硫化リン

硫化リンとは

硫化リンとは、PxSyで表されるリンと硫黄の化合物です。

リンと硫黄の化合物の総称を指す場合もあります。具体的には、三硫化四リン、五硫化リン、五硫化四リンなどです。中でも、三硫化四リンを指すのが一般的です。

硫化リンは、労働安全衛生法で「危険物・発火性の物」「名称等を通知すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」などに指定されています。そのほか、毒物および劇物取締法では「毒物」「劇物」です。また、消防法では、「第2類可燃性固体、硫化リン」に指定されています。

硫化リンの使用用途

硫化リンは、マッチの原料や有機合成に用いられています。19世紀初頭に黄リンマッチが発明されたものの、黄リンの健康被害が社会問題になり、現在のような赤リンマッチ (安全マッチ) が発明されました。

安全マッチは頭薬 (マッチ棒の先) と側薬 (摩擦面) がセットになっており、摩擦面を必要としないマッチの需要もあります。この需要に応えるために、安全マッチの頭薬に硫化リンを発火薬として塗った硫化燐マッチが発明されました。

硫化燐マッチは、硫化リンと塩素酸カリウムを重量比1:2で混合して作られています。

硫化リンの性質

硫化リンは、リン鉱石を電気炉で高温分解して得た黄リンを原料にして作られています。融点は173°C、沸点は407.5°Cで、常温では黄色〜緑色の固体です。水に不溶で、二硫化炭素やベンゼンに溶けます。

硫化リンは室温では水と反応しません。しかし、熱水中では徐々に分解して、リン酸と硫化水素になります。酸素の存在下で、高温または二硫化炭素中で容易に酸化します。

硫化リンの構造

硫化リンは三硫化四リンや三硫化リンとも呼ばれます。化学式はP4S3と表されます。分子量は220.09で、密度は2.03g/cm3です。安定な黄色の斜方晶系結晶を形成します。

硫化リンには三硫化四リン以外にも、五硫化四リン、七硫化四リン、十硫化四リンがあります。

硫化リンのその他情報

1. 五硫化四リンの特徴

五硫化四リンは五硫化リンとも呼ばれます。化学式はP4S5で、分子量は284.22です。硫黄と二硫化四リンの二酸化炭素溶液に、触媒としてヨウ素を少量加えて、光を当てると生成します。黄色の単斜晶系結晶で、密度は2.17g/cm3です。

二硫化炭素に溶解します。170~220°Cで分解し、P4S7とP4S3になります。

2. 七硫化四リンの特徴

七硫化四リンの化学式はP4O7と表されます。分子式は348.36で、七硫化リンとも呼ばれます。硫黄と赤リンの混合物を融解すると、七硫化四リンと五硫化四リンが得られ、二硫化炭素により抽出可能です。密度が2.19g/cm3の淡黄色の単斜晶系結晶であり、融点は308°C、沸点は523°Cです。

二硫化炭素にわずかに溶けます。硫化リン中で加水分解されやすく、熱水ですぐに分解してリン酸と硫化水素が生成します。酸素を含む有機化合物を硫黄に変換するための反応性は、硫化リンの中で最も高いです。

3. 十硫化四リンの特徴

十硫化四リンは五硫化リンとも呼ばれ、化学式はP4S10で、分子量は444.55です。赤リンと硫黄の反応によって生じます。黄色の三斜晶系結晶で、密度は2.09g/cm3です。工業的には原料に硫黄と白リンを用いて、不活性雰囲気下で300°C以上に加熱して、蒸留によって得られます。

二硫化炭素中では重合体のP4S10の形で存在し、気体ではP2S5の形で存在します。融点は288°C、沸点は514°Cです。二硫化炭素にわずかに溶解し、加水分解によってリン酸と硫化水素になります。

酸素を含む有機化合物を硫黄に変換でき、潤滑油添加剤、殺虫剤、農薬、医薬品などの原料に利用可能です。ただし環境問題を懸念されています。摩耗低減用に用いる自動車エンジンオイル添加剤は、排気ガス浄化触媒の触媒毒であり、農薬やオイル添加剤としての需要は減っています。

硝酸鉛

硝酸鉛とは

硝酸鉛とは、鉛の硝酸塩です。

鉛の酸化数は+2で、硝酸鉛(II)とも呼ばれています。化学式はPb(NO3)2で、分子量は331.2g/molです。硝酸鉛には熱分解性があり、加熱すると分解して有毒な窒素酸化物や鉛化合物が発生します。

