ビオチン

ビオチンとは

ビオチンとは、一般的な名称ではビタミンB7やビタミンHと呼ばれている、栄養素の一つです。

ビオチンは科学的な名称です。生体内でも合成される物質で、皮膚や粘膜の健康を維持したり、爪や髪の健康にも深く関わっていることが知られています。

ビオチンの不足は、肌荒れなどにとどまらず、うつ症状が現れるなど心身に影響を及ぼすため、積極的な摂取が必要な物質です。キノコ類や肉類に多く含まれていることが知られており、バランスのよい食事を心がけることで1日の摂取量50μgを補えます。

ビオチンの使用用途

ビオチンの使用用途として最も多いのは、皮膚症状に関する医薬品です。皮膚の炎症を防止する作用も報告されているため、湿疹や接触性皮膚炎、ニキビをはじめとした皮膚の諸症状に対する薬として処方されることもあります。

ビオチンの性質

ビオチンの融点は、232〜233℃です。酸、アルカリ、光に対しては安定ですが、熱には不安定です。

ビオチンは水溶性で、水やアルコールには溶けやすいですが、有機溶剤には溶けません。食品加工によって、一部損失します。

なお、ビオチンは白色の針状結晶で、化学式はC10H16N2O3S、分子量は244.31です。また、コエンザイムA (CoA) の構成成分でもあります。

ビオチンのその他情報

1. ビオチンの摂取方法

ビオチンは、肉類などに多く含まれていますが、加工方法や保存方法によって残存率が変化するため、できるだけ加工が少ない状態で摂取することが重要です。それでも摂取できない場合は、ビオチンを使用したサプリメントで摂取できます。

2. ビオチンの生合成

すべての生物種にとって、ビオチンは必須の栄養素ですが、生合成できるのは一部の微生物、カビ、植物だけです。

食物中のビオチンは、ビオシチンやビオチニルペプチドのようなタンパク質と結合した状態で、ビオチニダーゼにより遊離型となって利用されています。サプリメントに含まれているビオチンは遊離型なので、吸収されやすいです。

遊離型になったビオチンは、小腸で吸収されます。そしてホロカルボキシラーゼや合成酵素によって、カルボキシラーゼの補酵素になります。

3. 補酵素としてのビオチン

カルボキシル基転移酵素 (英: carboxylase) の補酵素として、ビオチンは働いています。ビオチンを補酵素として有する酵素の一群は、ビオチン酵素 (英: biotin enzyme)と呼ばれています。

ビオチン酵素の具体例は、ピルビン酸カルボキシラーゼやアセチルCoAカルボキシラーゼなどです。ピルビン酸カルボキシラーゼは糖代謝に関与し、アセチルCoAカルボキシラーゼは脂肪酸合成に関与しています。

それ以外にも、プロピオニルCoAカルボキシラーゼや3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼなども含まれています。プロピオニルCoAカルボキシラーゼはアミノ酸や脂肪酸代謝に関与し、3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼはアミノ酸の一種であるロイシンの代謝に関与する酵素です。

4. ビオチンの応用

生卵白中のアビジンは、ビオチンと非常に強く結合します。そのためビオチンを標的分子に結合することで目印となり、アビジンで検出することが可能です。この方法は血液検査で用いられています。ビオチンを大量摂取している場合には、異常がないのに誤診される場合もあります。

血清ビオチン濃度は、ビオチンの栄養状態を計測するための指標です。軽度のビオチン欠乏の際には、感度が鈍く、別の指標が考えられています。

5. ビオチンの摂取量

ビオチンは、哺乳類には生合成できません。腸内細菌による合成のみでは必要量に満たないと言われているため、食品からの摂取が必要です。ただしビオチンは多種多様な食品に含まれており、通常の食生活では欠乏症は起こりません。しかし抗生物質を長期服用する場合には、理論的に食事によるビオチン必要量が増加します。

さらにビオチンは水溶性ビタミンなので、過剰に摂取した際にも、尿として排出されやすいです。過剰摂取が原因の健康被害が報告されておらず、耐容上限量も設定されていません。

バリン

バリンとは

L-バリンの構造

図1. L-バリンの構造

バリンはタンパク質を構成する天然アミノ酸の一種です。ヒトはバリンを体内で合成することが出来ないため、外部から摂取しなければならない必須アミノ酸の1つでもあります。なお、バリンは多くの食品に含まれるため通常の食事で不足する事はありません。

構造上の特徴としては、側鎖にイソプロピル基を有しており、ロイシン、イソロイシンとともに分岐鎖アミノ酸((BCAA:Branched Chain Amino Acid))に分類されます。本化合物は光学活性を有しておりL体とD体が存在しますが、タンパク質構成アミノ酸としてのバリンはL体です。

バリンの使用用途

1. 筋力トレーニング用のサプリメントとしての利用

バリンは、筋肉代謝に重要な役割を果たし、筋肉を強化する効果が期待される事から、筋力トレーニング用のサプリメントとして利用されています。またバリンは、ロイシン、イソロイシンとともにBCAA(分岐鎖アミノ酸)の一種であり、このBCAAは、運動時の筋肉のエネルギー源となるため、スポーツサプリメントとして用いられています。

