ピロール

ピロールとは

ピロールの基本情報

図1. ピロールの基本情報

ピロールとは、五員環構造を持つ複素環式芳香族化合物のアミンの1つです。

ピロールには二重結合の位置が異なる異性体が存在し、2H-ピロールと3H-ピロールと呼ばれています。通常ピロールと呼ぶ場合には、1H-ピロールのことを指します。

常温でピロールは、クロロホルムのような臭い、あるいは軽度のナッツ臭がある、薄黄色透明の液体です。可燃性液体であり、消防法により「第4類危険物・第二石油類 (非水溶性液体) 」に指定されています。

ピロールの使用用途

ピロールは、有機合成やポリマーの製造、鉄鋼材料の腐食防止剤、電解コンデンサなどの電解質、および溶剤として利用されています。

また、ピロールとアルデヒドを酸性条件で縮合するとポルフィリンが合成可能です。ポルフィリンは、導電性や発光性などの特徴を持っています。

この性質により、風洞実験で圧力センサーとして用いられるとともに、太陽電池や有機ELの発光材料への応用などが検討されています。そのほか、ピロールは、亜セレン酸やケイ酸の検出試薬としても使用可能です。

ピロールの性質

ピロールの融点は-24℃、沸点は129.79℃です。水に溶けにくく、有機溶媒に溶解します。濃塩酸などと反応して重合します。

ピロールの窒素原子の塩基性は、ピリジンやアミンと比較するととても低いです。理由として、窒素原子が有する孤立電子対が、環全体に非局在化していることが挙げられます。

ピロールの構造

ピロールの分子式はC4H5Nで、分子量は67.09、密度は0.967g/cm3です。分子内の部分構造としてピロールを含む化合物は非常に多いです。ピロールの部分構造は、ピロール環と呼ばれています。

ピロールのその他情報

1. ピロールの合成法

ピロールの合成

図2. ピロールの合成

ピロールは、アルミナを触媒として、フランとアンモニアを反応させると生成可能です。ピロリジンの接触脱水素によっても合成できます。

それ以外にも、ピロール環の合成法が多数知られています。例えば、ハンチュのピロール合成では、β-ケトエステル、α-ハロケトン、アンモニアを用いて、置換ピロールが生成可能です。

また、クノールのピロール合成によって、カルボニル基のα位にメチレン基を持つ化合物とα-アミノケトンから、置換ピロールが得られます。さらに、パール・クノール合成では、1,4-ジカルボニル化合物からフランを経由して、ピロールが生じます。

2. ピロールの反応

ピロールの反応

図3. ピロールの反応

ピロールは芳香族であり、反応性はベンゼンやアニリンに似ています。一般的なオレフィンのような水素化が起こりにくく、通常ジエンとしてのディールス・アルダー反応も進行しません。

その一方で、アルキル化やアシル化は起こりやすいです。それに加えて、酸性条件下でピロールは、容易に重合します。

ピロールは、プロトン化された中間体の安定性が高いα位で、求電子剤と反応します。具体的には、ニトロ化剤 (HNO3/Ac2Oなど) 、スルホン化剤 (Py・SO3) 、ハロゲン化剤 (Br2、SO2Cl2、KI/H2O2など) と反応しやすいです。

3. ピロールの酸性

ピロールの窒素原子に結合している水素原子は、pKaが16.5であり、やや酸性を示します。そのため、ブチルリチウムや水素化ナトリウムなどの強塩基を用いて、脱プロトン化が可能です。生成したアニオンは求核性を有し、ヨードメタンなどの求電子試薬と反応すると、N-メチルピロールが得られます。

脱プロトン化したピロールは、配位金属の種類によって、窒素原子上または炭素原子上で求電子試薬と反応可能です。リチウム、ナトリウム、カリウムなどの金属では、N-アルキル化が進行します。それに対して、MgXなどの場合には、C-アルキル化が起こります。 

4. ピロールの還元

ピロールが還元されると、ピロリジンやピロリンが生成します。具体的には、ピロールエステルやピロールアミドのバーチ還元によって、ピロリンを合成可能です。

ヒダントイン

ヒダントインとは

ヒダントインとは、グリコール酸尿素を縮合することで得られる構造を持つ管式化合物です。

グリコリル尿素とも呼ばれます。糖蜜の成分として天然界に存在しています。常温常圧で無臭無色の結晶です。アミノ酸、シアン酸カリウム、塩酸からヒダントインを合成することが可能で、この方法はユーレクのヒダントイン合成と呼ばれています。

アラントインやフェニトイン、ダントロレンなどのさまざまな化学物質が、ヒダントインを骨格として持っています。なお、ヒダントインは消防法や労働基準法などの法規によって指定されていません。

ヒダントインの使用用途

ヒダントインおよびその誘導体は、さまざまな用途で使用されています。

1. 抗てんかん薬

ヒダントイン誘導体であるフェニトイン (Phenytoin) は、最も一般的なヒダントイン誘導体の抗てんかん薬です。フェニトインは、神経細胞の興奮性を抑制することで、発作の発生を減らす働きがあります。

2. 化粧品および皮膚保湿剤

ヒダントイン誘導体は、化粧品およびスキンケア製品にも使用されています。特に、ジアルキルヒダントイン誘導体は、皮膚保湿剤として効果があります。皮膚の水分を保持し、乾燥や炎症を軽減するのに役立ちます。

