水素化ナトリウムとは
水素化ナトリウム (英: Sodium hydride) とは、灰色の結晶性粉末です。
典型的なアルカリ金属水素化物であり、ナトリウムイオン (Na+) と水素化物イオン (H–) から成るイオン格子を形成しています。化学式はNaH、分子量は23.99、CAS登録番号は7646-69-7です。水素化ナトリウムは、強い還元性をもっており、金属の酸化物や塩化物を金属に還元する他、有機物も還元します。
水素化ナトリウムの構造
水素化ナトリウムは、LiH、KH、RbH、およびCsHと同様に、立方晶のNaCl結晶構造をとっています。この構造では、各Na+イオンは八面体形状の6つのH−中心に囲まれています。H−のイオン半径は146pmで、F−のイオン半径 (133pm) とほぼ同等です。
Na–とH+で形成されたものは「インバース水素化ナトリウム」と呼ばれます。この化合物は、通常とは異なり水素からナトリウムへ電子が移動するため、非常に高いエネルギーをもっています。インバース水素化ナトリウムの生成にはアダマンザンが用いられ、この分子はH+を不可逆的に封入し、Na–との相互作用からH+を保護します。
水素化ナトリウムの性質
1. 物理的特性
水素化ナトリウムは、融点 (分解温度) が800℃、密度は1.39g/cm3でナトリウム (0.968g/cm3) より40%大きいです。水素化ナトリウムは、ベンゼン・二硫化炭素・四塩化炭素・液体アンモニアなど、溶融ナトリウムを除くほぼ全ての溶媒に溶解しません。
2. その他の特徴
乾燥した空気中では安定していますが、湿った空気中では分解し、水と爆発的に反応して水素を発生し、水酸化ナトリウムを生成します。高温下では、ナトリウムと水素に分解するといった特徴があります。水素化ナトリウムは、空気中で自然発火する可能性があるので、取り扱いには十分な注意が必要です。
水素化ナトリウムの使用用途
1. 塩基
有機化学においては有用な塩基として用いられます。弱いブレンステッド酸の範囲の物質も脱プロトン化して、対応するナトリウム誘導体を与えることができます。ディークマン縮合、シュトッベ縮合、ダルツェン縮合、クライゼン縮合を介して、カルボニル化合物の縮合反応を促進するためにも広く使用されています。
2. 還元剤
水素化ナトリウムは特定の主要族化合物を還元します。三フッ化ホウ素に対しては、反応してジボランとフッ化ナトリウムを与え、ジシランおよびジスルフィド中のSi-SiおよびS-S結合も還元出来ます。ニトリルの水素化脱シアン化、イミンのアミンへの還元、アミドのアルデヒドへの還元を含む一連の還元反応は、水素化ナトリウムとヨウ化アルカリ金属からなる複合試薬によって行うことができます。
3. 水素貯蔵
水素化ナトリウムは燃料電池車で使用する水素を貯蔵するために、使用が提案・検討されています。水素化ナトリウムを含むプラスチックペレットを、水の存在下で粉砕し、水素を放出する実験も行われています。この技術の課題の1つは、水酸化ナトリウムから水素化ナトリウムの再生です。
4. その他
糖工学用試薬・糖分析用試薬・メチル化試薬など、各種の試薬としても利用されています。その他の用途としては、「脱水」「乾燥剤」「金属表面の酸化物のさび落とし」などが挙げられます。
水素化ナトリウムのその他情報
1. 水素化ナトリウムの製法
水素化ナトリウムは油に分散するか、触媒のアントラセンと金属ナトリウムを混合し、250℃の温度下で水素を通すことによって得られます。水素化ナトリウムは、安全に取り扱うために、鉱油中60%の分散形態で市販されています。
2. 法規情報
毒物及び劇物取締法では特に指定はありません。消防法において「第3類自然発火性物質及び禁水性物質」「金属の水素化物」に該当しており、取り扱いには注意が必要です。
3. 取扱いおよび保管上の注意
取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。
- 容器を密栓し、乾燥した冷暗所に保管する。
- 激しい反応と火災のおそれがあるので、水や湿気との接触を避けて保管する。
- 屋外や換気の良い区域のみで使用し、湿気を遮断した不活性ガス雰囲気下で取り扱う。
- 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
- 取扱い後はよく手を洗浄する。
- 皮膚に付着した場合は、 固着していない粒子を皮膚から払いのけ、冷たい水に浸し、湿った包帯で覆う。
- 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7646-69-7.html