SPCC

SPCCとは

SPCCとは、JIS (日本産業規格) によって規定された冷間圧延鋼板の一種です。

冷間圧延鋼板は鉄鋼メーカーが生産する鋼材の一つで、熱間圧延軟鋼板を常温状態で冷間圧延して作られます。

SPCCの特徴は、高い加工性能と優れた表面仕上げです。冷間圧延により鋼板の厚みを薄くし、表面に滑らかで均一な仕上がりにできます。またSPCCは耐蝕性が低いため、塗装やめっき処理を施すことで、耐食性を向上できます。比較的安価な構造用鋼であり、多くの産業で使用されています。

SPCCの使用用途

SPCCの使用用途の例は下記の通りです。

1. 自動車部品

自動車部品はエンジン部品、ボディーパーツ、車輪などに使用されています。

2. 家電製品

家電製品では冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどに使用されています。

3. 建築材料

建築材料では、建物の外壁や屋根、サイディングに使用されています。サイディングとは、建物の外壁に張り付ける外装材料の一種です。また、水道管やガス管、配管などの管継手にも使用されています。

4. 電子機器

電子機器では、スマートフォンやタブレット端末、コンピュータの筐体に使用されています。筐体とは、電気機器や機械部品などを収容し、保護するための箱状の外殻のことです。

5. オフィス用品

オフィス用品では、書類整理棚、机など身近な製品に使用されています。

SPCCの性質

SPCCの主な性質は下記の通りです。

1. 化学組成

SPCCの化学組成は以下です。

  • 炭素 (C) :0.15%以下
  • マンガン (Mn) :1.00%以下
  • リン (P) :0.100%以下
  • 硫黄 (S) :0.035%以下

2. 強度

SPCCは低炭素鋼板から作られます。低炭素鋼は比較的柔軟で加工性が高い一方で、炭素含有量が少ないため、通常は強度が低く、加工後の硬度も低くなります。

しかし、冷間圧延により強度が向上します。冷間圧延とは、高温で鍛造された鋼板を低温下で薄く延ばす方法です。冷間圧延によって均一で密度の高い結晶構造が得られ、炭素含有量が少ない低炭素鋼でも強度を高められます。

塗装やめっきなどの表面処理をしていない場合、空気中の酸素と反応して容易にサビが発生します。

3. 表面の外観

SPCCの表面は冷間圧延によって均一で滑らかで、塗装やメッキ仕上げで美しい外観に仕上げられます。また、黒染めを行うと鋼板の表面に酸化皮膜が形成されるため、防錆能力が向上し、鋼板表面が美しい黒色に仕上がります。黒染めとは酸化皮膜を形成させることで、鋼板の表面を黒く染める処理です。

4. 熱伝導性

SPCCは熱伝導性が高く、加熱や冷却による熱膨張に対しても安定しています。そのため、加熱プレスやプレス加工など高温処理が必要な加工に適しています。

SPCCのその他情報

1. SPCCの原材料

SPCCには亜鉛めっき、スズめっき、ニッケルめっき、クロムめっきなどが使用されます。鋼板表面に均一にめっきされるため、防錆性が高く外観も美しい仕上がりになります。めっきによって鋼板の耐食性が向上し、長期間の使用にも耐えられます。

2. 劣化の抑制方法

鋼板表面に塗料を塗布することによって酸化や腐食から鋼板を守れます。また、塗料によって防水性や耐摩耗性、耐熱性などの性能も付加できます。塗料にはエポキシ樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料などが使用されます。

3. SPCCが適している加工方法

曲げ加工
SPCCは曲げ加工にも適しています。材料の塑性が高く形状変化に耐えられるため、複雑な形状の製品を作り出せます。また、曲げ加工時に発生する応力にも強く、形状の安定性が高いため、変形が少なく、製品の品質が保たれやすいことが利点です。

プレス加工
プレス加工で圧力をかけて加工することにより、材料を一定の形状に加工できます。また、加工時の応力にも強いため、高い精度での製品を作り出せます。

絞り加工
SPCCは絞り加工にも適しています。絞り加工は、板材を専用のダイや引き抜き機で引き伸ばすことで厚みを減らし、形状を変える加工方法です。絞り加工時の引っ張り応力に対して十分な耐性を持ち、引き抜き時の摩擦係数が小さいため、滑らかな引き抜きが可能で均一な板厚に加工できます。

切断加工
SPCCは低炭素冷間圧延鋼板であり、切断加工性に優れた材料です。切断加工性とは、材料を切断する際にどの程度簡単で正確に切断できるかを示す指標です。

溶接
SPCCは電気抵抗溶接に適しています。電気抵抗溶接とは、2つ以上の金属材料を抵抗加熱によって溶融・接合する溶接方法です。加熱には電流を流し、接合する部分には圧力をかけて材料同士を溶接します。

また、アーク溶接にも適しています。アーク溶接とはアークを発生させて2つの金属を溶かして接合する方法です。SPCCのような薄板には特に適しており、強度が高い溶接が得られます。アークとは高温・高電圧の電気放電によって生じる火花のことです。

