硝酸銀

硝酸銀とは

硝酸銀とは、一価の銀の硝酸塩です。

硝酸銀は劇薬なので密栓し、遮光して保存する必要があります。消防法では「危険物第一類」に、毒物及び劇物取締法では「劇物」に、そして労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。

さらに、化学物質排出把握管理促進法では「第1種種定化学物質」に指定されており、硝酸銀の取り扱いには注意が必要です。

硝酸銀の使用用途

1. 写真工業分野

写真工業分野では、感光材料である臭化銀製造の原料として広く用いられています。

2. 医薬品分野

医薬品分野では、外用として防腐剤や収斂剤に使用されている他、新生児の治療対策として点眼薬や口内炎、歯頸部知覚過敏症などの薬に使用されています。

3. 化学分野

化学分野では、分析試薬や一般試薬としても利用可能です。具体的には、硝酸銀は塩化物と反応すると塩化銀(I) (AgCl) の白色沈殿を生成するため、塩化物イオンの検出のために使用できます。

 

その他、銀めっきや銀鏡の製造原料、各種銀塩の製造、殺菌剤、触媒、毛髪染め、陶磁器の着色、インキ製造、電気接点材料などの使用用途もあり、その分野は非常に幅広いです。

硝酸銀の性質

硝酸銀の密度は4.352 g/cm3、融点は212°Cです。硝酸イオンと銀イオンから構成されており、無色の斜方晶系板状結晶です。

なお、硝酸銀の組成式はAgNO3で、式量は169.89で表されます。強電解質なので水に溶けやすく、水溶液は中性を示します。それに対して非極性溶媒に硝酸銀は溶けにくく、アセトンメタノールにもわずかに溶解しますが、ベンゼンには難溶です。

例えば、15℃で92.5%の100gのエタノールに対して、3.8gの硝酸銀が溶けます。硝酸銀にはタンパク凝固作用があり、皮膚や組織を腐食します。硝酸銀が有機物につくと、還元によって銀の微粒子が沈着して黒色に染まり、しばらくの間は色が取れません。

硝酸銀は光に対して安定です。350℃に加熱しても安定ですが、444℃になると分解して、金属銀・酸素・窒素・窒素酸化物を生じます。

硝酸銀のその他情報

1. 硝酸銀の合成法

硝酸銀は硝酸に銀を溶解させると合成可能で、蒸発や乾燥によって得られます。この反応では濃硝酸を用いると二酸化窒素が発生し、希硝酸を用いると一酸化窒素が生じます。工業的にもこの方法で、硝酸銀が製造されています。

2. 硝酸銀を用いた銀鏡反応

硝酸銀を含むアンモニアアルカリ性水溶液を、ショ糖や酒石酸、アルデヒドなどによって還元すると、ガラス壁などに銀鏡を作成可能です。アンモニア性硝酸銀水溶液がホルミル基を有する化合物を酸化し、カルボン酸になることで、還元された銀が析出するためです。

この反応は銀鏡反応 (英: silver mirror reaction) と呼ばれています。なお、銀鏡反応は、めっきに利用されます。

3. 硝酸銀を使用する際の注意点

液体アンモニアやアンモニア水などに硝酸銀を反応させると、徐々に雷銀 (英: fulminating silver) と呼ばれる黒色結晶が生じます。雷銀とは、AgNH2とAg3Nの混合物のことです。

雷銀はとても敏感な化合物なので、わずかな摩擦や熱でも水溶液中が爆発します。とくにナトリウムイオンの存在下では、雷銀の生成が促進されます。

そのため、アンモニアと硝酸銀が混ざった廃液や銀鏡反応後の廃液だけでなく、誤って雷銀を作った場合などにも、塩酸や塩化ナトリウム水溶液によって分解して、雷銀を処分することが必要です。

硝酸銀の加工によって、起爆剤が作られます。実際に大阪府の魔法瓶製造会社から100kgの硝酸銀が盗まれたときには、爆弾闘争に過激派が利用する可能性も考えて、大阪府警察内に異例の捜査本部が設置されました。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0083JGHEJP.pdf

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