2. 化粧品としての利用

バリンには、角質の水分量を増加させ、保湿効果があるといわれています。そのため本化合物は、化粧品、スキンケア用品、洗顔料、ハンドケア用品などに配合されています。

3. ヒトの体内での役割について

バリンは疲労回復効果や成長促進に重要なアミノ酸でもあります。その他にも、血液中の窒素濃度を調整するとともに、アンモニア代謝を改善するなどのように、生体内で重要な役割を担っています。

4. 医薬品としての利用

低タンパク質血症、低栄養状態時のアミノ酸補給等を目的として用いられています。

5. その他の生理活性について

筋肉の修復効果、肝硬変の改善効果、食欲不振の改善効果などが報告されており、サプリメントや医薬品としての応用が期待されています。

L-バリンの性質

1. 名称

和名:L-バリン
英名:L-Valine
IUPAC名:(2S)-2-amino-3-methylbutanoic acid
3文字略号:Val
1文字略号:V

2. 分子式

C5H11NO2

3. 分子量

117.15

4. 構造式

図1の通り。

5. 融点

315℃(分解)

6. 溶媒溶解性

水にやや溶けやすく、エタノールに難溶である。

7. 味

苦味

バリンのその他情報

1. バリンの生合成

植物においては、ピルビン酸から3段階の酵素反応によりα―ケトイソ吉草酸が生成され、これに対してアミノ基転移酵素の作用によりアミノ基が転移する事で生合成されます。

2. バリンが関連した疾患の例

メープルシロップ尿症
本疾患の患者は、分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素と呼ばれる酵素に遺伝的な異常があります。そのため、バリンを含む分岐鎖アミノ酸の代謝を正常に行う事ができません。その結果、患者の体内では分岐鎖アミノ酸の異常な代謝産物が蓄積し、嘔吐、意識障害、けいれん等の症状が出現します。治療が遅れると最悪の場合は死に至ります。

鎌状赤血球症の関係
本疾患においては、正常なヘモグロビンの6番目のアミノ酸であるグルタミン酸がバリンに変異しているという特徴があります。そのため、正常な赤血球の形状は中央部がへこんだ円形ですが、ホモ接合体の本疾患の場合は、赤血球の形状は鎌状を呈しているという特徴があります。本疾患には重篤な溶血性貧血が認められます。

3. バリンが多く含まれる食品

レバー、牛肉、鶏肉、落花生、プロセスチーズ、まぐろ、卵、牛乳などに多く含まれます。

ニトログリセリン

ニトログリセリンとは

ニトログリセリンの基本情報

図1. ニトログリセリンの基本情報

ニトログリセリンとは、爆薬や狭心症治療薬として使用されている有機化合物です。

ニトロと呼んだ場合には、一般的にニトログリセリンまたはニトログリセリン含有の狭心症剤のことを指します。ただし、ニトログリセリンは硝酸エステルであり、ニトロ化合物ではありません。

ニトログリセリンの原液は、僅かな振動や摩擦により爆発を引き起こしやすいため、取り扱いには注意が必要です。正しく取り扱えば爆発は起こらないですが、取り扱い方法が確立していなかった時代には、爆発事故が多発していました。

ニトログリセリンの使用用途

ニトログリセリンの主な使用用途として、爆薬と医薬品が挙げられます。加熱・振動・摩擦により爆発するため、爆薬としてダイナマイトの原材料に用いることが可能です。ニトログリセリンにニトロセルロースを配合したニトロゲルを6%以上含有するものを、ダイナマイトと呼びます。

ニトログリセリンは、狭心症に対する医薬品としても使用可能です。舌下錠として口腔粘膜から吸収された後に、還元酵素により亜硝酸を遊離して、一酸化窒素に変換されます。この一酸化窒素が血管平滑筋を弛緩し、血管を拡張させます。

ニトログリセリンの性質

ニトログリセリンは、無色または淡黄色の油状液体です。水に溶けにくく、有機溶剤に溶解しやすいです。融点は14°Cで、50-60°Cで分解します。衝撃感度や摩擦感度は高いです。

また、容易に低速爆轟 (英: Low Velocity Detonation) を起こします。衝撃感度が高いため、衝撃が小さくても爆発しやすいです。感度を下げるには、水やアセトンに混ぜるか、ニトロゲル化します。

なお、ニトログリセリンは、示性式がC3H5(ONO2)3の硝酸エステルです。グリセリン (英: glycerineまたはglycerin) 分子の3つのヒドロキシ基を、硝酸とエステル化した構造を持っています。分子量は227.0865g/molで、15°Cでの密度は1.6g/cm3です。

グリセリンの配位構造は3つの炭素原子が四面体形で、3つの窒素原子が平面三角形を取っています。

ニトログリセリンのその他情報

1. ニトログリセリンの合成法

ニトログリセリンの合成

図2. ニトログリセリンの合成

ニトログリセリンは、アスカニオ・ソブレロ (英: Ascanio Sobrero) によって、1847年に初めて合成されました。具体的には、硝酸グリセリンを硝酸エステル化して、ニトログリセリンを得ることが可能です。