3. 紫外線吸収剤

ヒダントイン誘導体の一部は、紫外線吸収剤として使用されています。これらは、紫外線を吸収し、皮膚や髪のダメージを減らす効果があるため、日焼け止め製品や髪用製品に添加されます。

そのほか、ヒダントイン誘導体は農薬の製造、有機化学合成の中間体としても重要です。ヒダントインから得られるフェニルヒダントインは結晶性が良いため、アミノ酸を確認する手法として用いられます。

フェニルヒダントインはヒダントインと水酸化バリウムを加熱することで得られる他、各種アミノ酸とイソシアン酸フェニルからも得ることが可能です。ヒダントインを加水分解することで、最も基本的な構造を持つアミノ酸であるグリシンが得られます。ヒダントインの5位の炭素を置換してから加水分解すると、各種のアミノ酸を得ることが可能です。

ヒダントインの性質

ヒダントインの化学式はC3H4N2O2で、分子量は100.09g/molです。複素環式化合物の1つで、イミダゾリジン-2,4-ジオンという環状構造を持っています。構造上はグリコール酸と尿素の環状縮合物に当たることから、グリコリル尿素 (Glycolylurea) とも呼ばれます。

遊離のヒダントインは、天然には糖蜜に存在します無色の結晶性固体で、融点は約215-220℃です。水にはほとんど溶けず、アルコールやエーテルなどの有機溶媒にも溶けにくいです。

ヒダントインは、酸性および塩基性条件下で環状アミドのような特性を示します。また、還元剤によって還元され、アミノ酸に変換されることがあります。ヒダントインは、抗てんかん薬のフェニトイン (phenytoin) やバルプロ酸ナトリウム (sodium valproate) のような医薬品の骨格として知られており、中枢神経系に作用しててんかん発作を抑制可能です。

また、尿素とグリオキサールの縮合により生成されるヒダントイン誘導体は、尿素濃縮クリームとして皮膚の保湿剤として使用されることがあります。

ヒダントインの構造

ヒダントイン (hydantoin) は、有機化合物であり、環状の五員炭素環構造を持っています。この構造は、イミダゾリジン-2,4-ジオンとも呼ばれ、環内に2つの窒素原子と2つのカルボニル基 (C=O) が交互に結合しています。

構造中の2つの窒素原子は、1位および3位に位置しており、それぞれ炭素原子に結合しています。2位および4位の炭素原子は、カルボニル基 (C=O) を持っており、環内に二重結合があることが特徴的です。この環状構造は、アミド結合の性質を示し、酸性および塩基性条件下で反応します。

また、ヒダントインは一般的に置換基 (R) を持つことがあり、置換基の種類によってさまざまなヒダントイン誘導体が生成されます。例えば、フェニトインは、ヒダントイン環の5位の炭素原子にフェニル基 (C6H5) が結合した構造を持っています。このようなヒダントイン誘導体は、抗てんかん薬や皮膚保湿剤などとして利用されることがあります。

ヒダントインのその他情報

ヒダントインの製造方法

ヒダントインの合成方法として、「ユーレクのヒダントイン合成」と「ブヘラ・ベルクス反応」の2つが挙げられます。

1. ユーレクのヒダントイン合成
アミノ酸とシアン酸カリウムからヒダントイン誘導体を得る方法です。この反応では、アミノ酸がシアン酸カリウムと加熱下で反応し、ヒダントイン誘導体を生成します。

2. ブヘラ・ベルクス反応
シアノヒドリンと炭酸アンモニウムから5,5-ジ置換ヒダントイン誘導体を得る方法です。この反応は、カルバメートとアルドキシムの反応を経て、ヒダントイン誘導体を生成します。

ヒ化ガリウム

ヒ化ガリウムとは

ヒ化ガリウム (英: Gallium arsenide) とは、ガリウムのヒ化物であり、組成式GaAsで表される物質です。

別名や通称には、ガリウムヒ素、ガリヒ素などの名称があります。CAS登録番号は、1303-00-0です。ヒ化ガリウムは半導体の性質を持つ物質であるため、半導体材料として一般に知られています。

ヒ化ガリウムの使用用途

ヒ化ガリウムの主要な使用用途は、太陽電池、高速通信用などの半導体材料です。同じ半導体材料であるシリコンと比較すると電子移動度が高いことが特徴です。

1.43eV のバンドギャップを持つIII-V族半導体に分類されます。電子移動度は 8,500cm2/(V s)、ホール移動度は 400cm2/(V s) です。不純物を添加されていない (ドーピングされていない) 基板において高い抵抗値を示す半導体は、半絶縁性基板と呼ばれます。

ヒ化ガリウムは半絶縁性基板であり電子移動度が高いことから、リーク電流や寄生容量を低く抑えることが可能であることが利点です。シリコンに比べ高価で加工が難しいデメリットがありますが、高速動作機能を持ち、また消費電力も約3分の1と少ないため小型化は容易です。

応答が速く消費電力も少ない半導体素子の1つです。これらの利点を活かし、HEMTやHBTなどのの高速通信用の半導体素子の材料として多く用いられています。 また、直接遷移形の材料であるため赤色・赤外光の発光ダイオードに広く用いられています。

