バリンとは
図1. L-バリンの構造
バリンはタンパク質を構成する天然アミノ酸の一種です。ヒトはバリンを体内で合成することが出来ないため、外部から摂取しなければならない必須アミノ酸の1つでもあります。なお、バリンは多くの食品に含まれるため通常の食事で不足する事はありません。
構造上の特徴としては、側鎖にイソプロピル基を有しており、ロイシン、イソロイシンとともに分岐鎖アミノ酸((BCAA:Branched Chain Amino Acid))に分類されます。本化合物は光学活性を有しておりL体とD体が存在しますが、タンパク質構成アミノ酸としてのバリンはL体です。
バリンの使用用途
1. 筋力トレーニング用のサプリメントとしての利用
バリンは、筋肉代謝に重要な役割を果たし、筋肉を強化する効果が期待される事から、筋力トレーニング用のサプリメントとして利用されています。またバリンは、ロイシン、イソロイシンとともにBCAA(分岐鎖アミノ酸)の一種であり、このBCAAは、運動時の筋肉のエネルギー源となるため、スポーツサプリメントとして用いられています。
2. 化粧品としての利用
バリンには、角質の水分量を増加させ、保湿効果があるといわれています。そのため本化合物は、化粧品、スキンケア用品、洗顔料、ハンドケア用品などに配合されています。
3. ヒトの体内での役割について
バリンは疲労回復効果や成長促進に重要なアミノ酸でもあります。その他にも、血液中の窒素濃度を調整するとともに、アンモニア代謝を改善するなどのように、生体内で重要な役割を担っています。
4. 医薬品としての利用
低タンパク質血症、低栄養状態時のアミノ酸補給等を目的として用いられています。
5. その他の生理活性について
筋肉の修復効果、肝硬変の改善効果、食欲不振の改善効果などが報告されており、サプリメントや医薬品としての応用が期待されています。
L-バリンの性質
1. 名称
和名:L-バリン
英名:L-Valine
IUPAC名:(2S)-2-amino-3-methylbutanoic acid
3文字略号:Val
1文字略号:V
2. 分子式
C5H11NO2
3. 分子量
117.15
4. 構造式
図1の通り。
5. 融点
315℃(分解)
6. 溶媒溶解性
水にやや溶けやすく、エタノールに難溶である。
7. 味
苦味
バリンのその他情報
1. バリンの生合成
植物においては、ピルビン酸から3段階の酵素反応によりα―ケトイソ吉草酸が生成され、これに対してアミノ基転移酵素の作用によりアミノ基が転移する事で生合成されます。
2. バリンが関連した疾患の例
メープルシロップ尿症
本疾患の患者は、分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素と呼ばれる酵素に遺伝的な異常があります。そのため、バリンを含む分岐鎖アミノ酸の代謝を正常に行う事ができません。その結果、患者の体内では分岐鎖アミノ酸の異常な代謝産物が蓄積し、嘔吐、意識障害、けいれん等の症状が出現します。治療が遅れると最悪の場合は死に至ります。
鎌状赤血球症の関係
本疾患においては、正常なヘモグロビンの6番目のアミノ酸であるグルタミン酸がバリンに変異しているという特徴があります。そのため、正常な赤血球の形状は中央部がへこんだ円形ですが、ホモ接合体の本疾患の場合は、赤血球の形状は鎌状を呈しているという特徴があります。本疾患には重篤な溶血性貧血が認められます。
3. バリンが多く含まれる食品
レバー、牛肉、鶏肉、落花生、プロセスチーズ、まぐろ、卵、牛乳などに多く含まれます。