プロピオンアルデヒド

プロピオンアルデヒドとはプロピオンアルデヒドの基本情報

図1. プロピオンアルデヒドの基本情報

プロピオンアルデヒドとは、無色もしくは僅かにうすい黄色の澄明な液体で、刺激臭のある有機化合物です。

IUPAC命名法では、プロパナール (英: propanal) と表されています。プロピオンアルデヒドのCAS登録番号は123-38-6です。

引火性のある液体として、消防法では「危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ」、労働安全衛生法でも 「名称等を表示すべき危険物及び有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物」「危険物・引火性の物」に指定されています。

プロピオンアルデヒドの使用用途

プロピオンアルデヒドは、医薬や樹脂の原料に使用されているほか、香料や香辛料として食品添加物にも利用されています。元々果実といった天然物だけでなく、乳製品や酒類にも存在していることが知られています。香料として加工食品に添加すると、香りや風味をかもし出すことが可能です。それ以外にも、除草剤や農薬といった農業分野に利用されています。

プロピオンアルデヒドの性質

プロピオンアルデヒドはエタノールアセトンに極めて溶けやすく、水に対しても溶けやすい液体です。プロピオンアルデヒドの融点は-81℃、沸点は47℃で、引火性が高いです。

プロピオンアルデヒドは刺激性が強く、甘酸っぱさの中に焦げたような臭気を持っています。そのため、日本の悪臭防止法では、特定悪臭物質に指定されています。

プロピオンアルデヒドの構造

プロピオンアルデヒドの示性式は、C2H5CHOまたはCH3CH2CHOで、分子量は58.08です。プロピオンアルデヒドはホルミル基を持っているため、還元力によって銀鏡反応を起こします。

また、プロピオンアルデヒドは重合して、過酸化物を生成することもあります。

プロピオンアルデヒドのその他情報

1. オキソ法によるプロピオンアルデヒドの合成

オキソ法によるプロピオンアルデヒドの合成

図2. オキソ法によるプロピオンアルデヒドの合成

金属触媒の存在下で一酸化炭素と水素の混合ガスを、エチレンガスに作用させることで、プロピオンアルデヒドが得られます。オキソ法はヒドロホルミル化とも呼ばれていて、工業的にアルデヒドを製造するための重要な方法の一つです。

コバルト錯体やロジウム錯体を用いた場合、反応の活性種はヒドリドカルボニル錯体です。触媒としてコバルトオクタカルボニルを使用した場合のメカニズムは、提唱者の名を取ってヘック・ブレスロウ (英: Heck-Breslow) 機構と呼ばれています。

2. 酸化によるプロピオンアルデヒドの合成

 

酸化によるプロピオンアルデヒドの合成

図3. 酸化によるプロピオンアルデヒドの合成

1-プロパノールの脱水素による、プロピオンアルデヒドの合成法が知られています。硫酸酸性条件下で二クロム酸カリウムを用いて、1-プロパノールを酸化すると、プロピオンアルデヒドを得ることが可能です。

その一方で、現在1-プロパノールは、ほとんどプロピオンアルデヒドから作られています。すなわち、エチレンのヒドロホルミル化によって得られたプロピオンアルデヒドをロジウム錯体などの触媒を用いて水素化することで、1-プロパノールを合成しています。

3. プロピオンアルデヒドの応用

メタノールとプロピオンアルデヒドの縮合によって、トリメチロールエタン (英: Trimethylolethane) が製造されています。トリメチロールエタンはH3C(CH2OH)3という構造で、アルキド樹脂の原料です。

tert-ブチルアミンとプロピオンアルデヒドの縮合によって、イミンであるCH3CH2CH=N-t-Buを与えます。この化合物は3炭素の構成要素として、有機合成で用いることが可能です。例えば、リチウムジイソプロピルアミド (英: lithium diisopropylamide, LDA) でリチオ化した後に、アルデヒドとの縮合に使用できます。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-2363JGHEJP.pdf

フルオロベンゼン

フルオロベンゼンとは

フルオロベンゼンの基本情報

図1 フルオロベンゼンの基本情報

フルオロベンゼン (英: Fluorobenzene) とは、ベンゼンの一つの水素原子がフッ素に置換された構造を持つ分子式C6H5Fの有機化合物です。

CAS登録番号は、462-06-6です。分子量96.1、融点-44 ℃、沸点85℃であり、常温では無色もしくはうすい黄褐色の澄明な液体です。特異な臭いを呈する特徴があります。密度は1.025 g/mlです。エーテルと混和し、エタノールアセトンには極めて溶けやすいものの、水にはほとんど溶けません。

