ノナン酸バニリルアミド

ノナン酸バニリルアミドとは

ノナン酸バニリルアミドとは、カプサシノイドの一種です。

研究用試薬等で流通する際は、別名の「ノニバミド」がよく用いられます。常温では粉末状の固体で存在しており、白色~うすい赤みの黄色です。

カプサシノイドは、トウガラシに含まれる天然のもの (カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン等) 以外に合成によって得られるものもあり、ノナン酸バニリルアミドも合成カプサシノイドに該当します。

ノナン酸バニリルアミドもカプサイシンと同様に、皮膚や粘膜に触れると強い刺激性があります。粉末状のノナン酸バニリルアミドは粉塵が舞う可能性高く、使用する際は吸引や皮膚付着への対策が必要です。

ノナン酸バニリルアミドの使用用途

ノナン酸バニリルアミドには、カプサイシンと同様に温感作用があるため、湿布薬やパップ剤の温感作用をもたらす成分として有用です。ノナン酸バニリルアミドを使用した湿布薬やパップ剤、液剤などは、貼り付けた場所やその周囲が温まるような感覚を覚えるのが特徴と言えます。

ノナン酸バニリルアミドの特徴

ノナン酸バニリルアミドの組成式はC17H27NO3で表されます。ノナン酸バニリルアミドの基本的な特性 (分子量、溶解性) は以下の通りです。

  • 分子量:293.407
  • 溶解性:水に溶けない。エタノールに溶ける。

ノナン酸バニリルアミドのその他情報

1. 温感作用の仕組み

ノナン酸バニリルアミドは、皮膚や粘膜に多く分布している「TRPV1 チャネル」という受容体に結合します。TRPV1 チャネルの本来の機能は、高温や炎症生成物といったストレスを感知して活動電位を発生させることです。

しかし、ノナン酸バニリルアミド等のカプサイシノイドが TRPV1 チャネルに結合した場合、高温や炎症生成物が存在しないにもかかわらず、活動電位が発生します。TRPV1 チャネルから発生した活動電位が脳に伝わると、「熱」として知覚されます。

このため、カプサイシノイドが皮膚に付着すると、熱いものに触れたようにヒリヒリとした刺激を感じます。また、 TRPV1 チャネルは本来、火傷や炎症に反応して生体防御を行うためのセンサーです。そのため、カプサイシノイドによって刺激を受けた場合も、火傷や炎症から体を守るための反応が引き起こされます。

具体的には、血管の拡張、心拍数の増加といった、血中の免疫細胞を効率よく患部に送り込むための反応です。これらの反応によって血行が促進され、体が温まったような感覚が得られます。

2. カプサイシンとの構造類似

ノナン酸バニリルアミドは、同じくカプサイシノイドであるカプサイシンと分子構造が類似しています。カプサイシノイドは、バニリルアミンと脂肪酸がアミド結合した構造が特徴です。脂肪酸の構造の違いによって、極性や皮膚刺激性の強さなどの性質が異なります。

カプサイシンの IUPAC 名は「 8-メチル-N-バニリル-trans-6-ノネンアミド」であり、8-メチル-6-ノネン酸とバニリルアミンがアミド結合したものです。一方、ノナン酸バニリルアミドは、ノナン酸 (ぺラルゴン酸) とバニリルアミンがアミド結合した構造をもちます。

3. カプサイシン合成の副生成物

カプサイシンを合成する際に、微量のノナン酸バニリルアミドが副生成物として発生することがあります。意図せず発生したノナン酸バニリルアミドが製品に残留する可能性があるため、カプサイシンやトウガラシ抽出物を使用した食品・医薬品では、ノナン酸バニリルアミドの含量を品質管理を目的に検査することもあります。

4. 皮膚刺激性

皮膚や粘膜への刺激性があるため、取り扱い時は手袋やゴーグル等の保護具を着用します。吸引すると、カプサイシン同様に激しい咳や喉の灼熱感といった症状が出る可能性もあり、マスクを着用したり、風や静電気による飛散を防いだりする措置が必要です。

また、ノナン酸バニリルアミドが付着した実験器具に触れた場合も、皮膚に刺激を受けます。使用した実験器具はただちに洗浄し、エタノール等のノナン酸バニリルアミドが溶ける溶媒で表面をすすぎます。

非水溶性の物質のため、皮膚についた場合は水よりもエタノールですすぐ方が効果的です。目や喉に入って刺激感が続く場合は医療機関を受診する必要があります。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/M0900#docomentsSectionPDP
https://confit.atlas.jp/guide/event-img/pharm140/4P01-61-13/public/pdf?type=in

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