ビオチンとは
ビオチンとは、一般的な名称ではビタミンB7やビタミンHと呼ばれている、栄養素の一つです。
ビオチンは科学的な名称です。生体内でも合成される物質で、皮膚や粘膜の健康を維持したり、爪や髪の健康にも深く関わっていることが知られています。
ビオチンの不足は、肌荒れなどにとどまらず、うつ症状が現れるなど心身に影響を及ぼすため、積極的な摂取が必要な物質です。キノコ類や肉類に多く含まれていることが知られており、バランスのよい食事を心がけることで1日の摂取量50μgを補えます。
ビオチンの使用用途
ビオチンの使用用途として最も多いのは、皮膚症状に関する医薬品です。皮膚の炎症を防止する作用も報告されているため、湿疹や接触性皮膚炎、ニキビをはじめとした皮膚の諸症状に対する薬として処方されることもあります。
ビオチンの性質
ビオチンの融点は、232〜233℃です。酸、アルカリ、光に対しては安定ですが、熱には不安定です。
ビオチンは水溶性で、水やアルコールには溶けやすいですが、有機溶剤には溶けません。食品加工によって、一部損失します。
なお、ビオチンは白色の針状結晶で、化学式はC10H16N2O3S、分子量は244.31です。また、コエンザイムA (CoA) の構成成分でもあります。
ビオチンのその他情報
1. ビオチンの摂取方法
ビオチンは、肉類などに多く含まれていますが、加工方法や保存方法によって残存率が変化するため、できるだけ加工が少ない状態で摂取することが重要です。それでも摂取できない場合は、ビオチンを使用したサプリメントで摂取できます。
2. ビオチンの生合成
すべての生物種にとって、ビオチンは必須の栄養素ですが、生合成できるのは一部の微生物、カビ、植物だけです。
食物中のビオチンは、ビオシチンやビオチニルペプチドのようなタンパク質と結合した状態で、ビオチニダーゼにより遊離型となって利用されています。サプリメントに含まれているビオチンは遊離型なので、吸収されやすいです。
遊離型になったビオチンは、小腸で吸収されます。そしてホロカルボキシラーゼや合成酵素によって、カルボキシラーゼの補酵素になります。
3. 補酵素としてのビオチン
カルボキシル基転移酵素 (英: carboxylase) の補酵素として、ビオチンは働いています。ビオチンを補酵素として有する酵素の一群は、ビオチン酵素 (英: biotin enzyme)と呼ばれています。
ビオチン酵素の具体例は、ピルビン酸カルボキシラーゼやアセチルCoAカルボキシラーゼなどです。ピルビン酸カルボキシラーゼは糖代謝に関与し、アセチルCoAカルボキシラーゼは脂肪酸合成に関与しています。
それ以外にも、プロピオニルCoAカルボキシラーゼや3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼなども含まれています。プロピオニルCoAカルボキシラーゼはアミノ酸や脂肪酸代謝に関与し、3-メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼはアミノ酸の一種であるロイシンの代謝に関与する酵素です。
4. ビオチンの応用
生卵白中のアビジンは、ビオチンと非常に強く結合します。そのためビオチンを標的分子に結合することで目印となり、アビジンで検出することが可能です。この方法は血液検査で用いられています。ビオチンを大量摂取している場合には、異常がないのに誤診される場合もあります。
血清ビオチン濃度は、ビオチンの栄養状態を計測するための指標です。軽度のビオチン欠乏の際には、感度が鈍く、別の指標が考えられています。
5. ビオチンの摂取量
ビオチンは、哺乳類には生合成できません。腸内細菌による合成のみでは必要量に満たないと言われているため、食品からの摂取が必要です。ただしビオチンは多種多様な食品に含まれており、通常の食生活では欠乏症は起こりません。しかし抗生物質を長期服用する場合には、理論的に食事によるビオチン必要量が増加します。
さらにビオチンは水溶性ビタミンなので、過剰に摂取した際にも、尿として排出されやすいです。過剰摂取が原因の健康被害が報告されておらず、耐容上限量も設定されていません。