バルビツール酸とは
図1. バルビツール酸の構造
バルビツール酸はピリミジン骨格を持つ複素環式化合物であり、マロニル尿酸とも呼ばれます。常温で無色、無臭の固体です。
ドイツの科学者アドルフ・フォン・バイヤーによって発見された化合物であり、その合成方法としては、マロン酸と尿素を酸性条件下で脱水縮合させることで得られます。なお現在では、バルビツール酸の合成にはマロン酸ジエチルがその基質として用いられています。
バルビツール酸の物理化学的諸性質
1. 名称
和名:バルビツール酸
英名:barbituric acid
IUPAC名: 1,3-diazinane-2,4,6-trione
2. 分子式
C4H4N2O3
3. 分子量
128.09
4. 融点
245℃(分解)
5. 溶媒溶解性
水、エタノールに微溶、エーテルに不溶、熱水に可溶
バルビツール酸誘導体(バルビツレート)の生理活性
バルビツール酸を基本構造とした様々な誘導体には中枢神経系抑制作用が認められており、これらの化合物はバルビツレートと呼ばれます。その代表例としては以下の化合物が挙げられます。
バルビツレートの例
バルビタール、フェノバルビタール、アモバルビタール、アロバルビタール、シクロバルビタール、ペントバルビタール、チオペンタナール、チアミナール、ヘキソバルビタール
これらのバルビツレートは鎮静薬、静脈麻酔薬、抗てんかん薬として利用されていますが、興味深い事に、その基本骨格であるバルビツール酸そのものには中枢神経抑制作用は報告されていません。
バルビツレートの作用機作
GABAA受容体に結合して塩素イオンチャネルを直接開口します。その結果、Cl-が細胞内に流入し、シナプス膜が脱分極して抑制系神経機能が亢進されます。
バルビツール酸誘導体の使用用途
バルビツール酸誘導体は1903年に最初のバルビツール酸系睡眠薬であるバルビタール(図2)が開発されてから1950年代までの間、唯一の睡眠薬や鎮静剤として用いられました。
図2. バルビタールの構造
その後、様々なバルビツール酸系睡眠薬が開発されましたが、長期的な摂取や過剰摂取により依存症状や脱離症状、ビタミン欠乏症などを引き起こす危険性が示されました。そのため、バルビツレートの睡眠薬としての利用は減りつつあり、ベンゾジアゼピン誘導体と呼ばれる新しい化合物群にとって代わられつつあります。
現在では、バルビツレートは安楽死やてんかんの治療など、ごく一部の用途でしか使用されておらず入手は困難です。