2. ニトログリセリンの保管

ニトログリセリンは8°Cで凍結します。14°Cになると融解しますが、一部凍結していると感度も高いです。したがって、液体よりも弱い衝撃で、爆発しやすいです。

ゲル化しているニトログリセリンも、凍結と解凍を繰り返すことで、液体が染み出すため安全ではありません。ダイナマイトとして加工した場合にも、凍結を避ける必要があります。気温によって溶けたり凍結したりしないように、保管時の温度管理が重要です。

3. ニトログリセリンの使い方

ニトログリセリンを融解するためには、湯煎して間接的に熱します。瓶の縁に空気を残さないように気をつけ、かき混ぜないようにします。

ゲル化しているニトログリセリンでは問題ありませんが、ゲル化中にわずかに気泡が入ると爆発する可能性があるため、加工にも注意しなくてはいけません。

4. ニトログリセリンの関連化合物

グリセリンの基本情報

図3. グリセリンの基本情報

ニトログリセリンは、グリセリンの硝酸エステルです。グリセリンは甘味がある、無色透明の糖蜜状液体です。

保存料や甘味料だけでなく、保湿剤や増粘安定剤など、食品添加物としての用途があります。そのほか、化粧品や医薬品としても使用されています。

トール油

トール油とは

トール油の概要

図1.トール油の概要

トール油 (tall oil) とは、パルプの製造工程において副生成物として生成する、脂肪酸・樹脂酸・不けん化物等の混合物です。

外観は暗褐色の稠密液であるとされます。パルプ工場においては、パルプ材のチップ処理とアルカリ溶液による蒸解を行うことによって、パルプ (繊維) を分離精製しています。

このとき分離される繊維を固めていたリグニン・樹脂成分と薬品が混じった液体を濃縮したものを黒液と呼びますが、トール油はこの黒液から得られる物質です。黒液から得られた未精製のトール油は、粗トール油と呼ばれます。

粗トール油は蒸留塔を用いて蒸留することにより、トールロジンやトール脂肪酸などに分離精製することが可能です。これらは、それぞれ工業的に利用されている物質です。

トール油の使用用途

トール油は安価な脂肪酸原料の1種で、主にグリースや工業用石鹸、乳化剤、ペイント、印刷用インキの製造など工業的に用いられています。トール油脂肪酸は、アルキド樹脂等の塗料樹脂として用いられている他、アゼライン酸・オレイン酸・リノール酸の製造などにも使われています。

また、燃料添加剤や洗剤の界面活性剤としても利用されている物質です。トール油ロジンは、合成ゴム用乳化剤や各種の滑り止め剤、路面標識用等の塗料などに用いられています。

その他、テープ用の粘着付与剤やホットメルト接着剤、再生紙処理剤等の用途に幅広く使用されている物質です。

トール油の性質

トール油脂肪酸に含まれる成分

図2. トール油脂肪酸に含まれる成分

トール油は、松材から得られるものであるため、他の植物由来の代替品ほど季節の変化による影響を受けないとされています。トール油脂肪酸の主な成分は、オレイン酸とリノール酸です。その他には、ステアリン酸とパルミチン酸をごくわずか含みます。

リノレン酸以上の多不飽和脂肪酸を含まず、飽和脂肪酸量もきわめて少ない組成です。また、極めて微量の特異な脂肪酸を含んでいます。

トール油ロジンに含まれる成分

図3. トール油ロジンに含まれる成分

一方、トール油ロジンの主な成分は、樹脂酸です。具体的には、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸などの成分が検出されています。

その他、トール油初留にはセスキテルペン、テルペンアルコール、フェノール性物質、低分子脂肪酸が含まれており、ピッチには脂肪酸および樹脂酸のエステル、それらの重合物、酸化物、ステロール、リグニン系物質が含まれています。

トール油の種類

トール油は、主にアメリカ合衆国、カナダ、ロシア、中国などの製紙工場で生産されます。木材から製造されるものであるため、使用する松の種類によって成分比が異なる物質です。

日本の場合は、主に北米から輸入され、日本でトールロジンに精製されています。上述の通り、粗トール油は、トール油脂肪酸、トール油脂 (トールロジン) などの原料であり、蒸留精製によって複数種類に分離される物質です。これらの分離油分は、別個に工業的に活用されています。

トール油のその他情報

1. トール油の由来

「トール」という名称は、松を意味するスウェーデンの言葉(tall)に由来しています。また、トール油の成分比は、スラッシュマツ、ヨーロッパアカマツ、バビショウなど、使用する松の種類によって異なっています。

2. トール油の製造法

クラフトパルプの工場では、以下の製造工程でトール油が副生します。

  1. 木材チップ (パルプ材) を水酸化ナトリウム (苛性ソーダ) などの薬品を加えて煮溶かします (蒸解) 。
  2. パルプ (木材繊維) と白液 (リグニン・樹脂成分と薬品が混じった液体) に分離します。
  3. 白液を濃縮して黒液を得ます。
  4. 黒液中に溶出しているマツ類に含まれる樹脂酸、脂肪酸類のナトリウム石けんが濃縮過程で塩析され、クリーム状の浮遊物 (スキミングス) となります。
  5. スキミングスを酸で分解し、粗トール油が遊離して得られます。

