一酸化炭素

一酸化炭素とは

一酸化炭素とは、炭素の酸化物の1種であり、常温常圧で無色無臭、可燃性の気体です。

酸素が不十分な環境下で、炭素や炭素化合物が燃焼したり、高温環境下で二酸化炭素がコークスによって還元されたりする際に発生します。一酸化炭素は、ボンベ入りで市販されています。また、石炭や石油などを多量に消費する工場地帯の大気中には、多量の一酸化炭素が存在することもあります。

さらに、自動車の排気ガス中にも、一酸化炭素が含まれています。一酸化炭素は、一酸化炭素中毒の原因となる物質で、労働安全衛生法では、「特定化学物質第3類物質」「危険物・可燃性のガス」「名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」に、労働基準法では、「疾病化学物質」に、それぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

一酸化炭素の使用用途

一酸化炭素は、発生炉ガスや水性ガス等の主成分として、工業用気体燃料に利用される他に、金属の冶金を行う際に、還元剤としても広く用いられています。メタノール、アンモニア原料などをはじめとする、工業上重要な化合物を製造する際の原料としても、非常に重要な化合物です。

一酸化炭素は、特殊な条件下で触媒を作用させると、多くの遷移金属と反応し、金属カルボニルをつくります。例えば、ニッケルカルボニルやコバルトカルボニルは、レッペ反応やオキソ反応の触媒として、有機合成化学において重要な化合物です。

一酸化炭素の性質

一酸化炭素は、分子式がCO、分子量が28.01の気体です。引火点-191℃、融点-205℃、沸点-191.5℃、発火点605~609℃で、水にはほとんど溶けません。金属と反応して金属カルボニルを作りやすい性質があります。青色の炎を出して燃えて炭酸ガスになります。

一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンの作用を阻害するといった毒性を持っています。また、還元性があり、空気と混合すると、きわめて爆発しやすいです。火災の際は、粉末または炭酸ガス消火器を用います。

一酸化炭素のその他情報

1. 一酸化炭素の製造方法

一酸化炭素は、実験室レベルでは、濃硫酸とギ酸を混合し、脱水することによって生成されます。

HCOOH → CO + H2O

工業的には、コークスや石炭などの炭素と水蒸気を800℃以上の高温で反応させることで、一酸化炭素と水素の混合ガス (水性ガス) として得られます。

C + H2O → CO + H2

また、工業的には、炭化水素ガス (天然ガス、プロパン、製油所ガス) から一酸化炭素ガスを作ることができます。炭化水素ガスを活性炭に通して脱硫した後、水蒸気、二酸化炭素と混合します。

この混合ガスを、780℃に加熱されたニッケル触媒を充填した反応管に通すことで、一酸化炭素と二酸化炭素、水素の混合物が得られます。融点の違いからCO2は冷却により除去され、さらにソーダで洗浄、脱水した後、深冷分離法により、一酸化炭素ガスと水素ガスは分離されます。

CH4 + H2O → CO + 3H2 / CH4 + 2H2O → CO2 + 4H2

2. 一酸化炭素中毒

一酸化炭素中毒とは、一酸化炭素が原因となる中毒症状のことです。頭痛、めまい、脱力感、嘔吐、胸痛、錯乱などの症状が現れます。一酸化炭素がヘモグロビンと結合して、酸素を運搬する機能を妨げることで、中毒症状を引き起こします。

1時間の暴露では、症状は500ppmで現れ始め、1,000ppmでは顕著な症状が現れ、1,500ppmで死亡に至ります。症状が風邪に似ているため、火事などが原因でない場合には、気づかず一酸化炭素を吸い続け、急速に昏睡に陥り、気付かずに死亡することも珍しくありません。

対策として、一酸化炭素ガスが発生する危険性のある箇所に、一定以上の濃度になるとアラームが鳴るガス警報器を使用することなどが挙げられます。

参考文献
https://unit.aist.go.jp/qualmanmet/refmate/crm/sds/3406e_J_M.pdf

ランタン

ランタンとは

ランタンとは、元素記号がLaで表される元素です。

1839年にスウェーデンの化学者であるカール・グスタフ・モサンデル (英: Carl Gustaf Mosander) によって、硝酸セリウムの不純物として発見されました。周期表3族に属する元素で、ランタンからルテチウム (Lu) までの15個存在する分子グループであるランタノイド (英: lanthanoid) の、名前の由来でもあります。

希土類元素ですが、地殻には鉛のおよそ3倍も存在し、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩などの鉱物に含まれます。

