スクシンイミド

スクシンイミドとは

スクシンイミドとは、コハク酸イミドとも呼ばれる環状のイミドで、常温常圧で無色または白色の個体です。

製造方法として、コハク酸のジアンモニウム塩を乾留する方法やコハク酸をアンモニア中で加熱する方法が挙げられます。スクシンイミドと亜鉛粉末を蒸留することで、ピロールが得られます。

スクシンイミドをエタノール、金属ナトリウムとともに反応させることでピロリジンが得ることが可能です。また、イミド基に含まれる水素原子は容易に金属原子によって置換されます。スクシンイミドは、生物学や有機合成化学において広く利用されている物質です。

スクシンイミドの使用用途

スクシンイミドは、さまざまな用途で利用されています。

1. 銀メッキの製造

スクシンイミドは、銀メッキの製造に用いられます。銀メッキの製造では、スクシンイミドが銀イオンと錯体を形成し、プラスチックやガラスなどの基材に銀の薄膜を均一に成長させる役割を果たします。

2. 臭素化剤原料

スクシンイミドは、多様な有機合成反応において重要な中間体として利用されています。その顕著な例が、N-ブロモスクシンイミドの生成です。

スクシンイミドに次亜臭素酸を作用させるとイミド基の水素原子が臭素原子に置換され、N-ブロモスクシンイミド (NBS) が合成されます。N-ブロモスクシンイミドは、有機合成化学において広く用いられる臭素化剤です。

ウォーレン・チーグラー反応によってアリル位やベンジル位を臭素化することができます。この反応によって、有毒な臭素を扱わずに手軽に臭素化を行え、置換基が多く反応性に乏しいアリル位を選択的に臭素化することが可能です。

N-ブロモスクシンイミドは有機合成化学において多くの反応に適用され、合成の効率や選択性を向上させる役割を果たしています。

3. その他

そのほか、スクシンイミドは触媒や環状ポリマーの合成にも利用される事例があります。触媒合成では、スクシンイミドが金属イオンと錯体を形成し、触媒の構造や活性を調整する役割を果たします。

環状ポリマーの合成では、スクシンイミドがモノマーと反応し、環状構造を持つ高分子を生成するための中間体として利用されます。

スクシンイミドの性質

スクシンイミドは無色で結晶性の固体であり、比重は約1.563g/cm³です。融点は122-124℃であり、この温度で加熱すると溶融しますが、さらに加熱すると加水分解が起こります。

水に溶解しやすく、アセトン、エタノール、ジメチルフォルアミドなどの極性の高い有機溶媒にも溶けやすいです。スクシンイミドは、環状イミド構造を持つため、他のカルボン酸類とは異なる特異な反応性を示すことがあります。

例えば、アミノ酸やペプチドのカルボキシル基を活性化させることが可能で、アミノ酸解析やペプチド合成において重要な役割を果たします。

スクシンイミドの構造

スクシンイミドは、カルボニル基とイミド基を有する5員環からなる環状構造をしています。隣接するカルボニル基とイミド基の間には共鳴構造が存在するため、スクシンイミドは比較的安定な化合物です。

これにより、スクシンイミドは一般的なカルボン酸とは異なる特異な反応性を示すことがあります。

スクシンイミドのその他情報

スクシンイミドの製造方法

スクシンイミドの製造方法には、以下のような主要な手法があります。

1. コハク酸ジアンモニウム塩の乾留
まず、コハク酸とアンモニウム塩 (塩化アンモニウムなど)を反応させて、コハク酸のジアンモニウム塩を生成します。次に、このジアンモニウム塩を乾留することで、スクシンイミドが生成されます。

この方法では、比較的簡便かつ高収率でスクシンイミドを得ることができます。

2. コハク酸をアンモニア中で加熱する方法
この方法では、コハク酸をアンモニアガス存在下で加熱します。アンモニアガスとコハク酸の反応によってイミド化が進行し、スクシンイミドが生成されます。

この方法は、比較的温和な条件でスクシンイミドを合成できる点が利点ですが、収率が低く、工業的にはあまり利用されません。

ジベレリン

ジベレリンとは

ジベレリン (化学式: C19H22O6) とは、植物の生育に関わる植物ホルモンの総称です。

自然界に存在する化学物質で、日本人技師である黒沢英一によって世界で初めて発見された植物ホルモンです。藪田貞治郎が結晶化と構造決定をしました。ジベレリンと見なされる物質は100以上もあり、現在もその種類が増えています。

室温においては、白色の粉末状態で存在します。ジベレリンは植物に対して、茎の伸長、発芽の促進、開花の促進、子房の肥大などの生理作用をもつため、極めて重要視されています。ジベレリンの応用により、食糧危機やエネルギー枯渇などの解決も期待され、研究が進められています。

ジベレリンの使用用途

ジベレリンは、ジベレリンは、植物ホルモンの1種であり、植物の成長や発育に重要な役割を持っています。植物の生育に作用する効果を利用して、主に農業分野で農作物の生育状態を制御するための農薬として製造され使用されています。