このような製造過程で得られた粗トール油は、蒸留塔を用いて蒸留することにより、トール油脂肪酸、トール油脂 (トールロジン) 、トール油初留、およびピッチという4つの留分に分けられます。これらの留分は、バイオ化学品への改質が可能な物質です。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij1955/19/12/19_12_615/_pdf

トリエチルアミン

トリエチルアミンとは

トリエチルアミンの概要

図1. トリエチルアミンの概要

トリエチルアミンは窒素に3つのエチル基(C2H5)が結合した第三級アミンで、強いアンモニア臭のある無色透明の液体です。化学式は (C2H5)3N で表され、一般に「TEA」と略されます。

トリエチルアミンはエタノールアセトンなどの汎用的な有機溶媒に溶解しやすい強塩基であり、工業用および実験用としてさまざまな用途に使用されています。
また、医薬品や染料中間体などの分野を中心に、工業的にも幅広く使われています。

一方で、トリエチルアミンは悪臭を持つほか、皮膚、眼に対する刺激性が高いうえ、危険物第4類 第一石油類に該当する引火性液体でもあります。そのため、取り扱い時は漏洩、人体への接触がないこと、火災や爆発を引き起こさぬよう安全対策が求められます。

トリエチルアミンの使用用途

トリエチルアミンは第三級アミンの一種で、アセトンやトルエンクロロホルムなどの幅広い有機溶媒に可溶な塩基であるため、合成反応で広く用いられています。

工業的には医薬品や染料の中間体、ポリマー合成、農薬などに用いられているほか、フェノール樹脂とイソシアネート樹脂のガス硬化反応(コールドボックス法)における触媒として使用されることもあります。

食品業界においてトリエチルアミンはスルメイカや魚類の中にも存在していたり、欧米では肉製品や冷凍乳製品類などの風味向上などの目的で添加されたりしています。

トリエチルアミンの性質

トリエチルアミンは水、エタノール、およびほとんどの有機溶媒に非常によく溶けます。沸点は89℃、融点は-114.7℃、20℃における密度は0.726g/mLです。トリエチルアミンは強い刺激臭があり、しばしばアンモニアや魚の臭いに似ていると表現されます。

その化学的特性は、主に窒素原子に2個の水素原子が結合したアミン官能基の存在に起因しています。窒素原子上の電子が1対であるため、トリエチルアミンは強い塩基性を示します。

また、トリエチルアミンは強い求核剤であることが知られており、電子対を供与して求電子剤と新たな化学結合を形成します。このため、トリエチルアミンは有機合成の試薬として幅広く使用されています。

トリエチルアミンの毒性は高くはありませんが、大量に摂取したり吸い込んだりすると有害な場合があります。また、トリエチルアミンは可燃性であるため、取り扱いに注意が必要です。

トリエチルアミンの構造

トリエチルアミンは3級アミンであり、窒素原子(-N)に結合した3つのエチル基(-C2H5)を持っています。
窒素原子は電子の単独対を持っており、これがトリエチルアミンの性質特徴づけています。窒素原子がプロトン(H+)を受け入れて正電荷のアンモニウムイオン(C2H5)3NH+を形成することができるため、トリエチルアミンは強塩基性を示します。

トリエチルアミンのその他情報

1. トリエチルアミンの安全性と法規制

トリエチルアミンは皮膚、眼に対する腐食性を示すほか、特定標的臓器毒性(単回ばく露)の中枢神経系で区分1に分類されています。また前述の通り、アンモニアや腐った魚のような強い不快臭を発する物質です。したがってトリエチルアミンを使用する際は保護具を着用するのはもちろんのこと、漏洩対策も確実に行う必要があります。

またトリエチルアミンは消防法の第4類 第一石油類に該当するほか、労働安全衛生法のリスクアセスメント対象物質、PRTR法の第1種指定化学物質に該当しています。トリエチルアミンを使用する前は作業の危険性を評価するとともに、廃棄手順も明確に定めておくことが推奨されます。

2. トリエチルアミンの製造方法

トリエチルアミンは、主にエチレン、アンモニア、エタノールを原料として生産されます。
このプロセスは以下の工程で進行します。

①中間体(エチレンジアミン)の合成
エチレンとアンモニアを、温度約200~250℃、圧力約1~5MPaの条件で混合します。この混合物をアルミナやシリカアルミナといった触媒上に通すと、エチレンジアミンが生成します。

H2C=CH2 + NH3 → H2NCH2CH2NH2

②トリエチルアミン合成
エチレンジアミンを、ルイス酸などの別の触媒の存在下でエタノールと反応させることでトリエチルアミンが生成します。

H2NCH2CH2NH2 + 2 C2H5OH → (C2H5)3N + H2O + C2H4

その後、蒸留または抽出によって、反応混合物からTEAを分離することが可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/121-44-8.html
https://www.env.go.jp/chemi/report/h19-03/pdf/chpt1/1-2-2-12.pdf
https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_tenkabutu_trimeth_220107.pdf