ランタンの使用用途

ランタンの酸化物であるLa2O3が、セラミックコンデンサや光学レンズの材料に利用されています。LaNi5は水素吸蔵機能を持つ合金として研究されており、ニッケル・水素充電池の負極材に使用される材料の1つとして注目されています。

また、ランタンは他のランタノイド系金属からの単離精製がコスト的に困難です。そのため、純粋なランタンの代わりにランタンを50%以上含むミッシュメタル (英: misch metal) として、開発が進んでいます。

さらに、炭酸ランタンは腎不全患者のリン吸収阻害薬として使用されています。腸管内でリン吸収阻害薬は、リン化合物を形成し、吸収を阻害可能です。

ランタンの性質

ランタンは展延性がある銀白色の金属です。空気に触れるとゆっくりと錆び、ナイフで切れるほど柔らかいです。

室温でランタンとハロゲンが反応すると、三ハロゲン化物が生じます。熱すると非金属のホウ素、炭素、窒素、リン、硫黄、ケイ素、セレン、ヒ素などと二元化合物が得られます。水との反応によって、化学式がLa(OH)3である水酸化ランタン (III) を生成可能です。希硫酸によって水和三陽性イオンである[La(H2O)9]3+を生じます。La3+にはf電子がないため、無色の水溶液です。

ランタノイドの中では最も揮発性が低く、融点は920°C、沸点は3,464°Cです。

ランタンの構造

ランタンの原子量は138.91で、室温付近の密度は6.162g/cm3、融点での液体密度は5.94g/cm3です。ランタノイドの中で、最大の原子半径を持っています。電子配置は[Xe] 5d1 6s2で、価電子を3個有します。したがって、化学反応で通常の酸化数は+3です。

ほとんどのランタノイドのように、室温では六方晶構造を形成しています。310°Cで面心立方構造になり、865°Cで体心立方構造に変わります。

ランタンのその他情報

1. ランタンの製造

ランタノイドの中でランタンは、3番目に豊富に存在します。地殻には39mg/kgほど存在し、セリウム (66.5mg/kg) やネオジム (41.5mg/kg) に次ぐ量です。

フッ化水素酸とランタン酸化物を、塩化アンモニウムやフッ化アンモニウムとともに300〜400°Cで熱すると、塩化物やフッ化物が生じます。その後、真空中やアルゴン中で、アルカリ金属やアルカリ土類金属を用いて還元すると、金属ランタンを製造可能です。

高温でLaCl3またはNaClやKClの溶融混合物を電気分解しても、純粋なランタンは得られます。

2. ランタンの同位体

ランタンの同位体の原子量には117〜155が存在します。天然に生成する安定同位体は139Laと138Laです。天然存在比が99.91%である139Laが、最も豊富に存在します。138Laは放射性同位体で、半減期は105×109年です。

放射性同位体は38種類同定されています。137Laの半減期は60,000年で、140Laの半減期は1.6781日です。それ以外の大部分の同位体の半減期は24時間以内で、そのほとんどの半減期は1分以内です。ランタンには核異性体も3種類知られています。

3. ランタンの危険性

ランタンには低度から中度の毒性があり、取り扱いに注意が必要です。ランタン溶液を注射した際には、低血圧や高血糖症のほか、肝臓の変化や脾臓の変性などが起きます。

ランタンはヒトの代謝にも影響を与えます。具体的には、コレステロール値、食欲、血圧、血液凝固のリスクなどの低下です。脳に注射した際には、モルヒネやアヘン剤と同じく、鎮痛剤として機能します。

セレン

セレンとは

セレン (英: Selenium) とは、濃赤茶~青黒色の非晶形固体、あるいは赤色透明か金属質の灰~黒結晶です。

セレンの元素記号はSeで、原子番号は34番、CAS登録番号は7782-49-2のカルコゲン元素のひとつです。1817年に発見され、ギリシア語の月 (selene) にちなんで命名されました。多くの同素体が存在し、常温では金属セレンが最も安定です。

セレンは人にとって必須の微量元素です。自然界に広く存在し、土壌中や水、特定の食品に含まれています。生体内では、グルタチオンペルオキシダーゼという強い抗酸化作用を持つ酵素の構成成分となっていたり、硫黄・ヒ素・カドミウム・水銀などと拮抗作用を示し毒性を軽減させています。

セレンの使用用途

セレンの使用用途として、半導体性、光伝導性などの特性を利用して、セレン整流器、乾式複写機の感光ドラム、太陽光電池に使用されています。その他には、着色剤やゴムの添加剤としても使用されています。
現在では、毒性があるため使用が制限され多くの用途で代替品が使用されています。

