硝酸セリウム

硝酸セリウムとは

硝酸セリウム (英: Cerium nitrate) とは、セリウムの酸化状態が3価もしくは4価である硝酸塩の一種です。

通常、3価の硝酸セリウムを指し、六水和物として販売され、硝酸セリウム(III)六水和物と表記されます。3価の硝酸セリウムは、別名硝酸第一セリウムです。4価の硝酸セリウムは硝酸第二セリウムと呼ばれます。

硝酸セリウムの使用用途

1. 発光材料

ガス灯が使用されていた時代には、硝酸セリウムを発光材料として、ガスマントルが製造されていました。現在ではわずかですが、アウトドアなどに使用するランタンの発光部分に使用されています。

2. 有機合成反応試薬

硝酸セリウム(IV)のアンモニウム塩であるヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウム(NH4)2 [Ce (NO3)6]は、強力な酸化剤として広く使われています。

略称としてCANと呼ばれ、アルコールをアルデヒド、またはケトンへ変換させる酸化剤です。CANを化学量論量用いる例が数多く報告されていますが、臭素酸ナトリウムと併用することで、触媒量で酸化反応が進行します。

3. その他

硝酸セリウム(III)六水和物は、顔料の変色防止剤として使用されます。また、ヘキサニトラトセリウム(IV)酸アンモニウムは、セリウムの滴定試薬や液晶ディスプレイの製造に使用されるエッチング液として用いられます。

硝酸セリウムの性質

1. 硝酸セリウム(III)無水物

硝酸セリウム(III)無水物の化学式はCeN3O9で表され、分子量は326.13です。CAS番号は10108-73-3で登録されています。

2. 硝酸セリウム(III)六水和物

硝酸セリウム(III)六水和物の化学式はCeH12N3O15で表され、分子量は434.22です。CAS番号は10294-41-4で登録されています。

融点は96℃で、常温で密度4.37g/cm3、無色〜白色の吸湿性を持つ結晶性粉末または凝集結晶です。150°Cで六水和物は三水和物となり、200°C以上で分解します。結晶はピナコイド型の三斜晶を示します。

硝酸セリウム(III)六水和物は、アルコールやアセトン、酸に可溶です。水への溶解度は、1,754g/Lと容易に溶けます。酸性・アルカリ性の程度を表すpHは、25℃の100g/L水溶液において3.7です。

硝酸セリウムの種類

硝酸セリウム(III)の他に、硝酸セリウム(IV)が水溶液中あるいは錯塩としてのみ存在します。化学式はCeN4O12で表され、分子量は388.14です。硝酸セリウムの濃硝酸溶液を蒸発させることで、硝酸セリウム(IV)五水和物が得られます。

硝酸セリウムのその他情報

1. 法規情報

硝酸セリウム(III)六水和物は、以下の国内法令に指定されています。

  • 消防法
    危険物第一類 硝酸塩類 危険等級Ⅲ
  • 労働安全衛生法
    危険物・酸化性の物 (施行令別表第1第3号)
  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則
    酸化性物質類・酸化性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    酸化性物質類・酸化性物質 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
  • 港則法
    酸化性物質類・酸化性物質
  • 改正化学物質排出管理促進法
    第1種指定化学物質 (法第2条第2項、施行令第1条別表第1) 、第1種管理-No. 665
  • 水質汚濁防止法
    有害物質 (法第2条、施行令第2条、排水基準を定める省令第1条)

2. 取り扱い及び保管上の注意

ここでは、硝酸セリウム(III)六水和物について紹介します。

取り扱い時の対策
硝酸セリウム(III)六水和物は、酸化性物質であり、加熱分解で酸素を発生させるため火災を助長する恐れがあります。摩擦や熱、不純物の混入により、爆発するおそれがあります。火気や衝撃に注意し、局所排気装置内で使用してください。

有機物や可燃物、還元剤は混触危険物質です。取り扱い時や保管時に、近づけないよう注意します。取り扱う際は、保護手袋と長袖作業衣、側板付き保護眼鏡 (必要によりゴーグル型または全面保護眼鏡) を着用し、皮膚や眼、衣服との接触を避けてください。

火災の場合
熱分解で、窒素酸化物 (NOx) や酸化セリウムを放出するおそれがあります。消火の際は、水噴霧や二酸化炭素、泡、粉末消火剤、消火砂を使用してください。使用してはならない消火剤は、特にありません。

保管する場合
ガラス製の容器に密閉し、直射日光や湿気を避け、換気の良いなるべく涼しい場所に保管してください。保管場所は必ず施錠します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0103-0973JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Cerium_III_-nitrate-hexahydrate
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/40/12/40_12_1171/_pdf

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です