PRTR法で「第1種指定化学物質」に指定されています。労働基準法では「疾病化学物質」です。労働安全衛生法で「名称等を表示すべき危険有害物」「名称等を通知すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」などに指定されているほか、毒物および劇物取締法で「劇物」に、消防法で「第1類酸化性固体、硝酸塩類」に指定されています。

硝酸鉛の使用用途

硝酸鉛は、マッチの原料、花火などの黒色火薬の酸化剤、アジ化鉛とともに爆薬に用いられています。

また、他の鉛化合物の合成原料を代表として、ポリエステルナイロンの熱安定化剤、防腐剤、感熱紙の被覆剤、殺鼠剤、更紗を染色する際の媒染剤、黄鉛やナポリイエローのような顔料の原料など、幅広く利用されています。

さらに、無電解めっき液の安定剤、光学ガラスの製造、フェリシアン化物を検出する純度試験の試薬として利用可能です。

硝酸鉛の性質

硝酸鉛は常温で白色または無色の固体です。水には比較的よく溶解し、水溶液は弱酸性を示します。20°Cで100gの水に56.5g、100°Cで135g溶けます。20°Cでの比重は4.53です。

硝酸鉛を熱すると分解して、酸化鉛(II)になります。硝酸鉛(II)は水に溶けやすく、不溶性の鉛塩を合成するための原料に使用可能です。具体的には、Pb(NO3)OHやPb3O(OH)2(NO3)2のような塩基性塩を形成します。低いpHではPb2(OH)2(NO3)2が形成され、より高いpHではPb6(OH)5(NO3)を形成可能です。pHが12以下の水溶液では、水酸化物であるPb(OH)2が形成されません。

易溶性の硝酸鉛は、鉛中毒を引き起こす可能性があります。中毒症状の具体例として、腸機能不全、食欲減退、腹腔部の強い痛み、嘔吐、悪心などが挙げられます。そのため硝酸鉛の使用前や使用中には、適切な注意が必要です。

硝酸鉛の構造

固体の硝酸鉛の結晶構造は、中性子回折により決定されています。面心立方系の鉛原子を含む立方系で、立方体の各辺の長さは784pmです。

中心の鉛原子は12個の酸素原子と結合しています。結合長は281pmです。すべてのN-O結合の長さは同じで、127pmです。

硝酸鉛のその他情報

1. 硝酸鉛の合成法

1597年にアンドレアス・リバビウス (英: Andreas Libavius) によって、初めて硝酸鉛が特定されました。

金属鉛または酸化鉛(II)を加熱し、硝酸に溶かすと硝酸鉛が得られます。金属鉛と希硝酸の反応で得られた溶液を蒸発させても生成可能です。硝酸鉛の溶液や結晶は、鉛精錬所の鉛やビスマスの廃棄物を処理しても得られます。

2. 硝酸鉛の反応

硝酸鉛(II)とヨウ化カリウムの溶液はいずれも無色透明です。これらを混ぜると明るい黄色の沈殿としてヨウ化鉛(II)が生じるため、沈殿現象の説明の際に演示実験で使用されます。

硝酸鉛の溶液は、配位錯体形成のために利用可能です。鉛は窒素や酸素の電子供与配位子と強力な錯体を形成します。例えば、アセトニトリルとメタノールの溶液中で硝酸鉛とペンタエチレングリコール (EO5) を混ぜて、ゆっくりと蒸発させると[Pb(NO3)2(EO5)]を合成可能です。クラウンエーテルと同様に、EO5鎖が鉛イオンの周りに巻き付いています。2つの二座硝酸配位子はトランス配置です。総配位数は10で、鉛イオンは反四角柱形分子構造を形成しています。

硝酸鉛とビチアゾール二座N供与配位子によって、二核の複合体を形成可能です。結晶は硝酸基が2つの鉛原子間に架橋を形成しています。

硝酸メチル

硝酸メチルとは

硝酸メチルは、「ニトロオキシメタン」とも呼ばれている、硝酸のメチルエステルです。融点-82.29℃で、常温において無色透明の芳香臭のする液体です。

硝酸メチルは、引火点15℃の引火性の液体であり、消防法において「第5類危険物(自己反応性物質)における硝酸エステル類」に指定されています。また、火薬類取締法の対象となる火薬類です。