食品においては、セレンは生体内で必須元素であることからサプリメントとして使用されています。毒性の強い元素であるため、必要量と中毒量の差が小さく、サプリメントとしての摂取には注意が必要です。ただし、食品中のセレン濃度は土壌中のセレン濃度に依存するため、日本では不足することはほとんどないと言われています。

セレンの性質

セレンは、温度変化の速度によって相互変換する同素体が複数存在し、融点が170~217℃、沸点が685℃、密度は4.2~4.8です。化学反応で調製された場合、セレンは通常、アモルファスの赤レンガ色の粉末ですが、急速に溶融すると、黒色のガラス質形態を形成し、通常はビーズとして市販されています。赤色のα、β、およびγ型のセレンは、二硫化炭素などの溶媒の蒸発速度を変えることによって、黒色セレンの溶液から製造されます。

セレンのその他情報

1. セレンの製法

セレンは、銅、ニッケル、鉛など、多くの硫化物鉱石に含まれるセレン化物から製造されます。セレンの工業生産では通常、銅の精製中に得られた残留物を、炭酸ナトリウムで酸化して二酸化セレンを生成し、これを水と混合して酸性化して亜セレン酸を形成させます (酸化工程)。さらに、亜セレン酸を二酸化硫黄でバブリングすると (還元工程)、セレンを得ることができます。

2. セレンの反応

セレンの化合物は、一般に酸化数-2、+2、+4および+6で存在します。セレンは、酸素と反応して二酸化セレンを生成 (Se8+8O2→8SeO2)し、硝酸で酸化することで、亜セレン酸を直接作ることができます (3Se+4HNO3+H2O→3H2SeO3+4NO)。さらに、セレンはフッ素と反応して六フッ化セレンを生成 (Se8+24F2→8SeF6) し、シアン化物と反応するとセレノシアネートを生成します (Se8+8KCN→8KSeCN)。

3. 法規情報

セレンは、毒物及び劇物取締法で「毒物」、労働安全衛生法で「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物」、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) で「第1種指定化学物質」に指定されており、使用の際には注意が必要です。さらに、消防法では「消防活動阻害物質」に、労働基準法では「疾病化学物質」に該当します。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 激しく反応するため、強酸との接触は避ける。
  • 火災や爆発のおそれがあるため、硝酸や強酸化剤との接触は避ける。
  • 使用時は保護手袋、保護衣、保護眼鏡、保護面を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、速やかに水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0037.html

セリウム

セリウムとは

セリウム (英: cerium) とは、元素記号がCe、原子番号が58の希土類元素です。

セリウムは周期表3族のランタノイド元素です。地殻中の濃度は質量パーセント濃度で0.046%で、希土類元素の中では最も多く存在しています。主にモナザイトやバストネザイトなどの鉱物に含まれて産出します。

原子価は+2、+3、+4を取ります。+2は珍しいですが、CeI2、CeH2、CeSなどが存在します。セリウム (IV) 塩は赤橙色または黄色ですが、セリウム  (III) 塩は白色または無色が多いです。いずれも紫外線をよく吸収します。

セリウムの使用用途

セリウムは商業的に多くの用途で使われています。セリウムは紫外線を吸収するため、自動車のフロントガラスやUVカットのサングラスに使用可能です。

セリウムの酸化物は、ガラスの主要成分である二酸化ケイ素と化学反応を起こすため、ガラスの研磨剤として使用されています。鉄との合金は、発火合金としてライター等に使われています。

セリウムは青い蛍光を発する蛍光体としても知られており、LEDやブラウン管に利用可能です。

セリウムの性質

セリウムは銀白色の金属で、空気中で酸化されやすく、徐々に酸化セリウム (IV) (CeO2) に変わります。融点は795°C、沸点は3,443°Cです。160°Cで発火します。

セリウムは水に少しずつ溶けて、熱水との反応によって、水酸化セリウム (III) が生成します。酸やアンモニアに可溶です。ランタノイドの水溶液に過ハロゲン酸とアンモニアを加えると、セリウムが暗褐色になります。そのため、セリウムは容易に希土類の混合物から検出可能です。

セリウムはあらゆるハロゲンと反応します。希硫酸にすぐ溶けて、無色のCe(III)イオンの溶液が生じ、Ce(III)イオンは[Ce(OH2)9]3+などの錯体として存在します。