フルオロベンゼンの使用用途

フルオロベンゼンは、有機フッ素化合物原料として有用な化合物です。農薬や医薬品などの有機化合物の合成原料や抽出剤に使われています。

また、炭素-フッ素結合の強さのため、比較的不活性な化合物とされ、しばしば有機溶媒として利用されます。融点はベンゼン (5.5℃) より大幅に低いものの、沸点はほぼ変わらないことが特徴です。ただし、金属錯体に配位して結晶化させることがあるのでこの点は注意が必要です。

フルオロベンゼンの性質

1. フルオロベンゼンの合成

フルオロベンゼンの合成方法

図2. フルオロベンゼンの合成方法

フルオロベンゼンは、実験室スケールではベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボラートの熱分解によって合成が可能です。固体のベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボラートを加熱すると、三フッ化ホウ素とフルオロベンゼンの二種類の揮発物質が生成しますが、沸点の違いにより分離することが可能です。

別の合成方法としては、塩化ベンゼンジアゾニウムをピペリジン塩とした後に、これをフッ化水素酸で処理するという合成方法が存在します。これは、1886年に初めてフルオロベンゼンの合成が報告された方法です。

2. フルオロベンゼンの化学的性質

フルオロベンゼンの金属錯体の例([(C5Me5)2Ti(FC6H5)]+) (1)

図3. フルオロベンゼンの金属錯体の例([(C5Me5)2Ti(FC6H5)]+)

フルオロベンゼンは、フッ素原子が電子供与性を有することから、パラ位で求電子剤と反応しやすくなっています。それゆえ、1-ブロモ-4-フルオロベンゼンへの変換は比較的高収率で進行します。また、C-F結合は結合エネルギーが大きいことから、比較的安定な結合です。

比較的安定な化合物であるため、溶媒として使用されますが、金属錯体に配位して結晶化させてしまうこともあります。

通常の保管環境では安定とされますが、高温・直射日光・炎などを避けることが必要です。また、強酸化剤とは反応してしまうため、混触を避けて保管を行うべきとされます。

フルオロベンゼンの種類

フルオロベンゼンは主に研究開発用試薬製品や化学工業用製品として販売されています。

研究開発用試薬では、5g、25g、100g、500gなどの容量の種類があります。室温で取り扱い可能な試薬製品です。主な使用用途は有機合成原料です。また、試薬製品として、水素原子が重水素で置換されたフルオロベンゼン-d5も販売されています。こちらは、主にNMR測定用溶媒として使用されている物質です。

また、化学工業用製品としては、グラムスケールからトンスケールまで製品供給がなされています。大容量ではドラム缶やタンクで扱われることも多く、スケールが大きいことから通常冷暗所での取り扱いとなります。

フルオロベンゼンのその他情報

フルオロベンゼンの安全性情報と法規制

フルオロベンゼンは引火点が-8℃と低く、引火性の高い液体です。そのため、消防法では「危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ」に指定されています。

また、人体への危険性では、眼に対する重篤な損傷性や、生殖細胞変異原性試験が指摘されており、遺伝性疾患のおそれがあります。このため、労働安全衛生法では「変異原性が認められた化学物質等」・「危険物・引火性の物」に指定されている物質です。

危険物船舶運送及び貯蔵規則では「引火性液体類」に指定され、さらに航空法でも「引火性液体」に指定されています。法令を遵守して正しく利用することが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0106-0034JGHEJP.pdf

フルオレセインナトリウム

フルオレセインナトリウムとは

フルオレセインナトリウムとは、別名をウラニンというだいだい色もしくは暗褐色の無臭の粉末です。

水に溶けやすく (約30%、20℃) 、エタノールに溶け、ジエチルエーテルにはほとんど溶けません。酸性条件下では明るい黄色色素として存在し、強酸またはアルカリ性条件下では蛍光色素として存在します。

化学式C20H10Na2O5、分子量376.28、融点315℃、引火点218℃、CAS登録番号518-47-8です。水質汚濁防止法や特輸出貿易管理令に規定されている以外、国内法令での指定はありません。

フルオレセインナトリウムの使用用途

フルオレセインナトリウムは、眼科や消化器科、皮膚科などの医用画像診断における造影剤として広く使用されています。中でも眼科関連分野への活用が顕著で、主に網膜の異常有無や緑内障の診断に蛍光マーカーとして使用される場合が多いです。