1. 成長の促進

ジベレリンは、植物の細胞の伸長や増殖を促進する効果があります。ジベレリン処理を施すことで、茎や葉の成長が促進され、植物の全体的な成長が促進されます。

2. 休眠打破

ジベレリンは、植物種子の休眠期間中にも生産され、休眠状態を解除する役割を持っています。休眠状態の植物にジベレリンを施すことで、休眠期間が短縮され、成長期への移行が可能です。

3. 単為結実促進

単為結実は、花粉の受粉が同じ花または同じ植物で行われ、種子を結実させる現象です。ジベレリンは、単為結実を促進する効果があります。単為結実は、種子の遺伝子組み換えを行うことができるため、育種や品種改良などに利用されます。

4. 開花促進

ジベレリンは、植物の開花を促進する効果があります。植物の開花には、環境条件や植物自身の成長状況などが影響しますが、ジベレリンを施すことで、開花時期の制御や花の品質向上につながります。

ジベレリンの性質

ジベレリンは、水にはほとんど溶けませんが、アルコールやジメチルスルホキシド (DMSO) にはよく溶けます。また、ジベレリンは、酸性条件下では不安定になることがあります。

ジベレリンは、光や酸素によって分解しやすく、不安定です。また、熱によっても分解するため、保存時には冷暗所で保管することが推奨されています。

植物の成長や発育に必要不可欠なホルモンの1つです。植物の成長や発育に関する研究や農業、園芸分野で利用されています。また、主に「伸長成長の促進 」「休眠打破・発芽促進 」「アミラーゼの誘導 」「花芽形成・開花促進」「単為結実促進」のような生理作用を有しています。

ジベレリンの構造

ジベレリンは、テルペノイド化合物の1種であり、アジセン系ジテルペン骨格を持ちます。実際には100種類以上の異なる構造を持つ化合物の総称であり、その多くが炭素数20のジテルペノイド化合物で構成されています。ジベレリンの一般的な構造は、C19H22O6という分子式で表されます。

ジベレリンは、イソプレン単位が結合して形成されるテルペノイド構造を持ち、炭素数19のジテルペン骨格に3つの水酸基、2つのカルボキシル基を持った複雑な構造です。5つの環を持ち、そのうち4つの環はシクロペンタノペンタエン骨格からなり、1つの環はシクロヘキサノン骨格からなります。これらの構造は、ジベレリンの生物学的活性や特性に影響を与えています。

ジベレリンのその他情報

ジベレリンの製造方法

ジベレリンは、天然には植物から抽出されますが、工業的には化学合成が主に用いられます。

1. 化学合成法
シクロヘキサノンを出発物質として、シクロペンタノペンタエン骨格を生成させ、その後、酸化やアシル化などの反応を経て、ジベレリンを得ることができます。

ジベレリンは、微生物を用いた発酵法でも製造される場合があります。

2. 微生物発酵法
放線菌やカビ類を培養し、それらが生成する代謝産物に含まれるからジベレリンを得ることができます。この方法によって得られるジベレリンは、純度が低く、生成が煩雑であることが欠点です。

ジフェニルアミン

ジフェニルアミンとは

ジフェニルアミンとは、構造式(C6H5)2NHで表される有機化合物です。

2つのフェニル基を持つ二級アミンであり、芳香族アミンの1種に分類されます。別名には、N-フェニルベンゼンアミン
N-フェニルアニリン、DPA、アニリノベンゼン、(フェニルアミノ)ベンゼン、N,N-ジフェノルアミンなどの名称があります。CAS登録番号は、122-39-4です。

ジフェニルアミンの使用用途

ジフェニルアミンの主な使用用途は、硝酸塩の検出試薬、各種有機合成原料・中間体、火薬・塩素系溶剤の安定剤などです。特に、硝酸塩の検出は硝煙反応として知られています。また、DNAの抽出にも使われる物質です。

合成原料としては、 医薬・染料・有機ゴム薬品や、重合禁止剤であるフェノチアジンなどの合成中間体・原料物質として使用されます。また、有機ゴム薬品の老化防止剤 (N-(1,3)-ジメチルブチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミンなど) の合成原料でもあります。染料では、酸性および硫化系およびセリトン染料に用いられる物質です。

ジフェニルアミンの性質

ジフェニルアミンの基本情報

図1. ジフェニルアミンの基本情報

ジフェニルアミンは、分子式 C12H11N、分子量169.23、融点53℃、沸点302℃であり、常温では芳香を持つ白色または黄色の結晶固体です。密度は1.15g/mL、酸解離定数pKaは0.78です。水には不溶ですが、エタノール、アセトン、ベンゼン、四塩化炭素、ピリジン、酢酸エチルに容易に溶けます。

それ以外には、エーテル、酢酸に可溶であり、クロロホルムにわずかに溶けます。

ジフェニルアミンの種類

ジフェニルアミンは、主に研究開発用試薬製品や工業用化学薬品として販売されている物質です。研究開発用試薬としては、25g、100g、500g、100mLなどの容量の種類があります。通常、冷蔵保管が必要な試薬製品です。