セリウムの構造

セリウムの常温常圧での安定結晶構造は面心立方格子構造です。730°C以上で体心立方格子構造を取り、低温で六方最密充填構造になり、-150°C以下では再び面心立方格子構造を取っています。

セリウムの室温付近での密度は6.770g/cm3、融点での液体密度は6.55g/cm3です。電子配置は[Xe] 4f1 5d1 6s2です。

セリウムのその他情報

1. セリウムの産出

セリウムの資源は、日本でも少量産出していますが、中国、アメリカ、インドなどの埋蔵量が多いです。鉱物では(Ce,La)(CO3)Fであるバストネサイト(英: Bastnäsite) や(Ce, La, Nd, Th)PO4であるモナザイト (英: Monazite) が主体で、それぞれ酸化セリウムが半数弱含まれています。産出量の約9割が、中国内陸部の磁鉄鉱副産物の複雑鉱石から精製されています。

2. セリウムの製造

汎用研磨剤には、アメリカ産のバストネサイトを酸化・粉砕・粒度分級して使われます。水酸化物を塩酸によって抽出して、酸化セリウムのような化合物が製造されています。

金属カルシウム還元や溶融電解によって、金属セリウムを生成可能です。主にフェロセリウム (英: Ferrocerium) はアメリカで製造されており、鉄鋼添加剤として輸入しています。

3. セリウムの同位体

セリウムには、136Ce、138Ce、140Ce、142Ceの4種類の安定同位体と、質量数119~157の放射性同位体があります。これらの中で天然存在比が最も多いのは、88.48%の140Ceです。142Ceは2回のベータ崩壊を起こすと推測されており、半減期は5×1016年以上ですが、観測されたことはありません。

放射性同位体は27種類同定されていて、半減期が284.893日の144Ceが最も安定しています。139Ceの半減期は137.640日で、141Ceの半減期は32.501日です。それ以外の放射性同位体はすべて半減期が4日以内で、ほとんどは10分以内です。2つの核異性体も存在します。

コリン

コリンとは

コリン(Choline、化学式:C5H14NO)とは、生体内でアミノ酸のセリンとメチオニンから合成される水溶性のビタミン様物質です。無色でアルカリ性の液体です。

細胞膜の構成物質であるホスファチジルコリン(レシチン)や、神経伝達物質の一種であるアセチルコリンの成分になります。レシチンは血管壁へのコレステロールの沈着や肝臓への脂肪の蓄積を抑え、アセチルコリンは血管を拡張して血圧を下げる作用があります。このことから、コリンには高血圧や動脈硬化、脂肪肝等を予防する働きがあります。

コリンの使用用途

コリンはサプリメントとして使用されています。高血圧や動脈硬化、脂肪肝を予防する働きに加えて、脳機能において重要な働きをしていることから記憶力や集中力の向上などを目的として摂取されます。

コリンは家畜用飼料の添加物として使用されています。家畜の肝臓に脂肪が蓄積すると適切に代謝されず健康を害する恐れがあるため、肝臓に蓄積した中性脂肪の放出のためコリンを添加した飼料を与えています。

コリンは植物の成長促進に効果が認められていることから、コリンを含有した農薬も使用されています。

参考文献
改訂版いちばん詳しくて、分かりやすい!栄養の教科書 中嶋洋子監修 新星出版社 

カテコール

カテコールとは

カテコールの基本情報

図1. カテコールの基本情報

カテコールとは、二価フェノールの1種で、無色の稜柱状晶です。

別名「1,2-ベンゼンジオール」「1,2-ジヒドロキシベンゼン」「ピロカテコール」「ブレンツカテキン」などとも呼ばれます。毒物及び劇物取締法では「劇物」に、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき有害物」「名称等を通知すべき有害物」に、化学物質排出把握管理促進法では「第一種指定化学物質」に、それぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。

カテコールの使用用途

カテコールは、p-メチルアミノフェノールと組み合わせることで、写真用現像薬として用いられています。また、アルカリ溶液中で金属と錯体を生成する特徴を利用して、チタンモリブデン・鉄・コバルト等の金属イオンの分析用試薬としても使用可能です。

さらに、酸化防止剤、めっき添加剤、重合防止剤、ゴム加硫剤などとして用いられる他に、医・農薬品の中間体原料としても使用されています。カテコールを酸化重合して得られるカテコールメラニンは、不溶性黒色色素として利用可能です。 