硝酸メチルは、メタノールと硝酸の混合物の蒸留により得られます。また、メタノールを硫酸と硝酸の混酸を用いて硝酸エステル化する方法により得られます。 

硝酸メチルの使用用途

硝酸メチルは、爆速(VOD)8000m/sであり猛度が大きい火薬類のひとつとして知られています。このことから、過去にはロケットの推進剤として使用されていました。しかし、近年においては工業的に利用されておらず、研究レベルでの使用にとどまっています。

硝酸メチルをはじめ、硝酸エチル、ニトログリコール、ニトログリセリン、ニトロセルロース、ペンスリットは、アルコールと硝酸が水1分子を失って縮合した化合物の総称として、硝酸エステルと呼ばれています。これらのうち、ニトログリコール、ニトログリセリン、ニトロセルロース、ペンスリットが工業的に用いられています。

硝酸セリウム

硝酸セリウムとは

硝酸セリウム (英: Cerium nitrate) とは、セリウムの酸化状態が3価もしくは4価である硝酸塩の一種です。

通常、3価の硝酸セリウムを指し、六水和物として販売され、硝酸セリウム(III)六水和物と表記されます。3価の硝酸セリウムは、別名硝酸第一セリウムです。4価の硝酸セリウムは硝酸第二セリウムと呼ばれます。

硝酸セリウムの使用用途

1. 発光材料

ガス灯が使用されていた時代には、硝酸セリウムを発光材料として、ガスマントルが製造されていました。現在ではわずかですが、アウトドアなどに使用するランタンの発光部分に使用されています。

2. 有機合成反応試薬

硝酸セリウム(IV)のアンモニウム塩であるヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウム(NH4)2 [Ce (NO3)6]は、強力な酸化剤として広く使われています。

略称としてCANと呼ばれ、アルコールをアルデヒド、またはケトンへ変換させる酸化剤です。CANを化学量論量用いる例が数多く報告されていますが、臭素酸ナトリウムと併用することで、触媒量で酸化反応が進行します。

3. その他

硝酸セリウム(III)六水和物は、顔料の変色防止剤として使用されます。また、ヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウムは、セリウムの滴定試薬や液晶ディスプレイの製造に使用されるエッチング液として用いられます。

硝酸セリウムの性質

1. 硝酸セリウム(III)無水物

硝酸セリウム(III)無水物の化学式はCeN3O9で表され、分子量は326.13です。CAS番号は10108-73-3で登録されています。

2. 硝酸セリウム(III)六水和物

硝酸セリウム(III)六水和物の化学式はCeH12N3O15で表され、分子量は434.22です。CAS番号は10294-41-4で登録されています。

融点は96℃で、常温で密度4.37g/cm3、無色〜白色の吸湿性を持つ結晶性粉末または凝集結晶です。150°Cで六水和物は三水和物となり、200°C以上で分解します。結晶はピナコイド型の三斜晶を示します。

硝酸セリウム(III)六水和物は、アルコールやアセトン、酸に可溶です。水への溶解度は、1,754g/Lと容易に溶けます。酸性・アルカリ性の程度を表すpHは、25℃の100g/L水溶液において3.7です。

硝酸セリウムの種類

硝酸セリウム(III)の他に、硝酸セリウム(IV)が水溶液中あるいは錯塩としてのみ存在します。化学式はCeN4O12で表され、分子量は388.14です。硝酸セリウムの濃硝酸溶液を蒸発させることで、硝酸セリウム(IV)五水和物が得られます。

硝酸セリウムのその他情報

1. 法規情報

硝酸セリウム(III)六水和物は、以下の国内法令に指定されています。

  • 消防法
    危険物第一類 硝酸塩類 危険等級Ⅲ
  • 労働安全衛生法
    危険物・酸化性の物 (施行令別表第1第3号)
  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則
    酸化性物質類・酸化性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    酸化性物質類・酸化性物質 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
  • 港則法
    酸化性物質類・酸化性物質
  • 改正化学物質排出管理促進法
    第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1) 、第1種管理-No. 665
  • 水質汚濁防止法
    有害物質 (法第2条、施行令第2条、排水基準を定める省令第1条)

2. 取り扱い及び保管上の注意

ここでは、硝酸セリウム(III)六水和物について紹介します。

取り扱い時の対策
硝酸セリウム(III)六水和物は、酸化性物質であり、加熱分解で酸素を発生させるため火災を助長する恐れがあります。摩擦や熱、不純物の混入により、爆発するおそれがあります。火気や衝撃に注意し、局所排気装置内で使用してください。

有機物や可燃物、還元剤は混触危険物質です。取り扱い時や保管時に、近づけないよう注意します。取り扱う際は、保護手袋と長袖作業衣、側板付き保護眼鏡 (必要によりゴーグル型または全面保護眼鏡) を着用し、皮膚や眼、衣服との接触を避けてください。

