ヒドラジン

ヒドラジンとは

ヒドラジン(別称:ジアミン、ジアミド)は、密度 1.013 g/cm3、沸点114℃、融点2.0℃、化学式N2H4で表される最も単純なジアミンであり、毒物及び劇物取締法により毒物に指定されています。水に易溶な弱塩基性の無色の発煙性液体で、わずかにアンモニア臭があります。他の化学物質との反応性が高い塩基であり、強力な還元剤です。非常に吸湿性があり、空気中で水分子と結合してヒドラジン水和物物(N2H4・H2O)を形成します。

ヒドラジンヒドラジンは、毒性があり、吸い込んだり触れたりすると健康問題を引き起こす(発がん性がある)とされており、日本では、2002 年から化学物質排出移動量届出制度 (PRTR法)によって環境への排出量を報告することが義務付けられています。

ヒドラジンの使用用途

ヒドラジンは、常温での保温が可能であり、ロケットエンジンの燃料(推進剤)、人工衛星や宇宙探査機の姿勢制御用推進器の燃料として用いられています。

その他様々な化学製品、例えば、軟質・硬質フォーム、燃料電池、殺菌剤、除草剤、および雑草や害虫駆除用の農薬として農業用途でも使用されています。

また、ヒドラジン水和物は主に、プラスチック発泡剤製造用、脱酸素剤、脱炭酸ガス剤、pH調整、還元剤、重合触媒、ボイラー水処理、廃水からの鉄除去などに使用されております。

ヒドラジン類縁物質

ヒドラジンの製法

いくつかの方法が開発されており、キーとなるポイントは、NーNの単結合を形成する過程にある。

1. パーオキシドプロセス (別名:Pechiney-Ugine-Kuhlmann process)

アンモニアと過酸化水素を触媒存在下で反応させる方法。副生成物として塩類を出さないことが特徴。

パーオキシドプロセス2.  Olin Raschig プロセス

次亜塩素酸ナトリウムとアンモニアを混合することによりモノクロラミンを生成し、続いてモノクロラミンとアンモニアが反応することでヒドラジンが生じる。副生成物としてNaClがでる。

Olin-process3. Bayer ketazine process

パーオキシドプロセスが開発される前に工業化されていた方法。次亜塩素酸ナトリウムとアンモニアをアセトン中で反応させることで合成する。

Bayer-process

人への影響

ヒトへの急性暴露によって中枢神経系、肝臓、腎臓に影響を及ぼすことが知られている。 皮膚及び眼への刺激性、アレルギー性接触性皮膚炎の報告もあるため、使用には注意が必要である。

パラフィンワックス

パラフィンワックスとは

パラフィンワックス

名称について
パラフィンワックスParaffin waxとは、炭素数が20以上(炭素数分布は約20~40)、分子量は約300~550、直鎖状炭化水素(ノルマルパラフィン)が主成分のアルカンの総称です。

海外ではケロシン灯油のことをパラフィンオイルと呼び、固形のパラフィンはパラフィンワックスと呼びます。日本ではケロシンとの混合を避けるため炭素数が20以上のアルカンの混合物であるパラフィンをパラフィンワックスと呼ぶこともあります。石蝋(せきろう)とも言います。

日本工業規格では、原油の減圧蒸留留出油より分離精製し、常温において固形のワックスをパラフィンワックスと定義されています。

パラフィンワックスの特徴

パラフィンは融点によって分類されますが、混合物ですので、融点が同じであっても、パラフィンワックスの成分のうちわけが異なる可能性があり、硬さや温度変化などが異なる可能性があります。

パラフィンワックスの使用用途

パラフィンの使用用途により適する融点が異なるため、組成や融点の異なる様々なパラフィンワックスが各社で製造されています。代表的な用途としては、ろうそくと紙製品の加工です。紙製品の表面にコーティングすることで、防湿、防水、つや出し、滑りなどが出てきます。

パラフィンワックスには非常に様々な用途があります。最もよく知られているのは燃料としての使用用途です。パラフィンワックスはろうそくや着火剤、火吹きなどの燃料の原料として用いられています。

また、パラフィンワックスは皮膚刺激性や眼刺激性がほとんどなく安全性が高いという特徴があります。そのためアイシャドウやマスカラなどの多くの化粧品や石けん、リップスティックなど固形油状の化粧品にもパラフィンワックスが基剤として用いられていることが多いです。