カテコールの性質

カテコールは、昇華しやすいです。融点は105°Cで、沸点は245.5°Cです。水・アルコール・エーテルに溶解します。酸化されやすく、特にアルカリ溶液の状態では、空気中で変色しやすいです。

o-キノンとの間に酸化還元系をつくり、生体内電子伝達系の1つとして働きます。カテコールには還元力があり、銀鏡反応 (英: silver mirror reaction) を示し、フェーリング液 (英: Fehling’s solution) を還元するといった作用を有します。

カテコールの構造

カテコールは、ベンゼン環上のオルト位に、ヒドロキシ基を2つ持つ有機化合物です。ポリフェノール (英: polyphenol) に含まれる構造としても知られています。

化学式はC6H6O2で、モル質量は110.1g/molです。示性式はC6H4(OH)2で、密度は1.344g/cm³です。ヒドロキノン (英: hydroquinone) やレゾルシノール (英: resorcinol) の、ヒドロキシ基の場所が違う位置異性体でもあります。

カテコールのその他情報

1. カテコールの合成法

カテコールは、リグニン (英: lignin) やタンニン (英: tannin) をアルカリ融解させることで生成します。o-ベンゾキノンの還元でも合成できます。

それ以外にも、o-クロロフェノールのアルカリ融解やグアイアコール (英: guaiacol) の脱メチル化などによっても合成可能です。

2. カテコールの骨格を含む生体物質

カテコールの骨格を含む生体物質

図2. カテコールの骨格を含む生体物質

カテコールは、数多くの生体物質の骨格に使われています。具体的には、ドーパミン (英: dopamine) 、レボドパ (英: L-3,4-dihydroxyphenylalanine) 、アドレナリン (英: adrenaline) 、ノルアドレナリン (英: noradrenaline) のようなカテコールアミン (英: catecholamine) だけでなく、漆の主成分であるウルシオール (英: urushiol) やカテキン (英: catechin) などのポリフェノールにも、カテコールの骨格が含まれています。

3. カテコールの位置異性体

カテコールの位置異性体

図3. カテコールの位置異性体

カテコールの位置異性体には、ヒドロキノンやレゾルシノールが存在します。ヒドロキノンは1,4-ジヒドロキシベンゼンとも呼ばれ、ベンゼン環のパラ位にヒドロキシ基を2つ持っています。密度は1.3g/cm3、融点は172℃、沸点は287℃です。

レゾルシノールは1,3-ジヒドロキシベンゼンとも呼ばれ、ベンゼン環のメタ位にヒドロキシ基を2つ持っています。密度は1.28g/cm3、融点は110°C、沸点は280°Cです。

イソアミルアルコール

イソアミルアルコールとは

イソアミルアルコール (英: Isoamyl alcohol) とは、ウイスキーのような香りの無色の液体です。

化学式はC5H12Oで、分子量は88.15、CAS登録番号は123-51-3です。イソアミルアルコールは3-メチル-1-ブタノール (英: 3-Methyl-1-butanol) の慣用名で、イソペンチルアルコール (英: Isopentyl alcohol) とも呼ばれます。

有機化合物の1種で、ペンタノールの異性体の1つです。無色の液体で、加熱や燃焼により分解します。特徴的な臭気があり、酒類、果実等に天然に含まれている成分です。

イソアミルアルコールは、天然に存在するエステルであるバナナ油製造時の成分であり、産業的にも香料として生産されています。これは、エタノール発酵の主要な副産物として生成される一般的なフーゼルアルコールです。

イソアミルアルコールの使用用途

分子生物学分野において、核酸抽出時に使用される試薬として使用されています。イソアミルアルコールは、ウイスキーのような特徴的な香りを有することから、加工食品の香料として使用されています。

イソアミルアルコール誘導体も香料として使用されており、バナナのような果実臭を有する酢酸イソアミル、甘い果実臭を有する酪酸イソアミル等が使われています。

イソアミルアルコールの誘導体である亜硝酸イソアミルは、医薬品として有用です。狭心症等の心臓疾患に使われたり、シアン化物の解毒剤として使われています。

イソアミルアルコールの性質

イソアミルアルコールの融点は-117℃、沸点は131℃、密度は0.82g/cm3です。水に溶けにくく、有機溶媒には容易に溶解します。

蒸気を赤熱管に通すと、アセチレン、エチレン、プロピレン、その他の化合物に分解されます。また、クロム酸によってイソバレルアルデヒドに酸化され、塩化カルシウムおよび塩化スズ (IV) に対して付加化合物の結晶を形成します。