ヒ化ガリウムの性質

ヒ化ガリウムの基本情報

図1. ヒ化ガリウムの基本情報

ヒ化ガリウムは、式量144.64、融点1,238℃であり、常温常圧では灰色の結晶固体です。密度は5.32g/mL閃亜鉛鉱型構造をとり、ヒ化ガリウムが酸や水蒸気に触れると、ヒ素と水素の化合物であるアルシンを生成します。

塩酸には可溶であるものの、水への溶解度は <0.1g/100mL (20°C) と低く、DMSO、95%エタノール、メタノール、アセトンにも、<1mg/mg程度しか溶解しません。

ヒ化ガリウムの構造

ヒ化ガリウムの結晶構造

図2. ヒ化ガリウムの結晶構造

結晶構造は常温で安定であり、閃亜鉛鉱型 (ジンクブレンド型) 構造、すなわちZnS、HgS、CuClと同じ構造を取ります。

ヒ素化合物であるにも関わらず単独では弱い毒性を示します。しかし、酸や水蒸気と反応すると、有毒なアルシンを生成します。

ヒ化ガリウムの種類

ウェハーのイメージ図

図3. ウェハーのイメージ図

ヒ化ガリウムは、主に半導体材料として工業用に販売されています。粉末の純粋なヒ化ガリウムとして販売されている製品の他に、GaAsウェハーや、GaAsエピタキシャルウエハなどとして多くの製品が販売されています。

ウェハーとは、非常に薄く小さい板であり、多くは円形です。GaAsエピタキシャルウェハーは、移動体通信やワイヤレスLANの送信用パワーアンプ、RF回路切替スイッチや、光ディスクドライブ (CD、DVD) の書込みや読込み用を行うレーザーダイオードに用いられています。

ヒ化ガリウムのその他情報

ヒ化ガリウムの安全性情報

ヒ化ガリウムはIARC発がん性リスク一覧でGroup1に分類されており、発ガン性が指摘されている物質です。それ以外には、下記のようなリスクが指摘されています。

  • 生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
  • 血液系、免疫系の障害
  • 反復ばく露による呼吸器、血液系、生殖器 (男性) の障害

毒物及び劇物取締法では、 毒物・除外品目に指定されており、労働基準法では疾病化学物質、がん原性化学物質に指定されています。労働安全衛生法でも名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物質とされている他、PRTR法で第1種指定化学物質に指定されるなど、多くの法令によって規制を受ける有害な物質です。法令を遵守した正しい取り扱いが求められます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1303-00-0.html

パンテチン

パンテチンとは

パンテチン (英: Pantethine) とは、有機化合物の1種で、パンテテイン (英: Pantetheine) がジスルフィド結合で二量体化した化合物です。

パンテチンの化学式はC22H42N4O8S2です。パンテチンの単量体であるパンテテイン (英: Pantetheine) は、パントテン酸 (ビタミンB5) と2-メルカプトアミン (システアミン) とのアミドであり、パンテチンやパンテテインは、パントテン酸と同じ生理活性を示します。パンテチンのCAS登録番号は、137-08-6です。

パンテチンの使用用途

パンテチンは、体内でパントテン酸と同じ生理活性を示すことから、栄養機能食品や医薬品としてパントテン酸欠乏症の予防および治療に用いられています。その他、ヘアコンディショニング剤、皮膚コンディショニング剤の原料としても利用される物質です。

パントテン酸は、ビタミンの1種であり、ビタミンB5とも呼ばれます。パントテン酸は、糖分や脂質、タンパク質などの代謝にかかわるほか、腸管運動を改善する、あるいは皮膚を正常にたもつ働きをもつ重要な栄養素です。

一般の食生活において、パントテン酸が不足することはまれであるため、消耗性疾患や甲状腺機能亢進症の患者あるいは妊産婦など、パントテン酸の需要が増大し、食事からの摂取が不十分な時の補給に使用されています。また、高脂血症、弛緩性便秘、急性・慢性湿疹において、パントテン酸の欠乏または代謝障害が関与すると推定される場合にも用いられます。

パンテチンの性質

パンテチンの基本情報

図1. パンテチンの基本情報

パンテチンは、分子量554.72、沸点987.2℃であり、常温において無色から微黄色澄明の粘性のある液体です。水、メタノール、またはエタノールに混和しやすく、光により分解される性質があります。密度は1.28g/mLです。

パンテチンの種類

パンテチンは、研究開発用試薬製品や医薬品、産業用化学品として一般に販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、D-パンテチンとして販売されています。容量の種類には、50mg、100mg、200mg、500mg、1g、5gなどがあり、冷蔵もしくは冷凍で保管される試薬製品です。

2. 医薬品

医薬品としては、パントテン酸欠乏症の予防および治療を目的とした製剤として販売されています。剤形には錠剤、粉薬、注射剤などがあります。さまざまなメーカーから販売されている医薬品です

3. 産業用

産業用では、1kg、25kgなどの工場向け大容量で販売されています。医薬品などの合成原料・中間体として販売されている製品です。

パンテチンのその他情報

1. パンテチン・パンテテイン・パントテン酸

パントテン酸 (上) 、パンテテイン (中) 、パンテチン (下) の構造

図2. パントテン酸 (上) ・パンテテイン (中) ・パンテチン (下) の構造

パントテン酸は、ビタミンB5とも呼ばれ、CoA (補酵素A) の構成成分として、糖代謝や脂肪酸代謝において重要な反応に関わる物質です。パントテン酸が、システアミンと縮合してアミド結合を形成すると、パンテテイン (Pantetheine) が生成します。パンテチン(Pantethine)は2つのパンテテインがジスルフィド結合して生成する酸化体です。