医療の分野での使用

歯科医療では、ブロック状では常温ではそこそこの形を維持しつつ、温めると形を変えることができます。この特徴から、義歯を作製する際によく使われます。薄くすれば指でも簡単に曲げられることから、板状のパラフィンワックスで咬み合わせの記録によく使われます。

パラホルムアルデヒド

パラホルムアルデヒドとは

パラホルムアルデヒドとは、有機化合物の1種で、ホルムアルデヒドを脱水重合した直鎖状の有機化合物です。

CAS登録番号は30525-89-4であり、化学式は(CH2O)nで表されます。別名には、「パラホルム」や、「1,3,5-トリオキサン」などの名称があります。オキシメチレン構造(−CH2O−) を単位構造に含むポリマーは、ポリアセタール、もしくはポリオキシメチレンと呼ばれており、パラホルムアルデヒドはこうしたポリマーの1種です。

パラホルムアルデヒドは薬事法において劇薬に指定されており、強い毒性を示します。

パラホルムアルデヒドの使用用途

パラホルムアルデヒドは、 くん蒸剤として殺虫・消毒に使用されます。また、合成的にはパラホルムアルデヒドは反応性が高い物質です。塗料、接着剤、防腐剤、フェノール樹脂、尿素樹脂、ビニロンアセタール化用途、イオン交換樹脂、医薬品、耐水性グルー及びコルクのバインダーとなる蛋白グルーの凝固剤など、種々の物質の原料に用いられます。

特に、メチロール化合物やメチレン化合物の原料となります。メチロール化合物やメチレン化合物は塗料や接着剤などに添加されることが多い物質です。メチロール化合物には架橋構造を持ち光安定性や耐久性を持つものが多く、塗料や接着剤に混ぜて紫外線吸収剤や耐久性・耐熱性の向上に利用されることが多くあります。

なお、メチレン化合物として最も主流なのはメチレンクロライド (塩化メチレン) で、剥離剤や塗料除去剤として用いられます。

パラホルムアルデヒドの性質

パラホルムアルデヒドの基本情報

図1. パラホルムアルデヒドの基本情報

パラホルムアルデヒドは、分子式(CH2O)nで表される重合体です。融点120-180℃ (分解、ただし重合度による) であり、常温では白色固体 (フレーク、顆粒状、結晶性粉末) です。

ホルムアルデヒド臭と形容される特異的な刺激臭を持ちます。水、エタノール、エーテルに溶けにくく、水酸化ナトリウム溶液に溶けます。密度は1.42g/mLです。

パラホルムアルデヒドの化学反応

図2. パラホルムアルデヒドの化学反応

パラホルムアルデヒドを水に溶かすと、徐々に溶解してホルムアルデヒド水溶液となります。逆にホルムアルデヒド水溶液を真空濃縮することで、パラホルムアルデヒドを得ることが可能です。

また、パラホルムアルデヒドを加熱乾燥すると、ホルムアルデヒドのガスが発生します。このとき、発生するホルムアルデヒドガスは可燃性です。

パラホルムアルデヒドの種類

パラホルムアルデヒドは、研究開発用試薬製品や、産業・工業用基礎化学品などとして一般的に販売されています。試薬製品としては、加熱、および少量の水酸化ナトリウムの添加により、ホルムアルデヒドに変化するため、架橋固定化試薬などとして用いられます。

容量の種類は、100g、500g、1kg、2kgなどであり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されることが一般的です。通常、室温で取り扱い可能です。

産業・工業用としては、主に20kg程度の紙袋や、フレコンなどの荷姿で提供されています。塗料、接着剤、繊維加工樹脂、フェノール樹脂などの用途が想定されている製品です。

パラホルムアルデヒドのその他情報

1. パラホルムアルデヒドの生成

パラホルムアルデヒドの生成とホルムアルデヒドの合成

図3. パラホルムアルデヒドの生成 (上)とホルムアルデヒドの合成 (下)

パラホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒドを水に溶かすと徐々に白色固体として析出します。特に、水溶液を冷却することで析出しやすくなる物質です。

パラホルムアルデヒドの単量体であるホルムアルデヒドは、触媒存在下にメタノールを空気酸化して得られます。また、ギ酸カルシウムの乾留でも得ることが可能です。

2. パラホルムアルデヒドの安全性情報

パラホルムアルデヒドは、引火点70℃、自然発火温度300℃である、引火性のある可燃性固体です。粉末又は顆粒状で空気と混合すると粉じん爆発の可能性があります。また、酸化剤との混蝕により発熱、発火することがある他、強酸、強塩基とは反応して、ホルムアルデヒドを生じます。