イソアミルアルコールのその他情報

1. イソアミルアルコールの製造法

イソアミルアルコールは、イソブテンとホルムアルデヒドの縮合により合成できます。プレノールを生成させた後に水素化することで、イソアミルアルコールが得られます。

   CH3C(CH3) = CH2 + HCHO → CH3C(CH3) = CHCH2OH
   CH3C(CH3) = CHCH2OH + H2 → CH3CH(CH3)CH2CH2OH

イソアミルアルコールは、強い塩水で振とうし、油性層を塩水層から分離する方法を使ってフーゼル油から分離できます。油性層を蒸留し、128〜140℃の間で沸騰する留分を収集した後、生成物を熱石灰水で振とう、油性層を分離し、塩化カルシウムで生成物を乾燥させ、蒸留して132〜135℃の沸点の留分を回収する手順により、さらなる精製が可能です。

2. 法規情報

イソアミルアルコールは、消防法では危険物第4類の第二石油類、非水溶性に分類されており、使用の際には注意が必要です。労働安全衛生法では、通知対象物 (政令番号48)、表示対象物 (政令番号48)、危険物・引火性の物、有機溶剤中毒予防規則の第2種有機溶剤等、作業環境測定基準、作業環境評価基準に該当しています。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、涼しく乾燥し換気の良い場所に保管する。
  • 熱・火花・火炎など着火源から遠ざける。
  • 火災及び爆発の危険があるため、加温の際は注意する。
  • 混触すると危険を伴うため、 酸化剤、還元剤、アルカリ金属、アルカリ土類金属との接触を避ける。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 燃焼により、一酸化炭素や二酸化炭素などの有害ガスが発生するので注意する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 使用後は適切に手袋を脱ぎ、本製品の皮膚への付着を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0651.html

硝酸銀

硝酸銀とは

硝酸銀とは、一価の銀の硝酸塩です。

硝酸銀は劇薬なので密栓し、遮光して保存する必要があります。消防法では「危険物第一類」に、毒物及び劇物取締法では「劇物」に、そして労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。

さらに、化学物質排出把握管理促進法では「第1種種定化学物質」に指定されており、硝酸銀の取り扱いには注意が必要です。

硝酸銀の使用用途

1. 写真工業分野

写真工業分野では、感光材料である臭化銀製造の原料として広く用いられています。

2. 医薬品分野

医薬品分野では、外用として防腐剤や収斂剤に使用されている他、新生児の治療対策として点眼薬や口内炎、歯頸部知覚過敏症などの薬に使用されています。

3. 化学分野

化学分野では、分析試薬や一般試薬としても利用可能です。具体的には、硝酸銀は塩化物と反応すると塩化銀(I) (AgCl) の白色沈殿を生成するため、塩化物イオンの検出のために使用できます。

 

その他、銀めっきや銀鏡の製造原料、各種銀塩の製造、殺菌剤、触媒、毛髪染め、陶磁器の着色、インキ製造、電気接点材料などの使用用途もあり、その分野は非常に幅広いです。

硝酸銀の性質

硝酸銀の密度は4.352 g/cm3、融点は212°Cです。硝酸イオンと銀イオンから構成されており、無色の斜方晶系板状結晶です。

なお、硝酸銀の組成式はAgNO3で、式量は169.89で表されます。強電解質なので水に溶けやすく、水溶液は中性を示します。それに対して非極性溶媒に硝酸銀は溶けにくく、アセトンメタノールにもわずかに溶解しますが、ベンゼンには難溶です。

例えば、15℃で92.5%の100gのエタノールに対して、3.8gの硝酸銀が溶けます。硝酸銀にはタンパク凝固作用があり、皮膚や組織を腐食します。硝酸銀が有機物につくと、還元によって銀の微粒子が沈着して黒色に染まり、しばらくの間は色が取れません。

硝酸銀は光に対して安定です。350℃に加熱しても安定ですが、444℃になると分解して、金属銀・酸素・窒素・窒素酸化物を生じます。

硝酸銀のその他情報

1. 硝酸銀の合成法

硝酸銀は硝酸に銀を溶解させると合成可能で、蒸発や乾燥によって得られます。この反応では濃硝酸を用いると二酸化窒素が発生し、希硝酸を用いると一酸化窒素が生じます。工業的にもこの方法で、硝酸銀が製造されています。

2. 硝酸銀を用いた銀鏡反応

硝酸銀を含むアンモニアアルカリ性水溶液を、ショ糖や酒石酸、アルデヒドなどによって還元すると、ガラス壁などに銀鏡を作成可能です。アンモニア性硝酸銀水溶液がホルミル基を有する化合物を酸化し、カルボン酸になることで、還元された銀が析出するためです。