関連する金属材料

spb

spbとは

spbとは「steel plate black」の略称で、JIS規格において、めっき鋼板に分類されるぶりき原板です。

spbは、低炭素鋼を用いて製造されためっき処理を施す前の鋼板や鋼帯をいいます。ただし、未処理の原板のまま取引され、使用される場合もあります。

spbには、SR原板とDR原板があり、SR原板とは、冷間圧延と焼きなましを施したもので、DR原板とは冷間圧延、焼きなましの後、さらにもう一回冷間圧延を施したものです。

spbの使用用途

spb(ぶりき原板)は、その名が示すとおりぶりきの製造に使用されるほか、ティンフリースチールの製造にも使われます。ぶりきは、spbにスズめっき処理を施したもので、ティンフリースチールは、スズの代わりにクロムやニッケルを用いてめっき処理を施したものです。

spbは、使用される鋼種によって分類でき、それぞれ用途が異なります。代表的な鋼種と用途は以下のとおりです。

MR:耐食性に優れており、容器をはじめ、さまざまなものに使用される一般的な鋼種です。
L:耐食性が極めて優れており、主に容器の材料として用います。
D:アルミキルド鋼であって、深絞り加工を施す場合やリューダース帯が発生しやすい加工を施す場合に使用します。

sm490a

sm490aとは

sm490aとは、SM材と呼ばれる溶接構造用圧延鋼材の一種であり、軟鋼(キルド鋼)にマンガン、シリコン、リン、硫黄などを添加して製造されます。名称に含まれる490は引っ張り強さの下限値が490であることを意味します。また末尾のaはA種とも呼ばれ、B種やC種とは異なり耐衝撃性の規格が定められていない鋼種であることを意味します。近年名称が変更された鋼種であり、1990年以前にはsm50aという名称が用いられていました。

SM材はSteel Marineの略称であり、その名の通り溶接可能な船舶用鋼材として開発されましたが、現在では良好な溶接性を持った鋼種として船舶用に限らず幅広い用途に用いられており、sm490aはそのSM材の中でも代表的な鋼種と言われています。

sm490aの使用用途

sm490aの使用用途としては、SM材が開発された当初の用途である船舶用途が挙げられますが、現在ではその他にも溶接が必要とされる鋼材用途に広く用いられています。鋼材の溶接が必要な用途は無数に挙げられますが、特に重要な溶接、すなわち構造躯体の強度に関わるような溶接個所にはSM材の使用が必須といわれています。これは安価な一般建築鋼材であるSS材などを用いた場合、化学成分の規定や溶接性の保証がなされていないためであり、とくにパイプライン、発電プラントなどのインフラ用途、プラントや産業機械用途での溶接にはsm490aを代表とするSM材が用いられています。

なお、sm490aは類似の鋼材であるsm490bなどの比較して耐衝撃性の規格が設定されていない鋼種であり、そのことから靭性に劣るともされるため、加工方法として圧延製法が用いられやすい鋼材でもあります。

SKS3

SKS3とは

SKS3とは、JIS (日本産業規格) で規定された冷間金型用合金工具鋼の一種です。

主に金型、刃物、冷間鍛造機械の部品、切削工具、針金引き機のダイスなどに使用されます。硬さ、耐摩耗性、硬度保持性、深い硬化性、耐熱性などです。加工性も良く研磨性も高いため、金型の仕上げにも適しています。熱処理によって硬度を調整できるため、使用目的に応じて硬度を変化させることができ、酸化や腐食に対しても耐性があるため長期間の使用にも耐えられます。

SKS3の使用用途

1. 金型

プレス機の金型、鋳造機のダイス、プラスチック成形用金型、ガラス成形用金型などがあります。鋳造機のダイスとは、鋳造工程において、金属を所定の形状に成形するために使用される金型の一種です。熱い金属を射出したり圧力をかけたりして、金属を所定の形状に成形するために使用されます。

2. 刃物

包丁、包装用カッター、ハサミ、裁断機の刃物、紙加工用刃物、木工用ノミ、糸切りハサミ、製紙機の刃物、繊維機の刃物、プラスチック製品の成型刃物などがあります。

3. 冷間鍛造機械の部品

ダイス、ピン、ブレード、ロール、シャフト、ブッシング、ホルダーなどがあります。ブレードとは冷間鍛造機械の部品の1つで、金属材料を切断するための刃物のことです。

4. 切削工具

ボール盤、タップ、フライス盤、ドリル、カッター、バイトなどがあります。ボール盤とは、木材や金属材料などを穴あけするために使用される工具です。タップとは、ねじを切るための工具の一種で、金属板やパイプなどの素材に、内部ねじを切ります。フライス盤とは、工作機械の一種で、金属やプラスチックなどの素材を切削加工するために使用される機械です。

5. その他

冷間圧延機のロール、ニッパーなどがあります。冷間縦断機とは、鋼材や金属板を幅方向に縦断して、所定の幅にカットするための機械です。ニッパーとは、主に金属やプラスチックなどの素材を切断するために使用される工具の一種です。

SKS3の性質

1. 化学組成

  • 炭素 (C) : 0.90%~1.00%
  • シリコン (Si) : 0.35%以下
  • マンガン (Mn) : 0.90%~1.20%
  • リン (P) : 0.03%以下
  • 硫黄 (S) : 0.03%以下
  • クロム (Cr) : 0.50%~1.00%
  • タングステン (W) : 0.50%~1.00%

2. 硬度、耐摩耗性、硬度保持性、硬化層深さ、耐熱性

SKS3は高い硬度、耐摩耗性、硬度保持性、硬化性深さが大きい、耐熱性などの特性を持つため、金型や刃物、工具の耐久性が高く、長期間使用できます。

硬度保持性とは、材料の硬度が時間の経過や使用によってどの程度変化するかを表す指標です。硬化性深さとは、「鋼材が熱処理された際に表面から深く硬くなる深さ」のことです。

SKS3には炭素、シリコン、マンガン、クロム、バナジウム、モリブデン、タングステンなどの合金元素が含まれており、それぞれ独自の特性からSKS3の性能向上に関わっています。

炭素は鉄と合金化することで硬度を向上させ、耐摩耗性も改善させる元素です。シリコンは鋳造性を向上し、耐熱性を高めます。マンガンは硬度を増し、硬度の保持性を向上させる元素です。クロムはクロムカーバイトを生成することで硬度と耐摩耗性を向上し、腐食にも強くなります。バナジウムは高温下でも耐性が向上するため、耐熱性を向上させるのが特徴です。モリブデンは硬度の保持性を高める元素です。タングステンは硬度を保持し、深い硬化性を持たせます。