火災の場合
熱分解で、窒素酸化物 (NOx) や酸化セリウムを放出するおそれがあります。消火の際は、水噴霧や二酸化炭素、泡、粉末消火剤、消火砂を使用してください。使用してはならない消火剤は、特にありません。

保管する場合
ガラス製の容器に密閉し、直射日光や湿気を避け、換気の良いなるべく涼しい場所に保管してください。保管場所は必ず施錠します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0973JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Cerium_III_-nitrate-hexahydrate
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/40/12/40_12_1171/_pdf

硝酸コバルト

硝酸コバルトとは

硝酸コバルトとは、「二硝酸コバルト (Ⅱ) 」および「硝酸コバルト (Ⅱ) 」とも呼ばれている無機化合物です。

無水物、三水和物、六水和物があり、六水和物が市販品として入手可能です。硝酸コバルト六水和物は、PRTR法において「第1種指定化学物質」に指定されています。

また、労働基準法における「疾病化学物質」です。労働安全衛生法において「特定化学物質」「名称等を表示し、又は名称等を通知すべき危険物及び有害物」「危険物・酸化性の物」などに指定されています。このほか、消防法において、「第1類酸化性固体、硝酸塩類」に指定されている物質です。

硝酸コバルトの使用用途

硝酸コバルト六水和物は、石油化学触媒やコバルト触媒の原料をはじめ、コバルト顔料、陶磁器の顔料、熱を加えると色が浮き出るあぶり出しインキの原料、試験試薬として利用されています。

1. 二次電池

硝酸コバルトはニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、燃料電池など、充電式電池の材料として使用されています。ニッケルカドミウム電池では正電極の腐食を防ぐために、原料の硝酸ニッケルに数パーセントの硝酸コバルトを加え1~5重量%のコバルトを含んでいます。

ニッケル水素電池は、5~10重量%のコバルトを含み、近年需要が増大しています。ニッケル水素電池は、環境問題からニッケルカドミウム電池に代わる電池として開発されてきました。

ニッケル水素電池は、ニッケル電極 (正極) と水素吸蔵合金電極 (負極) 、セパレータ、アルカリ性電解液で構成されています。このうちニッケル電極 (正極) の導電剤としてコバルト化合物が利用されています。 

2. 表面処理

硝酸コバルトは、メッキ薬品や表面処理薬品の原料として使用されています。自動車や建材に用いられる合金化溶融亜鉛めっき鋼板やアルミ基板・プリント基板用銅箔のメッキ・表面処理剤として有用です。

硝酸コバルトの性質

硝酸コバルトは、無水物、三水和物、六水和物があり、それぞれ性質が異なります。

1. 無水物

硝酸コバルトの無水物 Co(NH3)2 は、融点100〜105℃で、常温において赤色の固体です。六水和物に五酸化二窒素 (N2O5 )を反応させる、あるいは液体アンモニア中で硝酸銀と微粉末状のコバルトを反応させる方法で得られます。

2. 六水和物

硝酸コバルトの六水和物 Co(NH3)2・6H2O は、融点55℃で、常温において赤色の固体です。55℃以上で水3分子を失うことから、水溶液を加熱すると、55℃以下において六水和物、55℃以上において三水和物が析出します。

硝酸コバルトの六水和物は常温では赤い結晶で、水に溶けやすく、水溶液は赤褐色の酸性の液体です。湿った空気中では潮解性を示します。潮解とは、固体が空気中の水分を吸収して次第に溶解していく現象です。

 

硝酸コバルトは、アルコールやアセトンなどの有機溶媒にも溶けます。可燃性ではありませんが、触媒の性質を持ち、他の物質の燃焼を加速する働きがあります。

硝酸コバルトのその他情報

1. 硝酸コバルトの製造方法

硝酸コバルトは金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、炭酸コバルトに希硝酸を加えることで生成されます。

  • Co + 2HNO3 → Co(NO3)2 + H2
  • Co(OH)2 + 2HNO3 → Co(NO3)2 + 2H2O
  • CoCO3+ 2HNO3→ Co(NO3)2 + CO2 + H2O

2. 硝酸コバルトの安全性情報

硝酸コバルトを扱う場合は、マスクとコーグル、手袋を必ず着用してください。素手では触らないでください。潮解性があるので、密閉容器に入れて保存します。また、化剤、有機物質と接触すると火災の危険性が高いため、可燃物との接触は避けてください。