工業用化学製品としては、20kg紙袋などの容量の単位で販売されます。用途としては、染料中間体、ニトロセルロースやセルロイドなどの安定が想定されています。

ジフェニルアミンのその他情報

1. ジフェニルアミンの合成

ジフェニルアミンは、アニリン塩酸塩アニリンを加圧、加熱することで得られます。また、酸化物触媒存在下におけるアニリンの脱アミノ化反応でも合成可能です。

2. ジフェニルアミンの呈色反応

ディッシュ反応

図2. ディッシュ反応

ジフェニルアミンは、化学反応によって様々な色に呈色する物質です。濃硫酸溶液にジフェニルアミンと硝酸イオンまたは亜硝酸イオンを加える反応では濃青色に呈色します。この反応はルンゲ試験と呼ばれ、ルンゲ試験はこれらのイオンを検出するために用いられます。

また、2-デオキシペントースとジフェニルアミンの反応はディッシュ反応と呼ばれ、青色に呈色します。ディッシュ反応はDNAの定量分析に用いられています。

3. ジフェニルアミンの化学反応

ジフェニルアミンの環化反応による生成物

図3. ジフェニルアミンの環化反応による生成物

ジフェニルアミンは弱い塩基であり塩基解離定数Kbは10−14です。強酸と反応して塩を生じ、例えば、硫酸との反応では白色もしくは淡黄色固体の [(C6H5)2NH2]+[HSO4]を生じます。

また、ジフェニルアミンは容易に環化反応を起こす物質です。例えば、硫黄との反応ではフェノチアジンを生じ、ヨウ素との反応では脱水素化反応によりカルバゾールが生成します。

4. ジフェニルアミンの有害性

ジフェニルアミンは、重篤な眼の損傷、発がんの恐れ、生殖能又は胎児への悪影響の恐れ、中枢神経系・血液系の障害、呼吸器への刺激の恐れ、長期にわたる又は反復ばく露による血液系、腎臓の障害の恐れなどの有害性が指摘されている物質です。

労働安全衛生法では、名称等を表示し、又は通知すべき危険物及び有害物として指定されています。取り扱いの際は、適切な保護具を使用し、法令を遵守した正しい取り扱いを行うことが必要です。

また、可燃性の物質であるため消防法では、指定可燃物、可燃性固体類に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/122-39-4.html

ジヒドロピラン

ジヒドロピランとは

ジヒドロピランの異性体

図1. ジヒドロピランの異性体

ジヒドロピラン (Dihydropyran) とは、酸素1個と二重結合1個を含む6員環構造を持つ、分子式C5H8Oで表される環状エーテルです。

ピランが2個水素化を受けた構造に相当します。二重結合の位置によって複数の構造異性体が存在しますが、単にジヒドロピランと呼ぶ場合、一般的には最も使用頻度が高い3,4-ジヒドロ-2H-ピランを指す場合が多いです。

ジヒドロピランの使用用途

ジヒドロピランの主な使用用途は、有機合成原料・有機合成試薬です。特に、アルコールやフェノールなどの水酸基の保護に用いられます。酸触媒を用いてジヒドロピランをアルコールと反応させると、テトラヒドロピラニル基を生成し、アルコールの保護基の役割を果たします。

また、ジヒドロピランはテトラヒドロピランやテトラヒドロピラニルエーテルを生成する原料としても用いられる化合物です。

ジヒドロピランの性質

1. 3,4-ジヒドロ-2H-ピランの合成

3,4-ジヒドロ-2H-ピランは、テトラヒドロフルフリルアルコールを酸化アルミニウムとともに加熱することで得られます。反応温度は300-400℃です。

2. 3,4-ジヒドロ-2H-ピランの基本情報

3,4-ジヒドロ-2H-ピランの基本情報

図2. 3,4-ジヒドロ-2H-ピランの基本情報

3,4-ジヒドロ-2H-ピランは、分子量84.12、融点-70℃、沸点86℃であり、常温では無色から黄色の液体です。エタノール臭があります。密度は0.93g/mLであり、エタノール及びアセトンに極めて溶けやすく、水に溶けにくい性質です。CAS番号は 110-87-2です。

引火性の物質であるため、消防法では「第4類引火性液体」「第一石油類非水溶性液体」に指定されています。

3. 3,6-ジヒドロ-2H-ピランの基本情報

3,6-ジヒドロ-2H-ピランは、分子量84.12、沸点92-93℃、密度は0.943g/mLです。CAS登録番号は 3174-74-1です。

4. 3,4-ジヒドロ-2H-ピランの化学反応

ジヒドロピランを用いたアルコールの保護_脱保護反応

図3. ジヒドロピランを用いたアルコールの保護/脱保護反応

ジヒドロピランはラネーニッケルを用いた水素化により、テトラヒドロピランに変換することが可能です。また、3,4-ジヒドロ-2H-ピランは非水条件、酸触媒共存下にてアルコールと反応してテトラヒドロピラニルエーテルを生成します。

テトラヒドロピラニル基はアルコールの保護に用いられる保護基です。本反応において、酸を嫌う基質の場合は、光延反応の中性条件が用いられます。

テトラヒドロピラニル基の脱保護の際には、水の共存下に酸を作用させることが一般的です。この反応では、水の代わりに大過剰のメタノールやエタノールを用いることも可能です。

