トール油とは
図1.トール油の概要
トール油 (tall oil) とは、パルプの製造工程において副生成物として生成する、脂肪酸・樹脂酸・不けん化物等の混合物です。
外観は暗褐色の稠密液であるとされます。パルプ工場においては、パルプ材のチップ処理とアルカリ溶液による蒸解を行うことによって、パルプ (繊維) を分離精製しています。
このとき分離される繊維を固めていたリグニン・樹脂成分と薬品が混じった液体を濃縮したものを黒液と呼びますが、トール油はこの黒液から得られる物質です。黒液から得られた未精製のトール油は、粗トール油と呼ばれます。
粗トール油は蒸留塔を用いて蒸留することにより、トールロジンやトール脂肪酸などに分離精製することが可能です。これらは、それぞれ工業的に利用されている物質です。
トール油の使用用途
トール油は安価な脂肪酸原料の1種で、主にグリースや工業用石鹸、乳化剤、ペイント、印刷用インキの製造など工業的に用いられています。トール油脂肪酸は、アルキド樹脂等の塗料樹脂として用いられている他、アゼライン酸・オレイン酸・リノール酸の製造などにも使われています。
また、燃料添加剤や洗剤の界面活性剤としても利用されている物質です。トール油ロジンは、合成ゴム用乳化剤や各種の滑り止め剤、路面標識用等の塗料などに用いられています。
その他、テープ用の粘着付与剤やホットメルト接着剤、再生紙処理剤等の用途に幅広く使用されている物質です。
トール油の性質
図2. トール油脂肪酸に含まれる成分
トール油は、松材から得られるものであるため、他の植物由来の代替品ほど季節の変化による影響を受けないとされています。トール油脂肪酸の主な成分は、オレイン酸とリノール酸です。その他には、ステアリン酸とパルミチン酸をごくわずか含みます。
リノレン酸以上の多不飽和脂肪酸を含まず、飽和脂肪酸量もきわめて少ない組成です。また、極めて微量の特異な脂肪酸を含んでいます。
図3. トール油ロジンに含まれる成分
一方、トール油ロジンの主な成分は、樹脂酸です。具体的には、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸などの成分が検出されています。
その他、トール油初留にはセスキテルペン、テルペンアルコール、フェノール性物質、低分子脂肪酸が含まれており、ピッチには脂肪酸および樹脂酸のエステル、それらの重合物、酸化物、ステロール、リグニン系物質が含まれています。
トール油の種類
トール油は、主にアメリカ合衆国、カナダ、ロシア、中国などの製紙工場で生産されます。木材から製造されるものであるため、使用する松の種類によって成分比が異なる物質です。
日本の場合は、主に北米から輸入され、日本でトールロジンに精製されています。上述の通り、粗トール油は、トール油脂肪酸、トール油脂 (トールロジン) などの原料であり、蒸留精製によって複数種類に分離される物質です。これらの分離油分は、別個に工業的に活用されています。
トール油のその他情報
1. トール油の由来
「トール」という名称は、松を意味するスウェーデンの言葉(tall)に由来しています。また、トール油の成分比は、スラッシュマツ、ヨーロッパアカマツ、バビショウなど、使用する松の種類によって異なっています。
2. トール油の製造法
クラフトパルプの工場では、以下の製造工程でトール油が副生します。
- 木材チップ (パルプ材) を水酸化ナトリウム (苛性ソーダ) などの薬品を加えて煮溶かします (蒸解) 。
- パルプ (木材繊維) と白液 (リグニン・樹脂成分と薬品が混じった液体) に分離します。
- 白液を濃縮して黒液を得ます。
- 黒液中に溶出しているマツ類に含まれる樹脂酸、脂肪酸類のナトリウム石けんが濃縮過程で塩析され、クリーム状の浮遊物 (スキミングス) となります。
- スキミングスを酸で分解し、粗トール油が遊離して得られます。
このような製造過程で得られた粗トール油は、蒸留塔を用いて蒸留することにより、トール油脂肪酸、トール油脂 (トールロジン) 、トール油初留、およびピッチという4つの留分に分けられます。これらの留分は、バイオ化学品への改質が可能な物質です。
参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtappij1955/19/12/19_12_615/_pdf