皮膚についてしまった場合は、流水と石鹸で洗い流してください。目に入ってしまった場合は、数分間流水で洗い流します。吸引してしまった場合や飲み込んでしまった場合は、直ちに医師に連絡してください。

炭酸ジエチル

炭酸ジエチルとは

炭酸ジエチルの基本情報

図1. 炭酸ジエチルの基本情報

炭酸ジエチルとは、炭酸の中性エステルの一種で、エーテル臭をもった化合物です。

常温で無色の液体であり、低引火点の物質です。別名、ジエチルカーボネート (英: diethyl carbonate) とも呼ばれます。労働安全衛生法にて「危険物・引火性の物」に、消防法にて「第4類引火性液体」に、それぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

炭酸ジエチルの使用用途

炭酸ジエチルは、「ニトロセルロースや合成樹脂用の溶剤」「反応溶媒」「洗浄剤」「剥離剤」「燃料添加剤」などとして用いられています。また、「リチウムイオン電池の電解質溶媒」としても利用可能です。

他にも、エトキシカルボニル化などの「有機合成原料」に加えて、ポリカーボネートポリウレタンなどの「樹脂原料」としても使用されています。エノラートアニオン・アリール・シアン化アルキルの、C-アルコキシカルボニル化に用いることが可能です。

炭酸ジエチルは、1,2-アミノアルコールと反応させることによって、2-オキサゾリジノン (英: 2-oxazolidinone) の生成に利用されることもあります。

炭酸ジエチルの性質

炭酸ジエチルの融点は-43℃、沸点は126-128℃です。水には溶けず、エタノールクロロホルム、エーテルなどの有機溶媒には溶けやすいです。引火点は25℃、発火点は445℃です。化学式はC5H10O3、モル質量は118.13g/molです。密度は0.975g/cm3で、示性式は(C2H5O)2COと表せます。

また、炭酸ジエチルは炭酸とエタノールから構成される炭酸エステルです。炭酸エステルは、炭酸の水素原子2個をアルキル基に置き換えた構造を有しています。

炭酸ジエチルのその他情報

1. 炭酸ジエチルのホスゲンや尿素を用いた合成法

炭酸ジエチルの合成

図2. 炭酸ジエチルの合成

炭酸ジエチルは、ホスゲン (英: phosgene) とエタノールの反応によって生成します。副生成物として、塩化水素が生じます。ホスゲンはクロロホルムと酸素の反応で得られるため、エタノールに対して100等量のクロロホルムを加えることで、クロロホルムを保存用として用いることが可能です。

それ以外にも、尿素 (英: urea) をエタノールで分解し、炭酸ジエチルを合成できます。カルバミン酸エチル (英: ethyl carbamate) が中間体として形成されて、反応が進行します。尿素とエタノールの反応には、ルイス酸と塩基として機能する不均一系触媒に、金属酸化物などが必要です。

2. 炭酸ジエチルのその他合成法

炭酸ジエチルは、ヨウ化エチルに炭酸銀を作用させることで生成できます。また、一酸化炭素による酸化的カルボニル化反応によって、二酸化炭素とエタノールから直接合成可能です。さらに、炭酸ジメチル (英: dimethyl carbonate) のエステル交換 (英: transesterification) でも、炭酸ジエチルを得られます。

そのほか、パラジウムなどの触媒を使用して、亜硝酸エチル (英: ethyl nitrite) と一酸化炭素の反応でも生成します。この反応に用いる亜硝酸エチルは、一酸化窒素とエタノールから合成可能です。

3. 炭酸ジエチルの関連化合物

炭酸ジエチルの関連化合物

図3. 炭酸ジエチルの関連化合物

炭酸ジエチルは、炭酸エステルの一種です。炭酸エステルの具体例として、炭酸ジメチルや炭酸ジフェニル (英: diphenyl carbonate) などが挙げられます。それに加えて、炭酸エステルには、炭酸エチレン (英: ethylene carbonate) や炭酸プロピレン (英: propylene carbonate) のような環状エステルも存在します。

炭化タンタル

炭化タンタルとは

炭化タンタルとは金属タンタルと炭素の化合物を指します。組成式はTaCとなります。
また、融点は、3740℃~3880℃と非常に高く、非常に硬度が高いことが特徴です。

