理が必要です。
スラグの使用用途
1. セメントの原料
スラグはシリカ、アルミナ、酸化鉄などの酸化物を含む材料です。スラグに含有する成分 (シリカ、アルミナ、酸化鉄など) はセメントの原料として利用されています。
セメントの主な成分である石灰と一緒にスラグを加熱すると化学反応を起こし、固化した材料として利用可能です。さらにスラグをセメントと混合すると、酸化物の除去やセメントの強度を向上できます。
スラグに含有しているシリカは、化学式がSiO2で表され、酸化ケイ素と呼ばれる化合物です。また、スラグに含有しているアルミナは、酸化アルミニウムと呼ばれる化合物で化学式はAl2O3で表されます。
2. ガラスの原料
スラグは酸化物 (シリカやアルミナ) を含んでおり、これらの成分はガラスの主要成分であるシリカ酸やアルミナなどと同様の成分であり、主にガラス製造で利用されます。
3. 道路や鉄道の下部構造の素材
スラグは密度が高くて耐久性があるため、道路や鉄道の基礎に使用される素材に最適です。また、スラグは浸透性が低い性質があり、水はけが良いため、道路や鉄道の建設現場で排水性に優れた素材としても利用されます。
4. 建材、石灰岩などの原料
スラグに含まれる成分 (シリカ、アルミナ、酸化鉄、カルシウムなど) は石灰岩やセメントなどの建材に利用されます。また、スラグは固体である性質を活かし、建材に利用する際には、そのまま使用できる材料です。
5. 路盤の安定化
スラグは、道路や鉄道の路盤安定化にも役立つ材料です。スラグは固体であり、密度が高い性質を活かして土壌に混ぜると、路盤の安定性が向上し、土壌の圧縮性向上にも役立ちます。
6. 防音壁、防護壁、舗装材料
スラグは音響特性に優れており、防音壁や防護壁、舗装の材料として利用します。
7. 土壌改良剤
スラグは、農業の土壌改良剤としても利用される材料です。土壌の酸性度を中和し、栄養素を供給するため、農業では肥料にも活用されます。スラグに含有している鉄分やカルシウム分は、作物の成長に必要な栄養素としてとても重要です。
8. 地盤改良材
スラグは土壌の密度を高めて圧縮性を向上させるため、地盤改良に適しています。地盤改良材として、道路や鉄道の建設にも利用されます。
9. 環境浄化材
スラグには金属イオンが含まれており、主な成分は鉄分やアルミニウム分などです。また、スラグの含有成分は、汚染物質を吸着・除去する効果があり、主に水質浄化などに利用されています。
10. 再生鉄粉の製造原料
スラグを細かく粉砕すれば再生鉄粉の製造原料としても利用可能です。再生鉄粉とは、鉄の製造過程で発生する鉄スケールやスチールスクラップなどの廃棄物を再利用したものです。
スラグの原理
スラグは、金属の原料となる金属鉱石を高温で溶かし、金属と不純物を分離する過程で発生するため、基本的な発生過程を解説します。
1. 金属鉱石の溶解
金属鉱石を高温で溶かすと、金属と不純物を分離する溶解過程が始まります。金属鉱石に含まれる不純物は純粋な鉱石よりも融点が低いです。そのため、溶解中に純粋な鉱石よりも早く溶け出す傾向にあります。
2. 酸素吹き込み
金属鉱石が溶けた溶融スラグ中には、金属とともに酸化物も含まれています。この酸化物を不純物とともに取り除くためには、製造工程上、酸素の吹き込みが必要です。溶解スラグに酸素を吹き込めば不純物が酸化し、スラグに溶け込みやすくなります。
3. 不純物の反応
溶融スラグ中に溶け込んだ不純物は、添加物 (石灰やシリカなど) と反応して新たに生み出されたものがスラグです。この反応によってスラグは金属とは異なる性質を持つ液体として残ります。
4. スラグの取り出し
スラグは金属よりも軽く、液体のまま溶解金属の表面に浮かび上がり、金属と分離する性質があるため、回収が容易です。金属とスラグが分離し、冷却・固化したものがスラグであり、金属を製造した際の副産物として処理します。
スラグの種類
スラグは金属鉱石の種類や精錬方法により、種類が豊富です。スラグは金属を製造する際に用いる原料によって分類も異なるため、代表的なスラグの分類方法を紹介します。
1. 材料の種類による分類
スラグを再利用すると材料としての利用価値が生まれます。ただし、スラグを材料として使用価値を見出すには、スラグの主たる成分を正確に判別することが重要です。
その際、スラグ (材料) の種類によって分類します。また、スラグには豊富な種類 (鉄スラグ、銅スラグ、鉛スラグ、亜鉛スラグ、アルミニウムスラグなど) が存在します。
2. 化学組成による分類
スラグは鉱石中の不純物や添加剤により、異なる化学組成を持ち、化学組成に基づいて分類されます。例えば (石灰スラグ、シリカスラグ、アルミナスラグ、マンガンスラグ) などが代表的です。
3. 製造工程による分類
スラグは金属鉱石の精錬プロセス中で発生して生まれます。この精錬プロセスによって異なる特性を持つ分類方法が製造工程による分類です。
例えば、高炉スラグは、高炉による鉄鋼製造プロセスで発生します。溶融スラグは、主に溶解炉による銅製造プロセスで発生する銅スラグです。
スラグの種類
代表的なスラグおよびスラグの生成過程と再利用方法は下表の通りです。
スラグ名 | 生成過程 | 再利用方法 |
---|---|---|
鉄スラグ | 金属鉱石を高温で溶かし、酸素の吹き込みにより生成 | コンクリートやセメントの原料、道路や鉄道の下部構造の素材、砂利や舗装材料の代替素材として利用 |
銅スラグ | 銅の製造過程で、鉱石を高温で溶かし、酸素の吹き込みにより生成 | セメントや舗装材料、研磨剤、道路の下部構造の素材として利用 |
アルミニウムスラグ | アルミニウムを含む金属鉱石を高温で溶かし、酸素の吹き込みにより生成 | セメント、土壌改良剤、舗装材料、金属部品の製造などに利用 |
シリコンスラグ | シリコン鉱石を還元する過程で発生 | 石灰岩、セメント、土壌改良剤、建材の製造、鉄鋼製造の添加剤として利用 |
鉄鋼スラグ | 鉄鋼製造プロセスで発生する | セメントやコンクリートの原料、道路や鉄道の下部構造の素材、砂利の代替素材、鉄鋼の精錬時に不純物を取り除く添加剤、鉄鋼製造プロセスの燃料 |
亜鉛スラグ | 亜鉛鉱石の精錬プロセスで発生する | セメント、土壌改良剤、道路の下部構造の素材、金属のリサイクル |
ニッケルスラグ | ニッケル鉱石の精錬プロセスで発生する | セメントや土壌改良剤、道路の下部構造の素材、金属のリサイクル |
スラグのその他情報
1. スラグに関連したJIS規格
スラグ骨材に関するJIS (日本産業規格) には以下があります。スラグ骨材は、鉄や非鉄金属を製錬する際に発生する溶融スラグを再生利用した建築資材の一種です。
- JIS A 5011 (コンクリート用スラグ骨材)
高炉スラグ骨材
フェロニッケルスラグ骨材
銅スラグ骨材
電気炉参加スラグ骨材 - JIS A 5012 (コンクリート用高炉スラグ細骨材)
- JIS A 5015 (道路用鉄鋼スラグ)
- JIS A 5021 (コンクリート用再生骨材H)