3. 加工性、研磨性

SKS3は、加工性や研磨性が良く、表面の仕上がりが良いです。SKS3に含まれるクロムやモリブデンなどの合金元素により熱処理時の析出硬化現象が起こるため、鋼の組織が微細化し硬くなるだけでなく、耐摩耗性や耐熱性などの特性が向上します。

低炭素鋼であるため焼入れ時に歪みや変形が少なく、加工後の研磨や仕上げがしやすいというのが特性があります。またSKS3は粒度が均一で金属組織も細かいので、加工性や研磨性が向上するのが特徴です。さらにSKS3は不純物や不均一物質や、表面の汚れや酸化物が少なく、表面の仕上がりが良い特性もあります。

4. 熱処理による硬度の調整

SKS3は熱処理によって硬度を調整できます。SKS3は炭素鋼とクロム、タングステン、バナジウムなどの合金元素を配合することで、高い硬度や耐摩耗性、耐熱性などの性能を持ち、加工性や研磨性などの機械的性質も良好です。

SKS3は熱処理によって硬度を調整できます。具体的には、通常SKS3は焼き入れ時の温度が高く、冷却速度が遅いときに硬度は高くなる一方、焼き入れ時の温度が低く冷却速度が速い場合には硬度は低くなります。

5. 耐酸化性、耐腐食性

SKS3は酸化や腐食に対しても耐性があり、長期間の使用にも耐えられます。SKS3に含まれるクロム、モリブデン、バナジウムなどの合金元素が酸化や腐食に対して耐性を持っているためです。特にクロムは、酸化に対して非常に強い耐性を持ち、表面にクロム酸化物の皮膜を形成して酸化を防ぎます。またSKS3は適切な熱処理を施すことで金属組織を微細化させ、より密度の高い組織を作り出し、酸化や腐食の浸透を防ぎ、耐久性を高められます。

SKS3のその他情報

SKS3の取り扱い上の注意

SKS3は硬度が高く、硬化層深さが大きいため、割れやすい材料です。加工時や熱処理時の急激な温度変化や、不適切な冷却などによって、内部に応力が発生し、割れることがあります。また不適切な取り扱いや保管によっても、表面に傷や錆が発生し、割れる可能性が高くなります。したがって、SKS3を使用する際には、適切な熱処理や取り扱い、保管が必要であり、特に表面の傷や錆を防ぐことが重要です。

関連する金属材料

SKH51

SKH51とは

SKH51とは、JIS (日本産業規格) に規定されたモリブデン系高速度工具鋼の一種です。

SKH51は高い硬度、耐摩耗性、耐熱性、切削性能などの優れた特性を持ち、高速での切削加工に適します。一般的に工具鋼として使用され、切削工具、金型、工具部品、機械部品などに幅広く使われています。SKH51は、高合金鋼で、モリブデン、バナジウム、タングステンなどの合金化元素を含み、適切な熱処理によって、硬度と耐久性を改善できます。

SKH51の使用用途

1. 切削工具

フライス盤とは、金属や木材などの材料を加工するための機械工具の一種です。主に平面や複雑な形状を加工します。フライス盤は切削刃がついた回転する切削刃を用いて、材料を削ります。タップとは、金属加工において、内部にネジを切るための切削工具の一種です。リーマとは、金属や木材などの材料の内径を加工するための切削工具の一種で、穴を円筒形に整形するのに用いられます。

ハイスエンドミルとは、金属加工において、フライス盤やCNCマシンなどで使用される切削工具の一種です。CNC (英: Computer Numerical Control) マシンは、コンピュータ数値制御によって操作される機械加工装置の一種です。

2. 金型・工具部品

金型は押出成形、プレス成形、鋳造などです。工具部品は螺子、ギア、軸、軸受け、ばね、刃物、ノズルなどが挙げられます。

3. 機械部品

機械部品はベアリング、ブッシュ、スプロケット、クランク軸、シャフト、歯車などがあります。

ベアリングとは、軸と軸受けの間の回転摩擦を減らすために使用される機械部品の一種です。ブッシュとは、回転や移動する軸部分の周囲に配置される機械部品の一種で、軸と軸受けの間の摩擦を減らすために使用されます。

スプロケットとは、自転車やオートバイ、自動車、産業用機械などの動力伝達系で使用される、歯車の一種です。スプロケットは、軸に取り付けられ、チェーンやベルトなどの伝動部品と組み合わせて、回転運動を伝達します。クランク軸とは、内燃機関や圧縮機、発電機などの回転運動エネルギーを発生させる機械装置の一部で、ピストンの上下運動を回転運動に変換するための部品です。

4. 切削加工用の機械部品

スピンドルとは、機械工具の一部で、回転するシャフトまたは軸です。スピンドルは、高速旋盤やフライス盤、工作機械、木工機械、歯科用ハンドピースなどの機器で使用されます。工作物を保持し、切削工具によって加工するための装置です。チャックは、工作物を回転軸に沿ってセンタリングします。

5. その他

その他として超硬合金の被覆材料や熱硬化処理された歯車や歯車用切削工具などが挙げられます。

SKH51の性質

1. 化学組成

  • 炭素 (C) : 0.80%~0.88%
  • シリコン (Si) : 0.45%以下
  • マンガン (Mn) : 0.40%以下
  • リン (P) : 0.030%以下
  • 硫黄 (S) : 0.030%以下
  • クロム (Cr) : 3.80%~4.50%
  • モリブデン (Mo) : 4.70%~5.20%
  • タングステン (W) : 5.90%~6.70%
  • バナジウム (V) : 1.70%~2.10%
  • 銅 (Cu) : 0.25%以下

2. 耐摩耗性

SKH51は高い硬度を持ちます。合金鋼の硬度を高めるためには、主に2つの方法があります。1つは合金元素を添加することによって、原子構造を制御することで硬度を向上させる方法です。もう1つは、熱処理を行い、合金鋼の結晶構造を制御することで硬度を向上させる方法です。