そのほか、微生物学においては、微生物の増殖や挙動を研究するためののトレーサーとしても使用されています。そのほか、製造業においては着色剤や蛍光増白剤、インクの原料も使用用途の1つです。なお、フルオレセインナトリウム塩は465-490nmの特定の波長の光を当てると、明るい緑色の蛍光を発する蛍光色素です。

フルオレセインナトリウムの性質

フルオレセインナトリウムは、分子式C20H10Na2O5で表される有機ナトリウム塩です。分子量は376.27g/molで、暗橙色を示します。水への溶解度が高く、室温での溶解度は約50g/Lです。メタノールやエタノール、アセトン、ジエチルエーテルなどの有機溶媒にも溶けます。

フルオレセインナトリウムは酸性条件下では明るい黄色色素として存在しますが、塩基性条件下では蛍光特性を示します。塩基性条件下では465-490nmの波長の光で励起され、525nmに蛍光のピーク波長を持ちます。

熱や光に対して安定ではなく、加熱や紫外線によって分解されることがあります。そのため、冷暗所で保存することが重要です。

フルオレセインナトリウムの構造

フルオレセインナトリウムは、芳香族化合物であるフルオレセインとナトリウムからなる塩です。化学式はC20H10Na2O5、分子量は376.27で表されます。

フルオレセインの化学構造は、2つのベンゼン環と1つのキサンテン環を含む3つの縮合環から構成されています。キサンテン系色素に属し、トリアリールメタンと呼ばれる有機化合物の1種です。

フルオレセインの構造内には、ヘテロ酸素原子が含まれています。この酸素原子は、芳香環の炭素原子と結合する2つの二重結合を有しています。これにより、フルオレセインはオキシラジカルを形成することが可能で、フルオレセインが蛍光色素として働く理由の1つとなっています。

フルオレセインナトリウムのその他情報

フルオレセインナトリウムの製造方法

フルオレセインナトリウム塩は、以下の工程により製造されます。

1. 無水フタル酸とレゾルシノールの脱水縮合反応を行う
無水フタル酸とレゾルシノールに対し、濃硫酸を用いた脱水縮合反応を行うことによってフルオレセインが合成されます。

このとき、酸無水物がレゾルシノールのフェノール水産機にアタック (芳香核親電子置換反応) することで生成した中間体から、2つの-OH基が離脱する反応が起こります。

2. 生じたフルオレセイン中間体を水酸化ナトリウムで処理する
フルオレセインこの中間体を水酸化ナトリウムで処理することで、カルボン酸基をナトリウム塩に変換します。得られたフルオレセインナトリウム塩を、結晶化またはクロマトグラフィーによって精製すると、最終製品が得られます。

この製法は比較的安価で簡単に実施できるため、産業的にも広く採用されている方法です。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/06019350.pdf

フルフリルアルコール

フルフリルアルコールとは

フルフリルアルコールの基本情報

図1. フルフリルアルコールの基本情報

フルフリルアルコール (英: Furfuryl alcohol) とは、分子式C5H6O2で表されるフランにヒドロキシメチル基が置換した構造の有機化合物です。

複素環式芳香族化合物に分類されます。IUPAC命名法による名称は、2-フラノメタノールであり、別名には2-フリルメタノール、2-フリルカルビノールなどの名称があります。CAS登録番号は、98-00-0です。

分子量98.10、融点-20.2℃、沸点170℃であり、常温では無色もしくは黄褐色の澄明な液体です。光、空気に曝露すると赤色又は茶色になる性質があります。焦げたような臭いの特徴的な臭気を持ちます。密度は1.13g/mLであり、エーテルに容易に溶解します。また、アルコール、ベンゼンクロロホルムにも可溶です。水に混和する性質があり、 水への溶解度は1000g/L (25℃) です。

フルフリルアルコールの使用用途

フルフリルアルコールの主な用途は、合成樹脂原料、樹脂変性剤、溶剤、化学原料、香料などです。溶剤としては接着剤など多くの分野で利用されています。化学原料としては、含酸素五員環のビルディングブロックとして合成的に有用な化合物です。

また、低分子量のアルコールとして、エッチング後の残渣除去などで半導体デバイス分野でも用いられています。界面活性剤としては湿潤剤に使用される他、黒色顔料の界面活性剤にも用いられている物質です。近年では、油性インクのVCO (揮発性有機化合物) による劣化を嫌い、水性インクへ移行されることが多くなっており、需要が増えています。