また、人体に対しても有害であり、経口摂取や吸入すると有害であるほか、皮膚刺激、強い眼刺激、肺の障害などが指摘されています。

3. パラホルムアルデヒドの法規制情報

前項の通り、パラホルムアルデヒドは有害な物質であるため、法令によって規制されています。消防法では、指定可燃物、可燃性固体類に指定されています。また、毒物及び劇物取締法では、劇物に指定されており、労働安全衛生法では名称等を通知すべき危険物有害物、変異原性が認められた既存化学物質に指定されている物質です。

取り扱いの際はこれらの法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0962.html

バルビツール酸

バルビツール酸とは

バルビツール酸の構造

図1. バルビツール酸の構造

バルビツール酸はピリミジン骨格を持つ複素環式化合物であり、マロニル尿酸とも呼ばれます。常温で無色、無臭の固体です。

ドイツの科学者アドルフ・フォン・バイヤーによって発見された化合物であり、その合成方法としては、マロン酸尿素を酸性条件下で脱水縮合させることで得られます。なお現在では、バルビツール酸の合成にはマロン酸ジエチルがその基質として用いられています。

バルビツール酸の物理化学的諸性質

1. 名称
和名:バルビツール酸
英名:barbituric acid
IUPAC名: 1,3-diazinane-2,4,6-trione

2. 分子式
C4H4N2O3

3. 分子量
128.09

4. 融点
245℃(分解)

5. 溶媒溶解性
水、エタノールに微溶、エーテルに不溶、熱水に可溶

バルビツール酸誘導体(バルビツレート)の生理活性

バルビツール酸を基本構造とした様々な誘導体には中枢神経系抑制作用が認められており、これらの化合物はバルビツレートと呼ばれます。その代表例としては以下の化合物が挙げられます。

バルビツレートの例

バルビタール、フェノバルビタール、アモバルビタール、アロバルビタール、シクロバルビタール、ペントバルビタール、チオペンタナール、チアミナール、ヘキソバルビタール

これらのバルビツレートは鎮静薬、静脈麻酔薬、抗てんかん薬として利用されていますが、興味深い事に、その基本骨格であるバルビツール酸そのものには中枢神経抑制作用は報告されていません。

バルビツレートの作用機作

GABAA受容体に結合して塩素イオンチャネルを直接開口します。その結果、Cl-が細胞内に流入し、シナプス膜が脱分極して抑制系神経機能が亢進されます。

バルビツール酸誘導体の使用用途

バルビツール酸誘導体は1903年に最初のバルビツール酸系睡眠薬であるバルビタール(図2)が開発されてから1950年代までの間、唯一の睡眠薬や鎮静剤として用いられました。

バルビタールの構造

図2. バルビタールの構造

その後、様々なバルビツール酸系睡眠薬が開発されましたが、長期的な摂取や過剰摂取により依存症状や脱離症状、ビタミン欠乏症などを引き起こす危険性が示されました。そのため、バルビツレートの睡眠薬としての利用は減りつつあり、ベンゾジアゼピン誘導体と呼ばれる新しい化合物群にとって代わられつつあります。

現在では、バルビツレートは安楽死やてんかんの治療など、ごく一部の用途でしか使用されておらず入手は困難です。

バシトラシン

バシトラシンとは

バシトラシン (英: Bacitracin) とは、数種類の環状ポリペプチドの混合物からなる抗生物質です。

土壌や人の消化管などに広く存在する枯草菌のトレイシー株によって産生されます。トレイシー株という名前は、マーガレット・トレイシーという少女の足の怪我から、バシトラシンを生成する菌株が初めて単離されたことに由来します。バシトラシンの主成分は、バシトラシンAです。

バシトラシンの使用用途

バシトラシンは、主としてグラム陽性細菌に対し強い抗菌作用を示すため、医薬品として用いられます。細菌の細胞壁の形成を阻害し、DNAを酸化切断することで殺菌作用を示します。作用時間が短く、1日数回の局所投与が必要です。

バシトラシンは筋肉内に投与すると腎毒性を示し、腎不全を引き起こす可能性があります。また、経口摂取でも強い毒性を示すことから、傷口などに局所的に用いるトローチや軟膏などの剤形で利用されます。