これらの物質は、体内では基本的に同じ生理作用を示します。すなわち構成成分にパントテン酸を含むCoA (補酵素A) および4′-ホスホパンテテインを補因子にもつアシルキャリアプロテインとしての作用となります。

2. 補酵素A (CoA)

CoAとアセチルCoA

図3. CoAとアセチルCoA

補酵素A (CoA) は、生物にとって極めて重要な補酵素です。パントテン酸とアデノシン二リン酸、システアミンから構成されています。末端にあるシステアミン由来のチオール基 (-SH) にさまざまな化合物のアシル基がチオエステル結合する性質があり、これにより、クエン酸回路やβ酸化などの代謝反応に関わり、体内で重要な役割を果たす物質です。

例えば、アセチル基が結合したものはアセチルCoAであり、アセチルCoA経路、クエン酸回路などを始めとするさまざまな代謝経路に関与しています。その他にも多くの補酵素Aのチオエステル化合物があります。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/sial/p2125

ノナン酸バニリルアミド

ノナン酸バニリルアミドとは

ノナン酸バニリルアミドとは、カプサシノイドの一種です。

研究用試薬等で流通する際は、別名の「ノニバミド」がよく用いられます。常温では粉末状の固体で存在しており、白色~うすい赤みの黄色です。

カプサシノイドは、トウガラシに含まれる天然のもの (カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン等) 以外に合成によって得られるものもあり、ノナン酸バニリルアミドも合成カプサシノイドに該当します。

ノナン酸バニリルアミドもカプサイシンと同様に、皮膚や粘膜に触れると強い刺激性があります。粉末状のノナン酸バニリルアミドは粉塵が舞う可能性高く、使用する際は吸引や皮膚付着への対策が必要です。

ノナン酸バニリルアミドの使用用途

ノナン酸バニリルアミドには、カプサイシンと同様に温感作用があるため、湿布薬やパップ剤の温感作用をもたらす成分として有用です。ノナン酸バニリルアミドを使用した湿布薬やパップ剤、液剤などは、貼り付けた場所やその周囲が温まるような感覚を覚えるのが特徴と言えます。

ノナン酸バニリルアミドの特徴

ノナン酸バニリルアミドの組成式はC17H27NO3で表されます。ノナン酸バニリルアミドの基本的な特性 (分子量、溶解性) は以下の通りです。

  • 分子量:293.407
  • 溶解性:水に溶けない。エタノールに溶ける。

ノナン酸バニリルアミドのその他情報

1. 温感作用の仕組み

ノナン酸バニリルアミドは、皮膚や粘膜に多く分布している「TRPV1 チャネル」という受容体に結合します。TRPV1 チャネルの本来の機能は、高温や炎症生成物といったストレスを感知して活動電位を発生させることです。

しかし、ノナン酸バニリルアミド等のカプサイシノイドが TRPV1 チャネルに結合した場合、高温や炎症生成物が存在しないにもかかわらず、活動電位が発生します。TRPV1 チャネルから発生した活動電位が脳に伝わると、「熱」として知覚されます。

このため、カプサイシノイドが皮膚に付着すると、熱いものに触れたようにヒリヒリとした刺激を感じます。また、 TRPV1 チャネルは本来、火傷や炎症に反応して生体防御を行うためのセンサーです。そのため、カプサイシノイドによって刺激を受けた場合も、火傷や炎症から体を守るための反応が引き起こされます。

具体的には、血管の拡張、心拍数の増加といった、血中の免疫細胞を効率よく患部に送り込むための反応です。これらの反応によって血行が促進され、体が温まったような感覚が得られます。

2. カプサイシンとの構造類似

ノナン酸バニリルアミドは、同じくカプサイシノイドであるカプサイシンと分子構造が類似しています。カプサイシノイドは、バニリルアミンと脂肪酸がアミド結合した構造が特徴です。脂肪酸の構造の違いによって、極性や皮膚刺激性の強さなどの性質が異なります。

カプサイシンの IUPAC 名は「 8-メチル-N-バニリル-trans-6-ノネンアミド」であり、8-メチル-6-ノネン酸とバニリルアミンがアミド結合したものです。一方、ノナン酸バニリルアミドは、ノナン酸 (ぺラルゴン酸) とバニリルアミンがアミド結合した構造をもちます。

3. カプサイシン合成の副生成物

カプサイシンを合成する際に、微量のノナン酸バニリルアミドが副生成物として発生することがあります。意図せず発生したノナン酸バニリルアミドが製品に残留する可能性があるため、カプサイシンやトウガラシ抽出物を使用した食品・医薬品では、ノナン酸バニリルアミドの含量を品質管理を目的に検査することもあります。

4. 皮膚刺激性

皮膚や粘膜への刺激性があるため、取り扱い時は手袋やゴーグル等の保護具を着用します。吸引すると、カプサイシン同様に激しい咳や喉の灼熱感といった症状が出る可能性もあり、マスクを着用したり、風や静電気による飛散を防いだりする措置が必要です。

また、ノナン酸バニリルアミドが付着した実験器具に触れた場合も、皮膚に刺激を受けます。使用した実験器具はただちに洗浄し、エタノール等のノナン酸バニリルアミドが溶ける溶媒で表面をすすぎます。