合成樹脂としては、主にフラン樹脂としての利用が中心です。鋳造樹脂として酸硬化性鋳型のフラン樹脂にも使用されています。硝酸または赤煙硝酸を酸化剤とする自己着火性のロケット燃料としての用途もあります。

フルフリルアルコールの性質

1. フルフリルアルコールの合成

フルフリルアルコールの合成

図2. フルフリルアルコールの合成

フルフリルアルコールは、工業的にはフルフラールを原料とする触媒的水素添加反応にて合成されます。フルフラールは、トウモロコシの穂軸やサトウキビのバガスに含まれるアルデヒドです。

2. フルフリルアルコールの化学反応

フルフリルアルコールの化学反応

図3. フルフリルアルコールの化学反応

フルフリルアルコールは、求電子的アルケンおよびアルキンとDiels-Alder反応を起こす物質です。ヒドロキシメチル化反応によって2,5-ビス (ヒドロキシメチル) フランを与えます。また、フルフリルアルコールの加水分解物はレブリン酸です。水酸基-OHはアリールハライドもしくはアルキルハライドと反応してエーテル結合を形成します。

また、フルフリルアルコールは、酸性条件において、加熱もしくは触媒添加によって脱水重合する性質がある物質です。フラン樹脂は、この性質により製造されています。

フルフリルアルコールの有名な人名反応には、アフマトヴィッチ反応があります。この反応は、臭素などの酸化的条件を用いて、フルフリルアルコールからジヒドロピラン環を合成する手法です。

フルフリルアルコールの種類

フルフリルアルコールは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。市販されている試薬製品の容量の種類は、50g、250g、1kg、500mL、1Lなどです。

また、香料及び食品添加物として承認されていることから、これらの原料としての用途でも販売されています。

フルフリルアルコールのその他情報

フルフリルアルコールの法規制情報

フルフリルアルコールは、引火点が65℃と低いことから、消防法で「危険物第四類 第三石油類 危険等級Ⅲ 水溶性」に指定されています。労働安全衛生法 では、「名称等を表示すべき危険物及び有害物」・「名称等を通知すべき危険物及び有害物No. 491」です。化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律、危険物船舶運送及び貯蔵規則、航空法、海洋汚染防止法でもなどでも規制を受けています。

一方で、食品衛生法では、食品添加物・香料として承認されており、通常の使用の範囲であれば食品に使用することが認められている物質でもあります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0106-0069JGHEJP.pdf

フッ化銀

フッ化銀とは

フッ化銀 (英: Silver Fluoride) とは、銀とフッ素からなる無機化合物です。

銀イオン Ag+、Ag2+、Ag3+ とフッ化物イオン F から生成される化合物です。銀イオンの価数によって実際にできる化合物の組成が違います。

フッ化銀の使用用途

1. フッ化銀(Ⅰ)

フッ化銀(Ⅰ)は、フッ素の化合物として歯科防腐処理剤の構成物質をはじめ歯や口腔内の治療・入れ歯の洗浄剤といった歯科関連ほか消化器官といった方面の製剤にも使われています。

銀の化合物として電気伝導度の低いことを利用して、回路基板の原料として使われるほか、集積回路素子のマイクロ化には欠かせない金属ナノワイヤーへの利用にも期待されています。化粧品分野への利用もあります。

2. フッ化銀(Ⅱ)

フッ化銀(Ⅱ)は、炭化水素のフッ化剤として用いられます。例えば、ピリジンやジアジンなどの複素環式化合物を選択的にフッ素化するのに利用できます。また、酸化力が非常に強いので、酸化剤としても用いられます。

フッ化銀の性質

1. 水に溶けやすい

フッ化銀(Ⅰ)には非常に水に溶けやすく、1Lの水に1.8kg以上も溶けます。ハロゲン (フッ素 F、塩素 Cl、臭素 Br、ヨウ素 I) と銀の化合物をハロゲン化銀といいます。ハロゲン化銀の中でフッ化銀だけが水に溶け、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀は沈殿となり水に溶けません。

フッ化銀(Ⅰ)が水に溶けやすいのは、フッ素の電気陰性度が他のハロゲンよりも大きく、銀から電子を奪ってイオンになりやすいからです。フッ素以外のハロゲンと銀との電気陰性度の差は小さくイオン結合というより共有結合に近い状態となっています。イオンになりやすいフッ化銀(Ⅰ)は極性分子である水に溶けやすいです。

2. 感光性がある

フッ化銀(Ⅰ)の二水和物 AgF・(H2O)2は感光性があり、光をあてると銀とフッ素と水に分解します。他のハロゲン化銀にも同様に感光性があり、写真用乳剤に使われています。一方、フッ化銀(Ⅰ)は感度が低く水に溶けやすいため、フィルムや印画紙には使用されていません。