1. トローチ

バシトラシンのトローチ剤は、グラム陽性菌であるブドウ球菌や連鎖球菌を原因とする口内炎に対して用いられる医薬品です。

口内の菌の増殖を防ぐため、患部の炎症を鎮静化させ、痛みも治まります。抜歯や口腔内手術後の二次感染防止にも適用されます。

2. 軟膏

バラマイシンは、バシトラシンとフラジオマイシン硫酸塩の2種が配合された抗生物質製剤です。フラジオマイシンは、タンパク質の合成を抑制することで細菌の増殖を防ぐ働きを持ちます。バシトラシンとフラジオマイシンの作用の相乗効果により、化膿性の皮膚病や傷、火傷に対し効力の高い殺菌剤、化膿止めとして働きます。

外用薬であるため、副作用はほとんどありません。稀に腎臓の症状や難聴、発疹やかゆみを生じる過敏症が表れる場合があります。

バシトラシンの性質

ここでは、バシトラシンAについて説明します。化学式はC66H103N17O16Sで表され、分子量は1,422.71です。CAS番号は1405-87-4で登録されています。化審法官報公示番号は8-474です。

バシトラシンは融点221〜225°Cで、常温で白色粉末の固体です。水に溶けやすく、エタノールにも溶け、エーテルにはほとんど溶けません。

バシトラシンのその他情報

1. バシトラシンの製造法

バシトラシンは、枯草菌であるBacillus licheniformisおよび、一部のBacillus subtilisにより産生されます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
強酸化剤は、バシトラシンの混触危険物質です。取り扱う時や保管時に、強酸化剤と接触しないよう気を付けてください。

取り扱う際は、必ず保護手袋とゴーグルなどの側板付きの保護メガネ、袖の長い保護衣を着用して皮膚や眼との接触を避け、局所排気装置内で使用してください。

火災の場合
燃焼により、一酸化炭素 (CO) や二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) 、硫黄酸化物 (SOx) へと分解し、有毒なガスや蒸気を生成するおそれがあります。水噴霧や耐アルコール泡消火剤、粉末消火剤、二酸化炭素、消化砂を用いて消火してください。

眼に入った場合
眼に入った際は、眼を傷つけないように、水でしばらくの間洗浄します。直ちに、医師の診察を受けてください。

吸入した場合
吸入してしまった際は、すぐに新鮮な空気のある場所に移動します。呼吸していない場合は、人工呼吸を施してください。症状が続く場合は、医師の診断を受けてください。

保管する場合
ガラス製の容器に密閉し、2〜10℃の冷蔵庫内で直射日光を避けて保管してください。保管部屋は、施錠します。

参考文献
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Bacitracin-A

ノナン

ノナンとは

ノナンとは、化学式C9H20で表され、異性体が35種類存在する有機化合物です。

中でも、直鎖上の構造を持つもののみを指してノナンと呼ぶ場合が多いです。ノナンは炭素数9の直鎖状アルカンで、無色で油状の液体です。常温で甘い芳香を持ち、水に不溶、エタノールに可溶です。

工業的には、ナフサを分留することで得られます。実験室では、ノナン酸をヨウ化水素やリンとともに加熱するなどの方法で合成可能です。

ノナンは、主に石油産業や化学工業で利用されます。塗料や樹脂、脂肪、ワックスの抽出や希釈に有用です。また、ガソリンやディーゼル燃料の一部として使用されることもあります。

可燃性で引火点は31℃と比較的低いため、高温や火気に注意が必要です。また、吸入や皮膚への接触、目への刺激があります。取り扱う際は、適切な保護具や換気が必要です。

ノナンの使用用途

ノナンは、主に石油産業や化学工業で利用されます。生分解性洗剤の原料や有機溶媒として使用されることが多く、有機溶媒として塗料や樹脂、脂肪、ワックスの抽出や希釈にも有用です。

また、ガソリンやディーゼル燃料の一部として、実験室では非極性溶媒として使われることがあります。なお、ノナンは原油の分留によって150℃~270℃の範囲で得られるケロシンと呼ばれる重油に含まれています。

ケロシンは、触媒の作用によって分解するクラッキングという反応を行い、水素添加によって還元するなどの操作を行った後、さまざまな燃料として使用されます。最も一般的な用途は、家庭などで使われる灯油です。そのほか、ジェット燃料などに使われる場合もあります。

ノナンの性質

ノナンは、炭素数9の直鎖状アルカンで、無色で油状の液体です。分子式はC9H20で、9つの炭素原子が直鎖状に結合し、それぞれの炭素原子は2または3つの水素原子と結合しています。