トリニトロトルエン

トリニトロトルエンとは

トリニトロトルエンは、トルエンに3つのニトロ基が結合した有機化合物で、化学式はC6H2(NO2)3CH3で表され、TNTと略されることがあります。

6つの異性体がありますが、基本的に2,4,6-トリニトロトルエンのことを指します。トルエンを濃硝酸と濃硫酸でニトロ化することにより製造されます。

TNTは熱や摩擦によって爆発する性質を持つことから、第一次世界大戦中に広く使用されていました。その後も、軍事や民間で広く使用されています。

トリニトロトルエンの使用用途

トリニトロトルエンは、主に爆薬・火薬として利用されます。兵器としてだけではなく、硝酸アンモニウムと混ぜて、工業爆薬としても使われる場合があります。

爆薬・火薬として広く使用していることから、核爆弾の威力を表す単位は「TNT総量」です。その他、花火や信号弾、ロケットの推進薬などにも利用されています。

トリニトロトルエンの性質

トリニトロトルエンは、分子量227.13、CAS登録番号 118-96-7で表わされます。

1. 物理的性質

無色〜黄色で、無臭の個体 (20℃、1気圧) で、可燃性で爆発性の高い有機化合物です。消防法では「第5類自己反応性物質」に指定されています。

融点80.1℃、沸点、初留点及び沸騰範囲240℃ (爆発) 、分解温度240℃ (爆発) です。また、pH5.8 (20℃、127 mg/L) 、密度及び/又は相対密1.65g/cm3、蒸気圧は 8.02E-006 mmHg  (25℃) です。

2. 化学的性質

水への溶解度は115 mg/L (23℃)で、ベンゼン、ピリジンに極めてよく溶解し、エーテルに可溶、エタノールにわずかに溶解します。衝撃、摩擦、振動を加えると爆発的に分解する危険性があり、加熱すると有害なフューム (化学反応、燃焼、蒸留などで発生する蒸気の凝縮によって生成する微粒子) が発生します。

加熱、摩擦、振動させないように、取り扱う際は注意が必要です。また、ニトロ基を持つことから、強い酸化剤としての性質を持ちます。

トリニトロトルエンのその他情報

1. トリニトロトルエンの安全性

トリニトロトルエンは大量爆発危険性のある爆破発物です。急速に加熱する、または強い衝撃を加えると、火災および爆発の危険性があります。大火災の場合は、消火せず避難が必要です。

飲み込むと人体に有害で、皮膚刺激性があり、アレルギー性皮膚炎を起こす恐れがあります。また、強い眼刺激性、呼吸器系への刺激の恐れ、発がんの恐れ、血液系の障害の危険性があります。

長期、又は反復ばく露による眼、神経系、心血管系、血液系、造血器系、肝臓への障害が生じる恐れがあります。また、水生生物に非常に強い毒性があり、長期継続的影響によっても非常に強い毒性を持ちます。

2. トリニトロトルエンの取扱方法

適切な保護手袋、保護衣、保護眼鏡、保護面を着用し、状況に応じた適切な呼吸用保護具を着用し作業を行います。洩物処理時は、自給式空気呼吸器付化学防護服を使用することが推奨されています。

屋外、または換気の良い場所で使用します。容器は接地し、常にアースをとり、粉砕、衝撃、摩擦のような取扱いをしないよう注意が必要です。また、粉じん、煙、ガス、ミスト、蒸気、スプレーを吸入しないよう作業を行います。

取扱後は汚染された衣類を脱ぎ、洗濯を行い、作業場所以外に持ち出さないよう徹底します。また、よく手を洗い、身体に付着しないようにします。

3. トリニトロトルエンの保管方法

換気の良い場所で、容器は密閉し、施錠して保管します。また、国又は都道府県の規則に従って保管しなければなりません。

乾燥が危険有害性を増加させる場合は、適切な物質で湿らせて保管します。容器は接地し、アースをとります。

消防法、火薬類取締法、国連危険物輸送勧告で規定された容器を使用し、保管する必要があります。

4. トリニトロトルエンの歴史

トリニトロトルエンに似た性質の物質に、ピクリン酸 (トリニトロフェノール) があります。TNTが開発される以前は、ピクリン酸が主要な爆薬として使われていました。

トリニトロトルエンは金属と反応することがなく、ピクリン酸と比べてより安定していることから、ピクリン酸に代わり、主要な爆薬として使用されるようになりました。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/118-96-7.html

トコフェロール

トコフェロールとは

トコフェロールとは、一般的にビタミンEとして知られている物質です。

ビタミンEの成分の一種であり、ビタミンEはトコフェロール以外にトコトリエノールも含んでいます。トコフェロールは、植物などから抽出して得ることができる他、化学合成によって得ることも可能です。

トコフェロールは4種類あります。具体的には、α(アルファ)-トコフェロール、β(ベータ)-トコフェロール、γ(ガンマ)-トコフェロール、δ(デルタ)-トコフェロールです。なかでも、α-トコフェロールが自然界に広く存在し、生体内におけるフリーラジカルを消去する等の重要な作用を発揮します。

後に詳しく解説しますが、トコフェロールにはD体およびL体という鏡像異性体が存在します。天然型のトコフェロールはD体である一方、合成されたトコフェロールにはD体およびL体の両方が含まれています。

トコフェロールの使用用途

トコフェロールの主な使用用途は、サプリメントの主成分、動物用飼料の添加剤などです。その他、酸化防止のための微量添加物として使用される場合もあります。例として、食品または化粧品の酸化防止剤などが挙げられます。