SKH51は、主に前者の方法によって硬度を高めています。SKH51に含まれる炭素、モリブデン、バナジウム、クロム、コバルトなどの合金元素の化学的特性によって、合金鋼の原子構造を制御し、硬度を向上させます。炭素の高い溶解度により、フェライトやオーステナイトといった金属結晶構造の原子間距離を縮め、強い原子結合を形成してSKH51の硬度を向上させます。

また、SKH51の硬度を向上させるためには適切な熱処理が必要です。SKH51の熱処理には、焼き入れ、焼き戻し、表面硬化などのプロセスがあり、それぞれに適した温度、保持時間、冷却方法が必要です。

3. 耐熱性

SKH51は高温での酸化や変形に対して優れた耐熱性を持ちます。主に原子構造を制御することで耐熱性を向上させており、SKH51に含まれる合金元素は高温下での金属材料の酸化や変形を抑制するために重要です。

モリブデンは高温下での酸化に対して、表面酸化物の形成を抑制する効果があり、炭素やクロムなどの合金元素と結合することで耐熱性が高くなります。クロムは金属表面に保護膜を形成し、酸化防止効果に優れ、高温下での酸化を抑制できます。

バナジウムは高温下での金属結晶構造を制御し、金属材料の強度や硬度を向上できます。コバルトは高温下での変形に対して、金属材料の強度を向上させる元素です。炭素やクロムなどの合金元素と結合することで金属材料の耐熱性や耐摩耗性を向上できます。

SKH51に含まれる合金元素の相互作用により、SKH51は高温下での酸化や変形に対して優れた耐熱性があり、適切な熱処理によりさらに耐熱性を向上できます。熱処理による結晶構造の制御を行うと耐熱性も向上できます。焼き入れはSKH51の材料を高温に加熱してから急速に冷却することにより、金属材料の結晶構造を調整するプロセスです。焼き入れにより強度と硬度、耐摩耗性や耐熱性が向上します。

焼き戻しは、焼き入れ後にSKH51の材料を再び加熱して、適切な時間保持してからゆっくり冷却することで金属材料の結晶構造を緩和するプロセスです。焼き戻しにより強度や硬度を犠牲にすることなく靭性が向上します。これにより高温下での変形に対する耐性が向上し、切削加工における金属材料の寿命を延長します。

4. 靭性

SKH51は、靭性が高い材料です。SKH51に含まれる炭素、モリブデン、バナジウム、コバルトなどの合金元素は、SKH51の硬度や耐摩耗性を向上させるだけでなく、靭性を高めます。焼き入れ硬化によって硬度が高くなりますが、焼き入れによって結晶が微細化してしまうと、靭性が低下するため、SKH51の熱処理においては組織制御が重要です。適切な焼き入れ条件や焼きなまし処理によって、金属結晶を大きくして、靭性を高く保てます。

SKH51のその他情報

SKH51の被覆材

SKH51は、高温下での酸化に対して耐性がありますが、酸化によって表面がダメージを受けることがあるため、SKH51の表面には、耐酸化性に優れたチタンやアルミニウムなどの被覆材を施すことがあります。被覆によりSKH51の表面が保護され、寿命を延ばすことが可能です。

関連する金属材料

SKD61

SKD61とは

SKD61とは、JIS (日本産業規格) に規定された金型用工具鋼の一種です。

高温下での強度や耐熱性に優れており、金型、プレス成形、プラスチック成形、熱間鍛造などの用途に適しています。クロムモリブデン、バナジウムを含む合金鋼であり、高温での酸化や熱衝撃に対して非常に強い耐性があるのが特徴です。硬度や耐摩耗性にも優れており、長期間使用される金型や成形用具に適していて、熱処理を施すことで硬度や耐熱性を調整できます。

SKD61の使用用途

1. 金型

プラスチック射出成形用金型、圧延用ロール金型、ホットスタンピング用金型、ホットプレス用金型、鍛造用金型などに用いられます。

圧延用ロール金型とは、金属材料を圧延する際に使用されるロール金型のことです。ホットスタンピング用金型は、高張力鋼板を加工する際に使用される金型のことです。ホットスタンピングとは、高温での加熱と急激な冷却を利用して、高張力鋼板を硬化させる技術であり、高い強度と軽量化を実現できます。ホットスタンピング用金型は、高温での使用に耐えるように設計されており、SKD61などの耐熱性に優れた工具鋼が使用されることが一般的です。

ホットプレス用金型は、高温下で材料を加工する際に使用される金型のことです。ホットプレスとは、金属やセラミックスなどの高温素材を成形する加工技術のことで、高精度な成形が求められる部品の製造に利用されます。ホットプレス用金型は高温での使用に耐えるように設計されており、SKD61などの耐熱性に優れた工具鋼が使用されることが一般的です。

2. プレス成形用具

SKD61は以下の部品の成形に使用されます。

  • 自動車部品
    車体やエンジン部品、サスペンション、ブレーキなど
  • 家電製品
    テレビやエアコン、冷蔵庫、洗濯機などの部品
  • スマートフォン・タブレット端末
    端末のケースや部品など
  • 建築資材
    ドアや窓、壁材、床材など
  • 食品容器
    缶、ボトル、トレイ、蓋など

3. プラスチック成形用具

SKD61は、以下の部品の成形に使用されます。

  • 家電製品
    テレビやエアコン、冷蔵庫、洗濯機などのプラスチック部品など
  • 自動車部品
    ダッシュボード、バンパー、ドアパネル、インテリアパーツなど
  • 医療用具
    シリンジ、血液透析器、医療器具など
  • スポーツ用品
    スキーブーツ、ヘルメット、サングラスなど
  • 食品容器
    飲料ボトル、容器、蓋、トレイなど

4. 熱間鍛造用具

以下の部品を作る際に、熱間鍛造用具に使用されます。

  • 自動車部品
    シャシーパーツ、サスペンション、エンジン部品など
  • 鉄道車両部品
    ボギーアーム、ブレーキ部品、軸箱など
  • 船舶部品
    プロペラ軸、舵、ボールバルブなど
  • 航空機部品
    主翼、エンジン部品、ランディングギアなど
  • 建築資材
    橋脚、橋桁、鉄骨など