フッ化銀(Ⅰ)の感光度が弱いのは、フッ素の電気陰性度が強くイオンの状態になって銀と結合する力が強いためです。フッ化物イオンの電子を銀イオンに移動させて銀を還元させるには大きなエネルギーが必要です。そのためエネルギーの大きな光にしか反応しません。

フッ化銀の種類

フッ化銀には、銀とフッ素の組み合わせによって多様な組成があります。銀の酸化数によって、フッ化銀(Ⅰ)、フッ化銀(Ⅱ)、フッ化銀(Ⅲ)、一フッ化二銀が存在します。それぞれの組成によって結晶構造も異なります。

1. フッ化銀(Ⅰ)

室温では白色または黄褐色の固体です。通常、フッ化銀といえばこの組成を指します。結晶構造は塩化ナトリウム型構造です。

化学式:AgF、分子量:126.87、融点/凝固点:435℃、沸点・初留点及び沸騰範囲:1,150℃、CAS番号:7775-41-9です。

2. フッ化銀(II)

室温では白色または黒褐色の固体です。吸湿性が高く、常温で空気中の水分によって分解されフッ化銀(Ⅰ)と酸素とフッ化水素を生じます。結晶構造は八面体構造です。

化学式:AgF2、分子量:145.87、融点/凝固点:690℃、沸点:700℃、CAS番号:7783-95-1です。

3. フッ化銀(III)

明るい赤色の固体で、反磁性を示します。通常ではあまりみられない酸化数3の銀イオンAg3+を含んでいます。結晶構造は八面体構造です。

化学式:AgF3、分子量:145.87、CAS番号:91899-63-7です。

4. 一フッ化二銀

室温ではに似た金属光沢がある固体です。水中では Ag と AgF に分解します。結晶構造は逆ヨウ化カドミウム型構造です。

化学式:Ag2F、分子量:234.74 、CAS番号:91899-63-7です。

フッ化銀の構造

フッ化銀(Ⅰ)の結晶は塩化ナトリウムの結晶と同様の単純な立方体の構造である立方晶系になっています。

結晶軸の長さは3本とも同じで90°に交わっています。等軸晶系ともいわれ、サイコロのような立方体です。

図1. フッ化銀(Ⅰ)の構造

フッ化銀のその他情報

1. フッ化銀(Ⅰ)の製造方法

フッ化水素酸 HF に酸化銀 Ag2O を溶かして蒸発濃縮することで得られます。フッ化水素酸と炭酸銀 Ag2CO からも作られます。前者では水が、後者では水と二酸化炭素が副産物として生じます。

フッ化銀(Ⅰ)の製造図2. フッ化銀(Ⅰ)の合成

2. フッ化銀(Ⅱ)の製造方法

フッ化銀(II)はフッ素の気流中でフッ化銀(I)を加熱すると生成します。フッ化銀(I)の代わりに銀粉,硝酸銀,ハロゲン化銀も使用可能です。また、AgF3 とキセノンとの反応でも生成可能です。

フッ化銀(Ⅱ)の製造 図3. フッ化銀(Ⅱ)の合成

3. フッ化銀(Ⅰ)の安全性情報

フッ化銀は毒物及び劇物取締法で「劇物 – 弗化銀」に指定されています。労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」・「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。また、化学物質排出把握管理促進法で「第1種指定化学物質- 銀, Fluorine」にも指定されています。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/226866

フッ化リチウム

フッ化リチウムとは

フッ化リチウム (英: Lithium Fluoride) とは、リチウムとフッ素からなる無機化合物で、化学式LiFで表されます。白色もしくはほとんど白色の無臭の粉末です。

水への溶解度は低く、ほどんど溶解しません。紫外線に対する透過率が最も高い物質であることが知られており、特殊な光学材料として用いられます。融点が1,063℃と非常に高く、硬度も高いため、高温環境でも安定して使用できるのが特徴です。

フッ化リチウムはリチウム電池に用いられるヘキサフルオロリン酸リチウムの原材料となるほか、原子力発電所の冷却剤や紫外線光学素材など、さまざまな分野で使用されています。

フッ化リチウムの使用用途

フッ化リチウムは、主にリチウム電池の原料や原子炉の冷却剤、 光学材料、導電性素材などに用いられます

1. リチウム電池用原料

フッ化リチウムは、リチウム電池の電解液であるヘキサフルオロリン酸リチウムの前駆体です。フッ化リチウムをフッ化水素および五塩化リンと反応させることで、ヘキサフルオロリン酸リチウムを作ることができます。