引っかいたときの硬さを表すモース硬度は、9-10の硬度になるため、モース硬度的にはダイヤモンドに次ぐ硬度があります。

特性としては、水、希酸、希アルカリには溶けることはありませんが、硫酸やフッ化水素には若干反応します。また、炭化タンタルは、化合物ですが、金属と同程度の電気伝導性を示します。

このように、炭化タンタルは、高耐熱性や電気的導電性があるため、応用できることが多く非常に期待されています。しかし、通常の炭化タンタルは、粉末状で存在しています。

このため、工業的に利用する場合には焼結する必要があるのですが、炭化タンタルは、高融点であるため、従来のホットプレス法では十分な焼結体を作ることが困難でした。しかし、放電プラズマ焼結法などの新しい加工方法により高品質の焼結体を作る方法が期待されています。

炭化タンタルの使用用途

炭化タンタルは、高耐熱、高硬度の特徴があるため、多様な応用があります。
まず、炭化タンタルは、焼結によりサーメット(超高合金)の材料になります。

また、高耐火性、高硬度の特性から耐火性セラミックや切削工具の部品、超硬工具、切削工具、耐摩耗工具など、工業製品として使用されることが多くなります。

特に近年では自動車用部品加工用の装置部品に使用されることが多くなっています。その他には、炭化タングステン合金の添加して超硬合金の製造などに使用されています。

また、その融点の高さを利用して高温炉の製造メーカーに向けて高温発熱体のコーティングなどに使用しています。

水素化リチウムアルミニウム

水素化リチウムアルミニウムとは

水素化リチウムアルミニウムの基本情報

図1. 水素化リチウムアルミニウムの基本情報

水素化リチウムアルミニウムとは、組成式がLiAlH4で示される無機化合物です。

別称、水素化アルミニウムリチウムで、一般的にLAH (英: lithium aluminium hydride) の略称が用いられます。

水素化リチウムアルミニウムは、強力な還元剤です。GHS分類で水反応可燃性化学品、皮膚腐食性/刺激性、急性毒性(経口)、生殖毒性、眼刺激性に分類されています。水素化リチウムアルミニウムは、労働安全衛生法で名称等を表示・通知すべき危険物および有毒物、消防法で第三類に指定されています。

水素化リチウムアルミニウムの使用用途

水素化リチウムアルミニウムは、化学合成で還元剤として使用されています。反応性の高さから実験室で頻繁に用いられます。ただし工業スケールでは、より穏やかな反応性を有する還元剤が使用され、安全面の点から避けられることが多いです。

主に脱水エーテルを反応溶媒として使用し、エステルやカルボン酸などを、1級アルコールへ還元するために用いられています。

水素化リチウムアルミニウムの性質

水素化リチウムアルミニウムのモル質量は37.954g/molであり、密度は0.917g/cm3です。150°Cで分解します。

水素化ホウ素ナトリウム (NaBH4) より強い還元剤です。B-H結合がAl-H結合と比較して強いためです。水素化リチウムアルミニウムと水は激しく反応し、水素が生じます。使用する際には脱水溶媒が必要です。

水素化リチウムアルミニウムの構造

水素化リチウムアルミニウムはアルミニウムのヒドリド錯体です。水素化アルミニウムイオン (AlH) とリチウムイオン (Li+) により構成されるイオン結晶で、結晶構造は単斜晶系に属します。AlH4は四面体型構造を取り、結晶中のAl−Hの結合距離はおよそ1.55Åです。

水素化リチウムアルミニウムのその他情報

1. 水素化リチウムアルミニウムの合成

塩化アルミニウム (AlCl3) と水素化リチウム (LiH) が反応すると、水素化リチウムアルミニウムが得られます。重量収率は97%です。反応混合物をエーテルに溶かして、残った固体の塩化リチウム (LiCl) をろ過で除去できます。

2. 水素化リチウムアルミニウムの分解反応

水素化リチウムアルミニウムの分解反応

図2. 水素化リチウムアルミニウムの分解反応

水素化リチウムアルミニウムは塩基性が強いです。そのためアルコールのようなプロトン性溶媒と激しく反応して分解します。

室温で水素化リチウムアルミニウムは準安定です。長期間保存すると少しずつLi3AlH6とLiHに分解していきます。チタン、鉄、バナジウムなどの存在下では、分解が加速します。

3. 水素化リチウムアルミニウムの無機反応

水素化リチウムアルミニウムはテトラヒドロフラン (THF) 中で水素化ナトリウムと複分解して、水素化ナトリウムアルミニウム (NaAlH4) が得られます。同様に水素化カリウムアルミニウム (KAlH4) も、90%の収率で生成可能です。