この反応は銀鏡反応 (英: silver mirror reaction) と呼ばれています。なお、銀鏡反応は、めっきに利用されます。

3. 硝酸銀を使用する際の注意点

液体アンモニアやアンモニア水などに硝酸銀を反応させると、徐々に雷銀 (英: fulminating silver) と呼ばれる黒色結晶が生じます。雷銀とは、AgNH2とAg3Nの混合物のことです。

雷銀はとても敏感な化合物なので、わずかな摩擦や熱でも水溶液中が爆発します。とくにナトリウムイオンの存在下では、雷銀の生成が促進されます。

そのため、アンモニアと硝酸銀が混ざった廃液や銀鏡反応後の廃液だけでなく、誤って雷銀を作った場合などにも、塩酸や塩化ナトリウム水溶液によって分解して、雷銀を処分することが必要です。

硝酸銀の加工によって、起爆剤が作られます。実際に大阪府の魔法瓶製造会社から100kgの硝酸銀が盗まれたときには、爆弾闘争に過激派が利用する可能性も考えて、大阪府警察内に異例の捜査本部が設置されました。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0083JGHEJP.pdf

炭化チタン

炭化チタンとは

炭化チタン (英: titanium carbide) とは、金属原子と炭素原子が隣り合っているNaCl型の6配位の結晶 (面心立方格子) です。

組成式はTiC、モル質量は59.9g/mol、融点は3,170℃、密度派4.9g/cm3、CAS番号:12070-08-5です。常温では黒色の粉末状の見た目をしています。高価だったタングステンの代わりとして、フィラメントに使用するために20世紀に生産が始められました。

炭化チタンは非常にまれに自然界に存在する鉱物であるkhamrabaevite (Ti、V、Fe) Cの形で、自然に発生します。自然界で見られる結晶の大きさは0.1mm-0.3mm程度です。

炭化チタンの性質

炭化チタンは水には溶けませんが、硝酸・王水には可溶といった性質をもちます。温度にほとんど依存しない高い電気伝導度をもち、ビッカース硬さが約3,200と極めて高い点が特徴です。

工業的には真空炭化法、金属浴法 (メンストラム法) 、水素化チタン炭化法、プラズマ法 (超微粒粉末) 、気相析出法や酸化チタンを炭素で還元することによって製造されています。金属の炭化物は一般的に焼結するのが難しく、非常に高い温度にしたり、助燃剤などを使用しなければ高密度の焼結体を得ることは難しいと考えられてきました。

しかし、チタンと炭素の割合を2:1にしたとき、わずか数分間の時間と1500℃程度の温度で非常に高い強度の焼結体が得られたという研究が報告されています。保存は常温の環境で行っても問題ありません。

炭化チタンの使用用途

1. 切削工具

炭化チタンの極めて高い硬度や耐火性を利用して、切削用の工具などに使用されています。主にコバルトやニッケル、モリブデンに炭化チタンの粉末を混ぜることで製造されています。通常の超硬合金はタングステンにコバルト粉末を混ぜたりなど、タングステンベースで作られることが多いです。

しかし、炭化チタンはタングステンを使用せずとも非常に高い硬度を実現することができ、コストの削減だけでなく、切削の精度および速度向上、滑らかさの向上にも役立ちました。また、炭化タングステンに炭化チタンをある程度混ぜることによって、炭化タングステンの摩耗や酸化に対する耐久性を増加させることができます。特に、高い切削速度で鋼を加工するために使用されるサーメットに利用されています。

表面に炭化チタン加工を施すことで耐久性を引き上げることができますが、衝撃と急冷には脆いので注意が必要です。

2. コーティング材

炭化チタンは、金属様表面被覆として用いられることも多いです。機械の部品や時計の部品などの精密機器部品において、炭化チタンで表面加工を行うことによって耐摩耗性を向上させています。また、炭化チタンはアーク電解にも利用されています。

アルミニウム合金に炭化チタンのナノ粒子を混ぜた物質を利用することで、様々な合金を亀裂無しで溶接することが可能です。各種セラミックスコーティングの中でも高い硬度があり、摩擦係数も0.25程度と非常に低く、耐熱性も強いといった特徴もあります。そのため、高温環境や高温になることが想定される部材へも、代表的なコーティング材として広く利用されています。