5. その他

SKD61はディーゼルエンジンのピストンピン、破砕機や粉砕機の刃物などにも使用されます。

SKD61の性質

1. SKD61の化学組成

  • 炭素 (C) : 0.35%~0.42%
  • シリコン (Si) : 0.80%~1.20%
  • マンガン (Mn) : 0.25%~0.50%
  • リン (P) : 0.030%以下
  • 硫黄 (S) : 0.020%以下
  • クロム (Cr) : 4.80%~5.50%
  • モリブデン (Mo) : 1.00%~1.50%
  • バナジウム (V) : 0.80%~1.15%

2. 耐摩耗性

SKD61は耐摩耗性が高く、長期間使用しても劣化が少ない材料です。SKD61は主にクロム、モリブデン、バナジウム、シリコンなどの合金元素を含む、鉄と炭素を主成分とした合金です。

クロムは、鋼材の硬さや耐摩耗性を向上させ、耐腐食性を高め、また酸化被膜を形成し、表面を保護できます。モリブデンは、鋼材をより硬くし、耐疲労性や耐衝撃性も向上させる効果があります。バナジウムは、鋼材の硬さや強度を増し、また鋼材中の粒子の微細化にも効果がある元素です。よってSKD61の鋼質は非常に硬く、剛性があり、表面の耐摩耗性が高くなります。シリコンは、鋼材中の炭素の析出を防ぐ効果があり、鋼材の硬さや強度を向上させます。また鋼材中に微細な気泡を形成しないため、加工時に発生する欠陥を防げるのも特徴です。

3. 耐熱性

SKD61は、高温に強く熱処理後にも耐熱性が向上します。

SKD61は、クロム、モリブデン、バナジウム、シリコンなどを含む鉄と炭素の合金であるため、高温下でも強度を維持できます。特に炭素の含有量が少ないため、高温になっても鋼材内部で炭素が析出することが少なく、強度の低下を抑えられます。

また、熱処理によって耐熱性が向上します。熱処理とは鋼材を高温で加熱して急冷することで、鋼材中の微細な組織を変化できます。SKD61は焼入れにより結晶粒の微細化や炭素の固溶化を促進し鋼材の耐熱性が向上し、高温下でも変形や破損を抑えられます。

4. 耐腐食性

SKD61は耐腐食性が良く水や化学薬品などにも強いです。

SKD61が含む合金元素 (クロム、モリブデン、バナジウムなど) は、鋼材の表面に酸化被膜を形成し、腐食や化学反応を抑制します。特にクロムは酸化被膜を形成することで、腐食や化学反応から鋼材を保護します。モリブデンやバナジウムも同様の効果を持つ元素です。表面には微細な結晶粒子が均等に分布しているため、腐食や化学反応が起こりにくい状態になっています。

5. 強度、硬度

SKD61は鋼材としての強度や硬度が高いです。SKD61に含まれているクロム、モリブデン、バナジウム、シリコンなどの合金元素は、鋼材の強度や硬度を高めます。特にクロムは硬さを高め、バナジウムは強度を高め、モリブデンは耐摩耗性を向上させます。

5. 高温下での酸化や熱衝撃への耐性

SKD61は、高温下での酸化や熱衝撃に対して非常に強い耐性を持ちます。SKD61に含まれるクロムは酸化に対して非常に耐性がある元素です。クロムは表面に酸化皮膜を形成して鋼材を保護します。

またSKD61に含まれるモリブデンにより、高温下での熱衝撃にも耐性を持たせることも特徴の1つです。SKD61に含まれる炭素により高温下での強度を保持しやすく、熱衝撃に対しても耐性を持ちます。さらに適切な熱処理によって、鋼材の組織を微調整することで高温下での耐性を向上できます。

切削工具の選び方

SKD61を切削するためには、適切な切削工具を選定する必要があります。切削工具の材質や形状、刃数、刃先角度、コーティングの有無などが加工効率や品質に影響を与えます。また、加工時には適切な冷却や潤滑を行うことも重要です。

SKD61のその他情報

SKD61の加工条件について

SKD61は高硬度であるため、切削や研削加工において摩擦熱が発生しやすく、加工性が悪い材料です。SKD61の加工条件には以下のような注意点があります。

1. 切削速度の設定
SKD61を切削する場合、高速で回転する切削工具によって金属が削り取られ際に摩擦熱が発生して材料が軟化するため、切削速度を適切に設定する必要があります。切削速度が速すぎると、材料が過剰に熱されて変質する恐れがあります。一方、切削速度が遅すぎると材料に過剰な力がかかり、刃先がすり減る恐れがあるため注意が必要です。

2. 切削深さの設定
切削深さは切削工具が材料に負荷をかける深さを示します。SKD61は硬度が高いため、適切な切削深さを設定する必要があります。切削深さが浅すぎると加工時間が長くなり、生産性が低下することが問題です。一方、切削深さが深すぎると材料に過剰な力がかかり刃先の摩耗が激しくなるため、切削性が低下するのが問題です。

3. 切削量の設定
切削量は一度に切削する金属の量のことです。SKD61は硬度が高いため、適切な切削量を設定する必要があります。切削量が少なすぎると、加工時間が長くなり、生産性が低下する一方、切削量が多すぎると、材料に過剰な力がかかり、刃先の摩耗が激しくなるため、切削性が低下します。

関連する金属材料

SCS14

SCS14とは

SCS14とは、日本産業規格 (JIS) に規定されているステンレス鋳鋼の一種です。

ステンレス鋳鋼は、主にクロムとニッケルを含む合金元素を添加した鋳鉄に分類される鋳造材料の一種です。化学組成はオーステナイト系ステンレス鋼の一種であるSUS316に相当します。オーステナイト系ステンレス鋼とは、主にクロムニッケルを含む合金元素を添加した鋼材の一種です。SCS14は、一般的な鋳鉄や鋼材に比べて耐腐食性、耐熱性、耐摩耗性が優れており、非常に広い範囲で使用されています。