非水溶性の物質のため、皮膚についた場合は水よりもエタノールですすぐ方が効果的です。目や喉に入って刺激感が続く場合は医療機関を受診する必要があります。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/M0900#docomentsSectionPDP
https://confit.atlas.jp/guide/event-img/pharm140/4P01-61-13/public/pdf?type=in

トロポロン

トロポロンとは

トロポロンの基本情報

図1. トロポロンの基本情報

トロポロンとは、トロポン (英: tropone) の2位がヒドロキシ基に置換された芳香族有機化合物です。

トロポンは2,4,6-シクロヘプタトリエン-1-オン (英: 2,4,6-cycloheptatrien-1-one) とも呼ばれます。トロポンは3つの共役アルケンとカルボニル基を有する、炭素原子7個からなる環で構成される非ベンゼノイド芳香族です。

そして、トロポロンはヒドロキシトロポンや2-ヒドロキシ-2,4,6-シクロヘプタトリエン-1-オンとも呼ばれ、カルボニル基の隣にヒドロキシ基を持っています。なお、労働基準法やPRTR法などの国内法規による指定はありません。

トロポロンの使用用途

トロポロンの誘導体として得られるヒノキチオールは、タイワンヒノキや青森ヒバなどのヒノキ科の樹木の精油に含まれています。ヒノキチオールは、大腸菌や黄色ブドウ球菌など幅広い種類の細菌に対して抗菌性を示します。そのため、スキンケア製品やクレンジング製品などに防腐剤として添加可能です。

また、フケが発生する原因となる細菌であるマラセチア菌の生育を、ヒノキチオールが阻害する効果を持つことも報告されています。したがって、シャンプーや頭皮ケア製品に、フケ防止成分として配合されています。

トロポロンの性質

トロポロンの融点は50〜52°C、沸点は290°Cであり、引火点は112°Cです。常温常圧で淡黄色の固体です。

有機溶媒に溶けやすく、エーテル、エタノール、ベンゼンなどに溶解します。酸素原子を2個持っているため、さまざまな金属と反応して、キレート塩を形成可能です。

トロポロンの水酸基は弱酸性であり、フェノールと似た性質を示します。酸解離定数 (pKa) は6.89です。塩化鉄により深緑色の呈色反応を示します。

トロポロンの構造

トロポロンの構造

図2. トロポロンの構造

トロポロンの化学式はC7H6O2と表されます。モル質量は122.12g/mol、密度は1.1483g/mLです。

α‐トロポロン、β‐トロポロン、γ‐トロポロンの3異性体が存在し、通常はα‐トロポロンのことを指します。7員環構造ですが、芳香族性を有します。酸素原子に負電荷が偏るため、環部分が6π電子系になるためです。

トロポロンのヒドロキシ基とカルボニル基は区別できず、トロポロン核は共鳴構造の混成によって安定化されています。トロポロンの限界構造式は6種類考えられるため、ヒドロキシ基とカルボニル基の性質はほぼ同じです。

ヒノキチオール、コルヒチン、プルプロガリンなど、トロポロンを骨格として持つ天然化合物も存在します。スチピタチン酸は、特異な抗菌性を示します。

トロポロンのその他情報

1. トロポロンの合成法

トロポロンの合成

図3. トロポロンの合成

トロポロンの合成法は複数あります。例えば、N-ブロモスクシンイミドを用いて、1,2-シクロヘプタンジオンを臭素化し、高温で脱ハロゲン化水素すると得られます。

また、ピメリン酸ジエチルのアシロイン縮合 (英: acyloin condensation) の後、臭素を用いたアシロインの酸化によっても合成可能です。

さらに、シクロペンタジエンとケテンの[2+2]付加環化によって、ビシクロ[3.2.0]ヘプチルが生じ、加水分解と単環の生成によってトロポロンが得られます。

2. トロポロンの反応

トロポロンは容易にO-アルキル化して、シクロヘプタトリエニル誘導体を生成します。このシクロヘプタトリエニル誘導体は、幅広い用途を持つ合成中間体です。

スルファミン酸、硝酸、臭素によって、トロポロンは親電子置換を受けて、スルホン酸、ニトロ化合物、ブロモ化合物を生成可能です。ジアゾニウム塩では、ジアゾカップリングを起こします。

金属陽イオンによって脱プロトン化されて、Cu(O2C7H5)2錯体のように、二座配位子を形成します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-1133JGHEJP.pdf

トルイジン

トルイジンとは

トルイジンとは、ベンゼン環にアミノ基とメチル基がついた構造の芳香族化合物です。

アニリン誘導体の1つで、芳香族アミンの1種です。アミノ基とメチル基の位置関係によってo-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジンの3種類の異性体があります。常温常圧でo-トルイジンとm-トルイジンは液体、p-トルイジンは固体です。

トルイジンの使用用途

トルイジンは、主に化学合成の中間体として使用され、さまざまな産業分野で応用されます。

例えば、o-トルイジンはトルイジンブルーという染料の原料として用いられます。トルイジンブルーはo-トルイジン、チアジン、フェノチアジンを原料とした青色の塩基性染料です。