2. 原子炉の冷却剤

フッ化リチウムは、化学的に極めて安定であることが知られています。フッ化リチウムを高濃縮したものは、フッ化ベリリウムと混合して原子炉の冷却剤として使用されます。

フッ化リチウムとフッ化ベリリウムと混合溶媒 (FLiBe) は融点が低く (360〜459℃、680〜858°F) 、高い熱伝導性があり、フッ化物塩の組合せの中では最も効率的に原子炉内部の熱を分散させることが可能です。

3. 光学材料

フッ化リチウムの結晶は、紫外線に対する透過率が最も高い物質です。この特性を活かして、フッ化リチウムは紫外スペクトル用の特殊な光学部品の原料として使用されます。

また、フッ化リチウムはX線スペクトロメトリーの回折結晶やガンマ線、ベータ線といった電離放射線被曝を記録する機器にも用いられています。

4. 導電素材

フッ化リチウムの誘電率は9.0と高いことから、電子注入を強化するためのカップリング層として有機LEDおよびの構文氏LED用のカソードに広く用いられます。この時用いられるフッ化リチウム層の厚さは、通常1nm程度です。

フッ化リチウムの性質

フッ化リチウムは、リチウムとフッ素からなる無機化合物で、化学式LiFで表されます。分子量は25.94です。

無色透明の結晶で、水にはほとんど溶けませんが、エタノールやジメチルホルムアミドには容易に溶けます。融点は1,063℃、沸点は1,686℃と高い融点・沸点を有しています。

イオン結晶の一種であり、Li+とF-のイオンから構成されています。この結晶は立方晶系の構造を持ち、格子定数が3.01Åであるため、非常に硬い物質です。また、フッ化リチウムは、熱伝導性に優れており、電気伝導性も良好であるため、工業的に非常に重要な物質と言えます。

フッ化リチウムの構造

フッ化リチウムはイオン化合物であり、Li+とF-のイオンから構成されています。フッ化リチウムのイオン結晶は、リチウムイオンとフッ化物イオンが交互に配置された立方晶系の構造となっています。

この単位格子の格子定数は約3.01Åです。フッ化リチウムはイオン半径が非常に小さく、単位格子構造が密であるため、非常に硬くなっています。

フッ化リチウムのその他情報

フッ化リチウムの製造方法

フッ化リチウムの一般的な製法は、硫酸リチウム,炭酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム等の水溶性リチウム塩と、フッ化水素酸とを反応させる方法です。

硫酸リチウムを例にとった反応式は以下の通りです

Li2SO4 + HF → LiF↓ + LiHSO4

この方法では、リチウム塩水溶液を少量ずつフッ化水素酸溶液に添加し、フッ化リチウムの沈殿を反応物として得ます。得られたフッ化リチウムをろ別し、水洗浄した後に乾燥することにより、粉末状のフッ化リチウムを得られます。

参考文献
https://www.stella-chemifa.co.jp/products/files/05140600_J-1_20210401.pdf

フッ化カリウム

フッ化カリウムとは

フッ化カリウム(Potassium Fluoride)とは、白色の結晶もしくは粉末の無機化合物です。

フッ化カリウムは、水に溶けやすくエタノールといったアルコールには溶けず、無機塩であるため塩味がするとともに、ガラスを腐食させます。

フッ化カリウムの基本的データは、化学式:KF、分子量:58.10、融点/凝固点:860℃、沸点又は初留点及び沸騰範囲:1505℃、CAS登録番号:7789-23-3です。

フッ化カリウムは、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」・「名称等を通知すべき危険物及び有害物No. 487」、化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)でも「第1種指定化学物質」・第1種-No. 374の指定がされています。

そのほかフッ化カリウムは、危険物船舶運送及び貯蔵規則で「毒物類・毒物」、航空法では「毒物類・毒物」に指定されています。さらにフッ化カリウムは、水質汚濁防止法で「有害物質」、輸出貿易管理令で「別表1 輸出許可品目」、大気汚染防止法で 「有害大気汚染物質」、土壌汚染対策法で「特定有害物質」にも指定されています。