5. テトラヒドロピラニル基

テトラヒドロピラニル基は、アルコールの保護に用いられます。テトラヒドロピラニル基の特徴として、塩基性条件や求核剤、還元反応など酸以外のほとんど全ての条件下で安定であることが挙げられます。また、他の保護基に比べて安価で脱保護も弱酸性下で簡単に行うことが可能です。

一方で、テトラヒドロピラニル基は不斉炭素を含むため、キラルアルコールに用いた場合には NMRスペクトル が複雑となったり、異性体であるジアステレオマーが生成したりするなどのデメリットがあります。

ジヒドロピランの種類

ジヒドロピランは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。異性体のうち、3,4-ジヒドロ-2H-ピランがほとんどであり、3,6-ジヒドロ-2H-ピランはほとんど販売されていません。ただし、3,6-ジヒドロ-2H-ピランは、ボロン酸ピナコールエステル (3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-ボロン酸ピナコールエステル) など、誘導体の中には市販されている物質もあります。

3,4-ジヒドロ-2H-ピランは、25mL、100mL、500 mLなど容量の種類があります。冷蔵または冷凍で取り扱われる場合もある試薬製品です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/110-87-2.html

ジシアンジアミド

ジシアンジアミドとは

ジシアンジアミド (英: Dicyandiamide) とは、化学式C2H4N4で表され、シアナミドに分類される有機化合物の1種です。

IUPAC命名法による名称は2-シアノグアニジンです。その他の別名にはジシアノジアミド、DCDなどの名称があります。CAS登録番号は、461-58-5です。加熱分解により、アンモニア及び、メラミン、メラムなどを生じる物質であり、

ジシアンジアミドの使用用途

1. 主な用途

ジシアンジアミドの主な用途は、エポキシ樹脂硬化剤、澱粉糊添加剤、有機合成原料、ジシアンジアミド樹脂原料、合成洗剤安定剤、染料、肥料、農薬 (殺虫剤/殺菌剤) などです。 エポキシ樹脂の硬化剤として使用する場合は、単独で使用すると硬化温度が180℃以上と高く、硬化時の発熱も大きいため、イミダゾールアダクトなどの三級アミンを触媒として併用します。

2. 合成的用途

ジシアンジアミドは、融点以上に加熱するとアンモニアと共にメラミン、メラムなどを生じる性質があります。このため、有機合成原料としては、 シアナミド誘導体の合成に用いられます。具体的な化合物としては、グアニジン、ジシアンジアミジン、ジグアニド、メラミンなどが挙げることができます。

3. 肥料としての用途

ジシアンジアミドは、肥料として特に緩効性肥料に使われている物質です。緩効性肥料とは、徐々に効果を発揮する肥料であるため、植え付け時の基肥などに用いられます。

ジシアンジアミドは水溶性があり、土壌水分中に溶解して作用する物質です。主に亜硝酸菌などの土壌微生物に対して働きを抑制し、アンモニア態窒素 (栄養成分を土壌中に保持する) から硝酸態窒素 (植物の窒素源として即効性がある) への分解を緩やかにする効果があります。ジシアンジアミドの水への溶解度は水温に依存するため、土壌水分の温度により肥料としての効果が異なります。

ジシアンジアミドの性質

ジシアンジアミドの基本情報

図1. ジシアンジアミドの基本情報

ジシアンジアミドは、分子量84.08、融点210℃であり、常温では白色の結晶性粉末です。結晶状態においては、斜方晶系結晶または板状結晶で存在します。熱水に溶けやすい性質です。

冷水及びエタノールにはやや溶けにくく、アセトンに溶けにくい物質です。なお、ジシアンジアミドの水溶液はほぼ中性を示します。

ジシアンジアミドの種類

ジシアンジアミドは、研究開発用試薬及び工業用薬品として一般に販売されている物質です。研究開発用試薬としては、25g、500g、1kg、3kgなどの各種容量で販売されています。通常、室温で取り扱い可能な試薬製品です。試薬製品は、研究開発用以外の用途で使用することはできません。

工業用化学品としては、通常25kgバッグなどの単位で販売されています。製品によって、エポキシ樹脂硬化剤や、澱粉糊添加剤、合成洗剤安定剤、染料など、想定されている用途が異なる場合があるため、使用する際は確認することが必要です。

ジシアンジアミドのその他情報

1. ジシアンジアミドの合成

ジシアンジアミドの合成

図2. ジシアンジアミドの合成

一般的なジシアンジアミドの合成方法は、石灰窒素を水と酸で反応させてシアナミド溶液にし、これを加熱重合させることです。シアナミドは、カルボジイミドと互変異性の関係にあるため、塩基性溶液中で加熱すると、シアナミドとカルボジイミドとが反応したジシアンジアミドが生成します。

別の方法としては、反応を石灰窒素泥中で同時に行い、熱水で抽出し結晶を得る方法があります。

2. ジシアンジアミドの互変異性

ジシアンジアミドの互変異性と双性イオン

図3. ジシアンジアミドの互変異性と双性イオン

ジシアンジアミドは、シアナミドと同様に互変異性を有しており、ニトリル基の結合している窒素原子は、結合状態及びプロトン化状態が平衡状態にあります。また、平衡の過程で、双性イオンとして存在する場合があります。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/d76609