繊維の染色には不向きですが、負の電荷を帯びた物質を染色しやすく、生体材料の染色に用いられます。特に、軟骨細胞の染色や多糖類の染色にはトルイジンブルーが用いられることが多いです。また、植物の染色に用いられることも多く、維管束の観察などの際にはトルイジンブルーが用いられます。

その他、医薬品合成、ゴム加硫剤などの原料としても有用です。

トルイジンの性質

トルイジンはアニリン誘導体の1つで、芳香族アミンの1種です。トルイジンには、o-トルイジンm-トルイジン、および p-トルイジンの3つの異性体が存在します。これらの異性体は、メチル基がアニリン環の異なる位置に結合していることで区別されます。

トルイジンは化学式C7H9N、分子量107.15g/molで表され、水に若干溶ける程度の溶解性を持ちますが、エタノールやエーテル、アセトン等の有機溶媒には良好に溶けます。純粋なトルイジンは、無色または微黄色の結晶または液体ですが、空気中で酸化されると茶色に変色する場合があります。

異性体によって融点と沸点は異なり、常温常圧でo-トルイジンとm-トルイジンは液体、p-トルイジンは固体です。

  • o-トルイジン: 融点-23℃、沸点200℃
  • m-トルイジン: 融点-30℃、沸点203℃
  • p-トルイジン: 融点43℃、沸点200℃

o-トルイジンは発がん性や変異原性が指摘されており、取り扱いに注意が必要です。

トルイジンの構造

トルイジンは、アニリン (C6H5NH2) の誘導体であり、芳香族アミンの一種です。化学式はC6H4(CH3)NH2です。

トルイジンには3つの異性体 (o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン) が存在します。これらの異性体は、ベンゼン環上の異なる位置にメチル基が結合していることで区別されます。また、ベンゼン環上におけるメチル基とアミノ基の相対的な位置によって、物理的および化学的性質が異なります。

しかし、すべてのトルイジン異性体は芳香族アミンの特性を持ち、酸と反応して塩を形成したり、酸化剤や還元剤と反応したりする性質があります。

トルイジンのその他情報

1. トルイジンの製造方法

トルイジンは、主に以下の方法で製造されます。

ニトロトルエンの還元
トルイジンの製造の一般的な方法は、ニトロトルエンの還元です。ニトロトルエンの還元は、鉄粉や亜鉛粉と酸を用いた化学還元、あるいは触媒を用いた水素化還元によって行われます。

アニリンからの合成
トルイジンは、アニリンからも合成することができます。アニリンにフリーデル・クラフツ縮合反応を利用してアルキル基を導入することで、トルイジンが得られます。

この方法では、触媒としてアルミニウムクロリド (AlCl3) や鉄 (III) クロリド (FeCl3) が用いられます。また、反応には適切なアルキル化剤が必要で、例えば塩化メチル (CH3Cl) や塩化エチル (C2H5Cl) が使用されます。

2. トルイジンの規制

o-トルイジン

  • 労働安全衛生法: 特定化学物質第2類
  • 労働基準法: 疾病化学物質
  • 毒物及び劇物取締法: 劇物
  • PRTR法: 第1種指定化学物質

p-トルイジン

  • 労働安全衛生法: 名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物
  • 毒物及び劇物取締法: 劇物
  • PRTR法: 第1種指定化学物質

m-トルイジン

  • 労働安全衛生法: 名称等を通知・表示すべき危険物及び有害物質
  • 労働基準法: 疾病化学物質
  • 毒物及び劇物取締法: 劇物
  • 消防法: 第4類引火性液体・第三石油類非水溶性液体

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0607.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0201JGHEJP.pdf
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/95-53-4.html

トリクロロエタン

トリクロロエタンとは

1,1,1-トリクロロエタンの基本情報

図1. 1,1,1-トリクロロエタンの基本情報

トリクロロエタンとは、分子式がC2H3Cl3で表される有機ハロゲン化合物です。

塩素原子の位置によって、1,1,1-トリクロロエタンと1,1,2-トリクロロエタンの2種類に分類されます。別名、1,1,1-トリクロロエタンは、クロロテンやメチルクロロホルムとも呼ばれ、常温で無色の液体です。

ヒトの皮膚や目に対して刺激性を持ち、労働安全衛生法で「名称等を表示・通知すべき有害物」に指定されている他、PRTR法で「第一種指定化学物質」に指定されています。

トリクロロエタンの使用用途

1,1,1-トリクロロエタンは、様々な有機化合物を溶かせるため、電子部品の洗浄や塗料の溶剤などの用途で、有機溶媒として広く利用されていました。しかし、モントリオール議定書でオゾン層破壊物質として指定されて以降、全世界で1,1,1-トリクロロエタンの使用がほとんど中止されています。

トリクロロエタンの性質

1,1,1-トリクロロエタンの融点は−30°C、沸点は74°Cです。揮発性があり、洗浄能力が大きいです。

一般的に1,1,1-トリクロロエタンは、非極性溶媒に分類されています。しかし、電気陰性度が大きい3個の塩素原子が、分子の片側に偏って存在するため、極性をわずかに有します。

トリクロロエタンの構造

1,1,1-トリクロロエタンと1,1,2-トリクロロエタンは構造異性体の関係にあり、いずれもエタンの炭素原子に結合している4つの水素原子のうち、3つを塩素原子で置換した化合物です。