溶媒としてジエチルエーテルやテトラヒドロフランを用いて、塩化リチウムによりNaAlH4やKAlH4から水素化リチウムアルミニウムへの逆反応も進行します。

ほかにも、水素化リチウムアルミニウムは臭化マグネシウム (MgBr2) と反応し、Mg(AlH4)2である水素化マグネシウムアルミニウムになります。

4. 水素化リチウムアルミニウムの有機反応

水素化リチウムアルミニウムの反応メカニズム

図3. 水素化リチウムアルミニウムの反応メカニズム

有機化学で、水素化リチウムアルミニウムはとても反応性が高く、強力な還元剤として使用可能です。とくにエステルやカルボン酸を1級アルコールに還元する反応は広く用いられます。

この還元反応では、AlH4の分解とともに誘起効果やメソメリー効果により、電子密度が低い有機化合物の活性中心に、ヒドリドイオンであるHが攻撃しています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0112-0109.html

水素化リチウム

水素化リチウムとは

水素化リチウムとは、リチウムと水素の化合物です。

リチウムヒドリド (英: lithium hydride) とも呼ばれます。純粋な水素化リチウムは白色です。光に当たると黒色化するため、市販品は灰色の固体です。

水と激しく反応して水素を発生するため、水素の輸送や貯蔵に利用されます。水素化リチウムの粉塵は湿気のある空気中や静電気により爆発する可能性があり、取り扱いには非常に注意が必要です。腐食性もあり、皮膚に付着した際には流水により洗い流す必要があります。

水素化リチウムの使用用途

水素化物の中でも水素含有量が非常に高く、水素化リチウムは注目されています。水素化リチウムを使用すると、効率的に水素の貯蔵や輸送が容易になると期待されています。現在、水素の需要が高まっていますが、水素は低密度かつ極低温沸点であり、輸送に課題があるためです。

また水素化リチウムは、放射線の放射線遮蔽材として使用可能です。一般的な放射線遮蔽材には、コンクリート、水、ホウ素、鉛、鉄、グラファイト (黒鉛) 、ポリエチレン、水素化チタンなどがあります。その中でも水素化リチウムはメリットのある素材です。小型原子炉などの開発では、危険な放射線を遮蔽する素材の一つとして検討されています。

水素化リチウムの性質

水素化リチウムの融点は680°Cとなり、720°Cで分解します。水素化リチウムの特性としてジエチルエーテルにはわずかに溶けます。

アルカリ金属の水素化物中で、最も安定です。常温の乾燥空気中では分解しませんが、光に当たると分解して黒くなります。水素化リチウムはアルコール類とも反応します。

水素化リチウムの構造

水素化リチウムの化学式はLiHで表記されます。式量は7.95であり、密度は0.82g/cm3です。

水素雰囲気下で金属リチウムを赤熱すると、無色の立方晶系のイオン結晶が得られます。HとLi+から構成される塩化ナトリウム型構造を取っており、Li−H間の距離は2.04Åです。

水素化リチウムのその他情報

1. 水素化リチウムの合成法

水素化リチウムは溶融状態のリチウムに水素ガスを反応させて製造されます。600°C以上で急速に反応が進みます。0.001~0.003%の炭素の添加や圧力の上昇によって、2時間で収率を最大98%まで増加可能です。ただし収率は水素化リチウムの表面状態に大きく依存します。

水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素リチウム、n-ブチルリチウム、エチルリチウムなどの熱分解によっても、水素化リチウムは生じます。

2. 水素化リチウムの反応

水素化リチウムは水分と激しく反応し、水素と水酸化リチウムが生成します。水やプロトン性試薬に対して、非常に反応性が高いです。水素化リチウムの粉末は低湿度の空気と急速に反応すると、LiOH、Li2O、Li2CO3を形成します。湿った空気中で粉末は自然発火して、窒素化合物を含む生成物の混合物を生じます。

水素化リチウムと二酸化硫黄が反応すると、亜ジチオン酸リチウムを生成可能です。アセチレンとの反応では、炭化リチウムと水素になります。無水有機酸、フェノール、酸無水物ともゆっくり反応し、水素ガスと酸のリチウム塩を生成します。塩化アルミニウムとの反応によって、水素化アルミニウムリチウム (LiAlH4) を合成可能です。

3. 水素化リチウムの危険性

水素化リチウムは湿気の多い空気中で爆発しやすいです。乾燥した空気中でも、静電気によって爆発する可能性があります。空気中の濃度が5~55mg/m3の水素化リチウムの粉塵は、粘膜や皮膚を刺激し、アレルギー反応を引き起こす場合があります。