トコフェロールは、酸化防止効果を利用して、アンチエイジングを目的とした製品に使用される場合があります。1日あたりの推奨摂取量は、年齢や性別によって異なりますが6.0mg~6.5mg/日です。油溶性で体内に蓄積しやすく、過剰に摂取すると健康被害をおよぼす可能性があるため注意が必要です。

トコフェロールの特徴

トコフェロールは、水に溶解しない油溶性です。そのため、ビタミンEは脂溶性ビタミンといわれています。

強い抗酸化効果を有し、トコフェロールは自らが酸化されることで酸化防止効果を発揮します。酸化されたトコフェロール (詳しくはラジカル) は、ビタミンCなどの抗酸化物質によって、元の状態に戻ります。

トコフェロールは、細胞膜のなかに存在し、生体膜を構成する不飽和脂肪酸の酸化を防いで血管を正常な状態に保ちます。また、血中のLDLコレステロールの酸化を抑える作用、生殖を正常に保つ作用、赤血球の溶血を防止する作用、生殖を正常に保つ作用などを有します。したがって、トコフェロールを摂取すると老化防止などの点で有効です。

トコフェロールの構造

トコフェロールの構造 (分子構造) は1つではありません。 トコフェロールには、上述したようにαからδの各トコフェロールが存在するほか、D体およびL体という鏡像異性体も存在します。例えば、α-トコフェロールには、D体およびL体という鏡像異性体が存在します。そのため、トコフェロールの構造 (分子構造) を1つの分子構造式で表すことは困難ですが、いずれのトコフェロールも基本的な分子構造は同じです。

αからδの各トコフェロールは、分子中のベンゼン環構造に結合しているメチル基 (-CH3) の位置および数が互いに異なっています。生体に対する効果の点ではα-トコフェロールが最も高いといわれていますが、抗酸化作用の持続性の点ではδ-トコフェロールが最も高いといわれています。

鏡像異性体であるD体およびL体のトコフェロールのうち、生物に対して作用を発揮できるのは主にD体です。鏡像異性体とは、分子構造式で表すと同じであるものの、立体構造を互いに重ね合わせることができない化合物同士を指します。例えるとしたら、右手と左手のような関係性にあるといえます。

トコフェロールのその他情報

トコフェロールの応用

トコフェロールは、そのままの状態では酸化されやすい性質を有するため、酸化されにくい誘導体のかたちで使用される場合があります。例えば、トコフェロールと酢酸を結合させた酢酸トコフェロールという物質が代表的です。酢酸トコフェロールは酸化されにくく、体内に入ってからトコフェロールとなって上述したような作用を発揮できます。

参考文献
https://www.fsc.go.jp/
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/T2309

テレビン油

テレビン油とは

テレビン油とは、マツ科植物から水蒸気蒸留して得られる精油のことです。

マツ科植物の生松脂に15%程含まれています。テレビン油は別名、テレピン油とも呼ばれます。テレビン油の組成は、マツの種類によって異なります。例えば、アメリカ産のテレビン油には、α‐ピネンが50~60%、β‐ピネンが25~35%含まれる他、若干のテルペン類が含まれています。

テレビン油は、無色または淡黄色をした、粘土の高い液体です。特異な香気をもち、味は辛いことが特徴として挙げられます。また、テレビン油は、水には不溶ですが、アルコールには少し溶けます。さらに、テレビン油には、空気に触れると固化する性質があり、揮発しやすく点火しやすいことも特徴の1つです。

一般的に松脂や杉脂から抽出されますが、木材や製紙工場の副産物として得られる場合もあります。

テレビン油の使用用途

テレビン油は、防腐剤や香料、溶剤、医薬品など、多くの分野で使用される天然の揮発性オイルです。また、ペイントやラッカーといった塗料の製造にも使用されています。

1. 防腐剤

テレビン油は、木材や木製品に塗布され、防虫や腐朽予防の効果があります。また、船舶や鉄道車両の木材部分にも使用されます。

2. 香料

テレビン油は、強い香りがあるため、香料として使用されます。特に、パインの香りを付けるのに適しています。

3. 溶剤

テレビン油は、溶剤として使用されます。油絵の油として使われるほか、油性ペイントやラッカー、接着剤、接合剤、シーラント、塗料の調整剤などの製造原料になります。

4. 医薬品

テレビン油は、かつては傷や炎症を治療するために使用されていました。現在では、皮膚刺激薬や消毒薬として使用されています。

テレビン油の性質

テレビン油は、常温常圧で揮発性が高く、容易に気化します。空気中で徐々に酸化されて粘性が高くなり、やがて樹脂状に固まることが知られているため、長期間の保存には注意が必要です。 

沸点は約155℃、比重は約0.87です。テレビン油は溶剤として多くの物質を溶かしますが、水に不溶、アルコールやエーテルには溶性します。引火性が高く燃焼しやすいため、火気には注意が必要です。

