フッ化銀

フッ化銀とは

フッ化銀 (英: Silver Fluoride) とは、銀とフッ素からなる無機化合物です。

銀イオン Ag+、Ag2+、Ag3+ とフッ化物イオン F から生成される化合物です。銀イオンの価数によって実際にできる化合物の組成が違います。

フッ化銀の使用用途

1. フッ化銀(Ⅰ)

フッ化銀(Ⅰ)は、フッ素の化合物として歯科防腐処理剤の構成物質をはじめ歯や口腔内の治療・入れ歯の洗浄剤といった歯科関連ほか消化器官といった方面の製剤にも使われています。

銀の化合物として電気伝導度の低いことを利用して、回路基板の原料として使われるほか、集積回路素子のマイクロ化には欠かせない金属ナノワイヤーへの利用にも期待されています。化粧品分野への利用もあります。

2. フッ化銀(Ⅱ)

フッ化銀(Ⅱ)は、炭化水素のフッ化剤として用いられます。例えば、ピリジンやジアジンなどの複素環式化合物を選択的にフッ素化するのに利用できます。また、酸化力が非常に強いので、酸化剤としても用いられます。

フッ化銀の性質

1. 水に溶けやすい

フッ化銀(Ⅰ)には非常に水に溶けやすく、1Lの水に1.8kg以上も溶けます。ハロゲン (フッ素 F、塩素 Cl、臭素 Br、ヨウ素 I) と銀の化合物をハロゲン化銀といいます。ハロゲン化銀の中でフッ化銀だけが水に溶け、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀は沈殿となり水に溶けません。

フッ化銀(Ⅰ)が水に溶けやすいのは、フッ素の電気陰性度が他のハロゲンよりも大きく、銀から電子を奪ってイオンになりやすいからです。フッ素以外のハロゲンと銀との電気陰性度の差は小さくイオン結合というより共有結合に近い状態となっています。イオンになりやすいフッ化銀(Ⅰ)は極性分子である水に溶けやすいです。

2. 感光性がある

フッ化銀(Ⅰ)の二水和物 AgF・(H2O)2は感光性があり、光をあてると銀とフッ素と水に分解します。他のハロゲン化銀にも同様に感光性があり、写真用乳剤に使われています。一方、フッ化銀(Ⅰ)は感度が低く水に溶けやすいため、フィルムや印画紙には使用されていません。

フッ化銀(Ⅰ)の感光度が弱いのは、フッ素の電気陰性度が強くイオンの状態になって銀と結合する力が強いためです。フッ化物イオンの電子を銀イオンに移動させて銀を還元させるには大きなエネルギーが必要です。そのためエネルギーの大きな光にしか反応しません。

フッ化銀の種類

フッ化銀には、銀とフッ素の組み合わせによって多様な組成があります。銀の酸化数によって、フッ化銀(Ⅰ)、フッ化銀(Ⅱ)、フッ化銀(Ⅲ)、一フッ化二銀が存在します。それぞれの組成によって結晶構造も異なります。

1. フッ化銀(Ⅰ)

室温では白色または黄褐色の固体です。通常、フッ化銀といえばこの組成を指します。結晶構造は塩化ナトリウム型構造です。

化学式:AgF、分子量:126.87、融点/凝固点:435℃、沸点・初留点及び沸騰範囲:1,150℃、CAS番号:7775-41-9です。

2. フッ化銀(II)

室温では白色または黒褐色の固体です。吸湿性が高く、常温で空気中の水分によって分解されフッ化銀(Ⅰ)と酸素とフッ化水素を生じます。結晶構造は八面体構造です。

化学式:AgF2、分子量:145.87、融点/凝固点:690℃、沸点:700℃、CAS番号:7783-95-1です。

3. フッ化銀(III)

明るい赤色の固体で、反磁性を示します。通常ではあまりみられない酸化数3の銀イオンAg3+を含んでいます。結晶構造は八面体構造です。

化学式:AgF3、分子量:145.87、CAS番号:91899-63-7です。

4. 一フッ化二銀

室温ではに似た金属光沢がある固体です。水中では Ag と AgF に分解します。結晶構造は逆ヨウ化カドミウム型構造です。

化学式:Ag2F、分子量:234.74 、CAS番号:91899-63-7です。

フッ化銀の構造

フッ化銀(Ⅰ)の結晶は塩化ナトリウムの結晶と同様の単純な立方体の構造である立方晶系になっています。

結晶軸の長さは3本とも同じで90°に交わっています。等軸晶系ともいわれ、サイコロのような立方体です。

図1. フッ化銀(Ⅰ)の構造

フッ化銀のその他情報

1. フッ化銀(Ⅰ)の製造方法

フッ化水素酸 HF に酸化銀 Ag2O を溶かして蒸発濃縮することで得られます。フッ化水素酸と炭酸銀 Ag2CO からも作られます。前者では水が、後者では水と二酸化炭素が副産物として生じます。

フッ化銀(Ⅰ)の製造図2. フッ化銀(Ⅰ)の合成

2. フッ化銀(Ⅱ)の製造方法

フッ化銀(II)はフッ素の気流中でフッ化銀(I)を加熱すると生成します。フッ化銀(I)の代わりに銀粉,硝酸銀,ハロゲン化銀も使用可能です。また、AgF3 とキセノンとの反応でも生成可能です。

フッ化銀(Ⅱ)の製造 図3. フッ化銀(Ⅱ)の合成

3. フッ化銀(Ⅰ)の安全性情報

フッ化銀は毒物及び劇物取締法で「劇物 – 弗化銀」に指定されています。労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」・「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。また、化学物質排出把握管理促進法で「第1種指定化学物質- 銀, Fluorine」にも指定されています。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/226866

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