SCS14の使用用途

1. ボルト、ナット、シャフト、バルブ

バルブ (英: valve) とは、液体や気体などを流通する管路やタンクなどの流路を開閉するための装置 (弁) であり、流体が通過するパイプや管路の中に設置されています。

2. フランジ

フランジ (英: flange) とは、配管やタンクなどの流路の接続部分にある、平面または凸面状の板状部品のことです。

3. フィッティング (配管継手) 

フィッティング (英: fitting) とは、配管やホースなどを接続するための部品の総称で、配管やホースを接続する部品だけでなく、分岐や結合、制御などの機能を持った部品も含まれます。

4. ポンプ部品

ポンプ部品はインペラ、キャップ、シャフトなどです。インペラ (英: impeller) とは、ポンプやタービンなどの回転機械の部品の1つで、回転する軸の周りに取り付けられた羽根状の部品のことです。

5. タービンブレード

タービンブレード (英: turbine blade) とは、タービンなどの回転機械の部品の一つで、流体の力を利用して回転運動を生み出すための羽根状の部品のことです。

6. ベアリング

ベアリングとは、回転する軸の周りで摩擦を減らし、動きを円滑にするために使用される機械部品のことで、一般的に、内部に球やローラーなどの転がり要素を含んでおり、外部の輪と内部の輪の間に配置されます。

7. その他

その他としては排水管、電気通信部品、照明器具、外壁材料、屋根材料などにも使用されています。

SCS14の性質

1. 化学組成

SCS14の化学組成は下記のとおりです。

  • 炭素 (C) : 0.08%以下
  • シリコン (Si) : 2.00%以下
  • マンガン (Mn) : 2.00%以下
  • リン (P) : 0.040%以下
  • 硫黄 (S) :0.040%以下
  • ニッケル (Ni) : 10.00%~14.00%
  • クロム (Cr) : 17.00%~20.00%
  • モリブデン (Mo) : 2.00%~3.00%

2. 耐食性

SCS14は耐食性に優れています。主な理由は次の2つです。

1つはクロムの添加による効果です。クロムの添加によって、SCS14表面には非常に硬く薄い保護膜が形成され、内部が腐食しても表面が損傷されないため、耐食性を維持できます。保護膜は非常に硬く、薄いため、鋳鉄の内部が腐食しても表面が損傷されることがなく、耐食性を維持できます。

もう1つは均一な結晶構造による効果です。SCS14は高い溶融度を持っているため、鋳造工程において均一に充填されます。均一に充填された鋳造品は内部の結晶構造が整然としており、微細な粒子が形成されます。そのためSCS14の耐食性が高くなります。

3. 耐熱性

SCS14は耐熱性にも優れています。主な理由は次の2つです。

1つは合金化による効果です。SCS14に含まれるクロム、ニッケル、モリブデンなどの合金元素は高温下でも化学的に安定し、鋳鉄の内部が融解することを防ぐため、耐熱性を向上させます。また、合金元素同士の相互作用によって、より強い化学結合が形成され、鋳鉄の内部での微細な結晶構造が形成されます。これらの特性によって、SCS14は高温下でも強度を維持し、変形やクラックの発生を抑制できます。

もう1つニッケルの添加による効果です。ニッケルは高温下でも柔軟性を持ち、熱膨張率が低いため、高温での変形やクラックの発生を防げます。また、ニッケルは酸やアルカリ、海水などに対する耐性が高く、腐食に強いため高温下での耐久性を向上させます。

4. 強度と硬度

SCS14は強度に優れています。理由はクロムとニッケルの添加により、鋳鉄の耐食性や耐熱性が向上するためです。また、合金元素同士の相互作用により、鋳鉄の強度が向上します。さらに、高い溶融度により均一な結晶構造が形成され、鋳造品の品質が向上し、強度や硬度が向上します。

5. 耐疲労性

SCS14は疲労強度に優れていることも特徴の1つです。主な理由は次の2つです。

1つは均一な結晶構造による効果です。SCS14は高い溶融度を持ち均一に充填されるため、内部の結晶構造が整然としており微細な粒子が形成されます。微細な粒子は疲労の影響を受けにくく、鋳鉄の疲労強度を高めます。

もう1つは組織の均一化による効果です。SCS14は鋳造時に適切な熱処理を行うことで、組織を均一化できます。組織の均一化によって、不均一な部分による応力集中を軽減し、鋳鉄の疲労強度を向上させます。また、適切な熱処理によって組織の安定性を向上させて疲労寿命を延長します。

6. 非磁性

SCS14は非磁性材料です。SCS14はクロムとニッケルの合金であり、非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼に分類されます。クロムとニッケルは、鉄と結合して非磁性の化合物を形成するため、材料全体が非磁性になります。

フェライト相 (磁性) とオーステナイト相 (非磁性) からなる二相性材料ではなく、単一のオーステナイト相で構成されているのが特徴です。オーステナイト相は、外部磁場に対して磁化されることがなく、非磁性となります。

また、SCS14は熱処理によって組織を制御できます。加熱によってオーステナイト相が形成され、急冷することで組織が固化し、磁性を持つフェライト相を含まない組織が得られるため非磁性材料となります。

7. 腐食性

SCS14は耐食性に優れていますが、塩水中での腐食に弱いため特に海水中での腐食には注意が必要です。SCS14が耐食性に優れている理由は、主にクロムとニッケルの添加による効果です。クロムとニッケルは、空気中や非常に薄い酸性やアルカリ性の液体中など、多くの環境で腐食に対する耐性を持つ金属元素です。

しかし、塩水中に長期間曝露されるとクロムの添加による効果が弱まり、海水中の塩分や酸素によって腐食が進行することがあります。また、海水には海藻やプランクトンなどの微生物が含まれており、これらの微生物が表面に付着すると腐食が促進されることがあります。