テレビン油は、パインのような強い香りがあります。この香りは、主にα-ピネンやβ-ピネン、リモネンなどの化合物に由来しています。

テレビン油の構造

テレビン油は、ピネンやカンフェン、フェランドレンといったモノテルペン炭化水素からなる複雑な混合物です。その組成は、蒸留に用いる樹木の生育環境によって異なります。モノテルペンは、化学的には2つのイソプレン単位からなる炭化水素であり、化学式C10H16で表される構造です。

テレビン油の主成分であるピネンは、六員環と四員環からなる炭化水素で、二重結合の位置が異なる「α-ピネン」と「β-ピネン」の2つの構造異性体、およびそれぞれ2つの鏡像異性体が存在します。

アメリカ産のテレビン油には、α‐ピネンが50~60%、β‐ピネンが25~35%含まれています。

テレビン油のその他情報

テレビン油の製造方法

テレビン油は、主にマツ科樹木の蒸留によって得られます。
一般的なテレビン油の生産プロセスは以下の通りです。

  1. 樹木から樹脂を採取する。
  2. 樹脂を加熱し、テレビン油を蒸留する。

単位原料あたりで製造可能なテレビン油の量は、採取された樹脂の種類や原料となる樹木の種類によって異なります。一部のテレビン油は、木材の加工過程で得られる木屑やチップから製造されることもあります。

また、テレビン油を蒸留した後の蒸留残留物からは、松脂油を製造することが可能です。現代的なテレビン油の生産方法として、製紙工場や木材加工工場などで発生する廃棄物を用いて、加熱・蒸留する方法もあります。

一方、テレビン油の化学合成法は存在しません。テレビン油は化学的に複雑な混合物なので、化学合成は困難かつ実用的ではありません。そのため、テレビン油は自然界から採取されることが一般的です。

チアミン

チアミンとは

チアミンとは、ビタミンB1の俗称で、複数の化学物質を指します。

代表的な物質としては、チアミン塩化物、チアミン硝化物があります。またビタミンB1の誘導体として塩酸フルスルチアミンなどが販売されています。

チアミンの使用用途

チアミンの使用用途は幅広く、主に医薬品、食品、化粧品で使用されます。

1. 医療用医薬品

医薬品の有効成分として使われるチアミンは、薬生発0530第4号令和元年5月30日一般用医薬品の区分リストの変更についてを参照すると以下の通りになります。

  • チアミン塩化物塩酸塩
  • チアミンジスルフィド
  • チアミンジスルフィド硝化物
  • チアミンジセチル硫酸エステル塩
  • チアミン硝化物
  • オクトチアミン
  • シコチアミン
  • セトチアミン塩酸塩水和物
  • ビスイブチアミン
  • ビスベンチアミン
  • フルスルチアミン
  • フルスルチアミン塩酸塩
  • プロスルチアミン
  • ベンフォチアミンチアミン塩化物

これらは、注射剤、カプセル剤、散剤などとして、使用されます。

塩酸フルスルチアミンはビタミンB1の誘導体で、天然のビタミンB1より体内で利用されやすい形に武田薬品で開発された薬です。他に、ジェネリック医薬品のメーカーでは、タミンB1の誘導体としてベンフォチアミンやチアミンジスルフィドなども利用されています。

いずれの物質もビタミンB1欠乏になりやすくなる消耗性疾患、甲状腺機能亢進症、妊産婦、授乳婦、はげしい肉体労働をする方に向けての製剤です。ウェルニッケ脳症や脚気、ビタミンB1の欠乏や代謝障害が関与すると考えられる神経痛や筋肉痛・関節痛、末梢神経炎、末梢神経麻痺、心筋代謝障害便秘などの胃腸運動機能障害などに適用されます。

2. 一般用医薬品・医薬部外品

チアミンはビタミン剤やドリンク剤として一般用医薬品にも配合されています。チアミンを主成分として一定量以上配合した医薬品は第三類医薬品の分類となります。

3. 食品

日本人の食事摂取基準 (2020年版) によると、チアミンの1日の摂取推奨量は、30歳〜49歳の 男性で 1.4mg、 女性 1.1mgとなっています。また妊娠授乳中は、1.3mgが必要だとされています。

ビタミンB1は糖質をエネルギーに変化させる際に必要になるビタミンです。炭水化物や砂糖、アルコールの摂取が多い方、運動量が多い方ではときに足りなくなるため、栄養補助としてチアミンが食品に配合されています。

4. 化粧品

チアミンは、皮膚コンディショニング剤として美容液や化粧水、ボディクリームなどにも用いられます。化粧品分野ではチアミン塩酸塩が使われています。

チアミンの原理

チアミンは体内のエネルギー代謝にかかわる補酵素です。具体的には、糖代謝やクエン酸回路のエネルギー代謝の一部にに関与しています。

食品に含まれているチアミンは、タンパク質とともに存在しますが、料理や胃の中でタンパク質が変性すると遊離します。遊離したチアミンは、体内でチアミンピロホスファターゼによって、チアミン誘導体 (チアミン二リン酸)  に変化し存在します。このチアミン誘導体には、酵素の役目を助ける補酵素の役割があります。

通常ビタミンB1が過剰摂取になる食品は存在しません。また、もし過剰摂取になったとしても、ビタミンB1は水溶性ビタミンであり、余分なものは尿中に移行し排泄されます。