常温・常圧下では無色で油状の液体で、甘い、特徴的な石油臭があります。沸点は150.8℃ 、融点は-53.6℃、比重は0.718g/cm³で、水より軽いです。極性が非常に低いため、水にほとんど溶けませんが、ヘキサン、エーテル、クロロホルムなどの非極性有機溶媒にはよく溶けます。

また、酸化剤、還元剤、塩基、酸などの極性試薬に対して反応性が低いです。ただし、強力な酸化剤と接触すると反応し、燃焼を引き起こすことがあります。

ノナンの構造

ノナンは直鎖状のアルカンで、9個の炭素原子が連なっている構造を持ちます。飽和炭化水素であり、非極性です。

なお、分子式はC9H20です。ノナンは直鎖状アルカンであるため、炭素原子は一直線上に連なり、構造異性体は存在しません。化学的には安定で、強い酸や塩基に対しては反応性が低いです。

ノナンのその他情報

ノナンの製造方法

ノナンは、石油を原料として、複数の方法で製造されます。

1. 石油精製
ノナンは、石油の精製過程から直接得られます。原油は、さまざまな炭化水素の混合物で構成されており、これを蒸留によって異なる沸点を持つ成分に分離します。

ノナンは、留出物から分離される軽油 (石油エーテルやナフサなど) に存在する物質です。分別蒸留により、ノナンを他のアルカン類や成分から分離することができます。

2. 触媒的分解
触媒的分解は、石油精製過程で炭化水素の大きな分子を小さな分子に分解する方法です。この過程では、通常は酸性ゼオライト触媒の存在下で、炭化水素の高分子量成分が熱分解されます。

3. アルキル化
イソブタンとオレフィンとの反応を酸触媒存在下で行うことで、より大きなアルカン分子を生成する方法です。例えば、イソブタンとヘキセンを反応させることで、ノナンが生成される場合があります。

しかし、この方法は珍しく、実験室レベルで報告されている手法に留まります。

4. フィッシャー・トロプシュ法
合成ガスを触媒の存在下で反応させて、ノナンや他のアルカン類を生成する方法です。炭素数の異なるアルカンが生成されるため、後続の分別蒸留によって、ノナンを得ることができます。

ニトロメタン

ニトロメタンとは

ニトロメタンとは、有機化合物の1種で、化学式CH3NO2で表される化合物です。

最も単純なニトロ化合物で、CAS登録番号は、75-52-5です。抽出、反応溶媒、洗浄溶媒など、さまざまな工業的用途を持ちます。

歴史的には、1950年にニトロメタンを載せた貨物列車が爆発したことで、初めてニトロメタンが爆発物であることが知られ、現在では安定剤を添加した状態で運搬されています。爆発物として広く知られているTNTよりも、爆発のエネルギーが大きい物質です。

ニトロメタンの使用用途

ニトロメタンの主な使用用途は、 溶剤、助燃剤、界面活性剤、爆薬、医薬品、殺虫剤、殺菌剤等の原料です。原料以外では、抽出、反応溶媒、洗浄溶媒などとしても工業的に広く使用されます。

有機合成においては1炭素増炭試薬として使われたり、有機溶媒として用いられたりする物質です。具体的な反応としては、ニトロアルカンとアルデヒドやケトンを縮合してβ-ニトロアルコールを得るニトロアルドール反応 (ヘンリー反応) や不飽和カルボニル化合物に対して求核剤を付加するマイケル反応などに用いられます。

また、ニトロメタンは燃料としても広く利用されています。ニトロメタンはガソリンよりも少ない酸素で大きな出力を生み出すことができるため、ドラッグレースなどのモータースポーツで燃料として利用されています。

ニトロメタンの性質

ニトロメタンの基本情報

図1. ニトロメタンの基本情報

ニトロメタンは、分子量61.04、融点-28℃、沸点101℃であり、常温では無色の粘性のある液体です。特異臭を呈します。密度は1.13g/mLであり、水に不溶ですが、 アルコール、エーテル、ジメチルホルムアミドに溶解します。酸解離定数pKaは10.2であり、弱いながらも酸性プロトンを持っています。

ニトロメタンの種類

ニトロメタンは、一般的には主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類は、25mL、100mL、500mL、500gなどであり、実験室で取り扱いやすい小容量の製品が中心です。