ジエチレングリコールジメチルエーテル

ジエチレングリコールジメチルエーテルとは

ジエチレングリコールジメチルエーテル (英: Diethylene glycol dimethyl ether) とは、エーテル類に分類される有機化合物の1種です。

別名には、1,1′-オキシビス(2-メトキシエタン)、2,5,8-トリオキサノナン、ジグリム、ジグライム、ダイグライム、ジメチルジグリコールなどがあります。特に製品としては、diethyleneglycol dimethyl etherの略称である、ジグリム/ジグライムの名称がしばしば用いられます。

化学式はC6H14O3であり、ジエチレングリコールにおける2つのヒドロキシ基をメチル化した構造です。CAS登録番号は、111-96-6です。有機合成化学において高沸点の親水性電子ドナー溶媒として、用いられます。

ジエチレングリコールジメチルエーテルの使用用途

ジエチレングリコールジメチルエーテルのグリニャール試薬への配位の例

図1. ジエチレングリコールジメチルエーテルのグリニャール試薬への配位の例

ジエチレングリコールジメチルエーテルの主な使用用途は、 希釈剤、洗浄剤、反応系溶剤などです。反応溶剤としては、特にグリニャール試薬や金属ヒドリドなどの金属化合物を反応剤とする反応で用いられます。

これは、ジエチレングリコールジメチルエーテルが金属カチオンにキレート配位して対アニオンを活性化させる働きがあり、反応速度を上げることができるためです。その他の反応では、ジボランを用いたヒドロホウ素化反応などが挙げられます。

ジエチレングリコールジメチルエーテルの性質

ジエチレングリコールジメチルエーテルの基本情報

図2. ジエチレングリコールジメチルエーテルの基本情報

ジエチレングリコールジメチルエーテルは、分子量134.18、融点-68℃、沸点162℃であり、常温では無色透明の液体です。特異臭を有します。水、各種アルコール、ジエチルエーテル、各種炭化水素系の溶媒と容易に混和します。密度は0.937g/mLです。

 法規制に従った保管及び取扱においては安定と考えられます。塩基性に強く、強塩基存在下に加熱しても通常は安定です。

ただし、強力な酸化剤と激しく反応し、 51℃以上では、爆発性過酸化物を生成することがあると推測されます。

ジエチレングリコールジメチルエーテルの種類

ジエチレングリコールジメチルエーテルは、主に、研究開発用試薬製品や工業用薬品として販売されています。研究開発用試薬製品としては、25mL、100mL、500mLなどの容量の種類で提供されています。

通常、室温で取り扱い可能な試薬製品です。安定剤としてBHT (ジブチルヒドロキシトルエン) を含む場合や、不純物として0.5%程度の水を含む場合があります。

工業用薬品としては、16kg石油缶や200kgドラムなどの容量の種類が提供されています。使用用途として、溶剤、グリニヤール反応用溶媒、酸性ガス洗浄剤、吸収剤などを想定して販売されている薬品です。

ジエチレングリコールジメチルエーテルのその他情報

1. ジエチレングリコールジメチルエーテルの合成

ジエチレングリコールジメチルエーテルは、酸触媒存在下でのジメチルエーテルとエチレンオキシドの反応により、合成されるとの報告があります。

2. ジエチレングリコールジメチルエーテルを溶媒とする化学反応

ジエチレングリコールジメチルエーテルを溶媒として用いる反応の例

図3. ジエチレングリコールジメチルエーテルを溶媒として用いる反応の例

前述の通り、ジエチレングリコールジメチルエーテルは金属カチオンにキレート配位して対アニオンを活性化させることができます。このため、ジエチレングリコールジメチルエーテルは、しばしば有機合成化学において溶媒として用いられる物質です。具体的な反応は以下のとおりです。

  • 水素化トリ-テルト-ブトキシアルミニウムリチウムを用いた還元反応
  • オレフィンを一級アミンに還元するヒドロホウ素化-アミノ化反応

3. ジエチレングリコールジメチルエーテルの安全性

ジエチレングリコールジメチルエーテルは、消防法において、「危険物第4類「「第二石油類 (水溶性液体) 」に指定されています。これは、引火点が57℃と低く、引火しやすい性質があるためです。また、労働安全衛生法でも「危険物・引火性の物」に指定されている化合物です。

取り扱いの際は、適切な保護具を用い、法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/111-96-6.html

ジエチレングリコール

ジエチレングリコールとは

ジエチレングリコールの基本情報

図1. ジエチレングリコールの基本情報

ジエチレングリコール (英: Diethylene glycol) とは、エチレングリコール (英: Ethylene glycol) 2分子が脱水縮合した構造を有するグリコールの1種です。

ジエチルグリコール、2,2’-オキシジエタノール、エチレングリコールダイマーとも呼ばれています。消防法では、「危険物第4類」「第三石油類 (水溶性液体) 」に指定されています。

ジエチレングリコールには、経口摂取により肝臓、中枢神経系、腎臓への毒性があり、中毒により死亡する場合も多いです。甘味があることから、過去にはシロップやワインなどに添加物として混入されて、中毒事件を引き起こしていました。