8. 溶接性

SCS14は溶接性が良くありません。理由の1つは結晶粒の粗大化です。SCS14は高い溶融度を持っているため、溶接時に急激な冷却が起こることで結晶粒が粗大化する場合があります。結晶粒が粗大化すると、強度や耐食性が低下し、欠陥や亀裂が生じやすくなります。

もう1つは酸化皮膜による影響です。SCS14はクロムを含むため、表面に酸化皮膜が形成されます。溶接時には高温になることで酸化皮膜が膨張して破裂することがあります。また、酸化皮膜は溶接時に溶けにくくなり、不良や強度低下の原因となることがあります。

SCS14のその他情報

特殊な成形

SCS14は、鋳造材料であるため、複雑な形状の部品や大型の部品を製造できます。鋳造は、他の製造方法と比較して形状やサイズに柔軟性があるため、SCS14を使用することで特殊な形状の部品を効率的に製造できるのが利点です。また、鋳造によって材料の均質性が高く、内部欠陥や不均一な構造が発生することが少なく、強度や耐久性に優れています。

関連する金属材料

scs13a

scs13aとは

scs13aとはオーステナイト系ステンレス鋳鋼の一種であり、含有元素としてはクロム約18%、ニッケル約8%とscs13とほぼ同等の組成からなりますが、マンガンの含有量が異なるため若干強度が向上しています。名称のscsはSteel Casting Stainlessの略称であり、ステンレス鋳物であることを意味します。一般によく用いられるステンレスであるSUSはSteel Use Stainlessの略称であり、ステンレスの圧延鋼材であることを意味しており、scs13aはSUS304と同等の金属組成を有するステンレス合金です。

scs13aの使用用途

scs13aの使用用途としては、一般的なバルブや、船舶、産業機械に用いられるケーシング、ポンプ用の部材などが挙げられます。 scsは鋳鋼品であることから、圧延や鍛造といった手法では製造困難な複雑な形状の部材作成が可能です。またscs13aはSUS304と同様に優れた耐食性を有していることから、特に化学プラント用途など耐食性を必要とするバルブ材によく用いられています。しかしscs13aは硝酸やリン酸には耐食性を持つ一方で硫酸への抵抗性が低いことが知られており、使用箇所には注意が必要です。

SCS13

SCS13とは

SCS13とは、オーステナイト系ステンレス材であり、その中でも最も一般的な18-8ステンレスの一種です。

18-8ステンレスの数字は、それぞれクロムニッケルの含有率を表しています。クロムは金属表面に不動態被膜を形成することで錆びにくくし、ニッケルは耐食性をより高めています。

SCSは「Steel Casting Stainless」の略で、鋳造加工で成型したステンレスのことです。SCS13の番号部分はSCSの化学組成の違いを表しています。化学組成の違いで、ステンレスの機械的性質や耐食性が異なり、番号は1から36までです。

SUS304相当の機械的特性を有した鋳物であり、自動車部品、食品設備、産業機械など幅広い領域で使われています。耐食性は有機酸、硝酸リン酸に対しては高いのですが、硫酸に対しては低いです。そのため、硫酸を扱う場合は用途により注意が必要です。

SCS13の使用用途

SCS13は、SUS304相当のステンレス鋳鋼品で最も一般的な材質です。耐食性に優れ、低温から高温まで幅広く使用できるため、ステンレス鋼耐熱鋼として最も広く使用されています。

鋳物の特徴を活かして、圧延や鍛造では作製しにくい複雑な形状の部材に適しています。例えば、食品設備、化学製造設備、原子力用、機械各種およびそれらの部品、バルブ・ポンプ・インペラー等です。

耐酸性はあるものの、硫酸耐性はそれほどでもないため、硫酸を使用するような用途では、より耐性を強めたSCS14が選ばれることが多いです。

SCS13の特徴

SCS13はオーステナイト系ステンレスのため、磁性はありません。ただし、曲げや打撃を加えることで塑性変形させた場合は、加工硬化が生じて磁性を有します。比重は7.98前後です。

SCS13には熱処理の一種である固溶化処理が施されています。固溶化処理は加熱・保持することで合金成分を材料内に溶かし、析出物を出さないように急冷する熱処理です。SCS13は固溶化処理により、鋳造で生じた内部応力の除去と耐食性の向上が行われています。

また、SCS13はSUS304相当のステンレスでありながら、鋳物として以下のメリットを享受できます。

  1. 形状の自由度が高い
  2. 大きさの自由度が高い
  3. リサイクル効率が高い

一方で、以下のような鋳物のデメリットも有しています。

  1. 寸法精度を高く設定できない
  2. 鋳巣の発生

寸法精度はロストワックス鋳造法を用いることで解消することができます。また、鋳巣とは鋳造物に空洞が生じる現象のことです。鋳物の強度を下げてしまう働きがあります。

SCS13のその他情報

1. SUS304・SCS13a・SCS14との比較

SUS304
シリコン、硫黄、ニッケルなどの化学組成に多少の違いはあるものの、ほぼ同等の性質を持ちます。SCS13よりも一般的なステンレス鋼で、薄板での利用が多いです。

SCS13a
マンガン量が0.5%減少しているのみで、その他の化学組成は同じです。SCS13よりも機械的強度が高いです (耐力、引張強さ) 。硬さはブリネル硬さが183以下であり、同等です

SCS14
モリブデンを添加しており、SCS13よりも高価格、高耐食、高耐孔食です。腐食に強いため、海水や潮風などの腐食しやすい環境で使用されます。

2. ロストワックス鋳造法

ロストワックス鋳造法とは、鋳型がロウでできた鋳造法の一種です。ロウでできているため、高精度で表面がなめらかな鋳物を作製できます。ステンレスや炭素鋼など様々な材質で鋳造でき、小サイズの鋳物作製も可能です。