水素化リチウムが反応して生じる一部のリチウム塩は有毒です。通常、特定のプラスチック、セラミック、鋼で作られた容器を使用して油中で輸送され、乾燥したアルゴンやヘリウムの雰囲気で処理されます。

参考文献
http://www.ekouhou.net/
https://ja.warbletoncouncil.org/hidruro-de-litio-11766#menu-6
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21246113/

次没食子酸ビスマス

次没食子酸ビスマスとは

次没食子酸 (じもっしょくしさん) ビスマスとは、「デルマトール」とも呼ばれている次没食子酸のビスマス塩です。

分子式はC7H5BiO6、融点は223℃、常温において黄色の無味無臭の固体です。水、アルコール、クロロホルム、エーテルにほとんど不溶であり、うすい水酸化アルカリ溶液および水酸化ナトリウム水溶液に溶ける性質があります。

次没食子酸ビスマスは収れん作用により、皮膚や粘膜のタンパク質と結合して保護膜を作ります。これにより、皮膚の傷口や痔の治療における外用薬として用いられています。

また、腸の炎症をしずめる、あるいは粘膜への刺激をやわらげる作用により、腸のぜん動を抑制するため、痢止めの内服薬としても使用されている物質です。

次没食子酸ビスマスの使用用途

次没食子酸ビスマスは、経口薬および外用薬として処方されます。

1. 経口薬

経口薬としては、下痢症の治療に使用します。成人の場合、1.5〜4gを3〜4回に分割経口投与します。症状や年齢により、服用量を調節することが重要です。

また、不安感や無力感、頭痛、ふるえなど、精神神経系に影響がでる可能性があることから、長期間にわたる服用は避けなければなりません。

2. 外用薬

外用薬としては、極めて小範囲の皮膚のびらんおよび潰瘍、痔疾の治療に用います。そのまま散布剤として使用したり、軟膏またはパスタ剤として使用したりします。外用の場合は、副作用はありません。

3. 消化性潰瘍の治療

次没食子酸ビスマスは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍の治療に利用されます。この化合物は胃粘膜を保護し、潰瘍の治癒を促進する効果があるとされています。

4. 抗菌療法

次没食子酸ビスマスは、抗菌作用を持つため、細菌による感染症の治療に応用される可能性があります。特に、胃腸感染症や胃潰瘍に関連するHelicobacter pyloriなどの菌に対する効果が研究されています。

5. 抗ウィルス療法

一部の研究では、次没食子酸ビスマスが抗ウイルス作用を持つ可能性が示唆されています。特定のウイルスに対する影響を研究し、ウイルス感染症の治療への応用が検討されています。

6. 胃粘膜保護

次没食子酸ビスマスは、胃の酸によるダメージから胃粘膜を保護する効果を持つとされています。これにより、胃酸関連の問題や不快感の軽減に寄与する可能性があります。

7. 炎症性疾患の治療

抗炎症作用を持つ次没食子酸ビスマスは、炎症性疾患の治療に役立つ可能性があります。関節炎や炎症性腸疾患など、症状の軽減に対する効果が研究されています。

次没食子酸ビスマスの性質

次没食子酸 (英: ellagic acid) とビスマス (英: bismuth) の化合物です。次没食子酸ビスマスの性質は、以下に示すようなものがあります。

1. 抗酸化作用

次没食子酸自体が強力な抗酸化作用を持ち、自由ラジカルや活性酸素種から細胞を保護する能力があります。次没食子酸ビスマスも、同様の抗酸化作用を示すと考えられています。

2. 抗菌作用

次没食子酸ビスマスは抗菌作用を持ち、特定の微生物の成長を抑制する能力があります。これにより、感染症の治療や予防に応用される可能性があります。

次没食子酸ビスマスのその他情報

次没食子酸とビスマス

次没食子酸は天然に存在する有機化合物の一種であり、ポリフェノールの一員です。植物に広く分布しており、特にベリーやナッツ、柑橘類、赤ワイン、そして一部の薬草に含まれています。

次没食子酸は抗酸化作用を持ち、自由ラジカルの活性酸素種に対抗することができるため、健康に対する潜在的な利点があるとされています。また、次没食子酸に結合しているビスマスは重金属元素です。

単体では特定の条件下で毒性を持つことが知られています。次没食子酸との結合によって、ビスマスの特性が変化する可能性がありますが、その詳細な影響は研究が進行中です。