ネーバル黄銅とは
ネーバル黄銅とは六四黄銅(銅60%、亜鉛40%の銅合金)に1%程度の微量の錫を添加した特殊黄銅の一種であり、JISの材料記号ではC4621であらわされます。耐海水性が高いことから海軍黄銅とも呼ばれ、主に船舶や化学工業用途に用いられます。
同様に錫を添加した特殊黄銅としては七三黄銅に錫やヒ素を添加したアドミラルティ黄銅などが知られていますが、アルミニウムを添加したアルミニウム黄銅(アルブラック)と比較して、耐潰食性に劣ることから、日本国内での使用は限定的です。
ネーバル黄銅の使用用途
ネーバル黄銅の使用用途としては、その高い海水耐性を利用した船舶用途が挙げられます。また通常の耐食性にも優れていることから、このほかにも化学工業などの器具に加え、ボルトやナット、バルブステム、コンデンサープレートなどのさまざまな用途に使用されています。
また関連する合金として、ネーバル黄銅に鉛とマンガンをそれぞれ1%弱添加した銅合金は打ち抜き性や耐疲労性に優れており、楽器弁用黄銅(JIS:C6711)と呼ばれます。この合金はその名の通りオルガンなどの楽器弁に広く用いられています。
ネーバル黄銅の特徴
ネーバル黄銅の特徴はその耐食性の高さにあります。通常の黄銅も比較的耐食性に優れた合金といわれますが、脱亜鉛腐食と呼ばれる脱成分腐食の発生が知られています。この脱亜鉛腐食は合金中の亜鉛成分が優先的に溶解することで、銅成分が偏って残存してしまい、腐食が進みやすくなる現象です。亜鉛成分の含有比が低い場合には問題となりませんが、通常の黄銅合金は30~40%程度の亜鉛を含むためこの腐食が無視できず、腐食条件下での信頼性に問題があるといわれていました。
ネーバル黄銅は錫を添加することにより、この脱亜鉛腐食の抑制が図られており、淡水・海水いずれに対しても優れた耐腐食性を有しています。また錫の添加により硬度・強度は増加する反面、伸び性は低下していると言われます。
このように特に耐海水性に優れたネーバル黄銅ですが、近年ではアルミニウムを黄銅に添加した合金であるアルミニウム黄銅(アルブラック)、ニッケルを含む銅合金であるキュプロニッケルなど、より高い耐腐食性を有する合金の使用が増加しており、特に船舶や伝熱管などでのネーバル黄銅の使用頻度は低下していると言われています。