通常、室温で取り扱い可能な試薬製品として扱われます。前述の各種危険性のため、法令による規制を受ける化合物であり、法令を遵守した取り扱いが必要です。

ニトロメタンのその他情報

1. ニトロメタンの合成

ニトロメタンの合成

図2. ニトロメタンの合成

ニトロメタンは、工業的には、プロパン硝酸を350-400℃で反応させて生産されています。この反応では、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパンの4つのニトロアルカンを同時に得ることが可能です。

この反応の反応機構では、対応する硝酸エステルのホモリシスによって生じるCH3CH2CH2O型のアルコキシラジカル類を含むフリーラジカルが関与しています。

実験室的製法では、クロロ酢酸ナトリウムと亜硝酸ナトリウムを用いた合成が一般的な方法として挙げられます。

2. ニトロメタンの化学反応

ニトロアルドール反応

図3. ニトロアルドール反応

ニトロメタンの化学反応で有名なものの1つが、ニトロアルドール反応 (ヘンリー反応) です。この反応では、塩基を用いてニトロメタンを脱プロトン化した後、アルデヒドまたはケトンを縮合させ、β-ニトロアルコールが得られます。

本反応では形式や機構がアルドール反応の延長線上にあり、ニトロ基との共鳴によって安定化されたカルバニオンがカルボニル基へ求核的に付加します。生じたβ-アルコールは脱水を受けるとニトロアルケンとなり、これはマイケル付加やネフ反応の基質となる有用な化学種として合成上有用です。

3. ニトロメタンの安全性情報

ニトロメタンと硝酸アンモニウムの混合物は爆薬として用いられます。純粋なニトロメタンはそれほど衝撃に敏感ではないですが、危険性を減らすために安定剤が添加されます。また、引火性液体及び蒸気でもあります。

人体に対しても有毒な物質であり、軽度の皮膚刺激、強い眼刺激、発がんのおそれの疑い、肝臓や腎臓の障害のおそれ、呼吸器への刺激のおそれ、などの危険性が指摘されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0886.html

ニトロベンゼン

ニトロベンゼンとは

化学式C6H4NO2で表される芳香族ニトロ化合物で、ニトロベンゾールとも言います。融点5.7℃、沸点210.8℃、比重1.20 (20℃)、薄い黄色、アーモンド芳香臭があります。有機溶媒に可溶、水に難溶です。毒物及び劇物取締法により劇物指定されている。

ニトロベンゼン 構造式

ニトロベンゼンの生成

ニトロベンゼンは、濃硫酸と濃硝酸によって調整された混酸をベンゼンと反応させて合成可能であり、ニトロ化と呼ばれている。反応段階として、まず混酸によってニトロニウムイオン(NO2+)が活性種として生じ、これがベンゼンと反応することでニトロベンゼンが合成される。この反応は大きな発熱反応を伴い、非常に危険な化学反応の一つである。

ニトロベンゼン 合成

ニトロベンゼンの反応

ニトロベンゼンは濃硫酸と発煙硝酸によってさらにニトロ化され、メタ-ジニトロベンゼン(1,3-ジニトロベンゼン)となります。また、ニトロベンゼンを酸性で還元するとアニリンとなります。応用例として、ニトロベンゼン、グリセリン、アニリン、硫酸からキノリンが生成する反応があり、Skraupキノリン合成と呼ばれています。

ニトロベンゼン 由来物質

ニトロベンゼンの使用用途

本物質の主な用途は、医薬、農薬、染料、香料、ゴムなどの合成中間体(アニリン、ベンジジン、キノリン、アゾ 色素)です。酸性および中性で還元すればアニリンが,アルカリ性で還元すればアゾキシベンゼン,アゾベンゼンを経てヒドラゾベンゼンが得られます。また、ガス(アダムサイト)の原料にもなります。極性溶媒として利用されることもあり,ときには穏やかな酸化剤として用いられることもあります。

生体への影響

毒性は高くはありませんが、液体、蒸気ともに有毒で皮膚からも吸収し、神経系と肝臓の障害および貧血が発生させる恐れがあります。17か月間、職業的に本物質に暴露された結果、頭痛、吐き気、眩暈、脱力感、 足のしびれ感、手足の痛覚過敏、チアノーゼ、低血圧、脾臓腫張、肝臓腫張と圧痛、黄疸な どの神経、肝臓への影響ならびにメトヘモグロビン血症がみられたことが報告されている。