1,1,1-トリクロロエタンの示性式はCH3CCl3で、分子量は133.40、密度は1.34g/cm3です。

トリクロロエタンのその他情報

1. 1,1,1-トリクロロエタンの合成法

1,1,1-トリクロロエタンの合成

図2. 1,1,1-トリクロロエタンの合成

工業的に1,1,1-トリクロロエタンは、 原料であるクロロエチレンから、2段階で合成可能です。まず、塩化アルミニウム、塩化鉄 (III) 、塩化亜鉛などを触媒に用いて、20〜50°Cでクロロエチレンと塩化水素の反応によって、1,1-ジクロロエタンが生じます。続いて紫外線の照射下で、1,1-ジクロロエタンと塩素が反応すると、1,1,1-トリクロロエタンを得ることが可能です。

収率は80〜90%程度で、発生した塩化水素は再利用できます。構造異性体の1,1,2-トリクロロエタンが、主な副生成物として生じますが、蒸留で分離可能です。

また、触媒に塩化鉄 (III) を使用して、1,1-ジクロロエテン (塩化ビニリデン) と塩化水素が反応すると、少量の1,1,1-トリクロロエタンが得られます。

2. 大気中の1,1,1-トリクロロエタン

モントリオール議定書によって、オゾン層を破壊する原因となる化合物の1つとして、1,1,1-トリクロロエタンが指定され、1996年から使用を禁止されました。その影響で大気中の1,1,1-トリクロロエタンの濃度は、寿命が5年と比較的短いため、急速に減少しています。

3. 1,1,2-トリクロロエタンの特徴

1,1,2-トリクロロエタンの基本情報

図3. 1,1,2-トリクロロエタンの基本情報

1,1,2-トリクロロエタンは、三塩化ビニルとも呼ばれます。融点は−6°C、沸点は114°Cであり、分子量は133.40、密度は1.44g/cm3です。常温で無色の液体で、甘い香りを有し、示性式はC2H3Cl3です。

中枢神経抑制作用を持つため、吸引すると頭痛や吐き気などの症状を発症します。労働安全衛生法により危険有害物に指定されている他、PRTR法で「第一種指定化学物質」、労働基準法で「疾病気化学物質」に指定されています。

1,1,2-トリクロロエタンは、1,1,1-トリクロロエタンとは異なり、オゾン層破壊物質に指定されていません。そのため現在でも、有機溶媒として使用されており、1,1-ジクロロエタンの合成中間体としても知られています。

参考文献
https://www.gls.co.jp/sds/1021-21133_jpn.pdf
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/79-00-5.html

トリフェニルホスフィン

トリフェニルホスフィンとは

トリフェニルホスフィンの基本情報

図1. トリフェニルホスフィンの基本情報

トリフェニルホスフィンとは、リン原子に3つのフェニル基が結合した有機リン化合物です。

さまざまな製法が存在し、工業的にはベンゼン三塩化リンのフリーデル・クラフツ反応が用いられます。フリーデル・クラフツ反応とは、芳香族の化合物に対してアルキル基やアシル基を置換させる反応のことです。

なお、トリフェニルホスフィンは消防法や労働安全衛生法などの国内法規によって指定されていません。

トリフェニルホスフィンの使用用途

トリフェニルホスフィンは、多種多様な人名化学反応で利用されています。その多くは有機化合物を用いた反応です。

トリフェニルホスフィンを用いた化学反応の具体例として、アッペル反応 (英: Appel reaction) やウィッティヒ反応 (英: Wittig reaction) などが挙げられます。それ以外にも、シュタウディンガー反応 (英: Staudinger reaction) 、光延反応 (英: Mitsunobu reaction) 、ヘック反応 (英: Heck reaction) などがあります。

トリフェニルホスフィンの性質

常温でトリフェニルホスフィンは、結晶性の白色固体です。融点は80°C、沸点は377°Cであり、密度は1.1g/cm3で、引火点は180°Cです。比較的空気にも安定しており、非極性有機溶媒に溶けます。

化学式はC18H15P、モル質量は262.29g/molで、トリフェニルホスファン (英: triphenylphosphane) と呼ばれることもあります。分子は三角錐形を取っています。

トリフェニルホスフィンのその他情報

1. トリフェニルホスフィンの反応

トリフェニルホスフィンの反応

図2. トリフェニルホスフィンの反応

トリフェニルホスフィンはハロゲン化アルキル (R–X) との反応によって、ホスホニウム塩が生じます。ホスホニウム塩は強塩基と反応して、イリドを得ることが可能です。

トリフェニルホスフィンとアジドのシュタウディンガー反応によって、窒素が発生して、P=N結合を生成します。P=N結合を持つ化合物は、水と反応するとアミンが遊離し、カルボニル化合物と反応するとイミンを生成します。

2. トリフェニルホスフィンを用いた有機化学反応

有機化学でトリフェニルホスフィンは、さまざまな反応に用いられます。例えば、トリフェニルホスフィンと四塩化炭素を用いたアッペル反応は、ほとんど全てのアルコールに対してアルキル化が可能です。

また、ウィッティヒ試薬の原料として用いられています。現在では、ウィッティヒ反応を利用して、抗生物質を中心としたさまざまな医薬品が開発されています。

光延反応では、脱水縮合反応としてアゾジカルボン酸ジエチル (DEAD) とともに、トリフェニルホスフィンが使用可能です。

3. 有機リン化合物の前駆体としてのトリフェニルホスフィン

トリフェニルホスフィンの関連化合物

図3. トリフェニルホスフィンの関連化合物

一般的にトリフェニルホスフィンは、有機リン化合物の前駆体として利用されます。アルカリ金属との反応により、トリフェニルホスフィンからアルカリ金属ジフェニルホスフィドを得ることが可能です。