2. その他の使用用途

また、炭化チタンは鉄鋼材の成型加工に適したコーティングであり、樹脂への離型性も非常に優れているため、主に「プレス成形」「冷間鍛造」「粉末成形」「プラスチック成形などの金型」「ロール」「パイプ成形用の金型や治具」などへのコーティングでも使用されています。

また、金属アレルギーを起こさないことや軽量性から、ネックレスなどのアクセサリーにも使用されています。

水素化ナトリウム

水素化ナトリウムとは

水素化ナトリウム (英: Sodium hydride) とは、灰色の結晶性粉末です。

典型的なアルカリ金属水素化物であり、ナトリウムイオン (Na+) と水素化物イオン (H) から成るイオン格子を形成しています。化学式はNaH、分子量は23.99、CAS登録番号は7646-69-7です。水素化ナトリウムは、強い還元性をもっており、金属の酸化物や塩化物を金属に還元する他、有機物も還元します。

水素化ナトリウムの構造

水素化ナトリウムは、LiH、KH、RbH、およびCsHと同様に、立方晶のNaCl結晶構造をとっています。この構造では、各Na+イオンは八面体形状の6つのH中心に囲まれています。Hのイオン半径は146pmで、Fのイオン半径 (133pm) とほぼ同等です。

NaとH+で形成されたものは「インバース水素化ナトリウム」と呼ばれます。この化合物は、通常とは異なり水素からナトリウムへ電子が移動するため、非常に高いエネルギーをもっています。インバース水素化ナトリウムの生成にはアダマンザンが用いられ、この分子はH+を不可逆的に封入し、Naとの相互作用からH+を保護します。

水素化ナトリウムの性質

1. 物理的特性

水素化ナトリウムは、融点 (分解温度) が800℃、密度は1.39g/cm3でナトリウム (0.968g/cm3) より40%大きいです。水素化ナトリウムは、ベンゼン二硫化炭素・四塩化炭素・液体アンモニアなど、溶融ナトリウムを除くほぼ全ての溶媒に溶解しません。

2. その他の特徴

乾燥した空気中では安定していますが、湿った空気中では分解し、水と爆発的に反応して水素を発生し、水酸化ナトリウムを生成します。高温下では、ナトリウムと水素に分解するといった特徴があります。水素化ナトリウムは、空気中で自然発火する可能性があるので、取り扱いには十分な注意が必要です。

水素化ナトリウムの使用用途

1. 塩基

有機化学においては有用な塩基として用いられます。弱いブレンステッド酸の範囲の物質も脱プロトン化して、対応するナトリウム誘導体を与えることができます。ディークマン縮合、シュトッベ縮合、ダルツェン縮合、クライゼン縮合を介して、カルボニル化合物の縮合反応を促進するためにも広く使用されています。

2. 還元剤

水素化ナトリウムは特定の主要族化合物を還元します。三フッ化ホウ素に対しては、反応してジボランとフッ化ナトリウムを与え、ジシランおよびジスルフィド中のSi-SiおよびS-S結合も還元出来ます。ニトリルの水素化脱シアン化、イミンのアミンへの還元、アミドのアルデヒドへの還元を含む一連の還元反応は、水素化ナトリウムとヨウ化アルカリ金属からなる複合試薬によって行うことができます。

3. 水素貯蔵

水素化ナトリウムは燃料電池車で使用する水素を貯蔵するために、使用が提案・検討されています。水素化ナトリウムを含むプラスチックペレットを、水の存在下で粉砕し、水素を放出する実験も行われています。この技術の課題の1つは、水酸化ナトリウムから水素化ナトリウムの再生です。

4. その他

糖工学用試薬・糖分析用試薬・メチル化試薬など、各種の試薬としても利用されています。その他の用途としては、「脱水」「乾燥剤」「金属表面の酸化物のさび落とし」などが挙げられます。

水素化ナトリウムのその他情報

1. 水素化ナトリウムの製法

水素化ナトリウムは油に分散するか、触媒のアントラセンと金属ナトリウムを混合し、250℃の温度下で水素を通すことによって得られます。水素化ナトリウムは、安全に取り扱うために、鉱油中60%の分散形態で市販されています。

2. 法規情報

毒物及び劇物取締法では特に指定はありません。消防法において「第3類自然発火性物質及び禁水性物質」「金属の水素化物」に該当しており、取り扱いには注意が必要です。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
  • 激しい反応と火災のおそれがあるので、水や湿気との接触を避けて保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用し、湿気を遮断した不活性ガス雰囲気下で取り扱う。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、 固着していない粒子を皮膚から払いのけ、冷たい水に浸し、湿った包帯で覆う。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7646-69-7.html