ニトロフェノール

ニトロフェノールとは

ニトロフェノールの構造式

図1. ニトロフェノールの構造式

ニトロフェノールとは、フェノールにニトロ基が結合した構造を持つ有機化合物です。

ニトロ基の位置により2-ニトロフェノール (o-ニトロフェノール) 、3-ニトロフェノール (m-ニトロフェノール) 、4-ニトロフェノール (p-ニトロフェノール) の3種類があります。

これらのニトロフェノールの中で最も一般的に使われているのは4-ニトロフェノールです。4-ニトロフェノールは皮膚や粘膜に対して刺激性を持つため、長時間接触しないよう取り扱いには注意が必要です。

ニトロフェノールの使用用途

1. フェネチジンやアセトフェネチジンの合成

4-ニトロフェノールはフェネチジンやアセトフェネチジンの合成に使われます。フェネチジンは人工甘味料であるズルチンの合成原料として使われていましたが、現在ではアゾ染料や医薬品などの中間体として使用されています。

また、アセトフェネチジンはフェナセチンとも呼ばれ解熱鎮痛剤として知られていますが、長期的に大量服用することで腎臓に障害が現れることが知られたため現在では多くの企業がアセトフェネチジンの使用を停止しています。

2. pH指示薬

ニトロフェノールアニオン

図2. ニトロフェノールアニオン

4-ニトロフェノールは、酸性溶液中では無色で、アルカリ性溶液中では黄色に変色するので、pH指示薬として使用できます。4-ニトロフェノールがアルカリ性溶液中に置かれると、ニトロフェノール上の水酸基から H+が塩基の OHに供与され、ニトロフェノールアニオンとなります。ニトロフェノールアニオンは紫色の光を吸収するかつ、黄色の光を反射するため、溶液は黄色になります。

3. 殺菌剤・殺虫剤

ニトロフェノールはタンパク質を凝固・変性させる力が非常に強いという特性があります。細菌にもよく浸透するので、殺菌剤や殺虫剤に使用されます。木材腐朽菌に対する殺菌効果もあるので木材の防腐剤としても使われています。

ニトロフェノールの性質

1. 酸性度

ニトロフェノールは、フェノールにニトロ基 (-NO2) が結合した有機化合物であり、比較的強い酸性をもちます。フェノール類はアルコール類に比べて酸性度が高くなります。これは水素イオン H+を電離したのち生じる共役塩基の負電荷がベンゼン環に流れ込んで非局在化しているため、安定しているからです。

フェノール類の酸性度は置換基によって大きく影響されます。ニトロフェノールは,フェノール類の中では非常に酸性度が高くなります。ニトロ基は、電子求引性が強く、フェノールのフェノール性水素よりも酸性が高くなります。

2. 溶解性

ニトロフェノールは、フェノールにニトロ基が置換された化合物であり、ニトロ基は強い電子求引性を持つため、分子全体として極性を持ちます。そのため、ニトロフェノールは比較的電離しやすく、水によく溶けます。さらに、アルカリ溶液や様々な有機溶媒にもよく溶け、広い溶解性を持ちます。

3. 結晶多形

4-ニトロフェノールは、結晶状態で 2つの結晶多形を示します。α型は無色柱状晶で、室温では不安定で、太陽光に対して安定です。β型は黄色の柱状晶で、室温では安定で、太陽光が当たると徐々に赤くなります。

ニトロフェノールの構造

ニトロフェノールはフェノールのベンゼン環につながっている水素がニトロ基 (-NO2) に置き換えられた構造を持っています。ニトロ基のヒドロキシ基に対する位置 (オルト位、メタ位、パラ位) によって、2-ニトロフェノール (o-ニトロフェノール) 、3-ニトロフェノール (m-ニトロフェノール) 、4-ニトロフェノール (p-ニトロフェノール) の3つの異性体が存在します。

これらのニトロフェノールは、それぞれ異なる位置にニトロ基を持っているため、融点・沸点や水への可溶性などの性質がことなります。また、それぞれの化合物の反応性や用途も異なっています。

ニトロフェノールのその他情報

1. ニトロフェノールの合成

ニトロフェノール生成

図3. ニトロ化によるニトロフェノールの生成

フェノールを希硝酸でニトロ化すると、2-ニトロフェノールと4-ニトロフェノールの混合物が生成されます。それぞれの沸点が異なるため、蒸留法で両者を分離することができます。また、 2-ニトロフェノールはp-ニトロクロロベンゼンから加水分解と酸性化によって合成されます。