ジエチレングリコールの使用用途

ジエチレングリコールは、ブレーキ液、不凍液、潤滑剤、あるいはインキ、たばこの保湿剤、衣類の柔軟剤、コルクの可塑剤、接着剤、紙、包装材料、塗料などに幅広く使用されています。

また、ジエチレングリコールは皮膚に吸収されないため、化粧品にも用いられています。以前は、薬事法の規制対象ではありませんでした。しかし、2008年の同法化粧品基準の改正に伴い、歯磨への配合が禁止され、ジエチレングリコール0.1%以下のグリセリンのみ使用可能になりました。

ジエチレングリコールの性質

ジエチレングリコールの融点は-10.45°C、沸点は244.3°Cで、常温では無色のシロップ状の液体です。水のような極性溶媒によく溶解します。

分子式はC4H10O3で、分子量は106.12、20°Cでの密度は1.1160g/cm3です。示性式は (CH2CH2OH)2Oと表されます。

ジエチレングリコールのその他情報

1. ジエチレングリコールの合成法

ジエチレングリコールは、エチレングリコール2分子から水1分子が取れて縮合した化合物です。エチレングリコールを製造する際の反応副生成物として得られます。

2. ジエチレングリコールの関連化合物

ジエチレングリコールの関連化合物

図2. ジエチレングリコールの関連化合物

ジエチレングリコールは、エチレンオキシド (英: ethylene oxide) から誘導されるグリコールの1つです。 エチレンオキシドからジエチレングリコール以外にも、示性式がHOCH2CH2(OCH2CH2)nOHのグリコールが多数得られます。

  • n=0: エチレングリコール
  • n=2: トリエチレングリコール (英: triethylene glycol)
  • n=3: テトラエチレングリコール (英: tetraethylene glycol)
  • n=4: ペンタエチレングリコール (英: pentaethylene glycol)
  • n>4: ポリエチレングリコール (英: polyethylene glycol)

これらのグリコール類は、エーテル結合を有するため、多くのジオールよりも親水性が高いです。

3. グリコール類の合成

グリコール類の合成

図3. グリコール類の合成

エチレンオキシドは水溶液中でも安定しており、化学反応を起こさずに長時間存在できます。ただし、希釈した硫酸などの少量の酸を加えると、室温でもすぐにエチレングリコールが生成します。エチレンオキシドの重合は、リン酸塩のような触媒存在下で、気相で進行可能です。

約60°Cで大過剰の水を使用して、エチレンオキシドを反応させると、ジエチレングリコールやトリエチレングリコールの生成を抑制して、エチレングリコールを合成可能です。その一方で、アルカリ触媒を使用すると、ポリエチレングリコールが生じます。

アルコールを用いても同様の反応が進行し、エチレングリコールエーテルが得られます。エチレンオキシドと低級アルコールの反応は、水よりも活発ではないため、より厳しい条件が必要です。160°Cに加熱して、3MPaに加圧するとともに、酸やアルカリ触媒を加えます。

ジエチルアミン

ジエチルアミンとは

ジエチルアミンとは、二級アミンの有機窒素化合物です。

可燃性の液体であり、消防法において、「危険物第4類」「第一石油類 (水溶性液体) 」に指定されています。また、腐食性を持ち、皮膚に触れると重度の皮膚熱傷を引き起こします。

ジエチルアミンは、エチルアルコールのアミノ化、もしくはアセトアルデヒドとの還元アミノ化反応により製造されています。いずれの方法も、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンの3種が同時に生成することから、蒸留法により、それぞれに分離・精製しています。

ジエチルアミンの使用用途

ジエチルアミンは、医薬品、染料中間体、ゴム薬品、除草剤、殺虫剤、界面活性剤、塗料、合成樹脂などの原料として幅広く利用されています。また、化学分析の試薬としても用いられています。ジエチルアミン-銅法は、物質の濃度を定量的に分析する吸光光度法です。

このほか、電気めっき浴の材料、自動重合を防ぐ目的でモノマーに添加する重合遅延剤 (あるいは重合阻害剤ともいう) 、pH調整剤も用途として挙げられます。

ジエチルアミンの性質

1. 物理的性質

ジエチルアミンは、化学式C4H11N、分子量73.14、CAS番号109-89-7の有機化合物です。無色の液体で、アンモニアのような特徴的な臭気を持ちます。pHは強塩基性で、粘度は 0.319cp (25℃) 、比重は0.707です。

融点-50℃、引火点-26℃以下 (密閉系) 、 沸点・初留点及び沸騰範囲55.5℃、爆発範囲下限 1.8vol% 、上限 10.1vol%、自然発火温度312℃の引火性液体です。

2. 化学的性質

ジエチルアミンは、水と混和し、アルコール、四塩化炭素、クロロホルムに可溶です。通常状態において安定ですが、加熱や燃焼により分解し、一酸化炭素や窒素酸化物などの、有毒なヒュームを生じます。

混触危険物質には、酸化剤とニトロシアノフラザンが指定されています。酸化剤と反応すると、火災や爆発の危険があります。また、ニトロシアノフラザンに触れると即時に爆発するため、混触危険物質と接触しないよう取り扱いに注意が必要です。

