フッ化銀

フッ化銀とは

フッ化銀 (英: Silver Fluoride ) とは、銀とフッ素からなる無機化合物です。

フッ化銀は、銀イオンの価数に応じた4種類です。銀イオン Ag+とフッ化物イオンF-よりなるフッ化銀 (Ⅰ) 、同様にフッ化物イオンF-よりなるフッ化銀 (Ⅱ) があります。残りは銀イオンとAg3+ とフッ化物イオン F- よりなるフッ化銀 (III) 、銀の酸化数が二分の一の一フッ化二銀です。フッ化銀 (Ⅰ) およびフッ化銀 (Ⅱ) の主な用途はフッ素化剤などです。

フッ化銀の使用用途

フッ化銀の中でも、フッ化銀 (Ⅰ) とフッ化銀 (Ⅱ) は工業用途で使用されています。フッ化銀  (Ⅰ) の主な用途はフッ素化剤です。例えば、マンガンベースの触媒を用いた酸化的C-Hフッ素化反応による、脂肪族フッ素化生成物の合成に使用されます。また、ジェム-ジフルオロアルケンのフッ素化ホモカップリング反応や銀ナノ粒子調製用の銀前駆体塩としても使用できます。

また、フッ化銀 (Ⅱ) のおもな使用用途は、酸化剤,炭化水素のフッ素化剤です。フッ化銀 (II) は、ピリジンおよびジアジンの炭素-水素結合の選択的フッ素化に使用できます。

フッ化銀の性質

フッ化銀の中で最も代表的なフッ化銀 (Ⅰ) の性質を以下のポイントで解説します。

1. 水に溶けやすい

フッ化銀 (Ⅰ) には非常に水に溶けやすく、1Lの水に1.8kg以上も溶けます。ハロゲン (フッ素 F、塩素 Cl、臭素 Br、ヨウ素 I) と銀の化合物をハロゲン化銀といいます。ハロゲン化銀の中でフッ化銀だけが水に溶け、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀は沈殿し、水には溶けません。

フッ化銀 (Ⅰ) の水溶性が高いのは、フッ素の電気陰性度が他のハロゲンよりも大きく、銀から電子を奪ってイオンになりやすいためです。フッ素以外のハロゲンと銀との電気陰性度の差は小さくイオン結合よりも共有結合に近い状態となっています。イオンになりやすいフッ化銀 (Ⅰ) は極性分子である水に溶けやすい性質です。

2. 感光性がある

フッ化銀 (Ⅰ) の二水和物 AgF・(H2O) 2は感光性があり、光をあてると銀とフッ素と水に分解します。他のハロゲン化銀にも同様に感光性があり、写真用乳剤に使われています。一方、フッ化銀 (Ⅰ) は感度が低く水に溶けやすいため、フィルムや印画紙には使用されていません。

フッ化銀の種類

フッ化銀には、銀とフッ素の組み合わせによって多様な組成があります。銀の酸化数に応じた4種類です。それぞれの組成によって結晶構造も異なります。順番に解説します。

1. フッ化銀 (Ⅰ)

フッ化銀 (Ⅰ) は、室温では黄褐色の固体です。通常、フッ化銀といえばこの組成を指します。結晶構造は塩化ナトリウム型構造です。フッ化銀 (Ⅰ) のデータは以下の通りです。

  • 化学式:AgF
  • 分子量:126.87
  • 融点/凝固点:435℃
  • 沸点・初留点及び沸騰範囲:1,150℃
  • CAS番号:7775-41-9

2. フッ化銀 (Ⅱ)

フッ化銀(Ⅱ)の純度が高いものは、室温では無色の固体です。光により黒褐色になります。

吸湿性が高く、常温で空気中の水分によって分解されフッ化銀 (Ⅰ) と酸素とフッ化水素を生じます。結晶構造は八面体構造です。炭化水素のフッ化剤として用いられます。フッ化銀 (Ⅱ) のデータは以下の通りです。

  • 化学式:AgF2
  • 分子量:145.87
  • 融点/凝固点:690℃
  • 沸点:700℃
  • CAS番号:7783-95-1

3. フッ化銀 (III)

フッ化銀 (Ⅲ) は、明るい赤色の固体で反磁性を示します。通常ではあまりみられない酸化数3の銀イオンAg3+を含んでいます。結晶構造は八面体構造です。フッ化銀 (Ⅲ) のデータは以下の通りです。

  • 化学式:AgF3
  • 分子量:145.87
  • CAS番号:91899-63-7

4. 一フッ化二銀

一フッ化二銀は、室温ではに似た金属のような光沢がある固体です。水中ではAgとAgFに分解します。結晶構造は逆ヨウ化カドミウム型構造です。一フッ化二銀のデータは以下の通りです。

  • 化学式:Ag2F
  • 分子量:234.74
  • CAS番号:91899-63-7

フッ化銀の構造

フッ化銀 (Ⅰ) の結晶は塩化ナトリウムの結晶と同様の単純な立方体の構造である立方晶系です。結晶軸の長さは3本とも同じで90°に交わっています。等軸晶系ともいわれ、サイコロのような立方体です。

図1. フッ化銀(Ⅰ)の構造

フッ化銀のその他情報

1. フッ化銀 (Ⅰ) の製造方法

フッ化水素酸 HF に酸化銀 Ag2O を溶かして蒸発濃縮することで得られます。フッ化水素酸と炭酸銀 Ag2CO からも作られます。前者では水が、後者では水と二酸化炭素が副産物として生じます。

フッ化銀(Ⅰ)の製造図2. フッ化銀(Ⅰ)の合成

2. フッ化銀 (Ⅱ) の製造方法

フッ化銀 (II) はフッ素の気流中でフッ化銀 (I) を加熱すると生成します。フッ化銀 (I) の代わりに銀粉,硝酸銀,ハロゲン化銀も使用可能です。また、AgF3キセノンとの反応でも生成可能です。

フッ化銀(Ⅱ)の製造 図3. フッ化銀(Ⅱ)の合成

3. フッ化銀 (Ⅰ) の安全性情報

フッ化銀は毒物及び劇物取締法で「劇物 – 弗化銀」に指定されています。労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」・「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。また、化学物質排出把握管理促進法で「第1種指定化学物質- 銀, Fluorine」にも指定されています。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/226866

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