フッ化カリウムの使用用途

フッ化カリウムは多方面での使用がみられるなかでも、重要な電子部品となっているタンタルコンデンサのタンタル精製のための原料として多く使われています。

そのほかフッ化カリウムは、有機反応をおこす塩基として有機合成のフッ素化剤・触媒・融剤、吸収剤(HFや水分を吸収)に使用されています。

さらにフッ化カリウムは、芳香性も有することから殺虫剤・農薬への応用、ガラスに反応する物質としてガラスのつや消し剤や彫刻のような高級ガラスへの使用があります。

またフッ化カリウムは、分析用試薬や複合体形成剤、食品保存・電気メッキ、エッチング剤、防腐剤、アルミニウム溶接棒・溶接用フラックス、フッ化水素カリウムの調製のための原料といった使用も行われています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0376JGHEJP.pdf

カンフェン

カンフェンとは

カンフェン (Camphene) とは、植物から抽出される揮発性油である精油に含まれる二環性の炭化水素の一つです。

精油には炭化水素、アルコール、アルデヒド、ケトン、フェノール、エステルなどが含まれますが、カンフェンはそのうちの炭化水素であり、モノテルペンというグループに属します。モノテルペンというのは自然界にある炭化水素の分類の一つで、イソプレン1単位からなる分子量の小さい炭化水素のグループです。

分子量が小さいため揮発しやすく、強い香りを有するものが多いです。カンフェンは精油成分の炭化水素の中では、常温で結晶するただ一つのものとして知られています。なお、炭化水素でない精油成分には常温で結晶するものがあり、例えばケトンであるカンファ―もその一つです 。

カンフェンの使用用途

カンフェンは、天然の樟脳 (しょうのう) のような特徴的な匂いがすることから、主に食品香料や化粧品の原料として使用されています。また、非アルコール系消毒・除菌液や虫除け用香料組成物にも使用されています。

その他、化学合成の中間体としての用途も重要です。合成樟脳である化学物質カンファーの中間体としての役割があります。α-ピネンからカンフェンが作られますが、カンフェンからカンファーが作られます。

二環性の特徴的な構造と反応性の高い二重結合を有するため、複雑な構造を持つ化学物質の合成に用いられるケースも多いです。例としては、医薬品や殺虫剤、あるいはエステルに誘導することにより異なる香りの香料を製造する用途が挙げられます。

カンフェンの性質

カンフェンの分子式はC10H16、分子量は136.23、CAS登録番号は79-92-5です。また、融点は52℃で、常温では固体です。ただし、昇華により揮発します。

水にはほとんど溶けませんが、エーテルには溶けます。常温で無色の結晶ですが、室温で揮発 (昇華) し、刺激臭がします。天然の樟脳 (しょうのう) 油、テレピン油、ヒノキ油に含まれ、それらの匂いの一部を構成しています。

カンフェンの選び方

カンフェンで特に注意すべき点は、光学異性体があることです。学異性体の呼び方の一つに、旋光性によるd体/(+)体(右旋性)またはl体/(-)体( 左旋性)の呼称があり、多くの市販品もこの表記がなされています。

使用目的を考慮し、一方の光学異性体を入手すべきか、ラセミ体として入手すべきか判断します。その他の購入にあたっての留意点は有機の化学物質について一般的なものです。

研究用か工業用かの用途により、試薬又は工業用化学物質のいずれかの形態を選びます。試薬についても、合成用か分析用かで試薬のグレードや推奨用途 (~用試薬など) を選びます。一般には分析用のものが高純度です。使用目的により、必要な純度を決定します。

カンフェンのその他情報

1. 由来・製造法

天然には植物の精油に含まれ、ショウガ科ガジュツには光学異性体のd(+)-カンフェン、クスノキ科の植物にはl(-)-カンフェンが含まれています。市販品はほとんどが合成品です。

工業的には、α―ピネンを触媒で異性化するか、α―ピネンを塩化水素で処理して合成された塩化ボルニルを、アルカリで脱塩化水素化することで製造します。

2. 毒性・危険性と適用法令

カンフェンは刺激性があり、特に目に対する刺激に注意が必要です。固体ですが揮発性を有するため、揮発した蒸気による引火性があります。また、可燃性も有しています。

国内法令上カンフェンは、消防法で第2類「可燃性固体」/「引火性固体」、船舶安全法で「可燃性物質類」、航空法で「可燃性固体」にそれぞれ指定されています。また、水生生物に非常に強い毒性があるとされています。そのため、環境中に漏出しないように保管することが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/79-92-5.html