3-ニトロフェノールは,m-ニトロアニリンをジアゾ化し,ついでジアゾニウム基を加水分解することによって合成できます。

ニトロアニリン

ニトロアニリンとは

ニトロアニリンの異性体群

図1. ニトロアニリンの異性体群

ニトロアニリンは、アニリンの芳香環上の水素が1つニトロ基に置換した、芳香族アミンに属する有機化合物です。

化学式はC6H6N2O2、分子量 138.126であり、ニトロ基の位置により3種類の位置異性体が存在します。具体的な化合物名は、2-ニトロアニリン (o-ニトロアニリン) 、4-ニトロアニリン (p-ニトロアニリン)、3-ニトロアニリン(m-ニトロアニリン) です。

一般的には、4-ニトロアニリンが最も広く使用されています。CAS登録番号は、順に88-74-4 (2-ニトロアニリン) 、99-09-2 (3-ニトロアニリン) 、100-01-6 (4-ニトロアニリン) です。

ニトロアニリンの使用用途

ニトロアニリンの主な使用用途は、色素や医薬品合成の中間体、酸化防止剤、ガソリンのガム状化防止剤、家禽の医薬品、腐食防止剤などです。4-ニトロアニリンは赤色のアゾ色素であるパラレッドの合成原料として使用されています。

パラレッドは1880年に開発された世界で初のアゾ染料で、現在も使用されているだけでなく歴史的意義を持ったアゾ染料です。パラレッドは着色しやすく、濃い発色で耐光性や耐熱性に優れているという特徴があります。

3-ニトロアニリンも、特にアゾ色素の合成中間体として用いられる物質です。3-ニトロアニリンからは黄色や青色の色素が合成されます。

ニトロアニリンの性質

1. 2-ニトロアニリンの基本情報

2-ニトロアニリンは、融点71-72℃、沸点284℃であり、常温では橙色結晶です。密度は1.255g/mLであり、エタノール及びジエチルエーテルにやや溶けやすく、水に極めて溶けにくい性質を示します。

2. 3-ニトロアニリンの基本情報

3-ニトロアニリンは、融点114℃、沸点306℃であり、常温では黄色結晶です。密度は0.90g/mLであり、エタノール及びジエチルエーテルにやや溶けやすく、水に極めて溶けにくい性質を示します。

3. 4-ニトロアニリン

4-ニトロアニリンの基本情報

図2. 4-ニトロアニリンの基本情報

4-ニトロアニリンは、3つの異性体の中で最も汎用されている物質です。融点148℃、沸点332℃であり、常温で黄色または黄赤色の粉末または結晶です。

密度は1.437g/mLであり、エタノール及びジエチルエーテルにやや溶けやすく、水に極めて溶けにくい性質を示します。

ニトロアニリンの種類

ニトロアニリンは、研究開発用試薬製品として一般的に販売されています。販売されているものの中では4-ニトロアニリンが最も多く、2-ニトロアニリンや3-ニトロアニリンは少数です。

容量の種類は、25g、500gなど、実験室で取り扱いやすい小容量となっています。通常、室温で取り扱い可能な試薬製品です。

ニトロアニリンのその他情報

1. ニトロアニリンの合成

2-ニトロアニリン・4-ニトロアニリンの合成

図3. 2-ニトロアニリン・4-ニトロアニリンの合成

4-ニトロアニリン及び、2-ニトロアニリンは、アニリンを原料として次の手順で合成が可能です。

  1. アニリンのアミノ基をアセチル基で保護する (アセトアニリドの合成)
  2. 生じたアセトアニリドを混酸によりニトロ化する (芳香族求核置換反応)
  3. 2-ニトロアセトアニリドと4-ニトロアセトアニリドの精製分離
  4. アセチル基を加水分解で脱保護

上記の反応は、オルト・パラ配向性のため、3-ニトロアニリンは、この方法では合成できません。3-ニトロアニリンは、ベンズアミドのニトロ化反応と、続くホフマン転位によって合成が可能です。

2. 4-ニトロアニリンの化学反応

4-ニトロアニリンの化学反応でよく知られているものは、アゾ色素であるパラレッドの合成です。4-ニトロアニリンをジアゾ化した後、β-ナフトールとカップリングさせることでパラレッドが得られます。染める時には繊維にβ-ナフトールのアルカリ水溶液を染み込ませたうえで、繊維上でカップリングを行います。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0171.html