硝酸鉛

硝酸鉛とは

硝酸鉛とは、鉛の硝酸塩です。

鉛の酸化数は+2で、硝酸鉛(II)とも呼ばれています。化学式はPb(NO3)2で、分子量は331.2g/molです。硝酸鉛には熱分解性があり、加熱すると分解して有毒な窒素酸化物や鉛化合物が発生します。

PRTR法で「第1種指定化学物質」に指定されています。労働基準法では「疾病化学物質」です。労働安全衛生法で「名称等を表示すべき危険有害物」「名称等を通知すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」などに指定されているほか、毒物および劇物取締法で「劇物」に、消防法で「第1類酸化性固体、硝酸塩類」に指定されています。

硝酸鉛の使用用途

硝酸鉛は、マッチの原料、花火などの黒色火薬の酸化剤、アジ化鉛とともに爆薬に用いられています。

また、他の鉛化合物の合成原料を代表として、ポリエステルナイロンの熱安定化剤、防腐剤、感熱紙の被覆剤、殺鼠剤、更紗を染色する際の媒染剤、黄鉛やナポリイエローのような顔料の原料など、幅広く利用されています。

さらに、無電解めっき液の安定剤、光学ガラスの製造、フェリシアン化物を検出する純度試験の試薬として利用可能です。

硝酸鉛の性質

硝酸鉛は常温で白色または無色の固体です。水には比較的よく溶解し、水溶液は弱酸性を示します。20°Cで100gの水に56.5g、100°Cで135g溶けます。20°Cでの比重は4.53です。

硝酸鉛を熱すると分解して、酸化鉛(II)になります。硝酸鉛(II)は水に溶けやすく、不溶性の鉛塩を合成するための原料に使用可能です。具体的には、Pb(NO3)OHやPb3O(OH)2(NO3)2のような塩基性塩を形成します。低いpHではPb2(OH)2(NO3)2が形成され、より高いpHではPb6(OH)5(NO3)を形成可能です。pHが12以下の水溶液では、水酸化物であるPb(OH)2が形成されません。

易溶性の硝酸鉛は、鉛中毒を引き起こす可能性があります。中毒症状の具体例として、腸機能不全、食欲減退、腹腔部の強い痛み、嘔吐、悪心などが挙げられます。そのため硝酸鉛の使用前や使用中には、適切な注意が必要です。

硝酸鉛の構造

固体の硝酸鉛の結晶構造は、中性子回折により決定されています。面心立方系の鉛原子を含む立方系で、立方体の各辺の長さは784pmです。

中心の鉛原子は12個の酸素原子と結合しています。結合長は281pmです。すべてのN-O結合の長さは同じで、127pmです。

硝酸鉛のその他情報

1. 硝酸鉛の合成法

1597年にアンドレアス・リバビウス (英: Andreas Libavius) によって、初めて硝酸鉛が特定されました。

金属鉛または酸化鉛(II)を加熱し、硝酸に溶かすと硝酸鉛が得られます。金属鉛と希硝酸の反応で得られた溶液を蒸発させても生成可能です。硝酸鉛の溶液や結晶は、鉛精錬所の鉛やビスマスの廃棄物を処理しても得られます。

2. 硝酸鉛の反応

硝酸鉛(II)とヨウ化カリウムの溶液はいずれも無色透明です。これらを混ぜると明るい黄色の沈殿としてヨウ化鉛(II)が生じるため、沈殿現象の説明の際に演示実験で使用されます。

硝酸鉛の溶液は、配位錯体形成のために利用可能です。鉛は窒素や酸素の電子供与配位子と強力な錯体を形成します。例えば、アセトニトリルとメタノールの溶液中で硝酸鉛とペンタエチレングリコール (EO5) を混ぜて、ゆっくりと蒸発させると[Pb(NO3)2(EO5)]を合成可能です。クラウンエーテルと同様に、EO5鎖が鉛イオンの周りに巻き付いています。2つの二座硝酸配位子はトランス配置です。総配位数は10で、鉛イオンは反四角柱形分子構造を形成しています。

硝酸鉛とビチアゾール二座N供与配位子によって、二核の複合体を形成可能です。結晶は硝酸基が2つの鉛原子間に架橋を形成しています。

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