ジエチルアミンのその他情報

1. ジエチルアミンの安全性

引火性の高い液体及び蒸気を発生させ、皮膚との接触 (経皮) 、吸引 (蒸気) 、飲み込む (経口) と有害です。また、眼に入ると、重篤な損傷を起こします。

単回ばく露では、呼吸器系、肝臓障害の恐れがあり、反復ばく露では、呼吸器系、腎臓障害の恐れがあります。また、水性生物への有害性が確認されており、廃棄時は関連法規、地方自治体の基準に従って処理する必要があります。

2. ジエチルアミンの応急処置

吸引、皮膚への付着、眼への付着、経口摂取した際は、いずれの場合も直ちに医療機関に連絡します。吸引した際は、空気が新鮮な場所で、半座位で安静にします。

皮膚に付着した場合は、 少なくとも15分間多量の水で洗い流した後、ジエチルアミンが付着し衣服を脱がせ、再度洗い流すことが重要です。

眼に付着した場合は多量の水で洗い流し、コンタクトレンズの場合は可能であればはずします。経口摂取した場合は、無理に吐かせず、口をすすぎ、医師の指示に従います。

3. ジエチルアミンの取扱方法

取扱いの際は、適切な呼吸器系保護具、保護手袋 (ネオプレン推奨) 、顔面保護具、必要に応じて全身の化学用保護衣 (耐酸スーツなど) を着用します。作業後はよく手を洗い、眼や皮膚等に付着しないよう注意します。

設備は防爆の電気、換気、照明機器を使用し、静電気放電に対する予防措置を行います。また、貯蔵、取扱場所には、洗眼器と安全シャワーを設置します。

高熱工程でミストが発生する場合は、空気汚染物質を管理濃度・許容濃度以下に保つため、換気装置を設置する必要があります。

4. ジエチルアミンの消火方法

粉末消火薬剤、アルコール耐性泡消火薬剤、大量の水、二酸化炭素を使用し、消火を行います。 火災を予防するためには、裸火、火花との接触を避け、作業場所は禁煙にする必要があります。

また、作業場所は密閉系、もしくは換気設備のある場所で取り扱います。充填、取り出し、取り扱い時に圧縮空気を使用しないよう注意が必要です。

ジエチル亜鉛

ジエチル亜鉛とは

ジエチル亜鉛 (英: Diethylzinc) とは、有機亜鉛化合物の1種であり、化学式(C2H5)2Znで表される有機化合物です。

常温での外観は無色の液体ですが、ヘキサン溶液などの状態で販売されていることも多くあります。空気に触れると自然に発火する性質を有しており、消防法において「第3類自然発火性物質及び禁水性物質」として定められいます。CAS登録番号は、557-20-0です。

ジエチル亜鉛の使用用途

ジエチル亜鉛は、空気に触れると自然発火する特性を活かし、ロケットの高エネルギー燃料および点火剤として利用されています。また、合成的には重要なアルキル化剤として利用される物質です。特に、1900年にグリニャール試薬が登場するまでは、求核剤として一般に用いられる有機金属化合物でした。

さらに、今日では透明酸化亜鉛膜用原料としても重視されており、タッチパネルなどの液晶表示素子、太陽電池に用いられています。

ジエチル亜鉛の性質

ジエチル亜鉛の基本情報

図1. ジエチル亜鉛の基本情報

ジエチル亜鉛は、分子量 123.50、融点-33.8℃、沸点117.6℃であり、常温での外観は無色透明の液体です。特異臭を有します。密度は1.205 g/mLです。水とは激しく反応し、 有機溶媒には芳香族炭化水素や脂肪族飽和炭化水素に任意の割合で溶解します。

ジエチル亜鉛の種類

ジエチル亜鉛は、工業用の有機金属化合物及び、研究開発用試薬製品として一般に販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用製品は主に1.0 M前後のn-ヘキサン溶液として販売されています。容量の種類は、100mL、800mL、2Lなどがあります。外観は無色透明の液体です。

2. 工業用薬品

工業用薬品として販売されている製品は、医薬品原体・中間体の合成反応に用いられたり、電子情報材料用原料などとして用いられたりしています。ガスとして販売されているものもあります。

ジエチル亜鉛のその他情報

1. ジエチル亜鉛の合成

ジエチル亜鉛の合成

図2. ジエチル亜鉛の合成

ジエチル亜鉛は、ヨウ化エチルと臭化エチルの1:1混合物と亜鉛–銅カップルの反応によって合成される化合物です。歴史的には、1848年のエドワード・フランクランドによる世界初の報告では亜鉛とヨウ化エチルから合成されています。

後に、この反応は、ジエチル水銀を出発物質とする改良法が報告されました。

2. ジエチル亜鉛の化学反応

シモンズスミス試薬の調製とアルケンのシクロプロパン化 (シモンズスミス反応)