工程上の都合により、鋳型が一回きりの使い捨てではありますが、制作コストは低いです。そのため、小ロット生産にも対応できます。SCS13においても、複雑な形状のもの、小サイズのものを鋳造する際に使用されます。

3. SCS13と関連する金属材料一覧

参考文献
https://www.takesugi.co.jp/lost-wax
https://www.taiyoparts.co.jp/lostwax-navi/column/420.html
https://suspro.morichu.co.jp/strengths/
https://sanwamekki.com/

FC250

FC250とは

FC250とは、JIS (日本産業規格) で規定されている「ねずみ鋳鉄」の一種です。

ねずみ鋳鉄とは、鋳鉄の一種で黒鉛の影響で破面がねずみ色に見えることからこのような名前が付けられました。ねずみ鋳鉄は、6種類 (FC100、FC150、FC200、FC250、FC300、FC350) に分類されています。FCの右側の3桁の数字は、引張強さ (MPa: メガパスカル) を表しています。例えば、FC250の引張強さは250 (MPa) 以上です。FC250の化学成分は、JIS規格では定められていません。

FC250の使用用途

FC250の主な使用用途の例は下記の通りです。

1. 自動車部品

自動車部品では、シリンダーブロック、シリンダーヘッド、クランクシャフト、カムシャフト、ブレーキディスクなどに使用されています。シリンダーブロックとは、シリンダーを収めるためのケース状の部品です。ブレーキディスクとは、自動車やバイクなどの車両に装着されるブレーキシステムの一部で、車輪に取り付けられたディスク状の部品です。

2. 機械部品

機械部品では、ギヤ、ベアリング、ピストンなどに使用されています。特に、鉄道の部品では車輪、車両枠などに使用されています。

3. 金型

金型ではプラスチック成形用金型、圧延用金型、鋳造用金型に使用されています。圧延用金型とは、金属の板や棒状の原料を、所定の形状に加工するために使用される金型のことです。

FC250の性質

FC250の主な性質は下記の通りです。

1. 耐摩耗性

FC250は耐摩耗性が高く、機械部品などの寿命を延ばせます。
グラファイト (黒鉛) が摩擦や衝撃を吸収するので、FC250の耐久性は高くなります。またFC250は、炭素含有量が比較的高く硬いため、耐摩耗性が高いのが特徴です。

2. 切削加工性

FC250は黒鉛の潤滑効果により切削性が良好で、加工しやすい材料です。内部には片状の黒鉛組織が散在するため、切りくずが小さく分断されやすくなります。また黒鉛が固体潤滑剤として作用するので、鋼やステンレス鋼に比べると切削抵抗が低く、切削加工性が良好です。よって適切な工具を使って加工して、精度の高い形状に仕上げられます。

3. 振動吸収性

振動吸収性とは、物体が振動した際に振動を吸収して減衰させる性質です。FC250は振動吸収性が高いので、機械部品の振動や騒音を抑えられます。FC250にはグラファイト (黒鉛) が均等に分布しています。このグラファイトが振動を吸収するため、FC250の振動吸収性能は良好です。

4. 鋳造性

FC250は高い流動性を持っています。溶けた金属が金型内部に均一に流れるため、複雑な形状の部品や大型の鋳物部品を作れることが特徴です。また凝固収縮率が比較的低いため、鋳造品の形状や寸法を比較的正確に作れます。

5. 潤滑性

FC250には、潤滑性があります。理由はグラファイトと酸化膜を含んでいるためです。グラファイトは非常に滑りやすく、潤滑性に優れている点が特徴です。摩擦が発生する箇所にグラファイトが存在すると表面同士の接触面積が減り、摩擦が低減されるため、潤滑性が向上します。

また、FC250には鉄以外にもシリコンやマンガンなどの合金元素が含まれています。合金元素が鉄と反応して、表面に潤滑性が高い酸化膜を形成し、摩擦や磨耗を軽減できます。

6. 耐熱性

FC250は高温下でも安定した物性を維持できます。理由は、グラファイトの存在、金属組織の安定性、および熱膨張係数の低さによるものです。これらの要素が相互に作用し合って、鋳鉄の高温に対する耐性が向上しています。

7. 耐食性

FC250は、耐食性が比較的高い鋳鉄の一種です。鋳造時にシリコンやマンガンなどの添加物が加えられ、鉄の表面に酸化膜が形成されます。酸化膜は外部からの酸素や水分などの侵入を防ぎ、耐食性を高める効果があります。

FC250のその他情報

1. FC250の特徴

寸法安定性が高い
FC250は鋳造時の凝固収縮率が比較的小さいため、鋳造後に寸法が変化しにくく、寸法安定性が高い材料です。鋳造時に適切に冷却することで、さらに寸法安定性が高められます。凝固収縮率とは、金属が液体から固体に変化する際に体積が縮む割合です。

静的強度が高く耐久性に優れる
FC250に静的強度と高い耐久性がある主な理由は、下記の4つです。

  1. 高い密度
    FC250は鉄を主成分とする鋳鉄であり、その密度が高いために強度に優れます。
  2. グラファイトの配列
    FC250に含まれるグラファイトは、配列が均一であることが特徴です。グラファイトの均一な配列によって、材料内部の応力を分散でき、静的な強度が向上します。
  3. 高い鋳造性能
    FC250は高い鋳造性能を持っており、鋳造時に均一な構造を形成できます。よって材料の内部応力を低減し、耐久性が向上します。
  4. 熱処理による強化
    FC250は熱処理によって機械的性質を改善できます。熱処理によって、材料内部の組織が整えられ、均一な強度を持つ材料になります。

2. 不向きな加工

FC250は炭素鋼などと比べると粘り気がなく脆く、塑性加工には不向きです。非常に硬く脆い材料でグラファイトを含んでいるため、グラファイトが存在する箇所では塑性加工性が低下し、クラックが発生する可能性が高くなります。

関連する金属材料