アルカリ金属ジフェニルホスフィドは、ハロゲン化アルキル (R–X) と反応して、RPh2Pを生成します。そのため、メチルジフェニルホスフィン (MePh2P) を代表とする、多種多様なホスフィン配位子を合成可能です。

同様の反応にジハロゲン化アルキルを用いると、ビス (ジフェニルホスフィノ) アルカンが得られます。具体的には、1,2-ジブロモエタンとアルカリ金属ジフェニルホスフィドの反応によって、1,2-ビス (ジフェニルホスフィノ) エタンが生成します。

その一方で、塩化アンモニウムのような弱めの酸を用いると、アルカリ金属ジフェニルホスフィドからジフェニルホスフィンを得ることが可能です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0306JGHEJP.pdf

デヒドロ酢酸ナトリウム

デヒドロ酢酸ナトリウムとは

デヒドロ酢酸とは、複素環化合物であるピロンの誘導体です。

化学式C8H8O4で表され、デヒドロ酢酸はほとんどの場合はナトリウム塩であるデヒドロ酢酸ナトリウムとして用いられます。デヒドロ酢酸ナトリウムは、常温常圧で白色の粉末状個体です。

水に易溶で、エタノールには難溶です。デヒドロ酢酸は水に難溶のため、ナトリウム塩を用いることで容易に濃度を調節することができます。なお、デヒドロ酢酸ナトリウムは消防法や労働安全衛生法などの国内法規によって指定されていません。

デヒドロ酢酸ナトリウムの使用用途

1. 医薬品

デヒドロ酢酸ナトリウムは、クロコウジカビや黄色ブドウ球菌など様々な種類の細菌に対して抗菌活性を示すことが特徴です。強くはないものの酸性領域でカビ、酵母、グラム陽性菌に対し静菌活性を示します。

基剤、崩壊、防腐、保存、溶解目的の医薬品添加剤として経口剤、外用剤、眼科用剤、耳鼻科用剤に用いられています。

2. 化粧品

抗菌活性の特徴に加え、皮膚刺激性や眼刺激性がほとんどない性質を利用して、メイクアップ製品、化粧下地製品、スキンケア製品、ボディケア製品、ボディソープ製品、シャンプー、リンスなどの防腐剤として添加されています。

また、デヒドロ酢酸やデヒドロ酢酸ナトリウムの化粧品への添加は、100gに対し0.5gまでと定められています。

3. 食品

バターやチーズ、マーガリンなどの発酵食の保存性を高める添加剤として利用されています。厚生労働省により指定添加物の保存料として認可されていますが、日本では実際にはほとんど使用されていません。EUでも認可されており、製品への残存量が製品1kg当たり500mgと規定されています。

ドックフードの保存料として使用されることもありますが、適切な添加量であれば問題ありません。一方で、固体差もあるため、成分表示を確認し、気になる場合は購入を控えます。

デヒドロ酢酸ナトリウムの性質

デヒドロ酢酸ナトリウムは、分子量208.14、CAS番号64039-28-7で表わされる白色の結晶性粉末です。融点や引火点、沸点に関するデータはなく、可燃性はありません。

通常の状態において安定ですが、光により変質する恐れがあります。高温、直射日光を避け、混触危険物質である強酸化剤と接触しないよう注意が必要です。

危険有害な分解生成物として、一酸化炭素および二酸化炭素を発生させる可能性があります。

デヒドロ酢酸ナトリウムのその他情報

1. 安全性

GHSにおいて、急性毒性 (経口) 区分4に分類されます。飲み込むと有害です。 万が一飲み込み気分が悪い場合、口をすすぎ、直ちに毒劇物センタ ーもしくは医師に連絡します。

急性毒性以外の危険有害性については報告されていませんが、取扱後は顔や手など曝露の可能性のある皮膚を十分洗浄します。

2. 応急処置

吸入した場合は、新鮮な空気のある場所に移動し、皮膚に付着した場合は、すぐに石鹸と大量の水で洗浄します。いずれも症状が継続する場合は、医師への連絡が必要です。

眼に入った場合は、数分間気を付けて洗浄し、コンタクトを装着していて容易に外せる場合は取り外し、洗浄を続け、直ちに医師の手当を受けます。応急処置にあたる人は、個人用保護具を着用する必要があります。

3. 取扱方法

作業場所は、発生源の密閉化もしくは局所排気装置を設置します。取扱場所の近くに安全シャワー、手洗い・洗眼設備を設置し、明瞭な位置表示が必要です。

使用者は、防塵マスク、保護手袋、側板付き保護眼鏡 (必要によりゴーグル型または全面保護眼鏡) 、長袖作業衣を着用します。使用時は飲食、喫煙を避けます。

4. 保管

容器は遮光し、換気のよいなるべく涼しい場所に密閉して保管します。使用可能な容器包装材料は、ポリプロピレンおよびポリエチレンです。

強酸化剤と接触しないよう離れた場所で保管します。廃棄時は、国もしくは地域で承認された廃棄物処理場にて廃棄します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0104-0018JGHEJP.pdf