図3. シモンズスミス試薬の調製とアルケンのシクロプロパン化反応

ジエチル亜鉛は、有機合成化学においてエチル基を導入する求核剤として用いられます。カルボニル基やイミンなどに対する付加反応が一般的です。

また、ジヨードメタンを作用させるとシモンズ・スミス試薬  (ICH2ZnI) を生成します。シモンズ・スミス試薬は、アルケンをシクロプロパン化する化学反応に用いられる活性種であり、この反応をシモンズスミス反応と呼びます。

3. ジエチル亜鉛の危険性

ジエチル亜鉛は、常温で自然発火性がある物質です。また、水やアルコール類との接触により爆発的に反応し、メタン等の可燃性炭化水素や金属の水素化物を生じます。人体への有害性では、皮膚への火傷、蒸気による粘膜や眼への刺激、肺水腫の恐れがあります。

これらの危険性から空気や水、アルコールとの混触を避け、不活性ガス中で取り扱うことが必要です。市販されているものは、ヘキサンやヘプタン、トルエンなどの溶液で販売されていることが多いです。

4. ジエチル亜鉛の法規制情報

ジエチル亜鉛には前述のような危険性があるため、各種法令による規制があります。消防法では、「危険物第3類 有機金属化合物 第1種 自然発火性物質および禁水性物質」に指定されており、労働安全衛生法では「施行令別表 第1危険物 (引火性 のもの) 」に指定されています。

法令を遵守して取り扱うこと、適切な保護具を使用して取り扱うことが必要です。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/51/10/51_10_955/_pdf/-char/en

ジエタノールアミン

ジエタノールアミンとは

ジエタノールアミンの基本情報

図1. ジエタノールアミンの基本情報

ジエタノールアミンとは、二級アミンとジオールの有機化合物です。

よくDEAと表記されます。ジオラミン、2,2′-イミノジエタノール、イミノジエチルアルコールなどの別名もあります。

取り扱いの際には、注意が必要な物質です。皮膚への刺激性があり、重篤な眼の損傷を起こし、飲み込むと有害です。また、発がんや生殖能、あるいは胎児への悪影響を及ぼす恐れもあります。消防法により、「危険物第4類」「第三石油類」に指定されています。

ジエタノールアミンの使用用途

ジエタノールアミンは、化粧品やシャンプーの原料、洗剤や工業用洗浄剤、金属加工での潤滑油、塗料、農薬や殺虫剤、ガス吸収剤、金属腐食防止剤などに利用されています。ゴム、製紙、繊維の加工材料などにも、幅広く用いられています。

そのほか、ジエタノールアミンは、天然ガスから硫化水素と二酸化炭素を除去する目的で利用可能です。石油精製所では、酸性ガスから硫化水素を除去するために、一般的にジエタノールアミン水溶液を用います。

同じ腐食電位のモノエタノールアミンよりも、高い濃度で使用できるため、ジエタノールアミンの方が優れています。したがって、精製に必要なエネルギー使用量を抑えて、硫化水素を洗浄可能です。

ジエタノールアミンの性質

ジエタノールアミンの融点は28°C、沸点は217°Cであり、常温では無色またはうすい黄色の液体です。水溶性が高く、反応後には水洗で除去できます。一般的なアミンと同じく、ジエタノールアミンも弱塩基性を示します。

なお、ジオールとは、分子内にヒドロキシ基を2つ有する化合物のことです。化学式はC4H11NO2と表されます。モル質量は105.14 g/mol、密度は1.090g/cm3です。

ジエタノールアミンのその他情報

1. ジエタノールアミンの合成法

ジエタノールアミンの合成

図2. ジエタノールアミンの合成

アンモニア水溶液と酸化エチレン (英: ethylene oxide) の反応によって、モノエタノールアミン (英: monoethanolamine) を製造可能です。反応条件によってはジエタノールアミンとトリエタノールアミン (英: triethanolamine) も合成できます。生成物の比率は、原料の化学量論比を制御すると変えられます。

アンモニア水と酸化エチレンの反応では、最初にモノエタノールアミンが生成します。モノエタノールアミンと酸化エチレンが反応すると、ジエタノールアミンを生成可能です。ジエタノールアミンがさらに酸化エチレンと反応すると、トリエタノールアミンが生じます。

2. ジエタノールアミンの反応

ジエタノールアミンの反応

図3. ジエタノールアミンの反応

モルホリン (英: morpholine) の合成に、ジエタノールアミンは原料として使用されます。ジエタノールアミドは、ジエタノールアミンと脂肪酸から生成されます。

ジエタノールアミンと2-クロロ-4,5-ジフェニルオキサゾール (英: 2-chloro-4,5-diphenyloxazole) が反応すると、ジタゾール (英: Ditazole) を生成可能です。水を除去してジエタノールアミンとイソブチルアルデヒド (英: Isobutyraldehyde) を反応させると、オキサゾリジン (英: Oxazolidine) が得られます。

3. ジエタノールアミン誘導体の使用用途

ジエタノールアミンと脂肪酸から得られるジエタノールアミドは両親媒性です。ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド (英: Coconut Fatty Acid Diethanolamide) やラウリルアミドジエタノールアミン (英: Lauryldiethanolamine) などは、界面活性剤として使用可能です。クリーム状の触感や泡立ちを良くする材料として、シャンプーなどの石鹸類に一般的に利用されています。