チアミンのその他情報

チアミンの公定書

日本薬局方
日本薬局方は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 (通例薬機法と省略) 第41条により、医薬品の性状及び品質の適正を図るため、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見をもとに定めた医薬品の規格基準書です。このなかに収載されている医薬品は日本で繁用されている医薬品が中心となっています。されている医薬品が収載されています。

日本薬局方には、以下のチアミンの化合物及び誘導体が収載されています。

  • セトチアミン塩酸塩水和物
  • チアミン塩化物塩酸塩
  • チアミン硝化物
  • フルスルチアミン塩酸塩

食品添加物公定書
食品添加物公定書に収載されているチアミンの化合物及び誘導体は以下の物質です。

  • ジベンゾイルチアミン
  • ジベンゾイルチアミン塩酸塩
  • チアミン塩酸塩
  • チアミン硝酸塩
  • チアミンセチル硫酸塩
  • チアミンチオシアン酸塩
  • チアミンナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩
  • チアミンラウリル硫酸塩
  • ビスベンチアミン

参考文献
https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc2_hishiryo_water_vitamin_3_250129.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/000514877.pdf

タウリン

タウリンとは

タウリンとは、アミノエチルスルホン酸の別名で、アミノ酸の1種です。

化学式は、C2H7NO3Sで、CAS No. 107-35-7、分子量は125.15です。アミノエチルスルホン酸という名称で、構造の中に硫黄を含む含硫アミノ酸です。

自然界では、貝類やイカ・タコなどに多く含まれている物質で、人間の体でもすべての組織に含まれています。特に心臓や骨格、肝臓、脳、網膜などの組織には高濃度に存在し、体の0.1%を占めています。

タウリンの使用用途

タウリンの使用用途は幅広く、主に医薬品や食品添加物、保湿剤に使用されます。

1. 医薬品・医薬部外品

一般用医薬品に主成分としてタウリンが配合された場合、第三類医薬品に該当します。

タウリンは、目薬やドリンク剤をはじめとする医薬品や医薬品に配合されていることが、よく知られています。これは、肝臓の機能向上や筋肉の疲れをほぐすサポート機能を期待されているためです。

医療用医薬品としては、「タウリン酸98%」が販売されています。これは 肝・循環機能改善剤, MELAS脳卒中様発作抑制剤として販売されており、閉塞性黄疸を除く高ビリルビン血症における肝機能の改善とうっ血性心不全、ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作 (MELAS) 症候群における脳卒中様発作の抑制が効能効果となっています。

医薬品での使用用途は他にもあり、安定化剤、緩衝剤、矯味剤、結合剤、等張化剤、賦形剤、防腐剤などとして、医薬品添加剤として使われます。

2. 食品添加物

また食品にも配合されます。イカやタコ・貝などの独特の風味の一部として、食味の改善を目的として、水産物の加工品に加えられることもあります。通常タウリンといえば化学合成された製品が販売されていますが、食品添加物のタウリンの中には「山羊胆汁」から抽出された製品もあります。

3. 保湿剤

化粧品にも、保湿や外部刺激から守るバリア成分としてヘアケア商品に配合されています。タウリンは、もともと表皮の有棘層上部から顆粒層に高濃度で存在する物質です。顆粒層を中心に浸透圧調節物質として表皮の水分調節に重要な働きを担っています。

4. その他の用途

その他、粉ミルクやペットフード、工業用の触媒、界面活性剤などにも、タウリンは多用途に使われています。

タウリンの原理

タウリンは、胆汁酸と結合しコレステロールを消費します、また心臓や肝臓の機能を高めたり、視力を回復したり、インスリンの分泌を促進したり、高血圧を予防したりと、さまざまな効果が報告されています。

タウリンは母乳の中にも多く含まれ、乳児の発達に関わっています。

タウリンのその他情報

1. タウリンの性状

タウリンは、無色から白色の結晶か結晶性粉末をしています。水にやや溶けやすく,エタノール (99.5) にほとんど
溶けません。タウリン1.0 gを新たに煮沸して冷却した水20mLに溶かした液のpHは4.1 ~ 5.6です。 (日本薬局方より) 

2. タウリンの法的分類

タウリンは第17改正から日本薬局方に収載されている物質です。その他にも医薬品添加物規格、食品添加物公定書などに収載されています。

薬生安発 0918 第1号令和元年9月18日 によると、一般用医薬品に主成分としてタウリンが配合された場合、第三類医薬品に該当します。

ひとくちにタウリンといっても、医薬品グレードから食品添加物グレードまで、さまざまなグレードのタウリンが製造されています。

3. タウリンの歴史

1827年、ドイツの研究者が牛の胆汁からタウリンを分離し、名称をギリシャ語の牛という言葉「タウロス」からタウリンと名付けました。

一方漢方の世界では、古来より牛黄という生薬が使われてきましたが、これは牛の胆のう中に生じた結石のことを指します。牛黄は、1〜3世紀頃に中国で作られた「名医別録」には「久しく服すれば身を軽くし、天年を増し、人をして忘れざらしめる。」と記載されていますが、牛黄にもタウリンが含まれていることが知られています。

日本では、第二次世界大戦後、大正製薬においてタウリンの薬理的な作用について研究が行われています。