合わせガラス

合わせガラスとは

合わせガラス

合わせガラスとは、2枚もしくは複数枚のガラスの間に、合成樹脂製の薄膜(以下、中間膜)を挟んで加熱圧着し、一体化させたものです。

中間膜としては、一般的にポリビニルブチラール(PVB)製のフィルムが用いられています。ポリビニルブチラールは、ガラスや金属に対しての接着力に優れ、かつ透明度の極めて高い素材ですから、ガラスの透過性を損ないません。さらに、衝撃によりガラスが破損した場合でも、ガラスは、中間膜に強力に接着されていますから、ガラスの破片が周囲に飛散することを防止できます。

合わせガラスの使用用途

合わせガラスは、耐衝撃性に優れ、万一破損した場合でも、破片の飛散・落下を防ぐ、もしくは最小限に抑えることができます。自動車や鉄道車両、航空機の窓ガラスは、強い風圧にさらされ、飛来物の衝突が想定されます。合わせガラスは、このような破損しやすい箇所に最も適したガラスです。また、防犯・災害対策として、ビルや住宅の窓・扉ガラスにも利用されています。

遮音性のある特殊フィルムを中間膜に用いれば、合わせガラスに防音機能を付加することができます。また、カラーフィルムや模様入りフィルムを使えばデザイン性が加わります。このように、中間膜に工夫を施すことで、合わせガラスの用途の幅を広げることができます。

不燃木材

監修:株式会社Bb Wood Japan

不燃木材とは

不燃木材とは、木材に耐火性を持たせるための特殊な加工を施した建築材料のことです。

耐火性が求められる建築現場や公共施設などで使用されることが多くなっています。公共建築物等木材利用促進法の施行を契機に公共施設をはじめ、一般建築物への木材利用が進みつつある背景があり、現在注目されている木材です。

建築物や建材の防火性能を示す指標によって「不燃」「準不燃」「難燃」の大きく3つに分類されます。不燃とは、一定時間以上の高温に耐えられる性能を指します。具体的には、炎が直接あたっても、ある程度の時間をかけて燃え広がらず、建物内部の構造を保護することが可能です。

不燃木材の使用用途

不燃木材は、その防火性能からさまざまな用途に使われています。建築分野では、天井材、壁材、床材などに使用されています。不燃性が高いため、火災が発生した場合でも燃え広がりにくく、建物の耐火性能を高めます。

また、防火性能を求められる場所は、ホテルや病院などの公共施設、高層ビル、老人ホーム、保育所などです。不燃木材を選ぶ際は、使用する場所や目的に合わせた適切なものを選ぶことが重要です。

不燃木材の特徴

長所

不燃木材の長所は、通常の木材に比べて燃焼しにくく、燃え広がりにくいことです。これは特殊な加工や処理によって、木材の防火性能を向上させることによって実現できます。

不燃木材は、火災が発生した際に建物の燃え広がりを抑えることができるため、燃え広がりを遅らせるための時間的余裕を生み出すことが可能です。これにより、火災の初期段階での鎮火が可能となり、大規模な火災を未然に防止することができます。

また、不燃木材は木材の本来の美しさを損なうことなく、デザイン性の高い建築物にも使用されています。さらに、従来の木材に比べて耐久性に優れており、長期間にわたって使用できる点も長所の1つです。

以上のように、不燃木材は建築物の防火性能を向上させ、デザイン性や耐久性に優れる素材であるため、現在では注目されている素材と言えます。

短所

不燃木材は燃えにくいとされていますが、その中でも木材表面に白い粉が生じる現象が見られることがあります。これが「不燃木材の白華」と呼ばれるものです。

この現象は、不燃木材を使用する上で注意が必要となるポイントの1つです。美観上好ましくなかったり、汚れと誤解されたりすることがあります。

白華を防止するためには、不燃木材の表面に適正な塗装を行うことが効果的です。

以上のように、不燃木材の白華は木材表面に現れる白い粉であり、不燃木材を使用する上で注意するべき現象の1つです。定期的なメンテナンスや防水加工、塗装によって、白華の防止や落とし方についても注意する必要があります。

不燃木材の種類

 薬品注入による不燃木材

不燃木材は、不燃性の薬品を木材に注入して、燃焼を抑制します。通常、使用される薬剤はリン酸系とホウ酸系の化合物です。注入された薬剤の乾燥状態や製造方法によって、品質に影響が出ることがあります。例えば、「液垂れ現象」や「白華現象」は、薬剤の種類や乾燥状態、さらに施工後の周辺環境(特に湿度や水分の多い場所)が影響を与えます。

本記事は準不燃木材を製造・販売する株式会社Bb Wood Japan様に監修を頂きました。

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